説明

電磁波反射フィルム及びその製造方法

【課題】車載通信機器を用いても電波障害を起こさず、優れた日射遮蔽性能を有するとともに、可視光に対して高い透過性を有する電磁波反射フィルムを提供する。
【解決手段】本発明の電磁波反射フィルムは、基材と、この基材上に形成され、赤外線領域に第1ピーク波長αを有する第1波長帯の電磁波を反射するコレステリック液晶を含む第1反射層と、この第1反射層上に形成され、赤外線領域に第2ピーク波長αを有する第2波長帯の電磁波を反射するコレステリック液晶を含む第2反射層と、を備え、第1ピーク波長α及び第2ピーク波長αは、積層によって、それぞれ単独層として形成した場合の基準第1ピーク波長β及び基準第2ピーク波長βからの波長シフトを生じており、それぞれの波長シフトの絶対値である|α−β|及び|α−β|が30nm以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波反射フィルム及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、所望の波長帯の電磁波を選択的に反射する電磁波反射フィルムが知られている。電磁波反射フィルムは、所望の波長帯の電磁波だけを反射し、他の波長帯の電磁波を透過するため、車やビルの窓等に貼り付けて、赤外線だけを反射し、可視光線や通信波長帯の電磁波を透過する用途としての利用が期待されている。
【0003】
電磁波反射フィルムの一例として、コレステリック液晶相を固定してなる1以上の層をからなる、右偏光成分及び左偏光成分の少なくとも一方を反射する第1の光反射層と、有機材料及び/又は無機材料を含有する1以上の層からなる第2の光反射層とを少なくとも有する遮熱部材であって、波長400nm以上850nm未満、及び波長850nm超え1300nm以下に反射率のピークがそれぞれ存在し、波長400nm以上850nm未満の反射率の最大値A、波長850nmの反射率B、及び波長850nm超え1300nm以下の反射率の最大値Cが、C>A>Bを満足し、かつ、Bが50%以下であるものが提案されている(特許文献1参照)。特許文献1に記載の電磁波反射フィルムによると、自動車の窓ガラス等に使用した際に、車載通信機器を用いても電波障害を起こさず、しかも優れた日射遮蔽性能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−158750号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の電磁波反射フィルムは、螺旋ピッチが異なる層を積層することで、波長850nm超え1300nm以下の反射率ピークを広幅化し、赤外線領域の全般に対して高い反射率を示すようにしたものである。また、互いに逆方向の偏光成分を反射するとともに、互いに同一の選択反射中心波長を有する2つの層を一組として、この組を複数積層することで、赤外線領域において高い反射率を示すようにしたものである。
【0006】
しかし、互いに逆方向の偏光成分を反射するとともに、互いに同一の選択反射中心波長を有する2つの層を一組として、この組を複数積層すると、赤外線領域において高い反射率を示すものの、可視光線に対する透過率が減少するという課題を有する。実際、可視光線の波長域の下限は、360nm〜400nmであり、上限は、760nm〜830nmであるところ、特許文献1に記載の電磁波反射フィルムにおける可視光線の波長域での透過率は、波長域の全体を通じて30%〜50%程度である(図1)。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、車載通信機器を用いても電波障害を起こさず、優れた日射遮蔽性能を有するとともに、可視光に対して高い透過性を有する電磁波反射フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねたところ、基材上に、赤外線領域に第1ピーク波長αを有する第1波長帯の電磁波を反射するコレステリック液晶を含む第1反射層を形成し、この第1反射層上に、赤外線領域に第2ピーク波長αを有する第2波長帯の電磁波を反射するコレステリック液晶を含む第2反射層を形成し、それぞれ単独層として形成した場合の基準第1ピーク波長β及び基準第2ピーク波長βからの波長シフトを所定以下に抑えることで、車載通信機器を用いても電波障害を起こさず、優れた日射遮蔽性能を有するとともに、可視光に対して高い透過性を有することを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0009】
