説明

電界吸収型半導体素子

【課題】線形性の高い消光特性が得られるようにする。
【解決手段】第1導電型半導体クラッド層(n型クラッド層)11、半導体光吸収層12及び第2導電型半導体クラッド層(p型クラッド層)13が順次積層されてなる層構造を有する電界吸収型半導体素子において、第1導電型半導体クラッド層11及び第2導電型半導体クラッド層13にそれぞれ添加されている不純物の濃度を、それぞれ半導体光吸収層12との界面側において高くし、その界面の法線方向に濃度勾配を有するものとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は例えば無線信号を光ファイバで伝送するROF(Radio-on-fiber)システム等の光伝送システムにおいて、光の強度変調を行う光変調器として使用される電界吸収型半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
ROF用途等のアナログ強度変調に用いる光変調器の消光特性としては、線形性が高いことが望ましい。線形性が低いと、高調波歪(ノイズ)が多量に発生するといった状況を招く。
【0003】
電界吸収型半導体素子は半導体光吸収層の積層方向に対する外部印加電圧を変化させ、半導体光吸収層の一端から入射された光波の吸収を変化させることにより、半導体光吸収層の他端から出射する光波の強度を変化させるものであり、特許文献1にはこのような電界吸収型半導体素子(電界吸収型光変調器)において、線形的な消光特性が得られるようにした構造が記載されている。
【0004】
特許文献1では半導体基板上に第1導電型半導体バッファ層、半導体光吸収層及び第2導電型半導体クラッド層が順次積層された層構造を有する電界吸収型半導体素子において、半導体光吸収層と第2導電型半導体クラッド層との間に介在された第1導電型電界緩和層、又は半導体光吸収層と第1導電型半導体バッファ層との間に介在された第2導電型電界緩和層を備えるものとなっている。
【0005】
そして、低印加電圧時には電界緩和層によって外部印加電圧を吸収することにより、光吸収層への内部電界印加を抑制し、つまり電界緩和層によって外部印加電圧が緩和されるようにして、光吸収層に印加される電界強度が外部印加電圧に対して非線形的な振る舞いをするようにしたものであり、この非線形的な電界強度変化が光吸収層の印加電界に対する非線形的な吸収変化を補正することによって、線形的な消光特性が得られるようにしている。
【特許文献1】特開平11−337890号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかるに、上述した特許文献1に記載されているような構造では、ある印加電圧値を越えた時点で光吸収層に内部電界が印加され、光吸収が起こるものであり、よって印加電圧が低い場合には光吸収は起きず、つまり低印加電圧領域において不感領域が存在するものとなっており、また、その点で例えば低電圧駆動には適さない構造となっている。
【0007】
この発明の目的はこの問題に鑑み、線形性の高い消光特性を得ることができ、かつ低印加電圧領域においても光吸収が起き、所望の消光性能が得られる電界吸収型半導体素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明によれば、第1導電型半導体クラッド層、半導体光吸収層及び第2導電型半導体クラッド層が順次積層されてなる層構造を有する電界吸収型半導体素子において、第1導電型半導体クラッド層及び第2導電型半導体クラッド層にそれぞれ添加されている不純物の濃度が、それぞれ半導体光吸収層との界面側が高くされ、前記界面の法線方向に濃度勾配を有しているものとされる。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、線形性の高い消光特性を得ることができる。また、従来のように低印加電圧時における光吸収層への内部電界印加を抑制し、光吸収を抑制する構造のものと異なり、低印加電圧領域においても光吸収が起こるものとなっており、その点で低電圧駆動にも対応できるものとなっている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
まず、最初に、第1導電型半導体クラッド層、半導体光吸収層及び第2導電型半導体クラッド層が順次積層されてなる層構造を有する電界吸収型半導体素子の、印加電圧に対する透過光特性について説明する。なお、第1導電型半導体及び第2導電型半導体はn型半導体及びp型半導体であり、ここではクラッド層をInPとし、光吸収層をInGaAsPとする。
【0011】
図1Aはこのような電界吸収型半導体素子の典型的な透過光特性を示したものであり、印加電圧に対し、透過光量は非線形的な変化をする。
【0012】
一方、消光特性は光吸収係数に依存し、光吸収係数は内部電界強度に比例する(Flanz-Keldysh効果)ため、線形性の高い消光特性を得るためには例えば外部印加電圧に対する内部電界強度を制御すればよい。具体的には、外部印加電圧が低い領域における内部電界強度の変化率(dE/dV)が相対的に大きくなるようにし、即ち光吸収量が大きくなるようにし、かつ外部印加電圧が高い領域における内部電界強度の変化率は小さくなるようにし、即ち光吸収量が小さくなるようにすれば、図1A中に矢印↓↑で示したように透過光特性が変化し、つまり消光特性が変化し、これにより線形性が向上して図1Bに示したような透過光特性(消光特性)が得られることになる。
