説明

電線およびコイル

【課題】直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路等において損失を低減する。
【解決手段】絶縁被覆磁性材メッキ銅線(10)を複数撚るか又は撚らずに集合させる。
【効果】全面に絶縁被覆磁性材メッキ銅線(10)が配されているため、直流または低周波における抵抗を減らすことが出来る。流れる電流が作り出す磁界は絶縁被覆磁性材メッキ銅線(10)の磁性材メッキ層で遮断されて銅線部分まで入り難くなるため、高周波における近接効果による銅損の増加を抑制でき、従って、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路等での損失を低減できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線およびコイルに関し、さらに詳しくは、高周波回路、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路において損失を低減することが出来る電線およびコイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、絶縁体からなる線材を芯線とし、該芯線の周りに複数の絶縁被覆銅線の素線を撚った複合電線が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開2005−108654号公報
【特許文献2】特開平7−153328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記従来の複合電線は、近接効果による高周波抵抗を低減したものである。すなわち、通常のリッツ線では、素線の作り出す磁界がリッツ線の中心部に入り、中心部の素線での銅損を増加させる。そのため、上記従来の複合電線では、その中心部に素線を配さない構造としたものである。
しかし、上記従来の複合電線では、中心部に素線を配さないため、直流または低周波における抵抗が増える問題点がある。すなわち、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路でコイルとして用いた場合には損失が増える問題点があった。
そこで、本発明の目的は、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路において損失を低減することが出来る電線およびコイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
第1の観点では、本発明は、銅線表面に磁性材メッキ層を形成しその磁性材メッキ層の表面に絶縁被覆を形成した絶縁被覆磁性材メッキ銅線を複数本撚るか又は撚らずに集合させたことを特徴とする電線を提供する。
上記第1の観点による電線では、電線の中心部にも絶縁被覆磁性材メッキ銅線を配するため、直流または低周波における抵抗を減らすことが出来る。そして、一つの絶縁被覆磁性材メッキ銅線に流れる電流が作り出す磁界は磁性材メッキ層で遮断され、他の絶縁被覆磁性材メッキ銅線の銅線部分まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、高周波における近接効果による銅損の増加を抑制することも出来る。従って、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路での損失を低減することが出来る。
なお、絶縁被覆の外周に接着層を形成して自己融着線としてもよい。また、電線密度を上げるために、外径の異なる絶縁被覆磁性材メッキ銅線を混在させて用いてもよい。
【0005】
第2の観点では、本発明は、銅線表面に磁性材メッキ層を形成しその磁性材メッキ層の表面に絶縁被覆を形成した絶縁被覆磁性材メッキ銅線と、銅線表面に絶縁被覆を形成した絶縁被覆銅線とを、断面全面について混在させて撚るか又は撚らずに集合させたことを特徴とする電線を提供する。
上記第2の観点による電線では、電線の中心部にも絶縁被覆磁性材メッキ銅線または絶縁被覆銅線を配するため、直流または低周波における抵抗を減らすことが出来る。そして、一つの絶縁被覆磁性材メッキ銅線または絶縁被覆銅線に流れる電流が作り出す磁界は絶縁被覆磁性材メッキ銅線の磁性材メッキ層で遮断され、他の絶縁被覆磁性材メッキ銅線または絶縁被覆銅線の銅線部分まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、高周波における近接効果による銅損の増加を抑制することも出来る。従って、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路での損失を低減することが出来る。
