説明

電磁石駆動制御装置

【課題】励磁コイルのレイヤショートや励磁コイルの損傷等の励磁コイルの軽微な異常及びコイル温度異常を精度よく検知できる励磁コイルの故障検知及び/又は故障予知手段を備えた電磁石駆動制御装置を低コスト・省スペースで提供すること。
【解決手段】隔壁で仕切られた空間内に磁場を形成する電磁石駆動制御装置であって、励磁コイルに供給すべき目標励磁電流信号S1に基づいて電流指令信号S3を出力する電流指令部16と、励磁コイルΧに励磁電流を供給する電流増幅器と、励磁電流を検出する電流検出器20と、電流検出信号S5を電流指令部16にフィードバックするフィードバック系とを備え、フィードバック制御によって決定される電流指令信号S2の値と、目標励磁電流値S1を基にドライバー11の入出力特性、及び励磁コイルΧの特性から算出される電流指令信号想定S8の値が、所定値以上乖離した場合にコイル不良とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、隔壁で仕切られた空間内に発生したプラズマ分布を能動的に制御する電磁石装置の駆動制御に好適な電磁石駆動制御装置に関し、特に電磁石の励磁コイルのレイヤショートや、巻線等の損傷や励磁コイル過熱等の異常、及び/又は故障が発生する以前にそれを予知できる励磁コイル故障検知・予知手段を備えた電磁石駆動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の電磁石駆動制御装置は、電磁石を備え、該電磁石の励磁コイルに励磁電流を通電することにより、隔壁で仕切られた空間内に磁場を形成するようになっている。磁界の強度等を制御するために、励磁コイルに流れる励磁電流を電流検出部で検出し、該検出した励磁電流信号を電流制御部にフィードバックし、磁界強度が目標強度になるように制御している。
【0003】
上記のように励磁コイルに流れる励磁電流を検出し、フィードバックし、励磁コイル流れる電流が目標電流値になるように制御する電磁石駆動制御装置において、従来励磁コイルの一部がレイヤショートした場合や励磁コイルが傷ついたりした場合の故障検出、又は故障予知は電流フィードバック値を監視し、この値が高いか低いかで異常を検知(判定)している。例えば、電流フィードバック値が高い場合をショート、低い場合は温度高いか又は断線(励磁コイル温度が高く抵抗値が高いため電流値が低いか又は断線)というように判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平7−177650号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電流フィードバック値を監視し、この値が高いか低いかで異常を検出する方法では、フィードバックループ制御はコイル電流値(実測値)と目標値の差がゼロになるような制御であるから、励磁コイルのレイヤショートや励磁コイルの損傷が軽微な場合、電流フィードバック値の異常も解消されてしまい、異常が検出できないという問題がある。例えば、軽微なレイヤショートによりコイル抵抗値が低下すると電流値が増加し、フィードバック電流値が増加することになる。これによりフィードバックループは励磁電流を目標値にさせようと、ドライバーから励磁コイルに出力されるコイル駆動電圧を減少させるから、励磁電流の実測値と目標値の差が解消してしまう。結局、異常がフィードバックループでは対処できない程のレベルに達するまでは、異常を検知できないという問題がある。また、異常が軽微である場合の異常の予知は殆ど不可能であった。
【0006】
また、コイルに励磁電流を印加した際、コイル自身の発熱及び/又は周囲温度の影響によってコイル配線の被服が溶けることを防ぐため、コイル温度を監視する必要があるが、コイル点数に応じて温度センサ及び温度センサ測定値を表示・報知する手段の入力チャネル数を多チャネル化する必要があった。
