説明

電界発光素子

【構成】 ホール輸送層に、下記一般式化1で表わされる有機化合物を含有させた電界発光素子。
【化1】


(式中、B1n及びB2nはそれぞれ独立に選ばれる置換もしくは無置換のアリーレン基、nは1から4の整数を、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5はそれぞれ独立に選ばれる水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基またはアリール基を表す。)
【効果】 本発明の電界発光素子は、低い駆動電圧でも長期間にわたって輝度の高い発光を得ることが出来ると共に耐久性に優れたものである。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は電界発光素子に関し、特に、ホール輸送層に耐久性に富む新規な有機材料を用いた有機電界発光素子に関する。
【0002】
【従来の技術】電界発光素子はその発光励起機構の違いから、(1)発光層内での電子や正孔の局所的な移動により発光体を励起し、交流電界でのみ発光する真性電界発光素子と、(2)電極からの電子と正孔の注入とその発光層内での再結合により発光体を励起し、直流電界で作動するキャリア注入型電界発光素子の二つに分けられる。(1)の真性電界発光型の発光素子は一般にZnSにMn、Cu等を添加した無機化合物を発光体とするものであるが、駆動に200V以上の高い交流電圧を必要とすること、製造コストが高いこと、輝度や耐久性も不十分である等の多くの問題点を有する。
【0003】(2)のキャリア注入型電界発光素子は発光層として薄膜状有機化合物を用いるようになってから高輝度のものが得られるようになった。たとえば、特開昭59−194393、米国特許4,539,507、特開昭63−2956695、米国特許4,720,432及び特開昭63−264692には、陽極、有機質ホール注入輸送体、有機質電子注入性発光体および陰極から成る電界発光素子が開示されている。
【0004】これらの有機電界発光素子においては、100mA/cm2の電流密度において1000cd/m2以上の発光輝度を有し、初期的には十分な発光特性を有している。そして、ホール輸送層材料としては、これまで1,1-Bis(4-di-tolylaminophenyl)-cyclohexaneやN,N,N',N'-Tetra-p-tolyl-4,4'-diaminobiphenyl等のトリフェニルアミン系材料が用いられてきた。しかしながら、これらの従来のホール輸送材料を用いた場合、数時間内に光出力の低下、駆動電圧の上昇が観測され、電界発光素子の耐久性に問題がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来技術の実状に鑑みてなされたものであり、耐久性に優れた有機電界発光素子を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題を解決するため、ホール輸送層の構成要素について鋭意検討した結果、ホール注入電極と電子注入電極の間に、有機ホール輸送層と有機発光層とがホール注入電極側から順に形成された有機2層構造、或いは有機ホール輸送層と有機発光層と有機電子輸送層とがホール注入電極側から順に形成された有機3層構造を有する電界発光素子において、前記有機ホール輸送層が、特定なトリアミン化合物を構成成分とする層である電界発光素子が上記課題に対して有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】すなわち、本発明によれば、ホール注入電極と電子注入電極の間に、有機ホール輸送層と有機発光層とがホール注入電極側から順に形成された有機2層構造、或いは有機ホール輸送層と有機発光層と有機電子輸送層とがホール注入電極側から順に形成された有機3層構造を有する電界発光素子において、前記有機ホール輸送層は、下記一般式化1で表されるトリアミン化合物を構造成分とする層であることを特徴とする有機電界発光素子が提供される。
【化1】


(式中、B1n及びB2nはそれぞれ独立に選ばれる置換もしくは無置換のアリーレン基、nは1から4の整数を、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5はそれぞれ独立に選ばれる水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基またはアリール基を表す。)
【0008】一般式化1におけるB1n及びB2nとしては、たとえばフェニレン基、ビフェニレン基、ターフェニレン基等が挙げられる。またこれらのアリーレン基は以下で定義される置換基(1)〜(9)を複数個有することができる。
(1)ハロゲン原子、トリフルオロメチル基、シアノ基、ニトロ基。
(2)アルキル基:好ましくは、C1〜C20とりわけC1〜C12の直鎖または分岐鎖のアルキル基であり、これらのアルキル基は更に水酸基、シアノ基、フェニル基またはハロゲン原子、C1〜C12のアルコキシ基、アルキル基、もしくはC1〜C12のアルコキシ基で置換されたフェニル基を有しても良い。
(3)アルコキシ基(−OR1):R1は(2)で定義したアルキル基を表す。
(4)アリールオキシ基:アリール基としてフェニル基、ナフチル基が挙げられ、これらはC1〜C12のアルコキシ基、C1〜C12のアルキル基またはハロゲン原子を置換基として含有しても良い。
(5)アルキルチオ基(−SR1):R1は(2)で定義したアルキル基を表す。


