電気粘性流体を用いた力学装置
【課題】 電気粘性流体を用いた力学装置における安全性を改善する。
【解決手段】 複数の電極板2を互いに対面するように設ける。各電極板2間に印加された電界の変化に応じて粘性が変化する電気粘性流体3を、上記各電極板2間に充填して設ける。電気粘性流体3の粘性変化としての応力変化を外部に取り出すための応力伝達シート4を、上記応力伝達シート4の一端部となる摺動部4aが各電極板2に沿って電気粘性流体3内を往復移動するように設ける。上記摺動部4aに対し、上記応力変化を増大化するための応力増幅部6を、上記応力増幅部6の表面粗度が上記応力増幅部6と異なる上記応力伝達シート4の部分より大きくなるように設ける。
【解決手段】 複数の電極板2を互いに対面するように設ける。各電極板2間に印加された電界の変化に応じて粘性が変化する電気粘性流体3を、上記各電極板2間に充填して設ける。電気粘性流体3の粘性変化としての応力変化を外部に取り出すための応力伝達シート4を、上記応力伝達シート4の一端部となる摺動部4aが各電極板2に沿って電気粘性流体3内を往復移動するように設ける。上記摺動部4aに対し、上記応力変化を増大化するための応力増幅部6を、上記応力増幅部6の表面粗度が上記応力増幅部6と異なる上記応力伝達シート4の部分より大きくなるように設ける。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、仮想操作感を発生させるため、仮想現実感を示す電気信号を、操作する人間によって知覚される力覚に変換するための、電気粘性流体を用いた力学装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、仮想環境上での仮想現実感を、操作する人間に対し知覚させる場合において、仮想環境上での、仮想操作感となる物体操作反力を発生させる必要性が高くなっている。現在、仮想環境における物体操作反力を発生するための力覚呈示装置では、ACサーボモータ、DCサーボモータ等の駆動モータを用いたものが知られている。
【0003】ところで、仮想操作感を実現するための装置としては、小型、軽量で応答速度が早く、かつ、安全な装置が求められている。しかしながら、上記力覚呈示装置では、それらの多くがその機構上、複雑で大がかりなため、操作性が悪く、かつ、反応速度が遅いという制御性に問題点を有している。
【0004】そこで、上記問題点を回避するために、図3737および図38に示すように、各電極61間に電界を加えることにより、粘性が著しく増加する特性を備えた電気粘性流体(以下、ER流体という)62を用いた力学装置が考えられた。上記ER流体62は、誘電体粒子62aと電気絶縁性油62bとを有し、印加された電界によって各誘電体粒子62aが静電的に連結することにより粘性が増加するものと考えられている。
【0005】上記ER流体62は、電界の印加による粘性の変化が可逆的であり、応答速度(数ミリ秒オーダー)も非常に速いものである。また、印加する電界は数kV/mmと非常に大きいが、電極間には僅かな電流(数十マイクロアンペア程度)しか流れないので、人体に与える影響は小さく、また、消費電力も極めて小さなものとなる。
【0006】また、力覚呈示装置として要求される仕様としては、(1)小型、軽量で安全性が高い、(2)手でものを持っている感覚を実現できる等である。(2)については、人間がものを握って保持するときには、軽く握っているときで約0.6kgf、強く握っているときで約1.8kgf程度の指の力が生じるので、上記力覚呈示装置では、約2.0kgf程度までの応力が得られるように設定されればよい。
【0007】そこで、ER流体を用いた力覚呈示装置としては、上記ER流体を用いるための下記の2つの方式、すなわち、■回転円盤型の方式と、■回転円筒型の方式とが考えられた。
【0008】■回転円盤型とは、図39に示すように、円盤状の2枚の各電極63・63の間にER流体62を満たし、一方の電極63を一定の角速度で回転させたときに、上記電極63に作用する上記ER流体62による粘性トルクを用いる方式である。
【0009】■回転円筒型とは、図40に示すように、回転円筒構造であって、外部円筒64と内部軸(または円筒)65とを各電極として用い、上記外部円筒64と内部軸(または円筒)65との間にER流体62を満たし、例えば、外部円筒64を固定し、内部軸65を回転させようという外力に対し、電界を印加したときに得られる上記ER流体62の粘性トルクを用いる方式である。このような印加電界と粘性トルクとの関係は、例えば図41に示すように、ほぼ比例関係となっており、電界の変化による粘性トルクの制御が容易なものとなっている。
【0010】このように従来の各方式を、仮想操作感を発生させるために用いた場合、例えば回転円盤型を用いたとき、例えば図42に示すように、円盤状の相平行に向かい合う各電極板66・67の間にER流体62を充填し、一方の電極板66を可動に設定して、その電極板66に連結されて一体的に回動する応力出力部68を有する力学装置が考えられた。
【0011】このような力学装置を、仮想操作感を得るために用いるには、例えば図43に示すように、人の親指に対し、図42に示す力学装置69をアーム70を介して連結する一方、人指し指に対し応力出力部68をアーム71を介して連結し、上記の人指し指の変形を検出する歪みセンサ72を取りつける。
【0012】次に、上記各電極間の電界を、仮想操作感を示す電気信号に応じて変化、すなわち、歪みセンサ72からの信号に基づいて、例えば、親指と人指し指とで物を掴んだと判断されると、上記各電極板66・67の間に電圧を印加して電界を形成し、可動な電極板66の回動を抑制することで仮想操作感となる応力を、操作する人に対し付与するようになっている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記従来の方式では、少なくとも一方の電極板66が可動なため、各電極板66・67間に封入されるER流体62のシールが困難であり、また、電極板66が可動なため、各電極板66・67間の間隔を一定に維持することが困難であることから、高電圧が印加される各電極板66・67間にて絶縁破壊を生じて、各電極板66・67間を流れる電流値が大きくなり易く、操作する人間に対する安全性が低下するという問題を生じている。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明の電気粘性流体を用いた力学装置は、以上の課題を解決するために、複数の電極が互いに対面するように設けられ、各電極間に印加された電界の変化に応じて粘性が変化する電気粘性流体が、上記各電極間に充填されて設けられ、電気粘性流体の粘性変化としての応力変化を外部に取り出すための応力伝達体が、上記応力伝達体の一端部を各電極間の電気粘性流体内を往復移動するように設けられていることを特徴としている。
【0015】上記の構成によれば、例えば仮想操作感を示す電気信号に応じて各電極間に印加される電圧により、上記各電極間に形成される電界に応じて、各電極間の電気粘性流体の粘性が変化するので、上記電気粘性流体内を往復移動する応力伝達体に対するせん断応力が変化して、上記電気信号に応じた応力変化を、力覚として操作する現に対し付与することが可能となる。
【0016】また、上記構成では、従来のように、一方の電極を可動にして応力変化を発生させていた場合と比べて、各電極を固定した状態にて上記応力変化を得ることができるので、各電極間での絶縁破壊を従来より抑制できて、上記構成を操作する人間に対する安全性を向上させることができる。
【0017】さらに、上記構成では、一端部に対し、応力増幅部が、上記応力増幅部の表面粗度を上記応力増幅部と異なる上記応力伝達体の部分より大きくなるように、例えば開口部を有して設けられた構成としてもよい。
【0018】上記構成によれば、電気粘性流体内を往復移動する一端部における表面粗度を大きくすることにより、電気粘性流体の粘性変化に応じた、応力伝達体によって外部に伝達される応力変化を増加させることができるので、小型化を図ることができ、また、各電極間に印加する電界を低減することができる。
【0019】その上、上記開口部を、応力伝達体の移動方向に対しほぼ垂直な方向の長さが、上記移動方向の長さより大きくなるように設定された構成としてもよい。
【0020】上記構成によれば、開口部を、応力伝達体の移動方向に対しほぼ垂直な方向の長さが、上記移動方向の長さより大きくなるように設定したことにより、電気粘性流体と当接する応力伝達体の一端部における表面粗度を効率よく大きくすることができて、電気粘性流体の粘性変化としての応力変化を大きくできるので、さらに、小型化を図ることができ、また、各電極間に印加する電界を低減することができる。
【0021】また、上記開口部は、応力伝達体の移動方向に沿って複数並設されていてもよい。これにより、電気粘性流体と当接する応力伝達体の一端部における表面粗度を効率よく大きくすることができて、電気粘性流体の粘性変化としての応力変化を大きくできるので、さらに、小型化を図ることができ、また、各電極間に印加する電界を低減することができる。
【0022】その上、上記開口部は、対面する各電極間に形成される電界の方向に沿って応力伝達体を貫通するように設けられていてもよい。この構成では、電気粘性流体を横断する応力増幅部の断面積を大きくできるので、電気粘性流体の粘性変化としての応力変化を大きくできるので、さらに、小型化を図ることができ、また、各電極間に印加する電界を低減することができる。
【0023】また、応力伝達体は、少なくとも上記一端部に、電気絶縁性の不織布を有するものであってもよい。このことにより、電気粘性流体と当接する応力伝達体の一端部における表面粗度を効率よく大きくすることができて、電気粘性流体の粘性変化としての応力変化を大きくできるので、さらに、小型化を図ることができ、また、各電極間に印加する電界を低減することができる。
