説明

電磁継電器及びその製造方法

【課題】 成形樹脂部品及び封止用樹脂から発生する有機ガス成分を接点表面に吸着・堆積させず、不導体の生成がなく、安定した接点接触抵抗Rcを有する電磁継電器及びその製造方法の提供。
【解決手段】 成形樹脂ベース部15に電気接点部及び電磁駆動部を配して本体部12を作製する工程と、本体部12を覆う成形樹脂カバー11を作製する工程と、極性基又は芳香環を含まず、25℃における蒸気圧が1.3〜13.3kPaであり、沸点60〜120℃の有機物を1〜3%の重量比率で混練して封止用樹脂13を作製する工程と、本体部12を成形樹脂カバー11で覆い封止用樹脂13を用いて封止する工程とを有する電磁継電器の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般の通信用、制御用機器等に使用される電磁継電器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気接点の開閉によるスイッチ機能を有し、通信用、制御用機器に多用されている電磁継電器は、電気接点及び成形樹脂材料を構成要素に含み、電磁駆動部が成形樹脂カバーで覆われ、封止用樹脂で封止されてなるものである。その電磁継電器は、封止加熱、あるいはリフロー工程での熱ストレスによって、電磁継電器の構成部品である成形樹脂材料、封止用樹脂の高分子材料から、有機ガス成分が発生する。その有機ガス成分は、電磁継電器密閉空間内に拡散する。特に、微小な接点負荷条件による使用の場合、接点の開閉動作によって接点表面が活性化されて、そこへ、前記有機ガス成分が吸着する。さらに、接点表面にブラウンパウダーと呼ばれる不導体を生成して接触障害を起こし、接点接触抵抗(Rc)値上昇の原因となっていた。
【0003】
従来は、有機ガス成分によるRc値上昇を防ぐ対策として、接点表面に特定の有機物を薄く塗布することで、物理的な保護膜である有機被膜を形成する技術(特許文献1)、また脱ガス処理によって成形樹脂部品、封止用樹脂などから発生した有機ガス成分を除去する技術などが採用されていた。
【0004】
【特許文献1】特開平6−162859号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特定の有機物を薄く塗布して有機被膜を形成する技術は、接点負荷が微小な場合は、塗布する有機物の濃度変化に伴ってRc値の安定性が失われる問題があるばかりではなく、製造工程中に塗布工程を組み込む必要があるため、量産性に問題があった。また、脱ガス処理によって、成形樹脂部品、封止用樹脂などで発生した有機ガス成分を除去する手段は、別工程で脱ガス処理を行う必要があるため、量産性が悪化するばかりではなく、成形樹脂部品、封止用樹脂から発生する有機ガス成分を完全に除去することは不可能だった。さらに、時間の経過と共に有機ガス成分濃度は高くなり、接点の開閉動作によって有機ガス成分のブラウンパウダーが接点表面へ吸着・堆積し、安定したRc値が得られない問題があった。
【0006】
本発明は、前記の問題点に鑑みて、温度上昇、熱ストレスなどによって成形樹脂部品及び封止用樹脂から発生する有機ガス成分を、接点表面に吸着・堆積させず、低負荷条件での使用においても、安定したRc特性を示す電磁継電器の提供を目的とする。
【0007】
すなわち本発明の課題は、接点の接触障害をもたらす不導体の生成を抑制して、安定した接触特性を維持することのできる電磁継電器及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明では、電気接点の雰囲気ガスに極性基及び芳香環を持たない有機ガスを含ませる手段を有し、電気接点の表面に、その有機物の分子を吸着させることなどにより、成形樹脂部品、封止用樹脂などから発生した有害な有機ガスが接点表面に吸着し、機械的衝撃力や接点アークなどにより不導体となって接点表面に堆積することを抑制する。このように、極性基又は芳香環を持たず、絶縁破壊電圧が高く、耐アーク性の高い有機物のガスが接点部の雰囲気ガスに含まれるようにする。
【0009】
すなわち、本発明の電磁継電器は、電気接点部と電磁駆動部と成形樹脂ベース部とを備える本体部が、成形樹脂カバーで覆われ、封止用樹脂により封止されてなる電磁継電器において、前記封止用樹脂には、極性基又は芳香環を持たず、25℃における蒸気圧が1.3〜13.3kPaであり、沸点60〜120℃の有機物が1〜3%の重量比率で含まれることを特徴とする。
【0010】
