電流検出装置
【課題】高密度に集積した微小電極において電流検出を同時行っても、各電極の拡散層が重なり合わず、高速かつ正確な電流検出を可能とする電流検出装置を提供する。
【解決手段】作用電極W11〜W33を補助電極a11〜a33で取り囲む。作用電極W11〜W33の電位は測定対象物質の酸化還元反応が起こる範囲に保持し、補助電極a11〜a33の電位は作用電極とは逆の酸化還元反応が起こる範囲に保持する。各作用電極には、第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33の2つのスイッチが接続されており、それらを切り替えることにより、作用電極W11〜W33電流を読み出していないときにも定常電流を流し続けることができる。
【解決手段】作用電極W11〜W33を補助電極a11〜a33で取り囲む。作用電極W11〜W33の電位は測定対象物質の酸化還元反応が起こる範囲に保持し、補助電極a11〜a33の電位は作用電極とは逆の酸化還元反応が起こる範囲に保持する。各作用電極には、第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33の2つのスイッチが接続されており、それらを切り替えることにより、作用電極W11〜W33電流を読み出していないときにも定常電流を流し続けることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学分析、バイオセンサ、化学センサに用いられる電流検出装置に関する。特に、体液中の生理活性物質の測定、臨床検査、食品などの製造工程管理、水中の環境計測あるいは,CMOS集積回路、電気化学測定を行うセンサ回路に好適な電流検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶液中に溶解している原子、分子、イオンの検出や定量の方法として電気化学測定があり、電流検出、電位検出、インピーダンス測定などの手法がある。その中で、電気化学反応に伴う電流を検出する方法が広く使用され、分析化学、バイオセンサ、化学センサに用いられている。体液中の生理活性物質、臨床検査、廃液や食品中の重金属イオンなどの検出、体液、食品などの製造工程管理、水中の環境計測などに応用されている。
【0003】
電流検出型の電気化学測定は、測定対象物質の酸化還元反応を起こす作用電極、電位の基準となる参照電極、作用電極から流れた電流の捨て場となる対向電極の3種類の電極を用いる。参照電極は電位の基準となるため、電流を流さないようにする。作用電極で生じた電流は対向電極で処理されるが、対向電極の電位や対向電極上で生じている反応は問題としない。
【0004】
このような3つの電極系の動作を実現する装置をポテンショスタットと呼ぶ。測定対象の水溶液中に浸漬した作用電極と参照電極の間に電圧を印加し、この電圧印加によって作用電極上で分析対象物質の酸化還元反応を発生させ、この反応に伴って流れる電流値を測定することにより分析を行う。
【0005】
電流を測定する代表的な方法としては、アンペロメトリー、ボルタンメトリー、ストリッピングボルタンメトリー(ストリッピング法)あるいはパルスボルタンメトリーなどを挙げることができる。
【0006】
アンペロメトリーでは参照電極の電位を基準にして、作用電極の電位を測定対象物質の酸化還元反応が起こる範囲に保持し、電流の時間変化を測定する手法である。特徴長さが数mm以上のマクロ電極では電流量が時間と共に減少していく。これは、平面上の拡散層が形成されるためである。
【0007】
ボルタンメトリーは、参照電極の電位を基準として被測定電解質溶液中に浸漬された作用電極に印加する電位を変化させて掃引し、このときの電流を測定する方法である。この方法では、測定した電流値から測定対象物質の濃度がわかる。さらに、電位を掃引したときの電流が流れ始める電位から物質の種類がわかるため、定量分析と定性分析を同時に行なうことができる。
【0008】
しかし、この方法では、電位を変化させて掃引を行なうため、電位掃引速度に比例して流れる充電電流や、分析対象の物質以外の共存種(溶存酸素、水素イオンなど)の電気化学反応や、電極表面自体の酸化状態の変化がノイズとなって発生するという欠点がある。
【0009】
特徴長さが数十μm以下の電極を微小電極と呼ぶ。生体内の微小領域や、微量な溶液試料の分析を行うために微小電極が広く研究され、センサや生体細胞内の微量物質の測定などの応用が試みられている。
【0010】
微小電極の多くは、ガラス細管中に白金、金などの金属線、炭素繊維などを封入して使用する。この微小電極の応答挙動は電極形状に依存し、電極サイズが減少するに従って応答速度、S/N比が向上し、原理的には高感度化ができるため種々の電極形状や微細化が検討されている。
【0011】
しかし、電極がμmオーダーに微細化されることにより、検出できる電流値はnAオーダー以下に低下し、測定時に外部ノイズに敏感になる等の理由で測定が困難になる。このため、微小電極の数を増やして(アレイ化して)、微小電極の高電流密度、充電電流に対する高S/N比などの特徴を保持させたままで絶対電流値を増加させることが提案されている。
【0012】
絶縁体と導電体を交互に積層することで、微小電極アレイを作製する方法が報告されている(例えば、特許文献1及び特許文献3参照)。
また、微小電極のアンペロメトリーでは、静止溶液中でも定常電流が得られる。この定常電流から測定対象物質を定量することができる。定常電流が得られるのは、微小電極では球状の拡散層が形成され、あるところで拡散層の拡大が止まり、定常状態となるためである。
【0013】
電解質溶液中で2つの近接した作用電極に別々の電位を印加することで酸化還元種のレドックスサイクルが起こり、作用電極に流れる電流を増幅することができる(例えば、非特許文献1参照)。
【0014】
また、その2つの作用電極にかみ合ったくし形電極を用いれば、くし形電極の一方を掃引して他方の電極電位を保持した測定を行なうことができるため、充電電流の影響が少ない測定が可能となることも知られている。かみ合ったくし形電極を用いることによって、金属錯体などの定量分析における検出下限が向上することが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0015】
レドックスサイクルは近接する二つの電極を別々の電位に設定した場合に生じる現象であるが、電位制御する微小電極の近傍に大きな面積の導電体(マクロ電極)が配置されている場合、一つの電極の電位を制御するだけでレドックスサイクルを起こすことができ、自己誘発レドックスサイクルと呼ばれる(例えば、特許文献4参照)。
【0016】
ストリッピング法では、測定対象物質が電極上に析出する電位をかけ、電解して成分を電極上に濃縮した後、目的成分が溶解する電位に変化させて電流を測定する。自己誘発レドックスサイクルとストリッピング法を組み合わせ、濃度の可逆な酸化還元物質の定量が行われている(例えば、特許文献2参照)。
【0017】
アレイ状に配置した微小電極において、それぞれの電極で電流検出を行い、測定対象物質の濃度分布を可視化する試みがなされている(例えば、非特許文献4参照)。
そのための手法として、CMOS集積回路を用いたものがある。半導体チップ上にポテンショスタット等の電気化学測定を行う回路を組み込み、多チャンネルの電気化学測定を行う報告がなされている。参照電極と対向電極のみの系であれば、1つのオペアンプを用いることで実現できる。オペアンプの反転入力端子に参照電極を、出力端子に対向電極を接続することで溶液を通じてフィードバックがかかり、バーチャルショートより非反転入力端子に印加した電位に参照電極の電位が保持される。
【0018】
さらに、標準CMOSプロセスに電極を形成するポストプロセスを組み合わせることにより、チップ上に電極を作成し、チップ上で電気化学測定を行うことも報告されている。
また、作用電極として、電極にスイッチをつけたセルをアレイ状に並べ、2次元的に電流分布をとる方法が報告されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0019】
電流検出型の電気化学測定を行う回路に必要な特性として、電極の電位を保持しながら電流を測定できること、入力インピーダンスが低いことの2点が挙げられる。
既存の電流検出回路としてオペアンプと抵抗を用いたものがある。この回路はオペアンプのバーチャルショートで電極電位を保持し、抵抗を介して電流を電圧に変換して検出している。抵抗の代わりにキャパシタを用いて定期的に放電することで、ダイナミックレンジを大きくとることも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2006−78404号公報
【特許文献2】特開平6−27081号公報
【特許文献3】特開平5−281181号公報
【特許文献4】特開平3−238350号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】J. Electroanal. Chem., Preliminary note, 267, pp. 291, 1989
【非特許文献2】Anal. Chem., 62, pp.447, 1990
【非特許文献3】Sensors and Actuators A., 135, pp. 315, 2007
【非特許文献4】Biosensors & Bioelectronics., 15 pp. 523−529 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
ところが、上記の微小電極での電流検出法では定常電流が観測されるまで数秒〜数十秒の時間がかかる。このため、複数の電極において、定常電流が観測されるのを待った後、一つ一つ順番に測定していくには非常に長い時間がかかってしまう。したがって、複数の電極の電流検出を高速に行うためには、すべての電極の電位を保持し、すべての電極で定常電流を流し続け、それを順番に読み出していく必要がある。しかし、1つの電流検出回路に、スイッチを介して、複数の電極を接続する回路では、電流検出回路と接続していない電極の電位を保持することができない。このため、複数の電極の電位を同時に保持し、定常電流を流し続けることができず、高速な測定が困難であるという問題がある。
【0023】
さらに、高密度に集積した微小電極において電流検出を同時に行うと、各電極の拡散層が重なり合ってしまう。これにより、近接する電極間で反応物を取り合ってしまい、局所的な測定が困難になる。そして、複数の電流検出セル(S11〜S33)全体で、平板の電極と同様に平面状の拡散層が形成され、線形拡散になる。結果、時間と共に電流量が減少していき、定常電流が観測されない。これにより、反応物の定量が困難になるという問題がある。
【0024】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたもので、高密度に集積した微小電極において電流検出を同時行っても、各電極の拡散層が重なり合わず、高速かつ正確な電流検出を可能とする電流検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
かかる問題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、半導体基板上に複数設けられ、作用電極(W11〜W33)及び作用電極(W11〜W33)の周囲を囲むとともに、作用電極(W11〜W33)とは逆の酸化還元反応が起こるように所定の電位に保持された、補助電極(a11〜a33)を有する電流検出セル(S11〜S33)と、作用電極(W11〜W33)から電流を検出する電流検出手段(80)と、作用電極(W11〜W33)を所定の電位に保持する電位保持手段(86)と、電流検出手段(80)と複数の電流検出セル(S11〜S33)の各作用電極(W11〜W33)との間で、かつ、電流検出セル(S11〜S33)内に設けられた第1スイッチ(Sa11〜Sa33)と、電位保持手段(86)と複数の電流検出セル(S11〜S33)の各作用電極(W11〜W33)との間で、かつ、電流検出セル(S11〜S33)内に設けられた第2スイッチ(Sb11〜Sb33)と、各第1スイッチ(Sa11〜Sa33)のうちいずれか1つをオンにし、該オンにした第1スイッチ(Sa11〜Sa33)以外をオフにすると共に、各第2スイッチ(Sb11〜Sb33)のうち、オンにした第1スイッチ(Sa11〜Sa33)に接続されている作用電極(W11〜W33)に接続されている第2スイッチ(Sb11〜Sb33)をオフとし、それ以外の第2スイッチ(Sb11〜Sb33)をオンとする切換作動を、すべての第1スイッチ(Sa11〜Sa33)及び第2スイッチ(Sb11〜Sb33)に対して順次実行する制御手段(74)と、を備えたことを特徴とする電流検出装置(70)である。
【0026】
このような電流検出装置(70)によれば、作用電極(W11〜W33)の電位を常に所定の電位に保持し電流が流れる状態に保ったまま、複数の作用電極(W11〜W33)の電流を順次切り替えて検出するので、複数の電極の電位を同時に保持し、定常電流を流し続けることができ、高速な電流検出が可能になる。
【0027】
作用電極(W11〜W33)の周囲を補助電極(a11〜a33)が囲み、作用電極(W11〜W33)とは逆の酸化還元反応が起こるように補助電極(a11〜a33)の電位を所定の電位に保持しているため、高密度に集積した微小電極において電流検出を同時に行っても、各電極の拡散層が重なり合わない。
【0028】
したがって、近接する電極間で反応物を取り合うことがなく、局所的な電流検出が可能になる。そして、複数の電流検出セル(S11〜S33)全体で、平板の電極と同様に平面状の拡散層が形成されず、線形拡散とならない。結果、時間と共に電流量が減少することがないので、定常電流を観測することができる。これにより、反応物の正確な定量が可能になる。
【0029】
請求項2に記載の電流検出装置(70)は、請求項1に記載の電流検出装置(70)において、作用電極(W11〜W33)に接続される入力端子と、第1スイッチ(Sa11〜Sa33)及び第2スイッチ(Sb11〜Sb33)に接続される出力端子と、を有し、前記入力端子に入力される作用電極(W11〜W33)の出力電流を保持しつつ、作用電極(W11〜W33)の電位を所定の電位に保持する電流バッファ回路(b11〜b33)を電流検出セル(S11〜S33)内に備えたことを特徴とする。
