説明

電池用セパレータ

【課題】本発明は、多孔質フィルム、特には乾式法により多孔化されたポリオレフィン多孔質フィルムの吸液速度を向上させ、かつ安全性の高い電池用セパレータを提供することを目的とする。
【解決手段】多孔質フィルムと、この多孔質フィルムの少なくとも一方の面に積層された不織布とを有する電池用セパレータであって、前記多孔質フィルムは、150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層を有し、前記不織布は、目付け重量が5g/m以上かつ30g/m以下で、主体として構成する繊維の最大繊維径が3μm以上で20μm以下の範囲であり、前記多孔質フィルムの平均膜厚をaμm、前記不織布の平均膜厚をbμmとしたとき、膜厚比a/bの値が1以上10以下であることを特徴とする電池用セパレータ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電池用セパレータや電解コンデンサー隔膜として有用なポリオレフィン多孔質フィルムと不織布の複合セパレータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電池用セパレータや電解コンデンサー用隔膜等としてポリオレフィン多孔質フィルムが使用されている。電池を例にとると、高エネルギー密度、高起電力、自己放電の少ないリチウム電池のような非水電解液電池、特にリチウムイオン二次電池が開発、実用化されている。リチウム二次電池の構成材料であるセパレータの役割は、正負両極の短絡を防止しつつ、非水電解液を保持することにある。現在以下のような種々のポリオレフィン多孔質フィルムが提案されている。
【0003】
ポリオレフィン多孔質フィルムの多孔化方法には大別して乾式法(延伸法)と湿式法(抽出法)とがある、湿式法は熱可塑性樹脂に充填剤や可塑剤を配合した樹脂組成物を押出してフィルムを製造し、その後フィルムから充填剤や可塑剤を抽出して多孔化して、多孔質フィルムを得る方法であるが、この方法では充填剤や可塑剤の配合や抽出を必要とし、微細で均一な孔径を有する多孔質フィルムにするためには操作工程が複雑化するだけでなく、抽出液の処理等の問題がある。これに対して乾式法は、熱可塑性樹脂を押出した後に延伸多孔化する方法で製造されるため、工程が簡素で抽出液処理を必要としない。
【0004】
前記方法により得られた多孔質フィルムを使用した電池用セパレータとして各種のものが提案されているが、近年では電気自動車や電力貯蔵用定置型電池に代表される大型のリチウムイオン二次電池用セパレータの要求特性として、電解液吸液速度の向上と内部短絡発生時の安全性確保が重視されている。
【0005】
特許文献1に示すようなポリオレフィン多孔質フィルムでは、内部短絡発生時や過充電時の安全性確保のためにシャットダウン機能を有するものの、ポリオレフィン樹脂自体が疎水性であるために電解液の吸液速度が遅く、電解液の注液工程に長時間を要する。特に近年、電池の大型化に伴い、吸液速度向上の要求が高まっている。このため電池用セパレータの電解液吸液速度を向上させ、注液工程の短縮が求められている。
【0006】
電池用セパレータの親水化方法として特許文献2には、化学的に親水化する技術についての開示があるが、中和・洗浄・乾燥工程が必要である為、大きなコストアップに繋がり好ましくない。また、特許文献3には、コロナ放電処理等による親水化する技術が記載されているが、ポリオレフィン多孔質フィルムにコロナ放電処理を施した直後であれば、フィルム表面は親水化されるが、時間の経過とともに親水化効果は低下していくことが知られている。
【0007】
また、特許文献4には、溶融液晶性ポリエステル繊維から形成された不織布とオレフィン系微多孔膜とが重なって接合しているセパレータが記載されているが、電解液吸液速度は考慮されておらず、さらに改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−307146号公報
【特許文献2】特開2001−11764号公報
【特許文献3】特開2000−299096号公報
【特許文献4】特開2009−76350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述のような状況を鑑みてなされたもので、多孔質フィルム、特には乾式法により多孔化されたポリオレフィン多孔質フィルムの吸液速度を向上させ、かつ安全性の高い電池用セパレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定範囲の目付け重量を有する不織布であって、さらにその不織布を主体として構成する繊維の最大繊維径が特定の範囲にある不織布と、多孔質フィルムを一定比率の膜厚で積層一体化することにより、更に優れた安全性を発揮し、吸液速度の優れた電池用セパレータが得られることを見出した。