【0024】さらに、上記応力伝達体は、電気絶縁性の不織布と電気絶縁性樹脂板とを貼り合わせたものであってもよい。これによれば、電気絶縁性樹脂板により応力伝達体の強度を高めることができて、応力伝達体による応力変化を外部に取り出すことを安定化できる。
【0025】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)本発明の実施の形態を実施の形態1として図1ないし図31に基づいて説明すれば、以下の通りである。電気粘性流体を用いた力学装置では、図1に示すように、略直方体形状の装置本体1が、内部に中空部1aと、長手方向の一端面に開口端部1bとを有して設けられている。
【0026】装置本体1の内部には、上記中空部1aに面するように一対の電極板2が、互いに対面して平行となるようにそれぞれ固定されて設けられている。上記各電極板2は、略長方形板状に成形され、各電極板2の長手方向が装置本体1の長手方向に沿うように上記中空部1a内にそれぞれ取りつけられている。
【0027】装置本体1の内部の各電極板2間には、印加された電界の変化に応じて粘性が変化する電気粘性流体(以下、ERFという)3が充填されている。ERF3は、非圧縮性液体である分散媒として、シリコーンオイルを主成分とする電気絶縁性油と、例えば2.0kgf程度の力では変形しない強度を有する分散相として、平均粒径1〜50μmμmの誘電体粒子とを有しており、電界が印加されると、見かけの粘性が著しく増大するものである。
【0028】上記ERF3の見掛けの粘性は、ニュートン流体のように、印加される電界の増加に伴う、ずり速度の増加に対するせん断応力の増加を示す傾きの増加として現れるものではなく、例えば図2に示すように、印加される電界(Electric Field) が増加しても、ずり速度(Shear Rate)に対するせん断応力(Shear Stress)の増加を示す曲線は、その傾きが変化せずに平行移動し、物体の移動を妨げる上記せん断応力のみがが大きくなる特性を有するものである。
【0029】図1に示すように、装置本体1には、ERF3の粘性変化としての応力変化を外部に取り出すための、電気絶縁性を有する、例えばフッ素樹脂製シートからなる細長い応力伝達シート(応力伝達体)4が、上記応力伝達シート4の一端部である摺動部4aを各電極板2の長手方向に沿い、かつ、上記各電極板2とそれぞれ等間隔にてERF3内を上記ERF3と当接しながら往復移動するように設けられている。
【0030】したがって、応力伝達シート4は、装置本体1の開口端部1bから装置本体1の長手方向に沿って外方に向かい突出した、上記摺動部4aに対して他端部となる応力取出部4bを有しており、その応力取出部4bを介して、ERF3におけるせん断応力変化を外部に対し取り出せるようになっている。また、各電極板2間に電圧を、0〜2kV印加して、各電極板2間に電界を形成するための電源5が、上記各電極板2に電気的に接続されて設けられている。
【0031】このような実施例の構成によれば、例えば仮想操作感を示す電気信号に応じて各電極板2間に印加される電圧により、上記各電極板2間に形成される電界に応じて、図3に示すように、各誘電体粒子3aと電気絶縁性油3bとを有する各電極板2間のERF3の粘性が各誘電体粒子3aが静電的に連結されることによって変化するので、上記ERF3内を往復移動する応力伝達シート4に対するせん断応力が変化して、上記電気信号に応じた応力変化を得ることが応力伝達シート4において可能となる。
【0032】また、上記構成では、従来のように、一方の電極を可動にして応力変化を発生させていた場合と比べて、各電極板2を装置本体1に対し固定した状態にて上記応力変化を得ることができるので、各電極板2間での絶縁破壊を従来より抑制できて、上記構成によって仮想操作感が付与されるように上記構成を操作する人間に対する安全性を向上させることができる。
【0033】さらに、上記摺動部4aに対し、応力増幅部6が、上記応力増幅部6の表面粗度を上記応力増幅部6と異なる上記応力伝達シート4の部分の表面粗度より大きくなるように設けられている。
【0034】このような応力増幅部6を摺動部4aに設けたことにより、ERF3内を往復移動する摺動部4aにおける表面粗度を大きくして、ERF3の粘性変化としての、応力伝達シート4によって外部に伝達される応力変化を増加させることができるので、さらに、小型化を図ることができ、また、各電極板2間に印加する電界を低減することができて、安全性をさらに改善できる。
【0035】上記応力増幅部6は、上記応力増幅部6の表面粗度を上述のように大きくするために、例えば開口部6aを有している。上記開口部6aは、応力伝達シート4の移動方向となる装置本体1の長手方向に対し、ほぼ垂直な方向の長さが、上記移動方向の長さより大きくなるように、上記移動方向に対し、ほぼ垂直な方向に延びる長手方向を有する略長方形断面を備えている。上記開口部6aは、応力伝達シート4をその厚さ方向に連通すると共に、対面する各電極板2に対向する開口端を有するように設けられている。
【0036】このような開口部6aを、応力伝達シート4の移動方向に対しほぼ垂直な方向の長さが、上記移動方向の長さより大きくなるように設定したことにより、ERF3と当接する応力伝達シート4の摺動部4aにおける表面粗度を効率よく大きくすることができて、ERF3の粘性変化としての応力変化を大きくできるので、さらに、小型化を図ることができ、また、各電極板2間に印加する電界を低減することができる。
【0037】その上、上記開口部6aを、対面する各電極板2間に形成される電界の方向に沿って応力伝達シート4を貫通するように設けたことから、ERF3を横断する応力増幅部6の断面積を大きくできるので、ERF3の粘性変化としての応力変化を大きくできて、さらに、小型化を図ることができ、また、各電極板2間に印加する電界を低減することができて、安全性をさらに向上できる。
【0038】また、上記開口部6aは、応力伝達シート4の移動方向に沿って複数並設されていてもよい。これにより、ERF3と当接する応力伝達シート4の摺動部4aにおける表面粗度を、さらに効率よく大きくすることができて、ERF3の粘性変化としての応力変化を大きくできるので、さらに、小型化を図ることができ、また、各電極間に印加する電界を低減することができる。
【0039】次に、応力変化に対する、上記応力増幅部6における開口部6aの形状および個数の影響ついて説明する。まず、上記応力の測定装置は、例えば図4に示すように、電極駆動部11、ロードセル部12、制御コントロール部13とを有している。
【0040】電極駆動部11は、一,二相のステッピングモータ11aと、装置本体1に取りつけられ、上記ステッピングモータ11aによって駆動されるベルト11bとによって、上記装置本体1に対し応力伝達シート4を往復移動させるように、上記装置本体1を装置本体1の長手方向に往復移動させるようになっている。
【0041】ロードセル部12は、電気絶縁性を有するフッ素樹脂部12aを介して応力伝達シート4に連結されており、電極駆動部11によって装置本体1に対し応力伝達シート4を往復移動させたときに、上記応力伝達シート4に生じる応力を電圧値として出力するようになっている。
【0042】制御コントロール部13は、ロードセル部12からの電圧値を増幅するアンプ13aと、ステッピングモータ11aを駆動するためのドライバ13bと、上記アンプ13aからの出力値と、上記ドライバ13bを介してステッピングモータ11aの速度制御との処理を行うCPU13cとを有している。
【0043】このようなCPU13cでの結果は、RS−232Cの仕様に基づく信号に変換されて、パソコン14に順次伝達され、上記パソコン14にて記憶されて、経時的なせん断応力の変化を示すデータ処理を行うようになっている。
【0044】次に、上記測定装置を用いた測定方法について説明すると、まず、図5(a)示すように、応力伝達シート4としてのフッ素樹脂製シート40を、概略の外寸、幅13mm×長さ120mm×厚さ0.3mmに、かつ、一端部に6mmφの円形となる開口部6aを1箇所、有するように成形した。
【0045】その次に、上記フッ素樹脂製シート40を装置本体1内の各電極板2間に挿入し、各電極板2間に、例えば0kV/mm、1.25kV/mm、2.5kV/mmとなるようにそれぞれ電界を印加した後、一定の速度でステッピングモータ11aを駆動し、それと同時にロードセル部12からの出力を10msごとにサンプリングしたものを500個プロットした。その結果を図6にて実線にて示した。
【0046】次に、上記開口部6aが、応力伝達シート4の移動方向に沿って2箇所、並設されている図5(b)に示すフッ素樹脂製シート41について、同様に測定し、その結果を図6にて破線にて示した。図6に示した結果から、開口部6aの数の変化により得られる応力が変化、すなわち、開口部6aの数が増加すると応力が増加することが判った。
【0047】なお、以下の図中における *10の表記は、×10を示しており、図中の横軸において、例えば100の表記は、100×10ms、つまり1秒を示す。また、用いた装置本体1における各電極板2の大きさは、幅14mm×長さ75mm、各電極板2間の間隔1.1mm、装置本体1の移動速度0.63cm/sであり、測定では、印加する電界として2.72kV/mmを用いた。
【0048】続いて、装置本体1の移動速度を変えたときのせん断応力の変化を、図5(c)に示すフッ素樹脂製シート42(開口部6aとして長さ10mm×幅2.8mm、開口部6aの長手方向を移動方向に対しほぼ直角に、かつ、移動方向に沿って3箇所設けたもの)を用い、上記測定装置によって同様に測定した。その結果を図7に示した。この結果から、装置本体1の移動速度(ずり速度)が変化しても得られるせん断応力の変化は緩やかであり、印加した電界によりせん断応力のみが変化することが確認された。
