説明

電池電極用バインダー

【課題】主に二次電池の分野で、結着力が良好で、かつ電極に塗工欠陥を作りにくいバインダーを用いることで、放電性能、充放電サイクル特性などの良好な電池の提供。
【解決手段】脂肪族共役ジエン20〜40重量%、(メタ)アクリル酸エステル2〜30重量%、エチレン性不飽和カルボン酸0.1〜10重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体20〜77.9重量%から構成される単量体を乳化重合して得られる共重合体ラテックスであって、上記エチレン性不飽和カルボン酸のうち、エチレン性不飽和ジカルボン酸の使用量をA(重量%)、エチレン性不飽和モノカルボン酸の使用量をB(重量%)とした場合、A/B>3(ただし、B≠0)である電池電極用バインダーとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は充放電サイクル特性に優れた二次電池電極用バインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型がますます進んでいる。リチウムイオンを吸蔵放出する導電性炭素質材料を電極に用いたリチウムイオン二次電池や、水素吸蔵合金を負極に用いるニッケル水素電池などは、軽量でエネルギー密度が大きいというその特徴から、小型電子機器の電源として重要性が増している。これらの二次電池電極は、いずれも活物質を金属基材上に塗布した構造を持ち、活物質を金属基材に接着する結着剤として通常、ポリマーバインダーが利用されている。このポリマーバインダーには、活物質との接着性、電気化学的な環境下での安定性などが求められる。リチウムイオン電池の場合、従来から、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系のポリマーがこの分野に利用されているが、電極膜を形成した際に導電性を阻害し、集電体と電極膜間の接着強度が不足するなどの問題点がある。また、フッ素系のポリマーを還元条件となる負極に用いた場合は安定性が十分でなく、二次電池のサイクル性が低下するなど問題点もあり、これらの問題点の改良が望まれている。このため、非フッ素系ポリマーの開発が行われている。たとえば特開平5−74461号(特許文献1)や特開平11−25989号公報(特許文献2)には特定組成のジエン系のポリマーが記載されているが、上記の問題点の解決には十分でなく、更なる改善が求められていた。
【特許文献1】特開平5−74461号
【特許文献2】特開平11−25989号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、主に二次電池の分野で、結着力が良好、かつ電極に塗工欠陥を作りにくいバインダーを用いることで、放電性能、充放電サイクル特性などの良好な電池を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前述の諸事情に鑑み鋭意検討した結果、電池電極用バインダーに使用されるエチレン性不飽和カルボン酸系単量体として、エチレン性不飽和ジカルボン酸系単量体とエチレン性不飽和モノカルボン酸系単量体を特定比率で使用することにより、化学的安定性が高く、塗工欠陥の少ない、かつ、結着強度に優れた電極が得られ、その結果として、充放電サイクル特性などの電気特性の良好な電池が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0005】
すなわち本発明は、脂肪族共役ジエン系単量体20〜40重量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体2〜30重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0.1〜10重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体20〜77.9重量%から構成される単量体を乳化重合して得られる共重合体ラテックスであって、上記エチレン性不飽和カルボン酸系単量体のうち、エチレン性不飽和ジカルボン酸系単量体の使用量をA(重量%)、エチレン性不飽和モノカルボン酸系単量体の使用量をB(重量%)とした場合、A/B>3(ただし、B≠0)であることを特徴とする電池電極用バインダーを提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の電池電極用バインダーを用いることによって、化学的安定性が高く、塗工欠陥の少ない、かつ、結着強度に優れた電極が得られ、その結果として、充放電サイクル特性などの電気特性の良好な電池を得ることが可能となり、極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に本発明について詳しく説明する。
本発明における共重合体ラテックスの単量体組成は、脂肪族共役ジエン系単量体20〜40重量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体2〜30重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0.1〜10重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体20〜77.9重量%から構成される。
【0008】
脂肪族共役ジエン系単量体としては、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特に1,3−ブタジエンが好ましい。
【0009】
