説明

電磁干渉抑制体

【課題】屈曲性、柔軟性を維持しながらも、高透磁率を有する電磁干渉抑制体を提供すること。
【解決手段】扁平状の金属軟磁性粉末を結合剤中に分散されて形成された複合体からなる、シート状の電磁干渉抑制体1において、表面に破線状の切り込み4を入れ、該破線状の切り込み4を格子状に形成されることにより、屈曲性、柔軟性を持たせる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器において発生する不要電磁波の外部への漏洩や内部回路との干渉、または外部からの電磁波による誤動作などを防止するために用いる電磁干渉抑制体に関し、特にその構造に関する。
【背景技術】
【0002】
通信機器や各種電子機器から意図せずに電磁波を外部へ放射したりノイズ信号を外部への送出してしまうことや、外部からの電磁波や機器内部での電磁干渉により機器自身の誤動作などを生ずることに対する対策、すなわちEMIやイミュニティに関する対策において、最近の高速信号処理技術、ディジタル技術の進化に伴い、その対応すべき周波数はますます高周波帯域へ移行している。
【0003】
また、電子機器、電子装置の軽量化、薄型化及び小型化が急速に進み、回路への電子部品への実装密度が飛躍的に高くなってきていることから、部品間や回路基板間の電磁干渉に起因する電磁障害が発生する可能性が極めて高くなっている。
【0004】
上記のような不要電磁波の発生や漏洩、相互干渉による誤動作の対策として、シールド材により電磁波を遮蔽、吸収したり、ノイズ伝送線路にチョークコイルやフィルタを挿入してノイズ信号を除去したりする方法がなされている。上記のシールド材としては、磁石などの磁場発生源が他の電気回路等に影響を与えないようにするため実部透磁率μ’の高い磁性材料を用いた磁気シールド材が用いられる。
【0005】
このような対策の一つとして、結合剤中に軟磁性粉末を分散させたシート状の電磁干渉抑制体を、電子部品や回路の近傍に配置する方法が提案され、実用化されている。この方法は、例えば特許文献1に開示されている。この電磁干渉抑制体は透磁率の損失項である磁気共鳴に起因する項、すなわち、虚部透磁率μ”を利用している。
【0006】
電磁干渉抑制体は、前記のようなシート状の構成であり、屈曲性、柔軟性を持つことから、広汎な用途に適合し、加工性、実装性が高いものとして利用されている。更に屈曲性、柔軟性を高めるために、特許文献2のように、薄いフィルムのような基材上に、切り込みを入れ短冊状に分断した結合剤と軟磁性粉末からなる複合体を貼り付ける方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−212079号公報
【特許文献2】特開2007−123373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電磁干渉抑制体の磁気的特性、すなわち透磁率を向上させるには、結合剤中に軟磁性粉末を高充填させなければならない。しかしながら、磁性粉を充填すればするほど屈曲性、柔軟性が低下してしまう傾向があり、その結果、電磁干渉抑制体の加工性、実装性を低下させ、使用用途が限定されてしまうという問題があった。また、シート状複合磁性体の厚さが厚くなった場合には、屈曲性そのものが低下するという問題があった。特許文献2の方法ではこの問題を解決し、屈曲性、柔軟性を向上させる方法を提案しているが、結合剤と軟磁性粉末からなる複合体を一旦切断加工するため、結果として磁路を分断することになり、透磁率特性が極端に劣化してしまい、電磁干渉の抑制効果も低下するという新たな問題が発生してしまう。
【0009】
本発明は上述の問題を解決すべくなされたものであり、本発明の課題は、屈曲性、柔軟性を維持しながらも、高透磁率を有する電磁干渉抑制体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明による電磁干渉抑制体は、軟磁性粉末が結合剤中に分散されて形成された複合体からなるシート状の電磁干渉抑制体において、表面に破線状の切り込みを有し、該破線状の切り込みが格子状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記軟磁性粉末は偏平状の金属軟磁性材料からなることが望ましい。
【0012】
また、前記破線状の切り込みは、該破線方向の1つの切り込みの長さ及び切り込み間の間隔が0.1mm以上かつ3.0mm以下であり、前記格子状に形成された破線状の切り込みの格子間隔が0.1mm以上かつ30.0mm以下であることが望ましく、さらに、その厚さが0.03mm以上かつ3.0mm以下であることが望ましい。