【0049】続いて、図8に示すように、開口部6aの大きさや数を変えて、各応力の変化をそれぞれ測定し、それらの結果を図9ないし図11にそれぞれ示した。具体的には、図8(a)に示すフッ素樹脂製シート43では、10mm×10mmの開口部6aが1箇所設けられ、図8(b)に示すフッ素樹脂製シート44では、10mm×10mmの開口部6aが2箇所、前述の移動方向に沿ってそれぞれ設けられ、図8(c)に示すフッ素樹脂製シート45では、5mm×10mmの開口部6aが2箇所、前述の移動方向に沿って、かつ、上記開口部6aの長手方向を上記移動方向に対しほぼ直角方向となるようにそれぞれ設けられている。
【0050】それらの結果から、図9に示すように、開口部6aの数を増加させて、ERF3内を横断する面積が増大すると、応力変化が増大化し、図10に示すように、開口部6aの数を一定に設定しても、ERF3内を横断する面積を増加させると応力変化が増大化し、図11R>1に示すように、ERF3内を横断する面積を一定に設定しても、開口部6aの数を増加させると、応力変化が増大化することがそれぞれ判った。
【0051】次に、ERF3を横断する面積を一定に設定し、かつ、開口部6aの数を極端に増加させた場合について測定した。これは、ERF3を横断する面積の増加が、用いるフッ素樹脂製シート等の応力伝達シート4の大きさによって制限されるが、開口部6aの数の制限は、上記面積の増加と比べて小さいからである。
【0052】図12(a)に示すフッ素樹脂製シート46では、幅1mm×長さ10mmの略長方形状の角穴となる開口部6aが、16箇所、上記開口部6aの長手方向を前述の移動方向に対し直角となるように、上記移動方向に沿って並設されており、一方、図12(b)に示すフッ素樹脂製シート47では、幅10mm×長さ16mmの略長方形状の角穴となる開口部6aが、1箇所、上記開口部6aの長手方向を上記移動方向に沿って設けられている。
【0053】上記各フッ素樹脂製シート46・47における応力変化について前述と同様に測定した結果を、図1313にそれぞれ示した。それらの結果と、図11に示した結果とから、ERF3内を横断する面積を一定に設定しても、開口部6aの数を増加させるに伴い、応力変化が順次増大化することが判った。
【0054】次に、開口部6aの形状と数を変えた場合の、応力変化について測定した。図14に示すフッ素樹脂製シート48では、長さ10mm×幅2.8mmの略長方形状の角穴となる開口部6aが、上記開口部6aの長手方向を前述の移動方向に対しほぼ直角に、かつ、上記の移動方向に沿って2箇所、並設されている。
【0055】図15に示すフッ素樹脂製シート49では、6mmφの円形状の開口部6aが、上記の移動方向に沿って2箇所設けられている。それら各フッ素樹脂製シート48・49に対する応力変化をそれぞれ同様に測定した。それらの結果を図16にそれぞれ示した。なお、本明細書では、力を示すSI単位であるニュートン(N)と、力を示す工学単位系であるgfとの間での換算は、1N=102gfを用いた。
【0056】また、図17に示すフッ素樹脂製シート42では、長さ10mm×幅2.8mmの略長方形状の角穴となる開口部6aが、上記開口部6aの長手方向を前述の移動方向に対しほぼ直角に、かつ、上記の移動方向に沿って3箇所、並設されている。
【0057】図18に示すフッ素樹脂製シート50では、6mmφの円形状の開口部6aが、上記の移動方向に沿って3箇所、並設されている。それら各フッ素樹脂製シート42・50に対する応力変化をそれぞれ同様に測定した。それらの結果を図19に示した。
【0058】続いて、図20に示す前述のフッ素樹脂製シート48と、長さ10mm×幅2.8mmの開口部6aが、上記開口部6aの長手方向を前述の移動方向に沿って、かつ、上記の移動方向に対しほぼ直角方向に沿って2箇所、並設された図21に示すフッ素樹脂製シート51について、それぞれ応力変化を測定した。それらの結果を、図22に示した。
【0059】また、図23に示す上記のフッ素樹脂製シート51と、長さ10mm×幅2.8mmの開口部6aが、上記開口部6aの長手方向を前述の移動方向に沿い、かつ、上記の移動方向に沿って2箇所、並設された図24に示すフッ素樹脂製シート52について、それぞれ応力変化を測定した。それらの結果を、図25に示した。
【0060】続いて、多数の角穴の配置の違いについて調べた。すなわち、図26に示すフッ素樹脂製シート53では、長さ10mm×幅0.2mmの略長方形状の角穴となる開口部6aが、上記開口部6aの長手方向を前述の移動方向に対しほぼ直角に、かつ、上記の移動方向に沿って多数、例えば39箇所設けられている。
【0061】図27に示すフッ素樹脂製シート54では、長さ10mm×幅0.2mmの略長方形状の角穴となる開口部6aが、上記開口部6aの長手方向を前述の移動方向に沿って多数、例えば33箇所設けられている。
【0062】図26および図27に示す各フッ素樹脂製シート53・54に対する応力変化をそれぞれ同様に測定した。それらの結果を図28に示した。なお、図28に記載した括弧内は、印加した電界を示す。
【0063】図16、図19、図22、図25および図2828に示した結果から、ERF3内において、前述の移動方向に対し横断する断面積が大きい開口部6aを用いた方が、応力変化が大きく、上記開口部6aを複数用いた場合、それらの前述の移動方向に対し横断する断面積の合計の大小が、応力変化に対して大きく影響することが判った。特に、上記実施の形態1では、開口部6aを細かい格子状にすることで、さらに大きな応力変化が得られることが判った。
【0064】次に、装置本体1をさらに小型化するために、各電極板2を多層構造としたものについて検討した。すなわち、図29に示すように、装置本体1において、例えば4層の各電極板2を作製し、前述の図12(a)に示すフッ素樹脂製シート46を用いて、各電極板2間の間隔を0.3mmに、フッ素樹脂製シート46の厚さを0.2mmに設定し、各電極板2間に印加する電圧を0〜1.0kVを印加した以外は前述と同様に設定して測定した。その結果を図30に示した。この結果から、電界1.67kV/mm(印加電圧0.5kV)で500gf以上の応力が得られていることが判る。
【0065】なお、電界0kV/mmで100gf程度の測定値が測定されたのは、用いたフッ素樹脂製シート46の厚さと、各電極板2間の間隔とが同程度の設定されたためと考えられた。また、応力の発現の遅れは、用いたフッ素樹脂製シート46の遊びによるものと考えられた。さらに、今回用いたロードセル部12では、電界が3.33kV/mm(印加電圧1.0kV)のときに生じた応力が大き過ぎたため、上記ロードセル部12による測定が不可能であった。
【0066】(実施の形態2)次に、本発明の実施の他の形態を実施の形態2として図1、および図31ないし図36に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、実施の形態2において、上記実施の形態1と同様の機能を有する部材については、同一の部材番号を付与して、その説明を省いた。
【0067】電気粘性流体を用いた力学装置では、図1に示す前記の応力伝達シート4に代えて、図31に示すように、少なくとも一端部7aに、電気絶縁性の不織布7bを有する応力伝達シート7が、例えば外寸幅12mm×120mmとなるように成形されて設けられている。なお、上記応力伝達シート7は、全体を電気絶縁性の不織布であってもよい。
【0068】上記不織布としては、電気絶縁性を有し、表面粗度を大きくできる多孔質構造を有するものであれば、特に限定されないが、例えば日本バイリーン(株)製の、親水性のナイロン等のポリアミド樹脂の繊維と親油性のポリエステル樹脂の繊維からなり、立体的なポーラス構造を有する不織布を用いることができる。
【0069】次に、上記応力伝達シート7を用い、電界を変えて印加したときの前述と同様に応力変化についてそれぞれ測定した。それらの結果を図32に示した。なお、測定条件としては、各電極板2の寸法を14mm×72mmに、各電極板2の間隔を0.85mmに、印加する電圧を0〜2.5kVに、用いた応力伝達シート7の厚さを0.5mmに設定した。
【0070】この結果から、非常に大きな応力変化が得られ、得られる応力が印加電界に比例することが判った。なお、印加電界をオンした時の応答速度が遅くなったのは、応力伝達シート7においてはじめの弛みと、応力伝達シート7として不織布を用いたため多少の延び縮みが生じたためと考えられた。
【0071】続いて、電界の印加のオン/オフにおける応答速度を測定するために、上記測定条件にて、電界印加後2.5秒経過したときに、電界の印加をオフにしたときの応力変化を経時的に測定した。その結果を、図33R>3に示した。その結果から、電界をオフとした後において、迅速に応力が低下しており、オフ後の優れた応答速度を示した。
【0072】続いて、上述の印加電界をオンした時の応答速度の低下を改善するために、上記応力伝達シート7に代えて、図34に示すように、電気絶縁性の不織布8aと電気絶縁性樹脂板としてのフッ素樹脂製板8bとを装置本体1の厚さ方向に互いに貼り合わせた応力伝達シート8を用いた。
【0073】上記応力伝達シート8を用いた装置本体1について、上述の応力伝達シート7を用いた場合と同様に応力変化について測定した。その結果を図35に示した。その結果から、印加電界をオンした時の応答速度が改善されており、迅速な応答が可能となっていた。
【0074】なお、上記測定では、応力伝達シート8における不織布8aが、印加する電界におけるマイナス側に面するように設定されている。また、別に、応力伝達シート8における不織布8aが、印加する電界におけるプラス側に面するように設定して測定した結果を図36に示した。
