説明

電磁波抑制材料、電磁波抑制デバイス、電子機器

【課題】電磁波抑制効果を高めて、設計・製造面からも多様な形状に柔軟に形成でき、かつ高い信頼性を確保できる電磁波抑制材料を提供する。
【解決手段】イオン性液体とナノメートルオーダーの粉末とを混合して成り、イオン性液体100重量%に対して、ナノメートルオーダーの粉末が10重量%以上混合されている電磁波抑制材料1を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器から発生する不要輻射対策に用いられる電磁波抑制材料、その電磁波抑制材料から成る電磁波抑制デバイス、電磁波抑制材料から成る電磁波抑制デバイスが設けられている電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年にみられる高周波数の電磁波利用の増加に伴い、電磁波ノイズによる機器の誤作動や脳及び人体への悪影響等といった、被害や障害が、新たな環境問題として提起されている。
例えば、免許不要で無線通信が利用可能な周波数帯の1つである2.45GHz帯に注目してみると、無線LAN(IEEE802.11b)、Bluetooth(登録商標)、ISM(Industrial, Scientific and Medical)機器等に、数多く利用されている。さらには、情報機器のクロック周波数の高速化・デジタル化に伴い、この帯域における高調波の発生も考えられる。
このように、潜在的な電磁波発生源及び干渉被害側の双方の数と多様性が、指数関数的に増加するため、干渉の起こるリスクが天文学的に増加している。
【0003】
このような電磁干渉(EMI;Electromagnetic Interference)の問題に対処するためには、個々の機器が、他の機器の正常な作動を妨害するような不要な電磁波を放射させることなく(エミッションの抑制)、かつ外部から侵入する電磁波に対して何ら影響を受けない十分な耐力をもつこと(イミュニティ(免疫性)の向上)が要求される。
このような考え方は、電磁気的両立性(EMC;Electromagnetic Compatibility)と称され、電磁環境下で電子機器が電磁気的両立性を確立するために、様々な規格が定められている。
【0004】
例えば、回路設計におけるEMC対策を進める際、電子機器から発生する電磁妨害波を低減させ、また、電子機器に電磁妨害波が侵入するのを防ぐための回路素子として、主に妨害抑圧素子が用いられる。
この妨害抑制素子には、例えば、コンデンサやコイルを組み合わせたLCフィルタやバリスタなど様々なものがある。これらは、希望の信号が素子を通過する際には損失が小さく、妨害波に対しては大きな反射損失や通過損失を持つように設計され、ほとんどの電子回路に適切な方法で組み合わされて使用されている。
【0005】
しかしながら、回路素子との組み合わせによる特定の共振周波数により、電圧や電流波形が振動してしまい、希望の信号波形が大きく歪むことがある。さらには、GHz帯の電磁波の波長は、電子回路の回路長に近く、回路自体が電磁波に対するアンテナとして作用するために、誤作動を引き起こす可能性も生じる。
【0006】
このように、回路設計では補うことのできないEMC問題は、実装設計の段階で提起されている。
近年、その解決策として注目されているのが、磁性粉末と樹脂とを混合してシート状化した、電磁波抑制材又は電磁波吸収材(以下、これらをまとめて「電磁波抑制材」として説明することもある)を用いることである。
【0007】
この電磁波抑制材及び電磁波吸収材における電磁波吸収の原理は、入射した電磁波エネルギーのほとんどを、内部で熱エネルギーに変換する、というものである。
このため、電磁波抑制材及び電磁波吸収材では、前方に反射するエネルギーと、後方へ透過するエネルギーとの、双方を小さくすることができる。
【0008】
ここで、熱エネルギーへの変換のメカニズムは、主に、導電損失、誘電損失、磁性損失の3種に分類される。このときの単位体積当たりの電磁波吸収エネルギーP[W/m]は、電界E、磁界H及び電磁波の周波数fを用いて、下記式(1)のように表される。
【0009】
【数1】

【0010】