【0007】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、励磁コイルのレイヤショートや励磁コイルの損傷、冷却不足によるコイルの過熱等の励磁コイルの軽微な異常でも精度よく検知できる励磁コイルの故障検知及び/又は故障予知手段を備えた電磁石駆動制御装置を低コスト、省スペースで提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明は、電磁石を備え、該電磁石の励磁コイルに励磁電流を通電することにより、隔壁で仕切られた空間内に磁場を形成する電磁石駆動制御装置であって、励磁コイルに供給すべき目標励磁電流値に基づいて電流指令信号を出力する電流指令部と、電流指令部からの電流指令信号に基づいて励磁コイルに励磁電流を供給するドライバーと、励磁コイルに流れる励磁電流を検出する電流検出部と、電流検出部で検出した電流検出信号を電流指令部にフィードバックするフィードバック系と、を備え、電流指令部よりドライバーに指令された電流指令信号値と、目標励磁電流値、ドライバーの入出力特性、及び励磁コイルの特性から算出される電流指令信号想定値とが、所定値以上乖離した場合に励磁コイルの不良とする励磁コイル故障検知・予知手段を設けたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、電磁石を備え、該電磁石の励磁コイルに励磁電流を通電することにより、隔壁で仕切られた空間内に磁場を形成する電磁石駆動制御装置であって、電流指令部からの指令に基づいて励磁コイルに励磁電流を供給するドライバーと、励磁コイルに流れる励磁電流を検出する電流検出部と、電流検出部で検出した電流検出信号を電流指令部にフィードバックするフィードバック系と、を備え、ドライバーによって励磁コイルに印加される電圧と、励磁コイルに流れる励磁電流とにより励磁コイルの直流抵抗値を求め、該直流抵抗値より励磁コイルの温度を推定する励磁コイル温度推定機能を有する励磁コイル温度推定手段を設けたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記電磁石駆動制御装置において、励磁コイル温度推定手段で推定された励磁コイル温度が所定の範囲を逸脱した場合に、励磁コイルの不良とする励磁コイル故障検知・予知手段を設けたことを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記電磁石駆動制御装置において、電磁石は複数であり、励磁コイル故障検知・予知手段又は励磁コイル温度推定手段はそれぞれ電磁石に対応或いは複数のグループに区分した電磁石に対応して設けられたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記電磁石駆動制御装置において、励磁コイル故障検知・予知手段が励磁コイルの不良を検知した場合、それを表示及び/又は報知する警報手段を設けたことを特徴とする。
【0013】
また、上記電磁石駆動制御装置において、励磁コイル温度推定手段で推定した励磁コイル推定温度を表示する温度表示手段及び/又は報知する温度報知手段を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電流指令部よりドライバーに指令された電流指令信号値と、目標励磁電流値、ドライバーの入出力特性、及び励磁コイルの特性から算出される電流指令信号想定値とが、予め定められた所定値以上乖離した場合に励磁コイルの不良とする励磁コイル故障検知・予知手段を設けたので、電磁石の励磁コイルのレイヤショートや、巻線等の損傷が軽微であっても高精度の故障の検知や故障の予知ができる。
【0015】
また、本発明によれば、ドライバーによって励磁コイルに印加される電圧と、励磁コイルに流れる励磁電流とによって励磁コイルの直流抵抗値を求め、該直流抵抗値より励磁コイルの温度を推定する励磁コイル温度推定機能を有するので、励磁コイルの直流抵抗値は温度に精度良く反応するから高精度で励磁コイルの温度を推定できる。
【0016】
また、本発明によれば、励磁コイル温度推定手段で推定された励磁コイル温度が所定の範囲を逸脱した場合に、励磁コイルの不良とする励磁コイル故障検知・予知手段を設けたので、高精度で励磁コイルの故障や故障予知できる。
【0017】
また、本発明によれば、励磁コイル故障検知・予知手段又は励磁コイル温度推定手段はそれぞれ電磁石に対応或いは複数のグループに区分した電磁石に対応して設けているので、どの電磁石、又はどのグループに属す電磁石の励磁コイルの故障や温度推定を高精度で知ることができる。