【0013】
外部印加電圧に対する内部電界強度変化は空間電荷に依存し、即ち半導体中に添加された不純物濃度に依存するため、内部電界強度変化を制御するためには不純物の添加具合を工夫すればよいことになる。
【0014】
図2はこのような観点から考えたこの発明による電界吸収型半導体素子の一実施例の構造を模式的に示したものであり、以下においてはn型半導体クラッド層、p型半導体クラッド層及び半導体光吸収層をそれぞれn型クラッド層、p型クラッド層及び光吸収層と簡略化して言う。
【0015】
この例では電界吸収型半導体素子はn型クラッド層11、光吸収層12及びp型クラッド層13が順次積層されてなる層構造を有し、n型クラッド層11及びp型クラッド層13にそれぞれ添加されている不純物の濃度に濃度勾配(濃度変化)が設けられているものとされる。なお、図2では積層方向を紙面左右方向として示している。また、このような層構造は半導体基板上に例えば気相エピタキシャル成長法により成膜形成されるが、図2においては半導体基板及び電極(電極膜)等の図示は省略している。
【0016】
n型クラッド層11及びp型クラッド層13内部の不純物濃度は図2Bに示したように光吸収層12との界面側がそれぞれ高くされており、その界面の法線方向に濃度勾配を有しているものとされる。この例では濃度勾配はステップ状の変化によって構成され、n型クラッド層11及びp型クラッド層13の不純物濃度はそれぞれ光吸収層12に近づくほど濃度が高くなるように4ステップのステップ状に変化されている。
【0017】
図3はこのように両クラッド層11,13がステップ状の不純物濃度変化を有する場合の外部印加電圧と内部電界強度の関係を示したものであり、図3では説明を簡単にするため、図3Bに示したように2ステップの濃度変化(濃度高と濃度低)の場合を示している。
【0018】
図3Cにおける縦軸は電界強度で、横軸は空間的な位置であり、図3C中、実線は印加電圧大のときの電界強度を示し、破線は印加電圧小のときの電界強度を示す。これら電界強度を示す線と横軸とで囲まれた面積がそれぞれ印加電圧となる。なお、図3Cでは印加電圧大及び小の時の印加電圧を示す面積部分にそれぞれハッチング及び点々を付している。
【0019】
図3Cより、印加電圧大のときの平均電界強度増加量は印加電圧小のときの平均電界強度増加量と比較して小さくなることがわかる。従って、上述した内部電界強度の変化率(dE/dV)の条件、つまり低印加電圧側でdE/dVを大きく、高印加電圧側でdE/dVを小さくするといった条件を満足することができ、これにより消光特性の線形性を向上させることができ、図1Bに示したような線形性の高い消光特性を得られるものとなる。
【0020】
上述した例では各クラッド層11,13内部の不純物濃度勾配をステップ状の濃度変化としているが、これに限らず、光吸収層12との界面の濃度が最も高いことを条件に、濃度勾配は例えば図4Bに示したような位置(x)に対する線形変化としてもよく、また図4Cに示したような位置(x)に対する高次式で表わされるような変化としてもよい。
【0021】
不純物濃度の設定は例えば以下のようにされる。
【0022】
即ち、n型クラッド層11及びp型クラッド層13の不純物濃度は通常1〜5×1017/cm程度であるが、高濃度側はこれよりも高く、低濃度側はこれよりも低くし、濃度一定の場合の消光特性と比較して低印加電圧側で光吸収量が大きく、高印加電圧側で光吸収量が小さくなるようにする。なおかつ消光特性の線形性が向上するように不純物の添加量を適切に調整すればよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】電界吸収型半導体素子の透過光特性を示す図、Aはクラッド層内部の不純物濃度が一定の場合(従来例)、Bはクラッド層内部の不純物濃度に濃度勾配を設けた場合(この発明の実施例)。
【図2】この発明による電界吸収型半導体素子の一実施例の構造を説明するための模式図。
【図3】この発明による電界吸収型半導体素子の一実施例の構造における内部電界強度を説明するための模式図。
【図4】この発明による電界吸収型半導体素子の他の実施例の構造を説明するための模式図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型半導体クラッド層、半導体光吸収層及び第2導電型半導体クラッド層が順次積層されてなる層構造を有する電界吸収型半導体素子であって、
前記第1導電型半導体クラッド層及び前記第2導電型半導体クラッド層にそれぞれ添加されている不純物の濃度が、それぞれ前記半導体光吸収層との界面側が高くされ、前記界面の法線方向に濃度勾配を有していることを特徴とする電界吸収型半導体素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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