説明

電磁波吸収体およびその加熱方法

【課題】マイクロ波非吸収体の加熱効率を高めること。
【解決手段】アルミナおよびシリカからなる群より選ばれた少なくとも1種のマイクロ波非吸収体とグラファイトとを含む電磁波吸収体であって、該グラファイトの混合比率が該グラファイトと該マイクロ波非吸収体との合計質量に対して50〜95質量%であることを特徴とする電磁波吸収体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁波吸収体およびその加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロニクスの分野において、コンピューターや民生用電子機器に使用される電磁波の高周波化が進展し、ギガヘルツ(GHz)帯域の電磁波(マイクロ波・ミリ波)も頻繁に使用されるようになってきた。このような高周波は、高出力・高密度の信号搬送を可能にする反面、ノイズとして他の機器に取り込まれると、誤動作その他各種の電波障害を引き起こす懸念がある。このため、電子機器や通信機器が外部から侵入する電磁波に干渉されないように、或いはこれらの機器が発生する電磁波が過剰に外部に漏洩しないように、電磁波シールド材や電磁波吸収体が用いられている。電磁波吸収体は、入射してきた電磁波を熱エネルギーに変換して、透過或いは反射する電磁波の強度を大幅に減衰するものである。
【0003】
また、近年マイクロ波を利用した加熱が電子レンジの普及と共に身近になり、均一加熱、急速加熱が可能との理由で、一般工業分野などにも応用されはじめている。このため、電磁波を吸収して発熱する発熱体も重要となってきている。発熱体は、マイクロ波・ミリ波を受けて、電磁波を熱エネルギーに変換して、必要とする系の温度を高めるものであり、電磁波吸収体そのものである。
【0004】
電磁波吸収体の材料として、従来は主にフェライトやカーボンが使用されている。これらの材料は、その粉末を樹脂、ゴム或いは塗料等のマイクロ波非吸収体マトリックス中に分散・複合化したものを、電磁波を吸収したい部位に貼付または塗布する形で用いられることが多い。これまで、電磁波吸収特性を上げるためには、電磁波吸収体をマイクロ波非吸収体中に分散・複合化させるに際し、フェライトやカーボンの量は多ければ多いほど良く、出来れば全量がフェライトやカーボンであるのが良いとされてきた。したがって、複合材料中の単位体積あたりの電磁波吸収体材料の量を増やすか、別の電磁波吸収体材料の開発が不可欠であった。
【0005】
別の電磁波吸収体材料として、特定の電気伝導度を有する炭化ホウ素粉末を含む材料が知られている(特許文献1)。この電磁波吸収体材料は、複素誘電率の実数部および虚数部が大きな値を示し、電磁波吸収特性に優れている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−86115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電磁波吸収特性の更なる向上が求められている。また、マイクロ波非吸収体を高い加熱効率で加熱することができる電磁波吸収体が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、マイクロ波非吸収体の加熱効率(昇温速度)がグラファイトの混合比率に必ずしも比例しないことを発見し、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明によれば、
(1)アルミナおよびシリカからなる群より選ばれた少なくとも1種のマイクロ波非吸収体とグラファイトとを含む電磁波吸収体であって、該グラファイトの混合比率が該グラファイトと該マイクロ波非吸収体との合計質量に対して50〜95質量%であることを特徴とする電磁波吸収体が提供される。
【0010】
さらに本発明によれば、
(2)該グラファイトの混合比率が該グラファイトと該マイクロ波非吸収体との合計質量に対して60〜90質量%である、(1)に記載の電磁波吸収体が提供される。
【0011】
さらに本発明によれば、
(3)該グラファイトの混合比率が該グラファイトと該マイクロ波非吸収体との合計質量に対して67〜80質量%である、(2)に記載の電磁波吸収体が提供される。
【0012】
さらに本発明によれば、
(4)該マイクロ波非吸収体がシリカである、(1)〜(3)のいずれか1項に記載の電磁波吸収体が提供される。
【0013】
さらに本発明によれば、
(5)アルミナおよびシリカからなる群より選ばれた少なくとも1種のマイクロ波非吸収体とグラファイトとを含む電磁波吸収体にマイクロ波を照射することによって該電磁波吸収体を加熱する方法であって、該グラファイトの混合比率を該グラファイトと該マイクロ波非吸収体との合計質量に対して50〜95質量%とすることを特徴とする方法が提供される。
