説明

電波吸収材の製造方法

【課題】溶剤が不要になり環境負荷を低減でき、混練り時に固着滞留することない良好な加工性が得られ、製造コストが低減でき、多くの磁性粉の配合が可能になり透磁率向上できる電波吸収材の製造方法を提供する。
【解決手段】磁性粉と熱可塑性樹脂を混練する工程を有し、該工程に用いる樹脂の形状が連続体形状であることを特徴とする電波吸収材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収材の製造方法に関し、特に、環境コスト及び製造コストを低減した電波吸収材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電波吸収材の製造方法としては、磁性粉末、樹脂、溶媒からなる磁性塗料をフィルムに塗布、乾燥、成形する製造方法や磁性粉末、粉末状の樹脂を混練、成形する製造方法等が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1(特開2000−244171号公報)には、金属磁性粉末を樹脂および溶液中に分散した磁性塗料をフィルムに塗布、乾燥して磁性シートを作製する製造方法が開示されている。また、特許文献2(特開2007−129179号公報)には、導電・磁性粉末を樹脂および溶液中に分散した磁性塗料をフィルムに塗布、乾燥後に、熱加圧成形して磁性シートを作製する製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−244171号公報
【特許文献2】特開2007−129179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の製造方法では、上記磁性シートは、コーター等の塗工機で製造されている。従来法では、溶剤を使用するため、塗布後の乾燥工程が必要であり、大気汚染、環境問題を起こすおそれがあり、環境対策及び安全衛生面のコストや製造コストが増加するという問題がある。
【0006】
これに対して、溶剤を使用しない場合には、樹脂と磁性粉とを均一分散できるか否かが問題になる。例えば、樹脂が粉末の場合、磁性粉の量が多いときには樹脂粉末が密閉式混練り機ローターに固着滞留し、均一分散ができず、一方、磁性粉末を少なくすると電波吸収材に求められる透磁率が得られなくなるという問題がある。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、溶剤が不要になり環境負荷を低減でき、混練り時に固着滞留することない良好な加工性が得られ、製造コストが低減でき、多くの磁性粉の配合が可能になり透磁率向上できる電波吸収材の製造方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、磁性粉と熱可塑性樹脂を混練する工程において、特定形状の樹脂を用いることで溶剤を使用しないで、樹脂と磁性粉とを均一分散できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明の電波吸収材の製造方法は、磁性粉と熱可塑性樹脂を混練する工程を有し、該工程に用いる樹脂の形状が連続体形状であることを特徴とする。
【0010】
また、前記磁性粉は扁平状軟磁性粉であり、平均粒径が30〜100μmであることが好ましく、前記磁性粉のアスペクト比が10〜100であることがより好ましい。さらに、前記磁性粉の含有量が樹脂100質量部に対して70〜90質量部であることが更に好ましい。ここで、軟磁性粉とは、高透磁率、低保磁力である強磁性材料の粉を言う。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶剤が不要になり環境負荷を低減でき、混練り時に固着滞留することない良好な加工性が得られ、製造コストが低減でき、多くの磁性粉の配合が可能になり透磁率向上できる電波吸収材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の電波吸収材の製造方法は、磁性粉と熱可塑性樹脂を混練する工程を有し、該工程に用いる樹脂の形状が連続体形状であることを特徴とする。