【0011】
本発明は、多孔質フィルムと、この多孔質フィルムの少なくとも一方の面に積層された不織布とを有する電池用セパレータであって、前記多孔質フィルムは、150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層を有し、前記不織布は、目付け重量が5g/m以上かつ30g/m以下で、主体として構成する繊維の最大繊維径が3μm以上で20μm以下の範囲であり、前記多孔質フィルムの平均膜厚をaμm、前記不織布の平均膜厚をbμmとしたとき、膜厚比a/bの値が1以上10以下であることを特徴とする電池用セパレータに関する。ここで主体として構成する繊維とは、前記不織布繊維において50重量%を超えて含有されている繊維を意味する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の電池用セパレータは、多孔質フィルムおよび目付け重量と主体として構成する繊維の最大繊維径を制御した不織布とを積層する事により、電解液の吸液速度向上と耐熱性向上の効果が得られる。吸液速度の向上は多孔質フィルム層と不織布層の層間における毛細管現象により発現するものと考えられる。また、多孔質フィルムが、150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層を有することで、その溶融温度まで多孔質膜の熱収縮が抑制され、溶融後は、ポリマーが不織布の空隙を閉塞させ、さらに高温で形状維持されることにより耐熱性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】複合セパレータ及びポリオレフィン多孔質フィルムの無孔化挙動の温度特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のセパレータは、前述のとおり、多孔質フィルムと、この多孔質フィルムの少なくとも一方の面に積層された不織布とを有する。
【0015】
セパレータの無孔化温度は、高すぎると内部短絡発生時の安全性確保が困難になり、低すぎると通常使用範囲での温度領域で無孔化する可能性があるため電池の利便性を損なう。このため、電池の特性、使用環境に合わせて設定されるが、特定の用途において無孔化温度は130〜140℃となるように設定されることが好ましい。また、本発明のセパレータの無孔化維持温度は、従来の多孔質フィルムのみからなるセパレータの温度を上回るが、高い温度まで無孔化を維持するには、多孔質フィルム単独でも、170℃以上の無孔化維持温度を有することが好ましい。
【0016】
このような特性を満たすために、本発明の多孔質フィルムは、150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層を有し、好ましくは積層多孔質フィルムであり、好ましくは、150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層と120℃〜140℃の範囲に融点を有する熱可塑性ポリマーの層とを有する。
【0017】
多孔質フィルムは、好ましくはポリオレフィン系材料から構成される。150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層は、ポリプロピレン(PP)で形成され、120℃〜140℃の範囲に融点を有する熱可塑性ポリマーの層は、ポリエチレン(PE)で形成されることが好ましい。最も好ましくは、PP/PE/PPの順に積層された多孔質フィルムである。
【0018】
多孔質フィルムの膜厚は、使用される電池の種類にもよるが、一般的には10〜100μmが好ましく、さらに好ましくは15〜60μmである。
【0019】
また、多孔質フィルムは、製造条件によっても多少異なるが、適切な通気度(ガス透過速度)を有することが必要であり、通常、ガーレー値100〜1000秒/100cc、好ましくは150〜600秒/100ccの範囲を有することが好ましい。ガーレー値が高すぎると電池用セパレ−タとして使用したときの機能が十分でなく、ガーレー値が低いフィルムは生産速度が低下する。
【0020】
