説明

電磁界計測システム

【課題】被測定物周辺の電界、磁界を正確に、迅速に、簡易に計測することの可能な電磁界計測システムを提供すること。
【解決手段】非金属のプローブ支持棒31によって支持された誘電体のプローブ30によって、プローブ30近傍の局所交流電界を電磁波として散乱・再放射し、その電磁波の強度を遠方に設置した一本の受信アンテナ6で観測する。このようにすることで、被測定物1が発生する電界を乱すことなく、プローブ位置における交流電界強度を測定できるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被測定物から放射される電界強度及び磁界強度を測定する電磁界計測システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器から放射される電波の強度を一定値以下に抑える規格が定められており、この規格に従う義務が機器のメーカには課せられている。そこで、電波源の位置を精密に計測したり、電波源近傍の電磁界を可視化したりする技術が盛んに研究されている。この技術は、例えばパーソナルコンピュータ内部のどの箇所から不要電波が放射されているかを突き止めるために用いられ、用途によっては数センチ〜数ミリオーダでの精度を要求されることもある。この種の技術を一般にEMC(Electro-Magnetic Compatibility)関連技術と称する。
【0003】
EMC計測においては種々の手法が提案されている。例えば微小ループコイル等の磁界プローブを使用したり、微小ダイポールアンテナや光電界センサ等の電界プローブを使用して、空間をスキャンすることで電磁界を測定する手法が従来から用いられている。特許文献1,2に磁界センサ(磁界プローブ)に関する技術が開示されている。特許文献3には電界測定装置に関する技術が開示されている。
【0004】
電界プローブとして微小ダイポールアンテナを用いると、エレメントおよびアンテナケーブルが金属製であることからそれ自体がアンテナのような作用を及ぼし、測定対象の電界が乱れる。このことから被測定物近傍の電界強度を正確に測定することが困難になる。同様に磁界プローブとして磁性体を用いたセンサや微小ループアンテナを用いると、金属性のエレメントおよびケーブル、または磁性体そのものにより磁界が乱されてしまい、被測定物近傍の磁界強度を正確に測定することが困難になる。
【0005】
このような現象を避けるため非金属製の光ケーブルを受信信号出力に使用する光電界センサが提案されている。しかしながらプローブのエレメント自体はやはり金属製であり、センサ感度を上げるためにセンサ周辺にエレメントを配置すると、この金属エレメントにより被測定物近傍の電界が乱される。よって被測定物近傍の電界強度を正確に測定することは困難である。
【0006】
これらの問題点をある程度解決するための技術として、特許文献3に開示される技術がある。この技術によれば金属性エレメントの半波長ダイポールアンテナおよび変調ダイオードを備えた変調散乱素子を用いることで、ワイヤレスで素子近傍の電界強度を測定することができる。しかしながら、この技術も金属性エレメントを備える光電界センサと同様、金属エレメントによって被測定物近傍の電界が乱されるので、被測定物近傍の電界強度を正確に測定することは困難である。
【0007】
またEMC計測においては、プローブを空間的にスキャンして空間における電磁界をマッピングするに際し、プローブを複数用いて測定時間を短縮することが行われてきた。しかしながら複数のプローブを用いるためにはプローブ信号を受信する装置がプローブの数だけ必要になるので、機器が複雑化する。このような形態での計測は、システムの規模や費用対効果の観点などから実施することが難しい。
【0008】
さらに、被測定物近傍における電界または磁界の測定値と遠方界で測定した電磁波強度測定値との相関は十分にとれていない。EMCの規格では測定対象から数メートルといった比較的離れた場所(遠方界)における測定値が重視されるので、これらの可視化結果をEMC計測に応用することはできない。
【特許文献1】特許3001452号公報
【特許文献2】特許3523834号公報
【特許文献3】特開2006−10635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上述べたように既存の技術には、測定器具を用いること自体により被測定物近傍の電界が乱されるので、被測定物近傍の電界強度を正確に測定することが難しいという課題がある。また費用対効果、処理の迅速さなどに関しても種々の課題が有り何らかの解決策の提供が待たれている。
