説明

電磁変換器及びスピーカ装置

【課題】大きな振幅で振動して再生音を発生することが可能な電磁変換器、及び、正面投影面積を抑えながら再生音の放射面積を増大して低音再生能力の向上ならびに出力音圧レベルの向上を図り、また強い指向性を生じさせずに良好な音響出力を行う。
【解決手段】振動板にポリイミドフィルムよりも大振幅の振動を発生させたときに変形し難い樹脂あるいはコーン紙を用い、振動板の振動を支持部材へ伝えないダンパを介して当該振動板を支持部材に支持させた電磁変換器2を、屏風状に形成された筐体3の正面に複数連ねて備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えばオーディオ信号を再生する電磁変換器及び該電磁変換器を用いたスピーカ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電磁変換器は、平行縞状の多極着磁パターンを形成させた永久磁石板、永久磁石板と対向するように配置される樹脂フィルムの振動膜、及び、永久磁石板と振動膜との間に配置される緩衝部材によって構成されている。永久磁石板の多極着磁パターンは、極性の異なる磁極を交互に、また一定の間隔で配置したものである。振動膜は、永久磁石板に配置されている異なる磁極同士の間隙部分に生じる、いわゆる着磁のニュートラルゾーンと称される部分と対向するように、蛇行形状の導体パターンからなるコイルを膜面全体に形成させている。
このような構成において振動膜のコイルにオーディオ信号の電流が流れると、コイルと永久磁石板の多極着磁パターンが電磁結合し、振動膜にフレミングの法則に則ってオーディオ振動が発生する(例えば、特許文献1参照)。上記の永久磁石板、振動膜、及び緩衝部材は電磁変換器のフレームに覆われて支持され、スピーカ装置の筐体等の正面に取り付けられている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−331596号公報(第3〜5頁、図1,2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の電磁変換器は以上のように構成されているので、フィルム状の振動膜によって低音を良好に再生するとき、また、音圧レベルを向上させるためには、振動膜の面積を増大する、即ち電磁変換器等の外形寸法を大きくする、または振動膜の振幅量を大きくしなければならず、外形の大型化が避けられず、また薄膜の振動膜を用いると大振幅の振動によって変形してしまうという課題があった。
また、振動膜は膜面の鉛直方向に振動するため、電磁変換器の出力音声は指向性が強いものとなって、良好な音響が得られるように再生音を放射するハイファイスピーカ装置として使用することには不向きであるという課題があった。
【0005】
この発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、大きな振幅で振動して再生音を発生することが可能な電磁変換器、及び、正面投影面積を抑えながら再生音の放射面積を増大して低音再生能力の向上ならびに出力音圧レベルの向上を図り、また強い指向性を生じさせずに良好な音響出力を行うスピーカ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明に係る電磁変換器は、蛇行コイルパターンを形成させた振動板の縁端部に該振動板の振動を支持部材へ伝えないダンパを備え、振動板を該ダンパを介して支持部材に支持させるものである。
【0007】
この発明に係るスピーカ装置は、屏風状に形成された筐体の正面に複数の電磁変換器を屏風状に連ねて備えるものである。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、電磁変換器の振動板をダンパを介して支持部材に支持させたので、振動板の振動を妨げずにオーディオ再生音を発生させることができる。
また、複数の電磁変換器を屏風状に配置したので、正面投影面積を抑えながらオーディオ再生音を放射する面積を稼ぎ、低音再生能力の向上、音圧レベル向上、及び無指向性の音響出力を得ることができるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、この発明の実施の一形態を説明する。
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1によるスピーカ装置の構成を示す説明図である。この図は、実施の形態1によるスピーカ装置1を斜視した概観を示すもので、後述するように構成された電磁変換器2をスピーカ装置1の筐体3に備えた態様を示したものである。
