説明

電波測定装置および電波測定方法

【課題】送信アンテナが持つ指向性の影響を回避し、測定精度を高める。
【解決手段】受信アンテナ(14)に対して送信アンテナ(16)の対向面(56)を同一にして受信アンテナに対する送信アンテナの指向性を一定にした電波送受信部(4)を用いる。この電波送受信部を特定球面上で移動し、送信アンテナが放射する電波(20)を受信アンテナで受信する。演算手段(演算部10)では、受信アンテナの受信レベルと、該受信レベルの理論式で与えられる受信レベルとを比較し、電波送受信部を設置する測定場所に依存する偏差が求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信機器などの電波測定、該電波測定に用いる測定システムや測定環境の評価などに用いる電波測定装置および電波測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通信媒体に電波を用いる携帯電話機やパーソナルコンピュータなどの無線通信機器では、測定環境に電波暗室を用いる球面電波測定システムを利用し、送信電力や受信感度の特性を球面で評価する。この評価精度は球面電波測定システムや測定環境である電波暗室に依存する。このため、球面電波測定システムや電波暗室が電波反射や設備による反射などの影響があるか否かを評価するための評価試験(リプル試験)を実施している。
【0003】
この球面電波測定に関し、特許文献1には、電波暗室内に電波吸収体を備えることにより不要反射波の影響を抑制することが記載されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−61949号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、球面電波測定システムや電波暗室の評価には球面電波測定と同様の送信アンテナおよび受信アンテナを使用する。送信アンテナには磁界面(H面)が均一指向性となるダイポールアンテナが用いられ、受信アンテナには対数周期アンテナ(ログペリアンテナ)またはホーンアンテナが用いられる。ダイポールアンテナでは球面移動台の中心位置で床面と平行にアンテナエレメントを設定する。受信アンテナは球面移動台に設置して垂直面で回転可能に設定する。受信アンテナを回転させ、その回転で設定される受信アンテナ位置(角度位置)で、送信アンテナが放射する電波の周波数毎に受信レベルを測定する。
【0006】
そして、各受信アンテナの角度位置において、受信レベルに差がない(つまり、定在波がない)ことを確認する。または最大受信レベル差を測定する。この測定を送信アンテナの位置を変更し、たとえば、前後左右などで行ない、その測定結果を評価する。
【0007】
この評価において、送信アンテナに用いられているダイポールアンテナのH面指向性は一定値(理論値)であると仮定している。しかし、実際のダイポールアンテナの指向性は図17に示すように、完全な円ではなく角度によって指向性に偏り(偏差)がある。この偏差は3〔dB〕程度またはそれ以上である。このような指向性は周波数毎に現れる。この指向性は垂直面の受信アンテナ角度により受信出力に影響し、測定結果の誤差となる。つまり、送信アンテナの特性が測定値を変動させ、測定結果に偏差(測定誤差)が生じるという課題がある。
【0008】
そこで、本開示の電波測定装置および電波測定方法の目的は、送信アンテナが持つ指向性の影響を回避し、測定精度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の構成は、受信アンテナに対して送信アンテナの対向面を同一にして受信アンテナに対する送信アンテナの指向性を一定にした電波送受信部を用いる。この電波送受信部を特定球面上で移動し、送信アンテナが放射する電波を受信アンテナで受信する。演算手段では、受信アンテナの受信レベルと、該受信レベルの理論式で与えられる受信レベルとを比較し、電波送受信部を設置する測定場所に依存する偏差が求められる。
【発明の効果】
【0010】
本開示の電波測定装置または電波測定方法によれば、次の何れかの効果が得られる。
【0011】
(1) 受信アンテナに対する送信アンテナの指向性を一定にしたので、受信アンテナの受信レベルから送信アンテナの指向性の影響が除かれ、測定環境や装備などの環境に依存した受信レベルが得られる。