【0030】
このような電流検出装置(70)によれば、電流バッファ回路(b11〜b33)が入力端子に接続した作用電極(W11〜W33)の電流を複製して出力するため、スイッチの切り替えによる電極電位の変動を抑えることができる。
【0031】
請求項3に記載の電流検出装置(70)は、請求項2に記載の電流検出装置(70)において、電流バッファ回路(b11〜b33)は、作用電極(W11〜W33)の電流を複製するカレントミラー回路と作用電極(W11〜W33)の電流を所定の電位に保持するソースフォロワ回路と、を備えたことを特徴とする。
【0032】
このような電流検出装置(70)によれば、電流検出セル内に消費電力が大きく、占有面積の大きいオペアンプを用いることなく、電流バッファ回路(b11〜b33)を実現できるため、消費電力を低く、占有面積を小さくすることができる。
【0033】
請求項4に記載の電流検出装置(70)は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の電流検出装置(70)において、補助電極(a11〜a33)の幅は作用電極(W11〜W33)の幅の1/2以上であることを特徴とする。
【0034】
このような電流検出装置(70)によれば、作用電極(W11〜W33)で生じる生成物を補助電極(a11〜a33)で十分に処理できるため、拡散層が作用電極(W11〜W33)近傍に留まり、各電極の拡散層が重なり合わない。したがって、反応物の定量をより正確なものとすることができる。
【0035】
請求項5に記載の電流検出装置(70)は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の電流検出装置(70)において、作用電極(W11〜W33)と補助電極(a11〜a33)の間隔は、測定対象物質の拡散距離よりも小さいことを特徴とする。
【0036】
作用電極(W11〜W33)と補助電極(a11〜a33)の間隔が測定対象物質の拡散距離よりも十分に小さければ、レドックスサイクルが効率よく起こるため、作用電極(W11〜W33)の電流が増幅される。したがって、ノイズに影響されないため、反応物の定量をより正確なものとすることができる。
【0037】
請求項6に記載の電流検出装置(70)は、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の電流検出装置(70)において、作用電極(W11〜W33)と補助電極(a11〜a33)の間に電極面から測定対象物質の拡散距離以上の高さを持ったものがないことを特徴とする。
【0038】
作用電極(W11〜W33)と補助電極(a11〜a33)の間に電極面から測定対象物質の拡散距離以上の高さの段差が存在しなければ、作用電極(W11〜W33)で生じた生成物を補助電極(a11〜a33)で十分に処理できるため、拡散層が作用電極(W11〜W33)近傍に留まり、各電極の拡散層が重なり合わない。したがって、反応物の定量をより正確なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1実施形態における電流検出システムの構成図である。
【図2】半導体集積回路チップにおける電極構造を示す図である。
【図3】半導体集積回路チップの断面図である。
【図4】第1実施形態における電流読み出し回路の回路図である。
【図5】電流検出装置の効果をシミュレーションで確認する場合の電極構造の概念図である。
【図6】電流検出時における反応物の濃度分布のシミュレーション結果を示す図である。
【図7】電極電流の時間変化のシミュレーション結果を示す図である。
【図8】シミュレーションにおいて、電極サイズと電流増幅率の関係を示す図である。
【図9】シミュレーションにおいて、電極サイズと電流増幅率の関係を示す図である。
【図10】電極構造の断面図とレドックスサイクルの概念図である。
【図11】第2実施形態における電流読み出し回路の回路図である。
【図12】電流バッファ回路の回路図である。
【図13】オペアンプとスイッチとキャパシタを用いた増幅器の図である。
【図14】電極構造の変形例を占めず図である。
【図15】作用電極と補助電極の間に段差があるときの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
[第1実施形態]
以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0041】
図1は、本発明が適用された電流検出システム1の概略の構成を示すブロック図である。電流検出システム1は、図1に示すように、溶液セル10、参照電極20、対向電極30、オペアンプ40、電圧源50、パーソナルコンピュータ60及び電流検出装置70を備えている。
【0042】
溶液セル10は、アクリルで作製されており、参照電極20、対向電極30を挿入することができる溶液槽となっており、測定溶液12を入れて電流測定を行う。ここで、測定溶液12には支持電解質と酸化還元反応を起こす測定対象物質とが溶解している。
【0043】
参照電極20は、溶液セル10中の測定溶液に浸された状態で用いられ、測定溶液の電流測定の際の電位の基準となる電極であり、銀/塩化銀を素材として形成されている。
対向電極30は、参照電極20と同様に、溶液セル10中の測定溶液に浸された状態で用いられ、後述する電流検出装置70の作用電極W11〜W33から流れた電流の循環経路となる電極であり、白金を素材として形成されている。
【0044】
オペアンプ40は、非反転入力端子42、反転入力端子44及び出力端子46を有しており、非反転入力端子42には、電圧源50の出力が接続され、反転入力端子44には、参照電極20が接続されている。また、出力端子46には、対向電極30が接続されている。
【0045】
このような構成により、オペアンプ40は、バーチャルショートにより、参照電極20の電位は、非反転入力端子42に電圧源50から印加される電位と等しくなり、その値に保持されるとともに、対向電極30に作動電極からの電流を流すことができるようになっている。
【0046】
電圧源50は、出力電圧の値を調整できる定電圧源であり、参照電極20に接続され、参照電極20に一定電圧を印加する。
パーソナルコンピュータ60は、図示しないA/Dコンバータ及び表示画面を備えており、A/Dコンバータには、電流検出装置70の出力側が接続されている。そして、A/Dコンバータで電流検出装置70の出力をデジタル信号に変換し、変換した結果を画面に表示する。
【0047】
電流検出装置70は、測定対象である測定溶液からの電流を検出する装置であり、半導体集積回路チップ72とマイクロコントロールユニット74とを備えている。
ここで、半導体集積回路チップ72の詳細について図2及び図3に基づき説明する。図2は、半導体集積回路チップ72における電極構造を示す図であり、図3は、半導体集積回路チップ72の断面図である。
【0048】
半導体集積回路チップ72には、図2に示すように、半導体基板上に、マトリックス状に複数の電流検出セル(S11〜S33)が設けられている。
各電流検出セル(S11〜S33)は、図2に示すように、略正方形に形成された作用電極W11〜W33及び作用電極W11〜W33の周囲を囲む補助電極a11〜a33を有している。
【0049】
半導体集積回路チップ72の各電極は、図3に示すようにCMOSチップの最上層の金属配線層76をチップ表面に露出させることで作成する。
そして、電極と後述する読み出し回路とは、1.2μm標準CMOSプロセスで作製する。6インチウエハを作製し、チップごとにダイシングする。その後、チップ表面に露出したアルミニウム配線層の上にチタンと金を蒸着し、電極を形成する。
【0050】
チタンは金を密着させるため、アルミニウムの上に蒸着する。そして、エッチングにより電極パターン形成を行う。また、段差部でアルミニウム配線層が露出しないように保護膜78を形成しパターニングする。
【0051】
電極(作用電極W11〜W33及び補助電極a11〜a33)形成プロセスの手順を以下の(1)〜(6)に示す。
(1)チップの洗浄
はじめにチップ表面に付着している有機物や油脂等による汚れを除去するためにアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)、超純水(比抵抗>18.2MOhm)を用いた洗浄を行う。アセトンを用いてチップを1分間超音波洗浄する。
【0052】
チップ表面に付着したアセトンを除去するため、IPAを用いて1分間超音波洗浄を行う。チップ表面に付着したIPAを除去するため、超純水を用いて1分間超音波洗浄を行う。洗浄後、チップを120℃で30分間ベークし、水分を除去する。
(2)拡張ゲート用金属の蒸着
電極としてチタン(Ti)を20nm、金(Au)を50nmをチップ上に蒸着する。装置は抵抗加熱式真空蒸着装置を用いた。蒸着中の真空度は5×10-3Pa以下とする。蒸着レートは2A/sec程度になるように調節する。蒸着したTiは、空気に触れると酸化チタンが生じてしまうため、Tiを蒸着した後、空気に触れないようにAuを蒸着する必要がある。
(3)オプティカルフォトリソグラフィ
スピンコーターによりAu/Tiが積層されたチップ表面にレジスト(OFPR−800LB)を回転塗布する。レジストのスピンコートは500rpmで5秒、4500rpmで30秒の条件で行う。
【0053】
その後、ホットプレートにより90℃で1分間プリベークを行う。続いてマスクアライメント装置を用いて紫外線により7秒の露光を行い、マスクパターンをチップに転写し、現像液(NMD−3)で現像を行う。
【0054】
OFPR−800LB はポジ型レジストであり、紫外線が照射された箇所のレジストの化学構造が変化し、アルカリ溶液に溶解する。現像では現像液に50 秒浸し、速やかに別のビーカーに用意した新しい現像液に10秒浸して行う。
【0055】
二回にわけて現像を行うのは、一度目の現像で現像液に溶解しているレジストがチップ表面に残るのを防止するためである。
その後、超純水で60秒のリンスを2度行ったのち、120℃で30分間ポストベークを行う。
【0056】
なお、電極パターンは、作用電極W11〜W33が25μm角の正方形、補助電極a11〜a33との間隔は5μm、補助電極a11〜a33の幅は25μmである。また、作用電極W11〜W33は170μm周期で配列されている。
(4) Au/Tiエッチング
(3)で作製されたレジストによるマスクパターン通りの電極を形成するために、レジストで覆われていない部分の金属をエッチングする。Auのエッチングを行うため、AURUM−301を用いて30℃で2分間浸す。
【0057】
その後、30秒間の超純水によるリンスを二度行い、窒素ブローにより余分な水分を飛ばす。続いてアンモニア水を加えてpH8.0に調整したWLC−Tを用いて30℃で2分間浸しTiのエッチングを行う。その後、Auのエッチングと同様に30秒間の超純水によるリンスを二度と窒素ブローを行う。
(5) レジストの除去
最後に、レジストの除去を行う。手順はチップをアセトンに一時間以上浸し、レジストを溶解させる。この時、形成した電極が剥がれる可能性があるため、(1)の作業とは異なり、超音波洗浄は避ける。
【0058】
続いて、超音波洗浄を用いずにIPA、超純水にそれぞれ1分間浸し洗浄する。そして窒素ブロー後に、120℃で30分間ベークし余分な水分を蒸発させる。
(6)保護膜78の形成
スピンコーターによりAu/Ti電極がパターニングされたチップ表面に保護膜78として使用するレジスト(SU−8 3005)を回転塗布する。レジストのスピンコートは500rpmで5秒、5500rpmで30秒の条件で行う。
【0059】
その後、ホットプレートにより95℃で3分間プリベークを行う。続いてマスクアライメント装置を用いて紫外線により20秒の露光を行い、マスクパターンをチップに転写し、現像液(SU−8 Developer)で現像を行う。
【0060】
SU−8 3005はネガ型レジストであり、紫外線が照射された箇所で架橋構造を形成し、硬化する。現像では現像液に5分浸した後、別のビーカーに用意した新しい現像液に10秒浸して行う。
【0061】
二回にわけて現像を行うのは、一度目の現像で現像液に溶解しているレジストがチップ表面に残るのを防止するためである。
その後、IPAで10秒のリンスを行ったのち、200℃で2分間ポストベークを行う。
【0062】
作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33、保護膜78をパターニングしたチップの断面図を図2に示す。
電極パターンと保護膜78が形成されたチップをパッケージに保持、パッドへのワイヤボンディングを施す。さらに、配線部分が溶液に浸されるのを防止するためチップ直上にシリコン樹脂の枠を載せ、その外部をシリコン樹脂で埋める。
【0063】
上記(1)〜(6)の手順により、図3に示すように、作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33の形状に最上層の金属配線層76を露出させる。
またシリコン樹脂で封入された半導体集積回路チップ72上に溶液セル10を載せる(図1参照)。
【0064】
(回路構成の説明)
次に、作用電極W11〜W33から検出電流を読み出すための回路の構成について、図4に基づいて説明する。図4は、電流読み出し回路の回路図である。
【0065】
読み出し回路は、増幅器80、保持回路、第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33を備えている。
増幅器80は、作用電極W11〜W33から電流を検出する増幅器であり、図4に示すように、オペアンプ82と抵抗84を有している。また、保持回路は、作用電極W11〜W33を所定の電位に保持する回路であり、電源端子86に接続された図示しない電圧源から入力される所定の電圧を供給するための配線である。
【0066】
ここで、電源端子86に印加される電圧は、測定対象物質の酸化還元反応が起こる範囲の値の電圧である。
第1スイッチSa11〜Sa33は、増幅器80のオペアンプ82の反転入力端子81と複数の電流検出セルS11〜S33の各作用電極W11〜W33との間に設けられたスイッチであり、マイクロコントロールユニット74からの開閉指令信号により開(オフ)/閉(オン)する。