筐体3は、単一平面から成る装着面を複数連ねて屏風状に折り畳んだ形状を正面に向けて形成しており、各装着面に1台ずつ電磁変換器2を装着すると各々の電磁変換器2が異なる方向へオーディオ再生音を放射するように構成されている。図1に例示した筐体3には12台の電磁変換器2が装着され、図中左方向へ再生音の放射を行うように6台、右方向へ再生音の放射を行うように6台が配置されている。筐体3の上記装着面は、図示したように角度αをもって開いた屏風状に形成されたもので、各装着面に電磁変換器2を各々装着したときに、対向する二つの電磁変換器2が例えば60[°]以上の角度αを成すように構成されている。
【0010】
図2は、実施の形態1による電磁変換器の構成を示す分解斜視図である。この図は、図1に示した電磁変換器2の概略構成を示すもので、一枚の振動膜を二枚の永久磁石板によって上下から挟むように構成したものである。振動膜23の膜面両側には緩衝部材22a,22bが配置され、背面側永久磁石板21ならびに前面側永久磁石板24との緩衝を防ぐように積層されている。
図2に例示した電磁変換器2は、フレームを構成する支持部材11及び支持部材12によって構造体10を覆い、当該フレーム内部に支持するように構成されている。構造体10は、背面側永久磁石板21、緩衝部材22a、振動膜23、緩衝部材22b、及び、前面側永久磁石板24を積層させたものである。なお、ここで例示する構造体10を構成する各部材等は、各々の板面等の形状を概ね同様な大きさの長方形に形成したものである。
【0011】
支持部材11,12は、強磁性体の例えば鉄板等を板金加工によって箱状に形成したもので、支持部材11は長方形の底面と四つの側壁面を有し、当該底面に対向する部分を開口させている。また、支持部材12は長方形の上面と四つの側壁面を有し、当該上面の対向する部分を開口させている。支持部材11の底面には構造体10が発生させた音声を外部へ放出する音放射穴11aが複数設けられ、支持部材12の上面にも同様な音放射穴11aが複数設けられている。また、支持部材11の開口部縁周、即ち四つの側壁の端部には鍔状の接合部11bが設けられ、支持部材12の開口部縁周にも同様な接合部12bが設けられている。
【0012】
背面側永久磁石板21は、前述のように積層させたとき振動膜23に対向する板面全体に、帯状の焼結フェライト磁石を有している。この着磁部位は、当該板面の長手方向に延設したS極とN極とを隣り合わせて配置したもので、異なる極性が交互に、また一定の間隔で並べられた平行縞状の着磁パターンを形成している。以下、この着磁パターンを多極着磁パターンと記載する。
また、背面側永久磁石板21の板面には、前述の支持部材11に当該背面側永久磁石板21を取り付けたとき、支持部材11の各音放射穴11aと連通する音放射穴21aが各々設けられている。なお、この音放射穴21aは、前述の多極着磁パターンの着磁部位を避けて、即ち、多極着磁パターンのN極とS極との間隙に生じるいわゆる着磁のニュートラルゾーンに一定のピッチで設けられている。
前面側永久磁石板24は、前述の背面側永久磁石板21と同様に構成され、また同様な多極着磁パターンを有している。また、前面側永久磁石板24の板面には、前述の支持部材12に当該背面側永久磁石板24を取り付けたとき、支持部材12の各音放射穴12aと連通する音放射穴24aが各々設けられている。なお、音放射穴24aは、前面側永久磁石板24の多極着磁パターンの着磁部位を避けて、即ち、多極着磁パターンのN極とS極との間隙に生じる、いわゆる着磁のニュートラルゾーンに一定のピッチで設けられている。
【0013】
緩衝部材22aは、前述のような多極着磁パターンを有する背面側永久磁石板21と振動膜23との間に配置される。
振動膜23は、材料密度が低くて曲げに強く、また絶縁性を有する振動板23aと、振動板23aの縁部分を囲むダンパ25とを備えている。振動板23aは、例えば、厚さ1.0[mm]のアクリロニトリルとブタジエンとスチレンとを共重合させた(ABS)樹脂やポリスチレン(PS)樹脂、厚さ0.5[mm]のコーン紙などによって構成されている。なお、良好に低音を再生することができる程度の厚さを有するポリイミド積層板を用いて構成してもよい。振動板23aは、支持部材11の底面ならびに支持部材12の上面形状、また背面側永久磁石板21及び前面側永久磁石板24の板面形状と同様に形成され、図2に例示したものでは長方形に形成され、その板面には全体に渡って蛇行している導体パターンが形成されている。この導体パターンは、振動板23aの長手方向へ延びる直線部分が、振動膜23を構造体10の一部分として積層させたときに、背面側永久磁石板21及び前面側永久磁石板24の各着磁のニュートラルゾーンと重なるように形成させたもので、電流が流れると電磁コイルとして作用する蛇行コイルパターン23bを構成している。