【0012】
(2) このような受信レベルと理論値である受信レベルとを比較しており、これにより、測定環境や装備などの環境に依存した偏差が求められ、測定環境や装備などの評価精度が高められる。
【0013】
(3) このような偏差を用いれば、被測定装置の評価精度が高められ、信頼性の高い評価結果が得られる。
【0014】
そして、本発明の他の目的、特徴および利点は、添付図面および各実施の形態を参照することにより、一層明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】第1の実施の形態に係る球面電波測定評価システムの一例を示す図である。
【図2】球面電波測定の測定手順の一例を示すフローチャートである。
【図3】第2の実施の形態に係る球面電波測定評価システムの一例を示す図である。
【図4】アンテナ移動装置および電波送受信部を正面から示した図である。
【図5】受信アンテナと送信アンテナの対向関係を示す図である。
【図6】ネットワークアナライザの構成例を示す図である。
【図7】パーソナルコンピュータ(PC)の構成例を示す図である。
【図8】球面電波測定の偏差の測定手順の一例を示すフローチャートである。
【図9】電波送受信部の等価回路を示すフローチャートである。
【図10】被測定装置の放射電力測定の一例を示す図である。
【図11】放射電力の測定手順を示すフローチャートである。
【図12】被測定装置の受信感度測定の一例を示す図である。
【図13】受信感度の測定手順を示すフローチャートである。
【図14】第3の実施の形態に係る球面電波測定評価システムの一例を示す図である。
【図15】送信アンテナ指向性の影響がある評価データ例を示す図である。
【図16】送信アンテナ指向性の影響がない評価データ例を示す図である。
【図17】ダイポールアンテナの指向性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔第1の実施の形態〕
【0017】
図1は第1の実施の形態に係る球面電波測定評価システムを示している。図1に示す構成は一例であり、斯かる構成に本開示の電波測定装置および電波測定方法が限定されるものではない。
【0018】
この球面電波測定評価システム2は本開示の電波測定装置および電波測定方法の一例である。この球面電波測定評価システム2は、電波送受信部4、アンテナ移動装置6、測定部8および演算部10を備え、球面電波測定の測定場所12に設置されている。演算部10は測定場所12の内部にあってもよいし、その外部でもよい。
【0019】
電波送受信部4は、受信アンテナ14に対して送信アンテナ16の対向面を同一にして受信アンテナ14に対する送信アンテナ16の指向性を一定に設定している。つまり、送信アンテナ16にたとえば、ダイポールアンテナを使用しても、受信アンテナ14に対する送信アンテナ16の指向性は一定である。
【0020】
この電波送受信部4はアンテナ移動装置6に取り付けられ、回転中心Oにより特定球面上を移動可能である。この実施例では受信アンテナ14の軌道18−1、送信アンテナ16の軌道18−2が既述の特定球面を構成する。電波送受信部4の移動角度θの範囲はたとえば、垂直平面の0〔度〕ないし165〔度〕の範囲であり、この角度範囲内の所定角度としてたとえば、15〔度〕を単位に電波送受信部4が移動する。この移動角度θが何れであっても、受信アンテナ14に対して送信アンテナ16の対向面は同一であり、移動に関係なく、受信アンテナ14に対する送信アンテナ16の指向性が一定である。
【0021】
測定部8は電波を発生する信号源を備えており、この信号源から発せられる出力により送信アンテナ16から電波20が放射される。この電波20が受信アンテナ14に受信され、その受信レベルを測定部8で測定する。電波20の周波数範囲はたとえば、800〔MHz〕ないし3〔GHz〕であり、測定周波数はたとえば、1〔MHz〕単位で可変する。この周波数について、測定部8が水平偏波の受信レベルLhおよび垂直偏波の受信レベルLvの双方を測定する。
【0022】
演算部10は、測定部8から取り込まれた受信レベルLh、Lvと、これら受信レベルの理論式のレベル値とを比較し、両者の偏差を演算し、各偏差を補正値Kh、Kvとして出力する。また、この演算部10はアンテナ移動装置6の移動角度の制御、測定部8の周波数制御を行う。
【0023】
