説明

電池電極用バインダー

【課題】 主に二次電池の分野で、結着力が良好、かつ電極に塗工欠陥を作りにくいバインダーを用いることで、放電性能、充放電サイクル特性などの良好な電池を得ること。
【解決手段】 脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0.1〜20重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体20〜89.9重量%から構成される単量体を乳化重合するに際し、分子量調整剤として炭素数違いのアルキルメルカプタンを規定量用いることを特徴とする共重合体ラテックスを含有する電池電極用バインダー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は充放電サイクル特性に優れた電池電極用バインダーに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型がますます進んでいる。リチウムイオンを吸蔵放出する導電性炭素質材料を電極に用いたリチウムイオン二次電池や、水素吸蔵合金を負極に用いるニッケル水素電池などは、軽量でエネルギー密度が大きいというその特徴から、小型電子機器の電源として重要性が増している。これらの二次電池電極は、いずれも活物質を金属基材上に塗布した構造を持ち、活物質を金属基材に接着する結着剤として通常、ポリマーバインダーが利用されている。このポリマーバインダーには、活物質との接着性、電気化学的な環境下での安定性などが求められる。リチウムイオン二次電池の場合、従来から、ポリフッ化ビニリデンなどのフッ素系のポリマーがこの分野に利用されているが、電極膜を形成した際に導電性を阻害し、集電体と電極膜間の接着強度が不足するなどの問題点がある。また、フッ素系のポリマーを還元条件となる負極に用いた場合は安定性が十分でなく、二次電池のサイクル性が低下するなど問題点もあり、これらの問題点の改良が望まれている。このため、非フッ素系ポリマーの開発が行われている。たとえば特開平5−74461号(特許文献1)や特開平11−25989号公報(特許文献2)には特定組成のジエン系のポリマーが記載されているが、上記の問題点の解決には十分でなく、更なる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−74461号
【0004】
【特許文献2】特開平11−25989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、主に二次電池の分野で、結着力が良好、かつ電極に塗工欠陥を作りにくいバインダーを用いることで、放電性能、充放電サイクル特性などの良好な電池を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前述の諸事情に鑑み鋭意検討した結果、分子量調整剤として、特定の割合で構成されるアルキルメルカプタンを用いて乳化重合して得られる電池電極用バインダーを用いることにより、塗工欠陥の少なく、かつ、結着強度に優れた電極が得られ、その結果として、充放電サイクル特性などの電気特性の良好な電池が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0.1〜20重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体20〜89.9重量%から構成される単量体を乳化重合して得られる共重合体ラテックスであって、分子量調整剤として下記のアルキルメルカプタンを単量体100重量部に対して使用することを特徴とする共重合体ラテックスを含有する電池電極用バインダーを提供するものである。
(1)ウンデシルメルカプタン 0.0005〜0.6重量部、
(2)ドデシルメルカプタン 0.025〜1.8重量部、
(3)トリデシルメルカプタン 0.0005〜0.6重量部、
(4)テトラデシルメルカプタン 0〜0.2重量部
(5)その他のメルカプタン 0〜0.2重量部
【発明の効果】
【0008】
本発明の電池電極用バインダーを用いることによって、塗工欠陥の少ない、かつ、結着強度に優れた電極が得られ、その結果として、充放電サイクル特性などの電気特性の良好な電池を得ることが可能となり、極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に本発明について詳しく説明する。
本発明の電池電極用バインダーにおける共重合体ラテックスの単量体組成は、脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0.1〜20重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体20〜89.9重量%から構成される。
【0010】
脂肪族共役ジエン系単量体としては、例えば1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。特に1,3−ブタジエンが好ましい。
【0011】