【0075】このように本実施の形態2では、前述の開口部を有するフッ素樹脂製シートを用いた場合と比べて、多孔質な繊維シートを、各応力伝達シート7・8として用いたことにより、同じ電界強度のときでも、2〜3倍程度の応力が得られることが判った。また、応力伝達シート8における不織布8aは、印加した電界におけるマイナス側に面するように設定した方が、得られる応力変化が大きいことが判った。
【0076】このように実施の形態2では、応力伝達シート8のように不織布8aに対し伸び縮みの防止策としてフッ素樹脂製板8bを用いて、各電極板2を多層構造とすることにより、容易に、仮想操作感を得るために必要な2kgf程度の力が得られるものとなっている。
【0077】ところで、従来では、各電極の少なくとも一方が可動である必要があったので、各電極間の間隔を一定に維持することが困難であり、やはり絶縁破壊を生じ易く、安全性が低下するという問題、また、各電極間に充填された電気粘性流体の粘性変化としての応力変化を増加させるために、電極の枚数を増やした場合、さらに各電極間の間隔を一定に維持することが困難であり、やはり絶縁破壊を生じ易く、安全性が低下するという問題、さらに、電気粘性流体をシールする可動部分が大きくなることから、電気粘性流体の漏れ等に起因する動作の安定性に欠けるという問題も生じている。
【0078】しかしながら、上記の実施の形態1および2の各構成では、各電極板2は装置本体1に対して固定されているので、応力変化を発生させても上記各電極板2の間隔が変動することが回避されており、上記間隔の変動に起因する絶縁破壊も防止されるので、高電圧が印加されても、安全性を確保できる。
【0079】また、上記各構成では、応力伝達シート4・7・8の往復移動する際に、装置本体1における開口端部1bでのERF3のシールのみを考慮すればよく、従来のように稼働する電極の周辺部全体のシールを考慮する必要がなく、ERF3のシーリングがより容易なものとなる。よって、上記各構成では、従来より動作の安定性を向上させることが可能となる。
【0080】
【発明の効果】本発明の電気粘性流体を用いた力学装置は、以上のように、各電極間に印加された電界の変化に応じて粘性が変化する電気粘性流体が、上記各電極間に充填されて設けられ、電気粘性流体の粘性変化としての応力変化を外部に取り出すための応力伝達体が、上記応力伝達体の一端部を各電極間の電気粘性流体内を往復移動するように設けられている構成である。
【0081】それゆえ、上記構成では、従来のように、一方の電極を可動にして応力変化を発生させていた場合と比べて、各電極を固定した状態にて上記応力変化を得ることができるので、各電極間での絶縁破壊を従来より抑制できて、上記構成によって仮想操作感が付与される人間に対する安全性を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における電気粘性流体を用いた力学装置の概略斜視図であって、(a)は上記力学装置における応力伝達シートを引き出したときの概略斜視図であり、(b)は上記応力伝達シートが力学装置内に挿入された状態を示す概略斜視図である。
【図2】上記電気粘性流体の特性を示すグラフである。
【図3】上記力学装置における動作概念図である。
【図4】上記力学装置における応力を測定する測定装置の概略図である。
【図5】上記応力伝達シートの各例を示す平面図であり、(a)は、円形状の開口部が1箇所のものを示し、(b)は上記開口部が2箇所のものを示し、(c)は、矩形の開口部が3箇所のものを示す。
【図6】上記図5(a)および図5(b)に示す各応力伝達シートにおいて、印加電界をそれぞれ代えて応力を測定した結果を示すグラフである。
【図7】上記の図5(c)に示す応力伝達シートにおいて、ずり速度とせん断応力との関係を示すグラフである。
【図8】上記の各応力伝達シートの他の各例をそれぞれ示す平面図であり、(a)は、矩形の開口部を1箇所、(b)は矩形の開口部を2箇所、(c)は上記開口部より面積が半分の矩形の開口部を2箇所有したものである。
【図9】上記の図8(a)および(b)の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図10】上記の図8(b)および(c)の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図11】上記の図8(a)および(c)の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図12】上記の各応力伝達シートのさらに他の各例をそれぞれ示す平面図であり、(a)は、矩形の開口部が多数、(b)は上記各開口部の各断面積の合計と等しい断面積を有する矩形の開口部が1箇所のものである。
【図13】上記の図12(a)および(b)の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図14】上記の応力伝達シートのさらに他の例を示す平面図である。
【図15】上記の応力伝達シートのさらに他の例を示す平面図である。
【図16】上記の図14および図15の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図17】前記の図5(c)に示した応力伝達シートの平面図である。
【図18】上記の応力伝達シートのさらに他の例を示す平面図である。
【図19】上記の図17および図18の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図20】上記の図14に示した応力伝達シートの平面図である。
【図21】上記の応力伝達シートのさらに他の例を示す平面図である。
【図22】上記の図20および図21の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図23】上記の図21に示した応力伝達シートの平面図である。
【図24】上記の応力伝達シートのさらに他の例を示す平面図である。
【図25】上記の図23および図24の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図26】上記の応力伝達シートのさらに他の例を示す平面図である。
【図27】上記の応力伝達シートのさらに他の例を示す平面図である。
【図28】上記の図26および図27の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図29】本発明の電気粘性流体を用いた力学装置の他の例を示す概略斜視図である。
【図30】上記の力学装置において発生する応力を示すグラフである。
【図31】上記応力伝達シートのさらに他の例を示す平面図である。
【図32】上記の応力伝達シートを用いた力学装置において発生する応力を示すグラフである。
【図33】上記の力学装置における電界オフ時の応答速度を示すグラフである。
【図34】上記の応力伝達シートのさらに他の例を示す分解斜視図である。
【図35】上記の応力伝達シートを用いた力学装置において発生する応力を示すグラフである。
【図36】上記の応力伝達シートを電界での取付け位置を図35と逆に設定した場合の力学装置において発生する応力を示すグラフである。
【図37】ER流体における電界の無印加時の状態を示す説明図である。
【図38】上記ER流体における電界の印加時の状態を示す説明図である。
【図39】従来のER流体を用いた力学装置の概略図であって、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図40】従来のER流体を用いた他の力学装置の概略図である。
【図41】上記図39および図40において印加される電界と、発生するトルクとの関係を示すグラフである。
【図42】上記図39に示す力学装置の具体例を示す断面図である。
【図43】上記力学装置を仮想操作感を発生させるために用いた例を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
2 電極板(電極)
3 ERF(電気粘性流体)
4 応力伝達シート(応力伝達体)
4a 摺動部
6 応力増幅部
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、例えば、仮想操作感を発生させるため、仮想現実感を示す電気信号を、操作する人間によって知覚される力覚に変換するための、電気粘性流体を用いた力学装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、仮想環境上での仮想現実感を、操作する人間に対し知覚させる場合において、仮想環境上での、仮想操作感となる物体操作反力を発生させる必要性が高くなっている。現在、仮想環境における物体操作反力を発生するための力覚呈示装置では、ACサーボモータ、DCサーボモータ等の駆動モータを用いたものが知られている。
【0003】ところで、仮想操作感を実現するための装置としては、小型、軽量で応答速度が早く、かつ、安全な装置が求められている。しかしながら、上記力覚呈示装置では、それらの多くがその機構上、複雑で大がかりなため、操作性が悪く、かつ、反応速度が遅いという制御性に問題点を有している。
【0004】そこで、上記問題点を回避するために、図3737および図38に示すように、各電極61間に電界を加えることにより、粘性が著しく増加する特性を備えた電気粘性流体(以下、ER流体という)62を用いた力学装置が考えられた。上記ER流体62は、誘電体粒子62aと電気絶縁性油62bとを有し、印加された電界によって各誘電体粒子62aが静電的に連結することにより粘性が増加するものと考えられている。
【0005】上記ER流体62は、電界の印加による粘性の変化が可逆的であり、応答速度(数ミリ秒オーダー)も非常に速いものである。また、印加する電界は数kV/mmと非常に大きいが、電極間には僅かな電流(数十マイクロアンペア程度)しか流れないので、人体に与える影響は小さく、また、消費電力も極めて小さなものとなる。
