説明

電気絶縁紙

【課題】 公知の抄紙機で製造される紙を用いても、樹脂や油を含浸する必要がなく、電気絶縁性、耐熱性および加工性に優れ、特に高湿度環境下でも優れた電気絶縁性を有するセルロース系電気絶縁紙を提供する。
【解決手段】 少なくとも、3層の熱可塑性樹脂層と2層の紙層とが交互に積層されてなり、かつ両最外層が熱可塑性樹脂層である電気絶縁紙であって、前記熱可塑性樹脂層は溶融押出ラミネート法によって紙層上に形成された層であり、前記紙層は、カナダ式標準ろ水度が400ml〜600mlのパルプ繊維から形成されるとともにロジン系サイズ剤を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気・電子部品などに利用される電気絶縁紙に関し、特に脱イオン水を使用せず公知の抄紙機で製造される紙を用いたセルロース系電気絶縁紙に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、電気機器の用途拡大に伴い、絶縁紙の利用形態も多様化している。セルロース繊維からなる紙は電気絶縁性に優れることから、安価な電気絶縁材料として多く用いられ、コンデンサ、変圧器、電線被覆材等に使用されている(例えば特許文献1)。しかし、セルロース繊維を主成分とした絶縁紙は、絶縁紙中の残留イオンを除去する目的で脱イオン水を用いて抄紙されるため、専用の設備が必要であることに加えて、高湿度環境下ではセルロース繊維が吸湿することから絶縁紙中の平衡水分量が増加し、電気絶縁性が大幅に低下するという問題がある。
【0003】
セルロース繊維系絶縁紙の吸湿を抑制し、高湿度環境下での絶縁性を維持する方法としては樹脂を用いて含浸・硬化させる方法が従来より採用されており、例えば紙基材にフェノール樹脂配合ワニスを含浸させた後に複数枚積層し、加熱加圧形成したものが電子機器等に搭載される回路用基盤として使用されている(例えば特許文献2)。また、クラフト絶縁紙を基材としてエポキシ樹脂により含浸・硬化させたものがブッシングやコンデンサ用の積層絶縁体として使用されている(例えば特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−199338号公報
【特許文献2】特開2001−114982号公報
【特許文献3】特公平07−099654号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述した樹脂の含浸に際しては、絶縁紙中の水分を取り除き、絶縁紙内部まで十分に樹脂を含浸させるために、含浸前の予備加熱が必須であることに加えて、含浸後にも樹脂を完全に硬化させるために長時間の乾燥が必要である。そのため製造工程が煩雑になり生産性に劣るという問題がある。
【0006】
さらに、絶縁紙はモーターやバッテリーなどの熱源となる機器に接触する形で使用されることもあり、これら機器は内部回路に何らかのトラブルが起きた際には瞬間的にであれ数百度という高温を発する場合がある。上記のような環境でで絶縁紙を使用する際には、高温条件下でも発火せず、他の隣接する機器および電子部品へのトラブルの伝播を防止できるだけの耐熱性が要求される。
従って、本発明は電気・電子部品などに利用される電気絶縁紙に関し、脱イオン水を使用しない公知の抄紙機で製造される紙を用いても、樹脂や油を含浸する必要がなく、電気絶縁性、耐熱性および加工性に優れ、特に高湿度環境下でも優れた電気絶縁性を有するセルロース系電気絶縁紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は少なくとも、3層の熱可塑性樹脂層と2層の紙層とが交互に積層されてなり、かつ両最外層が熱可塑性樹脂層である電気絶縁紙であって、前記熱可塑性樹脂層は溶融押出ラミネート法によって紙層上に形成された層であり、前記紙層は、カナダ式標準ろ水度が400ml〜600mlのパルプ繊維から形成されるとともにロジン系サイズ剤を含有することを特徴とする電気絶縁紙である。
【0008】
前記熱可塑性樹脂層は、融点が250℃以下である熱可塑性樹脂からなることが好ましい。また、前記熱可塑性樹脂層の厚さは10μm〜80μmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、脱イオン水を使用しない公知の抄紙機で製造される紙を用いても、樹脂による含浸の必要なく、電気絶縁性、耐熱性および加工性に優れ、特に高湿度環境下でも優れた電気絶縁性を有するセルロース系電気絶縁紙を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明により得られる電気絶縁紙の構造を示す断面図の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。本発明の電気絶縁紙は、紙層、最外層(表裏)の熱可塑性樹脂層、内層の熱可塑性樹脂層により形成されている。