式(1)は、その第1項が導電損失を表し、第2項が誘電損失を表し、第3項が磁性損失を表している。
【0011】
従来からの高周波数帯域における電磁波抑制材料としては、磁性材料が主流である。
磁性材料を用いた磁性シートは、電磁波を抑制、吸収するために、上述の式(1)の磁性損失である第3項の透磁率μ’’が高くなるように設計されている。
【0012】
一方、本発明者らは、上述した式(1)から、MHz帯域、GHz帯域の周波数において、誘電損失である第2項の誘電率ε’’が高い材料に着目した材料を提案している(特許文献1参照)。
【0013】
本発明者らは、電解液のようなイオンを有する、液状材料の誘電率に着目し、前述の電磁波吸収効率の高い電磁波抑制材料を提案している。
イオンを含む電解液は、印加された電界に応じてイオン伝導を生じる。
このイオン伝導は、溶媒の種類等によっても左右されるが、超伝導材料でない限り必ず抵抗成分が存在し、イオン伝導度はその抵抗成分の大きさに支配される。この抵抗成分が、比誘電率の損失部εr’’にあたると考えられる。
この比誘電率の損失部εr’’の大きさは、1GHz以下では数十から数百、もしくはそれ以上という値を有する。つまり、イオンを含む電解液は、入射した電磁波のエネルギーをジュール熱に変換させてしまい、吸収することも可能となる。
【0014】
しかしながら、電解液のような水分を含む材料では、「数年もしくは十年以上の特性保持」という信頼性に対して、水分の揮発という点で難しい技術を要する。
そのため、電磁波抑制材料そのものではなく、そのラミネート材に水分揮発防止の技術を付加しなければならない。
【0015】
上述の信頼性を考慮した上で、本発明者らは、イオンのみで構成されたイオン性液体(イオン液体)を用いた電磁波抑制材料を提案している(特許文献2参照)。
【0016】
イオンのみで構成されたイオン性液体(イオン液体)を用いることにより、電磁波抑制量/電磁波吸収量が増加し、かつ沸点が数100℃であるという特徴を活かして、液体材料の揮発を防止することができる。
そして、イオンのみで構成されたイオン性液体は、不揮発性、不燃性、熱安定性、化学的安定性、高イオン導電性、電気分極耐性、という特徴を有している。
【0017】
【特許文献1】特開2006−73991号公報
【特許文献2】特開2007−27470号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
しかしながら、上述のようなイオン性液体(イオン液体)単体では、電磁波抑制及び電磁波吸収の効果がイオン性液体(イオン液体)の物性値によって決定されることから、電磁波抑制効果/電磁波吸収効果のさらなる向上を図ることが難しい。
【0019】
さらに、イオン性液体(イオン液体)は、粘度の低い液体である。
デバイスを設計する際に、電磁波抑制材をシート形状やその他の自由な形状とする場合には、ある程度の高い粘度を有する材料の方が作製しやすいが、イオン性液体(イオン液体)のみでは充分な粘度が得られない。
【0020】
上述の点に鑑み、本発明は、電磁波抑制効果を高めて、設計・製造面からも多様な形状に柔軟に形成でき、かつ高い信頼性を確保できる電磁波抑制材料と、その電磁波抑制材料を用いる電磁波抑制デバイス、電磁波抑制材料及び電磁波抑制デバイスから成る電子機器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の電磁波抑制材料は、イオン性液体と、ナノメートルオーダーの粉末とを、混合して成り、イオン性液体100重量%に対して、ナノメートルオーダーの粉末が10重量%以上混合されているものである。
【0022】
本発明の電磁波抑制デバイスは、上記本発明の電磁波抑制材料から成るものである。
本発明の電子機器は、上記本発明の電磁波抑制デバイスが、集積回路素子又は配線の近傍に設けられているものである。
【0023】
上述の本発明の電磁波抑制材料の構成によれば、イオン性液体(イオン液体)100重量%に対して、ナノメートルオーダーの粉末を10重量%以上混合することによって、充分な粘度が得られ、スラリー状又はペースト状の電磁波抑制材料を提供することが可能になる。