この発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、被測定物周辺の電界、磁界を正確に、迅速に、簡易に計測することの可能な電磁界計測システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためにこの発明の一態様によれば、電波源により形成される電磁界に設置される誘電体プローブ(例えばプローブ30)と、前記誘電体プローブが前記電磁界に設置されることで当該誘電体プローブから再放射される二次放射波を受信する受信部(例えば受信アンテナ6、受信電磁波強度測定器8)と、この受信された二次放射波を解析して前記電磁界の前記誘電体プローブ近傍における局所分布を算出する解析処理部(例えば同期検波器9,10およびこれらに接続されるスペクトラムアナライザなど)とを具備することを特徴とする電磁界計測システムが提供される。
【0011】
誘電体や金属が電磁界に置かれると、分極・散乱あるいは変位電流による二次放射が生じる。この現象自体は既に知られているが、上記構成によればこの二次放射による電波をアンテナなどにより受信し、受信信号を解析することによって電磁界の分布を計測することができる。すなわち電磁界計測をワイヤレスで実現することができるようになる。従ってケーブルの繁雑な引き回しが不要になり低コスト化および処理の迅速化を促せるほか、ケーブル自体が不要になることから被測定物近傍の電磁界を乱すことがなくなり、正確な計測値を得られるようになる。また計測器をプローブごとに設けなくても良くなるのでシステムコストを抑えることも可能になり、ひいては計測設備の利用コストを削減することも可能になる。
しかも上記構成では、金属製でなく誘電体のプローブを用いるようにしているので、被測定物近傍の電界が乱されることがない。従って被測定物近傍の電界強度を正確に測定することが可能になる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、被測定物周辺の電界、磁界を正確に、迅速に、簡易に計測することの可能な電磁界計測システムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1はこの発明に係わる電磁界計測システムの一実施形態を示すブロック図である。図1において、被測定物1から電磁波1′が放射される。この被測定物1は、発振器(非図示)により給電される半波長ダイポールアンテナを、水平偏波の電磁波を遠方に放射するように設置したものである。これに限らず、電子回路基板あるいは一般的な電子機器等を被測定物1とすることももちろん可能である。
【0014】
この被測定物1により形成される電磁界中の、好ましくは被測定物1の近傍にプローブユニット2およびプローブユニット3が設置される。プローブユニット2,3は誘電体または金属のプローブを備える。このプローブは電磁界に感応して分極・散乱あるいは変位電流を生じ、これによる二次放射によりプローブユニット2,3からそれぞれ電磁波2′,3′が再放射される。なおここではプローブの形状を円柱とする。またプローブユニットの個数は2個に限らず、1個以上の任意の個数を使用できる。
【0015】
プローブユニット2から再放射される電磁波2′、およびプローブユニット3から再放射される電磁波3′は、被測定物1、プローブユニット2およびプローブユニット3の遠方に設置され特定の偏波方向にのみ感度を持つ受信アンテナ6によって受信される。受信アンテナ6はアンテナ回転機構7により軸廻りに回転させることで任意の偏波方向の電磁波のみを受信できる。従って電磁波2′および電磁波3′の偏波方向を個別に測定できる。
【0016】
受信アンテナ6によって受信された電磁波の強度は受信電磁波強度測定器8により測定される。受信電磁波強度測定器8の出力は同期検波器9および同期検波器10に入力される。同期検波器の個数はプローブユニットの個数と同じことが望ましいが、これに限られるものではない。
【0017】
同期検波器9および同期検波器10には、駆動用電源4および駆動用電源5から出力されるプローブ位置信号もそれぞれ入力される。それぞれのプローブ位置信号に同期する受信電磁波強度の変化を同期検波器9および同期検波器10で検出することにより、プローブユニット2およびプローブユニット3によって独立に散乱された電磁波の強度を個別に測定できる。
【0018】