(1)本発明は、基材と、この基材上に形成され、赤外線領域に第1ピーク波長αを有する第1波長帯の電磁波を反射するコレステリック液晶を含む第1反射層と、前記第1反射層上に形成され、赤外線領域に第2ピーク波長αを有する第2波長帯の電磁波を反射するコレステリック液晶を含む第2反射層と、を備え、前記第1ピーク波長α及び第2ピーク波長αは、積層によって、それぞれ単独層として形成した場合の基準第1ピーク波長β及び基準第2ピーク波長βからの波長シフトを生じており、それぞれの波長シフトの絶対値である|α−β|及び|α−β|が30nm以下である電磁波反射フィルムである。
【0010】
(2)また、本発明は、前記第1反射層及び前記第2反射層は、それぞれ前記コレステリック液晶に対して同じ方向の旋回性を有するカイラル剤を含有する層である、(1)に記載の電磁波反射フィルムである。
【0011】
(3)また、本発明は、(1)又は(2)に記載の電磁波反射フィルムの製造方法であって、前記第1反射層及び前記第2反射層を形成する際のそれぞれの乾燥温度を調整することによって、前記波長シフトの絶対値を30nm以下に制御する電磁波反射フィルムの製造方法である。
【0012】
(4)また、本発明は、前記それぞれの乾燥温度が70℃を超えて90℃未満である、(3)に記載の電磁波反射フィルムの製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電磁波反射フィルムによれば、車載通信機器を用いても電波障害を起こさず、優れた日射遮蔽性能を有するとともに、可視光に対して高い透過性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第2反射層の有無に基づく波長600nm〜1100nmにおける反射率の違いを示す図である。
【図2】溶媒の乾燥温度の違いに基づく波長600nm〜1100nmにおける反射率の違いを示す図である。
【図3】カイラル剤の旋回性の違いに基づく波長600nm〜1100nmにおける反射率の違いを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0016】
<電磁波反射フィルム>
本発明の電磁波反射フィルムは、基材と、この基材上に形成され、赤外線領域に第1ピーク波長αを有する第1波長帯の電磁波を反射するコレステリック液晶を含む第1反射層と、この第1反射層上に形成され、赤外線領域に第2ピーク波長αを有する第2波長帯の電磁波を反射するコレステリック液晶を含む第2反射層と、を備える。以下、これらの構成要素について説明する。
【0017】
[基材]
本発明の基材は、第1反射層及び第2反射層を支持でき、所定の透明性を有するものであれば、特に限定されるものではなく、可撓性を有するフレキシブル材であってもよいし、可撓性のないリジッド材であってもよい。基板として、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリエチレンやポリメチルペンテン等のオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエーテルサルホンやポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、(メタ)アクロニトリル、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー等の樹脂からなるものを挙げることができる。中でも、汎用性が高く、入手が容易であることから、ポリエチレンテレフタレートが好ましい。
【0018】
基材の可視光領域における透過率は、80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。基材の透過率は、JIS K7361−1(プラスチックー透明材料の全光透過率の試験方法)により測定できる。
【0019】
基材の厚さは、電磁波反射フィルムの用途及び基材を構成する材料等に応じて適宜決定できるものであり、特に限定されるものではない。
【0020】
[第1反射層]
第1反射層は、第1波長帯の電磁波を反射する第1組成物からなり、この第1組成物は、コレステリック規則性を有するコレステリック液晶と、このコレステリック液晶に対して同じ方向の旋回性を有するカイラル剤とを含有する。また、上記第1組成物は、レベリング剤、重合開始剤、添加剤等を含有してもよい。
【0021】
(コレステリック液晶)