これにより、電磁波抑制材料をシート形状やその他の自由な形状に形成することが可能になる。
また、イオン性液体(イオン液体)は、不揮発性、不燃性、熱安定性、化学的安定性に優れているため、これらイオン性液体の特性を有する電磁波抑制材料を構成することができる。
さらに、ナノメートルオーダーの粉末の特性(誘電率や透磁率)を付与したり、電磁波抑制材料としての物性値を制御したりすることも可能になる。
【0024】
上述の本発明の電磁波抑制デバイスの構成によれば、上記本発明の電磁波抑制材料から成ることにより、シート形状やその他の自由な形状に電磁波抑制材料を形成することが可能であるため、様々な形状の電磁波抑制デバイスを構成することが可能になる。
また、上述の本発明の電子機器の構成によれば、上記本発明の電磁波抑制デバイスが、集積回路素子又は配線の近傍に設けられていることにより、集積回路素子又は配線から発生する電磁波が外部に放射させることを抑制することができる。そして、本発明の電磁波抑制デバイスが様々な形状とすることが可能であるため、電子機器の集積回路素子又は配線の近傍の様々な場所に、容易に電磁波抑制デバイスを設けることができる。
【発明の効果】
【0025】
上述の本発明の電磁波抑制材料及び電磁波抑制デバイスによれば、電磁波抑制材料をシート形状やその他の自由な形状に形成することが可能になるので、様々な形状の電磁波抑制デバイスを構成することが可能になる。
また、電磁波抑制材料を構成するイオン性液体(イオン液体)が、不揮発性、不燃性、熱安定性、化学的安定性に優れているため、温度変化等の環境信頼性にも優れた電磁波抑制材料と電磁波抑制デバイスを構成することができる。
さらに、ナノメートルオーダーの粉末の特性(誘電率や透磁率)を付与したり、電磁波抑制材料としての物性値を制御したりすることも可能になるため、電磁波抑制効果/電磁波吸収効果のさらなる向上を図ることも可能になる。
【0026】
また、本発明の電子機器によれば、集積回路素子又は配線から発生する電磁波が外部に放射させることを抑制することができるので、電磁気的両立性を有し、安定して動作する信頼性の高い電子機器を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
先ず、本発明の概要を説明する。
本発明は、電磁波抑制材料として、イオン性液体(イオン液体)と、ナノメートルオーダーの粉末とを、混合した材料を使用するものである。
【0028】
イオン性液体(イオン液体)としては、好ましくは、陽イオンと陰イオンとから構成されたイオン性液体(イオン液体)を使用する。
陽イオン(カチオン)成分側では、イミダゾリウム塩系、ピリジニウム塩系等の芳香族系、脂肪族四級アンモニウム塩系、脂肪族環状アンモニウム塩系等を使用することができる。
陰イオン(アニオン)成分側では、テトラフルオロポレート(BF)、6フッ化リン酸(PF)等の無機イオン系や、CFSO,パーフルオロスルホンイミド((CFSO:TFSI)等のフッ素含有有機陰イオン、等を使用することができる。
これらのイオンの組み合わせが、イオン性液体(イオン液体)の材料として一般的に知られているが、本発明はこれらの材料に限定されるものではない。
【0029】
本発明において用いられるイオン性液体(イオン液体)として、上述の材料を組み合わせたイオン性液体(イオン液体)の材料を、図1A〜図1Cの化学式に示す。
図1Aは、イミダゾリウム塩系の1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(EMI)と、陰イオンX((CFSO,BF,PF等)とを、組み合わせた材料の化学式である。
図1Bは、ピリジニウム塩系の3−ブチルピリジウム(BP)と、陰イオンXとを、組み合わせた材料の化学式である。
図1Cは、脂肪族四級アンモニウム塩系のトリメチルヘキシルアンモニウム(TMHA)と、陰イオンXとを、組み合わせた材料の化学式である。
【0030】
このイオン性液体は、不揮発性、不燃性、熱安定性、化学的安定性(イオンが他の成分と反応せず、経時変化し難い。)、高イオン導電性、並びに電気分極耐性、という特性を有している。