同期検波器9および同期検波器10は、例えば、プローブ位置信号がある周波数を持つ周期信号である場合にはロックインアンプや低周波スペクトラムアナライザを利用することによって実現できる。あるいは、プローブ位置信号と受信電磁波強度信号との乗算器および乗算器出力に設けたローパスフィルタの出力を利用することによって実現できる。
【0019】
図2は、図1の受信電磁波強度測定器8を示すブロック図である。図1の受信アンテナ6により受信された任意の周波数の電磁波は、スペクトラムアナライザ20により中間周波数IF(ここでは21.4MHz)に変換されて出力される。このIF出力の強度を、別に設けた発振器21の出力を基準信号として、ロックインアンプ22の出力として得る。この出力が受信電磁波強度測定器8に入力された電磁波の強度となる。受信電磁波強度測定器8の出力帯域は、例えば0Hz〜100kHzである。
【0020】
図3は、図1のプローブユニット2,3を示す模式図である。プローブユニット2およびプローブユニット3は、図3に示すように、誘電体製のプローブ30、非金属製のプローブ支持棒31、プローブ駆動機構32を備える。プローブ駆動機構32は、プローブユニット2およびプローブユニット3の外部から供給される変位信号に基づいて、プローブ支持棒31を介してプローブ30の位置を変える。この動作は、プローブ30の空間掃引、微小移動、微小震動を含む。例えばプローブ駆動機構32としてアクチュエータなどを用い、1cmの振幅でプローブ支持棒31を震動させることができる。
【0021】
プローブ30は、その近傍の交流電界の方向と平行な偏波面を持つ電磁波を再放射する。従ってアンテナ回転機構7を用いて、受信アンテナ6で受信できる電磁波の偏波方向を変えながら各プローブによって散乱・再放射される電磁波の強度を測定することにより、各プローブから散乱・再放射される電磁波の偏波方向を決定できる。この偏波方向および信号強度から、各プローブユニットを構成する各プローブ30近傍の電界ベクトルの各プローブ30と受信アンテナ6とを結ぶ直線に垂直なベクトル成分を測定できる。
【0022】
プローブユニット2およびプローブユニット3のプローブ位置は、それぞれ駆動用電源4および駆動用電源5の出力に対応する特定の位置に、プローブ駆動機構32によって移動される。特に、プローブ30を震動させる場合においてはその震動方向をプローブ支持棒31の長手方向にすると、プローブ支持棒31の剛性を十分に生かすことができて都合が良い。もちろん、図示するようにプローブ支持棒31の長手方向に垂直に震動させても本実施形態による特有の効果を得ることは十分に可能である。
【0023】
プローブ支持棒31は非金属製であるので、プローブ支持棒31による被測定物1から発生する電界の乱れをなくすことができる。また、プローブ駆動機構32はプローブ支持棒31によって被測定物1から十分離れた場所に設置できるので、たとえプローブ駆動機構32が金属製であっても、これによる被測定物1から発生する電界の乱れをなくすことができる。なお、プローブ支持棒31の形状は棒に限るものではなく、非金属製の任意の形状のものを利用できる。
【0024】
図4は、図1の電磁界計測システムにおける計測の結果得られたグラフを例示する図である。この図は、図1のシステムにおいてプローブユニット2から再放射される電磁波2′を観測した結果の一例を示す。図4の計測では同期検波器9として低周波スペクトラムアナライザを用い、受信電磁波強度測定器8の出力を観測した。プローブユニット2を構成するプローブ30は誘電体円柱(材質:ポリエチレン、直径20mm、高さ5mm)とした。
【0025】
受信アンテナ6は、アンテナ回転機構7によって、垂直偏波の電磁波のみを受信できるようにした。プローブユニット2のプローブの微小振動周波数が約2Hzになるように、駆動用電源4を設定した。このとき、駆動用電源4の出力を別に同期検波器9に入力して、プローブユニット2から再放射される電磁波2′の強度が変動する周波数を決定した。この周波数に相当する位置を、図4中に、観測される信号の位置、として矢印で示す。また、図4中に矢印で、再放射分、と示した部分がプローブユニット2から再放射される電磁波2′の強度に相当する。
【0026】
図1においては、水平偏波を遠方に放射するように1/2波長ダイポールアンテナを設置したものを被測定物1とする。しかしながら、アンテナ素子近傍では垂直方向の交流電界成分も生じている。この垂直方向の交流電界成分が被測定物近傍に設置したプローブユニット2のプローブ30によって垂直偏波の電磁波として再放射され、図4に示すように同期検波器9の出力として観測された。