【0012】
<紙層>
本発明で使用される紙層を構成するセルロース成分としては化学パルプ(針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)または未晒クラフトパルプ(NUKB)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)または未晒クラフトパルプ(LUKP)等)、機械パルプ(グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)等)を単独または任意の割合で混合して使用することができる。また、必要に応じてケナフ、麻、竹等の非木材系のパルプ、ガラス繊維、ポリエチレン、ポリエステル繊維等のセルロース繊維以外の繊維材料を配合することも可能である。
【0013】
パルプ叩解度はカナダ標準ろ水度で400ml以上600ml以下にすることが必須である。ろ水度が600mlを超える場合には、紙層を形成するパルプ繊維間の結合強度が大幅に弱くなり、引張強度、層間強度、破裂強度が低下することにより、加工時に破壊、破断が発生しやすくなる。またカナダ標準ろ水度が400ml未満では形成加工して使用する際に、折部で紙層表面に割れが発生しやすくなり、また紙の密度が高くなるため、同じ厚さの絶縁紙を得るために坪量を増やす必要がありコストアップとなる。さらに柔軟性が低くなり加工性が悪化する。
【0014】
また、本発明では紙層にロジン系サイズ剤を含有することが必須である。ロジン系サイズ剤を使用する目的は、他のサイズ剤と比較して、耐水性を付与する効果が大きい割に燃焼しにくいことにある。サイズ剤を含有しない場合には、紙層端面部に水滴が付着した際にセルロース繊維が膨潤し、平滑なシートの状態を保てなくなることに加えて、樹脂層が紙層との界面で剥離しやすくなる。また、ロジン系以外の中性サイズ剤であるアルキルケテンダイマー(AKD)やアルケニル無水コハク酸(ASA)を含有した紙を使用した場合、アルキルケテンダイマーでは耐水性は良好だが耐熱性に劣り、高温に晒すと発火しやすい。さらにAKDを高添加することにより、熱可塑性樹脂を溶融、押出ラミネートした際に、樹脂層との接着性が低下する。アルケニル無水コハク酸では抄紙機での汚れが発生しやすいために、高添加は操業上好ましくなく、耐水性向上効果もロジン、AKDと比べて優れているわけではない。ロジン系サイズ剤としては変性ロジン、強化ロジン、鹸化型ロジン、乳化型ロジン等を任意に選択することが出来、水溶液タイプやエマルジョンタイプ等の性状に関わらず使用することが出来る。またロジン系サイズ剤は酸性用、中性用共に使用することが可能である。なお、ロジン系サイズ剤は抄紙用のパルプスラリーに混合したり、後述するサイズプレスを用いたりして紙層中に含有することができる。
【0015】
さらに本発明の電気絶縁紙には、ロジン系サイズ剤以外の薬品として品質に影響のない範囲で、紙力増強剤、定着剤、歩留まり向上剤、染料などの内添薬品及び、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、水酸化アルミニウムなどの内添填料を使用することが出来る。
【0016】
抄紙機の型式は特に限定は無く、長網抄紙機、ツインワイヤー機、ヤンキー抄紙機等で適宜抄紙できる。プレス線圧は通常の操業範囲内で用いられる。表面処理剤は塗布しても良いし、しなくても良い。表面処理剤を塗布する場合、表面処理剤の成分には特に限定は無く、またサイズプレスの型式も限定はなく、2ロールサイズプレス、ゲートロールサイズプレス、ロッドメタリングサイズプレスのような液膜転写方式サイズプレスなどを適宜用いることができる。
【0017】
表面処理剤は、特に限定は無く、例えば、生澱粉や、酸化澱粉、エステル化澱粉、カチオン化澱粉、酵素変性澱粉、アルデヒド化澱粉、ヒドロキシエチル化澱粉などの変性澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコール、カルボキシル変性ポリビニルアルコールなどの変性アルコール、スチレンブタジエン共重合体、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリルアミドなどを単独又は併用できる。
【0018】