脂肪族共役ジエン系単量体は全単量体中、20〜40重量%の範囲で使用されることが必要である。脂肪族共役ジエン系単量体が20重量%未満ではバインダーとしての性質を呈さず、好ましくない。一方、脂肪族共役ジエン系単量体が40重量%を越えるとバインダーが活物質の表面を必要以上に覆ってしまい、内部抵抗が大きくなるので好ましくない。より好ましくは22〜38重量%である。
【0010】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体としては、例えばメチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特にメチルメタクリレートが好ましい。
【0011】
(メタ)アクリル酸エステル系単量体は全単量体中、2〜30重量%の範囲で使用されることが必要である。(メタ)アクリル酸エステル系単量体が2重量%未満ではバインダーとしての性質を呈さず、好ましくない。一方、(メタ)アクリル酸エステル系単量体が30重量%を越えると共重合体の重合安定性が低下するため好ましくない。好ましくは5〜25重量%、さらに好ましくは10〜20重量%である。
【0012】
本発明にて使用されるエチレン性不飽和カルボン酸系単量体のうち、エチレン性不飽和ジカルボン酸系単量体としては、例えばイタコン酸、フマル酸、マレイン酸などが挙げられる。これらは1種単独で、あるいは2種以上を併用することも可能である。
また、エチレン性不飽和モノカルボン酸系単量体としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。これらも1種単独で、あるいは2種以上を併用することも可能である。
これらのエチレン性不飽和カルボン酸系単量体は0.1〜10重量%の範囲で使用されることが必要である。エチレン性不飽和カルボン酸系単量体が0.1重量%未満では共重合体の化学的安定性が劣り、好ましくない。一方、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体が10重量%を越えると共重合体の粘度が高くなり、取り扱いが困難となるので好ましくない。好ましくは0.3〜7重量%、さらに好ましくは0.5〜5重量%である。
【0013】
本発明の共重合体ラテックスに使用されるエチレン性不飽和カルボン酸系単量体としては、エチレン性不飽和ジカルボン酸系単量体(重量%)/エチレン性不飽和モノカルボン酸系単量体(重量%)の比率が3を超えることが必要である。エチレン性不飽和ジカルボン酸系単量体(重量%)/エチレン性不飽和モノカルボン酸系単量体(重量%)の比率が3以下では、電極塗料組成物の機械的安定性が劣り、塗工欠陥の原因となる。好ましくは3.1以上である。
【0014】
本発明に使用される共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどシアン化ビニル系単量体、例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、例えば、アクリルアミド、メタクリロアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドなどのエチレン系不飽和カルボン酸アミド系単量体、例えば、酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類、例えば、メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ビニルピリジンなどのエチレン系不飽和アミン系単量体などが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。
【0015】
本発明における共重合体ラテックスのゲル含有量については、60重量%以上であることが必要である。60重量%未満では、目的とする結着力、および電極塗料組成物の化学的安定性が得られない。好ましくは70重量%以上であり、さらに好ましくは80重量%以上である。
【0016】
また、共重合体ラテックスの数平均粒子径については特に制限はないが、好ましくは0.4μm以下である。さらに好ましくは、0.35μm以下であり、最も好ましい共重合体ラテックスの数平均粒子径は、0.05〜0.30μmである。
【0017】
本発明の共重合体ラテックスを乳化重合するに際しては、常用の乳化剤、重合開始剤、還元剤、連鎖移動剤、酸化還元触媒、炭化水素系溶剤、電解質、重合促進剤、キレート剤等を使用することができる。
【0018】
本発明の共重合体ラテックスの製造に使用できる乳化剤としては高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤あるいはポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性界面活性剤が挙げられ、これらを1種又は2種以上使用することができる。特に、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩が好ましい。
【0019】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤を適宜用いることができる。特に過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムの水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイドの油溶性重合開始剤の使用が好ましい。
【0020】