測定場所12はたとえば、電波暗室であり、その内壁面には電波吸収体22が設置されている。電波吸収体22は送信アンテナ16から放射される電波を吸収するために設置されている。
【0024】
この球面電波測定評価システム2の球面電波測定の測定手順について、図2を参照する。この測定手順は本開示の電波測定方法の一例である。
【0025】
この測定手順では、受信アンテナ14および送信アンテナ16の垂直平面を既述の0〔度〕から165〔度〕の範囲とし、移動単位を15〔度〕に設定する(S1)。
【0026】
測定周波数を既述の800〔MHz〕ないし3〔GHz〕に設定し、測定部8で各周波数の水平偏波の受信レベルLhおよび垂直偏波の受信レベルLvを測定する(S2)。
【0027】
各受信レベルLh、Lvと受信レベルの理論式のレベル値との偏差を演算し、これを補正値Kh、Kvとして出力する(S3)。
【0028】
このような球面電波測定評価システム2では、受信アンテナ14に対する送信アンテナ16の指向性が同一に設定されているので、受信アンテナ14には送信アンテナ16の指向性の影響を受けない受信レベルが得られる。このため、受信レベルLh、Lvは、測定場所12やアンテナ移動装置6などの装備に依存し、つまり、測定場所12やアンテナ移動装置6などの装備の影響を表している。
【0029】
各受信レベルLh、Lvと既述の理論式のレベル値との偏差は、測定場所12やアンテナ移動装置6などの装備に依存する値、つまり測定場所12や装備に電波反射があれば、この電波反射を表す受信レベルを検出できる。
【0030】
したがって、このような偏差を補正値Kh、Kvとして算出するので、この補正値Kh、Kvを電波測定の評価に用いれば、被測定装置〔EUT(Equipment Under Test)と称する〕の評価精度が高められ、これにより、信頼性のある評価結果が得られる。
【0031】
〔第2の実施の形態〕
【0032】
図3は、第2の実施の形態に係る球面電波測定評価システムの一例を示している。図3において図1と同一部分には同一符号を付すとともに、各図を通して共通部分に同一符号を付してある。
【0033】
この球面電波測定評価システム2は、本開示の電波測定装置および電波測定方法の一例である。図3に示す球面電波測定評価システム2は電波暗室24に設置されている。この電波暗室24が球面電波測定の測定場所12であり、測定環境を構成している。
【0034】
この電波暗室24の床面26、側壁および天井面には電波吸収体22が設置されている。つまり、球面電波測定の測定場所12が電波吸収体22で包囲されている。この電波吸収体22は電波暗室24内に突出する無数の角錐体を配置し、各角錐体の間に形成された錐状の谷部内に電波を吸収する。この電波吸収体22にはたとえば、ウレタン吸収体などの電波吸収性素材が用いられ、各角錐体の電波吸収形状と相まって電波を吸収し、電波の反射が抑制される。床面26は電波吸収体22を全面に設置することなく、一部でもよく、また一部をフラット面としてもよい。
【0035】
電波送受信部4には空間を介して対向する受信アンテナ14および送信アンテナ16が設けられている。受信アンテナ14にはたとえば、対数周期アンテナ(ログペリアンテナ)が用いられる。このログペリアンテナは送信に使用可能である。送信アンテナ16にはダイポールアンテナが用いられる。この電波送受信部4では、受信アンテナ14に対して送信アンテナ16の対向面を一定にし、受信アンテナ14に対する送信アンテナ16の指向性が一定である。
【0036】
このような電波送受信部4の受信アンテナ14および送信アンテナ16の位置関係は、受信アンテナ14の支持手段である支持アーム28、送信アンテナ16の支持手段であるアダプタ32によって実現されている。支持アーム28は、アンテナ移動アーム30の一端に取り付けられ、その一端部からアンテナ移動アーム30と直交方向に突出している。この支持アーム28の先端部分に受信アンテナ14が取り付けられているので、受信アンテナ14とアンテナ移動アーム30との間には支持アーム28の長さに応じた間隔dが設定されている。また、支持アーム28の表面は電波吸収体34で被覆され、電波送受信部4に対向するアンテナ移動アーム30の面部は電波吸収体35で覆われている。
【0037】