【0027】
図5は、図1の電磁界計測システムにおける計測の結果得られたグラフを例示する図である。この図は、図1のシステムにおいて、同期検波器9として低周波スペクトラムアナライザを用い、受信電磁波強度測定器8の出力を観測した結果の一例を示す。図5の計測においては、受信アンテナ6は、アンテナ回転機構7によって水平偏波の電磁波のみを受信できるようにした。その他の測定条件は図4と同様であり、図5中の記述および記号の意味も図4と同様である。
【0028】
図1の1/2波長ダイポールアンテナは水平偏波を放射する。従って図5の測定条件では、受信電磁波強度測定器8の出力にはプローブユニット2から再放射される電磁波2′の信号強度に加えて、被測定物1から放射される電磁波1′の信号強度が重畳されている。この、被測定物1から放射された電磁波1′が直接受信アンテナ6に到来する条件においても、同期検波器9の作用によりプローブユニット2から再放射される電磁波2′のみを区別できる。よって図5に、再放射分、として矢印で示す強度の信号が観測できていることがわかる。
【0029】
この実施形態によれば、プローブユニット2およびプローブユニット3を、所定の空間内を掃引しながら、各プローブ位置での交流電界強度および交流磁界強度を測定することにより、所定の空間内の交流電界強度および交流磁界強度の可視化を実現できる。プローブユニット2およびプローブユニット3の空間掃引手法としては、例えば、機械的に各プローブユニット2,3を移動させる装置を用いるなどして、所定の空間内のある点を測定した後、各プローブユニットの位置を変更して測定するといった既知の手法を使用できる。これによって、図6に例示するように、被測定物1から生じる交流電界強度の空間分布を、電界強度パターン40として得ることができる。
【0030】
すなわち、電子回路基板やその他電子機器などの被測定物1から放射される妨害電磁波を可視化することにより、遠方界で測定した電子機器の放射妨害波発生源を回路基板近傍から遠方まで連続的かつ直接的に追跡することが可能となる。つまりこの実施形態により得られる交流電界強度、または交流磁界強度とそれらの方向の可視化結果に基づいて、遠方界で測定した電子機器の放射妨害波発生源を電子機器近傍から遠方まで連続的かつ直接的に追跡することができる。
【0031】
既存の技術では、遠方での電磁界計測値から被測定物の電磁波放射源の探知を行う方法として、合成開口法、電波ホログラム観測、MUSIC(Multiple Signal Classification)法等が提案されている。これらの観測手法では、遠方に複数の受信アンテナを設置し、それらの受信信号の振幅および受信信号間の位相情報を元に妨害波源位置の推定を行う。このため、被測定物周辺での電界および磁界の乱れは小さい。しかし、複数の受信アンテナおよび種々の演算装置が必要となるので、測定装置が複雑化する。また、合成開口法および電波ホログラム観測では空間分解能が電波の波長によって制限されてしまう。波長による空間分解能の制限を受けない方法として、MUSIC法等の超解像法が提案されているが、波源形状が点波源に限定され、任意形状の波源を推定できない。
【0032】
これに対しこの実施形態では、非金属のプローブ支持棒31によって支持された誘電体のプローブ30によって、プローブ30近傍の局所交流電界を電磁波として散乱・再放射し、その電磁波の強度を遠方に設置した一本の受信アンテナ6で観測する。このようにすることで、被測定物1が発生する電界を乱すことなく、プローブ位置における交流電界強度を測定できるようにしている。
【0033】
プローブ30が誘電体であれば、被測定物1が発生した交流電界によってプローブ30は分極し、その交流電界と同じ周波数かつ交流電界の方向と平行な偏波面を持つ電磁波を再放射する。この、プローブ30から再放射された電磁波を、被測定物1およびプローブ30の遠方に設置した受信アンテナ6で受信し、その強度を測定することによりプローブ30近傍の局所交流電界強度を測定できる。
【0034】
このとき、プローブ30を球形とすると、プローブ30から再放射される電磁波の偏波方向を測定することによって、プローブ30と受信アンテナ6の相対位置にかかわらず、受信アンテナ6とプローブ30とを結ぶ直線に垂直な交流電界ベクトルのプローブ位置におけるベクトル成分を検出できる。あるいは、プローブ30と受信アンテナ6とを結ぶ直線に平行な軸を持つ円柱のプローブ30を使用することによっても、球形プローブと同様に交流電界ベクトルの受信アンテナ6とプローブ30とを結ぶ直線に垂直なベクトル成分を検出できる。