【0006】
また、絶縁被覆磁性材メッキ銅線を電線の中心部にのみ配置する構成の場合、中心部の周りに配置する絶縁被覆銅線の数は、電線密度を細密度に配置すると、中心部の円周寸法と絶縁被覆銅線の線径との比に拘束されて自由な数を取り得ず、高周波損失が階段的変化となる。
これに対して、上記第2の観点による電線では、絶縁被覆磁性材メッキ銅線と絶縁被覆銅線とを断面全面について混在させるため、設計の自由度が大きくなり、高周波損失を連続的変化としうる。
【0007】
なお、絶縁被覆の外周に接着層を形成して自己融着線としてもよい。また、電線密度を上げるために、外径の異なる絶縁被覆磁性材メッキ銅線および絶縁被覆銅線を混在させて用いてもよい。
【0008】
第3の観点では、本発明は、前記第1の観点または前記第2の観点による電線を複数本撚るか、又は、前記第1の観点による電線と前記第2の観点による電線とを混在させて撚ったことを特徴とする電線を提供する。
上記第3の観点による電線では、前記第1の観点による電線または前記第2の観点による電線を用いるため、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路での損失を低減することが出来る。また、前記第1の観点または前記第2の観点による電線を複数撚るため、電流容量の大きな電線(断面積の大きな電線)の製造・取り扱いが容易になる。
【0009】
さらに、前記第2の観点による電線を複数本撚るか又は前記第1の観点による電線と前記第2の観点による電線とを混在させて撚った電線では、絶縁被覆磁性材メッキ銅線を分散配置することが出来るので、電流の偏りを小さく出来る。一般的に、損失は2乗関数なので、総電流が同じでも、電流の偏りが小さい方が損失を小さく出来る。
【0010】
なお、複数一次撚りしたものを複数二次撚りし、さらに二次撚りしたものを複数三次撚りするなど、高次の撚りを行ってもよい。
【0011】
第4の観点では、本発明は、前記第1の観点による電線と、絶縁被覆銅線を複数本撚るか又は撚らずに集合させた電線とを、混在させて撚ったことを特徴とする電線を提供する。
上記第4の観点による電線では、前記第1の観点による電線を用いるため、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路での損失を低減することが出来る。さらに、前記第1の観点による電線と絶縁被覆銅線を複数本一次撚りするか又は撚らずに集合させた電線とを複数撚るため、電流容量の大きな電線(断面積の大きな電線)の製造・取り扱いが容易になる。また、異種の電線を均等に分散配置することが出来る。
【0012】
さらに、前記第1の観点による電線と絶縁被覆銅線を集合させた電線とを混在させて撚るため、絶縁被覆磁性材メッキ銅線を分散配置することが出来るので、電流の偏りを小さく出来る。一般的に、損失は2乗関数なので、総電流が同じでも、電流の偏りが小さい方が損失を小さく出来る。
【0013】
なお、複数一次撚りしたものを複数二次撚りし、さらに二次撚りしたものを複数三次撚りするなど、高次の撚りを行ってもよい。
【0014】
第5の観点では、本発明は、銅線表面に磁性材メッキ層を形成しその磁性材メッキ層の表面に絶縁被覆を形成した絶縁被覆磁性材メッキ銅線と、銅線とを、混在させて撚るか又は撚らずに集合させ、その外周に絶縁被覆を配したことを特徴とする電線を提供する。
上記第5の観点による電線では、電線の中心部にも絶縁被覆磁性材メッキ銅線または銅線を配するため、直流または低周波における抵抗を減らすことが出来る。そして、一つの絶縁被覆磁性材メッキ銅線または銅線に流れる電流が作り出す磁界は磁性材メッキ層で遮断され、他の絶縁被覆磁性材メッキ銅線または銅線の銅線部分まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、高周波における近接効果による銅損の増加を抑制することも出来る。従って、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路での損失を低減することが出来る。
【0015】
また、銅線を用いるため、表面酸化があるが、表面酸化は接触抵抗の増加になり、高周波損失の改善効果がある。また、絶縁被覆銅線を用いるよりもコストを低減できる。
【0016】
また、絶縁被覆磁性材メッキ銅線と銅線とを混在させて撚った場合は、絶縁被覆磁性材メッキ銅線を分散配置することが出来るので、電流の偏りを小さく出来る。一般的に、損失は2乗関数なので、総電流が同じでも、電流の偏りが小さい方が損失を小さく出来る。