【0067】
第1スイッチSa11〜Sa33は、電流検出セルS11〜S33内に半導体スイッチとして設けられている。
第2スイッチSb11〜Sb33は、電位保持回路と複数の電流検出セルS11〜S33の各作用電極W11〜W33との間に設けられたスイッチであり、マイクロコントロールユニット74からの開閉指令信号により開(オフ)/閉(オン)する。
【0068】
第2スイッチSb11〜Sb33も、第1スイッチSa11〜Sa33と同様に、電流検出セルS11〜S33内に半導体スイッチとして設けられている。
(マイクロコントロールユニット74の作動)
マイクロコントロールユニット74は、図示しないCPU、ROM、RAM及びI/Oを有し、ROMに格納されたプログラムにより以下の
(ア)測定の開始時にはすべてのすべての第1第1スイッチSa11〜Sa33をオンにするとともに、すべての第2スイッチSb11〜Sb33をオンし、すべての作用電極W11〜W33に同時に電圧を印加し、定常電流を得る。
【0069】
(イ)各第1スイッチSa11〜Sa33のうちSa11をオンにし、オンにした第1スイッチSa11以外のSa12〜Sa33をオフにする指令信号を出力する。
(ウ)各第2スイッチSb11〜Sb33のうち、オンにした第1スイッチSa11に接続されている作用電極W11に接続されている第2スイッチSb11をオフとし、それ以外の第2スイッチSb12〜Sb33をオンとする指令信号を出力する。
【0070】
(エ)(イ)及び(ウ)の切換作動を、すべての第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33に対して順次実行する。
(測定時の作動)
電流検出時(測定時)には、電源端子86に印加される電圧を、測定対象物質の酸化還元反応が起こる範囲に保持することにより、半導体集積回路チップ72上の3×3のアレイ状に配置した作用電極W11〜W33の電位を、測定対象物質の酸化還元反応が起こる範囲に保持し、すべての作用電極W11〜W33で定常電流を流し続け、順番に電流を読み出して測定する。
【0071】
このとき、補助電極a11〜a33の電位は作用電極W11〜W33で起こる酸化還元反応と逆の反応が起こる電位に保持しておく。
上記マイクロコントロールユニット74の作動に示したように電流検出装置70を作動させることにより、測定の開始時には、すべての作用電極W11〜W33に同時に電圧を印加し、定常電流が得られてから各電極の電流を読み出していく。
【0072】
そして、例えば、作用電極W11を読み出す際には、第1スイッチSa11、第2スイッチSb12〜Sb33を閉じ、第1スイッチSa12〜Sa33、第2スイッチSb11を開き、全ての作用電極W11〜W33の電位を保持し定常電流を流し続けたまま作用電極W11の電流を読み出す。
【0073】
また、作用電極W33を読み出す際には、第1スイッチSa33、第2スイッチSb11〜Sb32を閉じ、第1スイッチSa11〜Sa32、第2スイッチSb33を開き、全ての作用電極W11〜W33の電位を保持し、定常電流を流し続けたまま作用電極W33の電流を読み出す。
【0074】
また、これは、必ずどちらか一方のスイッチをON状態にしておくことにより、全ての作用電極W11〜W33の電位を保持し、定常電流を流したまま第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33を切り替え、特定セルの読み出しを行う。
【0075】
(シミュレーションによる効果の確認)
シミュレーションにより、図2に示す電極構造の効果を確認した。有限要素法解析ソフトウェアCOMSOL Multiphysicsを用いて、電極と溶液からなる空間において、時間依存の拡散方程式を解くことで、数値計算を行った。計算に用いた構造の概念図を図5に示す。
【0076】
電流検出時における反応物の濃度分布の計算結果を図6に示す。図6(a)は補助電極a11〜a33がない従来の微小電極アレイの計算結果、図6(b)は、図2に示す微小電極アレイの計算結果を示す。
【0077】
図6の右側のスケールバーは反応物の濃度をmM単位で示している。拡散層の様子を比較すると、図6(a)の従来の微小電極アレイでは、近接する電極の拡散層が重なり、平面的拡散になっているが、図6(b)の微小電極アレイでは、補助電極a11〜a33により拡散層が電極近傍に閉じ込められていることが分かる。
【0078】
作用電極W11〜W33の電流量の時間変化の計算結果を図7に示す。図7において、実線が微小電極を単体で用いたとき、破線が従来の微小電極アレイ、一点鎖線が図2に示す微小電極アレイの計算結果をそれぞれ示す。
【0079】
電流量を比較すると、従来の微小電極アレイでは定常電流が観測されず、電流量が減少していくが、図2に示す電極構造では、同じ電極密度でも定常電流が得られる。さらに、単体の微小電極と比較して電流量が増幅され、定常電流が得られるまでの時間が10分の1程度に短縮される。
【0080】
また、微小電極単体での電流量に対しての増幅率を計算し、図8では電極サイズとの関係を求めた。増幅率は微小電極を単体で用いたときの定常電流に対する、提案する電極構造における定常電流の値の比である。微小電極では、電流量が電極の面積ではなく長さに依存するため、長さの比によって特性が決まる。LWE:Lgap:LAEの比が同じであれば増幅率がほぼ同一となることを確認した。
【0081】
また、図9では、LWEに対してLgapの割合が小さいほど増幅率が高まり、LAE/LWEが1.0以上で増幅率が飽和することを確認した。
(電流検出システム1の特徴)
以上説明した電流検出システム1では、図4に示すように1つの作用電極W11〜W33に対して2つのスイッチ(第1スイッチ及び第2スイッチ)を用いている。第1スイッチSa11〜Sa33は読み出し回路と接続し、第2スイッチSb11〜Sb33は外部から入力される作用電極W11〜W33電位に保持されている。
【0082】
また、読み出し回路のオペアンプの非反転入力端子83も同じ電位に保持されている。これにより、電流を読み出さない電極も電位を保持し、電流を流し続けることが可能になる。
【0083】
また、従来の微小電極アレイでは、電流を同時に測定すると定常電流が観測されず、電流量が減少していくが、電流検出システム1の微少電極アレイ構造(図2参照)では、微小電極を同じ密度で集積しても定常電流が得られる。
【0084】
これは、既存の微小電極アレイでは、隣接する電極の拡散層が重なりあい、平面状の拡散層(図2参照)が形成され、線形拡散となるためである。一方、電流検出システム1の微小電極アレイ構造では、補助電極a11〜a33により拡散層の拡大が抑制され、球状の拡散層が形成される
そして、微小電極近傍(図2参照)に拡散層が閉じ込められることにより、従来の電極構造よりも局所的な測定が可能になる。したがって、従来の電極構造よりも密に電極を集積す
また、電流検出システム1のスイッチング回路(第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33)によって、すべての電極で定常電流を流したままスイッチを切り替え、特定セルを流れる電流を読み出すことができる。これにより、多点での電流検出型の電気化学測定を高速に行うことが可能になる。
【0085】
また、電流検出セルS11〜S33に消費電力が大きく、占有面積の大きいオペアンプを用いることなく、電気化学測定回路を構成している。このため、低消費電力で高密度に集積化した電流検出セルS11〜S33で電気化学測定を行うことが可能になる。
【0086】
さらに、補助電極a11〜a33は、作用電極W11〜W33とは逆の酸化還元反応が起こるように所定の電位に保持されている。したがって、図10に示すように、作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33の間でレドックスサイクルが生じる。
【0087】
この、レドックスサイクルにより、同じ微小電極を単体で用いた場合と比較して電流量が増幅される。さらに、拡散層の形状が安定するまでの時間が短くなるため、定常電流が得られるまでの時間が10分の1程度に短縮される。
【0088】
また、電流検出装置70において、補助電極a11〜a33の幅は、作用電極W11〜W33の幅の1/2以上である。したがって、作用電極W11〜W33で生じる生成物を補助電極a11〜a33で十分に処理できるため、拡散層が作用電極W11〜W33近傍に留まり、各電極の拡散層が重なり合わない。したがって、反応物の定量をより正確なものとすることができる。
【0089】
さらに、作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33の間隔は、測定対象物質の拡散距離よりも小さい。したがって、レドックスサイクルが効率よく起こるため、作用電極W11〜W33の電流が増幅される。したがって、ノイズに影響されないため、反応物の定量をより正確なものとすることができる。
【0090】
また、作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33の間に電極面から測定対象物質の拡散距離以上の高さを持ったものがない。したがって、作用電極W11〜W33で生じた生成物を補助電極(a11〜a33)で十分に処理できるため、拡散層が作用電極W11〜W33近傍に留まり、各電極の拡散層が重なり合わない。したがって、反応物の定量をより正確なものとすることができる。
【0091】
[第2実施形態]
次に、第1実施形態における電流検出装置70のスイッチング回路(第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33に電流バッファ回路b11〜b33を組み合わせた電流検出装置100を用いた第2実施形態について図11に基づき説明する。
【0092】
なお、第2実施形態では、電流検出装置100以外は、第1実施形態における電流検出システム1の構成と同じであるため、同じ構成品には同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0093】
第2実施形態における電流検出装置100では、図11に示すように、第1実施形態における電流検出装置70の作用電極W11〜W33とスイッチング回路(第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33)と間に、電流バッファ回路b11〜b33が挿入されている。
【0094】
つまり、作用電極W11〜W33は、図11に示す電流バッファ回路b11〜b33を介して、スイッチング回路と接続されている。
この、電流バッファ回路b11〜b33は電極に流れている電流を複製し、複製した電流を読み出しに用いることで、測定系に及ぼす影響を低減する。この電流バッファ回路b11〜b33は、図12(a)に示すように、図12(b)に示す電流バッファ回路b11〜b33と図12(c)に示すOTA120(Operational Transconductance Amplifier)の組み合わせで構成されている。
【0095】
図12(b)に示す電流バッファ回路b11〜b33は、電流を複製するカレントミラー回路と、電極の電位を保持するソースフォロワ回路という二つの構造からなる。そして、両方向の電流を流すことができるように、これらが上下対称に接続されている。
【0096】
電流バッファ回路b11〜b33の入力端子130から電流が流れ出ていく際には上側の回路が動作し、下側の回路には電流が流れなくなる。また、電流バッファ回路b11〜b33の入力端子130に電流が流れ込む際には下側の回路が動作し、上側の回路には電流が流れなくなる。回路の特性は、電極の電位は接地電位に保持され、入力電流と出力電流が一致する。
【0097】
図12(b)に示す電流バッファ回路b11〜b33には、正常に動作する状態と、電流が流れないハイインピーダンス状態という2つの安定状態が存在する。
電流バッファ回路b11〜b33には、ハイインピーダンス状態となることを防ぐため、図12(a)に示すように、スタートアップ回路として図12(c)に示すOTA120を用いている。
【0098】
OTA120は入力電圧の差を電流に変換する回路である。図12(a)に示すようにOTA120を接続することで、電極電位が接地電位からずれたとき、強制的に電流バッファ回路b11〜b33に電流を流し込むことで回路を動作状態に遷移させることができる。一旦、電流バッファ回路b11〜b33が動作状態になれば、電流バッファ回路b11〜b33が電極電位を接地電位に保持し、電流が流れ、OTA120は動作を停止する。
【0099】
そして、例えば、w11,b11,Sa11,Sb11を1つの電流検出セルS11とし、このセルを図2のようにアレイ状に配置する。各補助電極a11〜a33は配線で接続し、1つの配線ですべての補助電極a11〜a33に電位を与えられるようにする。
【0100】
この回路では、各電流検出セルS11〜S33にオペアンプを用いていないため、消費電力、占有面積が小さく、集積化に適している。
(電流バッファ回路を設ける効果)
作用電極W11〜W33と第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33とを電流バッファ回路b11〜b33を用いずに直接接続すると、測定時の状況によっては、第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33の替え時に電極の電位が変動する場合があるが、電流バッファ回路b11〜b33を用いるによって、スイッチの切り替えによる電位の変動が電極に伝わることを防ぐことが可能になる。
【0101】
したがって、どのような状況下においてもより正確に測定対象物の電流測定を行うことができるようになる。
電流バッファ回路b11〜b33は、作用電極W11〜W33の電流を複製するカレントミラー回路と作用電極W11〜W33の電流を所定の電位に保持するソースフォロワ回路と、を備えているため、電流検出セルS11〜S33内に、消費電力が大きく、占有面積の大きいオペアンプを用いることなく、電流バッファ回路b11〜b33を実現できるため、消費電力を低く、占有面積を小さくすることができる。
【0102】
(その他の実施形態)