【0035】
プローブ30から再放射された電磁波を受信する際、プローブ位置を微小移動させ、その微小移動に伴う受信電磁波強度の変化を検出することによって、特定のプローブからの信号とそれ以外の信号とを区別して検出できる。この作用はプローブを複数設置した場合にも有効であり、複数のプローブを異なるタイミングで微小移動させ、複数のプローブごとに割り当てられた移動タイミングに基づいて特定のプローブからの信号のみをそれ以外の信号と区別して検出できる。
【0036】
さらには、プローブ30を或る位置を中心に微小振動させ、その微小振動に同期する受信電磁波強度の周期的変化を検出し、平均化することによって、特定のプローブからの信号とそれ以外との信号を区別して検出する際の雑音の影響を軽減できる。
【0037】
プローブ30を非金属の支持棒31で駆動して微小移動または微小振動させることによって、プローブ30およびプローブ支持棒31が被測定物1の近傍にある場合においても、プローブ支持棒31による被測定物周辺の電界の乱れをなくすことができる。また、このプローブ支持棒31を用いることによって、プローブ30を微小移動または微小振動させるための駆動機構を被測定物1の遠方に設置できる。このため、金属製の駆動機構32を用いた場合においても、プローブ駆動機構32による被測定物1近傍の電界の乱れをなくすことが可能となる。
【0038】
プローブ30、プローブ支持棒31、およびプローブ駆動機構32を複数設置し、各プローブ30を異なる周波数で独立に微小振動させ、各プローブの微小振動に同期する受信電磁波強度の変化を検出することによって、あるプローブから再放射された電磁波が異なるプローブによってさらに再放射された電磁波の成分を除くことができる。このため、一つの受信アンテナ6および一つの受信電磁波強度測定器8を用いて複数のプローブ位置における交流電界強度を同時に測定できる。
さらに、プローブ30およびプローブ支持機構32を三次元空間で掃引しながら局所交流電界を測定することによって、三次元空間の交流電界ベクトルを可視化できる。
【0039】
さらに、金属製のプローブ30を使用することによって、交流電界だけでなく交流磁界を可視化することも可能となる。金属製プローブを使用すると、被測定物1が発生した交流磁界によってプローブ30に変位電流が流れ、その交流磁界と同じ周波数の電磁波が再放射される。このため誘電体プローブを使用する場合と同じ上記の手法を用いることによって、交流磁界の可視化装置を実現することもできる。
この電界または磁界の可視化の結果に基づいて、遠方界で測定した電子機器の放射妨害波発生源を電子機器近傍から遠方まで連続的かつ直接的に追跡することが可能になる。
【0040】
以上をまとめるとこの実施形態では、非金属製のプローブ支持機構32によって支持された誘電体または金属のプローブ30によって、プローブ近傍の局所交流電界および局所交流磁界を電磁波として散乱・再放射し、その電磁波強度を、遠方に設置した1台の受信アンテナ6で測定する。このようにすることで、プローブ30およびプローブ支持機構32による電界および磁界の乱れを小さくした状態でプローブ近傍の局所電界強度および局所磁界強度を測定する。このとき、プローブ30から再放射された電磁波の偏波面を受信アンテナで測定することによって、プローブ周辺の電界および磁界のベクトルを検出できる。もちろん、計測のニーズに応じて誘電体プローブ、金属プローブを混在させることができる。
【0041】
また、プローブ位置を微小変動させ、その位置変動に同期する信号を検出することによって、特定プローブから到来する電磁波をそれ以外の信号と区別して検出できる。これらのプローブ30およびプローブ支持機構32を空間掃引することによって、三次元空間の電界強度および磁界強度を可視化する。この可視化結果に基づいて、電子機器の放射妨害波発生源を電子機器近傍から遠方まで連続的かつ直接的に追跡できる測定装置を提供することができる。これをEMC計測に応用することによって、遠方界で測定した電子機器の放射妨害波発生源を回路基板近傍から連続的かつ直接的に追跡できる測定装置を提供することもできる。
【0042】
以上説明したように本実施形態によれば、被測定物から生じる電界および磁界強度を、その乱れを極めて小さく抑えた状態での交流電界および交流磁界強度の空間マッピングが可能になる。また、本発明をEMC計測に応用することによって、遠方界で測定した電子機器の放射妨害波発生源を回路基板近傍から遠方まで連続的かつ直接的に追跡することも可能となる。