【0013】
本発明は、発明者等が、金属軟磁性材料より作製した軟磁性粉末を結合材中に分散させて得られる従来の電磁干渉抑制体において、より軟磁性粉末を高充填させたときでも、本発明により透磁率特性を維持したまま柔軟性を得られることを見出したことに基づくものである。
【0014】
すなわち、特許文献2のように結合剤と軟磁性粉末からなる複合体を直線状の切り込みによって短冊状または格子状に完全に分断してしまうと、その切り込みの両側では磁束が遮断されるため透磁率が低下してしまうが、本発明のように破線状に切り込みを入れる場合には磁束はその切り込みの両側で繋がるため透磁率の低下は少ないと考えられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、上記のように表面に破線状の切り込みを入れ、その切り込みを格子状に形成することで、屈曲性、柔軟性に優れた電磁干渉抑制体が得られる。このようにして得られた電磁干渉抑制体は、破線状の切り込みを入れたことによる透磁率特性の変化も少なく、かつ、平面のまま使用するだけではなく、屈曲させたり、巻き付けても使用することができる。
【0016】
以上のように、本発明により、屈曲性、柔軟性を維持しながらも、高透磁率を有する電磁干渉抑制体が得られ、さらに加工性や実装性に優れた電磁干渉抑制体の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明による電磁干渉抑制体の一実施の形態を示す図であり、断面構造を示す模式図。
【図2】本発明による電磁干渉抑制体の一実施の形態を示す平面図。
【図3】電磁干渉抑制体の実施例の破線状の切り込みの形状を模式的に示す図であり、図3(a)、図3(b)、図3(c)、図3(d)はそれぞれ実施例1、実施例2、実施例3、実施例4を示す図。
【図4】作製した電磁干渉抑制体の柔軟性、屈曲性を反発力で評価する測定系の模式図。
【図5】各実施例および比較例の電磁干渉抑制体の反発力の測定結果を示す図。
【図6】各実施例および比較例の透磁率特性の測定結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して詳細に説明する。図1および図2は本発明による電磁干渉抑制体の一実施の形態を示す図であり、図1は断面構造を示す模式図、図2は平面図である。図1に示すように軟磁性粉末2が結合剤3中に分散されて形成された複合体からなるシート状の電磁干渉抑制体1において、図2に示すように、表面に破線状の切り込み4を有し、この破線状の切り込み4が格子状に形成されている。本実施の形態においては、結合剤にエラストマーを使用し、軟磁性粉末としては軟磁性合金粉末であるFe−Si−Al合金粉末を使用する。その粉末形状は扁平形状である。この粉末形状は、特許文献1に記載されているように、本実施の形態のように扁平形状である場合の方がより高い電磁干渉抑制効果が得られる。
【0019】
また、図2に示すように、破線状の切り込み4は、破線方向の1つの切り込みの長さがL1、切り込み間の間隔がL2、格子状に形成された破線状の切り込み4の縦横の格子間隔がそれぞれP1、P2である。
【0020】
ここで、本実施の形態において、L1またはL2が0.1mm未満である場合は製造上困難となるためL1およびL2は0.1mm以上であることが望ましく、また、L1が3.0mmを超える場合は本発明の目的とする透磁率特性が得られにくいことおよびL2が3.0mmを超える場合は目的とする電磁干渉抑制体1の柔軟性、屈曲性が得られにくいことからL1およびL2は3.0mm以下であることが望ましい。
【0021】
また、同様に、P1、P2が0.1mm未満の場合は製造が難しく、P1、P2が30.0mmを超える場合は目的とする柔軟性、屈曲性が得られにくいことからP1およびP2は30.0mm以下であることが望ましい。
【0022】
また、電磁干渉抑制体として十分な電磁干渉抑制効果を得るためにはその厚さは0.03mm以上であることが望ましく、一方、目的とする柔軟性、屈曲性を得るためにはその厚さは3.0mm以下であることが望ましい。
【0023】
なお、破線状の切り込み4は、カッターや抜き型などでミシン目のように切り込みを入れることができ、この際、この切り込みの深さは電磁干渉抑制体を貫通していることが望ましいが、表面だけに切り込みが入っていてもよい。この場合、切り込みが貫通している場合よりも屈曲性、柔軟性は低下するが、切り込みが貫通している電磁干渉抑制体よりも透磁率特性を向上させることができる。
【0024】
