説明

電線圧接方法及びその装置

【課題】短い作業時間で正確な圧接接続を可能とし、構成もコンパクト化する。
【解決手段】電線圧接装置1は、フレーム体2の下方に、圧接刃8を上向きの状態で昇降可能としたプレス部4を、上方に治具5を備えてなり、治具5は、プレス部4の上方で圧接端子21が下向きとなるようにコネクタハウジング20を保持する第1の位置と、プレス部4の上方から退避する第2の位置とに夫々セット可能となっている。よって、治具5に第1の位置で保持されるコネクタハウジング20に対してプレス部4から圧接刃8を上昇させると、圧接端子21に位置決めされた電線22を下方から圧接端子21に押し込み可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等に用いられるワイヤハーネス等の電線を圧接端子に圧接接続するための方法とその装置とに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤハーネス等の電線を圧接端子に圧接接続して圧接コネクタを製造する場合、図3に示すような電線圧接装置が用いられる。この電線圧接装置30は、作業台31の前方に、圧接端子34を備えたコネクタハウジング33をセットする治具32を、後方にプレス部35を有する。プレス部35は、前方に圧接刃36を下向きで昇降可能に備え、作業台31の左右で前後方向に敷設された一対のレール37,37上で前後にスライド可能となっている。
この電線圧接装置30で電線圧接を行う場合、まずプレス部35を後方へ退避させた状態で、治具32に、コネクタハウジング33を圧接端子34を上向きにしてセットする。そして、接続する電線38を圧接端子34に位置決めして布線した後、プレス部35を前進させて圧接刃36を下降させると、圧接刃36が圧接端子34の図示しない切り込みスロットに電線38を押し込んで圧接接続させる。その後、圧接刃36を上昇させたプレス部35を後方へ退避させ、コネクタハウジング33を治具32から取り出す。なお、プレス部35には、特許文献1に示すように、コネクタハウジングの左右で電線を下方へ折り曲げるための電線曲げ具が設けられる場合もある。これは、電線を圧接接続したコネクタハウジングにコネクタカバーを嵌着するため、或いは電線の引き抜き力に対して圧接部分を保護するために設けられる。
【0003】
【特許文献1】特開2003−297518号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、上記従来の電線圧接装置や方法では、一回の圧接毎にプレス部35を前後に往復させる形態であるが、このとき作業台31上に配置された治具32や圧接刃36を回避する必要がある。このため、プレス部35における圧接刃36の上下のストロークの確保のために装置全体が大型化する上、作業時間も長くなる。また、プレス部35や治具32が作業台31と一体化しているため、作業台31上での作業スペースや加工ラインでのレイアウトに制約を受け、汎用性がない。さらに、圧接刃36がプレス部35と共に移動して加工を行うため、圧接刃36の位置調整が難しく、圧接時に電線38を位置ずれさせたりして圧接不良を起こすおそれもある。
【0005】
そこで、本発明は、短い作業時間で正確な圧接接続が行え、作業スペースや加工ラインのレイアウトに制約を受けず、コンパクトな構成ともなる電線圧接方法及びその装置を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、電線圧接方法として、治具によって圧接端子を上側から保持させて電線を圧接端子に位置決めし、圧接刃を圧接端子の下側から上昇させて電線を圧接端子に押し込んで圧接接続することを特徴とするものである。
上記目的を達成するために、請求項2に記載の発明は、電線圧接装置として、プレス部の圧接刃を上向きの状態で昇降可能に設ける一方、治具を、プレス部の上方から圧接端子を保持する第1の位置と、プレス部の上方から退避する第2の位置とに夫々セット可能として、治具に第1の位置で保持される圧接端子に対してプレス部から圧接刃を上昇させ、圧接端子に位置決めされた電線を下方から圧接端子に押し込み可能としたことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、請求項2の目的に加えて、治具の第1の位置への移動を簡単に行うために、治具を、下方にプレス部が配置されるフレーム体の上方にその一端部を蝶着することで、第1の位置と第2の位置との間で回転移動可能に設けて、フレーム体に、第1の位置での治具の他端部を保持可能な保持手段を設けたものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1及び2に記載の発明によれば、上方の圧接端子に対して下方から圧接接続することで圧接刃のストロークが小さくなるので、電線を圧接端子へ正確に押し込むことができ、圧接不良のおそれが低減される。また、一回の圧接接続に係る所要時間が短くなって作業効率の向上も期待できる。