また本発明の他の電磁継電器は、電気接点部と電磁駆動部と成形樹脂ベース部とを備える本体部が成形樹脂カバーで覆われ、封止用樹脂により封止されてなる電磁継電器において、前記本体部と前記成形樹脂カバーとで形成される密閉空間内に、極性基又は芳香環を含まず、25℃における蒸気圧が1.3〜13.3kPaであり、沸点60〜120℃の有機物が密封されてなることを特徴とする。
【0011】
前記封止用樹脂は熱硬化性樹脂であるとよい。
【0012】
前記有機物は、ノルボルネン又はその誘導体であるとよい。
【0013】
本発明の電磁継電器の製造方法は、成形樹脂ベース部に電気接点部及び電磁駆動部を配して本体部を作製する工程と、前記本体部を覆う成形樹脂カバーを作製する工程と、極性基又は芳香環を含まず、25℃における蒸気圧が1.3〜13.3kPaであり、沸点60〜120℃の有機物を1〜3%の重量比率で混練して封止用樹脂を作製する工程と、前記本体部を成形樹脂カバーで覆い前記封止用樹脂を用いて封止する工程とを有することを特徴とする。
【0014】
前記製造方法での前記封止用樹脂は熱硬化性樹脂であるとよい。
【0015】
前記製造方法での前記有機物はノルボルネン又はその誘導体であるとよい。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、成形樹脂部品及び封止用樹脂から発生する有機ガス成分を接点表面に吸着・堆積させず、不導体の生成がなく、安定した接点接触抵抗Rcを有する電磁継電器及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を図1に基づいて説明する。
【0018】
(実施の形態1)図1は本発明の電磁継電器を示し、図1(a)は分解斜視図、図1(b)は側面側から見た中央断面図であり、11は成形樹脂カバー、12は本体部であり、成形樹脂ベース部15、電磁駆動部、電気接点部等からなる。また13は封止用樹脂、14は密閉空間部を示す。
【0019】
本実施の形態1においては、成形樹脂カバー11、成形樹脂ベース部15、封止用樹脂13には公知の樹脂を用い、密閉空間部14に、極性基及び芳香環を含まず、25℃における蒸気圧が1.3〜13.3kPaであり、沸点60〜120℃の有機物を密閉する。例えば、その有機物として、化1に示すノルボルネンが挙げられる。ノルボルネンは、蒸気圧が31.2kPa(65℃)の特性を持つ有機物であり、またノルボルネンの1つの水素を置換基に換えたノルボルネン誘導体を使用することもできる。
【0020】
【化1】

【0021】
ノルボルネンを始めとして、本発明に係る有機物は、成形樹脂部品(成形樹脂ベース部12及び成形樹脂カバー11)及び封止用樹脂から発生する有機ガス成分と比べて、蒸気圧が高く気化しやすい。そのため、本発明によって作製した電磁継電器において、封止用樹脂によって封止密閉された密閉空間部14内では、その有機物のガス成分の拡散が支配的となる。その結果、成形樹脂部品と封止用樹脂13からの有害有機ガス成分の発生を抑制し、接点表面への有害有機ガス成分の吸着・堆積を抑えることができる。
【0022】
このとき用いる有機物の25℃での蒸気圧が1.3kPa未満では、接点接触抵抗の増加を抑制する作用が明らかでなく、13.3kPa以上では封止加熱あるいはリフロー工程において全圧力が高くなりすぎるので好ましくない。また、沸点120℃を超える有機物からは接点接触抵抗の増加を抑制する作用を持つものを見出すことができず、沸点が60℃未満の有機物では蒸気圧が高すぎて、全圧力の制御が困難である。このように、ノルボルネン又はその誘導体などの有機物を用いて電気接点部に有害有機ガス成分が吸着することを抑制して、接点接触抵抗の増加を抑制することができる。
【0023】
また、封止用樹脂としては、密閉性を確保するために、熱硬化性樹脂を用いるのがよい。
【0024】
(実施の形態2)本発明の実施の形態2では、低負荷領域での使用においても、安定した接点接触抵抗値を示す電磁継電器及びその製造方法について説明する。図1を参照して、電気接点部、電磁駆動部、成形樹脂ベース部15を含む本体部12を、成形樹脂カバー11で覆った後、本体部12と成形樹脂カバー11が形成する空間を密閉して、密閉空間部14を形成するように、封止用樹脂13で封止する。その封止用樹脂13には、極性基及び芳香環を含まず、25℃における蒸気圧が1.3〜13.3kPaであり、沸点が60〜120℃の有機物を1〜3%の重量比率で、予め、主成分樹脂に混練して用いる。このとき、有機物の重量比率が1%未満の場合には、接点接触抵抗Rcの増加を抑制する効果が十分でなく、3%を超える場合には、混練する際に、均一な分布を得るのが難しく好ましくない。
