説明

電磁波抑制材及び電子機器

【課題】柔軟性を有し、高密度化が可能であって、耐久性及び信頼性の高い電磁波抑制材、及びこれを用いた電子機器を提供する。
【解決手段】実質的にイオン性液体のみからなるイオン性液体材料1および実質的にこのイオン性液体のみを保持したゲル状材料であるイオン性液体材料1などのイオン性液体材料1を内的な電磁波の発生部位および外的な電磁波の作用部位との少なくとも一方、例えば配線上、集積回路チップ上などに配設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器から発生する不要輻射対策等に用いる電磁波抑制材、及びこの電磁波抑制材を具備する電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年に見られる高周波数の電磁波利用の増加に伴い、電磁波ノイズによる機器の誤作動や、脳及び人体への悪影響等といった被害並びに障害が新たな環境問題として提起されている。
【0003】
例えば、免許不要であって無線通信で利用可能な周波数帯の1つである2.45GHz帯に注目してみると、これは無線LAN(IEEE802.11b)、Bluetooth、ISM(Industrial, Scientific and Medical)機器等に数多く利用されている、更には、情報機器のクロック周波数の高速化及びデジタル化に伴い、この帯域における高調波の発生も考えられる。
【0004】
このように、潜在的な電磁波発生源及び干渉被害側の双方の数と多様性とが指数関数的に増加するため、干渉の起こるリスクが天文学的に増加している。
【0005】
このような電磁干渉(EMI: Electromagnetic Interference)の問題に対処するためには、個々の機器が、他の機器の正常な作動を妨害するような不要な電磁波を放射させることなく(エミッションの抑制)、かつ外部から侵入する電磁波に対して何ら影響を受けない十分な耐力をもつこと(イミュニティ(免疫性)の向上)が要求される。このような考え方は、電磁気的両立性(EMC: Electromagnetic Compatibility)と称され、電磁環境下で電子機器が電磁両立性を確立するために様々な規格が定められている。
【0006】
例えば、回路設計におけるEMC対策を進める際、電子機器から発生する電磁妨害波を低減させ、また、電子機器に電磁妨害波が侵入するのを防ぐための回路素子として、主に妨害抑制素子が用いられる。
【0007】
この妨害抑制素子には、例えば、コンデンサやコイルを組み合わせたLCフィルタ及びバリスタ等、様々なものがある。これ等は、希望の信号が素子を通過する際には損失が小さく、妨害波に対しては大きな反射損失や通過損失を持つように設計され、ほとんどの電子回路に適切な方法で組み合わされて使用されている。
【0008】
しかしながら、回路素子との組み合わせによる特定の共振周波数により、電圧や電流波形が振動してしまい、希望の信号波形が大きく歪むことがある。更には、GHz帯の電磁波の波長は、電子回路の回路長に近く、回路自体が電磁波に対するアンテナとして作用するために、誤作動を引き起こす可能性も生じる。
【0009】
このように、回路設計では補うことのできないEMC問題は実装設計の段階で提起されているが、近年、その解決策として注目されているのが、磁性粉末と樹脂とを混合してシート状化した電磁波抑制材又は電磁波吸収材(以下、これらを電磁波抑制材として説明することがある。)を用いることである。
【0010】
この電磁波抑制材における電磁波抑制吸収の原理は、入射した電磁波エネルギーのほとんどを、電磁波抑制材の内部で熱エネルギーに変換するというものである。このため、電磁波抑制材では、前面に反射するエネルギーと後方へ透過するエネルギーとの双方を小さくすることができる。
【0011】
ここで、熱エネルギーへの変換のメカニズムは、主に導電損失、誘電損失及び磁性損失の3種に分類される。この時の単位体積当りの電磁波吸収エネルギーP[W/m3]は、外部電界E、磁界H及び電磁波の周波数fを用いて下記の式(1)のように表される。この式において、第1項が導電損失を表し、第2項が誘電損失を表し、第3項が磁性損失を表している。