このイオン性液体では、電磁波の作用でイオン性液体の内部にイオン伝導が生じ、これによって生じるイオンの衝突によりジュール熱が発生するため、電磁波抑制量及び吸収量が増加する。特に、イオン性液体の凝固点が−20℃であり、沸点又は分解点が数100℃と高いことから、不揮発性、安定性に優れている。
【0031】
本発明において、イオン性液体(イオン液体)に混合させる、ナノメートルオーダーの粉末としては、室温における1kHz時の比誘電率が10以上の誘電材料、又は、室温における100MHz時の比透磁率が100以上の磁性材料が、望ましい。このような誘電材料や磁性材料をナノメートルオーダーの粉末として使用することにより、電磁波抑制材料に、誘電率や透磁率等のさらなる特性を付与することが可能になる。
このうち、室温における1kHz時の比誘電率が10以上の誘電材料としては、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、酸化チタン等が挙げられる。
また、室温における100MHz時の比透磁率が100以上の磁性材料としては、Mn−Zn系フェライト、Ni−Zn系フェライト、Cu−Zn系フェライト等が挙げられる。
本発明で用いるナノメートルオーダーの粉末の材料は、これらの材料に限定されるものではない。
【0032】
ナノメートルオーダーの粉末には、粒子径が1μm未満の粉末、より好ましくは、粒子径が300nm程度以下である粉末を使用する。
このような粉末を、イオン性液体(イオン液体)100重量%に対して、10重量%以上混合させることにより、本発明の電磁波抑制材料を構成することができる。
【0033】
このように、イオン性液体(イオン液体)100重量%に対して、ナノメートルオーダーの粉末を10重量%以上混合することにより、充分な粘度が得られ、スラリー状又はペースト状の電磁波抑制材料を作製することができる。
そして、この電磁波抑制材料から成る電磁波抑制デバイスを構成することにより、電磁波抑制材料をスラリー状又はペースト状に形成することが可能であるため、シート状やバルク状、その他の自由な形状等、様々な形状の電磁波抑制デバイスを構成することが可能になる。
【0034】
次に、本発明の電磁波抑制デバイスの実施の形態として、電磁波抑制材料から成る電磁波抑制デバイスの各種の形態を、図2A〜図2Cにそれぞれ示す。
これらの電磁波抑制デバイスは、いずれも、上述したイオン性液体にナノメートルオーダーの粉末を混合して成る電磁波抑制材料1を有している。
【0035】
図2Aに示す電磁波抑制デバイスの形態は、電磁波抑制材料1を単独でシート状等に形成して、電磁波抑制デバイス21を構成したものである。
なお、シート状に形成する代わりに、電磁波抑制材料をバルク状に形成して電磁波抑制デバイスを構成しても構わない。
【0036】
図2Bに示す電磁波抑制デバイスの形態は、電磁波抑制材料1をフィルム(封止材)2で包んで封止して、電磁波抑制デバイス22を構成したものである。このフィルム2は、電磁波吸収性のあるフィルム状の容器でも、電磁波吸収性のないフィルム状の容器でも良いが、電磁波を反射するフィルム(アルミニウム箔等)は避けることが望ましい。
【0037】
図2Cに示す電磁波抑制デバイスの形態は、基板3上に配置された電磁波抑制材料1の保護のために、電磁波抑制材料1を絶縁材料からなるラミネート材4で覆ってラミネートを施すことにより、電磁波抑制デバイス23を構成したものである。
【0038】
(特性の測定)
ここで、本発明に係る電磁波抑制材料を実際に作製して、特性を調べた。
陽イオンとして1−エチル−3−メチルイミダゾリウム(EMI)、陰イオンとしてビストリフルオロメチルスルホニルイミド(TFSI)を合成したイオン性液体を用意して、ナノメートルオーダーの粉末として、粒子径が約20〜30nmの酸化チタン(TiO)粉末を混合した。両者の混合は、ミキサーにより行った。
そして、酸化チタン粉末の混合量を、イオン性液体100wt%(重量%)に対して、5wt%、10wt%、15wt%と変えて、それぞれの混合量とした試料を作製した。
【0039】
それぞれの混合量の試料について、まず、混合状態における材料の粘度を測定した。
粘度の測定結果を、表1に示す。
【0040】
【表1】