本発明の実施の形態は、上記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0103】
(a)電流の読み出し回路では図13に示すように、図4及び図11の増幅器80において、抵抗84を用いる代わりに、スイッチ112とキャパシタ114を用いて電流を電圧に変換してもよい。
【0104】
(b)CMOS回路は標準CMOSプロセスで作成することが望ましいが、用途に応じて任意に選択すれば良い。テクノロジも用途に応じて任意に選択すれば良い。
作用電極W11〜W33及び補助電極a11〜a33(以下、単に電極とも呼ぶ)の作成方法はCMOSチップの最上層の金属配線層76をチップ表面に露出させることで作成する。溶液と接触した金属配線層76が溶解することを防ぎ、電極に機能性を持たせるため、メタルの上に別の金属を載せても良い。電極はチップ上に作成することを想定しているが、別途に作成した電極を集積回路と接続しても良い。
【0105】
(c)各電極の材料は導電性を持っていれば種類は特に制限されず、用途に応じて任意に選択すれば良い。例として、電気伝導性材料や、金属と絶縁体の中間に当たる半導体材料等が挙げられる。
【0106】
電気伝導性材料の具体例としては、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、パラジウム、クロム、ステンレス等の金属類;金、銀、白金等の貴金属類;また、金属に限らず、グラファイト、グラッシーカーボン、パイロリティックグラファイト、導電性カーボンペースト、導電性ダイヤモンド等の炭素系材料;導電性高分子材料などが挙げられる。
【0107】
半導体材料としては、p型及びn型のSi、Ge、ダイヤモンド、GaAs、GaN、InP、GaP、CdS、ZnO、TiO2、SiC、ITO、In2O3、SnO2、CdO、Cd2SnO4などが挙げられる。なお、これらの材料は何れか一種を単独で用いても良く、二種以上を任意の組み合わせで用いても良い。
【0108】
(d)作用電極W11〜W33、補助電極a11〜a33の間の絶縁体や基板の材料も特に制限されず、用途に応じて任意に選択すれば良い。
例としては、無機固体絶縁材料(マイカ、石綿、石綿紙、電気絶縁セメント板)、絶縁磁器類(長石質磁器、アルミナ磁器、ベリリア磁器、ステアタイト磁器、フォルステライト磁器、ウォラストナイト磁器、マグネシア磁器、エライト磁器、ジルコン磁器)、窒化ホウ素、窒化ケイ素、誘電磁器(チタン磁器、チタン酸バリウム磁器)、ガラス(石英ガラス、高ケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、ケイ酸塩ガラス)、ガラスセラミックス(デヒドロセラミックス)、ガラス繊維(ガラスクロス、ガラステープ、蓄電池用ガラスマット)、ほうろう、玄武岩、イオウ(ポルトランドセメント)、繊維質材料、木材、紙電力ケーブル用絶縁、熱可塑性樹脂系材料、ポリエチレン(PE)、ポリエチレン系共重合体、難燃性ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)ポリスチレン(PS)、AS樹脂、ABS樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネイト(PC)、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、フッ化エチレン・プロピレン共重合体(テフロンFEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、ポリ塩化三フッ化エチレン、ポリフッ化ビニデン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド樹脂、アクリル酸系樹脂、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、ポリアクリルニトリル樹脂、アセタール樹脂、熱効果性樹脂(網状高分子)、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラニン樹脂、アルキド樹脂、天然繊維質材料、ゴム系材料、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム、ポリブデン、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、シリコーンゴム、フッ化ゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、熱可塑性ゴム、架橋ポリエチレン(化学架橋ポリエチレン、放射線架橋ポリエチレン、シラン架橋ポリエチレン)等が挙げられる。
【0109】
(d)作用電極W11〜W33の形状は図2に示した正方形に制限されるものではなく、長方形や円形など、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、任意の形状をとることが可能である。また、電極ごとに異なる形状をしていても良い。
【0110】
(e)補助電極a11〜a33も本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて任意の形状をとることが可能である。電極ごとに異なる形状をしていても良い。また、図14のように表面ですべての補助電極a11〜a33を接続しても良い。
【0111】
(f)作用電極W11〜W33の大きさは、測定対象物質の拡散距離(数十μm角)以下が望ましい。一般に微小電極と呼ばれる電極は特徴長さが数十μm以下であり、それ以上の大きさになると微小電極としての特性を示さなくなる。
【0112】
(g)作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33の間隔は、測定対象物質の拡散距離よりも十分短い(数μm以下)ことが望ましい。レドックスサイクルの効率を高め、電流の増幅効果を高めるため、作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33の間隔は小さいほど良い。しかし、間隔が小さすぎると、十分な電気的絶縁性の確保や量産プロセスにおけるハンドリングが難しくなる傾向がある。
【0113】
(h)補助電極a11〜a33の幅は、正方形の作用電極W11〜W33の一辺の長さの半分あれば十分である。一般に補助電極a11〜a33の幅が大きいほど、作用電極W11〜W33で生じた生成物の処理能力が高くなる。補助電極a11〜a33の幅が作用電極W11〜W33の一辺の長さの半分よりも小さくなると、作用電極W11〜W33で生じた生成物を反応物に戻す能力が落ちるので、拡散層の拡大を抑えることができなくなる。
【0114】
また、補助電極a11〜a33の幅を作用電極W11〜W33の一辺の長さの半分より大きくしても生成物の処理能力は変わらない。
(i)作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33の間は平坦である方が良い。図15のように作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33a11の間に段差116がある場合には、段差116は小さい方が好ましい。作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33の間に壁が存在する場合、壁が高くなるほど電流の増幅効果が低下する。
【0115】
これは段差116により、レドックスサイクルの効率が低下するためである。なお、測定対象物質の拡散距離よりも十分に短い(数μm程度)段差があったとしても、拡散層の広がりを抑える効果は大きく低下することはないため、定常電流が得られるまでの時間が長くなることはない。
【0116】
(j)電極の個数は特に制限されない。1個でも複数個でも良い。但し、本発明では複数の電極を用いることを前提としている。
(k)電極を複数用いる場合の配置も任意である。電極は集積して設けることが好ましい。集積の形態は特に制限されないが、例として、複数の行と列とを形成するように並べた、いわゆるアレイ型や、多数の電極を一列に並べたキャピラリーアレイ型が挙げられる。
【0117】
図2に示す電極アレイには、9個の電極が3列×3行のアレイ状に集積して形成されている。
(l)本発明の電極は、個々の作用電極W11〜W33に電圧を印加できるように構成される。本発明では電流バッファ回路b11〜b33とスイッチング回路を用いて電圧を印加しているが、電圧を印加する方式は特に制限されない。
【0118】
(m)電極のパターンを形成する手法も特に制限されない。複数の作用電極W11〜W33をミクロンまたはサブミクロンオーダーの微小間隙によって絶縁して作製する方法としては、フォトリソグラフィとドライエッチング法、あるいはリフトオフ法、あるいはイオンミリング法などの微細加工技術を組み合わせて基板上に作製する方法がある。
【0119】
(n)各作用電極W11〜W33を取り囲む補助電極a11〜a33には、同一の電位を印加することが望ましい。このため、補助電極a11〜a33同士を電気的に接続しても良い。また、各補助電極a11〜a33に配線を設け、別々の電位を印加できるようにしても良い。
【0120】
(o)必ずしも補助電極a11〜a33に流れる電流を測定できるようにする必要はない。任意で補助電極a11〜a33に流れる電流を測定しても良い。
(p)参照電極20、対向電極30の材料は特に制限されず、用途に応じて任意に選択すれば良い。また、CMOSチップ上に作成するなど、作用電極W11〜W33と同じ基板上に作成しても良い。3電極系の動作を実現するためにポテンショスタットを用いても良い。
【0121】
(q)測定に用いる溶媒は特に制限されず、水でも非水溶媒でも構わない。また、固体電解質を用いても良い。
(r)オペアンプ40の反転入力端子44に参照電極20を、出力端子に対向電極30を接続することで、参照電極20と対向電極30の系を構成しても良い。オペアンプ40は集積回路チップ上のものを用いても良い。また、参照電極20に流れる電流が小さくなるため、用いるオペアンプ40は入力電流がpAオーダー以下のものが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明のスイッチング回路と電流バッファ回路b11〜b33を用いることで、多点での電流検出型の電気化学測定を高速に行うことが可能になる。
従来の微小電極アレイでは定常電流が観測されず、電流量が減少していくが、提案した電極構造では、微小電極を同じ密度で集積しても定常電流が得られる。そして、単体で用いた同じサイズの微小電極と比較して電流量が増幅され、定常電流が得られるまでの時間が10分の1程度に短縮される。
【0123】
さらに、微小電極近傍に拡散層が閉じ込められることにより、従来の電極構造よりも局所的な測定が可能になるため、限られたスペースにより多くの電極を集積することが可能になる。また、本発明の微小電極アレイ構造は従来の電流検出に用いられる微小電極アレイのプロセスに大幅な変更を加えることなく実現可能である。
【0124】
よって、電流検出型の電気化学測定を行う各種の分野、たとえば体液中の生理活性物質の測定、臨床検査、食品などの製造工程管理、水中の環境計測において、より高速な測定が可能になり、応用が可能である。
【符号の説明】
【0125】
1…電流検出システム、10…溶液セル、12…測定溶液、20…参照電極、30…対向電極、40…オペアンプ、42…非反転入力端子、44…反転入力端子、46…出力端子、50…電圧源、60…パーソナルコンピュータ、70…電流検出装置、72…半導体集積回路チップ、74…マイクロコントロールユニット、76…金属配線層、78…保護膜、80…増幅器、81…反転入力端子、82…オペアンプ、83…非反転入力端子、84…抵抗、86…電源端子、100…電流検出装置、112…スイッチ、114…キャパシタ、116…段差、120…OTA、130…入力端子、S11〜S33…電流検出セル、Sa11〜Sa33…第1スイッチ、Sb11〜Sb33…第2スイッチ、W11〜W33…作用電極、a11〜a33…補助電極、b11〜b33…電流バッファ回路。
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学分析、バイオセンサ、化学センサに用いられる電流検出装置に関する。特に、体液中の生理活性物質の測定、臨床検査、食品などの製造工程管理、水中の環境計測あるいは,CMOS集積回路、電気化学測定を行うセンサ回路に好適な電流検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、溶液中に溶解している原子、分子、イオンの検出や定量の方法として電気化学測定があり、電流検出、電位検出、インピーダンス測定などの手法がある。その中で、電気化学反応に伴う電流を検出する方法が広く使用され、分析化学、バイオセンサ、化学センサに用いられている。体液中の生理活性物質、臨床検査、廃液や食品中の重金属イオンなどの検出、体液、食品などの製造工程管理、水中の環境計測などに応用されている。
【0003】
電流検出型の電気化学測定は、測定対象物質の酸化還元反応を起こす作用電極、電位の基準となる参照電極、作用電極から流れた電流の捨て場となる対向電極の3種類の電極を用いる。参照電極は電位の基準となるため、電流を流さないようにする。作用電極で生じた電流は対向電極で処理されるが、対向電極の電位や対向電極上で生じている反応は問題としない。
【0004】
このような3つの電極系の動作を実現する装置をポテンショスタットと呼ぶ。測定対象の水溶液中に浸漬した作用電極と参照電極の間に電圧を印加し、この電圧印加によって作用電極上で分析対象物質の酸化還元反応を発生させ、この反応に伴って流れる電流値を測定することにより分析を行う。
【0005】
電流を測定する代表的な方法としては、アンペロメトリー、ボルタンメトリー、ストリッピングボルタンメトリー(ストリッピング法)あるいはパルスボルタンメトリーなどを挙げることができる。
【0006】
アンペロメトリーでは参照電極の電位を基準にして、作用電極の電位を測定対象物質の酸化還元反応が起こる範囲に保持し、電流の時間変化を測定する手法である。特徴長さが数mm以上のマクロ電極では電流量が時間と共に減少していく。これは、平面上の拡散層が形成されるためである。
【0007】
