説明

電線のマーキング方法及び装置

【課題】 マーキングする電線の走行速度を大幅に向上させることができ、しかも、マーキング不良の発生を抑止して、製品歩留まりの向上を図ることができる電線のマーキング方法を提供する。
【解決手段】 外周面にスタンプ部が突設されて駆動軸23と一体回転するマーキングローラ25と、スタンプ部に被覆電線26を押圧する押さえローラ28とを備え、回転するマーキングローラ25のスタンプ部のインクを被覆電線26の接触面に転写することで、走行する被覆電線26の外周に連続的にマーキングを実施する電線26のマーキング方法であって、押さえローラ28は、その中心に一体的に設けられた支持軸41に嵌合する転がり軸受43,44により回転自在に支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆電線の表面に文字や記号等のマークを付ける電線のマーキング方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
導体の周囲を絶縁性被覆で覆った被覆電線1では、一般的に、図7に示すように、被覆外周面に、長さ方向に一定の間隔で、その電線の識別標識となる文字列等2を印刷することが行われる。
この文字列等2は、文字や記号や図形等を組み合わせたもので、被覆電線1の外径Dに応じて、印刷する文字等の大きさLが設定される。
【0003】
これまで、このように被覆電線1の被覆外周面に文字列等2を印刷する電線のマーキング方法としては、インクジェット式記録ヘッドを用いて非接触で印字するインクジェット方式によるもの(例えば、特許文献1参照)や、レーザマーカから出射されるレーザ光を被覆外周面に照射して印字するレーザ方式によるもの(例えば、特許文献2参照)や、外周面にマーキング用のスタンプ部が設けられたマーキングローラを被覆電線の外周面に押し当てて、スタンプ部のインクを被覆電線に転写するマーキングローラ方式のもの(例えば、特許文献3参照)等が提案されている。
【0004】
図8は、マーキングローラ方式により被覆電線1の被覆外周面に文字列等2を印刷する装置例を示したものである。
この装置4は、長手方向に搬送される被覆電線1を上下から挟持する下側のマーキングローラ5と、上側の押さえローラ7とを備えている。マーキングローラ5の表面には、その周方向に間欠的に凹部9が並設され、マーキングローラ5の下半部がインク収納容器11内のインク13に浸されている。押さえローラ7は、図示略の保持部材により上記電線1の表面に圧接する位置に保持されており、この押さえローラ7により電線1がマーキングローラ5の外周面に押付けられながら電線1がその長手方向に搬送されることにより、この電線1と連動して両ローラ5,7が互いに逆向きに回転するようになっている。
【0005】
この装置4によれば、上記マーキングローラ5の回転に伴い、インク収納容器11内のインク13が汲み上げられ、そのうちマーキングローラ5において凹部9以外の表面に付着しているインク13がへら15で掻き落され、凹部9内に侵入したインク13のみがこれと圧接する電線1の表面に間欠的に付着する。すなわち、点線状のマークが電線1の表面に付されることとなる。
【0006】
【特許文献1】特開2004−342404号公報
【特許文献2】特開2001−135174号公報
【特許文献3】特開平10−040749号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、生産性の向上を図ることから、マーキングする被覆電線の走行速度を高めることが要求されている。
しかし、従来のインクジェット方式やレーザ方式によるマーキング方法では、一般に、被覆電線の走行速度は10m/min程度が限界であり、それ以上の速度向上は、文字のかすれや、欠けといった印字欠陥を招く虞があった。
特に、American Wire Gage(以下、AWGと呼ぶ)の規格No.28よりも細径の電線では、電線の走行方向と直交する方向にマーキングローラがずれると、印字する文字の位置がずれて文字列が乱れたり、文字の欠けにより、マーキング不良による欠陥品となってしまい、製品歩留まりを低下させる原因となった。
【0008】
本発明の目的は、従来のマーキングローラ方式によるマーキング装置と比較して、電線の走行速度を大幅に向上させて生産性の向上を図ることができ、しかも、マーキング不良の発生を抑止して、製品歩留まりの向上を図ることができる電線のマーキング方法及び装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明に係る請求項1記載の電線のマーキング方法は、外周面にマーキング用のスタンプ部が設けられて回転するマーキングローラと、前記スタンプ部に被覆電線を押圧する押さえローラとを備え、前記マーキングローラと前記押さえローラとで前記被覆電線を挟んで前記スタンプ部にインクを供給して前記マーキングローラを回転して被覆電線の外周に連続的にマーキングを実施する電線のマーキング方法であって、
