説明

電磁成形用コイル

【課題】 耐久性に優れ繰り返し使用が可能で、軸芯強度が高い電磁成形用コイルを提供する。
【解決手段】 先端部12と基端部13との間の直径が、先端部12の直径よりも若干小さくなっている軸芯2のこの小径部に、内部に冷媒が流通する中空部5及び6が形成された角管状の導線3及び導線4を、軸芯2の表面に接すると共に相互に隣接するように巻回し、更に導線3及び導線4を覆うように絶縁性の樹脂層7を設ける。そして、電磁成形を行う際は、導線3の端部3a及び導線4の端部4bから冷媒を導入し、導線3の端部3b及び導線4の端部4aから冷媒を排出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属管等を電磁成形する際に使用される電磁成形用コイルに関し、特に、中空構造の導線を使用し、この導線の中空部に冷媒を流通させる電磁成形用コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
電磁力を利用して金属を塑性加工する電磁成形は、板状及び管状等多様な形状に柔軟に対応できるため、様々な分野への適用が検討されている。この電磁成形は、高電圧で蓄えられた電荷を電磁成形用コイルに瞬時に放電させて、その周囲に極めて短時間で強力な磁場を形成し、この磁場の中に被加工材を配置することにより、被加工材と成形用コイルとの間に反発力を発生させて成形を行うものである。図3は電磁成形方法を示す概念図である。例えば、金属管を電磁成形により拡管成形する場合、図3に示すように、導線が巻回されている電磁拡管成形用コイル53の軸部を、被加工材である金属管51に挿入し、これらを成形型52の所定の位置に配置する。そして、配線54a及び54bから電磁拡管成形用コイル53の導線に衝撃大電流を流して、電磁拡管成形用コイル53の軸部の周囲に磁場を発生させる。このとき、金属管51は磁場の反発力による強い拡張力を受け、成形型52に押し付けられて拡管される。
【0003】
前述の電磁成形は、電気の良導体であるアルミニウム合金の成形に適しており、現在、アルミニウム合金管への溝の形成又はアルミニウム合金管同士の接合等に使用されている。また、アルミニウム合金管の端部の折り曲げ加工又は大径管のカシメ等のように変形量が大きい加工及び高強度材料の加工等にも適用が検討されている。更に、車両、自動車及び二輪車等のフレーム材又は部品の加工への適用も検討されている。
【0004】
従来、電磁成形に使用される成形用コイルは、例えば、拡管成形用の場合、絶縁性樹脂からなる軸に断面が円形である導線を巻回させた構造になっている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、特許文献1に記載されているような構造の成形用コイルは、繰り返し大電流を通電することにより生じる振動及び抵抗による導線からの発熱等によって、変形及び破損が発生するという問題がある。
【0005】
そこで、軸に巻回される導線を中空構造にして、この導線の中空部に冷媒を流通させることにより温度上昇を防ぐ電磁成形用コイルが提案されている(例えば、特許文献2参照)。図4は特許文献2に記載の電磁成形用コイル61を示す断面図である。図4に示すように、特許文献2に記載の成形用コイルは、内部に中空部62を有する中空導線63が、円筒状の軸芯65上に巻回されている。この中空導線63の巻き終わり部分は、軸芯65内に設けられた孔に挿通され、その銅線端部64a及び64bが軸芯65から突出するようになっている。また、中空導線63の外周には、ガラステープ66が巻かれており、ガラステープ66と軸芯65との間には、絶縁性樹脂67が充填されている。そして、この電磁成形用コイル61を使用する際は、循環冷却水等の冷媒を導線端部64aから導入し、中空導線63の中空部62を流通させ、導線端部64bから排出させることにより、電磁コイル部を冷却する。
【0006】
【特許文献1】特開昭55−42140号公報
【特許文献2】特開平6−238356号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述の従来の技術には以下に示す問題点がある。即ち、前述の特許文献2に記載の電磁成形用コイルは、冷媒の導入口、即ち、導線端部64aに近い基端部は十分に冷却されるが、中空導線63の中空部62を流通している間に冷媒の温度が上昇するため、導線端部64aから遠い先端部においては、十分な冷却効果が得られないという問題点がある。これにより、先端部に熱が残存し、コイルが破損する原因となっている。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、耐久性に優れ繰り返し使用が可能で、軸芯強度が高い電磁成形用コイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願第1発明に係る電磁成形用コイルは、軸芯と、内部に冷媒流路となる中空部が形成され前記軸芯の周囲に巻回された第1及び第2の中空導線と、を有し、前記第1及び第2の中空導線は前記軸芯の表面に相互に隣接するように巻回されており、前記第1の中空導線の中空部及び前記第2の中空導線の中空部には相互に異なる方向に冷媒が流されることを特徴とする。
【0010】
本発明においては、内部を流れる冷媒の流通方向が相互に異なる2本の導線を、前記軸芯の表面に相互に隣接するように巻回しているため、軸芯に冷却流路を設けなくても均一に冷却することができる。その結果、耐久性が向上し、繰り返し使用することが可能になると共に、軸芯強度が向上する。