【0006】また、力覚呈示装置として要求される仕様としては、(1)小型、軽量で安全性が高い、(2)手でものを持っている感覚を実現できる等である。(2)については、人間がものを握って保持するときには、軽く握っているときで約0.6kgf、強く握っているときで約1.8kgf程度の指の力が生じるので、上記力覚呈示装置では、約2.0kgf程度までの応力が得られるように設定されればよい。
【0007】そこで、ER流体を用いた力覚呈示装置としては、上記ER流体を用いるための下記の2つの方式、すなわち、
【0008】
【0009】
【0010】このように従来の各方式を、仮想操作感を発生させるために用いた場合、例えば回転円盤型を用いたとき、例えば図42に示すように、円盤状の相平行に向かい合う各電極板66・67の間にER流体62を充填し、一方の電極板66を可動に設定して、その電極板66に連結されて一体的に回動する応力出力部68を有する力学装置が考えられた。
【0011】このような力学装置を、仮想操作感を得るために用いるには、例えば図43に示すように、人の親指に対し、図42に示す力学装置69をアーム70を介して連結する一方、人指し指に対し応力出力部68をアーム71を介して連結し、上記の人指し指の変形を検出する歪みセンサ72を取りつける。
【0012】次に、上記各電極間の電界を、仮想操作感を示す電気信号に応じて変化、すなわち、歪みセンサ72からの信号に基づいて、例えば、親指と人指し指とで物を掴んだと判断されると、上記各電極板66・67の間に電圧を印加して電界を形成し、可動な電極板66の回動を抑制することで仮想操作感となる応力を、操作する人に対し付与するようになっている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】ところが、上記従来の方式では、少なくとも一方の電極板66が可動なため、各電極板66・67間に封入されるER流体62のシールが困難であり、また、電極板66が可動なため、各電極板66・67間の間隔を一定に維持することが困難であることから、高電圧が印加される各電極板66・67間にて絶縁破壊を生じて、各電極板66・67間を流れる電流値が大きくなり易く、操作する人間に対する安全性が低下するという問題を生じている。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明の電気粘性流体を用いた力学装置は、以上の課題を解決するために、複数の電極が互いに対面するように設けられ、各電極間に印加された電界の変化に応じて粘性が変化する電気粘性流体が、上記各電極間に充填されて設けられ、電気粘性流体の粘性変化としての応力変化を外部に取り出すための応力伝達体が、上記応力伝達体の一端部を各電極間の電気粘性流体内を往復移動するように設けられていることを特徴としている。
【0015】上記の構成によれば、例えば仮想操作感を示す電気信号に応じて各電極間に印加される電圧により、上記各電極間に形成される電界に応じて、各電極間の電気粘性流体の粘性が変化するので、上記電気粘性流体内を往復移動する応力伝達体に対するせん断応力が変化して、上記電気信号に応じた応力変化を、力覚として操作する現に対し付与することが可能となる。
【0016】また、上記構成では、従来のように、一方の電極を可動にして応力変化を発生させていた場合と比べて、各電極を固定した状態にて上記応力変化を得ることができるので、各電極間での絶縁破壊を従来より抑制できて、上記構成を操作する人間に対する安全性を向上させることができる。
【0017】さらに、上記構成では、一端部に対し、応力増幅部が、上記応力増幅部の表面粗度を上記応力増幅部と異なる上記応力伝達体の部分より大きくなるように、例えば開口部を有して設けられた構成としてもよい。
【0018】上記構成によれば、電気粘性流体内を往復移動する一端部における表面粗度を大きくすることにより、電気粘性流体の粘性変化に応じた、応力伝達体によって外部に伝達される応力変化を増加させることができるので、小型化を図ることができ、また、各電極間に印加する電界を低減することができる。
【0019】その上、上記開口部を、応力伝達体の移動方向に対しほぼ垂直な方向の長さが、上記移動方向の長さより大きくなるように設定された構成としてもよい。
【0020】上記構成によれば、開口部を、応力伝達体の移動方向に対しほぼ垂直な方向の長さが、上記移動方向の長さより大きくなるように設定したことにより、電気粘性流体と当接する応力伝達体の一端部における表面粗度を効率よく大きくすることができて、電気粘性流体の粘性変化としての応力変化を大きくできるので、さらに、小型化を図ることができ、また、各電極間に印加する電界を低減することができる。
【0021】また、上記開口部は、応力伝達体の移動方向に沿って複数並設されていてもよい。これにより、電気粘性流体と当接する応力伝達体の一端部における表面粗度を効率よく大きくすることができて、電気粘性流体の粘性変化としての応力変化を大きくできるので、さらに、小型化を図ることができ、また、各電極間に印加する電界を低減することができる。
【0022】その上、上記開口部は、対面する各電極間に形成される電界の方向に沿って応力伝達体を貫通するように設けられていてもよい。この構成では、電気粘性流体を横断する応力増幅部の断面積を大きくできるので、電気粘性流体の粘性変化としての応力変化を大きくできるので、さらに、小型化を図ることができ、また、各電極間に印加する電界を低減することができる。
【0023】また、応力伝達体は、少なくとも上記一端部に、電気絶縁性の不織布を有するものであってもよい。このことにより、電気粘性流体と当接する応力伝達体の一端部における表面粗度を効率よく大きくすることができて、電気粘性流体の粘性変化としての応力変化を大きくできるので、さらに、小型化を図ることができ、また、各電極間に印加する電界を低減することができる。
【0024】さらに、上記応力伝達体は、電気絶縁性の不織布と電気絶縁性樹脂板とを貼り合わせたものであってもよい。これによれば、電気絶縁性樹脂板により応力伝達体の強度を高めることができて、応力伝達体による応力変化を外部に取り出すことを安定化できる。
【0025】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)本発明の実施の形態を実施の形態1として図1ないし図31に基づいて説明すれば、以下の通りである。電気粘性流体を用いた力学装置では、図1に示すように、略直方体形状の装置本体1が、内部に中空部1aと、長手方向の一端面に開口端部1bとを有して設けられている。
【0026】装置本体1の内部には、上記中空部1aに面するように一対の電極板2が、互いに対面して平行となるようにそれぞれ固定されて設けられている。上記各電極板2は、略長方形板状に成形され、各電極板2の長手方向が装置本体1の長手方向に沿うように上記中空部1a内にそれぞれ取りつけられている。
【0027】装置本体1の内部の各電極板2間には、印加された電界の変化に応じて粘性が変化する電気粘性流体(以下、ERFという)3が充填されている。ERF3は、非圧縮性液体である分散媒として、シリコーンオイルを主成分とする電気絶縁性油と、例えば2.0kgf程度の力では変形しない強度を有する分散相として、平均粒径1〜50μmμmの誘電体粒子とを有しており、電界が印加されると、見かけの粘性が著しく増大するものである。
【0028】上記ERF3の見掛けの粘性は、ニュートン流体のように、印加される電界の増加に伴う、ずり速度の増加に対するせん断応力の増加を示す傾きの増加として現れるものではなく、例えば図2に示すように、印加される電界(Electric Field) が増加しても、ずり速度(Shear Rate)に対するせん断応力(Shear Stress)の増加を示す曲線は、その傾きが変化せずに平行移動し、物体の移動を妨げる上記せん断応力のみがが大きくなる特性を有するものである。
【0029】図1に示すように、装置本体1には、ERF3の粘性変化としての応力変化を外部に取り出すための、電気絶縁性を有する、例えばフッ素樹脂製シートからなる細長い応力伝達シート(応力伝達体)4が、上記応力伝達シート4の一端部である摺動部4aを各電極板2の長手方向に沿い、かつ、上記各電極板2とそれぞれ等間隔にてERF3内を上記ERF3と当接しながら往復移動するように設けられている。
【0030】したがって、応力伝達シート4は、装置本体1の開口端部1bから装置本体1の長手方向に沿って外方に向かい突出した、上記摺動部4aに対して他端部となる応力取出部4bを有しており、その応力取出部4bを介して、ERF3におけるせん断応力変化を外部に対し取り出せるようになっている。また、各電極板2間に電圧を、0〜2kV印加して、各電極板2間に電界を形成するための電源5が、上記各電極板2に電気的に接続されて設けられている。
【0031】このような実施例の構成によれば、例えば仮想操作感を示す電気信号に応じて各電極板2間に印加される電圧により、上記各電極板2間に形成される電界に応じて、図3に示すように、各誘電体粒子3aと電気絶縁性油3bとを有する各電極板2間のERF3の粘性が各誘電体粒子3aが静電的に連結されることによって変化するので、上記ERF3内を往復移動する応力伝達シート4に対するせん断応力が変化して、上記電気信号に応じた応力変化を得ることが応力伝達シート4において可能となる。
【0032】また、上記構成では、従来のように、一方の電極を可動にして応力変化を発生させていた場合と比べて、各電極板2を装置本体1に対し固定した状態にて上記応力変化を得ることができるので、各電極板2間での絶縁破壊を従来より抑制できて、上記構成によって仮想操作感が付与されるように上記構成を操作する人間に対する安全性を向上させることができる。
【0033】さらに、上記摺動部4aに対し、応力増幅部6が、上記応力増幅部6の表面粗度を上記応力増幅部6と異なる上記応力伝達シート4の部分の表面粗度より大きくなるように設けられている。