アダプタ32は着脱部36を備えており、この着脱部36によりアンテナ移動アーム30に着脱可能に取り付けられている。このアダプタ32の先端部には送信アンテナ16の支柱部38が固定されている。これにより、送信アンテナ16とアンテナ移動アーム30との間にはアダプタ32により受信アンテナ14と同様に既述の間隔dが設定されている。また、送信アンテナ16とアダプタ32との間隔Dは、支柱部38により測定周波数の1波長以上に設定されている。また、アダプタ32の表面は電波吸収体40で被覆されている。
【0038】
この実施の形態のアンテナ移動装置6は、既述のアンテナ移動アーム30、モータ42、球面移動台44および球面移動台コントローラ46を備えている。モータ42の回転軸にはアンテナ移動アーム30が回転中心Oで固定されている。アンテナ移動アーム30の回転中心Oは送信アンテナ16の近傍に設定されており、受信アンテナ14の回転半径をr1 、送信アンテナ16の回転半径をr2 とすれば、r1 >r2 の関係にある。したがって、図4に示すように、回転中心Oにより回転半径r1 、r2 を以て電波送受信部4の受信アンテナ14および送信アンテナ16が各軌道18−1、18−2上で回転可能であり、これらにより既述の通り特定球面が構成される。
【0039】
受信アンテナ14および送信アンテナ16には、ネットワークアナライザ48がケーブル50、52により接続されている。ネットワークアナライザ48は既述の測定部8(図1)の一例である。
【0040】
球面移動台コントローラ46およびネットワークアナライザ48にはパーソナルコンピュータ(PC)54が接続されている。このPC54は既述の演算部10(図1)の一例である。
【0041】
<電波送受信部4の回転動作、受信アンテナ14と送信アンテナ16の対向関係>
【0042】
図5は、既述の電波送受信部4の回転動作、受信アンテナ14と送信アンテナ16の対向関係を示している。
【0043】
電波送受信部4は図5のAに示すように、受信アンテナ14および送信アンテナ16が既述の角度範囲で回転可能であり、いずれの角度においても、受信アンテナ14に対して同一の対向面で送信アンテナ16が対向する関係である。
【0044】
この対向関係は図5のBに示すように、送信アンテナ16の同一の対向面56が受信アンテナ14に対向し、受信アンテナ14に対する送信アンテナ16の指向性が一定である。つまり、受信アンテナ14と送信アンテナ16の相対位置および対向関係に偏りがない。このため、測定場所12が電波反射のない理想的な空間であれば、電波送受信部4の回転角度に関係なく、受信アンテナ14には同一または同一と見做せる受信レベルが得られることになる。換言すれば、測定場所12の電波暗室24や装備に電波反射があれば、電波反射が受信レベルに現れる。したがって、受信レベルは電波測定に影響を及ぼす電波反射の指標となり、この受信レベルから測定環境を評価することができる。
【0045】
また、受信アンテナ14は図5のBに示すように、ログペリアンテナ58を示している。このログペリアンテナ58は、長さの異なる複数のエレメント60を備え、各エレメント60は送信アンテナ16から放射される電波20の周波数(波長)に対応している。この受信アンテナ14は異なる周波数の電波20を受信し、送信アンテナ16に指向性がなければ、周波数が異なっても同一またはほぼ同一と見做しうる受信レベルが得られる。この受信レベルから電波送受信部4を設置した測定場所12や装備による電波反射の影響を知ることができる。
【0046】
<ネットワークアナライザ48>
【0047】
図6はネットワークアナライザ48の一例を示している。このネットワークアナライザ48は既述の測定部8(図1)の一例であり、信号源62、信号測定部64、プロセッサ66、表示部68および入出力部70を備えている。信号源62はプロセッサ66により制御され、送信アンテナ16から測定周波数毎に出力信号を生成する。
【0048】
信号測定部64はプロセッサ66により制御され、受信アンテナ14の受信レベルを測定する。プロセッサ66は信号源62、信号測定部64および表示部68を制御する。つまり、信号源62の出力信号に基づいた送信アンテナ16の電波放射、この電波放射に対応して受信アンテナ14が検出する受信レベルを取り込み、信号源62が生成する出力信号や受信レベルを表示部68に表示する。入出力部70はたとえば、PC54からの制御入力を受け、測定結果をPC54に出力する。
【0049】