ボルタンメトリーは、参照電極の電位を基準として被測定電解質溶液中に浸漬された作用電極に印加する電位を変化させて掃引し、このときの電流を測定する方法である。この方法では、測定した電流値から測定対象物質の濃度がわかる。さらに、電位を掃引したときの電流が流れ始める電位から物質の種類がわかるため、定量分析と定性分析を同時に行なうことができる。
【0008】
しかし、この方法では、電位を変化させて掃引を行なうため、電位掃引速度に比例して流れる充電電流や、分析対象の物質以外の共存種(溶存酸素、水素イオンなど)の電気化学反応や、電極表面自体の酸化状態の変化がノイズとなって発生するという欠点がある。
【0009】
特徴長さが数十μm以下の電極を微小電極と呼ぶ。生体内の微小領域や、微量な溶液試料の分析を行うために微小電極が広く研究され、センサや生体細胞内の微量物質の測定などの応用が試みられている。
【0010】
微小電極の多くは、ガラス細管中に白金、金などの金属線、炭素繊維などを封入して使用する。この微小電極の応答挙動は電極形状に依存し、電極サイズが減少するに従って応答速度、S/N比が向上し、原理的には高感度化ができるため種々の電極形状や微細化が検討されている。
【0011】
しかし、電極がμmオーダーに微細化されることにより、検出できる電流値はnAオーダー以下に低下し、測定時に外部ノイズに敏感になる等の理由で測定が困難になる。このため、微小電極の数を増やして(アレイ化して)、微小電極の高電流密度、充電電流に対する高S/N比などの特徴を保持させたままで絶対電流値を増加させることが提案されている。
【0012】
絶縁体と導電体を交互に積層することで、微小電極アレイを作製する方法が報告されている(例えば、特許文献1及び特許文献3参照)。
また、微小電極のアンペロメトリーでは、静止溶液中でも定常電流が得られる。この定常電流から測定対象物質を定量することができる。定常電流が得られるのは、微小電極では球状の拡散層が形成され、あるところで拡散層の拡大が止まり、定常状態となるためである。
【0013】
電解質溶液中で2つの近接した作用電極に別々の電位を印加することで酸化還元種のレドックスサイクルが起こり、作用電極に流れる電流を増幅することができる(例えば、非特許文献1参照)。
【0014】
また、その2つの作用電極にかみ合ったくし形電極を用いれば、くし形電極の一方を掃引して他方の電極電位を保持した測定を行なうことができるため、充電電流の影響が少ない測定が可能となることも知られている。かみ合ったくし形電極を用いることによって、金属錯体などの定量分析における検出下限が向上することが知られている(例えば、非特許文献2参照)。
【0015】
レドックスサイクルは近接する二つの電極を別々の電位に設定した場合に生じる現象であるが、電位制御する微小電極の近傍に大きな面積の導電体(マクロ電極)が配置されている場合、一つの電極の電位を制御するだけでレドックスサイクルを起こすことができ、自己誘発レドックスサイクルと呼ばれる(例えば、特許文献4参照)。
【0016】
ストリッピング法では、測定対象物質が電極上に析出する電位をかけ、電解して成分を電極上に濃縮した後、目的成分が溶解する電位に変化させて電流を測定する。自己誘発レドックスサイクルとストリッピング法を組み合わせ、濃度の可逆な酸化還元物質の定量が行われている(例えば、特許文献2参照)。
【0017】
アレイ状に配置した微小電極において、それぞれの電極で電流検出を行い、測定対象物質の濃度分布を可視化する試みがなされている(例えば、非特許文献4参照)。
そのための手法として、CMOS集積回路を用いたものがある。半導体チップ上にポテンショスタット等の電気化学測定を行う回路を組み込み、多チャンネルの電気化学測定を行う報告がなされている。参照電極と対向電極のみの系であれば、1つのオペアンプを用いることで実現できる。オペアンプの反転入力端子に参照電極を、出力端子に対向電極を接続することで溶液を通じてフィードバックがかかり、バーチャルショートより非反転入力端子に印加した電位に参照電極の電位が保持される。
【0018】
さらに、標準CMOSプロセスに電極を形成するポストプロセスを組み合わせることにより、チップ上に電極を作成し、チップ上で電気化学測定を行うことも報告されている。
また、作用電極として、電極にスイッチをつけたセルをアレイ状に並べ、2次元的に電流分布をとる方法が報告されている(例えば、非特許文献3参照)。
【0019】
電流検出型の電気化学測定を行う回路に必要な特性として、電極の電位を保持しながら電流を測定できること、入力インピーダンスが低いことの2点が挙げられる。
既存の電流検出回路としてオペアンプと抵抗を用いたものがある。この回路はオペアンプのバーチャルショートで電極電位を保持し、抵抗を介して電流を電圧に変換して検出している。抵抗の代わりにキャパシタを用いて定期的に放電することで、ダイナミックレンジを大きくとることも考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2006−78404号公報
【特許文献2】特開平6−27081号公報
【特許文献3】特開平5−281181号公報
【特許文献4】特開平3−238350号公報
【非特許文献】
【0021】
【非特許文献1】J. Electroanal. Chem., Preliminary note, 267, pp. 291, 1989
【非特許文献2】Anal. Chem., 62, pp.447, 1990
【非特許文献3】Sensors and Actuators A., 135, pp. 315, 2007
【非特許文献4】Biosensors & Bioelectronics., 15 pp. 523−529 2000
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
ところが、上記の微小電極での電流検出法では定常電流が観測されるまで数秒〜数十秒の時間がかかる。このため、複数の電極において、定常電流が観測されるのを待った後、一つ一つ順番に測定していくには非常に長い時間がかかってしまう。したがって、複数の電極の電流検出を高速に行うためには、すべての電極の電位を保持し、すべての電極で定常電流を流し続け、それを順番に読み出していく必要がある。しかし、1つの電流検出回路に、スイッチを介して、複数の電極を接続する回路では、電流検出回路と接続していない電極の電位を保持することができない。このため、複数の電極の電位を同時に保持し、定常電流を流し続けることができず、高速な測定が困難であるという問題がある。
【0023】
さらに、高密度に集積した微小電極において電流検出を同時に行うと、各電極の拡散層が重なり合ってしまう。これにより、近接する電極間で反応物を取り合ってしまい、局所的な測定が困難になる。そして、複数の電流検出セル(S11〜S33)全体で、平板の電極と同様に平面状の拡散層が形成され、線形拡散になる。結果、時間と共に電流量が減少していき、定常電流が観測されない。これにより、反応物の定量が困難になるという問題がある。
【0024】
本発明は、こうした問題に鑑みなされたもので、高密度に集積した微小電極において電流検出を同時行っても、各電極の拡散層が重なり合わず、高速かつ正確な電流検出を可能とする電流検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0025】
かかる問題を解決するためになされた請求項1に記載の発明は、半導体基板上に複数設けられ、作用電極(W11〜W33)及び作用電極(W11〜W33)の周囲を囲むとともに、作用電極(W11〜W33)とは逆の酸化還元反応が起こるように所定の電位に保持された、補助電極(a11〜a33)を有する電流検出セル(S11〜S33)と、作用電極(W11〜W33)から電流を検出する電流検出手段(80)と、作用電極(W11〜W33)を所定の電位に保持する電位保持手段(86)と、電流検出手段(80)と複数の電流検出セル(S11〜S33)の各作用電極(W11〜W33)との間で、かつ、電流検出セル(S11〜S33)内に設けられた第1スイッチ(Sa11〜Sa33)と、電位保持手段(86)と複数の電流検出セル(S11〜S33)の各作用電極(W11〜W33)との間で、かつ、電流検出セル(S11〜S33)内に設けられた第2スイッチ(Sb11〜Sb33)と、各第1スイッチ(Sa11〜Sa33)のうちいずれか1つをオンにし、該オンにした第1スイッチ(Sa11〜Sa33)以外をオフにすると共に、各第2スイッチ(Sb11〜Sb33)のうち、オンにした第1スイッチ(Sa11〜Sa33)に接続されている作用電極(W11〜W33)に接続されている第2スイッチ(Sb11〜Sb33)をオフとし、それ以外の第2スイッチ(Sb11〜Sb33)をオンとする切換作動を、すべての第1スイッチ(Sa11〜Sa33)及び第2スイッチ(Sb11〜Sb33)に対して順次実行する制御手段(74)と、を備えたことを特徴とする電流検出装置(70)である。
【0026】
このような電流検出装置(70)によれば、作用電極(W11〜W33)の電位を常に所定の電位に保持し電流が流れる状態に保ったまま、複数の作用電極(W11〜W33)の電流を順次切り替えて検出するので、複数の電極の電位を同時に保持し、定常電流を流し続けることができ、高速な電流検出が可能になる。
【0027】
作用電極(W11〜W33)の周囲を補助電極(a11〜a33)が囲み、作用電極(W11〜W33)とは逆の酸化還元反応が起こるように補助電極(a11〜a33)の電位を所定の電位に保持しているため、高密度に集積した微小電極において電流検出を同時に行っても、各電極の拡散層が重なり合わない。
【0028】
したがって、近接する電極間で反応物を取り合うことがなく、局所的な電流検出が可能になる。そして、複数の電流検出セル(S11〜S33)全体で、平板の電極と同様に平面状の拡散層が形成されず、線形拡散とならない。結果、時間と共に電流量が減少することがないので、定常電流を観測することができる。これにより、反応物の正確な定量が可能になる。
【0029】
請求項2に記載の電流検出装置(70)は、請求項1に記載の電流検出装置(70)において、作用電極(W11〜W33)に接続される入力端子と、第1スイッチ(Sa11〜Sa33)及び第2スイッチ(Sb11〜Sb33)に接続される出力端子と、を有し、前記入力端子に入力される作用電極(W11〜W33)の出力電流を保持しつつ、作用電極(W11〜W33)の電位を所定の電位に保持する電流バッファ回路(b11〜b33)を電流検出セル(S11〜S33)内に備えたことを特徴とする。
【0030】
このような電流検出装置(70)によれば、電流バッファ回路(b11〜b33)が入力端子に接続した作用電極(W11〜W33)の電流を複製して出力するため、スイッチの切り替えによる電極電位の変動を抑えることができる。
【0031】
請求項3に記載の電流検出装置(70)は、請求項2に記載の電流検出装置(70)において、電流バッファ回路(b11〜b33)は、作用電極(W11〜W33)の電流を複製するカレントミラー回路と作用電極(W11〜W33)の電流を所定の電位に保持するソースフォロワ回路と、を備えたことを特徴とする。
【0032】
このような電流検出装置(70)によれば、電流検出セル内に消費電力が大きく、占有面積の大きいオペアンプを用いることなく、電流バッファ回路(b11〜b33)を実現できるため、消費電力を低く、占有面積を小さくすることができる。
【0033】
請求項4に記載の電流検出装置(70)は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の電流検出装置(70)において、補助電極(a11〜a33)の幅は作用電極(W11〜W33)の幅の1/2以上であることを特徴とする。
【0034】
このような電流検出装置(70)によれば、作用電極(W11〜W33)で生じる生成物を補助電極(a11〜a33)で十分に処理できるため、拡散層が作用電極(W11〜W33)近傍に留まり、各電極の拡散層が重なり合わない。したがって、反応物の定量をより正確なものとすることができる。
【0035】
請求項5に記載の電流検出装置(70)は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の電流検出装置(70)において、作用電極(W11〜W33)と補助電極(a11〜a33)の間隔は、測定対象物質の拡散距離よりも小さいことを特徴とする。
【0036】
作用電極(W11〜W33)と補助電極(a11〜a33)の間隔が測定対象物質の拡散距離よりも十分に小さければ、レドックスサイクルが効率よく起こるため、作用電極(W11〜W33)の電流が増幅される。したがって、ノイズに影響されないため、反応物の定量をより正確なものとすることができる。
【0037】
請求項6に記載の電流検出装置(70)は、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の電流検出装置(70)において、作用電極(W11〜W33)と補助電極(a11〜a33)の間に電極面から測定対象物質の拡散距離以上の高さを持ったものがないことを特徴とする。
【0038】
作用電極(W11〜W33)と補助電極(a11〜a33)の間に電極面から測定対象物質の拡散距離以上の高さの段差が存在しなければ、作用電極(W11〜W33)で生じた生成物を補助電極(a11〜a33)で十分に処理できるため、拡散層が作用電極(W11〜W33)近傍に留まり、各電極の拡散層が重なり合わない。したがって、反応物の定量をより正確なものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】第1実施形態における電流検出システムの構成図である。
【図2】半導体集積回路チップにおける電極構造を示す図である。
【図3】半導体集積回路チップの断面図である。
【図4】第1実施形態における電流読み出し回路の回路図である。
【図5】電流検出装置の効果をシミュレーションで確認する場合の電極構造の概念図である。
【図6】電流検出時における反応物の濃度分布のシミュレーション結果を示す図である。
【図7】電極電流の時間変化のシミュレーション結果を示す図である。
【図8】シミュレーションにおいて、電極サイズと電流増幅率の関係を示す図である。
【図9】シミュレーションにおいて、電極サイズと電流増幅率の関係を示す図である。