【0012】
【数1】

〔但し、電磁波抑制材の導電率:σ
電磁波抑制材の複素誘電率:ε=ε’−jε”(jε”は電磁波吸収の遅れ成分)
電磁波抑制材の複素透磁率:μ=μ’−jμ”(jμ”は電磁波吸収の遅れ成分)〕
【0013】
ここで、導電損失のメカニズムは、電磁波抑制材の導電率σの有限な媒質に電界が加えられると導電電流が流れ、電磁波のエネルギーが熱に変換されるというものである。このような導電損失に用いる導電損失材料には、例えば、導電性繊維を布状に織り上げた布や酸化インジウムスズを蒸着した誘電体シート等が用いられる。誘電損失に用いる誘電損失材料には、例えば、カーボン粒子を混入したゴムシート、グラファイト含有発泡ポリスチロール及びカーボン含有発泡ウレタン等が用いられる。また、磁性損失に用いる磁性損失材料には、主としてフェライト等が用いられる。
【0014】
伝達経路等に使用される従来の電磁波抑制材は、磁性材料に特有のインダクタ成分を生かしたフィルタ効果と、上記の電磁波吸収効果とを併用したものであると考えられる。
【0015】
現在、電磁波抑制材として用いられている磁性シートは、プリント回路基板の上面、フレキシブルプリント回路(FPC)の上部、筐体の裏面、及びパッケージの上面等に貼り付けて利用されている。
【0016】
しかしながら、どのような原理にて、どのような効果が現れているのかは、電子機器内における複雑な信号伝送路や、それ自身によって作られる電界の分布及び磁界の分布により異なるため、明らかにすることが困難であるのが現状である。
【0017】
このように、磁性シートの特性やその効果については明確になっていないため、磁性シートの性能評価は、主に、マイクロストリップラインにおける高周波フィルタ効果(抑制効果)と、上記の式(1)における損失項(ε”、μ”)の大きさとで見積もることが多く行われている。
【0018】
他方、高誘電率の媒質を用いた電磁波抑制材の1例を図12(A)に示す(後述の特許文献1を参照)と、この電磁波吸収材51aの構造は、板状のケース54に設けた仕切り壁で仕切られた空間内に、微粒子状強磁性材料52を高誘電率の液体媒質53に混合した混合物が配置されたものである。
【0019】
これは、水、グリセリン又はメチルアルコール等の高誘電率の液体媒質53中に、微粒子状強磁性材料52を均一に分散させた電磁波抑制吸収材である。
【0020】
また、図12(B)に、電磁波抑制材の別の例を示す(後述の特許文献2を参照)と、この電磁波吸収材料51bは、熱伝達変換層57と、電波及び電磁波を吸収する複数の電磁波吸収層56a、56b及び56cとが、複数の易接着層55を介して交互に接着された積層構造の電磁波抑制材であり、電磁波吸収層56a、56b及び56cの材質として、希土類イオン含有包接物を樹脂中に分散或いは混合させた固定媒体を用いている。
【0021】
【特許文献1】特開昭64−52302号公報(第2頁右下欄1行〜第3頁左下欄7行、図1)
【特許文献2】特開2002−84089号公報(第4頁左欄5行〜第6頁左欄19行、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、上述のような電子機器の不要輻射対策において、先ず、磁性シートをプリント回路基板等の上部、特に、ICパッケージの上部や筐体の裏面等に貼り付けて利用する場合に、期待するほどの電磁波吸収効果が得られず、逆に、磁界強度を増加(出口側の磁界を増幅)させて電磁波吸収効果を低下させてしまうといった現象がしばしば見られる。
【0023】
このような現状を打破するためには、既存の磁性シートよりも更に電磁波吸収特性の良い電磁波抑制シートが必要である。既存の磁性シートでは、その特性を高めるために磁性粉末の混合量を増やしているが、その磁性粉末の量の増加と共に磁性シートの比重も増加するため、硬い磁性シートとなってしまう。
【0024】