表示部68は、LCD(Liquid Crystal Display)などの表示器で構成され、プロセッサ66の制御により、信号源62の出力信号の波形や受信アンテナ14の受信レベルを表示する。
【0050】
<PC54>
【0051】
図7はPC54の一例を示している。このPC54は既述の演算部10(図1)の一例であり、図7に示すPC54ではプロセッサ72、メモリ74、RAM76、表示部78、入出力部80を備えている。
【0052】
プロセッサ72はメモリ74のプログラム記憶部82にあるOS(Operating System)、電波測定プログラム、電波測定の評価プログラムなどのアプリケーションプログラムを実行する。
【0053】
メモリ74はハードディスク装置などの記録媒体で構成され、既述のプログラム記憶部82およびデータ記憶部84を備える。プログラム記憶部82にはOSや既述のアプリケーションプログラムを格納する。データ記憶部84には測定した受信レベル、理論式を基礎とする受信レベル、演算式により求めた偏差や補正値を格納する。RAM76はプログラムを展開し、演算などのロークエリアを構成している。
【0054】
表示部78は、LCDなどの表示器で構成され、プロセッサ72の制御により、PC54にネットワークアナライザ48から取り込まれた受信レベル、演算結果などの各種のデータを表示する。
【0055】
入出力部80は、プロセッサ72により制御され、ネットワークアナライザ48や球面移動台コントローラ46から情報を取り込み、ネットワークアナライザ48の測定値やアンテナ移動装置6の制御信号を出力する。また、この入出力部80に取り込まれる情報には、電波送受信部4の移動角度や、ネットワークアナライザ48の測定値などがある。
【0056】
<球面電波測定の測定手順>
【0057】
球面電波測定の測定手順について、図8を参照する。図8は球面電波測定の測定手順の一例を示している。
【0058】
この測定手順は本開示の電波測定方法の一例であり、受信レベルの測定(S21)、偏差の算出(S22)、補正値の算出(S23)および補正値の保存(S24)が含まれる。
【0059】
受信レベルの測定では、対向させた受信アンテナ14と送信アンテナ16を垂直平面上で既述の角度範囲0〔度〕から165〔度〕内の任意の角度たとえば、15〔度〕を設定する。そして、既述の周波数範囲(800〔MHz〕〜3〔GHz〕)の水平偏波の受信レベルLhおよび垂直偏波の受信レベルLvを測定する。
【0060】
偏差の算出では、各測定値LhとLvについて、理論式で与えられる受信レベルの計算値(レベル値)と比較し、各測定値と計算値の偏差を算出する。そして、各偏差値を補正値K(dB)とする。
【0061】
ここで、既述の理論式について、図9に示す等価回路86を参照する。この等価回路86は、電波送受信部4およびネットワークアナライザ48(測定部8)の構成を示している。したがって、既述の理論式は下記の通りである。自由空間の受信レベルの計算値Lc〔dBm〕は
Lc〔dBm〕=Pt+Gt−α+Gr−C ・・・(1)
である。この式(1) において、
Pt:送信給電電力〔dBm〕
Gt:送信アンテナゲイン〔dB〕
Gr:受信アンテナゲイン〔dB〕
α:空間減衰量〔dB〕
C:ケーブル損失〔dB〕
である。
【0062】
補正値K〔dB〕は、球面移動台44に設定されたアンテナ角度毎に、測定周波数としてたとえば、800〔MHz〕〜3〔GHz〕の周波数範囲で1〔MHz〕毎の周波数で計算する。したがって、水平偏波の補正値Kh〔dB〕および垂直偏波の補正値Kv〔dB〕は、
Kh〔dB〕=Lh〔dBm〕−Lc〔dBm〕 ・・・(2)
Kv〔dB〕=Lv〔dBm〕−Lc〔dBm〕 ・・・(3)
となる。
【0063】
各補正値Kh〔dB〕、Kv〔dB〕は、送信アンテナ16の指向性の影響を受けない受信レベルから求められている。このため、補正値Kh〔dB〕、Kv〔dB〕とした偏差は電波暗室24(測定場所12)や球面移動台42の電波反射の影響のみを表している。
【0064】
影響の評価は、図15または図16で示すように、電波の反射がない状態では、受信レベルはどの位置でも変化しないため、偏差は±0である。偏差の値が大きければ電波の反射が大きく、影響は大きいと評価する。
【0065】
影響が大きい場合にはたとえば、±2〔dB〕を超える場合には、電波暗室24の壁、床面26、球面移動台42の各電波吸収体22の種類(たとえば、特性、形状)、数量、配置を調整し、測定場所12や装備の影響を軽減する。