【0014】
ダンパ25は、変形し易くまた復元力を有する、例えば適当な弾性/硬度を有するゴムなどで構成されたもので、振動膜23の縦断面において半円形状を成すように形成され、また構造体10を支持部材11及び支持部材12で覆うとき、支持部材11の接合部11aと支持部材12の接合部12aによって挟持される部分を備えている。ダンパ25は、前述のように振動板23aの縁周を囲い、もしくは少なくとも対向する二辺に備えられるもので、振動板23aが接合部11a,12aに対してフローティングしている如く当該振動板23aを支持部材11,12に支持させるものである。なお、上記のように振動板23aの縁端二辺にダンパ25を備えた場合には、ダンパ25を備えていない部分が何れにも接触しないフリー状態となるように配置/構成する。また、ダンパ25は、例えば接着テープや接着剤などにより振動板23aの縁端部に貼り付け/固定されている。
振動膜23は、支持部材11,12の箱状内部に振動板23aが配置され、ダンパ25の外端部分、即ち前述の挟持される部分が支持部材11の接合部11b及び支持部材12の接合部12bに載せることができる大きさに構成されている。
【0015】
図3は、実施の形態1による電磁変換器の構成を示す断面図である。図2に示したもの同一部分に同じ符号を使用し、その説明を省略する。この図は、図1に示した一点破線のAA’線の部分の縦断面を表したもので、支持部材11と支持部材12とを接合してその内部に構造体10を支持した状態を示している。
支持部材11の箱状の内部には背面側永久磁石板21を収納し、背面側永久磁石板21自らの磁力によって支持部材11の箱状内部の底面に装着する。このとき、音放射穴11aと音放射穴21aが連通するように位置合わせを行って装着する。背面側永久磁石板21の上面には緩衝部材22aを載せる。緩衝部材21の上方に振動膜23を積層させる。このとき、ダンパ25の前述の挟持部分を支持部材11の接合部11bに搭載する。なお、ダンパ25の前述の半円形状の部分は、自在に伸縮や変形が生じるように支持部材11の箱状の内部空間に配置して上記のように支持部材11に振動膜23を搭載する。なお、ダンパ25の形状は、図3に示した図中上方へ凸状に湾曲した断面形状に限定されるものではない。
【0016】
振動膜23の上側には緩衝部材22bを載せる。また、緩衝部材22a及び緩衝部材22bによってダンパ25の可動範囲が制限されないように、具体的にはダンパ25に緩衝部材22a,22bが重ならないように、もしくはダンパ25と緩衝部材22a,22bが接触しないように当該緩衝部材22a、振動膜23、及び、緩衝部材22bを積層する。
支持部材12の箱状の内部には前面側永久磁石板12を収納し、前面側永久磁石板12自らの磁力によって支持部材12の箱状内部の上面に装着する。このとき、音放射穴12aと音放射穴24aが連通するように位置合わせを行って装着する。前面側永久磁石板12を装着した支持部材12を支持部材11に接合し、緩衝部材22bの上方に前面側永久磁石板24を積層させる。また、上記の接合により接合部11bと接合部12bとの間にダンパ25の挟持部分が挟まれてフレーム内部に振動膜23が支持される。このように接合されたとき、振動膜23の蛇行コイルパターン23bは、図示したように背面側永久磁石板11及び前面側永久磁石板12の各磁極間に生じるニュートラルゾーンnzに配置されている。
【0017】
次に動作について説明する。
図4は、実施の形態1による電磁変換器の動作を示す説明図である。図2,3に示したものと同一部分に同じ符号を使用し、その説明を省略する。この図は、図3に示した支持部材11と支持部材12とを接合したフレーム内部において、振動膜23が振動しているときのダンパ25の動きを示したものである。
振動膜23の蛇行コイルパターン23bにオーディオ信号等の電流が流れると電磁誘導によって磁力が生じ、背面側永久磁石板21及び前面側永久磁石板24と電磁結合して振動膜23にオーディオ振動が発生する。一般的なポリイミドフィルムの振動膜は、大きな振幅の振動を発生するオーディオ信号が当該振動膜の蛇行コイルパターンに供給されると、大きな振幅の振動を発生させようとする磁力と空気抵抗等の相互作用によって変形し、空気を振動させることができなくなる。
【0018】
