説明

電磁型電気音響変換器

【課題】内部構造が簡単で組み立てを容易にして小型化及び低コスト化を図るようにする。
【解決手段】電磁型電気音響変換器100は、カプセル70と、ベース部10に装着可能なコイル30が巻回されたヨーク20と、ヨーク20の先端部分を囲むように配置された振動板リング40と、ヨーク20に対向配置され振動板リング40の開口面にテンションを掛けて装着された振動板50と、振動板50の面上に固着されたマグネット60とを備えており、携帯電話のスピーカ/マイクロフォン等の使用に適したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は小型で低価格のスピーカやマイクを製造することが可能な電磁型電気音響変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
電気音響変換器は、音や機械的振動を電気信号に変えたり、逆に電気信号を音や機械的振動に変えたりする可逆変換器であり、動電型、電磁型、磁歪型、静電型、圧電型、電歪型等の多種多様なものがある。その中で電磁型電気音響変換器に係るスピーカについては、振動板を近接配置された永久磁石で吸引させた状態で、磁極に巻いたコイルに電気信号を流して磁石の吸引力を変化させ、これにより振動板を振動させて電気信号を音に変換する構成となっている(例えば、特許文献1、2等がある。)。なお、電磁型電気音響変換器に係るマイクロフォンについても全く同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−55683号公報
【特許文献2】特開2002−176694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、携帯電話や玩具等の小型電子機器に使用されるスピーカ等については、組み込みスペースが限られているため、可能な限り小型化且つ薄型化することが要請されている。また、構造を簡素化して更に小型化を低コスト化の要求も強い。しかしながら、上記従来の電磁型電気音響変換器では、振動板とヨークとの位置合わせをするためにサスペンションや弾性体等を用いており、内部構造が複雑となり、小型化や低コスト化を阻害している。
【0005】
本発明は上記背景に鑑みて創作されたものであり、その目的とするところは、内部構造が簡単で小型化及び低コスト化も容易である電磁型電気音響変換器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明の電磁型電気音響変換器は、ベース部と、ベース部に装着された軸状のヨークと、ヨークの外周面に巻回されたコイルと、ヨークの先端部分を囲むように配置された振動板リングと、ヨークの先端面に対してギャップを開けて対向配置され且つ振動板リングの開口面にテンションを掛けて装着された振動板と、振動板の面上に設けられたマグネットとを備える。
【0007】
上記発明による場合、振動板上のマグネットがヨークとの間で吸引される一方で、振動板が振動板リングの開口面にテンションを掛けて装着された構成となっているので、振動板、磁性体、ヨーク等との間の位置合わせが容易になり組み立てが容易になった。しかもサスペンション等の特別の部品が不要となり、これに伴って、内部構造が簡単となり、同変換器の小型化及び低コスト化を図ることが可能になる。
【0008】
同変換器のマグネットについては、ヨークのマグネット対向側面と同一形状を有した薄板とすると良い。
【0009】
上記特徴を有した発明の場合、小型化及び低コスト化に加えて薄型化を図ることが可能になり、これに伴ってSMT(Surface mount technology)対応を容易に図ることが可能になる。
【0010】
上記変換器のマグネットについては、ヨークのマグネット対向側面に対応した形状を有した環状の薄板とすると良い。
【0011】
上記特徴を有した発明の場合、小型化、薄形化及び低コスト化の効果に加えて、マグネットの内外径の変更を通じて周波数特性のチューニングが可能であり、音質向上化を容易に実現可能という効果を奏する。
【0012】
同変換器のヨークについては、コイルを巻回するために凸状又は軸状の形状とすると良い。
【0013】
上記特徴を有した発明の場合、コイルのヨークに対する巻き付け作業が容易となり自動組み立てにも適することから、これらの点で低コスト化を図ることが可能になった。
【0014】