【0034】このような応力増幅部6を摺動部4aに設けたことにより、ERF3内を往復移動する摺動部4aにおける表面粗度を大きくして、ERF3の粘性変化としての、応力伝達シート4によって外部に伝達される応力変化を増加させることができるので、さらに、小型化を図ることができ、また、各電極板2間に印加する電界を低減することができて、安全性をさらに改善できる。
【0035】上記応力増幅部6は、上記応力増幅部6の表面粗度を上述のように大きくするために、例えば開口部6aを有している。上記開口部6aは、応力伝達シート4の移動方向となる装置本体1の長手方向に対し、ほぼ垂直な方向の長さが、上記移動方向の長さより大きくなるように、上記移動方向に対し、ほぼ垂直な方向に延びる長手方向を有する略長方形断面を備えている。上記開口部6aは、応力伝達シート4をその厚さ方向に連通すると共に、対面する各電極板2に対向する開口端を有するように設けられている。
【0036】このような開口部6aを、応力伝達シート4の移動方向に対しほぼ垂直な方向の長さが、上記移動方向の長さより大きくなるように設定したことにより、ERF3と当接する応力伝達シート4の摺動部4aにおける表面粗度を効率よく大きくすることができて、ERF3の粘性変化としての応力変化を大きくできるので、さらに、小型化を図ることができ、また、各電極板2間に印加する電界を低減することができる。
【0037】その上、上記開口部6aを、対面する各電極板2間に形成される電界の方向に沿って応力伝達シート4を貫通するように設けたことから、ERF3を横断する応力増幅部6の断面積を大きくできるので、ERF3の粘性変化としての応力変化を大きくできて、さらに、小型化を図ることができ、また、各電極板2間に印加する電界を低減することができて、安全性をさらに向上できる。
【0038】また、上記開口部6aは、応力伝達シート4の移動方向に沿って複数並設されていてもよい。これにより、ERF3と当接する応力伝達シート4の摺動部4aにおける表面粗度を、さらに効率よく大きくすることができて、ERF3の粘性変化としての応力変化を大きくできるので、さらに、小型化を図ることができ、また、各電極間に印加する電界を低減することができる。
【0039】次に、応力変化に対する、上記応力増幅部6における開口部6aの形状および個数の影響ついて説明する。まず、上記応力の測定装置は、例えば図4に示すように、電極駆動部11、ロードセル部12、制御コントロール部13とを有している。
【0040】電極駆動部11は、一,二相のステッピングモータ11aと、装置本体1に取りつけられ、上記ステッピングモータ11aによって駆動されるベルト11bとによって、上記装置本体1に対し応力伝達シート4を往復移動させるように、上記装置本体1を装置本体1の長手方向に往復移動させるようになっている。
【0041】ロードセル部12は、電気絶縁性を有するフッ素樹脂部12aを介して応力伝達シート4に連結されており、電極駆動部11によって装置本体1に対し応力伝達シート4を往復移動させたときに、上記応力伝達シート4に生じる応力を電圧値として出力するようになっている。
【0042】制御コントロール部13は、ロードセル部12からの電圧値を増幅するアンプ13aと、ステッピングモータ11aを駆動するためのドライバ13bと、上記アンプ13aからの出力値と、上記ドライバ13bを介してステッピングモータ11aの速度制御との処理を行うCPU13cとを有している。
【0043】このようなCPU13cでの結果は、RS−232Cの仕様に基づく信号に変換されて、パソコン14に順次伝達され、上記パソコン14にて記憶されて、経時的なせん断応力の変化を示すデータ処理を行うようになっている。
【0044】次に、上記測定装置を用いた測定方法について説明すると、まず、図5(a)示すように、応力伝達シート4としてのフッ素樹脂製シート40を、概略の外寸、幅13mm×長さ120mm×厚さ0.3mmに、かつ、一端部に6mmφの円形となる開口部6aを1箇所、有するように成形した。
【0045】その次に、上記フッ素樹脂製シート40を装置本体1内の各電極板2間に挿入し、各電極板2間に、例えば0kV/mm、1.25kV/mm、2.5kV/mmとなるようにそれぞれ電界を印加した後、一定の速度でステッピングモータ11aを駆動し、それと同時にロードセル部12からの出力を10msごとにサンプリングしたものを500個プロットした。その結果を図6にて実線にて示した。
【0046】次に、上記開口部6aが、応力伝達シート4の移動方向に沿って2箇所、並設されている図5(b)に示すフッ素樹脂製シート41について、同様に測定し、その結果を図6にて破線にて示した。図6に示した結果から、開口部6aの数の変化により得られる応力が変化、すなわち、開口部6aの数が増加すると応力が増加することが判った。
【0047】なお、以下の図中における *10の表記は、×10を示しており、図中の横軸において、例えば100の表記は、100×10ms、つまり1秒を示す。また、用いた装置本体1における各電極板2の大きさは、幅14mm×長さ75mm、各電極板2間の間隔1.1mm、装置本体1の移動速度0.63cm/sであり、測定では、印加する電界として2.72kV/mmを用いた。
【0048】続いて、装置本体1の移動速度を変えたときのせん断応力の変化を、図5(c)に示すフッ素樹脂製シート42(開口部6aとして長さ10mm×幅2.8mm、開口部6aの長手方向を移動方向に対しほぼ直角に、かつ、移動方向に沿って3箇所設けたもの)を用い、上記測定装置によって同様に測定した。その結果を図7に示した。この結果から、装置本体1の移動速度(ずり速度)が変化しても得られるせん断応力の変化は緩やかであり、印加した電界によりせん断応力のみが変化することが確認された。
【0049】続いて、図8に示すように、開口部6aの大きさや数を変えて、各応力の変化をそれぞれ測定し、それらの結果を図9ないし図11にそれぞれ示した。具体的には、図8(a)に示すフッ素樹脂製シート43では、10mm×10mmの開口部6aが1箇所設けられ、図8(b)に示すフッ素樹脂製シート44では、10mm×10mmの開口部6aが2箇所、前述の移動方向に沿ってそれぞれ設けられ、図8(c)に示すフッ素樹脂製シート45では、5mm×10mmの開口部6aが2箇所、前述の移動方向に沿って、かつ、上記開口部6aの長手方向を上記移動方向に対しほぼ直角方向となるようにそれぞれ設けられている。
【0050】それらの結果から、図9に示すように、開口部6aの数を増加させて、ERF3内を横断する面積が増大すると、応力変化が増大化し、図10に示すように、開口部6aの数を一定に設定しても、ERF3内を横断する面積を増加させると応力変化が増大化し、図11R>1に示すように、ERF3内を横断する面積を一定に設定しても、開口部6aの数を増加させると、応力変化が増大化することがそれぞれ判った。
【0051】次に、ERF3を横断する面積を一定に設定し、かつ、開口部6aの数を極端に増加させた場合について測定した。これは、ERF3を横断する面積の増加が、用いるフッ素樹脂製シート等の応力伝達シート4の大きさによって制限されるが、開口部6aの数の制限は、上記面積の増加と比べて小さいからである。
【0052】図12(a)に示すフッ素樹脂製シート46では、幅1mm×長さ10mmの略長方形状の角穴となる開口部6aが、16箇所、上記開口部6aの長手方向を前述の移動方向に対し直角となるように、上記移動方向に沿って並設されており、一方、図12(b)に示すフッ素樹脂製シート47では、幅10mm×長さ16mmの略長方形状の角穴となる開口部6aが、1箇所、上記開口部6aの長手方向を上記移動方向に沿って設けられている。
【0053】上記各フッ素樹脂製シート46・47における応力変化について前述と同様に測定した結果を、図1313にそれぞれ示した。それらの結果と、図11に示した結果とから、ERF3内を横断する面積を一定に設定しても、開口部6aの数を増加させるに伴い、応力変化が順次増大化することが判った。
【0054】次に、開口部6aの形状と数を変えた場合の、応力変化について測定した。図14に示すフッ素樹脂製シート48では、長さ10mm×幅2.8mmの略長方形状の角穴となる開口部6aが、上記開口部6aの長手方向を前述の移動方向に対しほぼ直角に、かつ、上記の移動方向に沿って2箇所、並設されている。
【0055】図15に示すフッ素樹脂製シート49では、6mmφの円形状の開口部6aが、上記の移動方向に沿って2箇所設けられている。それら各フッ素樹脂製シート48・49に対する応力変化をそれぞれ同様に測定した。それらの結果を図16にそれぞれ示した。なお、本明細書では、力を示すSI単位であるニュートン(N)と、力を示す工学単位系であるgfとの間での換算は、1N=102gfを用いた。
【0056】また、図17に示すフッ素樹脂製シート42では、長さ10mm×幅2.8mmの略長方形状の角穴となる開口部6aが、上記開口部6aの長手方向を前述の移動方向に対しほぼ直角に、かつ、上記の移動方向に沿って3箇所、並設されている。
【0057】図18に示すフッ素樹脂製シート50では、6mmφの円形状の開口部6aが、上記の移動方向に沿って3箇所、並設されている。それら各フッ素樹脂製シート42・50に対する応力変化をそれぞれ同様に測定した。それらの結果を図19に示した。
【0058】続いて、図20に示す前述のフッ素樹脂製シート48と、長さ10mm×幅2.8mmの開口部6aが、上記開口部6aの長手方向を前述の移動方向に沿って、かつ、上記の移動方向に対しほぼ直角方向に沿って2箇所、並設された図21に示すフッ素樹脂製シート51について、それぞれ応力変化を測定した。それらの結果を、図22に示した。
【0059】また、図23に示す上記のフッ素樹脂製シート51と、長さ10mm×幅2.8mmの開口部6aが、上記開口部6aの長手方向を前述の移動方向に沿い、かつ、上記の移動方向に沿って2箇所、並設された図24に示すフッ素樹脂製シート52について、それぞれ応力変化を測定した。それらの結果を、図25に示した。