多孔質フィルムには電池セパレータとしての性能を損なわない程度において、着色剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、老化防止剤、酸化防止剤等に代表される樹脂添加剤、接着剤及び無機物からなる補強剤が含まれても良い。
【0021】
本発明に用いられる多孔質フィルムの製造方法は、特に限定されないが、ポリオレフィン積層多孔質フィルムの場合、特に乾式延伸法により製造されることが好ましく、具体的には特許文献1または特開平4−181651号公報等の公知の方法で製造することができる。
【0022】
本発明に用いられる不織布としては、目付け重量が5g/m以上が好ましい。目付け重量がこの範囲より外れると、電池が発熱してポリオレフィン多孔質フィルムが溶融した際にシャットダウン機能発現後に再短絡を生じる可能性が大きくなるため、上記範囲が好適である。また、目付け重量は、通常、30g/m以下である。
【0023】
また、不織布を主体として構成する繊維の最大繊維径が20μm以下であることが好ましい。最大繊維径が20μmを超えると不織布の膜厚が厚くなり、電池用セパレータとして厚くなりすぎてしまう為適さない。ここで、「主体として構成する」とは、前述のとおり、不織布繊維に50重量%を超えて含有されている繊維を意味する。また、主体として構成する繊維の最大繊維径は、3μm以上が好ましい。最大繊維径が3μm未満であると不織布の膜厚低下と強度低下が生じ、抄造工程及び積層工程におけるハンドリングが困難になり、電池用セパレータを安定的に製造することが困難になり好ましくない。
【0024】
また、当該の不織布は電池における内部短絡発生時の安全性確保の観点より、不織布を構成する繊維が、210℃以上の融点を有する繊維および210℃以下で熱分解が生じない繊維からなる群より選ばれることが好ましい。この条件を満たす繊維としては、セルロース、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、全芳香族ポリエステル、ガラス等が挙げられる。特に、セルロース繊維を含有することが好ましく、特には、主体として構成する繊維がセルロース繊維であることが好ましい。不織布の生産性及び膜厚均一性、材料コストの面からセルロース繊維とPET繊維から成る不織布が好適である。
【0025】
本発明における不織布は、ウェブを構成する繊維として短繊維あるいは長繊維のいずれを用いてもよく、また、汎用的な製造方法にて形成される。製造方法としては、例えば、カード機などを用いて合成樹脂などを解繊してシート状にするカーディングや、解繊した繊維を空気流によりシート状にするエアレイなど、或いは、繊維を水中に均一に分散しこれをワイヤー上に流してシート状にしてから脱水・乾燥する抄紙法など、更に、紡糸した連続糸を拡げて集積してウェブ状にするスパンボンド法や、紡糸機から出た連続糸を熱風により吹き飛ばした後コンベア上に集めてウェブ状にするメルトブロー法などが挙げられる。また上記方法を組み合わせた方法などのいずれの方法でもよく、複数の製法により製造された不織布が複合されたものであってもよい。さらに、ウェブを接着あるいは絡み合わせる方法としても、接着剤又は熱融着繊維を混合してウェブ中の繊維を接着させる化学的接着法、カレンダー法、エアースルーヒーティング法などの熱的接着法、ニードルパンチ法、水流交絡法、ステッチボンド法などの機械的接着法などのいずれの方法を用いても良い。
【0026】
また、本発明の不織布の繊維には、本発明の目的を損なわない範囲で、他の常用の各種添加成分、例えば、結晶核剤、着色防止剤、酸化防止剤、離型剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、あるいは無機粉末などの添加剤を添加することができる。さらに、不織布の繊維の断面は、円形や楕円形、三角や四角等の多角形、扁平や中空等の異型断面形状でもよい。
【0027】
本発明に用いられる不織布の製造方法の例として、抄紙法について説明する。先ず、繊維を水に分散する。均一に分散させるため、パルパーやアジテータのような分散装置や、超音波分散装置を用いる。次に、一般的な叩解機であるボールミル、ビーター、ランペルミル、PFIミル、SDR(シングルディスクリファイナー)、DDR(ダブルディスクリファイナー)、高圧ホモジナイザー、ホモミクサー、あるいはその他のリファイナー等を使用して叩解する。得られた繊維の分散体を、長網式、短網式、円網式、傾斜式などの湿式抄紙機を適用して抄造し、連続したワイヤーメッシュ状の脱水パートで脱水する。更に、重ね抄き合わせした後、多筒式やヤンキー式ドライヤー等の乾燥パートを通すことによって、本発明の不織布を得ることができる。抄紙法は、セルロース繊維を含有する不織布の製造に適しており、2種以上の繊維を含むときに、繊維の分布が均一になり易い点でも好適である。