前記押さえローラの中心に支持軸を一体的に設け、前記支持軸はそれに嵌合する転がり軸受により回転自在に支持され、前記転がり軸受の収容部には、前記転がり軸受に軸方向の付勢力を付加する板ばねを装備し、
且つ、前記押さえローラの前記マーキングローラの角部と対向する部位は、面取りしたことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る請求項2記載の電線のマーキング装置は、外周面にマーキング用のスタンプ部が設けられて回転するマーキングローラと、前記スタンプ部に被覆電線を押圧する押さえローラと、前記スタンプ部にインクを供給するインク供給手段とを備え、前記マーキングローラを回転して被覆電線の外周に連続的にマーキングを実施する電線のマーキング装置であって、
前記押さえローラの中心に支持軸が一体的に設けられ、前記支持軸はそれに嵌合する転がり軸受により回転自在に支持され、前記転がり軸受の収容部には、前記転がり軸受に軸方向の付勢力を付加する板ばねを装備し、
且つ、前記押さえローラの前記マーキングローラの角部と対向する部位は、面取りしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の請求項1及び2に記載の電線のマーキング方法及び装置では、押さえローラが被覆電線の走行位置を規制するため、電線自体が走行時に走行方向と直交する方向にブレることを抑止でき、これにより、電線の走行速度を高めても、電線自体の走行時のブレに起因したマーキング不良の発生を防止して、製品歩留まりを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に係る電線のマーキング方法及び装置の好適な実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明に係る電線のマーキング方法を実施するマーキング装置の一実施形態の正面図、図2は図1に示したマーキング装置の側面図、図3は図1に示したマーキング装置の要部の拡大図、図4は図3に示した要部の縦断面図、図5は図4のB部の拡大図、図6は押さえローラの外周部の面取り構造を示す拡大図である。
【0013】
この一実施の形態のマーキング装置21は、図1及び図2に示すように、外周面にマーキング用のスタンプ部が突設されて駆動軸23と一体回転する略円板状のマーキングローラ25と、マーキングローラ25のスタンプ部に被覆電線26を押圧する略円板状の押さえローラ28と、マーキングローラ25と押さえローラ28とを所定の位置関係に支持する装置枠体29と、装置枠体29に支持されたマーキングローラ25のスタンプ部に適量のインクを塗布するインク供給手段31とを備えており、マーキングローラ25を回転駆動してスタンプ部のインクを被覆電線26の接触面に転写することで、走行する電線26の外周に連続的に文字列2(図7参照)等のマーキングを実施する。
【0014】
マーキングローラ25と一体の駆動軸23は、図4に示すように、軸方向に離間した2箇所に嵌合した一対の転がり軸受33,34により回転自在に支持されると共に、不図示の回転駆動機構から伝達される回転力により回転駆動される。
一対の転がり軸受33,34は、その外輪が、装置枠体29に固定されたスリーブ36に圧入されて支持されている。
【0015】
駆動軸23の長さと、駆動軸23を支持する一対の転がり軸受33,34間のスパンS3とを、一定以上の大きさに選定することで、駆動軸23の軸芯の位置決め精度を高めることができ、これによって、マーキングローラ25の回転時のスタンプ部のブレを抑止している。
【0016】
押さえローラ28は、外周面の幅方向中央に被覆電線26が嵌合するガイド溝28aを有しており、このガイド溝28aにより被覆電線26のローラ軸方向(電線の走行方向に直交する方向)への移動を規制する。
本実施の形態の場合、押さえローラ28には、マーキングローラ25の場合と同様に、その中心に支持軸41が一体的に設けられている。
【0017】
本実施の形態の場合、押さえローラ28は、図4に示すように、その中心に一体的に設けられた支持軸41に嵌合する一対の転がり軸受43,44により回転自在に支持される。
一対の転がり軸受43,44は、その外輪が、図4に示すように、ローラ間隔調整機構45を介して装置枠体29に連結されたスリーブ46に圧入されて支持されている。