そのために、例えば、フレキシブルプリント回路(FPC)上部に貼り付ける場合には、そのフレキシブルな特性を生かすために、より柔軟性のある電磁波抑制シートが必要であるが、硬い磁性シートでは対応し難い。更には、磁性粉末を用いるために高コストの磁性シートになり、より安価な電磁波抑制シートが必要とされている。
【0025】
このように、高周波数帯域における電磁波抑制材としては、磁性材料が現在も主流である。即ち、磁性材料を用いた磁性シートは、電磁波を抑制、吸収するために、上述の式(1)の磁性損失である第3項の複素透磁率μ”が高くなるように設計されている。
【0026】
また、水などの媒質を用いる場合には、その揮発(又は蒸発)によって特性劣化し易く、耐久性、信頼性に乏しい。
【0027】
即ち、図12(A)に示した電磁波抑制材においては、微粒子状強磁性材料52と水、グリセリン又はメチルアルコール等の高誘電率の液体媒質53とが混合されているので、このような水分を含む材料を用いる場合には、数年又は10年以上の特性保持という信頼性に対して、水分の揮発やもれを完全に防止することができず、その防止のために難しい技術が必要となる。また、電磁波抑制材が水分等を含んでいるので、そのラミネート材に水分等の揮発又は漏れ防止技術を付加しなければならず、また電磁波吸収能を高めるには、強磁性材料の配合量を増やす必要がある。
【0028】
また、図12(B)に示した電磁波抑制材においては、希土類イオン含有包接物を樹脂中に分散或いは混合しているために、電磁波吸収能を高めるには、希土類イオン含有包接物の分散量又は混合量を増加させる必要がある。従って、上記の例も同様であるが、電磁波吸収能を大きくするためには、全体の重量やサイズが大きくなり、形状追随性(柔軟性又は可とう性)に乏しいものとなる。
【0029】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、柔軟性を有し、高密度化が可能であって、耐久性及び信頼性の高い電磁波抑制材、及びこれを用いた電子機器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0030】
即ち、本発明は、実質的にイオン性液体のみからなる、電磁波抑制材に係わるものである。ここで、「実質的に」とは、イオン性液体100%は勿論であるが、少量の添加成分を含有していてもよいという意味である(以下、同様)。
【0031】
本発明は又、実質的にイオン性液体のみをポリマーのネットワーク内に含浸させる等、実質的に前記イオン性液体のみを保有したゲル状材料である、電磁波抑制材に係わるものである。
【0032】
本発明は又、前記電磁波抑制材が、内的な電磁波の発生部位と、外的な電磁波の作用部位との少なくとも一方に配されている、電子機器に係わるものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明者は、本発明を案出する過程において、上述した式(1)から、MHz帯域及びGHz帯域の周波数にて、誘電損失である第2項の誘電率ε”が高い材料に着目した。
【0034】
一般的に知られているチタン酸バリウム等の固体の強誘電体は、その名の通り高い誘電率を示すものの、共鳴現象が低周波数に存在するために、MHz帯域及びGHz帯域の周波数における誘電率の分散特性をほとんど有しておらず、誘電率ε”の値は低い。このため、現在までのところ、高周波数帯域における電磁波抑制材としては、やはり磁性材料が主流である。
【0035】
一方、本発明者は、電解液のようなイオンを有する液状材料の誘電率に着目し、電磁波吸収効率の高い電磁波抑制材を見い出した。
【0036】
このイオンを含む電解液は、印加された電界に応じてイオン伝導を生じる。このイオン伝導には、溶媒の種類等によっても左右されるが、超伝導材料でない限り必ず抵抗成分が存在し、イオンの伝導度はその抵抗成分の大きさに支配される。この抵抗成分が、比誘電率の損失部ε”に当たると考えられる。材料の誘電率εを真空の誘電率ε0で規格化した値を比誘電率εr(=ε/ε0)という。イオンを含む電解液の比誘電率の損失部εr”の大きさは、1GHz以下では、数10〜数100又はそれ以上という値を有する。つまり、イオンを含む電解液は、入射した電磁波のエネルギーをジュール熱に変換させ、吸収することも可能となる。