【0041】
表1より、酸化チタンの混合量が多くなるに伴い、粘度が高くなることが分かる。
酸化チタンが10重量%以上では、1000cP以上の充分高い粘度が得られた。
従って、酸化チタンの混合量を10重量%以上とすることが望ましいことがわかる。
ちなみに、1cP(センチポアズ)=0.01P=0.001Pa・s=1mPa・sである。
【0042】
一方、比較例として、粒径が約20〜30μmのフェライト粉末をイオン性液体に混合させた試料を作製した。この比較例の試料においては、イオン性液体(イオン液体)とフェライト粉末とが分離してしまい、混合状態(スラリー状態やペースト状態)は形成されなかった。
この結果から、ナノメートルオーダーの粉末をイオン性液体(イオン液体)と混合することによって、イオン性液体(イオン液体)単体と比較して、粘度を増加させることが可能であることが分かる。
【0043】
続いて、各試料の電磁波抑制効果について、測定を行った。
測定方法について、図3〜図4を参照して説明する。
【0044】
図3Aの斜視図及び図3Bの断面図に示すように、裏面にグランド電位の導電層12を有した基板11上に、マイクロストリップライン13を形成し、このマイクロストリップライン13上に試料を載置した。
なお、基板11は、誘電率εが4.1、縦100.0mm×横100.0mm×厚さ1.5mmの基板である。
マイクロストリップライン13の膜厚は、約0.025mmである。マイクロストリップライン13の寸法は、幅3.0mm×長さ100.0mmであり、マイクロストリップライン13の特性インピーダンスを約50Ωとして設計している。
また、試料は、同一体積で電磁波抑制効果を相対評価するため、マイクロストリップライン13上に、試料設置のための容器(容器内寸:22mm×22mm×5mm、容器壁厚さ0.2mm)14を配置して、この容器14内に試料20を収納した。
さらに、図4に示すように、測定機器としてネットワークアナライザ15を用いて、ネットワークアナライザ15とマイクロストリップライン13の両端とを、配線16を介して接続して、この配線16とマイクロストリップライン13との接続部に、入力端子17A及び出力端子17Bを設けた。
【0045】
そして、マイクロストリップライン13の入力側から出力側に信号を入射することにより、反射特性及び伝送特性を測定した。
また、比較対照として、試料20がない状態においても、同様の測定を行った。
【0046】
マイクロストリップライン13の入力側に信号を入力したときに、入力量から反射量(S11)、透過量(S21)を差し引いた量が損失量になり、入力量に対する損失量の割合が損失率(Loss)となる。反射量(S11)は、測定した反射特性から得られる。透過量(S12)は、測定した伝送特性から得られる。入力量と反射量及び透過量とから、損失率の周波数特性を算出した。
【0047】
電磁波抑制効果の測定結果として、試料20又はマイクロストリップ基板11で吸収される損失特性を、図5に示す。図5の縦軸は損失率(Loss)を示し、横軸は周波数を示している。
【0048】
また、図5に示した測定結果から、試料20がない場合の損失量を差し引いた、それぞれの試料20による損失量、即ち、マイクロストリップ基板11における損失が取り除かれた、単純に試料20による損失量(ΔLoss:電磁波抑制効果)を、図6に示す。
【0049】
図5及び図6より、イオン性液体(イオン液体)に対するナノメートルオーダーの酸化チタン粉末の混合量が増加するに伴い、電磁波抑制効果も上昇していることが分かる。
これは、酸化チタンを混合させたことにより、試料20の誘電率(もしくは導電率)を変化させることができているためである。
【0050】
さらに、それぞれの試料における比誘電率を測定した。
測定結果を、図7に示す。
図7より、酸化チタンの混合量の増加に伴い、比誘電率も上昇していることが分かる。この物性値の変化が、図5及び図6に示した電磁波抑制量の変化に関係していると考えることができる。
【0051】
以上の結果より、ナノメートルオーダーの誘電材料粉末とイオン性液体(イオン液体)を混合することによって、スラリー状又はペースト状の電磁波抑制材料を提供することが可能であり、かつ、誘電率を制御することも可能であることが分かる。