【0018】
駆動軸23の場合と同様に、支持軸41の長さと、支持軸41を支持する一対の転がり軸受43,44間のスパンS4とを、一定以上の大きさに選定することで、支持軸41の軸芯の位置決め精度を高めることができ、これによって、押さえローラ28のブレを抑止し、無調心で高精度な位置決めを可能にしている。
【0019】
ローラ間隔調整機構45は、スリーブ46に固定され前記スリーブ46をマーキングローラ25に向かって進退可能(図4では上下に移動可能)に構成されていて、マーキングローラ25と押さえローラ28との間の間隔を調整できる。なお、ローラ間隔調整機構45は、不図示のエアシリンダにより進退駆動されるようになっており、エアシリンダに供給される空気圧により、スリーブ46をマーキングローラ25側に付勢する。
【0020】
本実施の形態の場合、スリーブ36,46の後端側に形成される転がり軸受34,44用の収容部36a,46aには、図5に示すように、転がり軸受34,44の一部(外輪)に軸方向の付勢力を加えてこれらの転がり軸受34,44の軸方向の移動を規制する板ばね57が装備されている。
この板ばね57は、転がり軸受34,44における内・外輪間の軸方向の遊びをとって、軸方向の位置決め精度を極限まで向上させる。これによって、押さえローラ28の位置精度(軸方向)を±0.05mmとすることができる。
【0021】
また、本実施の形態の場合、図6に示すように、押さえローラ28の、マーキングローラ25の周縁部となる角部25aと対向する部位は、面取り59が施されている。
【0022】
インク供給手段31は、図1及び図2に示すように、マーキングローラ25の下方の位置でインクを貯留したインク壺61と、マーキングローラ25の回転に連動して回転されてインク壺61内のインクを掻き上げてマーキングローラ25のスタンプ部にインクを塗布するインク掻き上げローラ62と、インク掻き上げローラ62を回転駆動するモータ63と、先端をマーキングローラ25のスタンプ部に接触させることでスタンプ部に塗布されている余分なインクを掻き落としてスタンプ部におけるインク塗布量を適正値に調整するインク塗布量調整手段65,66とを備える。
【0023】
以上に説明したマーキング装置21では、マーキングローラ25を回転してスタンプ部のインクを被覆電線26の接触面に転写することで、走行する被覆電線26の外周に連続的にマーキングを実施する。そして、押さえローラ28は転がり軸受34,44の軸方向の遊びが板ばね57によって規制されて、その軸方向の位置精度が極限まで高められている。
【0024】
またマーキング装置21によるマーキング方法では、被覆電線26をマーキングローラ25に押圧する押さえローラ28がガイド溝28aによって被覆電線26の走行位置を規制するため、走行する電線26自体が走行方向と直交する方向にブレることを抑止でき、これにより、電線26の走行速度を高めても、電線26自体の走行時のブレに起因したマーキング不良の発生を防止して、製品歩留まりを向上させることができる。
しかも、押さえローラ28を、支持軸41に嵌合する一対の転がり軸受43,44により回転自在に支持したことで、比較例として後述する押さえローラ内部に一対の転がり軸受を配置したマーキングローラ方式(図9参照)の場合と比較して、押さえローラ28を支持する一対の転がり軸受43,44間のスパンS4を大きく設定できる。これにより、押さえローラ28の軸芯の位置決め精度が高められるため、電線26の走行速度の更なる高速化を図っても押さえローラ28にブレが生じ難くなる。
【0025】
従って、押さえローラ内部に一対の転がり軸受を配置したマーキングローラ方式によるマーキング装置と比較して、走行する電線26が走行中に押さえローラ28の軸芯のブレにより走行方向と直交する方向に位置ずれすることが防止され、押さえローラ28の軸芯のブレに起因したマーキング不良の発生が抑止されるため、電線26の走行速度を更に大幅に向上させて生産性の向上を図ることができ、しかも、マーキング不良の発生を抑止して、製品歩留まりの向上を図ることができる。
本願発明者がAWGのNo.30の電線へのマーキングを試行したところ、電線の走行速度を400m/min程度まで高速化しても、マーキング不良が発生せず、大幅な速度向上と、製品歩留まりの向上が確認できた。
【0026】
更に、本実施の形態の電線のマーキング方法及び装置では、押さえローラ28は、マーキングローラ25の角部25aと対向する部位を面取り59したことで、マーキングローラ25の角部25aにはみ出るように付着したインクが押さえローラ28の対向面に付着し難くなる。したがって、インクの付着による押さえローラ28の汚損や、汚損した押さえローラ28による汚損等の二次的被害の発生を抑止でき、これによっても製品歩留まりの向上を図ることができる。