【0017】
なお、複数一次撚りしたものを複数二次撚りし、さらに二次撚りしたものを複数三次撚りするなど、高次の撚りを行ってもよい。
また、絶縁被覆の外周に接着層を設けてもよい。
【0018】
第6の観点では、本発明は、銅線表面に磁性材メッキ層を形成した磁性材メッキ銅線と、絶縁被覆銅線とを、混在させて撚るか又は撚らずに集合させ、その外周に絶縁被覆を配したことを特徴とする電線を提供する。
上記第6の観点による電線では、電線の中心部にも磁性材メッキ銅線または絶縁被覆銅線を配するため、直流または低周波における抵抗を減らすことが出来る。そして、一つの磁性材メッキ銅線または絶縁被覆銅線に流れる電流が作り出す磁界は磁性材メッキ層で遮断され、他の磁性材メッキ銅線または絶縁被覆銅線の銅線部分まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、高周波における近接効果による銅損の増加を抑制することも出来る。従って、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路での損失を低減することが出来る。
【0019】
また、磁性材メッキ銅線を用いるため、絶縁被覆磁性材メッキ銅線を用いるよりもコストを低減できる。そして、磁性材メッキ層は銅よりも固有抵抗が大きいから銅線に対し高抵抗層を形成し、さらに接触抵抗が加わって、磁性材メッキ銅線同士が接触した場合でも渦電流発生が抑えられる効果がある。
【0020】
また、磁性材メッキ銅線と絶縁被覆銅線とを混在させて撚った場合は、磁性材メッキ銅線を分散配置することが出来るので、電流の偏りを小さく出来る。一般的に、損失は2乗関数なので、総電流が同じでも、電流の偏りが小さい方が損失を小さく出来る。
【0021】
なお、複数一次撚りしたものを複数二次撚りし、さらに二次撚りしたものを複数三次撚りするなど、高次の撚りを行ってもよい。
また、絶縁被覆の外周に接着層を設けてもよい。
【0022】
第7の観点では、本発明は、銅線表面に磁性材メッキ層を形成した磁性材メッキ銅線と、銅線とを、混在させて撚るか又は撚らずに集合させ、その外周に絶縁被覆を配したことを特徴とする電線を提供する。
上記第7の観点による電線では、電線の中心部にも磁性材メッキ銅線または銅線を配するため、直流または低周波における抵抗を減らすことが出来る。そして、一つの磁性材メッキ銅線または銅線に流れる電流が作り出す磁界は磁性材メッキ層で遮断され、他の磁性材メッキ銅線または銅線の銅線部分まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、高周波における近接効果による銅損の増加を抑制することも出来る。従って、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路での損失を低減することが出来る。
【0023】
また、銅線を用いるため、表面酸化があるが、表面酸化は接触抵抗の増加になり、また、磁性材メッキ層も銅よりも固有抵抗が大きいから銅線に対し高抵抗層を形成し、さらに接触抵抗も加わるので渦電流発生が抑えられ、高周波損失の改善効果がある。また、磁性材メッキ銅線および銅線を用いるため、絶縁被覆磁性材メッキ銅線や絶縁被覆銅線を用いるよりもコストを低減できる。
【0024】
また、磁性材メッキ銅線と銅線とを混在させて撚った場合は、磁性材メッキ銅線を分散配置することが出来るので、電流の偏りを小さく出来る。一般的に、損失は2乗関数なので、総電流が同じでも、電流の偏りが小さい方が損失を小さく出来る。
【0025】
なお、複数一次撚りしたものを複数二次撚りし、さらに二次撚りしたものを複数三次撚りするなど、高次の撚りを行ってもよい。
また、絶縁被覆の外周に接着層を設けてもよい。
【0026】
第8の観点では、本発明は、前記第7の観点による電線において、半径方向に隣り合っている線の種類がなるべく異なるように前記磁性材メッキ銅線と前記銅線とを配したことを特徴とする電線を提供する。
電線では、中心からの距離に比例した磁界が電線断面に沿って円形に発生するから、渦電流の電界は半径方向ベクトルも持つ。
そこで、上記第8の観点による電線では、電線の半径方向の配列を磁性材メッキ銅線と銅線の互い違いとすることにより、渦電流に対する抵抗を平均化し、電流の偏りを小さくしている。一般的に、損失は2乗関数なので、総電流が同じでも、電流の偏りが小さい方が損失を小さく出来る。また、磁性材メッキの磁界効果によって近接効果を減少させて損失を低減させ且つコスト低減を行うことが出来る。
【0027】