脂肪族共役ジエン系単量体は全単量体中、10〜60重量%の範囲で使用されることが必要である。脂肪族共役ジエン系単量体が10重量%未満ではバインダーとしての性質を呈さない。一方、脂肪族共役ジエン系単量体が60重量%を越えるとバインダーが活物質の表面を必要以上に覆ってしまい、内部抵抗が大きくなる。好ましくは20〜50重量%である。
【0012】
エチレン性不飽和カルボン酸系単量体としては、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、アクリル酸、メタクリル酸などが挙げられる。これらも1種単独で、あるいは2種以上を併用することも可能である。
これらのエチレン性不飽和カルボン酸系単量体は0.1〜20重量%の範囲で使用されることが必要である。エチレン性不飽和カルボン酸系単量体が0.1重量%未満では共重合体の化学的安定性が劣る。一方、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体が20重量%を越えると共重合体の粘度が高くなり、取り扱いが困難となる。好ましくは0.5〜10重量%、さらに好ましくは1〜5重量%である。
【0013】
本発明に使用される共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどのシアン化ビニル系単量体、例えば、スチレン、α−メチルスチレンなどの芳香族ビニル系単量体、例えば、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどの(メタ)アクリル酸エステル系単量体、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミドなどのエチレン系不飽和カルボン酸アミド系単量体、例えば、酢酸ビニルなどのカルボン酸ビニルエステル類、例えば、メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−ビニルピリジンなどのエチレン系不飽和アミン系単量体などが挙げられ、1種または2種以上用いることができる。
【0014】
共重合可能なエチレン性不飽和単量体は全単量体中、20〜89.9重量%の範囲で使用されることが必要である。共重合可能なエチレン性不飽和単量体が20重量%未満ではバインダーが活物質の表面を必要以上に覆ってしまい、内部抵抗が大きくなる。一方、共重合可能なエチレン性不飽和単量体が89.9重量%を越えるとバインダーとしての性質を呈さない。好ましくは、30〜70重量%である。
【0015】
本発明における共重合体ラテックスを乳化重合するに際しては、分子量調整剤として下記のアルキルメルカプタンを単量体100重量部に対して使用する。
(1)ウンデシルメルカプタン 0.0005〜0.6重量部、好ましくは、0.0005〜0.5重量部、
(2)ドデシルメルカプタン 0.025〜1.8重量部、好ましくは、0.025〜1.5重量部、
(3)トリデシルメルカプタン 0.0005〜0.6重量部、好ましくは、0.0005〜0.5重量部、
(4)テトラデシルメルカプタン 0〜0.2重量部、好ましくは、0〜0.16重量部、
(5)その他のメルカプタン 0〜0.2重量部、好ましくは0〜0.16重量部
(1)〜(5)に記載のアルキルメルカプタンを一種使用した場合、もしくは、二種以上を上記範囲外の量で使用した場合は、優れた結着力が得られない。また、アルキルメルカプタンのアルキル基としては、直鎖タイプ、分岐タイプがあるが、上記範囲内の量を用いた場合には、いずれのタイプでも、優れた結着力が得られる。
【0016】
本発明で使用する(1)〜(5)に規定する量であるアルキルメルカプタンを得るには、炭素数違いの原料(例えば、ハロゲン化炭化水素)を規定量になるように調整してからメルカプタン化する方法でも、すでに得られた炭素数違いのアルキルメルカプタンを、規定範囲内になるように2種以上混合して使用する方法でもいずれでもよい。
【0017】
本発明における共重合体ラテックスの製造では、上記のアルキルメルカプタン以外の分子量調整剤を使用可能である。それらの分子量調整剤としては、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ターピノレン、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0018】
本発明における共重合体ラテックスのゲル含有量については、70重量%以上であることが好ましい。70重量%未満では、結着力が低下する傾向があり、好ましくない。さらに好ましくは75重量%以上であり、最も好ましくは80重量%以上である。
【0019】
また、共重合体ラテックスの光子相関法による平均粒子径については特に制限はないが、好ましくは0.4μm以下である。さらに好ましくは、0.35μm以下であり、最も好ましい共重合体ラテックスの光子相関法による平均粒子径は、0.05〜0.30μmである。
【0020】
本発明における共重合体ラテックスを乳化重合するに際しては、常用の乳化剤、重合開始剤、還元剤、酸化還元触媒、炭化水素系溶剤、電解質、重合促進剤、キレート剤等を使用することができる。
【0021】