【0013】
[磁性粉]
本発明の電波吸収材に用いる磁性粉は、高い電磁波吸収効果を得るため、高い透磁率を有する材料であることが好ましく、金属あるいは金属酸化物からなる磁性粉末が好ましく、例えば、金属磁性粉として、センダスト、パーマロイ、アモルファス合金、ステンレス鋼、金属酸化物としてはMnZnフェライト、NiZnフェライト等が挙げられる。中でも、その優れた磁気特性からセンダスト系の金属磁性粉であることが好ましい。また、形状的にもアスペクト比(平均粒径を平均厚さで除した値)の高いことが望ましく、アスペクト比が10〜100が好ましい。例えば、扁平形状センダスト粉が挙げられる。さらに、磁性粉は、平均粒径が30〜100μmであることが好ましい。この平均粒径が30μmよりも小さい場合又は100μmよりも大きい場合には、連続体形状、特にはシート状熱可塑性樹脂と混練した混練物が十分に滑らかな展延性を有さないことから、加工性が低下するためである。ここで、平均粒径は、レーザー回折法により測定した平均粒径D50(μm)を言う。
【0014】
また、磁性粉末の配合量は、樹脂100質量部に対して磁性粉末70〜90質量部が好ましい。この金属あるいは金属酸化物からなる磁性粉末の配合量が70質量部よりも少ないと、電波吸収特性が不足する。また、磁性粉末の配合量が90質量部よりも多いと、樹脂と磁性粉末との混練物の展延性が不足すると共に、樹脂組成物の柔軟性が損なわれる。
【0015】
[連続体形状熱可塑性樹脂]
本発明で用いる連続体形状熱可塑性樹脂は、連続体形状を有し磁性粉との混練において分散均一性に優れた、高温で可塑化され成形可能な高分子材料が好ましい。
(樹脂の種類)
樹脂の種類としては、熱可塑性エラストマー及び熱可塑性樹脂が挙げられる。軟質樹脂中において、熱可塑性エラストマーが好ましい。熱可塑性エラストマーとしては、塩素化ポリエチレン、軟質塩化ビニール等が好適に挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド12(PA12)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等が好適に挙げられる。
【0016】
(添加成分)
樹脂の熱安定性、柔軟性、加工性を向上するため、老化防止剤、オイル、可塑剤等の添加剤が適宜選択される。また、磁性粉と樹脂との濡れ性を向上し、加工性や成形品の強度を改善するため、シラン系、チタネート系、アルミニウム系等のカップリング剤を適宜選択し、磁性粉を表面処理する。
【0017】
(連続体形状)
本発明における連続体形状とは、例えば棒状、円環状、シート状等の樹脂連続体を形成する形状をいい、パウダー形状樹脂のような不連続形状でないことを意味する。連続体形状としてはシート形状が好ましい。ここで、シート形状とは、薄板形状を取ること意味する。
(シート形状)
具体的なシート形状としては、例えば、厚みが0.5〜20mm程度、幅10〜100mm程度、長さは連続供給可能な長さ(50〜100mm程度)とし、混練り機の種類や練り条件に対して適切な形状になるよう適宜調整する。
【0018】
(パウダー形状樹脂との差異)
ニーダー等の密閉式混練り機においては、通常二本のローターが並行して設置されており、熱可塑性樹脂と磁性粉を均一に分散させるためには、両者が槽内及び二本のローター間を流動することが必要である。
混練り機の内容積は一定であるため、原材料の仕込み量を適切な量にしないと分散不良を起こす傾向にある。すなわち、ローター及び槽内に原材料を流動させるためには、槽内に占める原材料の投入体積を一定範囲にすることが必要であり、例えば、バンバリーミキサーでは、通常、仕込み量を内容積の約60〜80%とすれば、投入した原材料は均一に分散することが知られている。
このように、仕込み量を適切な量とした時、磁性粉の充填量が60wt%よりも少ない場合は、熱可塑性樹脂含有量が多いため、ローター周囲とローター間に充分な熱可塑性樹脂が存在するため、二本のローターの間と槽内を材料が流動することができるだけの、充分な熱可塑性樹脂が存在し、熱可塑性樹脂や磁性粉を均一に分散させることができる。この場合、熱可塑性樹脂の形状がシート形状またはパウダー形状の両方で均一な分散を得ることができる。