第9の観点では、本発明は、銅線表面に磁性材メッキ層を形成しその磁性材メッキ層の表面に焼き付けしない絶縁被覆を形成した絶縁被覆磁性材メッキ銅線を複数本撚るか又は撚らずに集合させ、その外周に絶縁被覆を配したことを特徴とする電線を提供する。
上記構成において、焼き付けしない絶縁被覆とは、液状絶縁体(例えばポリビニールブチラールとフェノール樹脂を約13:4で混合しアルコール系溶剤で溶融した液体)を塗布し、加熱乾燥して作られた絶縁皮膜である。
磁性材メッキ層は固有抵抗が高いので、渦電流を発生させる起電力は低く、焼き付けしない補助的絶縁被覆でも渦電流損を充分に低減することが出来る。外部に対する絶縁は、外周に絶縁被覆があるので支障がない。
そこで、上記第9の観点による電線では、焼き付けしない絶縁被覆を用いた。これにより、大がかりな設備を必要とする焼付け工程が不要になる。
【0028】
第10の観点では、本発明は、前記第1から前記第4のいずれかの観点による電線の外周に絶縁被覆を配したことを特徴とする電線を提供する。
上記第10の観点による電線では、外周に絶縁被覆があるので、外部に対する絶縁性を向上することが出来る。また、素線を保護することが出来る。
なお、絶縁被覆の外周に接着層を設けてもよい。
【0029】
第11の観点では、本発明は、前記第1から前記第10のいずれかの観点による電線を巻回してなるコイルを提供する。
上記第11の観点によるコイルでは、前記第1から第10の観点による電線を用いているため、高周波回路、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路において損失を低減することが出来る。
【発明の効果】
【0030】
本発明の電線およびコイルによれば、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路において損失を低減することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0032】
図1は、実施例1に係る電線101を示す断面図である。
この電線101は、絶縁被覆磁性材メッキ銅線10を複数本撚るか又は撚らずに集合させた構造である。
【0033】
図2は、絶縁被覆磁性材メッキ銅線10の断面図である。
絶縁被覆磁性材メッキ銅線10は、銅線1の表面に磁性材メッキ層2を形成し、その磁性材メッキ層2の表面に絶縁被覆3を形成したものである。
【0034】
磁性材メッキ層2は、例えば鉄メッキ層やニッケルメッキ層のような強磁性材メッキ層である。磁性材メッキ層2の厚さは、例えば1μmである。
【0035】
絶縁被覆3は、例えば塩化ビニール系樹脂やフッ素系樹脂による被覆や、エナメル材焼付けや、ポリビニールブチラールとフェノール樹脂を約13:4で混合しアルコール系溶剤で溶融した液体を塗布し加熱乾燥し焼き付けせずに作られた絶縁皮膜である。絶縁被覆3の厚さは、例えば5μmである。
【0036】
図3は、絶縁被覆磁性材メッキ銅線10の銅線1の中心から半径方向の距離に対する、絶縁被覆磁性材メッキ銅線10を流れる電流が作る磁界の強さの変化を示すグラフである。
磁界が、磁性材メッキ層2で減衰することが判る。
【0037】
実施例1の電線101によれば、電線101の全面に絶縁被覆磁性材メッキ銅線10を配するため、直流または低周波における抵抗を減らすことが出来る。そして、一つの絶縁被覆磁性材メッキ銅線10に流れる電流が作り出す磁界は磁性材メッキ層2で遮断され、他の絶縁被覆磁性材メッキ銅線10の銅線1の部分まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、高周波における近接効果による銅損の増加を抑制することも出来る。従って、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路での損失を低減することが出来る。
【0038】
なお、絶縁被覆3の外周に接着層を形成して自己融着線としてもよい。また、電線密度を上げるために、外径の異なる絶縁被覆磁性材メッキ銅線10を混在させて用いてもよい。
【実施例2】
【0039】
図4は、実施例2に係る複合電線102を示す断面図である。
この複合電線102は、絶縁被覆磁性材メッキ銅線10と絶縁被覆銅線20とを断面全面について混在させて撚るか又は撚らずに集合させた構造である。
絶縁被覆磁性材メッキ銅線10と絶縁被覆銅線20とは、なるべく半径方向に交互に並ぶように、配されている。
【0040】
図5は、絶縁被覆銅線20の断面図である。
絶縁被覆銅線20は、銅線1の表面に絶縁被覆3を形成したものである。
【0041】