【0025】
本実施の形態2では、封止用樹脂によって封止密閉された空間内では、極性基及び芳香環を含まない有機物のガス成分を、より効率的に拡散させるために、封止用樹脂は熱硬化性樹脂とする。なお本実施の形態2で用いる封止用樹脂を13を成形樹脂カバー11の内壁に塗布して用いることも可能である。
【実施例】
【0026】
以下に、本発明の実施例について、説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0027】
封止用の熱効果性樹脂にノルボルネンを1重量%混練させた封止用樹脂によって成形樹脂カバーと本体部との間の空間を密閉した図1のような電磁継電器を作製した。また、比較例として、ノルボルネンを混練しない封止用樹脂を用い従来型の電磁継電器を作製し、低負荷連続駆動試験を行ってRc値の変化を比較した。
【0028】
その試験結果を図2に示す。図2(b)に示すように、比較例である従来品(サンプル数30個)は、100M回(10回)の連続開閉動作によって、大部分のRc値が100mΩ以上を示し、本来の電磁継電器の実力を失っている。一方、本発明の電磁継電器(サンプル数26個)は、図2(a)に示すように、100M回(10回)の連続開閉動作によっても、本来の能力である100mΩ以下のRc値特性を十分満たしていることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施例に係る電磁継電器を示す斜視図であり、図1(a)は分解斜視図、図1(b)は側面側から見た中央断面図。
【図2】本発明の実施例と比較例での低負荷連続駆動試験によるRc測定結果を示し、図2(a)は実施例の場合の図、図2(b)は比較例の場合の図。
【符号の説明】
【0030】
11 成形樹脂カバー
12 本体部
13 封止用樹脂
14 密閉空間部
15 成形樹脂ベース部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気接点部と電磁駆動部と成形樹脂ベース部とを備える本体部が、成形樹脂カバーで覆われ、封止用樹脂により封止されてなる電磁継電器において、前記封止用樹脂には、極性基又は芳香環を持たず、25℃における蒸気圧が1.3〜13.3kPaであり、沸点60〜120℃の有機物が1〜3%の重量比率で含まれることを特徴とする電磁継電器。
【請求項2】
電気接点部と電磁駆動部と成形樹脂ベース部とを備える本体部が成形樹脂カバーで覆われ、封止用樹脂により封止されてなる電磁継電器において、前記本体部と前記成形樹脂カバーとで形成される密閉空間内に、極性基又は芳香環を含まず、25℃における蒸気圧が1.3〜13.3kPaであり、沸点60〜120℃の有機物が密封されてなることを特徴とする電磁継電器。
【請求項3】
前記封止用樹脂は熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項1又は2記載の電磁継電器。
【請求項4】
前記有機物は、ノルボルネン又はその誘導体であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の電磁継電器。
【請求項5】
成形樹脂ベース部に電気接点部及び電磁駆動部を配して本体部を作製する工程と、前記本体部を覆う成形樹脂カバーを作製する工程と、極性基又は芳香環を含まず、25℃における蒸気圧が1.3〜13.3kPaであり、沸点60〜120℃の有機物を1〜3%の重量比率で混練して封止用樹脂を作製する工程と、前記本体部を成形樹脂カバーで覆い前記封止用樹脂を用いて封止する工程とを有することを特徴とする電磁継電器の製造方法。
【請求項6】
前記封止用樹脂は熱硬化性樹脂であることを特徴とする請求項5記載の電磁継電器の製造方法。
【請求項7】
前記有機物はノルボルネン又はその誘導体であることを特徴とする請求項5又は6記載の電磁継電器の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−202631(P2006−202631A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−13961(P2005−13961)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【出願人】(302005204)NECトーキン岩手株式会社 (6)