【0037】
しかしながら、電解液のような水分を含む材料では、数年又は10年以上の特性保持という信頼性に対して、水分の揮発やもれを完全に防止することができず、その防止のために難しい技術が必要となる。また、電磁波抑制材のラミネート材に水分の揮発又は漏れ防止技術を付加しなければならない。
【0038】
これに対して、本発明によれば、電磁波抑制材が、実質的にイオン性液体のみからなり、或いは、実質的に前記イオン性液体のみを保有したゲル状材料であるために、柔軟性があって多様な形状に追随できると共に、材質がイオン性液体単独からなるため、高密度に形成が可能であって媒質が不要であることから、電磁波吸収性に優れ、かつ水分の揮発等のおそれがなく、耐久性及び信頼性が高く、更に作製も比較的容易である。これによって、電磁波抑制効果が高効率で十分な電磁波抑制材を得ることができる。
【0039】
また、前記電磁波抑制材が、内的な電磁波の発生部位と、外的な電磁波の作用部位との少なくとも一方に設けられているので、電磁波の放射や侵入の問題を解消した、EMC対策に有用な電子機器を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本発明においては、前記イオン性液体の形状保持性を良好にするために、前記イオン性液体が封止フィルム等の封止材で封止されているのが望ましい。
【0041】
また、前記イオン性液体の配置状況に対応して、前記イオン性液体が前記封止材で封止された状態で、或いは単独若しくはゲル状態で、シート状又はバルク状に形成されているのが望ましい。
【0042】
また、前記イオン性液体の保護のために絶縁材からなるラミネートが施されてもよい。
【0043】
また、前記イオン性液体が陽イオンと陰イオンとによって構成され、前記陽イオンが、芳香族系及び脂肪族4級アンモニウム塩系からなる群より選択された少なくとも1種からなり、前記陰イオンが、無機イオン系及びフッ素含有有機陰イオン系からなる群より選択された少なくとも1種からなるのが望ましい。
【0044】
また、内的な電磁波の発生部位と、外的な電磁波の作用部位との少なくとも一方において、前記電磁波抑制材が、集積回路素子又は配線上に設けられているのがよく、或いは、複数の配線基板間、又は配線基板と筐体との間に挟持されているのがよい。
【0045】
次に、本発明の好ましい実施の形態を図面の参照下に詳細に説明する。
【0046】
図1〜図11は、本発明の実施の形態を示すものである。
【0047】
図1は、本発明に基づく電磁波抑制(吸収)材20を各種示す。これらの電磁波抑制材は、イオン性物質で構成されたイオン性液体のみ、又は、イオン性液体のみを保持したゲル状材料からなる電磁波抑制材料であるイオン性液体材料1を有している。
【0048】
この電磁波抑制材20の形態としては、例えば、図1(A)に示すように、イオン性液体材料1を単独でシート状等にして使用することができる。
【0049】
また、図1(B)に示すように、イオン性液体材料1の形状を十分に保持するために、イオン性液体材料1をフィルム2(封止材)で包む(封止する)のがよい。このフィルム2は、電磁波吸収性のあるフィルム状の容器でも、電磁波吸収性のないフィルム状の容器でもよいが、電磁波を反射するアルミニウム箔などは避けるのがよい。
【0050】
また、イオン性液体材料1の配置状況に対応して、イオン性液体材料1からなる電磁波抑制材20をシート状又はバルク状に形成することができる。これは、イオン性液体材料1を単独で成形した状態であってもフィルム2(封止材)で包んだ状態であってもよい。
【0051】
また、図1(C)に示すように、基板4上に配置されたイオン性液体材料1の保護のために、イオン性液体材料1を絶縁材からなるラミネート材3で覆うこともできる。
【0052】
このイオン性液体材料1を用いることにより、電磁波の作用でイオン性液体材料1内にイオン伝導が生じ、これによって生じるイオンの衝突によりジュール熱が発生するために、電磁波抑制及び吸収量が増加する。特に、−20℃(凝固点)〜数100℃の沸点(又は分解点)という特性は、イオン性液体材料1の不揮発性、安定性を十分に発現する。