振動板23aは、前述のように一般的なポリイミドフィルムに比べて硬質の素材によって構成されていることから、大きな振幅の振動を生じさせるオーディオ信号が蛇行コイルパターン23bに供給されたとき、前述のような変形が発生せず、低音域ならびに音圧の大きな可聴音を再生する。振動板23aは、図4に示したようにダンパ25を介して支持部材11,12に支持されているので、蛇行コイルパターン23bに流れた電流によって発生した振動が支持部材11,12へ直接伝搬しない。換言すると、振動板23aが、支持部材11,12に直接固定されないように構成して、振動板23aの振動が支持部材11,12との接触部分において減衰することを避けている。
振動板23aに大振幅の振動が発生したときには、図4に示したようにダンパ25は、振動板23aが概ね自らの振動方向において変位するように、即ち振動板23aを概ね図中上下方向に平行移動させるように変形/伸縮する。ダンパ25が変形/伸縮しているときでも、振動板23aは蛇行コイルパターン23bに流れたオーディオ信号に応じて振動し、当該振動が制限されることなくオーディオ再生音を発生する。
【0019】
例えば、前述のような電磁変換器2を複数個、図1の筐体3に装着したときには、各電磁変換器2から異なる方向へオーディオ再生音が放射され、無指向性のスピーカ装置として動作する。筐体3の正面は、前述のように屏風状に形成されている。電磁変換器2は、オーディオ再生音を主に当該電磁変換器2の振動膜23の膜面の鉛直方向へ放射することから、前述のように筐体3の正面に複数の電磁変換器2を装着して、当該複数の電磁変換器2を屏風状に配置すると、各電磁変換器2のオーディオ再生音が複数の方向へ、例えば角度αをもって各方向へ放射され、筐体3の周囲もしくは前方に無指向性の音響が生じる。
【0020】
以上のように実施の形態1によれば、振動膜23の振動板23aをポリイミドフィルムよりも硬質の素材で構成し、振動板23aの縁周にダンパ25を備え、ダンパ25を介して振動膜23を支持部材11,12に支持させるようにしたので、振動板23aの振動が支持部材11,12によって妨げられなくなり、振動板23aを大きな振幅で振動させることができるようになって、低音再生能力を向上させ、また音圧レベルを向上させることができるという効果がある。
また、複数の電磁変換器2を屏風状に連ねて装着するようにスピーカ装置の筐体3を構成したので、正面投影面積を抑えながらオーディオ再生音の放射面積を稼ぎ、低音再生能力の向上、音圧レベルの向上、及び無指向性の音響出力を得ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明の実施の形態1によるスピーカ装置の構成を示す説明図である。
【図2】実施の形態1による電磁変換器の構成を示す分解斜視図である。
【図3】実施の形態1による電磁変換器の構成を示す断面図である。
【図4】実施の形態1による電磁変換器の動作を示す説明図である。
【符号の説明】
【0022】
1 スピーカ装置、2 電磁変換器、3 筐体、10 構造体、11,12 支持部材、11a.12a,21a,24a 音放射穴、11b,12b 接合部、21 背面側永久磁石板、22a,22b 緩衝部材、23 振動膜、23a 振動板、23b 蛇行コイルパターン、24 前面側永久磁石板、25 ダンパ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の多極着磁パターンが形成された永久磁石板、表面に形成された蛇行コイルパターンに電流が流れると前記永久磁石板と電磁結合して振動する振動膜、前記永久磁石板と振動膜との間に配置される緩衝部材、及び、前記永久磁石板と振動膜と緩衝部材とを積層させた構造体を覆い支持する支持部材を備える電磁変換器において、
前記振動膜は、蛇行コイルパターンを形成させた振動板の縁端部に該振動板の振動を支持部材へ伝えないダンパを備え、該ダンパを介して支持部材に支持されることを特徴とする電磁変換器。
【請求項2】
振動膜は、振動板にポリイミドフィルムよりも大振幅の振動を発生させたときに変形し難い樹脂あるいはコーン紙を用いることを特徴とする請求項1記載の電磁変換器。
【請求項3】
屏風状に形成された筐体の正面に複数の電磁変換器を屏風状に連ねて備えるスピーカ装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2に記載の電磁変換器を備えることを特徴とする請求項3記載のスピーカ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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