【0018】
また、本発明によれば、励磁コイル故障検知・予知手段が励磁コイルの不良を検知した場合、それを表示及び/又は報知する警報手段を設けたので、励磁コイルの不良が発生すると速やかにそれを知ることができる。
【0019】
また、本発明によれば、励磁コイル温度推定機能で推定した励磁コイル推定温度を表示及び/又は報知する手段を設けたので、リアルタイムで励磁コイル推定温度を知ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る電磁石駆動制御装置を用いる電磁石装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る電磁石駆動制御装置のシステム構成例を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る電磁石駆動制御装置のシステム他の構成を示すブロック図である。
【図4】本発明に係る電磁石駆動制御装置が備える励磁コイルの異常判定処理フローを示す図である。
【図5】本発明に係る電磁石駆動制御装置が備える励磁コイルの異常判定処理フローを示す図である。
【図6】本発明に係る電磁石駆動制御装置が備える励磁コイルの温度推定処理フローを示す図である。
【図7】本発明に係る電磁石駆動制御装置を用いる電磁石装置の他の全体構成を示すブロック図である。
【図8】本発明に係る電磁石駆動制御装置を用いる電磁石装置の他の全体構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図1は本発明に係る電磁石駆動制御装置を用いる電磁石装置の全体構成を示す図である。2は電磁石の励磁コイルΧを駆動制御する電磁石駆動制御装置であり、図示するように、電磁石駆動制御装置2は1台で複数の電磁石1の励磁コイルΧを駆動制御する場合と、1台で1つの電磁石1の励磁コイルΧを駆動制御する場合がある。3は電磁石装置全体を管理する電磁石装置全体管理部であり、ユーザ/上位装置インターフェース部4に接続されている。なお、電磁石装置全体管理部3にユーザ/上位装置インターフェース部4の機能を設けても良い。
【0022】
各電磁石駆動制御装置2は電磁石装置全体管理部3からの目標励磁電流指令信号S1を受け、目標励磁電流波形として内部に保持し、該目標励磁電流波形に従って電磁石1の励磁コイルΧに励磁電流を通電するコイル駆動電圧S4を生成し、励磁コイルΧに出力する。これにより励磁コイルΧには目標励磁電流指令信号S1に対応する励磁電流が流れ、発生する磁束により、例えば隔壁で仕切られた空間に磁場(磁界)を形成する。
【0023】
図2(a)は本発明に係る電磁石駆動制御装置2のシステム構成を示すブロック図である。本電磁石駆動制御装置2は、電流指令部16と電力増幅器(PAMP)を具備するドライバー11と、電流検出部21を具備し、電流指令部16はデジタル演算部15とD/A変換器12を備えている。電磁石装置全体管理部3は、ユーザ/上位装置インターフェース4からの指示に基づいて、例えば、正弦波、矩形波、三角波等の各種波形の目標励磁電流指令信号S1を各電磁石駆動制御装置2のデジタル演算部15に出力する。
【0024】
デジタル演算部15はCPUを具備し、上記目標励磁電流指令信号S1を受けて目標励磁電流波形として保持し、デジタル演算処理にて前記目標励磁電流波形に対応する「波形」と「値」の電流指令信号S2(デジタル量)を生成し、D/A変換器12に出力する。D/A変換器12ではデジタル量の電流指令信号S2を連続的な電流指令信号S3に変換し、ドライバー11に出力する。ドライバー11はその電力増幅器(PAMP)で電流指令信号S3を電力増幅してコイル駆動電圧S4にし、電磁石1の励磁コイルΧに出力する。これにより励磁コイルΧにはコイル駆動電圧S4に応じた「波形」と「値」の励磁電流が流れ、例えば、図示しない隔壁で仕切られた空間内に磁場(磁界)を形成する。
【0025】