本発明において好ましく用いられる還元剤の具体例としては、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、亜ニチオン酸塩、ニチオン酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアルデヒドスルホン酸塩、ベンズアルデヒドスルホン酸塩、また、L−アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸などのカルボン酸類、更にはデキストロース、サッカロースなどの還元糖類、更にはジメチルアニリン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。特にL−アスコルビン酸が好ましい。
【0021】
本発明の共重合体ラテックスの製造に使用できる連鎖移動剤としては、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、ターピノレンや、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特に、n−オクチルメルカプタンやt−ドデシルメルカプタンが好ましい。これらの連鎖移動剤の量は特に限定されないが、通常、単量体100重量部に対して0〜5重量部にて使用される。
【0022】
また、重合に際してペンテン、ヘキセン、ヘプテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン等の不飽和炭化水素を使用しても良い。特に、沸点が適度に低く、重合終了後に水蒸気蒸留などによって回収、再利用しやすいシクロヘキセンが、本発明の目的とは異なるものの、環境問題の観点から好適である。
【0023】
さらに、共重合体ラテックスには、必要に応じて、老化防止剤、防腐剤、分散剤、増粘剤などを適宜添加することができる。
【0024】
本発明における重合方法は、一段重合、二段重合、多段階重合、シード重合、パワーフィード重合法等何れを採用してもよい。また、本発明の重合方法における各種成分の添加方法についても特に制限されるものではなく、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法の何れも採用することができる。
【0025】
本発明の電池電極用バインダーは正極、負極それぞれの活物質と配合され電池電極用組成物として使用される。活物質の種類は特に限定されないが、例えば、非水電解液二次電池の場合、黒鉛、炭素繊維、樹脂焼成炭素、リニア・グラファイト・ハイブリット、コークス、熱分解気層成長炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン系有機半導体、メソカーボンマイクロビーズ、メソフェーズピッチ系炭素、黒鉛ウィスカー、擬似等方性炭素、天然素材の焼成体、およびこれらの粉砕物などの炭素質材料、MnO2、V2O5などの遷移金属酸化物、LiCoO、LiMnO2、LiNiO2などのリチウムを含む複合酸化物などがあげられ、1種あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0026】
本発明における共重合体ラテックスは、電池電極用バインダーとして使用されるものであり、電極活物質の粒子どうし、および電極活物質と集電体とのバインダーとして作用するものである。その際、該共重合体ラテックスは、導電性炭素質材料100重量部に対して固形分で0.1〜10重量部、好ましくは1〜7重量部の割合で含有することにより電極用組成物として調製することができる。本発明の共重合体ラテックスの配合量が0.1重量部未満では、集電体などに対する良好な接着力が得られず、10重量部を超えると電池として組み立てた際に過電圧が著しく上昇し電池特性に悪影響をおよぼす傾向がある。
【0027】
本発明の電池電極用バインダーを含有する電極用組成物には、必要に応じて、水溶性増粘剤などの各種添加剤が添加されていてもよい。例としてはカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼインなどの水溶性増粘剤、ヘキサメタリン酸ソーダ、トリポリリン酸ソーダ、ピロリン酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダなどの分散剤、ラテックスの安定化剤としてのノニオン性、アニオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0028】
本発明の電極用組成物は、集電体に塗布、乾燥して電池電極として用いるものである。また、本発明の電極用組成物を集電体に塗布する方法としてはリバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法など任意のコーターヘッドを用いることができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できる。乾燥温度は、通常100℃以上で行う。
【0029】
本発明の電池電極用バインダーを用いて作った電池を製造する際に使用される集電体、セパレーター、非水系電解液、端子、絶縁体、電池容器等については既存のものが特に制限無く使用可能である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を変更しない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は重量基準によるものである。また実施例における諸物性の評価は次の方法に拠った。
【0031】
共重合体ラテックスの数平均粒子径測定
数平均粒子径を動的光散乱法により測定した。測定に際しては、大塚電子株式会社製FPAR−1000を使用した。
【0032】