なお、ナノメートルオーダーの磁性材料粉末とイオン性液体(イオン液体)を混合することによっても、誘電材料粉末と同様の効果が得られる。そして、イオン性液体(イオン液体)にさらに透磁率を付加させることも可能である。
従って、誘電材料又は磁性材料のナノメートルオーダーの粉末とイオン性液体(イオン液体)とを混合させることによって、最適な電磁波抑制材料及び電磁波抑制材料を用いた電磁波抑制デバイスを設計することが可能となる。
【0052】
続いて、本発明の電磁波抑制材料及び電磁波抑制デバイスを応用した、本発明の電子機器の実施の形態を以下に示す。
【0053】
本発明の電子機器の第1の実施の形態として、ビデオカメラの概略斜視図を、図8に示す。
図8に示すように、このビデオカメラ30は、電子部品が実装されたA基板(プリント配線基板)31Aと、電子部品が実装されたB基板(プリント配線基板)31Bとを内蔵し、更にモニタ画面32を具備している。
【0054】
このビデオカメラ30において、例えば、図9にビデオカメラ30の要部の斜視図を示すように、本発明の電磁波抑制材料1を、A基板31AとB基板31Bとを電気的に接続する配線を形成したフレキシブル配線基板33を挟持する状態で配置したり、各基板31A,31B上に実装されたICチップ(集積回路素子)35の上面等に貼り付けて配置したりすることができる。
なお、ICチップ(集積回路素子)35等の上面に限らず、側面や近傍に、本発明の電磁波抑制材料を配置することも可能であり、その場合も電磁波抑制効果が得られる。
また、図9に示すB基板31B上の配線34の近傍に、さらに、本発明の電磁波抑制材料を配置することが可能である。
この実施の形態の場合には、図2Aに示した電磁波抑制デバイス21と同様に、電磁波抑制材料1を単独でシート状等に形成して電磁波抑制デバイスを構成している。
【0055】
本実施の形態のように、ICチップ(集積回路素子)35や配線33,34の近傍に、電磁波抑制材料1を配置することにより、ICチップ35や配線33,34から発生する電磁波の放射を抑制することができる。
【0056】
なお、図9に示した、電磁波抑制材料1単独で形成した電磁波抑制デバイスの代わりに、絶縁フィルムで電磁波抑制材料1が封止された構造の電磁波抑制デバイス等、その他の構成の電磁波抑制デバイスを用いることもできる。
【0057】
次に、本発明の電子機器の第2の実施の形態として、ビデオカメラの概略斜視図を、図10に示す。
図10に示すように、このビデオカメラ40は、電子部品が実装されたB基板(プリント配線基板)31Bと、電子部品が実装されたC基板(プリント配線基板)31Cとを内蔵し、更に筐体36とモニタ画面32とを具備している。
【0058】
このビデオカメラ40において、例えば、図11にビデオカメラ40の要部の斜視図を示すように、それぞれICチップ(集積回路素子)35等の電子部品が実装された、B基板31Bの近傍にC基板31Cを配置する際に、B基板31BとC基板31Cとの間隙に、本発明の電磁波抑制材料1のみを充填して挟持することができる。
そして、具体的には、例えば、図12Aに断面図を示すように、B基板31Bの実装面とC基板31Cの非実装面との間に、電磁波抑制材料1を挟持することができる。
また、例えば、図12Bに断面図を示すように、B基板31Bの実装面とC基板31Cの実装面との間に、電磁波抑制材料1を挟持することができる。
【0059】
なお、基板面においてショートの危険性があるときは、図12A及び図12Bの各断面図に示すように、B基板31B表面とC基板31C表面に絶縁ラミネートコーティング処理37を施すことによって、B基板31BとC基板31Cとの間隙に、本発明の電磁波抑制材料1のみを充填して挟持することができる。
【0060】
また、C基板31Cの近傍に筐体36が存在する場合も同様に、図13の斜視図及び図14の断面図に示すように、C基板31Cの表面に絶縁ラミネートコーティング処理37を施すことによって、C基板31Cと筐体36との隙間に、本発明の電磁波抑制材料1のみを充填して挟持することができる。
【0061】