電磁石1の励磁コイルΧに流れる励磁電流は、電流検出部21の電流検出器20で検出され、該検出された検出電流信号は増幅器17で増幅し、電流検出信号S6となってA/D変換器18に出力され、該A/D変換器18でデジタル量の電流検出信号S7に変換され、デジタル演算部15に出力される。デジタル演算部15は検出信号S7と目標励磁電流波形とを比較し、励磁コイルΧに流れる励磁電流が目標励磁電流波形の電流値及び/又は位相角になるように補正する補正機能を有している。これにより、電磁石1の励磁コイルΧに流れる励磁電流の電流値と位相が電磁石装置全体管理部3からの目標励磁電流指令信号S1で指令された「値」と「位相」になる。なお、デジタル演算部15は電流指令部16の一部であり、電流検出部21の一部でもある。
【0026】
また、電流検出部21に、図3に示すように、CPU19を設け、デジタル通信等の手段でデジタル演算部15に電流検出信号S7をデジタル電流検出信号S7’としてをフィードバックしてもよい。
【0027】
本電磁石駆動制御装置では図2(a)に示すように、電磁石1の励磁コイルΧに流れる励磁電流を電流検出器20で検出し、増幅器17、A/D変換器18からなる電流検出部21を介してデジタル演算部15にフィードバックしている。このようにフィードバック系が形成された電磁石駆動制御装置2において、励磁コイルΧのレイヤショート、励磁コイルΧの損傷等によって電磁石1に故障が発生した場合、この故障状態を検出する必要がある。従来、このような電磁石1の故障を検出するのに、デジタル演算部15にフィードバックされてくる電流検出信号S7の値を監視し、該電流検出信号S7の値が大きいと励磁コイルΧのショート、小さいと温度高や断線というように、検出信号S7の値の大小で励磁コイルΧの正・異常を判断している。
【0028】
上記のようにフィードバックループ系を形成した場合、電流検出器20で検出した検出信号S7の値(実測値)と、電磁石装置全体管理部3からの目標励磁電流指令信号S1の値の差がゼロになるように制御されるから、異常が軽微の場合、異常が検出できないという問題がある。例えば、励磁コイルΧの温度上昇によって励磁コイルΧの抵抗値が上昇し、励磁電流が減少し、電流検出信号S7が小さくなると、デジタル演算部15は電流検出信号S7と前記デジタル演算部15で保持している目標電流波形の差がゼロになるように、デジタル演算部15から出力される電流指令信号S2の値を大きくし、ドライバー11である電力増幅器(PAMP)からのコイル駆動電圧を大きくするから、励磁コイルΧに流れる励磁電流は大きくなり(回復)、異常が解消してしまい異常が検出できない。即ち、励磁コイルΧの異常がフィードバック制御で賄いきれない程のレベルに達するまで故障が検出できないという問題がある。
【0029】
本発明に係る電磁石駆動制御装置2では、励磁コイルΧの故障検知及び異常が軽微で故障に発展する可能性がある段階、即ち故障の予知が可能な故障検知・予知手段を備えている。以下、この故障検知・予知手段について説明する。図2(b)は励磁コイルΧの故障検知・予知手段の構成を示す図である。図において、22は故障検知部、23は警報手段である。故障検知部22にはデジタル演算部15からの後述する電流指令想定信号S8と電流指令信号S2が入力される。故障検知部22では電流指令想定信号S8の値と電流指令信号S2の値を比較し、両者が予め定められた所定値以上乖離したら(デジタル演算部15の上記補正機能の補正値が予め定められた所定値以上となったら)、故障又は故障に発展する故障予知と判断する。
【0030】
電流指令想定信号S8はデジタル演算部15において、目標励磁電流波形を基にドライバー11の入出力特性と励磁コイルΧの特性(抵抗値、リアクタンス値等)と増幅器17の入出力特性とA/D変換器18の入出力特性とから算出される電流指令想定信号である。電流指令想定信号S8はフィードバックループ系の特性から計算により求められるから、この電流指令想定信号S8と、実際のフィードバック制御にて決定された電流指令信号S2とを比較することにより、電磁石1の励磁コイルΧの故障・故障予知が精度よく判別できるのである。また、故障検知部22が励磁コイルΧの不良を検知した場合は警報手段23に伝送し、警報手段23から励磁コイルΧの故障や故障予知を警報する。また、警報手段23の代わりに励磁コイルΧの故障や故障予知を表示する表示手段を設けてもよい。更に警報手段と表示手段の両方を設けても良い。
【0031】