したアルキル基、アセチル基、ベンゾイル基等のアシル基、またはアリール基を表わし、アリール基としては、例えば、フェニル基、ビフェニリル基、またはナフチル基が挙げられ、これらはC1〜C12のアルコキシ基、C1〜C12のアルキル基またはハロゲン原子を置換基として含有しても良い。また、ピペリジル基、モルホリル基のように、R1とR2が窒素原子と共同で環を形成しても良い。また、ユロリジル基のようにアリール基状の炭素原子と共同で環を形成しても良い。
(7)アルコキシカルボニル基(−COOR4):R4は(2)で定義したアルキル基、または(4)で定義したアリール基を表す。
(8)アシル基、(−COR4)、スルホニル基、カルバモイル基

:式中、R2、R3及びR4は上記で定義した意味を表す。但し、R2及びR3においてアリール基上の炭素原子と共同で環を形成する場合を除く。
(9)メチレンジオキシ基またはメチレンジチオ基等のアルキレンジオキシ基またはアルキレンジチオ基。
【0009】一般式化1におけるAr1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5がアリール基である場合、それらは炭素環式の芳香族基、または複素環式の芳香族基であり、前者の例としては、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基等の非縮合炭素環式芳香族基及び縮合多環式炭化水素基をあげることができる。縮合多環式炭化水素基としては、好ましくは環を形成する炭素数が18個以下のものが挙げられる。例えば、ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、s−インダセニル基、アセナフチレニル基、プレイアデニル基、アセナフテニル基、フェナレニル基、フェナントリル基、アントリル基、フルオランテニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレニル基、ピレニル基、クリセニル基、ビフェニレニル基、as−インダセニル基、フルオレニル基及びナフタセニル基等が挙げられる。
【0010】Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5が複素環式の芳香族基の例としては、次のような基が挙げられる。ピリジル基、ピリミジル基、ピラジニル基、トリアジニル基、フラニル基、ピロリル基、チオフェニル基、キノリル基、クマリニル基、ベンゾフラニル基、ベンズイミダゾリル基、ベンズオキサゾリル基、ジベンゾフラニル基、ベンゾチオフェニル基、ジベンゾチオフェニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、チアゾリル基、インダゾリル基、ベンゾチアゾリル基、ピリダジニル基、シンノリル基、キナゾリル基、キノキサリル基、フタラジニル基、フタラジンジオニル基、フタルアミジル基、クロモニル基、ナフトラクタミル基、キノロニル基、o−スルホ安息香酸イミジル基、マレイン酸イミジル基、ナフタリジニル基、ベンズイミダゾロニル基、ベンゾオキサゾロニル基、ベンゾチアゾロニル基、ベンゾチアゾチオニル基、キナゾロニル基、キノキサロニル基、フタラゾニル基、ジオキソピリミジニル基、ピリドニル基、イソキノロニル基、イソキノリニル基、イソチアゾリル基、ベンズイソキサゾリル基、ベンズイソチアゾリル基、インダジロニル基、アクリジニル基、アクリドニル基、キナゾリンジオニル基、キノキサリンジオニル基、ベンズオキサジンジオニル基、ベンゾキサジノニル基、及びナフタルイミジル基。また、これらのアリール基は前記で定義した置換基(1)〜(9)を有することができる。
【0011】次に、本発明で使用される一般化式化1で表わされる化合物の具体例を表1に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【表1−(1)】