実施例2の複合電線102によれば、複合電線102の全面に絶縁被覆磁性材メッキ銅線10または絶縁被覆銅線20を配するため、直流または低周波における抵抗を減らすことが出来る。そして、一つの絶縁被覆磁性材メッキ銅線10または絶縁被覆電線20に流れる電流が作り出す磁界は絶縁被覆磁性材メッキ銅線10の磁性材メッキ層2で遮断され、他の絶縁被覆磁性材メッキ銅線10または絶縁被覆銅線20の銅線1の部分まで入り難くなるため(入っても小さくなるため)、高周波における近接効果による銅損の増加を抑制することも出来る。従って、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路での損失を低減することが出来る。
【0042】
また、絶縁被覆磁性材メッキ銅線10を複合電線102の中心部にのみ配置する構成の場合、中心部の周りに配置する絶縁被覆銅線20の数は、電線密度を細密度に配置すると、中心部の円周寸法と絶縁被覆銅線20の線径との比に拘束されて自由な数を取り得ず、高周波損失が階段的変化となる。
これに対して、実施例2の複合電線102では、絶縁被覆磁性材メッキ銅線10と絶縁被覆銅線20とを断面全面について混在させるため、設計の自由度が大きくなり、高周波損失を連続的変化としうる。
【0043】
また、複合電線102の半径方向の配列を絶縁被覆磁性材メッキ銅線10と絶縁被覆銅線20の互い違いとし、渦電流に対する抵抗を平均化し、電流の偏りを小さくしているため、損失を小さく出来る。また、磁性材メッキ層2の磁界効果によって近接効果を減少させて損失を低減させ且つコスト低減を行うことが出来る。
【0044】
なお、絶縁被覆3の外周に接着層を形成して自己融着線としてもよい。また、電線密度を上げるために、外径の異なる絶縁被覆磁性材メッキ銅線10および絶縁被覆銅線20を混在させて用いてもよい。
【実施例3】
【0045】
図6は、実施例3に係る複合電線102’を示す断面図である。
この複合電線102’は、実施例1の電線101を芯線とし、その電線101の周りに絶縁被覆磁性材メッキ銅線10と絶縁被覆銅線20とを混在させて撚るか又は撚らずに集合させた構造である。
なお、電線密度を上げるために、外径の異なる絶縁被覆磁性材メッキ銅線10および絶縁被覆銅線20を混在させている。
【0046】
実施例3の複合電線102’によれば、実施例2の複合電線102と同様の効果が得られる。
【実施例4】
【0047】
図7は、実施例4に係るリッツ線103を示す断面図である。
このリッツ線103は、実施例1の電線101を複数本撚った構造である。
【0048】
実施例4のリッツ線103によれば、実施例1の電線101と同様の効果が得られる。
【実施例5】
【0049】
図8は、実施例5に係るリッツ線104を示す断面図である。
このリッツ線104は、実施例2の複合電線102を複数本撚った構造である。
【0050】
実施例5のリッツ線104によれば、実施例2の複合電線102と同様の効果が得られる。
【実施例6】
【0051】
図9は、実施例6に係るリッツ線105を示す断面図である。
このリッツ線105は、実施例1の電線101と実施例2の複合電線102とを複数本撚った構造である。
【0052】
実施例6のリッツ線105によれば、実施例2の複合電線102と同様の効果が得られる。
【実施例7】
【0053】
図10は、実施例7に係るリッツ線106を示す断面図である。
このリッツ線106は、実施例1の電線101と、複数本の絶縁被覆銅線20を撚るか又は撚らずに集合させた電線200とを、混在させて撚った構造である。
【0054】
図11は、電線200の断面図である。
【0055】
実施例7のリッツ線106によれば、実施例2の複合電線102と同様の効果が得られる。
【実施例8】
【0056】
図12は、実施例8に係る絶縁複合電線107を示す断面図である。
この絶縁複合電線107は、絶縁被覆磁性材メッキ銅線10と銅線1とを断面全面について混在させて撚るか又は撚らずに集合させ、その外周に絶縁被覆50を形成した構造である。
絶縁被覆磁性材メッキ銅線10と銅線1とは、なるべく半径方向に交互に並ぶように、配されている。
【0057】
絶縁被覆50は、例えば塩化ビニール系樹脂やフッ素系樹脂による被覆である。絶縁被覆50の厚さは、例えば1mmである。
【0058】
実施例8の絶縁複合電線107によれば、実施例2の複合電線102と同様の効果が得られる。
【実施例9】
【0059】
図13は、実施例9に係る絶縁複合電線108を示す断面図である。
この絶縁複合電線108は、磁性材メッキ銅線30と絶縁被覆銅線20とを断面全面について混在させて撚るか又は撚らずに集合させ、その外周に絶縁被覆50を形成した構造である。