【0060】続いて、多数の角穴の配置の違いについて調べた。すなわち、図26に示すフッ素樹脂製シート53では、長さ10mm×幅0.2mmの略長方形状の角穴となる開口部6aが、上記開口部6aの長手方向を前述の移動方向に対しほぼ直角に、かつ、上記の移動方向に沿って多数、例えば39箇所設けられている。
【0061】図27に示すフッ素樹脂製シート54では、長さ10mm×幅0.2mmの略長方形状の角穴となる開口部6aが、上記開口部6aの長手方向を前述の移動方向に沿って多数、例えば33箇所設けられている。
【0062】図26および図27に示す各フッ素樹脂製シート53・54に対する応力変化をそれぞれ同様に測定した。それらの結果を図28に示した。なお、図28に記載した括弧内は、印加した電界を示す。
【0063】図16、図19、図22、図25および図2828に示した結果から、ERF3内において、前述の移動方向に対し横断する断面積が大きい開口部6aを用いた方が、応力変化が大きく、上記開口部6aを複数用いた場合、それらの前述の移動方向に対し横断する断面積の合計の大小が、応力変化に対して大きく影響することが判った。特に、上記実施の形態1では、開口部6aを細かい格子状にすることで、さらに大きな応力変化が得られることが判った。
【0064】次に、装置本体1をさらに小型化するために、各電極板2を多層構造としたものについて検討した。すなわち、図29に示すように、装置本体1において、例えば4層の各電極板2を作製し、前述の図12(a)に示すフッ素樹脂製シート46を用いて、各電極板2間の間隔を0.3mmに、フッ素樹脂製シート46の厚さを0.2mmに設定し、各電極板2間に印加する電圧を0〜1.0kVを印加した以外は前述と同様に設定して測定した。その結果を図30に示した。この結果から、電界1.67kV/mm(印加電圧0.5kV)で500gf以上の応力が得られていることが判る。
【0065】なお、電界0kV/mmで100gf程度の測定値が測定されたのは、用いたフッ素樹脂製シート46の厚さと、各電極板2間の間隔とが同程度の設定されたためと考えられた。また、応力の発現の遅れは、用いたフッ素樹脂製シート46の遊びによるものと考えられた。さらに、今回用いたロードセル部12では、電界が3.33kV/mm(印加電圧1.0kV)のときに生じた応力が大き過ぎたため、上記ロードセル部12による測定が不可能であった。
【0066】(実施の形態2)次に、本発明の実施の他の形態を実施の形態2として図1、および図31ないし図36に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、実施の形態2において、上記実施の形態1と同様の機能を有する部材については、同一の部材番号を付与して、その説明を省いた。
【0067】電気粘性流体を用いた力学装置では、図1に示す前記の応力伝達シート4に代えて、図31に示すように、少なくとも一端部7aに、電気絶縁性の不織布7bを有する応力伝達シート7が、例えば外寸幅12mm×120mmとなるように成形されて設けられている。なお、上記応力伝達シート7は、全体を電気絶縁性の不織布であってもよい。
【0068】上記不織布としては、電気絶縁性を有し、表面粗度を大きくできる多孔質構造を有するものであれば、特に限定されないが、例えば日本バイリーン(株)製の、親水性のナイロン等のポリアミド樹脂の繊維と親油性のポリエステル樹脂の繊維からなり、立体的なポーラス構造を有する不織布を用いることができる。
【0069】次に、上記応力伝達シート7を用い、電界を変えて印加したときの前述と同様に応力変化についてそれぞれ測定した。それらの結果を図32に示した。なお、測定条件としては、各電極板2の寸法を14mm×72mmに、各電極板2の間隔を0.85mmに、印加する電圧を0〜2.5kVに、用いた応力伝達シート7の厚さを0.5mmに設定した。
【0070】この結果から、非常に大きな応力変化が得られ、得られる応力が印加電界に比例することが判った。なお、印加電界をオンした時の応答速度が遅くなったのは、応力伝達シート7においてはじめの弛みと、応力伝達シート7として不織布を用いたため多少の延び縮みが生じたためと考えられた。
【0071】続いて、電界の印加のオン/オフにおける応答速度を測定するために、上記測定条件にて、電界印加後2.5秒経過したときに、電界の印加をオフにしたときの応力変化を経時的に測定した。その結果を、図33R>3に示した。その結果から、電界をオフとした後において、迅速に応力が低下しており、オフ後の優れた応答速度を示した。
【0072】続いて、上述の印加電界をオンした時の応答速度の低下を改善するために、上記応力伝達シート7に代えて、図34に示すように、電気絶縁性の不織布8aと電気絶縁性樹脂板としてのフッ素樹脂製板8bとを装置本体1の厚さ方向に互いに貼り合わせた応力伝達シート8を用いた。
【0073】上記応力伝達シート8を用いた装置本体1について、上述の応力伝達シート7を用いた場合と同様に応力変化について測定した。その結果を図35に示した。その結果から、印加電界をオンした時の応答速度が改善されており、迅速な応答が可能となっていた。
【0074】なお、上記測定では、応力伝達シート8における不織布8aが、印加する電界におけるマイナス側に面するように設定されている。また、別に、応力伝達シート8における不織布8aが、印加する電界におけるプラス側に面するように設定して測定した結果を図36に示した。
【0075】このように本実施の形態2では、前述の開口部を有するフッ素樹脂製シートを用いた場合と比べて、多孔質な繊維シートを、各応力伝達シート7・8として用いたことにより、同じ電界強度のときでも、2〜3倍程度の応力が得られることが判った。また、応力伝達シート8における不織布8aは、印加した電界におけるマイナス側に面するように設定した方が、得られる応力変化が大きいことが判った。
【0076】このように実施の形態2では、応力伝達シート8のように不織布8aに対し伸び縮みの防止策としてフッ素樹脂製板8bを用いて、各電極板2を多層構造とすることにより、容易に、仮想操作感を得るために必要な2kgf程度の力が得られるものとなっている。
【0077】ところで、従来では、各電極の少なくとも一方が可動である必要があったので、各電極間の間隔を一定に維持することが困難であり、やはり絶縁破壊を生じ易く、安全性が低下するという問題、また、各電極間に充填された電気粘性流体の粘性変化としての応力変化を増加させるために、電極の枚数を増やした場合、さらに各電極間の間隔を一定に維持することが困難であり、やはり絶縁破壊を生じ易く、安全性が低下するという問題、さらに、電気粘性流体をシールする可動部分が大きくなることから、電気粘性流体の漏れ等に起因する動作の安定性に欠けるという問題も生じている。
【0078】しかしながら、上記の実施の形態1および2の各構成では、各電極板2は装置本体1に対して固定されているので、応力変化を発生させても上記各電極板2の間隔が変動することが回避されており、上記間隔の変動に起因する絶縁破壊も防止されるので、高電圧が印加されても、安全性を確保できる。
【0079】また、上記各構成では、応力伝達シート4・7・8の往復移動する際に、装置本体1における開口端部1bでのERF3のシールのみを考慮すればよく、従来のように稼働する電極の周辺部全体のシールを考慮する必要がなく、ERF3のシーリングがより容易なものとなる。よって、上記各構成では、従来より動作の安定性を向上させることが可能となる。
【0080】
【発明の効果】本発明の電気粘性流体を用いた力学装置は、以上のように、各電極間に印加された電界の変化に応じて粘性が変化する電気粘性流体が、上記各電極間に充填されて設けられ、電気粘性流体の粘性変化としての応力変化を外部に取り出すための応力伝達体が、上記応力伝達体の一端部を各電極間の電気粘性流体内を往復移動するように設けられている構成である。
【0081】それゆえ、上記構成では、従来のように、一方の電極を可動にして応力変化を発生させていた場合と比べて、各電極を固定した状態にて上記応力変化を得ることができるので、各電極間での絶縁破壊を従来より抑制できて、上記構成によって仮想操作感が付与される人間に対する安全性を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における電気粘性流体を用いた力学装置の概略斜視図であって、(a)は上記力学装置における応力伝達シートを引き出したときの概略斜視図であり、(b)は上記応力伝達シートが力学装置内に挿入された状態を示す概略斜視図である。
【図2】上記電気粘性流体の特性を示すグラフである。
【図3】上記力学装置における動作概念図である。
【図4】上記力学装置における応力を測定する測定装置の概略図である。
【図5】上記応力伝達シートの各例を示す平面図であり、(a)は、円形状の開口部が1箇所のものを示し、(b)は上記開口部が2箇所のものを示し、(c)は、矩形の開口部が3箇所のものを示す。
【図6】上記図5(a)および図5(b)に示す各応力伝達シートにおいて、印加電界をそれぞれ代えて応力を測定した結果を示すグラフである。
【図7】上記の図5(c)に示す応力伝達シートにおいて、ずり速度とせん断応力との関係を示すグラフである。
【図8】上記の各応力伝達シートの他の各例をそれぞれ示す平面図であり、(a)は、矩形の開口部を1箇所、(b)は矩形の開口部を2箇所、(c)は上記開口部より面積が半分の矩形の開口部を2箇所有したものである。