なお、図2(b)では、故障検知部22を電流指令部16のデジタル演算部15とは別置きにしているが、後に詳述するように、故障検知部22の機能をCPUを具備するデジタル演算部15に持たせるようにしてもよい。
【0032】
また、電磁石1の励磁コイルΧの直流抵抗値は温度に依存し、温度が高ければ直流抵抗値は高く、温度が低ければ直流抵抗値は低くなる。そこで励磁コイルΧの直流抵抗値から励磁コイルΧの温度を推定し、該励磁コイルΧの故障検知や故障予知を行うことも可能である。図2(c)は励磁コイルΧの直流抵抗値から該励磁コイルΧの温度を推定し、故障検知や故障予知を行う故障検知・予知手段の構成を示す図である。図において、25は直流抵抗値検知部、27は温度推定部、28は警報手段である。直流抵抗値検知部25には電流指令信号S2と電流検出信号S7が入力されている。直流抵抗値検知部25では電流指令信号S2とドライバー11の入出力特性から算出されるコイル駆動電圧計算信号S4’の値と電流検出信号S7の値から励磁コイルΧの直流抵抗値を下記のように算出する。
【0033】
直流電流波形印加時:
直流抵抗値=コイル駆動電圧値÷励磁電流値
交流電流波形印加時:
インピーダンス=コイル駆動電圧値÷励磁電流値
直流抵抗値=[{(インピーダンス)−(交流波形の角周波数×コイルインダクタンス) }]1/2
【0034】
温度推定部27では直流抵抗値検知部25で検知された励磁コイルΧの直流抵抗値から励磁コイルΧの温度を推定し、該推定した励磁コイル温度が予め定められた所定の範囲を逸脱した場合に、励磁コイルΧの故障又は故障要因と判断し、警報手段28に伝送し、警報手段28から励磁コイルΧの故障検知や故障予知を警報する。また、警報手段28の代わりに励磁コイルΧの故障や故障予知を表示する表示手段を設けてもよい。更に警報手段と表示手段の両方を設けても良い。また、温度推定部27の温度推定機能で推定した励磁コイル推定温度を表示する温度表示手段又は報知する温度報知手段を設けてもよい。更に励磁コイル推定温度を表示する機能と報知する機能を兼ね備えた温度表示・報知手段29を設けてもよい。
【0035】
なお、図2(c)では、直流抵抗値検知部25、温度推定部27を電流指令部16のデジタル演算部15と別置きにしているが、後に詳述するように、直流抵抗値検知部25及び温度推定部27の機能をCPUを具備するデジタル演算部15に持たせるようにしてもよい。
【0036】
図4は図2(b)の故障検知部22の機能をCPUを具備するデジタル演算部15に持たせ、デジタル演算部15で電磁石1の励磁コイルΧの異常判定を行う処理フローを示す図である。異常判定を開始し、ステップST1では励磁コイルΧに流れる実測電流値(実測コイル電流値)を読込み、即ち、電流検出部21のA/D変換器18の電流検出信号S7の値(A/D変換値)を取得しステップST2に移行する。ステップST2では、目標電流値(目標励磁電流波形より求めた目標励磁電流値)とコイル電流値の実測値(A/D変換器18の電流検出信号S7の値)の電流偏差A(目標電流値−実測コイル電流値)を算出し、ステップST3に移行する。ステップST3では電流偏差Aより指令信号値B(操作量)を計算し、ステップST4に移行する。
【0037】
ステップST4では、目標電流値と励磁コイルΧ、ドライバー11の特性から指令信号値(操作量)の想定値(電流指令想定信号値S8)Cを計算し、ステップST5に移行する。ステップST5では、指令信号値Bと想定値Cを比較し、両者が予め定められた所定値以上乖離しているか否かを判断し、乖離している(Y)場合はステップST6に移行し、ここで励磁コイル異常を警報手段23(図2(b)参照)に出力する。乖離していない(N)場合は異常判定を終了する。
【0038】
図5はデジタル演算部15で電磁石1の励磁コイルΧの異常判定を行う他の処理フローを示す図である。異常判定を開始し、ステップST11では励磁コイルΧに流れる実測電流値(A/D変換器18の電流検出信号S7の値)を取得しステップST12に移行する。ステップST12では、目標電流値とコイル電流値の実測値の電流偏差A(目標電流値−コイル電流値)を算出し、ステップST13に移行する。ステップST13では電流偏差Aが予め定められた所定値以上(過大)か否かを判断し、所定値以上(Y)の場合はステップST14に移行し、励磁コイル異常を警報手段23(図2(b)参照)に出力する。上記ステップST11〜ST14までの処理が従来の処理である。