【0066】
そして、各補正値Kh〔dB〕、Kv〔dB〕をPC54の記憶媒体であるデータ記憶部84に格納する。
【0067】
<EUT(被測定装置)88の放射電力の測定>
【0068】
図10は、EUT(被測定装置)88の放射電力の測定を示している。図10に示す放射電力の測定では、既述の球面電波測定評価システム2から着脱部36により送信アンテナ16およびアダプタ32を外し、送信アンテナ16の位置にEUT88を配置する。この実施の形態では、EUT88は回転支持装置90に設置されている。この回転支持装置90には床面26に設置されている回転台91に支持台92が設置され、この支持台92の上面にEUT88が載置されている。このEUT88の中心は、受信アンテナ14の中心Pと一致している。
【0069】
受信アンテナ14には、既述のネットワークアナライザ48に代えて設置した電力測定装置94を接続する。
【0070】
<放射電力の測定手順>
【0071】
図11は、EUT(被測定装置)の放射電力の測定手順を示している。受信アンテナ14をアンテナ移動装置6により任意の角度に設定し(S31)、EUT88から測定周波数の電波を放射し、受信アンテナ14による受信電力を電力測定装置94で測定する(S32)。この測定値をAとする。
【0072】
PC54には予め測定した受信アンテナ14の角度、測定周波数(希望周波数)に対応する既述の補正値Kh(または補正値Kv)を保存しているので、この補正値Kh(または補正値Kv)をPC54から呼び出し、測定値Aに加算し、これを放射電力Cとする(S33)。この放射電力C〔dBm〕は、
C=A+Kh〔dBm〕または、C=A+Kv〔dBm〕 ・・・(4)
である。
【0073】
このような放射電力の測定によれば、既述の補正値KhまたはKvの加算により、球面移動台44を含めた電波暗室24などの測定場所12の影響を測定結果から排除でき、EUT88に対する精度の高い評価が行える。
【0074】
<EUT88の受信感度の測定>
【0075】
図12は、EUT88の受信感度の測定を示している。図12に示す受信感度の測定では、放射電力の測定と同様に、既述の球面電波測定評価システム2から着脱部36により送信アンテナ16およびアダプタ32を外し、送信アンテナ16の位置に回転支持装置90によりEUT88を配置する。既述の通り、床面26に埋め込まれた回転台91に設置された支持台92の上面にEUT88が設置され、EUT88の中心に受信アンテナ14の中心Pを一致させる。
【0076】
この受信感度の測定では、EUT88の受信機能を評価するので、受信アンテナ14を送信アンテナとして機能させる。つまり、受信アンテナ14にログペリアンテナ58(図5のB)を用いればよい。この場合、ログペリアンテナ58には疑似基地局96を接続する。
【0077】
<受信感度の測定手順>
【0078】
図13は、EUT88の受信感度の測定手順を示している。ログペリアンテナ58(受信アンテナ14)をアンテナ移動装置6により任意の角度に設定する(S41)。疑似基地局96が接続されたログペリアンテナ58から測定周波数(希望周波数)の電波20を放射する(S42)。EUT88が受信エラーになるまで疑似基地局96の送信電力を低下させる(S43)。規定の受信エラーになった受信レベルをA’とする。
【0079】
PC54には予め測定したログペリアンテナ58(受信アンテナ14)の角度、測定周波数に対応する既述の補正値Kh(または補正値Kv)を保存しているので、この補正値Kh(または補正値Kv)をPC54から呼び出し、受信レベルA’に加算し、これを受信感度C’とする(S44)。この受信感度C’〔dBm〕は、
C’=A' +Kh〔dBm〕または、C’=A' +Kv〔dBm〕 ・・・(5)
である。
【0080】
このような受信感度の測定によれば、放射電力の測定と同様に、球面移動台44を含めた電波暗室24などの測定場所12の影響を測定結果から排除でき、受信感度においても、EUT88に対する精度の高い評価が行える。
【0081】
〔第2の実施の形態の効果〕
【0082】
(1) アダプタ32を電波吸収体40で被覆しているので、電波吸収により電波反射を抑制できる。電波の不要反射を抑制し、評価精度を高めることができる。
【0083】