コレステリック液晶は、コレステリック液晶構造を形成し得る液晶材料であれば特に限定されるものではないが、硬化後に光学的に安定した第1反射層を得られる点で、分子の両末端に重合性の官能基を有する液晶材料が好ましい。
【0022】
このような液晶材料として、例えば、下記の一般式(1)で表わされる化合物のほか、下記の式(2−i)〜(2−xi)で表される化合物を挙げることができる。また、これらの化合物を単独で、もしくは混合して用いることができる。
【化1】

【化2】

【0023】
上記一般式(1)において、R及びRはそれぞれ水素又はメチル基を示すが、液晶相を示す温度範囲の広さからR及びRはともに水素であることが好ましい。Xは水素、塩素、臭素、ヨウ素、炭素数1〜4のアルキル基、メトキシ基、シアノ基、ニトロ基のいずれであっても差し支えないが、塩素又はメチル基であることが好ましい。また、上記一般式(1)において、分子鎖両端の(メタ)アクリロイロキシ基と芳香環とのスペーサーであるアルキレン基の鎖長を示すa及びbは、それぞれ個別に2〜12の範囲で任意の整数をとり得るが、4〜10の範囲であることが好ましく、6〜9の範囲であることがさらに好ましい。a=b=0である場合、安定性に乏しく、加水分解を受けやすい上に、化合物自体の結晶性が高いため、液晶相を示す温度範囲が狭い点で好ましくない。また、a又はbのいずれかが13以上である場合、アイソトロピック転移温度(TI)が低いため、液晶相を示す温度範囲が狭い点で好ましくない。
【0024】
(カイラル剤)
カイラル剤は、光学活性な部位を有する低分子化合物であり、主として分子量1500以下の化合物である。カイラル剤は主として、ネマチック規則性を示す重合性の液晶材料が発現する正の一軸ネマチック規則性に螺旋構造を誘起させる目的で用いられる。この目的が達成される限り、ネマチック規則性を示す重合性の液晶材料との間で溶液状態あるいは溶融状態において相溶し、ネマチック規則性を示す重合性の液晶材料の液晶性を損なうことなく、これに所望の螺旋構造を誘起できるものであれば、カイラル剤としての低分子化合物の種類は特に限定されない。
【0025】
なお、このようにして液晶に螺旋構造を誘起させるために用いられるカイラル剤は、少なくとも分子中に何らかのキラリティーを有していることが必要である。従って、ここで用いられるカイラル剤としては、例えば1つあるいは2つ以上の不斉炭素を有する化合物、キラルなアミンやキラルなスルフォキシド等のようにヘテロ原子上に不斉点がある化合物、あるいはクムレンやビナフトール等の軸不斉を持つ光学活性な部位を有する化合物が挙げられる。
【0026】
しかしながら、選択されたカイラル剤の性質によっては、ネマチック規則性を示す重合性の液晶材料が形成するネマチック規則性の破壊、配向性の低下、あるいはカイラル剤が非重合性の場合には、液晶材料の硬化性の低下や、硬化後のフィルムの信頼性の低下を招くおそれがある。さらに、光学活性な部位を有するカイラル剤の多量な使用は、液晶材料のコストアップを招く。従って、短い螺旋ピッチ長のコレステリック規則性を有する選択反射層を形成する場合には、液晶材料に含有させる光学活性な部位を有するカイラル剤としては、螺旋構造を誘起させる効果の大きなカイラル剤を選択することが好ましく、具体的には下記の一般式(3)、(4)又は(5)で表されるような、分子内に軸不斉を有する低分子化合物を用いることが好ましい。
【化3】

【0027】
上記一般式(3)又は(4)において、Rは水素又はメチル基を示す。Yは下記に示す式(i)〜(xxiv)の任意の一つであるが、中でも、式(i)、(ii)、(iii)、(v)及び(vii)のいずれか一つであることが好ましい。また、アルキレン基の鎖長を示すc及びdは、それぞれ個別に2〜12の範囲で任意の整数をとり得るが、4〜10の範囲であることが好ましく、6〜9の範囲であることがさらに好ましい。c又はdの値が0又は1である場合、安定性に欠け、加水分解を受けやすく、結晶性も高いため、ネマチック規則性を示す重合性の液晶材料との間の相溶性が低下し、濃度によっては相分離する可能性がある点で、好ましくない。一方、c又はdの値が13以上である場合、融点(Tm)が低いため、ネマチック規則性を示す重合性の液晶材料との間の相溶性が低下し、濃度によっては相分離する可能性がある点で、好ましくない。
【化4】


【化5】

【0028】
このようなカイラル剤は、特に重合性を有する必要はない。しかしながら、カイラル剤が重合性を有している場合、ネマチック規則性を示す重合性の液晶材料と重合され、コレステリック規則性が安定的に固定化されるので、熱安定性等の点で好ましい。特に、分子の両末端に重合性の官能基があることが、耐熱性の良好な選択反射層を得る上で好ましい。