【図9】上記の図8(a)および(b)の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図10】上記の図8(b)および(c)の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図11】上記の図8(a)および(c)の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図12】上記の各応力伝達シートのさらに他の各例をそれぞれ示す平面図であり、(a)は、矩形の開口部が多数、(b)は上記各開口部の各断面積の合計と等しい断面積を有する矩形の開口部が1箇所のものである。
【図13】上記の図12(a)および(b)の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図14】上記の応力伝達シートのさらに他の例を示す平面図である。
【図15】上記の応力伝達シートのさらに他の例を示す平面図である。
【図16】上記の図14および図15の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図17】前記の図5(c)に示した応力伝達シートの平面図である。
【図18】上記の応力伝達シートのさらに他の例を示す平面図である。
【図19】上記の図17および図18の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図20】上記の図14に示した応力伝達シートの平面図である。
【図21】上記の応力伝達シートのさらに他の例を示す平面図である。
【図22】上記の図20および図21の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図23】上記の図21に示した応力伝達シートの平面図である。
【図24】上記の応力伝達シートのさらに他の例を示す平面図である。
【図25】上記の図23および図24の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図26】上記の応力伝達シートのさらに他の例を示す平面図である。
【図27】上記の応力伝達シートのさらに他の例を示す平面図である。
【図28】上記の図26および図27の各応力伝達シートにおいて発生する応力を示すグラフである。
【図29】本発明の電気粘性流体を用いた力学装置の他の例を示す概略斜視図である。
【図30】上記の力学装置において発生する応力を示すグラフである。
【図31】上記応力伝達シートのさらに他の例を示す平面図である。
【図32】上記の応力伝達シートを用いた力学装置において発生する応力を示すグラフである。
【図33】上記の力学装置における電界オフ時の応答速度を示すグラフである。
【図34】上記の応力伝達シートのさらに他の例を示す分解斜視図である。
【図35】上記の応力伝達シートを用いた力学装置において発生する応力を示すグラフである。
【図36】上記の応力伝達シートを電界での取付け位置を図35と逆に設定した場合の力学装置において発生する応力を示すグラフである。
【図37】ER流体における電界の無印加時の状態を示す説明図である。
【図38】上記ER流体における電界の印加時の状態を示す説明図である。
【図39】従来のER流体を用いた力学装置の概略図であって、(a)は平面図、(b)は正面図である。
【図40】従来のER流体を用いた他の力学装置の概略図である。
【図41】上記図39および図40において印加される電界と、発生するトルクとの関係を示すグラフである。
【図42】上記図39に示す力学装置の具体例を示す断面図である。
【図43】上記力学装置を仮想操作感を発生させるために用いた例を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
2 電極板(電極)
3 ERF(電気粘性流体)
4 応力伝達シート(応力伝達体)
4a 摺動部
6 応力増幅部
【特許請求の範囲】
【請求項1】複数の電極が互いに対面するように設けられ、各電極間に印加された電界の変化に応じて粘性が変化する電気粘性流体が、上記各電極間に充填されて設けられ、電気粘性流体の粘性変化としての応力変化を外部に取り出すための応力伝達体が、上記応力伝達体の一端部を各電極間の電気粘性流体内を往復移動するように設けられていることを特徴とする電気粘性流体を用いた力学装置。
【請求項2】応力伝達体の一端部に対し、応力増幅部が、上記一端部における表面粗度を上記応力増幅部と異なる上記応力伝達体の部分より大きくなるように設けられていることを特徴とする請求項1記載の電気粘性流体を用いた力学装置。
【請求項3】上記応力増幅部は、上記一端部の表面粗度を大きくするために、開口部を有することを特徴とする請求項2記載の電気粘性流体を用いた力学装置。
【請求項4】上記開口部は、応力伝達体の移動方向に対しほぼ垂直な方向の長さが、上記移動方向の長さより大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項3記載の電気粘性流体を用いた力学装置。
【請求項5】上記開口部は、応力伝達体の移動方向に沿って複数並設されていることを特徴とする請求項3または4記載の電気粘性流体を用いた力学装置。
【請求項6】上記開口部は、対面する各電極間に形成される電界の方向に沿って応力伝達体を貫通するように設けられていることを特徴とする請求項3、4または5記載の電気粘性流体を用いた力学装置。
【請求項7】応力伝達体は、少なくとも上記一端部に、電気絶縁性の不織布を有するものであることを特徴とする請求項1記載の電気粘性流体を用いた力学装置。
【請求項8】上記応力伝達体は、電気絶縁性の不織布と電気絶縁性樹脂板とを貼り合わせたものであることを特徴とする請求項1記載の電気粘性流体を用いた力学装置。
【請求項1】複数の電極が互いに対面するように設けられ、各電極間に印加された電界の変化に応じて粘性が変化する電気粘性流体が、上記各電極間に充填されて設けられ、電気粘性流体の粘性変化としての応力変化を外部に取り出すための応力伝達体が、上記応力伝達体の一端部を各電極間の電気粘性流体内を往復移動するように設けられていることを特徴とする電気粘性流体を用いた力学装置。
【請求項2】応力伝達体の一端部に対し、応力増幅部が、上記一端部における表面粗度を上記応力増幅部と異なる上記応力伝達体の部分より大きくなるように設けられていることを特徴とする請求項1記載の電気粘性流体を用いた力学装置。
【請求項3】上記応力増幅部は、上記一端部の表面粗度を大きくするために、開口部を有することを特徴とする請求項2記載の電気粘性流体を用いた力学装置。
【請求項4】上記開口部は、応力伝達体の移動方向に対しほぼ垂直な方向の長さが、上記移動方向の長さより大きくなるように設定されていることを特徴とする請求項3記載の電気粘性流体を用いた力学装置。
【請求項5】上記開口部は、応力伝達体の移動方向に沿って複数並設されていることを特徴とする請求項3または4記載の電気粘性流体を用いた力学装置。
【請求項6】上記開口部は、対面する各電極間に形成される電界の方向に沿って応力伝達体を貫通するように設けられていることを特徴とする請求項3、4または5記載の電気粘性流体を用いた力学装置。
【請求項7】応力伝達体は、少なくとも上記一端部に、電気絶縁性の不織布を有するものであることを特徴とする請求項1記載の電気粘性流体を用いた力学装置。
【請求項8】上記応力伝達体は、電気絶縁性の不織布と電気絶縁性樹脂板とを貼り合わせたものであることを特徴とする請求項1記載の電気粘性流体を用いた力学装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図4】
【図6】
【図7】
【図14】
【図15】
【図8】
【図9】
【図10】
【図16】
【図17】
【図18】
【図20】
【図11】
【図12】
【図13】
【図21】
【図23】
【図24】
【図26】
【図27】
【図31】
【図34】
【図19】
【図22】
【図25】
【図28】
【図29】
【図36】
【図37】
【図39】
【図30】
【図32】
【図33】
【図38】
【図40】
【図43】
【図35】
【図41】
【図42】
【図2】
【図3】
【図5】
【図4】
【図6】
【図7】
【図14】
【図15】
【図8】
【図9】
【図10】
【図16】
【図17】
【図18】
【図20】
【図11】
【図12】
【図13】
【図21】
【図23】
【図24】
【図26】
【図27】
【図31】
【図34】
【図19】
【図22】
【図25】
【図28】
【図29】
【図36】
【図37】
【図39】
【図30】
【図32】
【図33】
【図38】
【図40】
【図43】
【図35】
【図41】
【図42】
【公開番号】特開平9−298895
【公開日】平成9年(1997)11月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−109819
【出願日】平成8年(1996)4月30日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成7年11月3日〜11月5日 社団法人日本ロボット学会主催の「第13回日本ロボット学会学術講演会」において文書をもって発表
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【出願人】(000106760)シーケーディ株式会社 (627)
【公開日】平成9年(1997)11月18日
【国際特許分類】
【出願日】平成8年(1996)4月30日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成7年11月3日〜11月5日 社団法人日本ロボット学会主催の「第13回日本ロボット学会学術講演会」において文書をもって発表
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【出願人】(000106760)シーケーディ株式会社 (627)
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