(2) アダプタ32と送信アンテナ16との間に間隔Dが設定され、間隔Dを測定周波数の1波長以上に設定しているので、アダプタ32による送信アンテナ16への電波反射の影響を回避できる。
【0084】
〔第3の実施の形態〕
【0085】
図14は、第3の実施の形態に係る球面電波測定評価システム2を示している。この 図14において、図3と同一部分には同一符号を付してある。
【0086】
図14に示す球面電波測定評価システム2では、2つの移動手段としてアンテナ移動装置6−1、6−2が設置されている。アンテナ移動装置6−1は第2の実施の形態から着脱部36によりアダプタ32および送信アンテナ16が除かれている。すなわち、このアンテナ移動装置6−1には球面移動台44−1、モータ42−1、球面移動台コントローラ(球面移動台コントローラ1)46−1が備えられている。したがって、このアンテナ移動装置6−1では、受信アンテナ14のみを特定球面上で回転させることができる。
【0087】
アンテナ移動装置6−2は、球面移動台44−2、モータ42−2および球面移動台コントローラ(球面移動台コントローラ2)46−2が備えられ、モータ42−2に既述のアダプタ32が取り付けられている。アダプタ32には同様に電波吸収体40が設置され、球面移動台44−2にも球面移動台44−1と同様に、電波吸収体35が設置されている。
【0088】
この第3の実施の形態では、第2の実施の形態と同様の機能を2つのアンテナ移動装置6−1、6−2で実現し、同様の効果を得ている。すなわち、電波測定では、球面移動台44−1、44−2の角度つまり、受信アンテナ14および送信アンテナ16の角度を検出する。PC54では、受信アンテナ14に対する送信アンテナ16の対向角度を球面移動台44−1または球面移動台44−2から算出する。この角度検出には、回転角度を検出するエンコーダを用いればよい。
【0089】
この検出角度はPC54から球面移動台コントローラ46−2に送信する。これにより、球面移動台44−2側のモータ42−2により、送信アンテナ16のアンテナ角度が制御される。これに代え、各球面移動台コントローラ46−1、46−2の双方にPC54から角度制御データを送信し、受信アンテナ14および送信アンテナ16の移動角度を制御してもよい。
【0090】
このように、受信アンテナ14と送信アンテナ16の移動手段を独立した構成とし、それぞれの角度情報を用いてアンテナ角度を制御してもよく、第1の実施の形態と同様に、受信アンテナ14に対する送信アンテナ16の対向面を同一に設定できる。これにより、受信アンテナ14に対する送信アンテナ16の指向性を一定にすることができる。
【0091】
係る構成では、球面での測定システムの電波伝播特性を球面全域にわたり、送信アンテナの指向性の影響をうけることなく、電波暗室24や、装備を含む球面電波測定評価システム2の評価を行うことができ、EUTの評価精度を高めることができる。
【0092】
〔他の実施の形態〕
【0093】
(1) 上記実施の形態では受信アンテナ14にログペリアンテナ58を使用したが、ホーンアンテナなどの他のアンテナであってもよい。
【0094】
(2) 送信アンテナ16には一例としてダイポールアンテナを示したが、他のアンテナであってもよい。
【0095】
(3) 電波暗室24として直方体形状の暗室を示したが、その形状は球体、楕円球体、多面体空間などであってもよい。
【0096】
(4) 上記実施の形態では、受信アンテナ14や送信アンテナ16を単一のアンテナで構成したが、複数のアンテナで構成してもよい。
【0097】
〔測定結果〕
【0098】
図15および図16は自由空間伝搬特性を示している。図15は送信アンテナが持つ指向性が影響している評価データを示している。また、図16は既述の実施の形態により、送信アンテナが持つ指向性の影響が除かれた評価データを示している。
【0099】
いずれのデータも横軸に周波数、縦軸に偏差を取っている。各データは、受信アンテナ14の角度を15〔度〕から165〔度〕の範囲で15〔度〕間隔で測定した場合の測定データであり、伝搬特性の理論値から求めた偏差を示している。各データにおいて、凡例Horiz15は、受信アンテナの水平偏波、角度位置15〔度〕を示しており、他の凡例の数値は、同様に角度位置を示している。
【0100】