【0029】
第1反射層は、赤外線領域に第1ピーク波長αを有する第1波長帯の電磁波を反射する。ところで、第1反射層を単独層として形成した場合の基準第1ピーク波長は、βであるところ、本発明では、第1反射層と第2反射層とを積層していることから、第1ピーク波長αは、単独層として形成した場合の基準第1ピーク波長βからの波長シフトを生じている。
【0030】
まず、基準第1ピーク波長βは、第1組成物に含まれるカイラル剤の量によって決まる。基準第1ピーク波長βを780nmにする場合、右旋回性を与えるカイラル剤の割合は、第1組成物100質量部に対して4.5質量部以上5.5質量部以下であることが好ましく、左旋回性を与えるカイラル剤の割合は、第1組成物100質量部に対して4.5質量部以上5.5質量部以下であることが好ましい。また、基準第1ピーク波長βを880nmにする場合、右旋回性を与えるカイラル剤の割合は、第1組成物100質量部に対して3.5質量部以上4.5質量部以下であることが好ましく、左旋回性を与えるカイラル剤の割合は、第1組成物100質量部に対して3.5質量部以上4.5質量部以下であることが好ましい。
【0031】
続いて、基準第1ピーク波長βから第1ピーク波長αへの波長シフトの絶対値である|α−β|は、30nm以下であることが好ましい。この絶対値は、第1反射層を形成する際の乾燥温度によって定まり、乾燥温度は、65℃を超えて95℃未満であることが好ましく、70℃を超えて90℃未満であることがより好ましい。|α−β|が30nmを超えると、電磁波の反射率ピークを均一に広幅化できず、本発明の電磁波反射フィルムを赤外線反射フィルムの用途で用いる場合に、互いに異なる波長帯の間において、高い反射率を示さない波長帯を生じる可能性がある点で好ましくない。
【0032】
(レベリング剤)
レベリング剤は、液晶材料のコレステリック構造の形成を促すために用いられる。レベリング剤は、第1反射層において液晶材料のコレステリック配列を促進できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、シリコン系化合物、フッ素系化合物、アクリル系化合物等を挙げることができる。レベリング剤の市販品としては、ビックケミー・ジャパン社製のBYK−361N、AGCセイケミカル社製のS−241等を用いることができる。なお、レベリング剤は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0033】
レベリング剤の含有量は、液晶材料のコレステリック構造を所望の規則性で形成できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、第1組成物100質量部に対して0.01質量部以上5.0質量部以下であることが好ましく、0.03質量部以上1.0質量部以下であることがより好ましい。0.01質量部未満であると、コレステリック構造を所望の規則性で得られないため、好ましくない。5.0質量部を超えると、第2組成物を形成させる場合にコレステリック構造が所望の規則性で得られないために、好ましくない。
【0034】
(重合開始剤)
重合開始剤は、カイラル剤及びレベリング剤の作用によりコレステリック構造を形成した液晶材料を、当該コレステリック構造を維持したまま架橋し、コレステリック構造が乱されにくくするために用いられる。重合開始剤は、液晶材料の重合反応を促進できるものであれば特に限定されるものではなく、照射するエネルギーの種類に応じて適宜選択すればよい。重合開始剤として、光重合開始剤及び熱重合開始剤等を挙げることができる。また、第1組成物に重合開始剤を含有させる場合、重合開始剤の量は、所望の重合反応が生じる程度であれば特に限定されるものではなく、適宜決定すればよい。
【0035】
(溶媒)
また、液晶材料、カイラル剤、レベリング剤、重合開始剤を分散させるため、通常、第1組成物は溶媒に分散されている。溶媒は、上記の成分を分散できるものであれば特に限定されるものではなく、例えば、シクロヘキサノン等を挙げることができる。
【0036】
(厚さ)
第1選択反射層の厚さは、第1反射層に所望の選択反射機能を付与できる範囲内であれば特に限定されるものではない。このため、第1選択反射層の厚みは、本発明によって製造される電磁波反射フィルムの用途等に応じて適宜決定されるものであるが、通常は0.1μm〜100μmの範囲内であることが好ましく、0.5μm〜20μmの範囲内であることがより好ましく、1μm〜10μmの範囲内であることがさらに好ましい。厚さが0.1μm未満であると、所望の反射率を得られないため、好ましくない。厚さが100μmを超えると、コレステリック構造が所望の規則性を得られないため、好ましくない。