【0019】
しかし、磁性粉の充填量が60wt%よりも多い場合、仕込み量が適切な範囲であっても、熱可塑性樹脂含有量が低下し、槽の内容積に占める熱可塑性樹脂体積が相対的に低下するため、二本のローター間を流動するのに充分なだけの熱可塑性樹脂が得られにくくなる。このような磁性粉高充填配合においては、熱可塑性樹脂がパウダー形状の場合、分散不良が起こることを見出した。すなわち、熱可塑性樹脂パウダーが可塑化、溶融すると、パウダー同士が凝集しローター及びケーシング壁面へ塊状に固着してしまう。一旦ローターに熱可塑性樹脂の凝集塊が固着してしまうと、ローターの噛み合わせによるセルフクリーニング作用が及ばない部分(空隙)に固着したものは、撹拌効果が及ばない状態になり、ローター間を流動しないため、磁性粉と熱可塑性樹脂が混合しない状態になり、均一分散することはできない。このような空隙はローターの形状や距離から決まるものである。
【0020】
一方、シート形状の場合は、投入された熱可塑性樹脂はシート状であるため、せん断変形を受けて熱可塑性樹脂は、磁性粉を取り込みながら、徐々に可塑化されていく。このように、シート形状の熱可塑性樹脂と磁性粉は混合と撹拌、可塑化を繰り返しながら、混練りされていくため、熱可塑性樹脂成分が空隙に固着して流動しなくなることを防止することが可能である。すなわち、パウダー形状の樹脂に比べて、シート形状の樹脂は均一分散させやすい。よって、シート形状の樹脂では、熱可塑性樹脂が占める体積は少なくても、熱可塑性樹脂は空隙に固着することなく全体に流動することになり、熱可塑性樹脂と磁性粉が均一に分散することを見出したものである。
【0021】
[混練工程]
樹脂成分と金属あるいは金属酸化物からなる磁性粉との混練りを行う。
(混練り装置)
ブラベンダー、プラストミル、ニーダー、バンバリー等の密閉式混練り機又は二軸、単軸等の混練り押出し機が好ましい。ローターやスクリューにセルフクリーニングが及ばない部分(空隙)を有する混練り機でも、磁性粉の含有率が多い材料において、空隙に熱可塑性樹脂を固着させることなく、磁性粉と熱可塑性樹脂を均一に混合することができる。
(混練り条件)
混練り温度や内圧、せん断力の調整により流動性を適宜調整し、樹脂中に磁性粉を均一に分散させる。
【0022】
本発明の製造方法は、溶剤不要である製造工程であるため、環境負荷を低減でき、溶剤を用いる製造方法のような塗布後の乾燥工程が不要であり、大気汚染、環境問題を起こすおそれがなく、環境対策及び安全衛生面に要するコストや製造コストが不要となる。また、混練り時に固着滞留することない良好な加工性が得られ、製造コストが低減でき、多くの磁性粉の配合が可能になり透磁率向上を図ることができる。
【0023】
[電波吸収体]
(電波吸収体製品の形態)
本発明の製造方法で作られた電波吸収体製品は、厚みが10〜500μm程度の、電波吸収性能、柔軟性に優れたシートに加工されるほか、棒状、リング状等の各種形態に加工される。
(物性)
柔軟で電磁波吸収性能が良好である。
(用途)
環境対策に敏感な食品、医療、介護用等の用途に使用される機器などの電波吸収体に適している。
【実施例】
【0024】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0025】
[実施例1〜9、比較例1〜4]
表1に示す配合を、ラボプラストミル(東洋精機製作所社製)を用いて下記の条件で混練し、ロールにより下記ロール成形条件で成形し、電波吸収体を製造した。得られた電波吸収体の性能(溶剤による環境負荷、ブラベンダー練り加工性、透磁率)を下記のようにして測定した。測定結果を表1に示す。
【0026】
(ラボプラストミル混練り条件)
槽内容積:100CC
仕込み量:90%
温度:140℃
混練り時間:10分間
シート状塩素化ポリエチレンの形状:厚み2mm、幅10mm、長さ50mm
棒状塩素化ポリエチレン樹脂の形状:2mm×2mm×50mm
円環状塩素化ポリエチレン樹脂の形状:外径25mm、内径10mm、厚み2mm
【0027】
(ロール成形条件)