【0028】
多孔質フィルムの平均膜厚をaμm、不織布の平均膜厚をbμmとしたとき、膜厚比a/bの値が1≦a/b≦10となることが好ましく、特に好ましくは1.5≦a/b<5である。これは本発明における不織布は多孔質フィルムよりも空隙が多いために、不織布自身の電解液保液量が多いことに起因する。つまり膜厚比a/bの値が1より小さいと、相対的に不織布が厚くなり、電池セパレータとしての総膜厚が厚くなりすぎてしまう。それにより、余分に電解液の注液量が増加し、電池製造コストの増加の一因となる。さらに注液量が不足した場合は電池性能の低下を招き好ましくない。また、膜厚比a/bの値が10より大きいと、不織布を薄くすることが困難になる為、相対的に多孔質フィルムの膜厚が増大して電池用セパレータとして適切な膜厚とならない。
【0029】
不織布は、多孔質フィルムの150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層に接して積層されることが好ましい。例えば、PPとPEの積層多孔質フィルムの場合には、PPに接して不織布が積層され、PP/PE/PPの3層構造の多孔質フィルムであれば、当然にPPに接して不織布が積層される。
【0030】
本発明のセパレータは、少なくとも1枚の多孔質フィルムと1枚の不織布が積層されていればよいが、用途によっては、多孔質フィルムの両面に不織布が積層された構造、不織布の両面に多孔質フィルムが積層された構造等であってもよい。
【0031】
多孔質フィルムと不織布の積層方法は、特に限定されず、使用されるフィルムおよび繊維の材料に合わせて、適宜選択することができる。ポリオレフィン多孔質フィルムと、セルロース繊維を主体とする不織布とを積層する場合には、例えば接着剤を使用して積層することができる。
【0032】
本発明において、平均膜厚、ガーレー値、不織布の最大繊維径、目付け重量、接着剤塗布量、吸液速度、保液量、無孔化温度、無孔化維持温度は以下の方法によって評価を行った。
【0033】
(1)ガーレー値
JIS P8117に準じて測定した。測定装置として、B型ガーレーデンソメーター(東洋精機社製)を使用した。試料片を直径28.6mm、面積645mmの円孔に締め付ける。内筒重量567gにより、筒内の空気を試験円孔部から筒外へ通過させる。空気100ccが通過する時間を測定し透気度(ガーレー値)とした。
【0034】
(2)平均膜厚
膜厚測定器として、電子マイクロメータミリトロン1202D(mahr社製)を使用した。試験片膜厚を20点測定して、20点の平均値を平均膜厚とした。
【0035】
(3)不織布の最大繊維径
不織布の最大繊維径[μm]は電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)により任意の5箇所を観察し、主体として構成する繊維の最も太い繊維の径を測定する。同様に5箇所別々の視野で測定を行い、その中で最も太い繊維の繊維径を不織布の最大繊維径とした。
【0036】
(4)目付け重量
不織布、多孔質フィルム、作成された複合セパレータそれぞれについて、一辺が200mmの正方形に試験片を切り出し、試験片重量を天秤により重量を測定した。そして以下の式1により各試験片の目付け重量を算出した。
【0037】
(式1)
[目付け重量 g/m]=[試験片重量 g]/[試験片面積 0.04m
【0038】
(5)接着剤塗布量
接着剤塗布量[g/m]は前述の方法により算出した複合セパレータの目付け重量から当該複合セパレータの作成に使用した不織布と多孔質フィルムの目付け重量を差引いた値とした。
【0039】
(6)吸液速度
吸液速度測定用の試料片を幅30mm長さ60mmに切り出して、試料片の長手方向の一端から5mmを試験液に浸す。試験液としてプロピレンカーボネート(東京化成工業株式会社製 純度98%以上)を使用した。浸漬から2分後の試験片を取り出し、浸漬した側の一端から液が染込んで濡れた長さを吸液高さhとした。そして吸液速度を以下の式2により算出した。
【0040】
(式2)
[吸液速度 mm/min]=[吸液高さh mm]/[吸液時間 2min]
【0041】
(7)保液量測定
保液量測定用の試験片を幅50mm、長さ50mmに切り出し、試験液に10分間浸漬した。10分後試験片を引き上げ、試験片の余分な試験液をウェスで拭き取った。浸漬前後の重量変化から単位面積当たりの保液量を式3より算出した。試験液として25℃で密度0.87g/cmの流動パラフィンを用いた。