【表1−(2)】


【表1−(3)】


【0012】表1において、D1〜D9は次の基を意味する。
【表2】


【0013】本発明における電界発光素子は、以上で説明した有機化合物を真空蒸着法、溶液塗布等により、有機化合物全体で2μmより小さい厚み、さらに好ましくは、0.05μm〜0.5μmの厚みに薄膜化することにより有機化合物層を形成し、陽極及び陰極で挾持することにより構成される。
【0014】以下、図面に沿って本発明を更に詳細に説明する。図1は本発明の電界発光素子の代表的な例であって、基板上にホール注入電極(陽極)、発光層及び電子注入電極(陰極)を順次設けた構成のものである。図1R>1に係る電界発光素子は使用する化合物が単一でホール輸送性、電子輸送性、発光性の特性を有する場合あるいは各々の特性を有する化合物を混合して使用する場合に特に有用である。
【0015】図2はホール輸送性化合物と電子輸送性化合物との組み合わせにより発光層を形成したものである。この構成は有機化合物の好ましい特性を組み合わせるものであり、ホール輸送性あるいは電子輸送性の優れた化合物を組み合わせることにより電極からのホールあるいは電子の注入を円滑に行ない発光特性の優れた素子を得ようとするものである。なお、このタイプの電界発光素子の場合、組み合わせる有機化合物によって発光物質が異なるため、どちらの化合物が発光するかは一義的に定めることはできない。
【0016】図3は、ホール輸送性化合物、発光性化合物、電子輸送性化合物の組み合わせにより発光層を形成するものであり、これは上記の機能分離の考えをさらに進めたタイプのものと考えることができる。
【0017】このタイプの電界発光素子はホール輸送性、電子輸送性及び発光性の各特性を適合した化合物を適宜組み合わせることによって得ることができるので、化合物の対象範囲が極めて広くなるため、その選定が容易となる。
【0018】本発明の電界発光素子は発光層に電気的にバイアスを付与し発光させるものであるが、わずかなピンホールによって短絡をおこし素子として機能しなくなる場合もあるので、発光層の形成には皮膜形成性に優れた化合物を併用することが望ましい。更にこのような皮膜形成性に優れた化合物とたとえばポリマー結合剤を組み合わせて発光層を形成することもできる。この場合に使用できるポリマー結合剤としては、ポリスチレン、ポリビニルトルエン、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミド等を挙げることができる。また、電極からの電荷注入効率を向上させるために、電荷注入輸送層を電極との間に別に設けることも可能である。
【0019】ホール注入電極(陽極)材料としてはニッケル、金、白金、パラジウムやこれらの合金或いは酸化錫(SnO2)、酸化錫インジウム(ITO)、沃化銅などの仕事関数の大きな金属やそれらの合金、化合物、更にはポリ(3−メチルチオフェン)、ポリピロール等の導電性ポリマーなどを用いることができる。
【0020】一方、電子注入電極(陰極)材料としては、仕事関数の小さな銀、錫、鉛、マグネシウム、マンガン、アルミニウム、或いはこれらの合金が用いられる。ホール注入電極(陽極)及び電子注入電極(陰極)として用いる材料のうち少なくとも一方は、素子の発光波長領域において十分透明であることが望ましい。具体的には80%以上の光透過率を有することが望ましい。
【0021】本発明においては、透明なホール注入電極(陽極)を透明基板上に形成し、図1〜図3の様な構成とすることが好ましいが、場合によってはその逆の構成をとっても良い。また透明基板としてはガラス、プラスチックフィルム等が使用できる。
【0022】また、本発明においては、この様にして得られた電界発光素子の安定性の向上、特に大気性の水分に対する保護のために、別に保護層を設けたり、素子全体をセル中に入れ、シリコンオイル等を封入するようにしても良い。
【0023】
【実施例】
以下実施例に基いて、本発明をより具体的に説明する。
実施例1ITO(インジウム錫酸化物:シート抵抗20Ω/□)基板を順次、中性洗剤、アセトン、イソプロピルアルコールで超音波洗浄した。そして煮沸したイソプロピルアルコールにITO基板を5分間浸漬し、乾燥した。ホール輸送材料として化合物No.21の化合物を用い10-6torrの真空下でアルミナるつぼを加熱することにより500Åのホール輸送層を蒸着により形成した。次に、下記化2に示す発光層材料を500Å蒸着した。さらに、発光層上に10:1の原子比のMgAg電極を2000Å蒸着した。この電界発光素子は最初、30mA/cm2の電流密度において740cd/m2の発光輝度を示した。その後、100時間経過後、400cd/m2、500時間経過後でも400cd/m2の高輝度を維持した。以下に30mA/cm2の定電流下における発光輝度の変化及び駆動電圧の経時変化を示す。
【化2】


【0024】
【表3】


【0025】比較例1ホール輸送層に下記化3で示されるトリフェニルジアミンを用いた以外は実施例1と同様に電界発光素子を作製した。この素子は最初20mA/cm2の電流密度で750cd/m2の発光輝度を示したが、わずか10時間経過後に40cd/m2の発光輝度しか示さなかった。以下にその結果を示す。
【化3】


【0026】
【表4】


【0027】
【発明の効果】本発明の電界発光素子は有機化合物層の構成材料として前記一般式化1で示される化合物を用いたことから、低い駆動電圧でも長期間にわたって輝度の高い発光を得ることが出来ると共に耐久性に優れたものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る電界発光素子の模式断面図である。
【図2】本発明に係る他の電界発光素子の模式断面図である。
【図3】本発明に係る更に別の電界発光素子の模式断面図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ホール注入電極と電子注入電極の間に、有機ホール輸送層と有機発光層とがホール注入電極側から順に形成された有機2層構造、或いは有機ホール輸送層と有機発光層と有機電子輸送層とがホール注入電極側から順に形成された有機3層構造を有する電界発光素子において、前記有機ホール輸送層は、下記一般式化1で表されるトリアミン化合物を構造成分とする層であることを特徴とする有機電界発光素子。
【化1】


(式中、B1n及びB2nはそれぞれ独立に選ばれる置換もしくは無置換のアリーレン基、nは1から4の整数を、Ar1、Ar2、Ar3、Ar4、Ar5はそれぞれ独立に選ばれる水素原子、置換もしくは無置換のアルキル基またはアリール基を表す。)
【請求項2】 前記トリアミン化合物におけるB1及びB2が、それぞれ独立に選ばれるフェニレン基、ビフェニレン基、又はターフェニレン基であることを特徴とする請求項1記載の有機電界発光素子。
【請求項3】 前記トリアミン化合物におけるAr1とAr2のうち何れか、及びAr3とAr4のうち何れかが、アリール基であることを特徴とする請求項1記載の有機電界発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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