磁性材メッキ銅線30と絶縁被覆銅線20とは、なるべく半径方向に交互に並ぶように、配されている。
【0060】
図14は、磁性材メッキ銅線30の断面図である。
磁性材メッキ銅線30は、銅線1の表面に磁性材メッキ層2を形成したものである。
【0061】
実施例9の絶縁複合電線108によれば、実施例2の複合電線102と同様の効果が得られる。
【実施例10】
【0062】
図15は、実施例10に係る絶縁複合電線109を示す断面図である。
この絶縁複合電線109は、磁性材メッキ銅線30と銅線1とを断面全面について混在させて撚るか又は撚らずに集合させ、その外周に絶縁被覆50を形成した構造である。
磁性材メッキ銅線30と銅線1とは、なるべく半径方向に交互に並ぶように、配されている。
【0063】
実施例10の絶縁複合電線109によれば、実施例2の複合電線102と同様の効果が得られる。
【実施例11】
【0064】
図16は、実施例11に係る絶縁電線110を示す断面図である。
この絶縁電線110は、複数の絶縁被覆磁性材メッキ銅線10’を撚るか又は撚らずに集合させ、その外周に絶縁被覆50を形成した構造である。
磁性材メッキ銅線30と銅線1とは、なるべく半径方向に交互に並ぶように、配されている。
【0065】
図17は、絶縁被覆磁性材メッキ銅線10’の断面図である。
絶縁被覆磁性材メッキ銅線10’は、銅線1の表面に磁性材メッキ層2を形成し、磁性材メッキ層2の外周に焼き付けしない絶縁被覆3’を形成したものである。
【0066】
焼き付けしない絶縁被覆3’とは、液状絶縁体(例えばポリビニールブチラールとフェノール樹脂を約13:4で混合しアルコール系溶剤で溶融した液体)を塗布し、加熱乾燥し、焼き付けせずに作られた絶縁皮膜である。
【0067】
実施例11の絶縁電線110によれば、実施例1の電線101と同様の効果が得られる。
【実施例12】
【0068】
図18は、実施例12に係る絶縁電線111を示す断面図である。
この絶縁電線111は、実施例1の電線101の外周に絶縁被覆50を形成した構造である。
【0069】
実施例12の絶縁電線111によれば、実施例1の電線101と同様の効果が得られる。
【実施例13】
【0070】
図19は、実施例13に係る絶縁複合電線112を示す断面図である。
この絶縁複合電線112は、実施例2の複合電線102の外周に絶縁被覆50を形成した構造である。
【0071】
実施例13の絶縁複合電線112によれば、実施例2の複合電線102と同様の効果が得られる。
【実施例14】
【0072】
図20は、実施例14に係る絶縁リッツ線113を示す断面図である。
この絶縁リッツ線113は、実施例4のリッツ線103の外周に絶縁被覆50を形成した構造である。
【0073】
実施例14の絶縁リッツ線113によれば、実施例1の電線101と同様の効果が得られる。
【実施例15】
【0074】
図21は、実施例15に係る絶縁リッツ線114を示す断面図である。
この絶縁リッツ線114は、実施例5のリッツ線104の外周に絶縁被覆50を形成した構造である。
【0075】
実施例15の絶縁リッツ線114によれば、実施例2の複合電線102と同様の効果が得られる。
【実施例16】
【0076】
図22は、実施例16に係る絶縁リッツ線115を示す断面図である。
この絶縁リッツ線115は、実施例6のリッツ線105の外周に絶縁被覆50を形成した構造である。
【0077】
実施例16の絶縁リッツ線115によれば、実施例2の複合電線102と同様の効果が得られる。
【実施例17】
【0078】
図23は、実施例17に係る絶縁リッツ線116を示す断面図である。
この絶縁リッツ線116は、実施例7のリッツ線106の外周に絶縁被覆50を形成した構造である。
【0079】
実施例17の絶縁リッツ線116によれば、実施例2の複合電線102と同様の効果が得られる。
【実施例18】
【0080】
実施例1〜17の電線をソレノイド状または渦巻き状に巻回し、コイルとして用いる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の電線およびコイルは、直流重畳高周波回路、低周波重畳高周波回路または周波数が変動する高周波回路において好適に使用できる。具体例としては、電力伝送電気回路や電源回路における空芯または有磁心のコイルやトランス、インダクター,TV用偏向ヨーク、IHヒーターコイルやモーターなどに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】実施例1に係る電線を示す断面図である。
【図2】実施例1に係る絶縁被覆磁性材メッキ銅線を示す断面図である。