【0042】
(式3)
[保液量 g/m]=[浸漬後重量−浸漬前重量 g]/[試験片面積 m
【0043】
(8)無孔化温度と無孔化維持温度の測定
無孔化特性評価として、電気抵抗測定用セルを用いて、電気抵抗の温度依存性を測定した。電気抵抗測定用セルは対となる電極面積が2.0cmであるニッケル製電極を使用した。測定用セルに電解液に濡らしたセパレータ試料片を挟み、セラミックヒーターを用いて10℃/minで昇温した。電極間抵抗は抵抗測定装置:LCRハイテスタ(日置電気(株)製)を用いて、測定周波数1kHzの条件で行った。測定に用いた電解液は、体積比でプロピレンカーボネート(PC)とジエチルカーボネート(DEC)をPC/DEC=3/7で混合溶媒を調製し、前記混合溶媒に対し、1mol/Lの濃度になるように六フッ化燐酸リチウムを溶解し、電解液とした。このとき、電気抵抗が1000Ωに達した温度を無孔化温度とした。また、無孔化温度後も200℃まで昇温を続けて、再短絡が生じるかを確認し、再短絡が生じた温度を無孔化維持温度とした。
【実施例】
【0044】
<実施例1>
ポリオレフィン製多孔質フィルムとして、融点が161℃のポリプロピレン(PP)と融点が132℃のポリエチレン(PE)がPP/PE/PPの順に積層され、乾式延伸法により多孔化された多孔質フィルムを使用した。この多孔質フィルムは、平均膜厚が16.3μm、JIS P8117に準じて測定したガーレー値が310秒/100ccであった。
【0045】
不織布として、セルロース繊維が70重量部とPET繊維30重量部からなり、平均膜厚が10.5μm、目付け重量5.8g/m、主体として構成するセルロース繊維の最大繊維径範囲が15.5μmの不織布を使用した。
【0046】
ポリオレフィン多孔質フィルムと不織布をSBRエマルジョンにより接着して積層した。90℃の乾燥オーブンで積層したポリオレフィン多孔質フィルムと不織布を30分間熱乾燥させることでポリオレフィン製多孔質フィルムと不織布が積層一体化した複合セパレータを得た。前記接着剤として、樹脂成分濃度が48.5%で水素イオン指数pHが7.3、B型回転式粘度計を用いて測定された25℃の粘度が51mPa・sであるSBRエマルジョンを純水により樹脂成分濃度7%に希釈して使用した。また、接着剤は熱乾燥後の接着剤塗布量が約1.5g/mになるように塗布した。
【0047】
前記複合セパレータの平均膜厚は30.7μm、ガーレー値が335秒/100cc、ポリオレフィン多孔質フィルムの平均膜厚をaμm、不織布の平均膜厚をbμmとしたとき、膜厚比a/bの値は1.55であった。この複合セパレータを用いて、吸液速度・保液量・無孔化温度と無孔化維持温度の測定を実施した。結果を表1、2に示す。また、無孔化挙動の温度特性を図1に示す。
【0048】
<比較例1>
不織布を貼り合せずに、実施例1記載のポリオレフィン多孔質フィルム単独の試験を、融点が133℃のポリエチレン製の多孔質フィルムを用いて実施した。結果を表1,2及び図1に示す。
【0049】
<比較例2>
不織布として、セルロース繊維が70重量部とPET繊維30重量部からなり、平均膜厚が21.0μm、目付け重量11.7g/m、主体として構成する繊維の最大繊維径が16.5μmである不織布を使用した以外は実施例1と同様にして複合セパレータを得た。この複合セパレータの平均膜厚は43.2μm、ガーレー値が323秒/100cc、膜厚比a/bの値は0.78であった。試験結果を表1、2に示す。
【0050】
<比較例3>
ポリオレフィン多孔質フィルムとして、平均膜厚が25.2μm、ガーレー値が592秒/100ccである湿式法により多孔化されたPE単層膜を使用した。PE単層膜を用いた以外は実施例1と同様にして複合セパレータを得た。この複合セパレータの平均膜厚は40.4μm、ガーレー値が780秒/100cc、膜厚比a/bの値は2.40であった。試験結果を表1、2及び図1に示す。
【0051】
<比較例4>
不織布として、セルロース繊維が70重量部とPET繊維30重量部からなり、平均膜厚が10.0μm、目付け重量4.7g/m、主体として構成する繊維の最大繊維径が14.5μmの不織布を使用した以外は実施例1と同様にして複合セパレータを得た。この複合セパレータの平均膜厚は30.8μm、ガーレー値が400秒/100cc、膜厚比a/bの値は1.63であった。試験結果を表1、2及び図1に示す。
【0052】