なお、この第2の実施の形態についても、電磁波抑制材料1単独で形成した電磁波抑制デバイスの代わりに、絶縁フィルムで電磁波抑制材料1が封止された構造の電磁波抑制デバイス等、その他の構成の電磁波抑制デバイスを用いることもできる。
【0062】
このように、本発明の電磁波抑制材料1を、内的な電磁波の発生部位と、外的な電磁波の作用部位との少なくとも一方に設けることにより、電子機器に対する電磁波の影響、或いは、電子機器からの電磁波の影響を、最小限に抑制することができる。
これにより、電磁気的両立性を有し、安定して動作する信頼性の高い電子機器を実現することができる。
【0063】
図2A〜図2Cには、本発明の電磁波抑制デバイスの形態として、基本的な形態を示したが、本発明の電磁波抑制デバイスは、自由な形状に設計が可能な電磁波抑制材料を使用しているので、様々な形状とすることが可能である。
【0064】
本発明の電磁波抑制デバイスのさらに他の形態の概略構成図を、図15A〜図15Cに示す。
図15Aは、電磁波抑制デバイスの斜視図を示し、図15Bに断面図を示している。
本実施の形態に係る電磁波抑制デバイス50は、図15A及び図15Bに示すように、封止部材を兼ねた円筒状の樹脂ケース51に、電磁波抑制材料52が封入されて成る。
樹脂ケース51は、円筒状の輪郭形状の内部に中空を有している。そして、この円筒状の中空内に電磁波抑制材料52が封入されて、全体として円筒状に構成される。
装着状態で円筒状となる樹脂ケース51は、図15Bに示すように、中心孔53を通る中心軸に沿って2分割され、互いに屈曲可能な連結部51cを介して開閉可能に形成された2つの封止部材半体(以下、分割コアという)51a,51bから構成される。つまり、両分割コア51a,51bを閉じた状態で円筒状になる。
各分割コア51a,51bは、各々が独立して内部に電磁波抑制材料52を封止できるように、中空構造を有している。また、連結部51cは、分割コア51a,51bの外側壁を連結するように、分割コア51a,51bと同材質の樹脂で形成されている。
【0065】
また、この分割コア51a,51bから成る樹脂ケース51は、電磁波を透過する樹脂からなり、コアの形状を保持できるような硬さのケース状態である。この樹脂ケース51に電磁波抑制材料52を注入することによって、電磁波抑制デバイス50を作成することができる。
【0066】
図15A及び図15Bに示した電磁波抑制デバイス50を、電気信号伝達媒体であるハーネス54に装着した状態の斜視図を、図15Cに示す。
本実施の形態の電磁波抑制デバイス50を、ハーネス54に取付ける際は、分割コア51a,51bを開き(図15Bの状態)、中心孔53内にハーネス54を入れて分割コア51a,51bを閉じて、ハーネス54と一体化させる。
なお、分割コア51a,51bは、図示しない係合手段により、係合または接合されるが、この係合手段としては、例えば分割コアに凹凸部分を設けて係合する方法や、テープで接合する方法などが挙げられる。これにより、電磁波抑制デバイス50のハーネス54への挟持的な取付けを容易に行うことができる。
【0067】
また、本実施の形態においては、電磁波抑制材料52を予めシート形状に作成し、このシート状の電磁波抑制材料52をコア型の樹脂ケース51にはめ込むことによっても、この構造を作成することができる。樹脂ケースのほかに、封止部材としては、例えばPET、フィルム、ガラス系を用いることができる。
【0068】
本実施の形態に係る電磁波抑制デバイス50によれば、封止材料を兼ねる内部が中空の筒状樹脂ケース51に、電磁波抑制材料52を封入して構成するので、図15Cに示すように、ハーネス54等を狭持して高周波領域の電磁波干渉を抑制することができる。
また、樹脂ケース51は互いに屈曲可能な連結部51cで連結された2分割のコア半体51a,51bから構成されるので、ハーネス54等の電気信号伝達媒体への装着を容易にすることができる。
【0069】
図15A〜図15Cに示した実施の形態では、円筒状の電磁波抑制デバイス50を用いたが、外部形状が四角形で中心孔が円形の角筒状としてもよい。
また、その他の形状も可能である。
【0070】