以上のことから、被測定物周辺の電界、磁界を正確に、迅速に、簡易に計測することの可能な電磁界計測システムを提供することが可能となる。
【0043】
以上をまとめると本願発明思想の主要部は、下記[1]〜[3]の記載により表現することができる。
[1] 電波源により形成される電磁界に設置されるプローブと、
前記プローブが前記電磁界に設置されることで当該プローブから再放射される二次放射波を受信する受信部と、
この受信された二次放射波を解析して前記電磁界の前記プローブ近傍における局所分布を算出する解析処理部とを具備することを特徴とする電磁界計測システム。
【0044】
[2] 前記プローブを空間的に掃引する駆動部をさらに備え、
前記解析処理部は、前記掃引されたプローブの各位置における前記電磁界の局所分布に基づいて当該電磁界の空間分布を算出することを特徴とする[1]に記載の電磁界計測システム。
【0045】
[3] 前記プローブを微小移動させる駆動部をさらに備え、
前記解析処理部は、前記微小移動されたプローブの各位置での前記受信部における受信強度の差分に基づいて当該プローブから再放射される二次放射波とこの二次放射波以外の電波とを区別し、前記二次放射波の放射強度を算出することを特徴とする[1]に記載の電磁界計測システム。
【0046】
また本発明に係る技術思想は、下記の記述によっても表現される。
[4] 前記プローブを複数備え、
前記駆動部は、これらの複数のプローブをそれぞれ異なるタイミングで微小移動させ、
前記解析処理部は、前記複数のプローブごとに割り当てられた移動タイミングに基づいて個々のプローブを区別することを特徴とする[3]に記載の電磁界計測システム。
【0047】
[5] 前記プローブを微小震動させる駆動部をさらに備え、
前記解析処理部は、前記受信部における受信強度の前記微小震動の周期に同期する周期的変化に基づいて前記プローブから再放射される二次放射波とこの二次放射波以外の電波とを区別し、前記二次放射波の放射強度を算出することを特徴とする[1]に記載の電磁界計測システム。
【0048】
[6] 前記プローブを複数備え、
前記駆動部は、これらの複数のプローブをそれぞれ異なる周期で微小震動させ、
前記解析処理部は、前記複数のプローブごとに割り当てられた震動周期に基づいて個々のプローブを区別することを特徴とする[5]に記載の電磁界計測システム。
【0049】
[7] 前記駆動部は、
前記プローブを支持する支持部材と、
この支持部材を介して前記プローブを駆動する駆動機構とを備えることを特徴とする[2]乃至[6]のいずれか1つに記載の電磁界計測システム。
【0050】
[8] 前記支持部材は非金属であることを特徴とする[7]に記載の電磁界計測システム。
【0051】
[9] 前記駆動機構は前記プローブを前記支持部材の長手方向に駆動することを特徴とする[7]に記載の電磁界計測システム。
【0052】
[10] 前記プローブは誘電体であることを特徴とする[1]に記載の電磁界計測システム。
【0053】
[11] 前記誘電体プローブは球形であり、
前記解析処理部は、前記二次放射波の偏波を計測して当該誘電体プローブ近傍における局所交流電界ベクトルのベクトル成分を算出することを特徴とする[1]に記載の電磁界計測システム。
【0054】
[12] 前記受信部は受信アンテナを備え、
前記プローブはこのプローブと前記受信アンテナとを結ぶ直線に平行な軸を有する円柱形であり、
前記解析処理部は、前記二次放射波の偏波を計測して当該プローブ近傍における局所交流電界ベクトルのベクトル成分を算出することを特徴とする[10]に記載の電磁界計測システム。
【0055】
[13] 前記プローブは金属であることを特徴とする[1]に記載の電磁界計測システム。
【0056】
[14] 前記プローブは球形であり、
前記解析処理部は、前記二次放射波の偏波を計測して当該プローブ近傍における局所交流磁界ベクトルのベクトル成分を算出することを特徴とする[13]に記載の電磁界計測システム。
【0057】
[15] 前記受信部は受信アンテナを備え、
前記プローブはこのプローブと前記受信アンテナとを結ぶ直線に平行な軸を有する円柱形であり、
前記解析処理部は、前記二次放射波の偏波を計測して当該プローブ近傍における局所交流磁界ベクトルのベクトル成分を算出することを特徴とする[13]に記載の電磁界計測システム。
【0058】