また、軟磁性粉末としてはFe−Si−Al合金以外に、磁化が高い純鉄、Fe−Si合金、Fe−Si−Cr合金、Ni−Fe合金、Mo−Ni−Fe合金やアモルファス合金が使用できる。
【実施例】
【0025】
次に、本実施の形態の電磁干渉抑制体の具体的な実施例について説明する。
図3は本実施の形態の電磁干渉抑制体の実施例の破線状の切り込みの形状を模式的に示す図であり、図3(a)、図3(b)、図3(c)、図3(d)はそれぞれ実施例1、実施例2、実施例3、実施例4を示す図である。
【0026】
図3(a)の実施例1の破線形状は、L1=L2=0.5mm、格子間隔は、P1=P2=5.0mm、図3(b)の実施例2の破線形状は、L1=L2=1.0mm、格子間隔は、P1=P2=5.0mm、図3(c)の実施例3の破線形状は、L1=L2=0.5mm、格子間隔は、P1=P2=10.0mm、図3(d)の実施例4の破線形状は、L1=L2=1.0mm、格子間隔は、P1=P2=10.0mmである。
【0027】
実際に上記の各実施例の電磁干渉抑制体を作製し、柔軟性、屈曲性および透磁率特性を評価した。実験には軟磁性粉末のアスペクト比(D/t)が20、Si9.8%−Al6.0%−Fe組成(質量%)のFe−Si−Al合金粉末を使用し、結合剤には粉末充填性に優れるエラストマーを使用して、厚さ0.3mmの電磁干渉抑制体を作製した。
【0028】
次に、作製した電磁干渉抑制体に、抜き型を用いて自動切断機によってミシン目状すなわち破線状の切り込みを入れた。また、切り込みの入っていない電磁干渉抑制体も比較例として作製した。作製した各実施例および比較例の電磁干渉抑制体は30.0mm×90mmの寸法に切断し、屈曲性、柔軟性を測定した。
【0029】
図4は作製した電磁干渉抑制体の柔軟性、屈曲性を反発力で評価する測定系の模式図である。図4に示すように、この測定系では、電磁干渉抑制体14の同じ面の間隔が10mmになるように長手方向に屈曲させたときの電子天秤15が示す値を「反発力」と定義し、柔軟性、屈曲性を表す指標としている。
【0030】
図5は各実施例および比較例の電磁干渉抑制体のそれぞれの反発力の測定結果を示す図である。破線状の切り込みを入れた実施例1〜4では、切り込みを入れていない比較例1よりも30〜50%反発力が低減し、切り込みがない従来の電磁干渉抑制体よりも屈曲性、柔軟性が向上していることが確認できた。
【0031】
次に、作製した各実施例および比較例の電磁干渉抑制体の透磁率特性の測定を、インピーダンスマテリアルアナライザを用いて行った。図6は各実施例および比較例のそれぞれの透磁率特性の測定結果を示す図である。破線状の切り込みを入れた実施例1〜4は、切り込みを入れていない比較例1と比較しても、最大で10%しか透磁率が低減しておらず、透磁率特性の減少が非常に少ないことが確認できた。
【0032】
以上のように、本発明により、屈曲性、柔軟性を維持しながらも、高透磁率を有する電磁干渉抑制体が得られることが確認できた。
【0033】
なお、本発明は上記の実施の形態や実施例に限定されるものではないということはいうまでもなく、目的や用途に応じて設計変更可能である。例えば、軟磁性粉末や結合剤の材料も上記の例に限定されなく、ノイズ抑制を行う周波数帯等の目的に応じて、変更可能である。
【符号の説明】
【0034】
1、14 電磁干渉抑制体
2 軟磁性粉末
3 結合剤
4 破線状の切り込み
15 電子天秤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軟磁性粉末が結合剤中に分散されて形成された複合体からなるシート状の電磁干渉抑制体において、表面に破線状の切り込みを有し、該破線状の切り込みが格子状に形成されていることを特徴とする電磁干渉抑制体。
【請求項2】
前記軟磁性粉末は偏平状の金属軟磁性材料からなることを特徴とする請求項1に記載の電磁干渉抑制体。
【請求項3】
前記破線状の切り込みは、該破線方向の1つの切り込みの長さ及び切り込み 間の間隔が0.1mm以上かつ3.0mm以下であり、前記格子状に形成された破線状の切り込みの格子間隔が0.1mm以上かつ30.0mm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電磁干渉抑制体。
【請求項4】
厚さが0.03mm以上かつ3.0mm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の電磁干渉抑制体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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