【0027】
図9は、比較例として使用したマーキング装置である。
このマーキング装置74は、マーキングローラ77と一体の駆動軸75が、軸方向に離間した2箇所に嵌合した転がり軸受71,72により回転自在に支持されると共に、軸受71,72間のスパンS1が、一定以上の大きさに設定されて、駆動軸75の軸芯の位置決め精度を高めている。
一方、押さえローラ79は、中心部を貫通した軸挿通穴79bの略両端部に、転がり軸受84,85が装着されており、これらの転がり軸受84,85が駆動軸75と平行に装備された支持軸76に嵌合することにより、回転自在に支持されている。
一対の転がり軸受84,85間のスパンS2を稼ぐために、押さえローラ79の幅寸法W2は、マーキングローラ77の幅寸法W1よりも大きく設定してあるが、寸法上の制約から、軸受84,85には、軸受の軸方向の移動を規制する板ばねは装備していない。
【0028】
このマーキング装置を用いてマーキングを行ったところ、電線の走行速度の高速化を図ったとき、本願発明者等の研究によれば、例えば、被覆外径Dが0.32mmとなるAWG28の電線の場合、押さえローラ79の幅方向の位置ずれが0.25mm以上になると、文字欠けによるマーキング不良が発生することが判明した。そして、このマーキング装置74の場合は、押さえローラ79の幅方向の位置ずれを0.25mm以下に抑えようとすると、電線の走行速度は40m/min程度が限界となり、それ以上の高速化ができなことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明に係る電線のマーキング方法を実施するマーキング装置の一実施の形態の正面図である。
【図2】図1に示したマーキング装置の側面図である。
【図3】図1に示したマーキング装置の要部の拡大図である。
【図4】図3に示した要部の縦断面図である。
【図5】図4のB部の拡大図である。
【図6】押さえローラの外周部の面取り構造を示す拡大図である。
【図7】被覆電線の被覆外周面へのマーキングの説明図である。
【図8】従来のマーキングローラ方式によるマーキング装置の構成説明図である。
【図9】比較のために使用したマーキング装置の側面図である。
【符号の説明】
【0030】
21 マーキング装置
23 駆動軸
25 マーキングローラ
25a 角部
26 被覆電線
28 押さえローラ
31 インク供給手段
33,34 転がり軸受
36 スリーブ
36a 収容部
41 支持軸
43,44 転がり軸受
45 ローラ間隔調整機構
46 スリーブ
46a 収容部
57 板ばね
59 面取り
61 インク壺
62 インク掻き上げローラ
63 モータ
65,66 インク塗布量調整手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面にマーキング用のスタンプ部が設けられて回転するマーキングローラと、前記スタンプ部に被覆電線を押圧する押さえローラとを備え、前記マーキングローラと前記押さえローラとで前記被覆電線を挟んで前記スタンプ部にインクを供給して前記マーキングローラを回転して被覆電線の外周に連続的にマーキングを実施する電線のマーキング方法であって、
前記押さえローラの中心に支持軸を一体的に設け、前記支持軸はそれに嵌合する転がり軸受により回転自在に支持され、前記転がり軸受の収容部には、前記転がり軸受に軸方向の付勢力を付加する板ばねを装備し、
且つ、前記押さえローラの前記マーキングローラの角部と対向する部位は、面取りしたことを特徴とする電線のマーキング方法。
【請求項2】
外周面にマーキング用のスタンプ部が設けられて回転するマーキングローラと、前記スタンプ部に被覆電線を押圧する押さえローラと、前記スタンプ部にインクを供給するインク供給手段とを備え、前記マーキングローラを回転して被覆電線の外周に連続的にマーキングを実施する電線のマーキング装置であって、
前記押さえローラの中心に支持軸が一体的に設けられ、前記支持軸はそれに嵌合する転がり軸受により回転自在に支持され、前記転がり軸受の収容部には、前記転がり軸受に軸方向の付勢力を付加する板ばねを装備し、
且つ、前記押さえローラの前記マーキングローラの角部と対向する部位は、面取りしたことを特徴とする電線のマーキング装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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