【0037】
[第2反射層]
第2反射層は、赤外線領域に第2ピーク波長αを有する第2波長帯の電磁波を反射する第2組成物からなる。ところで、第2反射層を単独層として形成した場合の基準第2ピーク波長は、βであるところ、本発明では、第1反射層と第2反射層とを積層していることから、第2ピーク波長αは、単独層として形成した場合の基準第1ピーク波長βからの波長シフトを生じている。また、第2組成物の成分は、第1組成物の成分と同じであるが、組成物中のカイラル剤の割合が異なる。
【0038】
基準第1ピーク波長βと基準第2ピーク波長βとの差の絶対値|β−β|は、30nm以下であることが好ましい。基準第1ピーク波長βと基準第2ピーク波長βとが同じであると、電磁波の反射率ピークを広幅化できず、本発明の電磁波反射フィルムを赤外線反射フィルムの用途で用いる場合に、赤外線領域の限られた範囲でしか高い反射率を示さない点で好ましくない。絶対値|β−β|が30nmを超えていると、電磁波の反射率ピークを均一に広幅化できず、本発明の電磁波反射フィルムを赤外線反射フィルムの用途で用いる場合に、互いに異なる波長帯の間において、高い反射率を示さない波長帯を生じる可能性がある点で好ましくない。
【0039】
この観点から、基準第1ピーク波長βを780nmにする場合、基準第2ピーク波長βは、880nm程度にすることが好ましく、カイラル剤の割合を上記した割合に調整することが好ましい。一方、基準第1ピーク波長βを880nmにする場合、基準第2ピーク波長βは、780nm程度にすることが好ましく、カイラル剤の割合を上記した割合に調整することが好ましい。
【0040】
そして、基準第2ピーク波長βから第2ピーク波長αへの波長シフトの絶対値である|α−β|は、|α−β|と同様に、30nm以下であることが好ましい。この絶対値は、第2反射層を形成する際の乾燥温度によって定まり、乾燥温度は、65℃を超えて95℃未満であることが好ましく、70℃を超えて90℃未満であることがより好ましい。|α−β|が30nmを超えると、電磁波の反射率ピークを均一に広幅化できず、本発明の電磁波反射フィルムを赤外線反射フィルムの用途で用いる場合に、互いに異なる波長帯の間において、高い反射率を示さない波長帯を生じる可能性がある点で好ましくない。
【0041】
また、第1反射層で用いるカイラル剤と、第2反射層で用いるカイラル剤とは、液晶材料に対して同じ方向の旋回性を有することが好ましい。互いに逆方向の旋回性を有するカイラル剤を用いると、本発明の電磁波反射フィルムを赤外線反射フィルムの用途で用いる場合、赤外線領域において高い反射率を示すものの、可視光線に対する透過率が減少するという可能性があるため、好ましくない。
【0042】
<電磁波反射フィルムの製造方法>
本発明の電磁波反射フィルムは、次の工程を経て製造される。
【0043】
(第1反射層形成工程)
まず、第1波長帯の電磁波を反射する第1反射層を構成する第1組成物を基材上に層状に塗工した後、第1組成物を乾燥し、硬化することで第1反射層を形成する。
【0044】
基材上に第1組成物を塗工する方法は、特に限定されるものではなく、例えば、バーコート法、スピンコート法、ブレードコート法等を挙げることができる。第1反射層の厚さは、所定の波長領域の光を選択的反射する機能を実現できる範囲内であれば特に限定されるものではないが、0.1μm〜100μmの範囲内であることが好ましく、0.5μm〜20μmの範囲内であることがより好ましく、1μm〜10μmの範囲内であることがさらに好ましい。
【0045】
第1組成物の乾燥は、溶媒を除去するために行われるが、乾燥の温度によって、でき上がる電磁波反射フィルムの分光曲線が異なる。電磁波の反射率ピークを所望の波長に合わせるため、乾燥温度は、65℃を超えて95℃未満であることが好ましく、70℃を超えて90℃未満であることがより好ましい。
【0046】
第1組成物の硬化は、第1組成物に電磁波を照射することによって行われる。第1組成物に電磁波を照射するのは、カイラル剤及びレベリング剤の作用によりコレステリック構造を形成した液晶材料を、当該コレステリック構造を維持したまま架橋し、コレステリック構造が乱されにくくするためである。
【0047】