【0039】
本処理では、ステップST13で電流偏差Aが予め定められた所定値未満(N)の場合、ステップST15に移行し、ここで電流偏差値Aより、指令計算値B(操作量)を計算しステップST16に移行する。ステップST16では、目標電流値と励磁コイルΧ、ドライバー11の特性から指令信号値(操作量)の想定値(電流指令想定信号値S8の)Cを計算し、ステップST17に移行する。ステップST17では、指令信号値Bと想定値Cを比較し、両者が予め定められた所定値以上乖離しているか否かを判断し、乖離している(Y)の場合はステップST18に移行し、ここで励磁コイル異常を警報手段23(図2(b)参照)に出力する。乖離していない(N)の場合は異常判定を終了する。
【0040】
図6は図2(c)の直流抵抗値検知部25及び温度推定部27の機能をデジタル演算部15に持たせ、デジタル演算部15で電磁石1の励磁コイルΧのコイル温度を推定する処理フローを示す図である。励磁コイルΧのコイル温度推定開始し、ステップST21で励磁コイルΧに流れるコイル電流値を読込み(A/D変換器18の電流検出信号S7の値)を取得しステップST22に移行する。ステップST22では、電流指令信号S2とドライバー11の入出力特性からコイル駆動電圧計算信号S4’を求め、ステップST23に移行する。ステップST23では、コイル電流値とドライバー11のコイル駆動電圧計算信号S4’の値より、コイル抵抗値を計算し、ステップST24ではコイル抵抗値より下式により現在の励磁コイルΧのコイル温度を推定し、コイル温度推定処理を終了する。
【0041】
Tn=1/α{(Rn/Rd)+α×Td−1}
ここで、Tn:コイル推定温度[℃]、Td:設計上のコイル温度[℃]、Rn:算出されたコイル抵抗値[Ω]、Rd:設計上のコイル抵抗値[Ω]、α:熱抵抗率 である。
【0042】
図7は本発明に係る電磁石駆動制御装置を用いる電磁石装置の全体構成を示す図である。ここでは、各電磁石駆動制御装置2には、それぞれ故障検出手段又は温度推定手段又は故障検出手段と温度推定手段の両方を備え、更に各電磁石駆動制御装置2で1つの電磁石の励磁コイルΧを駆動するように、電磁石駆動制御装置2と電磁石の励磁コイルΧは一対一の関係になるように構成されている。つまり本実施形態例では、1つの電磁石1の励磁コイルΧに対して1つの故障検出手段又は温度推定手段又は故障検出手段と温度推定手段の両方を備えている場合を示す。これにより、各励磁コイルΧごとに、故障検出又は温度推定又は故障検出と温度推定の両方ができる。
【0043】
図8は本発明に係る電磁石駆動制御装置を用いる電磁石装置の全体構成を示す図である。ここでは、各電磁石駆動制御装置2には、それぞれ故障検出手段又は温度推定手段又は故障検出手段と温度推定手段の両方を備え、各電磁石駆動制御装置2で複数(図では2個)の電磁石の励磁コイルΧを駆動するように、つまり各電磁石駆動制御装置2は複数の電磁石の励磁コイルΧを駆動するように構成されている。言い換えると、複数電磁石で構成されるグループ毎に、1つ故障検出手段又は温度推定手段又は故障検出手段と温度推定手段の両方を備えている場合を示す。これにより、励磁コイルのグループごとに、故障検出又は温度推定又は故障検出と温度推定の両方ができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、電流指令部よりドライバーに指令された電流指令信号と、電流指令信号想定値(目標励磁電流値を基に、励磁コイルの特性、及びドライバーの入出力特性から算出される値)とが予め定められた所定値以上乖離した場合に励磁コイルの不良とする励磁コイル故障検知及び/又は故障予知手段を設けたので、フィードバックループ系に関係なく電磁石の励磁コイルの異常を検知でき、電磁石の励磁コイルのレイヤショートや、巻線等の不良が軽微であっても高精度で故障検知や故障予知できる電磁石駆動制御装置として利用できる。
【0046】