【0014】
さらに本発明によれば、
(6)マイクロ波照射時の昇温速度が230℃/分以上である、(5)に記載の方法が提供される。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、マイクロ波非吸収体にグラファイトを所定量混合することにより、グラファイト100%の場合よりマイクロ波照射による加熱効率の高い電磁波吸収体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】実施例で用いたアプリケータの一部を示す部分概略図である。
【図2】グラファイトの混合比率に対し昇温速度をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明による電磁波吸収体は、アルミナおよびシリカからなる群より選ばれた少なくとも1種のマイクロ波非吸収体とグラファイトとを含む電磁波吸収体であって、該グラファイトの混合比率が該グラファイトと該マイクロ波非吸収体との合計質量に対して50〜95質量%であることを特徴とする。
【0018】
本発明によると、マイクロ波非吸収体はアルミナ(Al)およびシリカ(SiO)からなる群より選ばれる。マイクロ波非吸収体は、アルミナまたはシリカの単体であってもよいし、これらの混合物であってもよい。マイクロ波非吸収体の形状に特に制約はなく、粉末状、繊維状、顆粒状等の種々の形状をとることができる。マイクロ波非吸収体のサイズは、平均粒径で一般に0.05〜100μm、好ましくは0.1〜50μmの範囲内にあることが望ましい。
【0019】
本発明によると、上記マイクロ波非吸収体にグラファイトが混合される。用いるグラファイトに特に制限はなく、平均粒径で一般に0.05〜100μm、好ましくは0.1〜50μmの範囲内のものを使用すればよい。
【0020】
本発明においては、マイクロ波非吸収体とグラファイトとを含む電磁波吸収体にマイクロ波を照射する。一般に、電磁波吸収体は、容器またはカラムに充填された充填層の形態で用いられる。この充填層を均一加熱するためには、グラファイトを充填層内に均一に分散させることが好ましい。例えば、電磁波吸収体を容器またはカラムに充填する際に、マイクロ波非吸収体にグラファイトを均一に混合分散させ、この混合物を充填することができる。マイクロ波非吸収体とグラファイトを混合する場合、グラファイトの形状は、当該マイクロ波非吸収体と均一混合しやすい形状であることが好ましく、マイクロ波非吸収体の形状に応じて、粉末状、顆粒状等の形状で用いられる。また、マイクロ波非吸収体とグラファイトの混合物からなる成形体、グラファイトをマイクロ波非吸収体に含有または担持させたもの、等を使用してもよい。
【0021】
本発明によると、グラファイトの混合比率をグラファイトとマイクロ波非吸収体との合計質量に対して50〜95質量%、好ましくは60〜90質量%、より好ましくは67〜80質量%とする。このような混合比率でマイクロ波非吸収体にグラファイトを混合することにより、グラファイト100%の場合よりマイクロ波照射時の昇温速度が高くなる。電磁波吸収体の昇温速度が高いことは、電磁波吸収体の加熱に時間がかからず電磁波吸収体を効率よく加熱できることを示している。このように、グラファイトの混合比率に関して昇温速度にピークがあることは、マイクロ波非吸収体の昇温速度はグラファイトの混合比率に比例するという従来の技術認識を覆すものである。特に、後述の実施例に示したように、マイクロ波非吸収体としてシリカを用い、これにグラファイトを全体の約80質量%混合した場合に、230℃/分を上回る高い昇温速度が実現される。
【0022】
本発明において用いられるマイクロ波の波長は、10MHz〜25GHzの範囲内、好ましくはISM周波数帯である。一般には、波長約2.45GHzのマイクロ波が用いられる。グラファイトを均一に分散させた電磁波吸収体をマイクロ波で加熱することにより、電磁波吸収体をむらなく均一に、かつ、迅速に加熱することができる。
【0023】
マイクロ波非吸収体が非炭素系吸着剤である場合、排ガス中の有機成分や炭化水素ガス中の水分等を該吸着剤を使って分離した後、該吸着剤の被吸着物質を加熱脱離させて吸着剤を再使用することができる。例えば、グラファイトを分散させた非炭素系吸着剤を含む充填層に対して、吸着性物質を含む気体を流通させ、非炭素系吸着剤(マイクロ波非吸収体)に吸着性物質を吸着させる(吸着工程)。次いで、その充填層にマイクロ波を照射する(脱着工程)。充填層に存在するグラファイトがマイクロ波を吸収して発熱し、その熱により非炭素系吸着剤が加熱される。この加熱により、非炭素系吸着剤に吸着されていた吸着性物質が脱着され、回収される。吸着性物質が有機溶剤である場合には、非炭素系吸着剤から脱着されたガス状の有機溶剤は、その後冷却液化されて回収することができる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。