紙層への塗工の有無は問わないが、塗工層を設ける場合には顔料として重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、カオリン、タルク、マイカ、酸化チタン、ホワイトカーボン、サチンホワイト、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、石膏、水酸化アルミニウム、焼成カオリン、デラミネーテッドカオリン、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、亜硫酸カルシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウムなどの無機顔料やプラスチックピグメントなどの有機顔料等を適宜使用できる。好ましくは、軽質炭酸カルシウム、カオリン、マイカ等の無機顔料を塗工層中に含有させることで絶縁性をより向上させることができる。紙層に塗工層を設ける場合に用いる添加剤は特に限定するものではなく、バインダー、分散剤、保水剤、消泡剤等の助剤を適宜使用することができる。
【0019】
紙基材層に塗工層を設ける方法としては、ブレードコーター、エアナイフコーター、ロールコーター、コンマコーター、ブラッシュコーター、キスコーター、カーテンコーター、バーコーター、グラビアコーター、ダイコーター等の公知の塗工機を用いた方法の中から適宜選択することができる。
【0020】
塗工後は、塗工層を乾燥させ、塗工紙を得る。乾燥方法としては例えば、蒸気加熱ヒーター、ガスヒーター、赤外線ヒーター、電気ヒーター、熱風加熱ヒーター、マイクロウェーブ、シリンダードライヤー等の通常の方法を採用することができ、乾燥後、必要に応じて、後加工であるスーパーカレンダー、ソフトカレンダー等の仕上げ工程によって平滑性を付与することが可能である。又、その他、一般的な紙加工方法をいずれも適用可能である。
【0021】
<熱可塑性樹脂層>
本発明では、絶縁紙の両最外層および、紙層同士を接着する役割を持つ内層に熱可塑性樹脂を使用することが必須である。熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルペンテン等、押出ラミネート可能な樹脂であればいずれを用いてもよい。これら熱可塑性樹脂は単一の樹脂を単層で使用しても、複数の樹脂を混合して単層で使用しても、複数の樹脂を複層で使用してもよい。また、本発明の電気絶縁紙においては、最外層の熱可塑性樹脂層と内層の熱可塑性樹脂層で同一の樹脂を使用しても、異なる樹脂を使用しても良い。樹脂押出ラミネート適性および絶縁性を考慮すると、熱可塑性樹脂層を形成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリメチルペンテンなど無極性のポリオレフィン樹脂が好ましい。
【0022】
本発明においては、最外層および内層に使用する熱可塑性樹脂の融点が250℃以下であることが望ましい。熱可塑性樹脂の融点が高すぎると溶融押出であっても樹脂と紙層との密着性に劣り、使用環境や負荷の程度にもよるが、樹脂層と紙層の界面で剥離する場合があるため好ましくない。
【0023】
接着性を調整するため、熱可塑性樹脂に無機填料を添加することができる。無機填料の種類としては、炭酸カルシウム、クレー、タルム、シリカ、など1種類以上使用することができる。含有量としては、所望の接着性に応じて適宜決定すればよいが、含有される熱可塑性樹脂層に対し1〜10質量%、好ましくは3〜6質量%程度が適当である。
【0024】
最外層および内層を構成する熱可塑性樹脂層の厚さについては、10μm〜80μmであることが必須であり、好ましくは20μm〜50μmである。10μm未満では樹脂層に微細なピンホールと呼ばれる欠損部分が発生し、ピンホールを通じて通電が起こるため、特に高湿度環境下での絶縁性が低下する。さらに内層においては、熱可塑性樹脂と紙層との接着性に問題が生じる。また80μmを超えると、樹脂厚の増大に伴う電気絶縁性の向上が見込まれず、製造コストが高くなり不経済であることに加えて、絶縁紙の柔軟性が失われるため加工性に悪影響を及ぼす。
【0025】
<絶縁紙の製造方法>
最外層となる熱可塑性樹脂層は、押出機による溶融押出ラミネート法によって形成することが必須であり、また内層となる熱可塑性樹脂層は、押出機の溶融押出部の両側から紙基材を送り込み、溶融した熱可塑性樹脂を介して紙層同士を接着する溶融押出ラミネート法(押出サンドラミネーション法ともいう)で形成することが必須である。
本発明の以外の方法で熱可塑性樹脂層と紙層を積層する場合、例えば樹脂フィルムを水系の接着剤を単独で用いて紙層に密着させた場合、絶縁紙を高湿度環境下で長時間使用する際に疎水性である樹脂フィルムと接着剤の界面で剥離が生じる。また、例えば樹脂フィルムに溶剤系の接着剤を塗布し、さらにその上から水系の接着剤を塗布した後に紙層に接着させる場合には、高湿度環境下での樹脂フィルムと接着剤との剥離は生じにくくなるが、作業性に劣り、製造コストが高くなる。