加熱された二本のロール間を通し、シート状に成形した。磁性粉は扁平で形状異方性を有するため、ロールで圧延される際に配向し、高い透磁率を得ることができる。
ロール温度:100℃
成形後シート厚み:100〜500μm
【0028】
【表1−1】

【0029】
【表1−2】

【0030】
*1:センダスト、山陽特殊製鋼社製「PST−4−FM60」
*2:塩素化ポリエチレン樹脂、昭和電工社製「エラスレン301AE」(シート状)
形状:厚み2mm、幅10mm、長さ50mm
*3:塩素化ポリエチレン樹脂、昭和電工社製「エラスレン301AE」を棒状に加工し
たもの 形状:2mm×2mm×50mm
*4:塩素化ポリエチレン樹脂、昭和電工社製「エラスレン301AE」を円環状に加工
したもの 形状:外径25mm、内径10mm、厚み2mm
*5:塩素化ポリエチレン樹脂、昭和電工社製「エラスレン301A」(パウダー状)
【0031】
[評価方法]
(溶剤による環境負荷の評価方法)
評価項目として溶剤による環境負荷については、溶剤臭気を臭覚により評価した。その結果を、○:トルエンの臭気なし、×:トルエンの臭気有りで表わした。
【0032】
(練り加工性の評価方法)
練り加工装置(東洋精機製作所社製ラボプラストミル)を用いて混練を行い、練り加工性について目視により評価した。その結果を、○:磁性粉が均一に分散している場合、△:磁性粉が凝集して分散が不均一である場合、×:塩素化ポリエチレンが固着して磁性粉と塩素化ポリエチレンが混合しない場合で表わした。
【0033】
(透磁率の測定方法)
電波吸収シートの室温での10MHzにおける透磁率を、計測装置(アジレント・テクノロジー社製インピーダンスアナライザー)により、トロイダル状サンプル(内径5mm、外径8mm、厚み100〜500μm)を用いて測定した。
【0034】
実施例の結果より、実施例1〜9は、対環境性、練り加工性及び電波吸収特性が良好であることがわかる。実施例1は、磁性粉の充填量が65質量部と少ない配合であり、対環境性及び練り加工性は良好だが、電波吸収特性が低下しており、実施例7は、充填量が95質量部と多い配合であるため、練り加工性が低下していた。
一方、比較例1は、溶剤トルエンを使用しており、環境負荷が大きく、対環境性が悪かった。比較例2は、磁性粉の充填量が65質量部と少ない配合であり、対環境性及び練り加工性は良好だが、電波吸収特性が低下しており、比較例3及び4は、パウダー状の塩素化ポリエチレン樹脂を使用し磁性粉の充填量が75〜90質量部と多い配合であるため、練り加工性が悪かった。
【0035】
実施例1〜3及び8,9において、磁性粉の含有量が増大するに伴って、透磁率は増加した。一方、磁性粉の含有率が75wt%を超えると、磁性粉の含有率が増大しているにもかかわらず透磁率の低下が見られた。これは、充填率の増大に伴って、成形時の流動性が低下することにより磁性粉の配向性が低下するため、充填率を増大しても透磁率は増大しなかったものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粉と熱可塑性樹脂を混練する工程を有し、該工程に用いる樹脂の形状が連続体形状であることを特徴とする電波吸収材の製造方法。
【請求項2】
前記磁性粉は扁平状軟磁性粉であり、平均粒径が30〜100μmであることを特徴とする請求項1に記載の電波吸収材の製造方法。
【請求項3】
前記磁性粉のアスペクト比が10〜100であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電波吸収材の製造方法。
【請求項4】
前記磁性粉の含有量が樹脂100質量部に対して70〜90質量部であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の電波吸収材の製造方法。

【公開番号】特開2012−69807(P2012−69807A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−214339(P2010−214339)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】