【0053】
また、イオン性液体材料1の特長は、不揮発性、不燃性、熱安定性、化学的安定性(イオンが他の成分と反応せず、経時変化し難い。)、高イオン導電性及び電気分極耐性である。
【0054】
図2には、イオン性液体の化学成分を示すが、陽イオンと陰イオンとから構成され、陽イオン(カチオン)成分側では、図2(A)に示す1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(EMI)等のイミダゾリウム塩系、図2(B)に示す3−ブチルピリジウム(BP)等のピリジニウム塩系等の芳香族系、図2(C)に示すトリメチルヘキシルアンモニウム(TMHA)等の脂肪族四級アンモニウム塩系、及び5員環のエチルメチルピロリジニウム(P12)等の脂肪族環状アンモニウム塩系等が用いられる。
【0055】
また、陰イオン(アニオン)成分X-側では、臭化物イオン(Br-)、テトラフルオロポレート(BF4-)及び6フッ化リン酸(PF6-)等の無機イオン系から、ピストリフルオロメチルスルホン酸イミド(TFSI)、CF3SO2-、パーフルオロスルホンイミド((CF3SO22-:TFSI)等のフッ素含有有機陰イオンの組み合わせが一般的に用いられるが、本実施の形態はこれらに限るものではない。
【0056】
また、イオン性液体によって膨潤(含浸)した、或いは可塑化されたポリアクリルアミド等のポリマーネットワークをイオンゲル(イオン性液体を保持したゲル状材料)としてよい。イオン性液体とポリマーとは相溶性が非常に良好なために相分離し難く安定しており、様々な比率のイオンゲルを作製可能である。イオンゲルは誘電率が高く、また、柔軟性、透明性及び自己支持性を有する。また、ポリマーと相溶化させると結晶化が抑制され、導電率の低下を防止することができる。
【0057】
このように、本実施の形態による電磁波抑制材料であるイオン性液体材料1について、上述の式(1)中の誘電率ε”が高いことに着目することにより、特に、MHz帯域の周波数の電磁波を抑制及び吸収することを可能としたものである。本発明者は、このことを考慮し、誘電率に着目した代表的な電磁波抑制材料について、その電磁波抑制効果の検証を行った。
【0058】
図3に、イオン性液体材料1の性能を評価するための測定方法を示す。
【0059】
図3(A)に示すように、裏面にグランド電位の導電層7を有した基板6上の中央部に線状のマイクロストリップライン5を形成し、このマイクロストリップライン5上の一部を覆うようにして試料となるイオン性液体材料1を配置している。このイオン性液体材料1は、図1(B)に示したように封止された状態とするが、封止フィルムは図示省略している(以下、同様)。
【0060】
図3(A)及び図3(B)に示すように、基板6は、例えば、比誘電率εrが4.1であり、幅W×奥行きL×厚さT1が100.0mm×100.0mm×1.5mmである。
【0061】
また、導電層7の幅W×奥行きL×厚さT2は、例えば、100.0mm×100.0mm×0.018mmである。
【0062】
また、マイクロストリップライン5の幅w×奥行きL×厚さtは、3.0mm×100.0mm×0.018mmである。
【0063】
そして、線状のマイクロストリップライン5のそれぞれの端部に、入力(IN)端子9a及び出力(OUT)端子9bをそれぞれ形成し、入力端子用の配線14a及び出力端子用の配線9bを介して、入力端子9aとネットワークアナライザ8との間、及び、出力端子9bとネットワークアナライザ8との間を電気的に接続する。
【0064】
その後、マイクロストリップライン5の入力(IN)側から出力(OUT)側に信号を入射することにより、反射特性と伝送特性とを測定する。測定にはネットワークアナライザ8を用いるが、その際の試料1の有無における信号特性の測定結果から、試料の高調波フィルタ(遮蔽)効果について評価する。
【0065】