【図10】電極構造の断面図とレドックスサイクルの概念図である。
【図11】第2実施形態における電流読み出し回路の回路図である。
【図12】電流バッファ回路の回路図である。
【図13】オペアンプとスイッチとキャパシタを用いた増幅器の図である。
【図14】電極構造の変形例を占めず図である。
【図15】作用電極と補助電極の間に段差があるときの概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
[第1実施形態]
以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明の実施の形態は、下記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0041】
図1は、本発明が適用された電流検出システム1の概略の構成を示すブロック図である。電流検出システム1は、図1に示すように、溶液セル10、参照電極20、対向電極30、オペアンプ40、電圧源50、パーソナルコンピュータ60及び電流検出装置70を備えている。
【0042】
溶液セル10は、アクリルで作製されており、参照電極20、対向電極30を挿入することができる溶液槽となっており、測定溶液12を入れて電流測定を行う。ここで、測定溶液12には支持電解質と酸化還元反応を起こす測定対象物質とが溶解している。
【0043】
参照電極20は、溶液セル10中の測定溶液に浸された状態で用いられ、測定溶液の電流測定の際の電位の基準となる電極であり、銀/塩化銀を素材として形成されている。
対向電極30は、参照電極20と同様に、溶液セル10中の測定溶液に浸された状態で用いられ、後述する電流検出装置70の作用電極W11〜W33から流れた電流の循環経路となる電極であり、白金を素材として形成されている。
【0044】
オペアンプ40は、非反転入力端子42、反転入力端子44及び出力端子46を有しており、非反転入力端子42には、電圧源50の出力が接続され、反転入力端子44には、参照電極20が接続されている。また、出力端子46には、対向電極30が接続されている。
【0045】
このような構成により、オペアンプ40は、バーチャルショートにより、参照電極20の電位は、非反転入力端子42に電圧源50から印加される電位と等しくなり、その値に保持されるとともに、対向電極30に作動電極からの電流を流すことができるようになっている。
【0046】
電圧源50は、出力電圧の値を調整できる定電圧源であり、参照電極20に接続され、参照電極20に一定電圧を印加する。
パーソナルコンピュータ60は、図示しないA/Dコンバータ及び表示画面を備えており、A/Dコンバータには、電流検出装置70の出力側が接続されている。そして、A/Dコンバータで電流検出装置70の出力をデジタル信号に変換し、変換した結果を画面に表示する。
【0047】
電流検出装置70は、測定対象である測定溶液からの電流を検出する装置であり、半導体集積回路チップ72とマイクロコントロールユニット74とを備えている。
ここで、半導体集積回路チップ72の詳細について図2及び図3に基づき説明する。図2は、半導体集積回路チップ72における電極構造を示す図であり、図3は、半導体集積回路チップ72の断面図である。
【0048】
半導体集積回路チップ72には、図2に示すように、半導体基板上に、マトリックス状に複数の電流検出セル(S11〜S33)が設けられている。
各電流検出セル(S11〜S33)は、図2に示すように、略正方形に形成された作用電極W11〜W33及び作用電極W11〜W33の周囲を囲む補助電極a11〜a33を有している。
【0049】
半導体集積回路チップ72の各電極は、図3に示すようにCMOSチップの最上層の金属配線層76をチップ表面に露出させることで作成する。
そして、電極と後述する読み出し回路とは、1.2μm標準CMOSプロセスで作製する。6インチウエハを作製し、チップごとにダイシングする。その後、チップ表面に露出したアルミニウム配線層の上にチタンと金を蒸着し、電極を形成する。
【0050】
チタンは金を密着させるため、アルミニウムの上に蒸着する。そして、エッチングにより電極パターン形成を行う。また、段差部でアルミニウム配線層が露出しないように保護膜78を形成しパターニングする。
【0051】
電極(作用電極W11〜W33及び補助電極a11〜a33)形成プロセスの手順を以下の(1)〜(6)に示す。
(1)チップの洗浄
はじめにチップ表面に付着している有機物や油脂等による汚れを除去するためにアセトン、イソプロピルアルコール(IPA)、超純水(比抵抗>18.2MOhm)を用いた洗浄を行う。アセトンを用いてチップを1分間超音波洗浄する。
【0052】
チップ表面に付着したアセトンを除去するため、IPAを用いて1分間超音波洗浄を行う。チップ表面に付着したIPAを除去するため、超純水を用いて1分間超音波洗浄を行う。洗浄後、チップを120℃で30分間ベークし、水分を除去する。
(2)拡張ゲート用金属の蒸着
電極としてチタン(Ti)を20nm、金(Au)を50nmをチップ上に蒸着する。装置は抵抗加熱式真空蒸着装置を用いた。蒸着中の真空度は5×10-3Pa以下とする。蒸着レートは2A/sec程度になるように調節する。蒸着したTiは、空気に触れると酸化チタンが生じてしまうため、Tiを蒸着した後、空気に触れないようにAuを蒸着する必要がある。
(3)オプティカルフォトリソグラフィ
スピンコーターによりAu/Tiが積層されたチップ表面にレジスト(OFPR−800LB)を回転塗布する。レジストのスピンコートは500rpmで5秒、4500rpmで30秒の条件で行う。
【0053】
その後、ホットプレートにより90℃で1分間プリベークを行う。続いてマスクアライメント装置を用いて紫外線により7秒の露光を行い、マスクパターンをチップに転写し、現像液(NMD−3)で現像を行う。
【0054】
OFPR−800LB はポジ型レジストであり、紫外線が照射された箇所のレジストの化学構造が変化し、アルカリ溶液に溶解する。現像では現像液に50 秒浸し、速やかに別のビーカーに用意した新しい現像液に10秒浸して行う。
【0055】
二回にわけて現像を行うのは、一度目の現像で現像液に溶解しているレジストがチップ表面に残るのを防止するためである。
その後、超純水で60秒のリンスを2度行ったのち、120℃で30分間ポストベークを行う。
【0056】
なお、電極パターンは、作用電極W11〜W33が25μm角の正方形、補助電極a11〜a33との間隔は5μm、補助電極a11〜a33の幅は25μmである。また、作用電極W11〜W33は170μm周期で配列されている。
(4) Au/Tiエッチング
(3)で作製されたレジストによるマスクパターン通りの電極を形成するために、レジストで覆われていない部分の金属をエッチングする。Auのエッチングを行うため、AURUM−301を用いて30℃で2分間浸す。
【0057】
その後、30秒間の超純水によるリンスを二度行い、窒素ブローにより余分な水分を飛ばす。続いてアンモニア水を加えてpH8.0に調整したWLC−Tを用いて30℃で2分間浸しTiのエッチングを行う。その後、Auのエッチングと同様に30秒間の超純水によるリンスを二度と窒素ブローを行う。
(5) レジストの除去
最後に、レジストの除去を行う。手順はチップをアセトンに一時間以上浸し、レジストを溶解させる。この時、形成した電極が剥がれる可能性があるため、(1)の作業とは異なり、超音波洗浄は避ける。
【0058】
続いて、超音波洗浄を用いずにIPA、超純水にそれぞれ1分間浸し洗浄する。そして窒素ブロー後に、120℃で30分間ベークし余分な水分を蒸発させる。
(6)保護膜78の形成
スピンコーターによりAu/Ti電極がパターニングされたチップ表面に保護膜78として使用するレジスト(SU−8 3005)を回転塗布する。レジストのスピンコートは500rpmで5秒、5500rpmで30秒の条件で行う。
【0059】
その後、ホットプレートにより95℃で3分間プリベークを行う。続いてマスクアライメント装置を用いて紫外線により20秒の露光を行い、マスクパターンをチップに転写し、現像液(SU−8 Developer)で現像を行う。
【0060】
SU−8 3005はネガ型レジストであり、紫外線が照射された箇所で架橋構造を形成し、硬化する。現像では現像液に5分浸した後、別のビーカーに用意した新しい現像液に10秒浸して行う。
【0061】
二回にわけて現像を行うのは、一度目の現像で現像液に溶解しているレジストがチップ表面に残るのを防止するためである。
その後、IPAで10秒のリンスを行ったのち、200℃で2分間ポストベークを行う。
【0062】
作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33、保護膜78をパターニングしたチップの断面図を図2に示す。
電極パターンと保護膜78が形成されたチップをパッケージに保持、パッドへのワイヤボンディングを施す。さらに、配線部分が溶液に浸されるのを防止するためチップ直上にシリコン樹脂の枠を載せ、その外部をシリコン樹脂で埋める。
【0063】
上記(1)〜(6)の手順により、図3に示すように、作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33の形状に最上層の金属配線層76を露出させる。
またシリコン樹脂で封入された半導体集積回路チップ72上に溶液セル10を載せる(図1参照)。
【0064】
(回路構成の説明)
次に、作用電極W11〜W33から検出電流を読み出すための回路の構成について、図4に基づいて説明する。図4は、電流読み出し回路の回路図である。
【0065】
読み出し回路は、増幅器80、保持回路、第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33を備えている。
増幅器80は、作用電極W11〜W33から電流を検出する増幅器であり、図4に示すように、オペアンプ82と抵抗84を有している。また、保持回路は、作用電極W11〜W33を所定の電位に保持する回路であり、電源端子86に接続された図示しない電圧源から入力される所定の電圧を供給するための配線である。
【0066】
ここで、電源端子86に印加される電圧は、測定対象物質の酸化還元反応が起こる範囲の値の電圧である。
第1スイッチSa11〜Sa33は、増幅器80のオペアンプ82の反転入力端子81と複数の電流検出セルS11〜S33の各作用電極W11〜W33との間に設けられたスイッチであり、マイクロコントロールユニット74からの開閉指令信号により開(オフ)/閉(オン)する。
【0067】
第1スイッチSa11〜Sa33は、電流検出セルS11〜S33内に半導体スイッチとして設けられている。
第2スイッチSb11〜Sb33は、電位保持回路と複数の電流検出セルS11〜S33の各作用電極W11〜W33との間に設けられたスイッチであり、マイクロコントロールユニット74からの開閉指令信号により開(オフ)/閉(オン)する。
【0068】
第2スイッチSb11〜Sb33も、第1スイッチSa11〜Sa33と同様に、電流検出セルS11〜S33内に半導体スイッチとして設けられている。
(マイクロコントロールユニット74の作動)
マイクロコントロールユニット74は、図示しないCPU、ROM、RAM及びI/Oを有し、ROMに格納されたプログラムにより以下の
(ア)測定の開始時にはすべてのすべての第1第1スイッチSa11〜Sa33をオンにするとともに、すべての第2スイッチSb11〜Sb33をオンし、すべての作用電極W11〜W33に同時に電圧を印加し、定常電流を得る。
【0069】
(イ)各第1スイッチSa11〜Sa33のうちSa11をオンにし、オンにした第1スイッチSa11以外のSa12〜Sa33をオフにする指令信号を出力する。
(ウ)各第2スイッチSb11〜Sb33のうち、オンにした第1スイッチSa11に接続されている作用電極W11に接続されている第2スイッチSb11をオフとし、それ以外の第2スイッチSb12〜Sb33をオンとする指令信号を出力する。
【0070】
(エ)(イ)及び(ウ)の切換作動を、すべての第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33に対して順次実行する。
(測定時の作動)
電流検出時(測定時)には、電源端子86に印加される電圧を、測定対象物質の酸化還元反応が起こる範囲に保持することにより、半導体集積回路チップ72上の3×3のアレイ状に配置した作用電極W11〜W33の電位を、測定対象物質の酸化還元反応が起こる範囲に保持し、すべての作用電極W11〜W33で定常電流を流し続け、順番に電流を読み出して測定する。
【0071】
このとき、補助電極a11〜a33の電位は作用電極W11〜W33で起こる酸化還元反応と逆の反応が起こる電位に保持しておく。
上記マイクロコントロールユニット74の作動に示したように電流検出装置70を作動させることにより、測定の開始時には、すべての作用電極W11〜W33に同時に電圧を印加し、定常電流が得られてから各電極の電流を読み出していく。
【0072】
そして、例えば、作用電極W11を読み出す際には、第1スイッチSa11、第2スイッチSb12〜Sb33を閉じ、第1スイッチSa12〜Sa33、第2スイッチSb11を開き、全ての作用電極W11〜W33の電位を保持し定常電流を流し続けたまま作用電極W11の電流を読み出す。
【0073】
また、作用電極W33を読み出す際には、第1スイッチSa33、第2スイッチSb11〜Sb32を閉じ、第1スイッチSa11〜Sa32、第2スイッチSb33を開き、全ての作用電極W11〜W33の電位を保持し、定常電流を流し続けたまま作用電極W33の電流を読み出す。
【0074】
また、これは、必ずどちらか一方のスイッチをON状態にしておくことにより、全ての作用電極W11〜W33の電位を保持し、定常電流を流したまま第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33を切り替え、特定セルの読み出しを行う。
【0075】
(シミュレーションによる効果の確認)
シミュレーションにより、図2に示す電極構造の効果を確認した。有限要素法解析ソフトウェアCOMSOL Multiphysicsを用いて、電極と溶液からなる空間において、時間依存の拡散方程式を解くことで、数値計算を行った。計算に用いた構造の概念図を図5に示す。