図15と図16に示す偏差の比較から明らかなように、送信アンテナ16の指向性の影響を回避した評価データ(図16)では、各周波数において、偏差が極めて小さくなっており、偏差に大きな改善が見られる。
【0101】
以上の通り、電波測定装置および電波測定方法の最も好ましい実施の形態等について説明した。本開示の電波測定装置および電波測定方法は、上記記載に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載され、又は発明を実施するための形態に開示された発明の要旨に基づき、当業者において様々な変形や変更が可能である。斯かる変形や変更が、本発明の範囲に含まれることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0102】
2 球面電波測定評価システム
4 電波送受信部
6、6−1、6−2 アンテナ移動装置
8 測定部
10 演算部
12 測定場所
14 受信アンテナ
16 送信アンテナ
18−1、18−2 軌道
20 電波
22、34、35、40 電波吸収体
24 電波暗室
26 床面
28 支持アーム
30 アンテナ移動アーム
32 アダプタ
36 着脱部
38 支柱部
42 モータ
44 球面移動台
46 球面移動台コントローラ
48 ネットワークアナライザ
50、52 ケーブル
54 パーソナルコンピュータ
56 対向面
58 ログペリアンテナ
60 エレメント
62 信号源
64 信号測定部
66 プロセッサ
74 メモリ
76 RAM
78 表示部
80 入出力部
82 プログラム記憶部
84 データ記憶部
86 等価回路
88 被測定装置
90 回転支持装置
91 回転台
92 支持台
94 電力測定装置
96 疑似基地局



【特許請求の範囲】
【請求項1】
受信アンテナに対して送信アンテナの対向面を同一にして前記受信アンテナに対する前記送信アンテナの指向性を一定にした電波送受信部と、
前記電波送受信部を特定球面上で移動する移動手段と、
前記送信アンテナが放射する電波を受信する前記受信アンテナの受信レベルと、該受信レベルの理論式で与えられる受信レベルとを比較し、前記電波送受信部を設置する測定場所に依存する偏差を演算する演算手段とを備える、
電波測定装置。
【請求項2】
前記移動手段に前記送信アンテナを支持するアダプタを備え、該アダプタの表面に電波吸収体を備える、
請求項1に記載の電波測定装置。
【請求項3】
前記アダプタと前記送信アンテナとの間に1波長以上の間隔を設けた、
請求項1に記載の電波測定装置。
【請求項4】
前記送信アンテナに代えて被測定装置を備え、該被測定装置が放射する電波を前記受信アンテナで受信し、前記演算手段が前記受信アンテナの受信レベルを前記偏差で補正する、
請求項1ないし3の何れかに記載の電波測定装置。
【請求項5】
前記移動手段が、特定球面上で前記受信アンテナを移動させる受信アンテナ移動手段と、前記送信アンテナを前記受信アンテナと独立して特定球面上で移動させる送信アンテナ移動手段とを備え、
前記受信アンテナ移動手段および前記送信アンテナ移動手段の何れか一方または双方により、前記受信アンテナおよび前記送信アンテナとの移動角を制御する制御手段を備える、
請求項1に記載の電波測定装置。
【請求項6】
受信アンテナに対して送信アンテナの対向面を同一にして前記受信アンテナに対する前記送信アンテナの指向性を一定にした電波送受信部を測定場所に配置し、
前記電波送受信部を特定球面上で移動し、
前記送信アンテナが放射する電波を受信する前記受信アンテナの受信レベルと、該受信レベルの理論式で与えられる受信レベルとを比較し、前記電波送受信部を配置する前記測定場所に依存する偏差を演算する、
電波測定方法。
【請求項7】
前記電波送受信部の前記送信アンテナに代えて被測定装置を設置し、
前記被測定装置が放射する電波を前記受信アンテナで受信し、
前記受信アンテナの受信レベルを前記偏差で補正する、
請求項6に記載の電波測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2013−83455(P2013−83455A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221496(P2011−221496)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)