共重合体ラテックスのゲル含有量の測定
室温雰囲気にてラテックスフィルムを作成する。その後ラテックスフィルムを約1g秤量し、これを400ccのトルエンに入れ48時間膨潤溶解させる。その後、これを300メッシュの金網で濾過し、金網に捕捉されたトルエン不溶部を乾燥後秤量し、この重量のはじめのラテックスフィルムの重量に占める割合をゲル含有量として重量%で算出した。
【0033】
<実施例1>
共重合体ラテックス1の作製(本発明例)
耐圧性の重合反応機に、窒素雰囲気下で、表1の添加1に示す各単量体、t−ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマー、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、純水を加えて60度に昇温した後に、過硫酸カリウムを加えて重合を開始した。重合開始から9時間後に重合を停止し、水酸化リチウム水溶液でpHを7に調整した。その後に、90℃にて水蒸気蒸留を15時間行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去して、表3に示す数平均粒子径、ゲル含有量の共重合体ラテックス1を得た。
【0034】
<実施例2>
共重合体ラテックス2の作製(本発明例)
耐圧性の重合反応機に、窒素雰囲気下で、表1の添加1に示す各単量体、t-ドデシルメルカプタン、シクロヘキセン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、純水を加えて50度に昇温した後に、過硫酸カリウムを加えて重合を開始した。重合開始から3時間後に表1の添加2に示す各単量体、t-ドデシルメルカプタン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、純水を添加し、重合反応槽温度を60度に昇温し、重合を継続した。重合開始から12時間後に重合を停止し、水酸化ナトリウム水溶液でpHを7.5に調整した。その後に、90℃にて水蒸気蒸留を15時間行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去して、表3に示す数平均粒子径、ゲル含有量の共重合体ラテックス2を得た。
【0035】
<実施例3>
共重合体ラテックス3の作製(本発明例)
耐圧性の重合反応機に、窒素雰囲気下で、表1の添加1に示す各単量体、n-オクチルメルカプタン、シクロヘキセン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、純水を加えて70度に昇温した後に、過硫酸カリウムを加えて重合を開始した。重合開始から2時間後に表1の添加2に示す各単量体、n-オクチルメルカプタン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、純水を添加し、重合を継続した。さらに重合開始から5時間後に表1の添加3に示す各単量体、n-オクチルメルカプタン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、純水を添加し、重合を継続した。重合開始から9時間後に重合停止剤として表1に示すジエチルヒドロキシルアミンを添加して重合を停止し、水酸化カリウム水溶液でpHを8.0に調整した。その後に、90℃にて水蒸気蒸留を15時間行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去した。さらに、アンモニア水でpHを約8.5に調整して、表3に示す数平均粒子径、ゲル含有量の共重合体ラテックス3を得た。
【0036】
<実施例4>
共重合体ラテックス4の作製(本発明例)
耐圧性の重合反応機に、窒素雰囲気下で、表1の添加1に示す各単量体、t−ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマー、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、純水を加えて30℃に昇温した後に、クメンハイドロパーオキサイド、L−アスコルビン酸を加えて重合を開始した。重合開始から20時間後に重合停止剤として表1に示すジエチルヒドロキシルアミンを添加し、重合を停止し、水酸化リチウム水溶液でpHを7に調整した。その後に、90℃にて水蒸気蒸留を15時間行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去して、表3に示す数平均粒子径、ゲル含有量の共重合体ラテックス4を得た。
【0037】
<実施例5>
共重合体ラテックス5の作製(本発明例)
耐圧性の重合反応機に、窒素雰囲気下で、表1の添加1に示す各単量体、t−ドデシルメルカプタン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルエーテル(花王株式会社製 エマルゲン 109P)、純水を加えて60度に昇温した後に、過硫酸カリウムを加えて重合を開始した。重合開始から9時間後に重合を停止し、水酸化リチウム水溶液でpHを7に調整した。その後に、90℃にて水蒸気蒸留を15時間行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去して、表3に示す数平均粒子径、ゲル含有量の共重合体ラテックス1を得た。
【0038】
<比較例1〜7>
共重合体ラテックス6〜12の作製(比較例)