また、内層となる熱可塑性樹脂層の代わりに糊化した澱粉や、酢酸ビニル系樹脂などのエマルジョン系接着剤等を含む水系の接着剤を用いて紙層どうしの接着を行う場合には、高湿度環境下で接着層が吸湿してしまうことに加えて、接着剤溶液中に残留する導電性物質の存在により、電気絶縁性が大きく低下してしまう。
【0026】
本発明においては、紙基材層間に熱可塑性樹脂を溶融押出ラミネートすることで、湿度により物性が変化しない絶縁接着層が形成され、高湿度環境下でも高い電気絶縁性を維持できる。なお必要に応じて、内層となる熱可塑性樹脂層を上記の押出サンドラミネーション工程を繰り返すことにより複数形成し、5層を超える積層体とすることも可能である。
【実施例】
【0027】
以下実施例を示して本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0028】
<実施例1>
質量部数で50部のLBKPと50部のNBKPを混合し、カナダ標準ろ水度が480mlとなるようにパルプの叩解を行った。対絶乾パルプ当たり0.7質量%となるようにロジン系サイズ剤(商品名:サイズパインE−50、荒川化学工業(株)製)を添加するとともに、スラリーのpHが4.5となるように硫酸バンドを添加した後、長網抄紙機にて厚さ480μm、密度0.79g/cmの原紙を抄紙した。該原紙の片面に、押出機にて溶融した低密度ポリエチレン(商品名:LC602A、日本ポリエチレン社製)を膜厚25μmでラミネート加工し、最外層樹脂層を形成した。該ラミネート紙の非ラミネート面同士を、押出機にて溶融した融点107℃の低密度ポリエチレン(商品名:LC602A、日本ポリエチレン社製)を結合剤として膜厚25μmでサンドラミネートすることで内層樹脂層を形成し、電気絶縁紙を作製した。
【0029】
<実施例2>
叩解を調節し、パルプ繊維のカナダ標準ろ水度を420mlとした以外は実施例1と同様に電気絶縁紙を作製した。
【0030】
<実施例3>
叩解を調節し、パルプ繊維のカナダ標準ろ水度を580mlとした以外は実施例1と同様に電気絶縁紙を作製した。
【0031】
<実施例4>
最外層樹脂層および内層樹脂層の膜厚を15μmとした以外は実施例1と同様に電気絶縁紙を作製した。
【0032】
<実施例5>
最外層樹脂層および内層樹脂層に、押出機にて溶融した融点164℃のポリプロピレン(商品名:PHA03A、サンアロマー(株)製)を使用した以外は実施例1と同様に電気絶縁紙を作製した。
【0033】
<実施例6>
最外層樹脂層および内層樹脂層に、押出機にて溶融した融点236℃のポリメチルペンテン(商品名:TPX DX820M、三井化学(株)製)とした以外は実施例1と同様に電気絶縁紙を作製した。
【0034】
<比較例1>
質量部数で50部のLBKPと50部のNBKPを混合し、カナダ標準ろ水度が480mlとなるようにパルプの叩解を行い、サイズ剤を添加せずに厚さ480μm、密度0.79g/cmのクラフト紙を抄造した。2枚の該クラフト紙の片面に、溶融した融点107℃の低密度ポリエチレン(商品名:LC602A、日本ポリエチレン社製)を押出機を用いて25μmの膜厚でラミネート加工し、最外層樹脂層を形成した。該ラミネート紙の非ラミネート面同士を、押出機にて溶融した融点107度の低密度ポリエチレン(商品名:LC602A、日本ポリエチレン社製)を結合剤として25μmの膜厚でサンドラミネートすることで内層樹脂層を形成し、電気絶縁紙を作製した。
【0035】
<比較例2>
クラフト紙を抄造する際、パルプ繊維の質量100部に対して対絶乾パルプ当たり0.4質量%となるようにアルキルケテンダイマー系サイズ剤(商品名:サイズパインK−278、荒川化学工業(株)製)を添加した以外は、実施例1と同様に電気絶縁紙を作製した。
【0036】
<比較例3>
叩解を調節し、パルプ繊維のカナダ標準ろ水度を350mlとした以外は実施例1と同様に電気絶縁紙を作製した。
【0037】
<比較例4>
NBKPのみを使用した上で叩解を調節し、パルプ繊維のカナダ標準ろ水度を650mlとした以外は実施例1と同様に電気絶縁紙を作製した。
【0038】
<比較例5>
最外層樹脂層を形成しなかったこと以外は実施例1と同様に電気絶縁紙を作製した。
【0039】
<比較例6>
実施例1と同様の方法でクラフト紙を抄紙した。該クラフト紙2枚に対して、押出機を用いて溶融した融点107℃の低密度ポリエチレン(商品名:LC602A、日本ポリエチレン社製)を25μmの厚さで片面ラミネート加工し、最外層樹脂層を形成した。2枚のうち1枚の該片面ラミネート紙の非ラミネート面に、水性の酢酸ビニル系接着剤(商品名:リカボンドBE−802、中央理科工業(株)製)をコイルバーにて固形分15g/mになるよう塗工し、直ちに該塗工面ともう1枚の片面ラミネート紙の非ラミネート面を重ね合わせ、両最外層がラミネート層となる貼合紙を作製した。該貼合紙を105℃の送風乾燥機で2時間乾燥させ、電気絶縁紙を作製した。