【0011】
本願第2発明に係る電磁成形用コイルは、軸芯と、内部に冷媒流路となる2つの第1及び第2の中空部が形成され前記軸芯の周囲に巻回された中空導線と、を有し、前記第1及び第2の中空部には相互に異なる方向に冷媒が流されることを特徴とする。
【0012】
本発明においては、冷媒流通方向が相互に異なる2本の冷媒流路が設けられた導線を前記軸芯の表面に巻回しているため、軸芯内部に冷媒流路を設けなくても、均一に冷却することができる。その結果、軸芯強度及び耐久性が向上する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、流通方向が相互に異なる2本の冷媒流路を形成しているため、軸芯に別途冷媒流路を形成しなくても、軸部をその軸方向に均一に冷却することができるため、耐久性及び軸芯強度を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明者等は、前述の課題を解決するために、鋭意実験研究を行い、特願2003−34419号において、導線に気体冷媒を軸芯内部から導入し、更に冷却する軸芯内部に冷却用の流路を設けることにより、冷却効率を向上させた電磁成形用コイルを提案している。しかしながら、この電磁成形用コイルは、先端部側から基端部側に向かって冷媒が流通するため、基端部では十分な冷却効果が得られず、熱が残存してコイルが破損することがある。また、軸芯の内部に軸芯自体を冷却するための冷却流路を形成しているため、軸芯の強度が低下し、長期間にわたって繰り返し使用するとコイルが破損する虞がある。そこで、本発明者等は更に検討を行い、本発明に至った。
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る電磁成形用コイルについて、添付の図面を参照して具体的に説明する。先ず、本発明の第1の実施形態に係る電磁成形用コイルについて説明する。図1は本実施形態の電磁成形用コイルを示す断面図である。図1に示すように、本実施形態の電磁成形用コイル1は、絶縁性の材料からなる軸芯2の周囲に、角管状の2本の導線3及び4が、軸芯2の表面に接すると共に相互に隣接するように巻回されており、更に導線3及び4を覆うように絶縁性の樹脂層7が設けられている。この電磁成形用コイル1における軸芯2は、軸方向の先端部12と基端部13との間の直径が先端部12の直径よりも若干小さくなっており、導線3及び4はこの小径部に巻回されている。
【0016】
本実施形態の電磁成形用コイル1における導線3及び4の内部には、夫々冷媒が流通する中空部5及び6が形成されている。また、導線3の端部3a及び3b、並びに導線4の端部4a及び4bは夫々、軸芯2に設けられた貫通孔に挿通され、外部に設けられた冷媒供給部材(図示せず)に連結されている。このとき、導線3の端部3a及び導線4の端部4bから冷媒が導入され、導線3の端部3b及び導線4の端部4aから冷媒が排出されるようにする。これにより、導線3においては基端部13側から先端部12側に向かって冷媒が流通し、導線4においては先端部12側から基端部13側に向かって冷媒が流通する。即ち、本実施形態の電磁成形用コイルにおいては、導線3における冷媒流通方向と導線4における冷媒流通方向とが相互に異なっている。
【0017】
また、導線3及び4の外表面には、絶縁性材料からなり、導線3及び4を補強するための被覆層8及び9が形成されている。被覆層8及び9を形成する材料としては、例えば、ガラス繊維等にエポキシ樹脂等を含浸させた繊維強化樹脂等を使用することができる。
【0018】
次に、上述の如く構成された本実施形態の電磁成形用コイル1の動作について説明する。先ず、図3に示す電磁成形方法と同様に、管状の被加工材を成形型内に挿入し、更に被加工材内に電磁成形用コイル1を、その先端部12側から挿入し、導線3及び4が巻回されている部分の周囲に被加工材が配置されるようにする。そして、導線3及び4に衝撃大電流を流す。これにより、電磁成形用コイル1の周囲に磁場が発生し、その反発力により被加工材が外側に向けて強い拡張力を受け、成形型に押し付けられて成形される。このとき、導線3の端部3a及び導線4の端部4bから冷媒を導入し、導線3の端部3b及び導線4の端部4aから冷媒を排出することにより、成形用コイル1を冷却する。
【0019】
導線3及び導線4に冷媒を流通させる際は、導線からの漏電及び短絡を防止するため、循環させずに開放系にすることが好ましく、使用する冷媒としては、作業環境に開放することができる空気又は窒素等を使用することが好ましい。
【0020】
本実施形態の電磁成形用コイル1においては、内部を流れる冷媒の流通方向が相互に異なる2本の導線3及び4を、軸芯2の表面に接すると共に相互に隣接するように巻回し、導線3は基端部13側から先端部12側に向かって、導線4は先端部12側から基端部13側に向かって冷媒を流通させる。これにより、先端部12又は基端部13における冷却効率の低下を防止することができ、軸方向における冷却むらがなくなり、均一に冷却することができる。その結果、耐久性が向上し、繰り返し使用することが可能になる。また、軸芯2に別途冷却流路を形成する必要がないので、軸芯強度が向上する。
【0021】
なお、本実施形態の電磁成形用コイル1においては、導線3は基端部13側から先端部12側に向かって冷媒を流通させ、導線4は先端部12側から基端部13側に向かって冷媒を流通させているが、本発明はこれに限定されるものではなく、導線3及び導線4内を流通する冷媒の流通方向が相互に異なっていればよく、例えば、導線3は先端部12側から基端部13側に向かって冷媒を流通させ、導線4は基端部13側から先端部12側に向かって冷媒を流通させてもよい。また、導線3の端部3a及び3b、並びに導線4の端部4a及び4bを夫々、軸芯2に設けられた貫通孔に挿通させているが、本発明はこれに限定されるものではなく、導線3及び4の端部が夫々冷媒供給部材に連結されていればよい。