本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲でその他様々な構成が取り得る。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】A〜C 本発明において用いられるイオン性液体の材料を示す化学式である。
【図2】A〜C 本発明の電磁波抑制材料から成る電磁波抑制デバイスの各種の形態を示す図である。
【図3】A、B 電磁波抑制効果の測定方法を説明する図である。
【図4】電磁波抑制効果の測定方法及び測定装置を説明する図である。
【図5】図4の試料又はマイクロストリップ基板で吸収される損失特性を示す図である。
【図6】図4の試料による損失量を示す図である。
【図7】各試料における比誘電率の測定結果を示す図である。
【図8】本発明の電子機器の第1の実施の形態のビデオカメラの概略斜視図である。
【図9】図8のビデオカメラの要部の斜視図である。
【図10】本発明の電子機器の第2の実施の形態のビデオカメラの概略斜視図である。
【図11】図10のビデオカメラの要部の斜視図である。
【図12】A、B 図10のビデオカメラの要部の断面図である。
【図13】図10のC基板及び筐体付近の斜視図である。
【図14】図10のC基板及び筐体付近の断面図である。
【図15】A〜C 本発明の電磁波抑制デバイスのさらに他の形態の概略構成図である。
【符号の説明】
【0072】
1 電磁波抑制材料、2 フィルム(封止材)、3 基板、4 ラミネート材、21,22,23,50 電磁波抑制デバイス、30,40 ビデオカメラ、32 モニタ画面、33 フレキシブル配線基板、35 ICチップ(集積回路素子)、36 筐体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性液体と、ナノメートルオーダーの粉末とを、混合して成り、
前記イオン性液体100重量%に対して、前記ナノメートルオーダーの粉末が10重量%以上混合されている
ことを特徴とする電磁波抑制材料。
【請求項2】
前記ナノメートルオーダーの粉末は、室温における1kHz時の比誘電率が10以上の誘電材料であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波抑制材料。
【請求項3】
前記ナノメートルオーダーの粉末は、室温における100MHz時の比透磁率が100以上の磁性材料であることを特徴とする請求項1に記載の電磁波抑制材料。
【請求項4】
イオン性液体と、ナノメートルオーダーの粉末とを、混合して成り、前記イオン性液体100重量%に対して、前記ナノメートルオーダーの粉末が10重量%以上混合されている電磁波抑制材料から成る
ことを特徴とする電磁波抑制デバイス。
【請求項5】
前記電磁波抑制材料が、封止材に封入されていることを特徴とする請求項4に記載の電磁波抑制デバイス。
【請求項6】
前記電磁波抑制材料がシート状に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の電磁波抑制デバイス。
【請求項7】
前記電磁波抑制材料がバルク状に形成されていることを特徴とする請求項4に記載の電磁波抑制デバイス。
【請求項8】
前記電磁波抑制材料の表面に、絶縁材料のラミネートが施されていることを特徴とする請求項4に記載の電磁波抑制デバイス。
【請求項9】
イオン性液体と、ナノメートルオーダーの粉末とを、混合して成り、前記イオン性液体100重量%に対して、前記ナノメートルオーダーの粉末が10重量%以上混合されている電磁波抑制材料から成る電磁波抑制デバイスが、集積回路素子又は配線の近傍に設けられている
ことを特徴とする電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−152322(P2009−152322A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−327921(P2007−327921)
【出願日】平成19年12月19日(2007.12.19)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】