測定用サンプルであるイオン性液体材料1としては、例えば、陽イオンとしての1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(EMI)と、陰イオンとしてのビストリフルオロメチルスルホニルイミド(TFSI)とによって、イオン性液体材料1を合成し、これをフィルムで封止し、シート状にして所定位置に固定する。
【0066】
図4〜図5は、本実施の形態に係る電磁波抑制材料を用いて、高調波フィルタ効果を評価したグラフである。例えば、50MHz〜1500MHzの周波数範囲(電磁波の要求吸収性能は、特に30MHz〜1500MHzの周波数範囲)の反射量の測定結果を示している。
【0067】
細線は試料(吸収体)なしの条件での測定結果であり、実線は本実施の形態によるイオン性液体材料1を用いた条件での測定結果であり、破線は電磁波抑制シートとして市販されている磁性シート(センダスト(Fe−Al−Si)粉を樹脂で結着したもの(商品名:バスタレイド(NECトーキン社製))を用いた条件での測定結果である。
【0068】
図4は、マイクロストリップライン5の入力(IN)側に信号を入力した時、反射される反射特性(S11特性)を示しており、縦軸に反射量(dB)、横軸に周波数(MHz)を示す。
【0069】
図4より、50MHz〜約1000MHzの周波数範囲においては、太線で示すゲル状材料(イオン性液体材料1)を用いたときの反射率は、−20dB〜−10dBの範囲にあり、特に約−10dB前後であって、破線で示す従来の磁性シートを用いたときの反射率と同程度又は若干低反射の特性を示している。また、細線で示す試料なし(吸収体なし)での反射率は、−60dB〜−20dBの範囲であって、特に−30dB〜−40dBの範囲で大きく上下している。
【0070】
ここでの反射率−30dBとは、マイクロストリップライン5の入力側へ入力した信号(100%)に対し、入力ポートとマイクロストリップラインモデルのインピーダンスとの不整合や、試料の設置におけるインピーダンスの不整合のために、入力側へ反射される信号の反射率が0.1%となることを意味する。
【0071】
図4より、50MHz〜約1000MHzの周波数範囲においては、イオン性液体材料1を用いたときの反射率は、磁性シートを用いたときの反射率と同程度であり、試料なし(吸収体なし)での反射率を上回っていて、10%(反射率)程度となっている。但し、この場合、反射されない信号は90%であるので、電磁波抑制及び吸収効果の点では実質的に問題がない結果であると言える。
【0072】
図5は、マイクロストリップライン5の入力側に信号を入力した時、信号が透過する伝送特性(S21特性)を示し、縦軸に伝送量(dB)、横軸に周波数(MHz)を示す。
【0073】
図5より、50MHz〜約1000MHzの周波数範囲においては、太線で示すイオン性液体材料1を用いたときの伝送量は、破線で示す磁性シートを用いたときの伝送量や細線で示す試料なし(吸収体なし)での伝送量を下回り、伝送量が少ないので、より高いフィルタ効果を有すると言える。
【0074】
図6は、マイクロストリップライン5の入力側に信号を入力した時、試料で吸収される吸収特性(損失特性)を示し、縦軸に損失率(相対値)、横軸に周波数(MHz)を示す。入力量から、図4に対応する反射量と図5に対応する透過量とを差し引いた量が損失量となる。この損失量が大きいほど、電磁波抑制及び吸収効果が大きいということになる。
【0075】
図6より、50MHz〜約1000MHz(特に800MHz程度)の周波数範囲においては、太線で示すイオン性液体材料1を用いたときの損失量は、一点鎖線で示すNaCl水溶液を用いたときの損失量や、破線で示す磁性シートを用いたときの損失量、細線で示す試料なし(吸収体なし)での損失量を上回っている。なお、NaCl水溶液の試料については、本出願人が既に提起した特願2005−136560に示された例を参考までに表わしたものである。
【0076】
図6の測定結果より、誘電損失を用いたイオン性液体材料1は、磁気損失を用いた市販の磁性シートなどよりも、50MHz〜約1000MHz、特に800Hz以下の周波数範囲において、優れた電磁波抑制及び吸収効果を有することが分かる。
【0077】