【0076】
電流検出時における反応物の濃度分布の計算結果を図6に示す。図6(a)は補助電極a11〜a33がない従来の微小電極アレイの計算結果、図6(b)は、図2に示す微小電極アレイの計算結果を示す。
【0077】
図6の右側のスケールバーは反応物の濃度をmM単位で示している。拡散層の様子を比較すると、図6(a)の従来の微小電極アレイでは、近接する電極の拡散層が重なり、平面的拡散になっているが、図6(b)の微小電極アレイでは、補助電極a11〜a33により拡散層が電極近傍に閉じ込められていることが分かる。
【0078】
作用電極W11〜W33の電流量の時間変化の計算結果を図7に示す。図7において、実線が微小電極を単体で用いたとき、破線が従来の微小電極アレイ、一点鎖線が図2に示す微小電極アレイの計算結果をそれぞれ示す。
【0079】
電流量を比較すると、従来の微小電極アレイでは定常電流が観測されず、電流量が減少していくが、図2に示す電極構造では、同じ電極密度でも定常電流が得られる。さらに、単体の微小電極と比較して電流量が増幅され、定常電流が得られるまでの時間が10分の1程度に短縮される。
【0080】
また、微小電極単体での電流量に対しての増幅率を計算し、図8では電極サイズとの関係を求めた。増幅率は微小電極を単体で用いたときの定常電流に対する、提案する電極構造における定常電流の値の比である。微小電極では、電流量が電極の面積ではなく長さに依存するため、長さの比によって特性が決まる。LWE:Lgap:LAEの比が同じであれば増幅率がほぼ同一となることを確認した。
【0081】
また、図9では、LWEに対してLgapの割合が小さいほど増幅率が高まり、LAE/LWEが1.0以上で増幅率が飽和することを確認した。
(電流検出システム1の特徴)
以上説明した電流検出システム1では、図4に示すように1つの作用電極W11〜W33に対して2つのスイッチ(第1スイッチ及び第2スイッチ)を用いている。第1スイッチSa11〜Sa33は読み出し回路と接続し、第2スイッチSb11〜Sb33は外部から入力される作用電極W11〜W33電位に保持されている。
【0082】
また、読み出し回路のオペアンプの非反転入力端子83も同じ電位に保持されている。これにより、電流を読み出さない電極も電位を保持し、電流を流し続けることが可能になる。
【0083】
また、従来の微小電極アレイでは、電流を同時に測定すると定常電流が観測されず、電流量が減少していくが、電流検出システム1の微少電極アレイ構造(図2参照)では、微小電極を同じ密度で集積しても定常電流が得られる。
【0084】
これは、既存の微小電極アレイでは、隣接する電極の拡散層が重なりあい、平面状の拡散層(図2参照)が形成され、線形拡散となるためである。一方、電流検出システム1の微小電極アレイ構造では、補助電極a11〜a33により拡散層の拡大が抑制され、球状の拡散層が形成される
そして、微小電極近傍(図2参照)に拡散層が閉じ込められることにより、従来の電極構造よりも局所的な測定が可能になる。したがって、従来の電極構造よりも密に電極を集積す
また、電流検出システム1のスイッチング回路(第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33)によって、すべての電極で定常電流を流したままスイッチを切り替え、特定セルを流れる電流を読み出すことができる。これにより、多点での電流検出型の電気化学測定を高速に行うことが可能になる。
【0085】
また、電流検出セルS11〜S33に消費電力が大きく、占有面積の大きいオペアンプを用いることなく、電気化学測定回路を構成している。このため、低消費電力で高密度に集積化した電流検出セルS11〜S33で電気化学測定を行うことが可能になる。
【0086】
さらに、補助電極a11〜a33は、作用電極W11〜W33とは逆の酸化還元反応が起こるように所定の電位に保持されている。したがって、図10に示すように、作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33の間でレドックスサイクルが生じる。
【0087】
この、レドックスサイクルにより、同じ微小電極を単体で用いた場合と比較して電流量が増幅される。さらに、拡散層の形状が安定するまでの時間が短くなるため、定常電流が得られるまでの時間が10分の1程度に短縮される。
【0088】
また、電流検出装置70において、補助電極a11〜a33の幅は、作用電極W11〜W33の幅の1/2以上である。したがって、作用電極W11〜W33で生じる生成物を補助電極a11〜a33で十分に処理できるため、拡散層が作用電極W11〜W33近傍に留まり、各電極の拡散層が重なり合わない。したがって、反応物の定量をより正確なものとすることができる。
【0089】
さらに、作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33の間隔は、測定対象物質の拡散距離よりも小さい。したがって、レドックスサイクルが効率よく起こるため、作用電極W11〜W33の電流が増幅される。したがって、ノイズに影響されないため、反応物の定量をより正確なものとすることができる。
【0090】
また、作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33の間に電極面から測定対象物質の拡散距離以上の高さを持ったものがない。したがって、作用電極W11〜W33で生じた生成物を補助電極(a11〜a33)で十分に処理できるため、拡散層が作用電極W11〜W33近傍に留まり、各電極の拡散層が重なり合わない。したがって、反応物の定量をより正確なものとすることができる。
【0091】
[第2実施形態]
次に、第1実施形態における電流検出装置70のスイッチング回路(第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33に電流バッファ回路b11〜b33を組み合わせた電流検出装置100を用いた第2実施形態について図11に基づき説明する。
【0092】
なお、第2実施形態では、電流検出装置100以外は、第1実施形態における電流検出システム1の構成と同じであるため、同じ構成品には同じ符号を付して、その説明を省略する。
【0093】
第2実施形態における電流検出装置100では、図11に示すように、第1実施形態における電流検出装置70の作用電極W11〜W33とスイッチング回路(第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33)と間に、電流バッファ回路b11〜b33が挿入されている。
【0094】
つまり、作用電極W11〜W33は、図11に示す電流バッファ回路b11〜b33を介して、スイッチング回路と接続されている。
この、電流バッファ回路b11〜b33は電極に流れている電流を複製し、複製した電流を読み出しに用いることで、測定系に及ぼす影響を低減する。この電流バッファ回路b11〜b33は、図12(a)に示すように、図12(b)に示す電流バッファ回路b11〜b33と図12(c)に示すOTA120(Operational Transconductance Amplifier)の組み合わせで構成されている。
【0095】
図12(b)に示す電流バッファ回路b11〜b33は、電流を複製するカレントミラー回路と、電極の電位を保持するソースフォロワ回路という二つの構造からなる。そして、両方向の電流を流すことができるように、これらが上下対称に接続されている。
【0096】
電流バッファ回路b11〜b33の入力端子130から電流が流れ出ていく際には上側の回路が動作し、下側の回路には電流が流れなくなる。また、電流バッファ回路b11〜b33の入力端子130に電流が流れ込む際には下側の回路が動作し、上側の回路には電流が流れなくなる。回路の特性は、電極の電位は接地電位に保持され、入力電流と出力電流が一致する。
【0097】
図12(b)に示す電流バッファ回路b11〜b33には、正常に動作する状態と、電流が流れないハイインピーダンス状態という2つの安定状態が存在する。
電流バッファ回路b11〜b33には、ハイインピーダンス状態となることを防ぐため、図12(a)に示すように、スタートアップ回路として図12(c)に示すOTA120を用いている。
【0098】
OTA120は入力電圧の差を電流に変換する回路である。図12(a)に示すようにOTA120を接続することで、電極電位が接地電位からずれたとき、強制的に電流バッファ回路b11〜b33に電流を流し込むことで回路を動作状態に遷移させることができる。一旦、電流バッファ回路b11〜b33が動作状態になれば、電流バッファ回路b11〜b33が電極電位を接地電位に保持し、電流が流れ、OTA120は動作を停止する。
【0099】
そして、例えば、w11,b11,Sa11,Sb11を1つの電流検出セルS11とし、このセルを図2のようにアレイ状に配置する。各補助電極a11〜a33は配線で接続し、1つの配線ですべての補助電極a11〜a33に電位を与えられるようにする。
【0100】
この回路では、各電流検出セルS11〜S33にオペアンプを用いていないため、消費電力、占有面積が小さく、集積化に適している。
(電流バッファ回路を設ける効果)
作用電極W11〜W33と第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33とを電流バッファ回路b11〜b33を用いずに直接接続すると、測定時の状況によっては、第1スイッチSa11〜Sa33及び第2スイッチSb11〜Sb33の替え時に電極の電位が変動する場合があるが、電流バッファ回路b11〜b33を用いるによって、スイッチの切り替えによる電位の変動が電極に伝わることを防ぐことが可能になる。
【0101】
したがって、どのような状況下においてもより正確に測定対象物の電流測定を行うことができるようになる。
電流バッファ回路b11〜b33は、作用電極W11〜W33の電流を複製するカレントミラー回路と作用電極W11〜W33の電流を所定の電位に保持するソースフォロワ回路と、を備えているため、電流検出セルS11〜S33内に、消費電力が大きく、占有面積の大きいオペアンプを用いることなく、電流バッファ回路b11〜b33を実現できるため、消費電力を低く、占有面積を小さくすることができる。
【0102】
(その他の実施形態)
本発明の実施の形態は、上記の実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の形態を採りうる。
【0103】
(a)電流の読み出し回路では図13に示すように、図4及び図11の増幅器80において、抵抗84を用いる代わりに、スイッチ112とキャパシタ114を用いて電流を電圧に変換してもよい。
【0104】
(b)CMOS回路は標準CMOSプロセスで作成することが望ましいが、用途に応じて任意に選択すれば良い。テクノロジも用途に応じて任意に選択すれば良い。
作用電極W11〜W33及び補助電極a11〜a33(以下、単に電極とも呼ぶ)の作成方法はCMOSチップの最上層の金属配線層76をチップ表面に露出させることで作成する。溶液と接触した金属配線層76が溶解することを防ぎ、電極に機能性を持たせるため、メタルの上に別の金属を載せても良い。電極はチップ上に作成することを想定しているが、別途に作成した電極を集積回路と接続しても良い。
【0105】
(c)各電極の材料は導電性を持っていれば種類は特に制限されず、用途に応じて任意に選択すれば良い。例として、電気伝導性材料や、金属と絶縁体の中間に当たる半導体材料等が挙げられる。
【0106】
電気伝導性材料の具体例としては、銅、ニッケル、アルミニウム、チタン、パラジウム、クロム、ステンレス等の金属類;金、銀、白金等の貴金属類;また、金属に限らず、グラファイト、グラッシーカーボン、パイロリティックグラファイト、導電性カーボンペースト、導電性ダイヤモンド等の炭素系材料;導電性高分子材料などが挙げられる。
【0107】
半導体材料としては、p型及びn型のSi、Ge、ダイヤモンド、GaAs、GaN、InP、GaP、CdS、ZnO、TiO2、SiC、ITO、In2O3、SnO2、CdO、Cd2SnO4などが挙げられる。なお、これらの材料は何れか一種を単独で用いても良く、二種以上を任意の組み合わせで用いても良い。
【0108】
(d)作用電極W11〜W33、補助電極a11〜a33の間の絶縁体や基板の材料も特に制限されず、用途に応じて任意に選択すれば良い。
例としては、無機固体絶縁材料(マイカ、石綿、石綿紙、電気絶縁セメント板)、絶縁磁器類(長石質磁器、アルミナ磁器、ベリリア磁器、ステアタイト磁器、フォルステライト磁器、ウォラストナイト磁器、マグネシア磁器、エライト磁器、ジルコン磁器)、窒化ホウ素、窒化ケイ素、誘電磁器(チタン磁器、チタン酸バリウム磁器)、ガラス(石英ガラス、高ケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、アルミノシリケートガラス、ケイ酸塩ガラス)、ガラスセラミックス(デヒドロセラミックス)、ガラス繊維(ガラスクロス、ガラステープ、蓄電池用ガラスマット)、ほうろう、玄武岩、イオウ(ポルトランドセメント)、繊維質材料、木材、紙電力ケーブル用絶縁、熱可塑性樹脂系材料、ポリエチレン(PE)、ポリエチレン系共重合体、難燃性ポリエチレン、ポリプロピレン(PP)、塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)ポリスチレン(PS)、AS樹脂、ABS樹脂、メタクリル樹脂、ポリカーボネイト(PC)、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、ポリ四フッ化エチレン(PTFE)、フッ化エチレン・プロピレン共重合体(テフロンFEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、ポリ塩化三フッ化エチレン、ポリフッ化ビニデン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド樹脂、アクリル酸系樹脂、アクリル樹脂、メタアクリル樹脂、ポリアクリルニトリル樹脂、アセタール樹脂、熱効果性樹脂(網状高分子)、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラニン樹脂、アルキド樹脂、天然繊維質材料、ゴム系材料、天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブチルゴム、ポリブデン、エチレンプロピレンゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、シリコーンゴム、フッ化ゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、熱可塑性ゴム、架橋ポリエチレン(化学架橋ポリエチレン、放射線架橋ポリエチレン、シラン架橋ポリエチレン)等が挙げられる。