同変換器のベース部については、樹脂製部材でありコイルの入力/出力端子をインサート成形により配設すると良い。
【0015】
上記特徴を有した発明の場合、ベース部の作成段階で入力/出力端子の絶縁や取り付けが行なわれることから自動組み立てに適し、この点で一層の低コスト化を図ることが可能になる。
【0016】
上記変換器において、金属製有底筒状部材であり底面に音孔が形成されたカプセルを更に備えるようにし、振動板及びマグネットを有した振動板リング、ヨーク及びコイルを有したベース部をこの順にカプセルに収容し、カプセルの開放面側の端部を内側に屈曲してベース部の露出面の縁部にかしめるようにすると良い。
【0017】
上記特徴を有した発明の場合、全体が自動組み立てに適することから、この点で一層の低コスト化を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る電磁型電気音響変換器の縦断面図である。
【図2】同電磁型電気音響変換器の分解斜視図である。
【図3】同電磁型電気音響変換器の変形例に係る図であって、振動板リング上の振動板及びマグネットの平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図1及び図2を参照して説明する。ここに例として挙げる電磁型電気音響変換器100は、図外の携帯電話内の基板に実装される基板実装型のものであり、同基板上の音声回路から入力された音声信号を音声に変換するスピーカと、音声を音声信号に変換して同音声回路に出力するマイクロフォンとの両方に使用されている。図1中10はベース部、20はヨーク、30はコイル、40は振動板リング、50は振動板、60はマグネット、70はカプセルである。これらの各部により電磁型電気音響変換器100が構成される。なお、図1中Cはキャビティ、Gはギャップである。
【0020】
ベース部10については、樹脂成形品の円盤状の基板である。ベース部10の中心部にヨーク20を装着するための貫通孔11及び凹部12が形成され、凹部12の周りに入力/出力端子13、13が180 °ピッチで設けられている。
【0021】
貫通孔11はヨーク20のセンター部21の直径に対応した外径を有した円形穴であって、センター部21の端部が装入される。凹部12はベース10の内側面(図1中下側面)に貫通孔11と同心状に形成された円形窪みであって、ヨーク20の鍔部22の直径に対応した外径、下鍔部22の厚みに対応した深さを有し、突起部21が装入される。即ち、貫通穴11及び凹部12によりヨーク20がベース部10に対して装着可能になっている。
【0022】
入力/出力端子13、13は断面L字状の金属片であり、同変換器100をスピーカとして使用する場合には上記音声信号を上記音声回路から入力するための入力端子となる一方、マイクロフォンとして使用する場合には上記音声信号を上記音声回路に出力するための出力端子となる。入力/出力端子13、13はベース部10を作成する際のインサート成形により図示の通りに配設される。入力/出力端子13、13の先端部はベース10の外側面(図1中上側面)から垂直に出され、同面に平行となるように屈曲されている。入力/出力端子13、13の後端部はベース10の内側面から垂直に出されている。
【0023】
ヨーク20については、ベース部10の内側面の中央部に装着可能な軸状磁性体であり、コイル30を巻回するために凸状の形状になっている。具体的には、円柱状のセンター部21と、センター部21の周りに形成された鍔部22とを有している。センター部21の鍔部22から図1中上側に延びた部分が突起部21であり、センター部21の鍔部22から図1中下側に円筒状に延びた部分にコイル30が巻回されるようになっている。
【0024】
コイル30については、ヨーク20の鍔部22から円筒状に延出されたセンタ部21に複数巻回されたコイル線である。コイル30の各端部31、32は入力/出力端子13、13の後端部に各々半田付けされている。コイル30をヨーク20に巻回する際、コイル線にテンションが掛けられ、熱風をあてながら巻回されることにより、コイル線に塗布している接着層が溶融し、冷却後にそれが固まり、コイル30がヨーク20にそのまま固定されるので、コイル30とヨーク20の接着に別途接着材を用いる必要がない。なお、コイル30の線径や巻き数については、同変換器100の入力/出力インピーダンス等に応じて適宜設定すれば良い。
【0025】