【0022】
次に、本発明の第2の実施形態に係る電磁成形用コイルについて説明する。図2は本実施形態の電磁成形用コイルを示す断面図である。なお、図2においては、図1に示す第1の実施形態の電磁成形用コイル1の構成要素と同じものには同じ符号を付し、詳細な説明は省略する。図2に示すように、本実施形態の電磁成形用コイル21は、絶縁性の材料からなる軸芯2の小径部に、外表面に被覆層28が形成された角管状の導線23が整列巻きされている。また、軸芯2に巻回された導線23を覆うように絶縁性の樹脂層7が設けられている。
【0023】
本実施形態の電磁成形用コイル21における導線23の内部には、夫々冷媒が流通する1対の中空部25及び26が形成されており、例えば導線23は中空部25と中空部26とが軸方向に対して交互に配置されるよう巻回されている。また、導線23の両端部は夫々、軸芯2に設けられた貫通孔に挿通され、外部に設けられた冷媒供給部材(図示せず)に連結されている。このとき、導線23の両端部において、中空部25の端部25a及び中空部26の端部26bから冷媒が導入され、中空部25の端部25b及び中空部26の端部26aから冷媒が排出されるようにする。これにより、導線23における中空部25は基端部13側から先端部12側に向かって冷媒が流通し、導線23における中空部26は先端部12側から基端部13側に向かって冷媒が流通する。即ち、本実施形態の電磁成形用コイル21においては、導線23内に冷媒流通方向が相互に異なる2本の冷媒流路が設けられている。なお、本実施形態の電磁成形用コイル21における上記以外の構成は、前述の第1の実施形態の電磁成形用コイル1と同様である。
【0024】
次に、上述の如く構成された本実施形態の電磁成形用コイル21の動作について説明する。先ず、前述の第1の実施形態の電磁成形用コイル1と同様に、管状の被加工材を成形型内に挿入し、更に被加工材内に電磁成形用コイル21を、その先端部12側から挿入し、導線23が巻回されている部分の周囲に被加工材が配置されるようにする。そして、導線23に衝撃大電流を流す。これにより、電磁成形用コイル21の周囲に磁場が発生し、その反発力により被加工材が外側に向けて強い拡張力を受け、成形型に押し付けられて成形される。このとき、中空部25の端部25a及び中空部26の端部26bから冷媒を導入し、中空部25の端部25b及び中空部26の端部26aから冷媒を排出する。
【0025】
本実施形態の電磁成形用コイルにおいては、冷媒流通方向が相互に異なる2本の冷媒流路を設けられた導線23を軸芯2に巻回しているため、先端部12又は基端部13における冷却効率の低下を防止することができ、軸芯内部に別途冷媒流路を設けなくても、軸方向にわたって均一に冷却することができる。その結果、軸芯強度及び耐久性が向上する。
【0026】
なお、前述の第1及び第2の電磁成形用コイルにおいては、断面が角管状の導線を軸芯2に巻回しているが、本発明はこれに限定するものではなく、内部に冷媒流路となる中空部が設けられていればよく、例えば円管状の導線を使用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の第1の実施形態の電磁成形用コイルを示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態の電磁成形用コイルを示す断面図である。
【図3】電磁成形方法を示す概念図である。
【図4】特許文献2に記載の成形用コイルを示す断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1、21、53、61;成形用コイル
2、65;軸芯
3、4、23、63;導線
3a、4a、25a、26a、64a、64b;端部
5、6、25、26、62;中空部
7;樹脂層
8、9、28;被覆層
12;先端部
13;基端部
51;金属管
52;成形型
54a、54b;配線
66;ガラステープ
67;絶縁性樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸芯と、内部に冷媒流路となる中空部が形成され前記軸芯の周囲に巻回された第1及び第2の中空導線と、を有し、前記第1及び第2の中空導線は前記軸芯の表面に相互に隣接するように巻回されており、前記第1の中空導線の中空部及び前記第2の中空導線の中空部には相互に異なる方向に冷媒が流されることを特徴とする電磁成形用コイル。
【請求項2】
軸芯と、内部に冷媒流路となる2つの第1及び第2の中空部が形成され前記軸芯の周囲に巻回された中空導線と、を有し、前記第1及び第2の中空部には相互に異なる方向に冷媒が流されることを特徴とする電磁成形用コイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−68774(P2006−68774A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−255265(P2004−255265)
【出願日】平成16年9月2日(2004.9.2)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(596150529)テクノ電気工業株式会社 (9)