また、本実施の形態によるイオン性液体材料1は、既存の磁性シートと比較して、比重が軽く、柔軟性に優れる。
【0078】
また、材質が単独物からなる(即ち、媒体が不要である)ので、100%の濃度にでき、高密度に電磁波抑制材を作製することが可能であるため、使用量を少なくしても(或いは厚さを薄くしても)電磁波吸収効率が高くなり、しかも水分等の媒体の揮発等の問題がなく、耐久性に優れたものとなる。また、作製も比較的容易である。
【0079】
更に、このイオン性液体材料1は、柔軟性があるため、形状追随性や可とう性に富み、例えば、電磁波を透過する樹脂フィルムなどの柔軟性のあるシート状体、柔軟性の袋状体、硬いケース状体、又は筐体等のいかなる封止材でも封止(或いは梱包)可能である。そのため、バルク状からシート状まで、形状による特性の制限がないという点においても、既存のものより優位性がある。
【0080】
加えて、このイオン性液体材料1は、数100℃という高沸点を有し、凝固点も−20℃と低温であるため、デバイスに適用したときの使用温度範囲が広く、信頼性も高い。
【0081】
このように、本実施の形態によるイオン性液体又はそれを保持したゲル状材料の電磁波吸収及び抑制効果が高効率であり、電子機器からの(或いは、電子機器に対する)電磁波の影響を最小限に抑制することができ、またフレキシブル性を有し、かつ高い耐久性及び信頼性を確保したEMC対策品として有用である。
【0082】
これにより、不要輻射対策コストを激減できるだけでなく、高効率なために対策時間を削減することができる。
【0083】
また、既存の磁性材料と比較してフレキシブル性を有するために、実装面での簡易化を図れることや、幅広い用途での使用方法を実現できる。
【0084】
更に、ゲル状であるため、基板間、もしくは基板と筐体との間への配置も可能であり、電磁波抑制及び吸収材料と衝撃緩衝材との両機能を兼ね備えた新たな材料及びデバイスとしても利用することができる。
【0085】
次に、図7〜図11に、イオン性液体材料1を電子機器に適用した例を示す。
【0086】
図7には、電子部品の実装されたA基板(プリント配線基板)11Aと電子部品の実装されたB基板(プリント配線基板)11Bとを内蔵し、更にモニタ画面12を具備するハンディカメラ10を示す。
【0087】
このハンディカメラ10において、イオン性液体材料1(又は電磁波抑制材)は、図8に示すように、例えば、A基板11AとB基板11Bとを電気的に接続する配線14を形成したフレキシブル配線基板13を挟持する状態で配置するために、及び、各基板上に実装されたICチップ(集積回路素子)16の上面等に貼り付けて配置するために、フィルム2で封止されたイオン性液体材料1を用いることができる。
【0088】
図9には、電子部品の実装されたB基板(プリント配線基板)11Bと電子部品の実装されたC基板(プリント配線基板)11Cとを内蔵し、更に筐体13とモニタ画面12とを具備するハンディカメラ10を示す。
【0089】
図10(A)に示すように、例えば、B基板11Bの近傍にC基板11Cを配置する際に、図10(B)に示すように、B基板11Bの実装面とC基板11Cの非実装面との間隙に、イオン性液体材料1のみを(即ち、封止材なしで)充填して挟持することができる。また、図10(C)に示すように、B基板11Bの実装面とC基板11Cの実装面との間隙に、イオン性液体材料1のみを充填して挟持することができる。この時に、配置されるイオン性液体材料1は、それ単独であってよいが、フィルム2に封止されたものであってもよい。単独物の場合は、ゲル状であって上記間隙内に容易に充填でき、しかも実装面などの形状に良く追随することができ、両基板の接着にも有効となる。
【0090】
また、図11(A)に示すように、例えば、C基板11Cの近傍に筐体13が存在する場合、図11(B)に示すように、C基板11Cの実装面と筐体13との間隙に、イオン性液体材料1を挟持することができる。この時にも、配置されるイオン性液体材料1は、素材のままであってもよいし、フィルム2で封止されたものであってもよい。
【0091】