本発明における共重合体ラテックスの製造に使用できる乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤あるいはポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性界面活性剤が挙げられ、これらを1種又は2種以上使用することができる。特に、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩が好ましい。
【0022】
重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤を適宜用いることができる。特に過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウムの水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイドの油溶性重合開始剤の使用が好ましい。
【0023】
本発明における共重合体ラテックスの製造において好ましく用いられる還元剤の具体例としては、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、亜ニチオン酸塩、ニチオン酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアルデヒドスルホン酸塩、ベンズアルデヒドスルホン酸塩、また、L−アスコルビン酸、酒石酸、クエン酸などのカルボン酸類、更にはデキストロース、サッカロースなどの還元糖類、更にはジメチルアニリン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。特にL−アスコルビン酸が好ましい。
【0024】
また、乳化重合において、必要により、炭化水素系溶剤として、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素、例えば、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン等の不飽和炭化水素、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などを使用することができる。特に、沸点が適度に低く、重合終了後に水蒸気蒸留などによって回収、再利用しやすいシクロヘキセンやトルエンが、環境負荷の観点から好適である。
【0025】
また、その他の助剤として、必要により、例えば、老化防止剤、防腐剤、分散剤、増粘剤などを使用することができる。
また、重合方法としては、特に限定されず、バッチ重合、セミバッチ重合、シード重合などを用いることができる。また、各種成分の添加方法についても特に制限されるものではなく、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法、パワーフィード法などを用いることができる。
【0026】
本発明における共重合体ラテックスは、電池電極用バインダーとして使用されるものであり、電極活物質の粒子どうし、および電極活物質と集電体とのバインダーとして作用するものである。
【0027】
本発明の電池電極用バインダーは正極、負極それぞれの活物質と配合され電池電極用組成物として使用される。活物質の種類は特に限定されないが、例えば、非水電解液二次電池の場合、黒鉛、炭素繊維、樹脂焼成炭素、リニア・グラファイト・ハイブリット、コークス、熱分解気層成長炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成炭素、ポリアセン系有機半導体、メソカーボンマイクロビーズ、メソフェーズピッチ系炭素、黒鉛ウィスカー、擬似等方性炭素、天然素材の焼成体、およびこれらの粉砕物などの炭素質材料、MnO2、V2O5などの遷移金属酸化物、LiCoO、LiMnO2、LiNiO2などのリチウムを含む複合酸化物などがあげられ、1種あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0028】
本発明の電池電極バインダーを使用して電池電極用組成物を配合する際、該共重合体ラテックスは、活物質100重量部に対して固形分で0.1〜10重量部、さらに好ましくは1〜7重量部の割合で調製することが好ましい。本発明の共重合体ラテックスの配合量が0.1重量部未満では、集電体などに対する良好な接着力が得られない傾向があり、10重量部を超えると電池として組み立てた際に過電圧が著しく上昇し電池特性に悪影響をおよぼす傾向があり、好ましくない。
【0029】
本発明の電池電極用バインダーを含有する電池電極用組成物には、必要に応じて、水溶性増粘剤などの各種添加剤が添加されていてもよい。例としてはカルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼインなどの水溶性増粘剤、ヘキサメタリン酸ソーダ、トリポリリン酸ソーダ、ピロリン酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダなどの分散剤、ラテックスの安定化剤としてのノニオン性、アニオン性界面活性剤などが挙げられる。
【0030】
電池電極用組成物は、集電体に塗布、乾燥して電池電極として用いるものである。また、電池電極用組成物を集電体に塗布する方法としてはリバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法など任意のコーターヘッドを用いることができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できる。