【0109】
(d)作用電極W11〜W33の形状は図2に示した正方形に制限されるものではなく、長方形や円形など、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、任意の形状をとることが可能である。また、電極ごとに異なる形状をしていても良い。
【0110】
(e)補助電極a11〜a33も本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて任意の形状をとることが可能である。電極ごとに異なる形状をしていても良い。また、図14のように表面ですべての補助電極a11〜a33を接続しても良い。
【0111】
(f)作用電極W11〜W33の大きさは、測定対象物質の拡散距離(数十μm角)以下が望ましい。一般に微小電極と呼ばれる電極は特徴長さが数十μm以下であり、それ以上の大きさになると微小電極としての特性を示さなくなる。
【0112】
(g)作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33の間隔は、測定対象物質の拡散距離よりも十分短い(数μm以下)ことが望ましい。レドックスサイクルの効率を高め、電流の増幅効果を高めるため、作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33の間隔は小さいほど良い。しかし、間隔が小さすぎると、十分な電気的絶縁性の確保や量産プロセスにおけるハンドリングが難しくなる傾向がある。
【0113】
(h)補助電極a11〜a33の幅は、正方形の作用電極W11〜W33の一辺の長さの半分あれば十分である。一般に補助電極a11〜a33の幅が大きいほど、作用電極W11〜W33で生じた生成物の処理能力が高くなる。補助電極a11〜a33の幅が作用電極W11〜W33の一辺の長さの半分よりも小さくなると、作用電極W11〜W33で生じた生成物を反応物に戻す能力が落ちるので、拡散層の拡大を抑えることができなくなる。
【0114】
また、補助電極a11〜a33の幅を作用電極W11〜W33の一辺の長さの半分より大きくしても生成物の処理能力は変わらない。
(i)作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33の間は平坦である方が良い。図15のように作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33a11の間に段差116がある場合には、段差116は小さい方が好ましい。作用電極W11〜W33と補助電極a11〜a33の間に壁が存在する場合、壁が高くなるほど電流の増幅効果が低下する。
【0115】
これは段差116により、レドックスサイクルの効率が低下するためである。なお、測定対象物質の拡散距離よりも十分に短い(数μm程度)段差があったとしても、拡散層の広がりを抑える効果は大きく低下することはないため、定常電流が得られるまでの時間が長くなることはない。
【0116】
(j)電極の個数は特に制限されない。1個でも複数個でも良い。但し、本発明では複数の電極を用いることを前提としている。
(k)電極を複数用いる場合の配置も任意である。電極は集積して設けることが好ましい。集積の形態は特に制限されないが、例として、複数の行と列とを形成するように並べた、いわゆるアレイ型や、多数の電極を一列に並べたキャピラリーアレイ型が挙げられる。
【0117】
図2に示す電極アレイには、9個の電極が3列×3行のアレイ状に集積して形成されている。
(l)本発明の電極は、個々の作用電極W11〜W33に電圧を印加できるように構成される。本発明では電流バッファ回路b11〜b33とスイッチング回路を用いて電圧を印加しているが、電圧を印加する方式は特に制限されない。
【0118】
(m)電極のパターンを形成する手法も特に制限されない。複数の作用電極W11〜W33をミクロンまたはサブミクロンオーダーの微小間隙によって絶縁して作製する方法としては、フォトリソグラフィとドライエッチング法、あるいはリフトオフ法、あるいはイオンミリング法などの微細加工技術を組み合わせて基板上に作製する方法がある。
【0119】
(n)各作用電極W11〜W33を取り囲む補助電極a11〜a33には、同一の電位を印加することが望ましい。このため、補助電極a11〜a33同士を電気的に接続しても良い。また、各補助電極a11〜a33に配線を設け、別々の電位を印加できるようにしても良い。
【0120】
(o)必ずしも補助電極a11〜a33に流れる電流を測定できるようにする必要はない。任意で補助電極a11〜a33に流れる電流を測定しても良い。
(p)参照電極20、対向電極30の材料は特に制限されず、用途に応じて任意に選択すれば良い。また、CMOSチップ上に作成するなど、作用電極W11〜W33と同じ基板上に作成しても良い。3電極系の動作を実現するためにポテンショスタットを用いても良い。
【0121】
(q)測定に用いる溶媒は特に制限されず、水でも非水溶媒でも構わない。また、固体電解質を用いても良い。
(r)オペアンプ40の反転入力端子44に参照電極20を、出力端子に対向電極30を接続することで、参照電極20と対向電極30の系を構成しても良い。オペアンプ40は集積回路チップ上のものを用いても良い。また、参照電極20に流れる電流が小さくなるため、用いるオペアンプ40は入力電流がpAオーダー以下のものが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明のスイッチング回路と電流バッファ回路b11〜b33を用いることで、多点での電流検出型の電気化学測定を高速に行うことが可能になる。
従来の微小電極アレイでは定常電流が観測されず、電流量が減少していくが、提案した電極構造では、微小電極を同じ密度で集積しても定常電流が得られる。そして、単体で用いた同じサイズの微小電極と比較して電流量が増幅され、定常電流が得られるまでの時間が10分の1程度に短縮される。
【0123】
さらに、微小電極近傍に拡散層が閉じ込められることにより、従来の電極構造よりも局所的な測定が可能になるため、限られたスペースにより多くの電極を集積することが可能になる。また、本発明の微小電極アレイ構造は従来の電流検出に用いられる微小電極アレイのプロセスに大幅な変更を加えることなく実現可能である。
【0124】
よって、電流検出型の電気化学測定を行う各種の分野、たとえば体液中の生理活性物質の測定、臨床検査、食品などの製造工程管理、水中の環境計測において、より高速な測定が可能になり、応用が可能である。
【符号の説明】
【0125】
1…電流検出システム、10…溶液セル、12…測定溶液、20…参照電極、30…対向電極、40…オペアンプ、42…非反転入力端子、44…反転入力端子、46…出力端子、50…電圧源、60…パーソナルコンピュータ、70…電流検出装置、72…半導体集積回路チップ、74…マイクロコントロールユニット、76…金属配線層、78…保護膜、80…増幅器、81…反転入力端子、82…オペアンプ、83…非反転入力端子、84…抵抗、86…電源端子、100…電流検出装置、112…スイッチ、114…キャパシタ、116…段差、120…OTA、130…入力端子、S11〜S33…電流検出セル、Sa11〜Sa33…第1スイッチ、Sb11〜Sb33…第2スイッチ、W11〜W33…作用電極、a11〜a33…補助電極、b11〜b33…電流バッファ回路。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板上に複数設けられ、作用電極及び前記作用電極の周囲を囲むとともに、前記作用電極とは逆の酸化還元反応が起こるように所定の電位に保持された、補助電極を有する電流検出セルと、
前記作用電極から電流を検出する電流検出手段と、
前記作用電極を所定の電位に保持する電位保持手段と、
前記電流検出手段と前記複数の電流検出セルの各作用電極との間で、かつ、前記電流検出セル内に設けられた第1スイッチと、
前記電位保持手段と前記複数の電流検出セルの各作用電極との間で、かつ、電流検出セル内に設けられた第2スイッチと、
前記各第1スイッチのうちいずれか1つをオンにし、該オンにした第1スイッチ以外をオフにすると共に、前記各第2スイッチのうち、前記オンにした第1スイッチに接続されている前記作用電極に接続されている前記第2スイッチをオフとし、それ以外の第2スイッチをオンとする切換作動を、すべての第1スイッチ及び前記第2スイッチに対して順次実行する制御手段と、
を備えたことを特徴とする電流検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電流検出装置において、
前記作用電極に接続される入力端子と、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチに接続される出力端子と、を有し、前記入力端子に入力される前記作用電極の出力電流を保持しつつ、前記作用電極の電位を所定の電位に保持する電流バッファ回路を前記電流検出セル内に備えたことを特徴とする電流検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電流検出装置において、
前記電流バッファ回路は、
前記作用電極の電流を複製するカレントミラー回路と
前記作用電極の電流を所定の電位に保持するソースフォロワ回路と、
を備えたことを特徴とする電流検出装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の電流検出装置において、
前記補助電極の幅は前記作用電極の幅の1/2以上であることを特徴とする電流検出装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の電流検出装置において、
前記作用電極と前記補助電極の間隔は、測定対象物質の拡散距離よりも小さいことを特徴とする電流検出装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の電流検出装置において、
前記作用電極と前記補助電極の間に電極面から測定対象物質の拡散距離以上の高さを持ったものがないことを特徴とする電流検出装置。
【請求項1】
半導体基板上に複数設けられ、作用電極及び前記作用電極の周囲を囲むとともに、前記作用電極とは逆の酸化還元反応が起こるように所定の電位に保持された、補助電極を有する電流検出セルと、
前記作用電極から電流を検出する電流検出手段と、
前記作用電極を所定の電位に保持する電位保持手段と、
前記電流検出手段と前記複数の電流検出セルの各作用電極との間で、かつ、前記電流検出セル内に設けられた第1スイッチと、
前記電位保持手段と前記複数の電流検出セルの各作用電極との間で、かつ、電流検出セル内に設けられた第2スイッチと、
前記各第1スイッチのうちいずれか1つをオンにし、該オンにした第1スイッチ以外をオフにすると共に、前記各第2スイッチのうち、前記オンにした第1スイッチに接続されている前記作用電極に接続されている前記第2スイッチをオフとし、それ以外の第2スイッチをオンとする切換作動を、すべての第1スイッチ及び前記第2スイッチに対して順次実行する制御手段と、
を備えたことを特徴とする電流検出装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電流検出装置において、
前記作用電極に接続される入力端子と、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチに接続される出力端子と、を有し、前記入力端子に入力される前記作用電極の出力電流を保持しつつ、前記作用電極の電位を所定の電位に保持する電流バッファ回路を前記電流検出セル内に備えたことを特徴とする電流検出装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電流検出装置において、
前記電流バッファ回路は、
前記作用電極の電流を複製するカレントミラー回路と
前記作用電極の電流を所定の電位に保持するソースフォロワ回路と、
を備えたことを特徴とする電流検出装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の電流検出装置において、
前記補助電極の幅は前記作用電極の幅の1/2以上であることを特徴とする電流検出装置。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の電流検出装置において、
前記作用電極と前記補助電極の間隔は、測定対象物質の拡散距離よりも小さいことを特徴とする電流検出装置。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の電流検出装置において、
前記作用電極と前記補助電極の間に電極面から測定対象物質の拡散距離以上の高さを持ったものがないことを特徴とする電流検出装置。
【図4】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図10】
【図14】
【図15】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図5】
【図6】
【図10】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−47536(P2012−47536A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188538(P2010−188538)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
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