実施例1と同様、耐圧性の重合反応機に、窒素雰囲気下で、表2の添加1に示す各単量体、t−ドデシルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマー、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、純水を加えて60度に昇温した後に、過硫酸カリウムを加えて重合を開始した。重合開始から9時間後に重合を停止し、水酸化リチウム水溶液でpHを7に調整した。その後に、90℃にて水蒸気蒸留を15時間行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去して、表4に示す数平均粒子径、ゲル含有量の共重合体ラテックス6〜12を得た。
【0039】
負極用組成物の作成
導電性炭素質材料として平均粒子径が20μmの天然黒鉛を使用し、天然黒鉛100重量部に対して、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液を固形分で2重量部、共重合体ラテックスを固形分で4重量部とを全固形分が40%となるように適量の水を加えて混練し、負極用組成物を調製した。
【0040】
電極用組成物の凝集物
上記のように得られた電極用組成物をワイヤーバー(#20)にてガラス板の上に塗工した。塗工中央部の10cm四方の正方形内の凝集物を目視で数え、下記のとおり評価した。
◎:10cm四方内の凝集物が0個
○:10cm四方内の凝集物が1〜3個
△:10cm四方内の凝集物が4〜10個
×:10cm四方内の凝集物が11個以上
【0041】
負極の作成
各々の負極用組成物を集電体となる厚さ20μmの銅箔の両面に塗布し、140℃で20分間乾燥後、室温でプレスして、塗工層の厚みが80μmの負極を得た。
【0042】
電極塗工層の結着力
上記の方法で得られた電極シートの表面に、ナイフを用いて活物質層から集電体に達する深さまでの切り込みを2mm間隔で縦横それぞれ6本入れて碁盤目の切り込みを作った。この切り込みに粘着テープを貼り付けて直ちに引き剥がし、活物質の脱落の程度を目視判定で5点(脱落なし)から1点(完全に脱落)として評価した。
【0043】
正極の作成
正極活物質としてLiCoO
を100重量部、導電剤としてアセチレンブラックを5重量部、結着剤として共重合体ラテックスを固形分で4重量部とを全固形分が40%となるように適量の水を加えて混練し、正極用組成物を調製した。得られたスラリーを集電体として厚さ20
μmのアルニミウム箔の両面に塗布乾燥後、室温でプレスして、塗工層の厚みが80μmの正極を得た。
【0044】
電池の作成
それぞれ同種類の共重合体ラテックスを用いた正極、負極のそれぞれの端部にリード板を溶接した後、正極、厚さ30μmの多孔質ポリプロピレンセパレーター、負極、セパレーターの順で積層して渦巻状に巻いて巻回体とした。この巻回体を負極端子を兼ねた円筒型電池缶に収納し、電池缶と負極、正極端子と正極をリード端子により接続し、電池缶内に容量比が1:1であるエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウムを1mol/lとなるように溶解し調整した電解液を満たした後、正極端子を備えた電池蓋をガスケットを介してかしめて円筒型電池を作成した。
【0045】
充放電サイクル特性
上記の方法で得られた円筒型電池を用いて4.2Vまで充電し、10mAで、2.5Vまで放電する工程を100サイクル繰り返した。下記の式により容量保持率を計算し、下記のとおり評価した。
容量保持率(%)=(100サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)
◎:容量保持率が97%を超える
○:容量保持率が92〜97%
△:容量保持率が85〜92%
×:容量保持率が85%未満
【0046】
各共重合体ラテックスのエチレン性不飽和ジカルボン酸系単量体/エチレン性不飽和モノカルボン酸系単量体(重量%比率)、数平均粒子径、ゲル含有量、および電極用組成物の凝集物、電極塗工層の結着力、電池の充放電サイクル特性の評価結果を表3及び表4にまとめた。
【0047】
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【産業上の利用可能性】
【0048】
上記の通り、本発明の電池電極用バインダーは化学的安定性が高く、これを用いることにより、塗工欠陥の少ない、かつ、結着強度に優れた電極が得られ、その結果として、充放電サイクル特性などの電池特性の良好な電池を得ることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族共役ジエン系単量体20〜40重量%、(メタ)アクリル酸エステル系単量体2〜30重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0.1〜10重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体20〜77.9重量%から構成される単量体を乳化重合して得られる共重合体ラテックスであって、上記エチレン性不飽和カルボン酸系単量体のうち、エチレン性不飽和ジカルボン酸系単量体の使用量をA(重量%)、エチレン性不飽和モノカルボン酸系単量体の使用量をB(重量%)とした場合、A/B>3(ただし、B≠0)であることを特徴とする電池電極用バインダー。
【請求項2】
ゲル含有量が60重量%以上である請求項1に記載の電池電極用バインダー。


【公開番号】特開2010−140684(P2010−140684A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313694(P2008−313694)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】