また、本発明は、ドライバーによって励磁コイルに印加される電圧と、励磁コイルに流れる励磁電流とによって励磁コイルの直流抵抗値を求め、該直流抵抗値より励磁コイルの温度を推定する励磁コイル温度推定機能を有するので、温度センサやセンサ入力系を具備すること無く、この推定温度から励磁コイルの故障検知や故障予知が高精度でできる電磁石駆動制御装置として利用できる。
【符号の説明】
【0047】
1 電磁石
2 ドライブ回路
3 電磁石装置全体管理部
4 検出回路
11 ドライバー
12 D/A変換器
15 デジタル演算部
16 電流指令部
17 増幅器
18 A/D変換器
19 CPU
20 電流検出器
21 電流検出部
22 故障検知部
23 警報手段
25 直流抵抗値検知部
27 温度推定部
28 警報手段
29 温度表示・報知手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁石を備え、該電磁石の励磁コイルに励磁電流を通電することにより、隔壁で仕切られた空間内に磁場を形成する電磁石駆動制御装置であって、
前記励磁コイルに供給すべき目標励磁電流値に基づいて電流指令信号を出力する電流指令部と、
前記電流指令部からの電流指令信号に基づいて前記励磁コイルに励磁電流を供給するドライバーと、
前記励磁コイルに流れる励磁電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部で検出した電流検出信号を前記電流指令部にフィードバックするフィードバック系と、を備え、
前記電流指令部より前記ドライバーに指令された電流指令信号値と、前記目標励磁電流値、前記ドライバーの入出力特性、及び前記励磁コイルの特性から算出される電流指令信号想定値とが、所定値以上乖離した場合に前記励磁コイルの不良とする励磁コイル故障検知・予知手段を設けたことを特徴とする電磁石駆動制御装置。
【請求項2】
電磁石を備え、該電磁石の励磁コイルに励磁電流を通電することにより、隔壁で仕切られた空間内に磁場を形成する電磁石駆動制御装置であって、
前記電流指令部からの指令に基づいて前記励磁コイルに励磁電流を供給するドライバーと、
前記励磁コイルに流れる励磁電流を検出する電流検出部と、
前記電流検出部で検出した電流検出信号を前記電流指令部にフィードバックするフィードバック系と、を備え、
前記ドライバーによって前記励磁コイルに印加される電圧と、前記励磁コイルに流れる励磁電流とにより励磁コイルの直流抵抗値を求め、該直流抵抗値より励磁コイルの温度を推定する励磁コイル温度推定機能を有する励磁コイル温度推定手段を設けたことを特徴とする電磁石駆動制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電磁石駆動制御装置において、
前記励磁コイル温度推定手段で推定された励磁コイル温度が所定の範囲を逸脱した場合に、前記励磁コイルの不良とする励磁コイル故障検知・予知手段を設けたことを特徴とする電磁石駆動制御装置。
【請求項4】
請求項1又は2又は3に記載の電磁石駆動制御装置において、
前記電磁石は複数であり、前記励磁コイル故障検知・予知手段又は前記励磁コイル温度推定手段はそれぞれ前記電磁石に対応或いは複数のグループに区分した前記電磁石に対応して設けられたことを特徴とする電磁石駆動制御装置。
【請求項5】
請求項1又は3に記載の電磁石駆動制御装置において、
前記励磁コイル故障検知・予知手段が励磁コイルの不良を検知した場合、それを表示及び/又は報知する警報手段を設けたことを特徴とする電磁石駆動制御装置。
【請求項6】
請求項2に記載の電磁石駆動制御装置において、
前記励磁コイル温度推定手段で推定した励磁コイル推定温度を表示する温度表示手段及び/又は報知する温度報知手段を設けたことを特徴とする電磁石駆動制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−74585(P2012−74585A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−219023(P2010−219023)
【出願日】平成22年9月29日(2010.9.29)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)