電磁波は、200〜450nmの波長域の光が好ましく、300〜450nmの波長域の光がより好ましい。光源24は、特に限定されるものではなく、例えば、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、炭素アーク灯、水銀蒸気アーク、蛍光ランプ、アルゴングローランプ、ハロゲンランプ、白熱ランプ、低圧水銀灯、フラッシュUVランプ、ディープUVランプ、キセノンランプ、タングステンフィラメントランプ、太陽光等が挙げられる。これらの光源24を用い、積算光量が25mJ/cm〜800mJ/cm、好ましくは25mJ/cm〜400mJ/cm、より好ましくは50mJ/cm〜200mJ/cmの範囲となるように光を照射することにより、第1組成物を硬化させることができる。積算光量が25mJ/cm未満であると、液晶材料の重合が不十分になり、結果として液晶材料のコレステリック構造が乱され得るため、好ましくない。800mJ/cmを超えると、レベリング剤が第1反射層の表面に表れる可能性があるため、好ましくない。
【0048】
(第2反射層形成工程)
続いて、第2波長帯の電磁波を反射する第2反射層を構成する第2組成物を第1反射層上に直接的に接するように層状に塗工した後、第2組成物を乾燥し、硬化することで第2反射層を形成する。
【0049】
第1反射層上に第2組成物を塗工する方法は、基材上に第1組成物を塗工する方法と同じでよく、例えば、バーコート法、スピンコート法、ブレードコート法等を挙げることができる。
【0050】
第2組成物を乾燥する目的は、第1組成物を乾燥する目的と同じであるが、電磁波の反射率ピークを所望の波長に合わせるため、乾燥温度は、65℃を超えて95℃未満であることが好ましく、70℃を超えて90℃未満であることがより好ましい。乾燥温度が95℃を超えると、第1反射層上に第2反射層を直接形成できない可能性があるため、好ましくない。
【0051】
第2組成物の硬化は、第2組成物に電磁波を照射することによって行われる。第2組成物に電磁波を照射する目的は、第1組成物に電磁波を照射する目的と同じである。紫外線の照射量は、電磁波反射フィルムの構成に応じて適宜決定される。電磁波反射フィルムが反射層として第1反射層及び第2反射層のみを有する場合、第2組成物への紫外線照射量は、液晶材料を十分に重合できる範囲内であれば特に限定されるものではない。例えば、電磁波反射フィルムの用途が、第2反射層に80℃以上の熱や大気圧以上の荷重が掛からないようなものである場合、第2組成物への紫外線照射量は200J/cm以上であれば、特に問題はないといえる。一方、電磁波反射フィルムが自動車用の合わせガラス用に用いられる場合、第2反射層が高温・高圧下に置かれることになるので、第2組成物への紫外線照射量は800mJ/cm程度とされる。
【0052】
また、電磁波反射フィルムが第1反射層、第2反射層のほかに、さらに第3反射層、第4反射層…等が形成される場合、第2組成物に照射される紫外線量は、第1組成物への紫外線照射量と同様に、25mJ/cm〜800mJ/cmの範囲内であることが好ましく、25mJ/cm〜400mJ/cmの範囲内であることがより好ましく、50mJ/cm〜200mJ/cmの範囲内であることがさらに好ましい。例えば、第2反射層上に第3反射層が形成される場合、第2組成物への紫外線照射量を上記範囲内とすることによって第3反射層への拡散反射性を低減できるためである。なお、このことは第3反射層上に第4反射層を形成する場合における、第3反射層を構成する第3組成物に対する紫外線照射量についても同様である。
【0053】
(その他の反射層形成工程)
電磁波反射フィルムは、第1反射層、第2反射層のみならず、第2反射層上の第3反射層、第3反射層上の第4反射層、・・・、第n−1反射層上の第n反射層を形成していてもよい。
【0054】
第3反射層、第4反射層、・・・、第n反射層を形成する方法として、第2反射層形成工程において第2反射層を形成する方法と同様に、液晶材料、カイラル剤、レベリング剤及び重合開始剤を含む組成物を塗布、乾燥、硬化することによって形成できる。
【0055】
第3反射層、第4反射層、・・・、第n反射層を構成する組成物の組成は、基本的に第1組成物及び第2組成物の組成と同じであるが、カイラル剤の濃度が各々異なる。カイラル剤の濃度は、第k+1反射層が反射する電磁波の波長帯がこの第k+1反射層に隣接する第k反射層が反射する電磁波の波長帯に対して30nm以下の範囲内でシフトするように定めればよい。なお、kは、1以上n−1以下の自然数である。
【実施例】
【0056】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0057】
【表1】

【0058】
<実施例1>
[第1組成物の調製]