振動板リング40については、ベース部10と同一外径を有ーした環状部材であり、カプセル70に組み込まれた状態でベース部10の内側面上にヨーク20の先端部分を囲むように配置される。振動板リング40の材質としては、耐熱性が要求されない場合は樹脂であるが、高耐熱性が要求される場合(例えばSMT対応使用等の場合)はステンレスや真鍮等の金属を用いても良い。
【0026】
振動板50については、振動板リング40の開口面(図2中右側面)にテンションを掛けて装着されたフィルム基材であり、振動板50をピンと張って緊張させた状態(スティフネス制御)で振動板リング40の端部に接着材等を用いて固着されている。振動板50は、カプセル70に組み込まれた状態でヨークの先端面に対してギャップGを開けて対向配置される。
【0027】
振動板50の材質については、可聴周波数帯域において広く平坦な周波数特性を得るのに適した樹脂フィルムであり、本実施形態ではSMT対応が容易なポリエチレンテレフタレート(PEN)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリイミド(PI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の耐熱フィルムを用いている。振動板50の厚みについては、要求される周波数特性やテンション等に応じて適宜設定すれば良い。例えば、振動板50としてPPSを用いた場合、厚みを6μm程度としている。なお、振動板50を振動板リング40に貼る際のテンションについては後述することにする。
【0028】
マグネット60については、振動板50の面上に固着された永久磁石である。本実施形態ではヨーク20及びコイル30に対向配置(ヨーク20のセンター部21の天面(振動板50との対向面)と対向配置)され且つ振動板50の反ヨーク側面に固着されている。マグネット60は、ヨーク20に対する磁気吸引力と振動板50によるテンションとが逆方向に作用し、その結果、図1に示されるようにカプセル70の内底面から浮いた状態で振動板50とともにヨーク20に対してフラットに保持される。
【0029】
よって、振動板50を振動板リング40に貼る際のテンションについては、入出力信号のレベルを十分に考慮しつつ最低共振周波数付近でマグネット60がカプセル70及び/又はヨーク20に衝突することなくフラットに維持される程度に適宜設定すれば良い。
【0030】
カプセル70については、振動板リング40及びベース部10に対応した内径を有した金属製の有底筒状部材であり、底面に音孔71が複数個形成されている。図2に示すように振動板リング40の開放面に振動板50を装着した後、振動板50にマグネット60を固着する。一方、ベース部10にコイル30が巻回されたヨーク20を装着した後、コイル30の各端部31、32と入力/出力端子13、13の後端部との間を半田付けする。このように組み立てられた振動板50及びマグネット60を有した振動板リング40、ヨーク20及びコイル30を有したベース部10をこの順にカプセル70に収容し、カプセル70の開放面側の端部72を内側に屈曲してベース部10の外側面(露出面)の縁部にかしめている。
【0031】
上記電磁型電気音響変換器100による場合、マグネット60、振動板50、ヨーク20等との間の位置合わせが容易であり、従来とは異なりサスペンション等の特別の部品が不要であることから、内部構造が非常に簡単となり、直径4mm程度の小型化を図ることが可能になった。また、ヨーク20及びマグネット60の厚みが薄いことから、1.5mm程度の薄型化を図ることが可能になった。しかもヨーク20が凸状でありコイル30が巻き易く、ヨーク20のベース部10への装着も容易であることから、自動組み立てにより製造することが可能となり、この点も含めて低コスト化を図ることを可能になった。
【0032】
従来のスピーカについては、動電型(ダイナミック型)が主流であり、小型化及び自動化が困難という問題を内在していた。この点、電磁型電気音響変換器100はこの問題を上記した通り全て解消するに至っている。また、携帯電話に使用されるマイクロフォンについては、サイズの点で動電型が使用されずエレクトレットコンデンサ型が使用されていた。この点、電磁型電気音響変換器100は、上記した通り小型化が図られていることから、携帯電話にも十分に使用可能である。しかもエレクトレットコンデンサ型とは異なり、FET等の電子部品が不要であり、ノイズ発生源がないことから、ダイナミックレンジを大幅に拡大可能という効果を有している。さらに、電磁型電気音響変換器100は、スピーカとマイクロフォンとの兼用利用が可能であることから、使い勝手が良いという別意の効果もある。