【図3】絶縁被覆磁性材メッキ銅線の作る磁界の強さの変化を示すグラフである。
【図4】実施例2に係る複合電線を示す断面図である。
【図5】実施例2に係る絶縁被覆銅線を示す断面図である。
【図6】実施例3に係る複合電線を示す断面図である。
【図7】実施例4に係るリッツ線を示す断面図である。
【図8】実施例5に係るリッツ線を示す断面図である。
【図9】実施例6に係るリッツ線を示す断面図である。
【図10】実施例7に係るリッツ線を示す断面図である。
【図11】実施例7に係る電線を示す断面図である。
【図12】実施例8に係る絶縁複合電線を示す断面図である。
【図13】実施例9に係る絶縁複合電線を示す断面図である。
【図14】実施例9に係る磁性材メッキ銅線を示す断面図である。
【図15】実施例10に係る絶縁複合電線を示す断面図である。
【図16】実施例11に係る絶縁電線を示す断面図である。
【図17】実施例11に係る絶縁被覆磁性材メッキ銅線を示す断面図である。
【図18】実施例12に係る絶縁電線を示す断面図である。
【図19】実施例13に係る絶縁複合電線を示す断面図である。
【図20】実施例14に係る絶縁リッツ線を示す断面図である。
【図21】実施例15に係る絶縁リッツ線を示す断面図である。
【図22】実施例16に係る絶縁リッツ線を示す断面図である。
【図23】実施例17に係る絶縁リッツ線を示す断面図である。
【符号の説明】
【0083】
1 銅線
2 磁性材メッキ層
3,50 絶縁被覆
10,10’ 絶縁被覆磁性材メッキ銅線
20 絶縁被覆銅線
30 磁性材メッキ銅線
101,200 電線
102,102’ 複合電線
103〜106 リッツ線
107〜109 絶縁複合電線
110,111 絶縁電線
112 絶縁複合電線
113〜116 絶縁リッツ線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅線表面に磁性メッキ層を形成しその磁性メッキ層の表面に絶縁被覆を形成した絶縁被覆磁性材メッキ銅線を複数本撚るか又は撚らずに集合させたことを特徴とする電線。
【請求項2】
銅線表面に磁性メッキ層を形成しその磁性メッキ層の表面に絶縁被覆を形成した絶縁被覆磁性材メッキ銅線と、銅線表面に絶縁被覆を形成した絶縁被覆銅線とを、断面全面について混在させて撚るか又は撚らずに集合させたことを特徴とする電線。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の電線を複数本撚るか、又は、請求項1に記載の電線と請求項2に記載の電線とを混在させて撚ったことを特徴とする電線。
【請求項4】
請求項1に記載の電線と、絶縁被覆銅線を複数本撚るか又は撚らずに集合させた電線とを、混在させて撚ったことを特徴とする電線。
【請求項5】
銅線表面に磁性メッキ層を形成しその磁性メッキ層の表面に絶縁被覆を形成した絶縁被覆磁性材メッキ銅線と、銅線とを、混在させて撚るか又は撚らずに集合させ、その外周に絶縁被覆を配したことを特徴とする電線。
【請求項6】
銅線表面に磁性メッキ層を形成した磁性材メッキ銅線と、絶縁被覆銅線とを、混在させて撚るか又は撚らずに集合させ、その外周に絶縁被覆を配したことを特徴とする電線。
【請求項7】
銅線表面に磁性メッキ層を形成した磁性材メッキ銅線と、銅線とを、混在させて撚るか又は撚らずに集合させ、その外周に絶縁被覆を配したことを特徴とする電線。
【請求項8】
請求項7に記載の電線において、半径方向に隣り合っている線の種類がなるべく異なるように前記磁性材メッキ銅線と前記銅線とを配したことを特徴とする電線。
【請求項9】
銅線表面に磁性メッキ層を形成しその磁性メッキ層の表面に焼き付けしない絶縁被覆を形成した絶縁被覆磁性材メッキ銅線を複数本撚るか又は撚らずに集合させ、その外周に絶縁被覆を配したことを特徴とする電線。
【請求項10】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の電線の外周に絶縁被覆を配したことを特徴とする電線。
【請求項11】
請求項1から請求項10のいずれかに記載の電線を巻回してなるコイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【公開番号】特開2009−277396(P2009−277396A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−125353(P2008−125353)
【出願日】平成20年5月13日(2008.5.13)
【出願人】(000003414)東京特殊電線株式会社 (173)
【Fターム(参考)】