[16] [1]乃至[9]のいずれか1つに記載の電磁界計測システムに用いられるプローブであって、誘電体であることを特徴とするプローブ。
【0059】
[17] [1]乃至[9]のいずれか1つに記載の電磁界計測システムに用いられるプローブであって、金属であることを特徴とするプローブ。
【0060】
[18] 電波源により形成される電磁界にプローブを設置し、
前記プローブが前記電磁界に設置されることで当該プローブから再放射される二次放射波を受信し、
この受信された二次放射波を解析して前記電磁界の前記プローブ近傍における局所分布を算出することを特徴とする電磁界計測方法。
【0061】
[19] 前記プローブを空間的に掃引し、
前記掃引されたプローブの各位置における前記電磁界の局所分布に基づいて当該電磁界の空間分布を算出することを特徴とする[18]に記載の電磁界計測方法。
【0062】
[20] 前記プローブを微小移動させ、
前記微小移動されたプローブの各位置での前記受信部における受信強度の差分に基づいて当該プローブから再放射される二次放射波とこの二次放射波以外の電波とを区別し、前記二次放射波の放射強度を算出することを特徴とする[18]に記載の電磁界計測方法。
【0063】
[21] 前記プローブを前記電磁界に複数設置し、
これらの複数のプローブをそれぞれ異なるタイミングで微小移動させ、
前記複数のプローブごとに割り当てられた移動タイミングに基づいて個々のプローブを区別することを特徴とする[20]に記載の電磁界計測方法。
【0064】
[22] 前記プローブを微小震動させ、
前記受信された二次放射波の受信強度の前記微小震動の周期に同期する周期的変化に基づいて前記プローブから再放射される二次放射波とこの二次放射波以外の電波とを区別し、前記二次放射波の放射強度を算出することを特徴とする[18]に記載の電磁界計測方法。
【0065】
[23] 前記プローブを前記電磁界に複数設置し、
これらの複数のプローブをそれぞれ異なる周期で微小震動させ、
前記複数のプローブごとに割り当てられた震動周期に基づいて個々のプローブを区別することを特徴とする[22]に記載の電磁界計測方法。
【0066】
[24]前記プローブを支持部材を介して支持し、
この支持部材を介して前記プローブを駆動することを特徴とする[19]乃至[23]のいずれか1つに記載の電磁界計測方法。
【0067】
[25] 前記支持部材は非金属であることを特徴とする[24]に記載の電磁界計測方法。
【0068】
[26] 前記プローブを前記支持部材の長手方向に駆動することを特徴とする[24]に記載の電磁界計測方法。
【0069】
[27] 前記プローブは誘電体であることを特徴とする[18]に記載の電磁界計測方法。
【0070】
[28] 前記プローブは球形であり、
前記二次放射波の偏波を計測して当該プローブ近傍における局所交流電界ベクトルのベクトル成分を算出することを特徴とする[27]に記載の電磁界計測方法。
【0071】
[29] 受信アンテナを用いて前記二次放射波を受信し、
前記プローブはこのプローブと前記受信アンテナとを結ぶ直線に平行な軸を有する円柱形であり、
前記二次放射波の偏波を計測して当該プローブ近傍における局所交流電界ベクトルのベクトル成分を算出することを特徴とする[27]に記載の電磁界計測方法。
【0072】
[30] 前記プローブは金属であることを特徴とする[18]に記載の電磁界計測方法。
【0073】
[31] 前記プローブは球形であり、
前記二次放射波の偏波を計測して当該プローブ近傍における局所交流磁界ベクトルのベクトル成分を算出することを特徴とする[30]に記載の電磁界計測方法。
【0074】
[32] 受信アンテナを用いて前記二次放射波を受信し、
前記プローブはこのプローブと前記受信アンテナとを結ぶ直線に平行な軸を有する円柱形であり、
前記二次放射波の偏波を計測して当該プローブ近傍における局所交流磁界ベクトルのベクトル成分を算出することを特徴とする[30]に記載の電磁界計測方法。
【0075】
なお、この発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
例えば、一方向に長い誘電体プローブを交流電界中に置くと、分極により再放射される電磁波強度は交流電界ベクトルがプローブの長手方向と一致する場合に最大になる。よって一方向に長い(長手方向を有する)誘電体プローブを用いることで、プローブの長手方向の交流電界に高い感度を持つプローブを実現できる。このプローブ、および偏波方向に依存しない感度を持つ受信アンテナを用い、プローブの長手方向を変えて散乱波の強度を測定することによりプローブ近傍での交流電界のベクトル成分を検出することができる。この場合、好ましくは長手方向の軸周りに軸対称な形状のプローブを用いると良い。