【0033】
次にマグネット60の変形例を図3を参照して説明する。図3に示すマグネット60’については、円盤状ではなく環状の薄板磁石である。図1及び図2に示す実施形態と異なるのはマグネット60’のみであり、この以外の構成については全く同一である。
【0034】
この変形例による場合、図3に示すように振動板50において、マグネット60’の内側の領域51とマグネット60’の外側の領域53とでダブル振動板が構成される。よって、マグネット60’の内径及び/又は外径の寸法の変更を通じて周波数特性のチューニングが可能となり、音質向上化を容易に実現可能となる。
【0035】
なお、本発明に係る電磁型電気音響変換器は上記実施形態に限定されず、形状を丸形ではなく角形等としたり、適用対象を携帯電話だけでなくヘッドフォンやハンズフリーマイク等の他、超音波送受信用として利用することが可能である。ベース部については、カプセルの一部であっても良く、入力/出力端子の有無やヨークの装着方法等が問われない。ヨークについては、外周面にコイルが巻回可能で且つベース部に装着可能である限り、その形状や材質が問われず、ボビン状等の軸状であっても良い。振動板リングについては、開口面に振動板をテンションを掛けて装着できる限り、その形状や材質が問われず、カプセルの一部であっても良い。振動板については、材質や厚み等を要求される周波数特性に応じて適宜設計変更すれば良い。特に超音波送受信用として利用する際にはステンレス箔、チタン箔等(例えば、厚みが10μm以下)の金属フィルムを使用すると良い。マグネットについては、材質、形状、振動板の面上に設ける方法等が問われない。また、マグネットとヨーク又はカプセルとの接触を防止する手段を設けるようにしても良い。カプセルについては、材質、形状等が問われず外面に入力/出力端子を設けても良い。カプセルに音孔を形成するのではなくベース部に形成する形態であっても良い。
【符号の説明】
【0036】
100 電磁型電気音響変換器
10 ベース部
20 ヨーク
30 コイル
40 振動板リング
50 振動板
60 マグネット
70 カプセル
71 音孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース部と、ベース部に装着された軸状のヨークと、ヨークの外周面に巻回されたコイルと、ヨークの先端部分を囲むように配置された振動板リングと、ヨークの先端面に対してギャップを開けて対向配置され且つ振動板リングの開口面にテンションを掛けて装着された振動板と、振動板の面上に設けられたマグネットとを備えたことを特徴とする電磁型電気音響変換器。
【請求項2】
請求項1記載の電磁型電気音響変換器において、前記マグネットは、前記ヨークのマグネット対向側面と同一形状を有した薄板であることを特徴とする電磁型電気音響変換器。
【請求項3】
請求項1記載の電磁型電気音響変換器において、前記マグネットは、前記ヨークのマグネット対向側面に対応した形状を有した環状の薄板であることをことを特徴とする電磁型電気音響変換器。
【請求項4】
請求項1記載の電磁型電気音響変換器において、前記ヨークは前記コイルを巻回するために凸状又は軸状の形状になっていることを特徴とする電磁型電気音響変換器。
【請求項5】
請求項1記載の電磁型電気音響変換器において、前記ベース部は樹脂製部材であり前記コイルの入力/出力端子がインサート成形により配設されていることを特徴とする電磁型電気音響変換器。
【請求項6】
請求項5記載の電磁型電気音響変換器において、金属製有底筒状部材であり底面に音孔が形成されたカプセルを備え、前記振動板及びマグネットを有した振動板リング、前記ヨーク及びコイルを有したベース部をこの順にカプセルに収容し、カプセルの開放面側の端部が内側に屈曲してベース部の露出面の縁部にかしめられていることを特徴とする電磁型電気音響変換器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−97126(P2011−97126A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−246047(P2009−246047)
【出願日】平成21年10月27日(2009.10.27)
【出願人】(000194918)ホシデン株式会社 (527)
【Fターム(参考)】