両末端に重合可能なアクリレートを有するとともに中央部のメソゲンとアクリレートとの間にスペーサを有する液晶材料(商品名:OPT−01,液晶性モノマー分子,DNPファインケミカル福島社製)95.3質量部と、両側の末端に重合可能なアクリレートを有する右旋回性のカイラル剤(商品名:CNL-715,ADEKA社製)4.7質量部とをシクロヘキサノン溶液500質量部に溶解させて、第1反射層を構成する第1組成物を得た。このとき、シクロヘキサノン溶液は、液晶性モノマー分子及びカイラル剤の合計100質量部に対して5.0質量部の光重合開始剤(商品名:イルガキュア184,BASF社製)と、液晶性モノマー分子及びカイラル剤の合計100質量部に対して0.03質量部のレベリング剤(商品名:BYK−361N,固形分:30質量%,ビックケミー・ジャパン社製)とを含んでいた。
【0059】
[第2組成物の調製]
上記液晶材料95.8質量部と、上記カイラル剤4.2質量部とを、上記した光重合開始剤及びレベリング剤を含むシクロヘキサノン溶液500質量部に溶解させて、第2反射層を構成する第2組成物を得た。
【0060】
[第1反射層の形成]
続いて、バーコーターを用いて、基材(商品名:U35,ポリエチレンテレフタレートからなる二軸延伸フィルム,厚さ:50μm,東レ社製)上に、硬化後の膜厚が5μmとなるように第1組成物を塗布した。次いで、第1組成物に含まれるシクロヘキサノンを80℃、2分間の条件で蒸発させて、液晶性モノマー分子を配向させ、右旋回性塗膜を得た。そして、この塗膜に、紫外線照射装置「Hバルブ」(フュージョン社製)を用いて積算光量が50mJ/cmになるように紫外線を照射することで、液晶材料とカイラル剤とを3次元架橋してポリマー化し、二軸延伸フィルム上にコレステリック構造を固定化することにより、第1反射層を形成した。なお、積算光量の測定は、紫外線光量計「UV−351」(オーク製作所社製)を用いてJIS R1709法にしたがって測定した。
【0061】
[第2反射層の形成]
さらに、バーコーターを用いて、第1反射層上に、硬化後の膜厚が5μmとなるように第2組成物を塗布した。次いで、第2組成物に含まれるシクロヘキサノンを80℃、2分間の条件で蒸発させて、右旋回性塗膜を得た。そして、この塗膜に、上記紫外線照射装置を用いて積算光量が800mJ/cmになるように紫外線を照射することで、第2反射層を形成した。これにより、実施例1に係る電磁波反射フィルムを得た。
【0062】
<比較例1>
上記第1組成物の調製及び第1反射層の形成のみを行い、第2組成物の調製及び第2反射層の形成を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法にて比較例1の電磁波反射フィルムを得た。
【0063】
<反射率の測定>
反射率は、紫外可視近赤外分光光度計「UV−3100」(島津製作所社製)を用い、JIS K0115法にしたがって測定した。実施例1の結果を図1(a)に示し、比較例1の結果を図1(b)に示す。
【0064】
実施例1の電磁波反射フィルムは、基材と、この基材上に形成され、赤外線領域に第1ピーク波長797nmを有する第1波長帯の電磁波を反射するコレステリック液晶を含む第1反射層と、この第1反射層上に形成され、赤外線領域に第2ピーク波長874nmを有する第2波長帯の電磁波を反射するコレステリック液晶を含む第2反射層と、を備え、第1ピーク波長797nm及び第2ピーク波長874nmは、積層によって、それぞれ単独層として形成した場合の基準第1ピーク波長780nm及び基準第2ピーク波長880nmからの波長シフトを生じており、それぞれの波長シフトの絶対値である|α−β|及び|α−β|は、30nm以下であった。この電磁波反射フィルムによると、第1波長帯及び第2波長帯での電磁波の反射率が35%以上であり、かつ、波長400nm以上700nm以下での電磁波の反射率が15%以下であることから、車載通信機器を用いても電波障害を起こさず、優れた日射遮蔽性能を有するとともに、可視光に対して高い透過性を有することが確認された。
【0065】
一方、基材上に1層の反射層しか形成されていない電磁波反射フィルムは、固有の波長帯(比較例1の態様では第1波長帯)での電磁波しか選択的に反射できないため、固有の波長帯から外れる波長帯の電磁波を透過してしまい、実施例1ほど優れた日射遮蔽性能が得られないことが確認された(比較例1)。
【0066】
【表2】

【0067】
<実施例2、3及び比較例2、3>