このように、イオン性液体材料1を、内的な電磁波の発生部位と、外的な電磁波の作用部位との少なくとも一方に設けることにより、電子機器に対する(或いは、電子機器からの)電磁波の影響を最小限に抑制することができる。
【0092】
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の電磁波抑制材及び電子機器は、電子機器の電磁波対策に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】本発明の実施の形態によるイオン性液体材料の斜視図(A)、断面図(B)及び別の断面図(C)である。
【図2】同、イオン性液体材料の化学式(A)、(B)及び(C)である。
【図3】同、イオン性液体材料の測定装置の構造を示す斜視図(A)、断面図(B)及び測定装置の配置を示す斜視図(C)である。
【図4】同、反射量と周波数との相関による反射特性を示すグラフである。
【図5】同、伝送量と周波数との相関による伝送特性を示すグラフである。
【図6】同、損失量と周波数との相関による吸収特性を示すグラフである。
【図7】同、電子機器の斜視図である。
【図8】同、イオン性液体材料の配置例を示す斜視図である。
【図9】同、電子機器の斜視図である。
【図10】同、イオン性液体材料の配置例を示す斜視図(A)、断面図(B)及び別の例の断面図(C)である。
【図11】同、イオン性液体材料の配置例を示す斜視図(A)及び断面図(B)である。
【図12】従来例による電磁波吸収体の断面図(A)及び別の例の断面図(B)である。
【符号の説明】
【0095】
1…イオン性液体材料、2…フィルム、3…ラミネート材、4、6…基板、
5…マイクロストリップライン、7…導電層、8…ネットワークアナライザ、
9a、9b…端子、10…ハンディカメラ、11A…A基板(プリント配線基板)、
11B…B基板(プリント配線基板)、11C…C基板(プリント配線基板)、
12…モニタ画面、13…フレキシブル配線基板、14…配線、15…筐体、
16…集積回路チップ、20…電磁波抑制材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的にイオン性液体のみからなる、電磁波抑制材。
【請求項2】
実質的にイオン性液体のみを保有したゲル状材料からなる、電磁波抑制材。
【請求項3】
前記イオン性液体が封止材で封止されている、請求項1又は2に記載の電磁波抑制材。
【請求項4】
シート状又はバルク状に形成されている、請求項1又は2に記載の電磁波抑制材。
【請求項5】
前記イオン性液体に絶縁材からなるラミネートが施されている、請求項1又は2に記載の電磁波抑制材。
【請求項6】
前記イオン性液体が陽イオンと陰イオンとによって構成され、前記陽イオンが、芳香族系及び脂肪族4級アンモニウム塩系からなる群より選択された少なくとも1種からなり、前記陰イオンが、無機イオン系及びフッ素含有有機陰イオン系からなる群より選択された少なくとも1種からなる、請求項1又は2に記載の電磁波抑制材。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の電磁波抑制材が、内的な電磁波の発生部位と、外的な電磁波の作用部位との少なくとも一方に設けられている、電子機器。
【請求項8】
前記電磁波抑制材が、集積回路素子又は配線上に設けられている、請求項7に記載の電子機器。
【請求項9】
前記電磁波抑制材が、複数の配線基板間、又は配線基板と筐体との間に挟持されている、請求項7に記載の電子機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2007−27470(P2007−27470A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208425(P2005−208425)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.Bluetooth
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】