【0031】
本発明の電池電極用バインダーを用いて電池を製造する際に使用される集電体、セパレーター、非水系電解液、端子、絶縁体、電池容器等については既存のものが特に制限無く使用可能である。
【実施例】
【0032】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を変更しない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は重量基準によるものである。また実施例における諸物性の評価は次の方法に拠った。
【0033】
共重合体ラテックスの光子相関法による平均粒子径測定
各共重合体ラテックスの光子相関法による平均粒子径を測定した。測定に際しては、大塚電子株式会社製FPAR−1000を使用した。結果を、表5及び表6に示す。
【0034】
共重合体ラテックスのゲル含有量の測定
80℃の乾燥機にて各共重合体ラテックスのラテックスフィルムを作製する。その後ラテックスフィルムを約1g秤量しXgとする。これを400mlのトルエンに入れ48時間膨潤溶解させる。その後、これを秤量済みの300メッシュの金網で濾過し、その後トルエンを蒸発乾燥させ、その乾燥後重量から金網重量を減じて、試料の乾燥後重量を秤量しYgとする。下記式よりゲル含量を計算した。結果を、表5及び表6に示す。
ゲル含量(%)=(Y/X)*100
【0035】
<実施例1〜4>
共重合体ラテックス1〜4の作製(本発明例)
耐圧製の重合反応器に、表1の添加1に示す各単量体、各アルキルメルカプタン、シクロヘキセン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、過硫酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、純水を加えて70℃に昇温した。添加1の単量体の重合転化率が50%に達した時点から、表1の添加2に示す各単量体、各アルキルメルカプタン、シクロヘキセンを7時間で連続添加した。その後、重合転化率が97%になるまで重合を継続した。水酸化ナトリウム水溶液でpHを7に調整して、水蒸気蒸留を行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去して、共重合体ラテックス1〜4を得た。
【0036】
<実施例5〜8>
共重合体ラテックス5〜8の作製(本発明例)
耐圧製の重合反応器に、表2の添加1に示す各単量体、各アルキルメルカプタン、α−メチルスチレンダイマー、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、過硫酸ナトリウム、純水を加えて55℃で6時間反応させた。添加1の単量体の重合転化率が70%以上であることを確認し、表2の添加2に示す各単量体、各アルキルメルカプタン、α−メチルスチレンダイマー、純水を65℃で4時間掛けて連続添加した。連続添加終了後、70℃で反応を続け、重合転化率が97%以上になった時点で重合を停止した。水酸化カリウム水溶液でpHを7に調整して、水蒸気蒸留を行い、未反応単量体を除去して、共重合体ラテックス5〜8を得た。
【0037】
<比較例1〜4>
共重合体ラテックス9〜12の作製(比較例)
耐圧製の重合反応器に、表3の添加1に示す各単量体、各アルキルメルカプタン、シクロヘキセン、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、過硫酸カリウム、純水を加えて65℃に昇温した。添加1の単量体の重合転化率が50%に達した時点から、表3の添加2に示す各単量体、各アルキルメルカプタン、シクロヘキセンを7時間で連続添加した。その後、重合転化率が97%になるまで重合を継続した。水酸化ナトリウム水溶液でpHを7に調整して、水蒸気蒸留を行い、未反応単量体および他の低沸点化合物を除去して、共重合体ラテックス9〜12を得た。
【0038】
<比較例5〜8>
共重合体ラテックス13〜16の作製(比較例)
耐圧製の重合反応器に、窒素雰囲気下で、表4の添加1に示す各単量体、各アルキルメルカプタン、α-メチルスチレンダイマー、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、純水を加えて、55℃で6時間反応させた。添加1の単量体の重合転化率が70%以上であることを確認し、表4の添加2に示す各単量体、各アルキルメルカプタン、α−メチルスチレンダイマー、純水を65℃で4時間掛けて連続添加した。連続添加終了後、70℃で反応を続け、重合転化率が97%以上になった時点で重合を停止した。水酸化カリウム水溶液でpHを7に調整して、水蒸気蒸留を行い、未反応単量体を除去して、共重合体ラテックス13〜16を得た。
【0039】
【表1】

【0040】
【表2】

【0041】
【表3】

【0042】
【表4】

【0043】
正極用組成物の作成