【0076】
また、交流電界中で誘電体プローブを移動させるとプローブから再放射される電磁波の周波数は、誘電体プローブの移動速度に応じたドップラー効果により、プローブ近傍の交流電界の周波数から偏移する。従って、FM(Frequency Modulation)復調器を用いてプローブから再放射された電磁波をFM復調し、プローブの移動速度に対応する周波数偏移の成分を検出することによって、プローブからの再放射波をそれ以外の信号と区別して計測できる。
さらに、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】この発明に係わる電磁界計測システムの一実施形態を示すブロック図。
【図2】図1の受信電磁波強度測定器8を示すブロック図。
【図3】図1のプローブユニット2,3を示す模式図。
【図4】図1の電磁界計測システムにおける計測の結果得られたグラフを例示する図。
【図5】図1の電磁界計測システムにおける計測の結果得られたグラフを例示する図。
【図6】この発明の実施形態において測定される電界強度パターンの例を示す模式図。
【符号の説明】
【0078】
1…被測定物、1′…被測定物1から放射される電磁波、2,3…プローブユニット、2′…プローブユニット2から再放射される電磁波、3′…プローブユニット3から再放射される電磁波、4,5…駆動用電源、6…受信アンテナ、7…受信アンテナ回転機構、8…受信電磁波強度測定器、9,10…同期検波器、20…スペクトラムアナライザ、21…発振器、22…ロックインアンプ、30…プローブ、31…プローブ支持棒、32…プローブ駆動機構、40…電界強度パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波源により形成される電磁界に設置される誘電体プローブと、
前記誘電体プローブが前記電磁界に設置されることで当該誘電体プローブから再放射される二次放射波を受信する受信部と、
この受信された二次放射波を解析して前記電磁界の前記誘電体プローブ近傍における局所分布を算出する解析処理部とを具備することを特徴とする電磁界計測システム。
【請求項2】
前記誘電体プローブを空間的に掃引する駆動部をさらに備え、
前記解析処理部は、前記掃引された誘電体プローブの各位置における前記電磁界の局所分布に基づいて当該電磁界の空間分布を算出することを特徴とする請求項1に記載の電磁界計測システム。
【請求項3】
前記誘電体プローブを微小移動させる駆動部をさらに備え、
前記解析処理部は、前記微小移動された誘電体プローブの各位置での前記受信部における受信強度の差分に基づいて当該誘電体プローブから再放射される二次放射波とこの二次放射波以外の電波とを区別し、前記二次放射波の放射強度を算出することを特徴とする請求項1に記載の電磁界計測システム。
【請求項4】
前記誘電体プローブは球形であり、
前記解析処理部は、前記二次放射波の偏波を計測して当該誘電体プローブ近傍における局所交流電界ベクトルのベクトル成分を算出することを特徴とする請求項1に記載の電磁界計測システム。
【請求項5】
前記誘電体プローブは長手方向を有する形状であり、
前記解析処理部は、前記長手方向の変化に伴う前記二次放射波の強度を計測して当該誘電体プローブ近傍における局所交流電界ベクトルのベクトル成分を算出することを特徴とする請求項1に記載の電磁界計測システム。
【請求項6】
前記誘電体プローブを空間的に移動させる駆動部をさらに備え、
前記受信部は、前記誘電体プローブの移動速度に応じたドップラー効果による前記二次放射波の周波数偏移成分を検出し、
前記解析処理部は、前記周波数偏移成分に基づいて当該誘電体プローブから再放射される二次放射波とこの二次放射波以外の電波とを区別し、前記二次放射波の放射強度を算出することを特徴とする請求項1に記載の電磁界計測システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−107197(P2008−107197A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−289985(P2006−289985)
【出願日】平成18年10月25日(2006.10.25)
【出願人】(591108178)秋田県 (126)