第1反射層及び第2反射層を形成するにあたり、溶媒であるシクロヘキサノンの蒸発温度を上記の表に掲げるとおりとしたこと以外は、実施例1と同様の方法にて実施例2、3及び比較例2、3の電磁波反射フィルムを得た。
【0068】
実施例2、3及び比較例2、3の電磁波反射フィルムについて、実施例1と同様の方法にて反射率を測定した。結果を図2に示す。
【0069】
基材と、この基材上に形成され、第1波長帯の電磁波を反射する第1反射層と、この第1反射層上に形成され、第2波長帯の電磁波を反射する第2反射層とを含んで構成される電磁波反射フィルムにおいて、第1組成物における溶媒の乾燥温度が65℃を超えて95℃未満であり、第2組成物における溶媒の乾燥温度が65℃を超えて85℃未満である場合、波長シフトの絶対値である|α−β|及び|α−β|は、30nm以下であった。この場合、第1波長帯及び前記第2波長帯での電磁波の反射率が35%以上であり、かつ、波長400nm以上700nm以下での電磁波の反射率が15%以下であることから、車載通信機器を用いても電波障害を起こさず、優れた日射遮蔽性能を有するとともに、可視光に対して高い透過性を有することが確認された(実施例2、3)。
【0070】
一方、第1組成物における溶媒の乾燥温度が70℃であり、第2組成物における溶媒の乾燥温度が90℃である電磁波反射フィルムは、第1波長帯及び第2波長帯での反射率が著しく低く、実施例に係る電磁波反射フィルムに比べて日射遮蔽性能が劣ることが確認された(比較例2)。また、第1組成物における溶媒の乾燥温度が90℃であり、第2組成物における溶媒の乾燥温度が90℃である電磁波反射フィルムは、第1反射層上に第2反射層を形成しづらく、作業性が劣る点で好ましくないことが確認された(比較例3)。
【0071】
【表3】

【0072】
<実施例4>
第1組成物及び第2組成物を調製するにあたり、上記右旋回性のカイラル剤の代わりに左旋回性のカイラル剤(商品名:CNL−716,ADEKA社製)を用いたこと以外は、実施例1と同様の方法にて実施例4の電磁波反射フィルムを得た。
【0073】
実施例4の電磁波反射フィルムについて、実施例1と同様の方法にて反射率を測定した。結果を図3に示す。
【0074】
基材と、この基材上に形成され、第1波長帯の電磁波を反射する第1反射層と、この第1反射層上に形成され、第2波長帯の電磁波を反射する第2反射層とを含んで構成される電磁波反射フィルムにおいて、液晶材料に対して同じ方向の旋回性を有するカイラル剤を用いる場合は、旋回方向にかかわらず、好適な日射遮蔽性能及び可視光透過性が得られるとともに、車載通信機器を用いても電波障害を起こさないことが確認された(実施例4)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
この基材上に形成され、赤外線領域に第1ピーク波長αを有する第1波長帯の電磁波を反射するコレステリック液晶を含む第1反射層と、
前記第1反射層上に形成され、赤外線領域に第2ピーク波長αを有する第2波長帯の電磁波を反射するコレステリック液晶を含む第2反射層と、を備え、
前記第1ピーク波長α及び第2ピーク波長αは、積層によって、それぞれ単独層として形成した場合の基準第1ピーク波長β及び基準第2ピーク波長βからの波長シフトを生じており、
それぞれの波長シフトの絶対値である|α−β|及び|α−β|が30nm以下である電磁波反射フィルム。
【請求項2】
前記第1反射層及び前記第2反射層は、それぞれ前記コレステリック液晶に対して同じ方向の旋回性を有するカイラル剤を含有する層である、請求項1に記載の電磁波反射フィルム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の電磁波反射フィルムの製造方法であって、前記第1反射層及び前記第2反射層を形成する際のそれぞれの乾燥温度を調整することによって、前記波長シフトの絶対値を30nm以下に制御する電磁波反射フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記それぞれの乾燥温度が70℃を超えて90℃未満である、請求項3に記載の電磁波反射フィルムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−88628(P2013−88628A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229186(P2011−229186)
【出願日】平成23年10月18日(2011.10.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】