実施例1
マイクロ波の照射には、一般的な工業規格である周波数2.45GHzのマイクロ波発信器を用いた。図1に示したように、マイクロ波は矩形導波管(WRJ−2)により導入し、その導波管の途中に設けたアプリケータ部に加熱試験容器を配置した。アプリケータ前段でスリースタブを用いて反射波を消失させた。導波管終端には水負荷を設け、試料に進行波のみが照射されるようにした。アプリケータ前後に十字型結合器を取り付け、入出のマイクロ波強度を測定した。マイクロ波非吸収体としてアルミナ(平均粒径10μm)を用い、これにグラファイト(平均粒径18.5μm)を均一に混合して電磁波吸収体を調製した。混合比率は、電磁波吸収体全体に対して20質量%、33質量%、50質量%、67質量%および80質量%とした。また、同一材料によるアルミナ単体およびグラファイト単体の試料も用意した。これらの試料約25mLをアプリケータに配置し、その試料の上部表面からファイバー温度計を5mm差し込んだ。上記マイクロ波を200W(入口強度)照射し、照射開始後15秒から30秒の間の温度上昇に基づき昇温速度を測定した。グラファイトの混合比率に対する昇温速度の変化を図2に示す。
【0025】
実施例2
グラファイトとして平均粒径125μmのものを用い、かつ、その混合比率を、電磁波吸収体全体に対して33質量%、50質量%、67質量%および80質量%としたことを除き、実施例1と同様に実施した。グラファイトの混合比率に対する昇温速度の変化を図2に示す。
【0026】
実施例3
マイクロ波非吸収体としてシリカ(平均粒径5μm)を用い、かつ、グラファイトの混合比率を、電磁波吸収体全体に対して67質量%、75質量%および80質量%としたことを除き、実施例1と同様に実施した。グラファイトの混合比率に対する昇温速度の変化を図2に示す。
【0027】
図2に示したデータから明らかなように、マイクロ波非吸収体に対するグラファイトの混合比率を高めていくと、電磁波吸収体の昇温速度に極大点が存在する。特にマイクロ波非吸収体としてシリカを用いた実施例3では、グラファイトを全体の約80質量%混合すると230℃/分を上回る高い昇温速度が実現した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナおよびシリカからなる群より選ばれた少なくとも1種のマイクロ波非吸収体とグラファイトとを含む電磁波吸収体であって、該グラファイトの混合比率が該グラファイトと該マイクロ波非吸収体との合計質量に対して50〜95質量%であることを特徴とする電磁波吸収体。
【請求項2】
該グラファイトの混合比率が該グラファイトと該マイクロ波非吸収体との合計質量に対して60〜90質量%である、請求項1に記載の電磁波吸収体。
【請求項3】
該グラファイトの混合比率が該グラファイトと該マイクロ波非吸収体との合計質量に対して67〜80質量%である、請求項2に記載の電磁波吸収体。
【請求項4】
該マイクロ波非吸収体がシリカである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の電磁波吸収体。
【請求項5】
アルミナおよびシリカからなる群より選ばれた少なくとも1種のマイクロ波非吸収体とグラファイトとを含む電磁波吸収体にマイクロ波を照射することによって該電磁波吸収体を加熱する方法であって、該グラファイトの混合比率を該グラファイトと該マイクロ波非吸収体との合計質量に対して50〜95質量%とすることを特徴とする方法。
【請求項6】
マイクロ波照射時の昇温速度が230℃/分以上である、請求項5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−192849(P2010−192849A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−38348(P2009−38348)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 委託研究「有害化学物質リスク削減基盤技術研究開発/直接加熱式VOC吸着回収装置の研究開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】