【0040】
<比較例7>
最外層樹脂層に融点164℃のポリプロピレン(商品名:PHA03A、サンアロマー(株)製)を使用した以外は比較例6と同様に電気絶縁紙を作製した。
【0041】
<比較例8>
最外層樹脂層に融点236℃のポリメチルペンテン(商品名:TPX DX820M、三井化学(株)製)を使用した以外は比較例6と同様に電気絶縁紙を作製した。
【0042】
<比較例9>
最外層樹脂層を融点107℃の低密度ポリエチレン(商品名:LC602A、日本ポリエチレン社製)とし、非ラミネート面の接着に糊化澱粉(商品名:MS3600、日本食品化工社製)を用いた以外は比較例6と同様に電気絶縁紙を作製した。
【0043】
上記の実施例及び比較例に示した絶縁紙の各特性を評価した。各特性の評価は、以下の方法で実施した。得られた結果を表1に示す。
【0044】
(1)絶縁性
指標に体積抵抗率(Ω・cm)を用いた。サンプルを10cm角に切り出し、105℃に設定した乾燥機中で6時間乾燥させ、紙中の水分を除去した。乾燥機から取り出した直後に表面抵抗率計(Hiresta−UP MCP−HT450、三菱化学社製)および測定プローブ(UR−100、 三菱化学社製)を用いて印加電圧500V、測定時間60秒の条件で体積抵抗率を測定した。その後、該サンプルを環境温度50℃、相対湿度90%環境下に調整した環境試験機内に48時間置き、十分に吸湿させた。環境試験機から取り出した直後に電気抵抗率測定器を用いて同条件にて体積抵抗率を測定した。体積抵抗率は数値が大きいほど好ましく、特に環境温度50℃、相対湿度90%環境下で調整したサンプルの体積抵抗率が1.0×1014以上であることが好ましい。
【0045】
(2)樹脂接着性
サンプルを10cm角に切り出し、環境温度50℃、相対湿度90%環境下に調整した環境試験機内に48時間置き、十分に吸湿させた。環境試験機から取り出し、絶縁紙端部の樹脂層の紙層との剥がれを目視で確認し評価した。
(評価基準)
○:剥離箇所がない
×:剥離箇所がある
【0046】
(3)難燃性
サンプルを2.5cm×8cmにカットし、るつぼに入れた状態で電気炉(EFL11/14B、CARBOLITE社製)を用いて450℃で30秒間加熱し、燃焼状態を目視で確認し評価した。
評価基準
○:炭化するが炎を生じない
×:炎を生じないが赤熱する、または炎を生じる
【0047】
(4)加工適性
作製したサンプルを角度90度に折り曲げ、折線部表面の割れを目視で確認し評価した。また紙層内部で生じるの剥離の有無を確認するため、折線部に対して切り込みが直角になるよう折線部の一部をカッターで切り出し、電子顕微鏡にて断面を観察した。
(評価基準)
○:折部の割れ、および折部で紙層内の剥離が発生しない
△:折部が一部割れる、もしくは折部で紙層内の剥離が一部生じる
×:折部が完全に割れる、もしくは折部において紙層が完全に剥離する
【0048】
【表1】

【0049】
以上の結果から明らかな通り、比較例では50℃/90%RHでの体積抵抗率、難燃性および加工適性のいずれかが劣るのに対して、本発明による実施例の場合は、ロジン系サイズ剤を含有した紙を用いて最外層および内層に熱可塑性樹脂層を設けた構成とすることで、脱イオン水を使用しない公知の抄紙機で製造される紙を用いても、樹脂による含浸の必要なく、電気絶縁性、耐熱性および加工性に優れ、特に高湿度環境下でも優れた電気絶縁性を有するセルロース系電気絶縁紙を得ることが出来た。
【符号の説明】
【0050】
1 熱可塑性樹脂層(最外層)
2 紙層
3 熱可塑性樹脂層(内層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、3層の熱可塑性樹脂層と2層の紙層とが交互に積層されてなり、かつ両最外層が熱可塑性樹脂層である電気絶縁紙であって、前記熱可塑性樹脂層は溶融押出ラミネート法によって紙層上に形成された層であり、前記紙層は、カナダ式標準ろ水度が400ml〜600mlのパルプ繊維から形成されるとともにロジン系サイズ剤を含有することを特徴とする電気絶縁紙。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂層は、融点が250℃以下である熱可塑性樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の電気絶縁紙。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂層の厚さは10μm〜80μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気絶縁紙。

【図1】
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