表1、2と図1の結果から明らかなように実施例1に示した本発明のセパレータは、透気性を損なうこと無く、吸液速度の大幅な向上が確認された。また、無孔化特性を損なうことなく無孔化維持温度の向上が確認された。
【0053】
比較例2で示される結果より、膜厚比a/bの値が1より小さいと、吸液速度に優れるが、保液量は過剰に増加するためコストアップの要因となると思われる。また、無孔化特性は実施例1と同等であるため、比較例2は実施例1よりも優れた特性は認められない。
【0054】
比較例3で示される結果より、ポリオレフィン多孔質フィルムとして湿式法により多孔化されたPE単層品を使用した場合には、PP/PE/PPからなる三層セパレータより無孔化維持温度が低い為、電池用セパレータとして安全性が低いと判断される。
【0055】
比較例4で示される結果より、不織布として目付け重量が5g/m以下のものを積層した場合、無孔化維持温度が低下した。原因は明らかでないが、不織布の目付け重量が低下すると空隙が多くなり、溶融したポリオレフィン多孔質フィルムが不織布の空隙を閉塞しきれなくなる為と考えられる。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のセパレータは、安全性が高く、且つ電解液の吸液速度が向上している。このため、電池用、例えばリチウムイオン二次電池用のセパレータとして、有利に使用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質フィルムと、この多孔質フィルムの少なくとも一方の面に積層された不織布とを有する電池用セパレータであって、
前記多孔質フィルムは、150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層を有し、
前記不織布は、目付け重量が5g/m以上かつ30g/m以下で、主体として構成する繊維の最大繊維径が3μm以上で20μm以下の範囲であり、
前記多孔質フィルムの平均膜厚をaμm、前記不織布の平均膜厚をbμmとしたとき、膜厚比a/bの値が1以上10以下であること
を特徴とする電池用セパレータ。
【請求項2】
前記多孔質フィルムが、150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層と、120℃から140℃の範囲に融点を有する熱可塑性ポリマーの層とを有する積層多孔質フィルムであることを特徴とする請求項1記載の電池用セパレータ。
【請求項3】
前記多孔質フィルムが、乾式延伸法により製造されていることを特徴とする請求項1または2記載の電池用セパレータ。
【請求項4】
前記150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層が、ポリプロピレン層であり、前記120℃から140℃の範囲に融点を有する熱可塑性ポリマーの層がポリエチレン層であり、前記ポリプロピレン層が前記不織布と接して積層されていることを特徴とする請求項2記載の電池用セパレータ。
【請求項5】
前記不織布を構成する繊維が、210℃以上の融点を有する繊維および210℃以下で熱分解が生じない繊維からなる群より選ばれることを特徴とする請求項1記載の電池用セパレータ。
【請求項6】
前記不織布を構成する繊維が、セルロース、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、全芳香族ポリエステル、およびガラスからなる群より選択される1種類以上の繊維であることを特徴とする請求項5記載の電池用セパレータ。
【請求項7】
前記不織布を主体として構成する繊維が、セルロース繊維であることを特徴とする請求項5記載の電池用セパレータ。
【請求項8】
前記不織布が、セルロース繊維およびポリエチレンテレフタレート繊維から構成されることを特徴とする請求項5記載の電池用セパレータ。
【請求項9】
前記不織布を主体として構成する繊維が、セルロース繊維であることを特徴とする請求項8記載の電池用セパレータ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−210680(P2011−210680A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−79451(P2010−79451)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000153591)株式会社巴川製紙所 (457)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】