正極活物質としてLiCoO を100重量部、導電剤としてアセチレンブラックを5重量部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液を固形分で1重量部、結着剤として共重合体ラテックスを固形分で4重量部とを全固形分が40%となるように適量の水を加えて混練し、正極用組成物を調製した。
【0044】
負極用組成物の作成
負極活物質として平均粒子径が20μmの天然黒鉛を使用し、天然黒鉛100重量部に対して、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース水溶液を固形分で1重量部、結着剤として共重合体ラテックスを固形分で3重量部とを全固形分が40%となるように適量の水を加えて混練し、負極用組成物を調製した。
【0045】
電池電極用組成物の凝集物
上記のように得られた電池電極用組成物をワイヤーバー(#20)にてガラス板の上に塗工した。塗工中央部の10cm四方の正方形内の凝集物を目視で数え、下記のとおり評価した。
◎:10cm四方内の凝集物が0個
○:10cm四方内の凝集物が1〜3個
△:10cm四方内の凝集物が4〜10個
×:10cm四方内の凝集物が11個以上
【0046】
正極の作成
各々の正極用組成物を集電体として厚さ20μmのアルニミウム箔に塗布し、140℃で20分間乾燥後、室温でプレスして、塗工層の厚みが80μmの正極を得た。
【0047】
負極の作成
各々の負極用組成物を集電体となる厚さ20μmの銅箔に塗布し、140℃で20分間乾燥後、室温でプレスして、塗工層の厚みが80μmの負極を得た。
【0048】
電極塗工層の結着力
上記の方法で得られた電極シートの表面に、ナイフを用いて活物質層から集電体に達する深さまでの切り込みを2mm間隔で縦横それぞれ6本入れて碁盤目の切り込みを作った。この切り込みに粘着テープを貼り付けて直ちに引き剥がし、活物質の脱落の程度を目視判定で5点(脱落なし)から1点(完全に脱落)として評価した。
【0049】
電池の作成
(正極評価用)
前記正極を直径15mmの円形に打ち抜き、この正極活物質層の上に、直径16mmの円形のポリプロピレン製セパレータ、直径15mmの円形の金属リチウム箔の順に積層し、セル内を容量比が1:1であるエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウムを1mol/Lとなるように溶解し調整した電解液で満たした後、電池蓋をガスケットを介してかしめてコインセル電池を作成した。
(負極評価用)
前記負極を直径15mmの円形に打ち抜き、この負極活物質層の上に、直径16mmの円形のポリプロピレン製セパレータ、直径15mmの円形の金属リチウム箔の順に積層し、セル内を容量比が1:1であるエチレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒にヘキサフルオロリン酸リチウムを1mol/Lとなるように溶解し調整した電解液で満たした後、電池蓋をガスケットを介してかしめてコインセル電池を作成した。
【0050】
充放電サイクル特性
上記の方法で得られた各コインセル電池を用いて4.2Vまで充電し、10mAで、2.5Vまで放電する工程を30サイクル繰り返した。下記の式により容量保持率を計算し、下記のとおり評価した。
容量保持率(%)=(30サイクル目の放電容量)/(1サイクル目の放電容量)
◎:容量保持率が97%を超える
○:容量保持率が92〜97%
△:容量保持率が85〜92%
×:容量保持率が85%未満
【0051】
各実施例及び比較例の電池電極用組成物の凝集物、電極塗工層の結着力、電池の充放電サイクル特性の評価結果を表5及び表6にまとめた。
【0052】
【表5】

【0053】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0054】
上記の通り、本発明の電池電極用バインダーを用いることにより、塗工欠陥の少ない、かつ、結着強度に優れた電極が得られ、その結果として、充放電サイクル特性などの電池特性の良好な電池を得ることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、エチレン性不飽和カルボン酸系単量体0.1〜20重量%およびこれらと共重合可能なエチレン性不飽和単量体20〜89.9重量%から構成される単量体を乳化重合するに際し、分子量調整剤として下記のアルキルメルカプタンを単量体100重量部に対して使用することを特徴とする共重合体ラテックスを含有する電池電極用バインダー。
(1)ウンデシルメルカプタン 0.0005〜0.6重量部、
(2)ドデシルメルカプタン 0.025〜1.8重量部、
(3)トリデシルメルカプタン 0.0005〜0.6重量部、
(4)テトラデシルメルカプタン 0〜0.2重量部
(5)その他のメルカプタン 0〜0.2重量部
【請求項2】
共重合体ラテックスのゲル含有量が70重量%以上である請求項1に記載の電池電極用バインダー。

【公開番号】特開2012−94506(P2012−94506A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216212(P2011−216212)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】