特に、請求項2に記載の発明によれば、上記効果に加えて、装置全体がコンパクト化して作業台上の作業スペースを広く確保できる。また、装置全体が容易に移動可能であるので、加工ラインでのレイアウトの変更にも簡単に対応可能となり、汎用性に優れる。
請求項3に記載の発明によれば、請求項2の効果に加えて、治具を第2の位置から第1の位置へ簡単に移動させて確実にセットすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本発明の電線圧接装置の一例を示す説明図で、(A)が正面、(B)が右側面を夫々示す。電線圧接装置1は、キャスタ3,3・・を備えて床面上を移動可能な四角枠状のフレーム体2の下方にプレス部4を、その上方に治具5を備えてなる。
プレス部4は、フレーム体2の下方に架設された受板6上に設置され、油圧によって上下に伸縮するアーム7の上端に圧接刃8を上向きに固定している。治具5は、片面にコネクタハウジングのセット面を有し、後端がフレーム体2の後板9の上端で左右方向のピン10によって蝶着されて、同図に二点鎖線で示すように、フレーム体2の後方でセット面を上向きとする開放位置(第2の位置)と、実線で示すように、フレーム体2の上方でセット面を下向きにする閉塞位置(第1の位置)との間で回転可能となっている。
【0009】
フレーム体2の内部には、治具5の閉塞位置でセット面にセットされたコネクタハウジングの下側に当接する受け具11,11・・が設けられている。また、12,12は、フレーム体2の上端手前側で基端が上下方向の軸によって水平回転可能に軸着されたラッチで、フレーム体2中心側への突出位置では、閉塞位置にある治具5の上側に当接して治具5の開放位置への回転を防止し、突出位置から退避してフレーム体2の左右方向に沿って対向させた退避位置では、治具5との干渉を解消してその回転を許容するものである。この受け具11とラッチ12とが治具5の保持手段となる。
なお、フレーム体2は、後板9の背面に断面逆L字状の連結板13を左右方向に沿って固着しており、その連結板13を、フレーム体2の後方に設置された水平な作業台14に複数のピン15,15・・によって連結することで、作業台14に固定されている。ピン15を抜き取れば、キャスタ3を利用してフレーム体2を任意の方向へ移動させることができる。
【0010】
以上の如く構成された電線圧接装置1を用いた電線圧接方法を説明する。
まず、図2(B)に二点鎖線で示すように、治具5を後方の開放位置へ移動させてセット面にコネクタハウジング20を、圧接端子21を上向きにしてセットする。次に、プレス部4の圧接刃8を下降させた状態で、治具5を手前に回転させて閉塞位置へ移動させ、ラッチ12,12を突出位置へ移動する。この状態で、同図に実線で示すように、コネクタハウジング20が受け具11によって下から、治具5がラッチ12によって上から夫々支持されてコネクタハウジング20が位置決めされ、コネクタハウジング20の圧接端子21に圧接刃8が対向する。
そして、電線22を圧接端子21と圧接刃8との間で圧接端子21に位置決めして布線し、プレス部4のアーム7を伸長させると、圧接刃8が上昇して圧接端子21の図示しない切り込みスロットに電線22を下から押し込んで圧接接続させる。
【0011】
圧接接続が終了すると、アーム7を収縮させて圧接刃8を下降させ、ラッチ12,12を退避位置へ移動させて治具5のロックを外し、治具5を後方へ跳ね上げて開放位置へ移動させる。後は電線22が圧接されたコネクタハウジング20を治具5から取り外せばよい。
続けて作業を行う場合は、新たなコネクタハウジング20を治具5にセットして上記と同じ手順を繰り返す。
【0012】
このように、上記形態の電線圧接方法及びその装置によれば、上方の圧接端子21に対して下方から圧接接続する形態とすることで、一回の圧接毎にプレス部4を前後に動かす必要がなくなる。また、圧接刃8のストロークを大きくとる必要がなくなり、ストロークを小さくできるので、電線22を圧接端子21へ正確に押し込むことができ、圧接不良のおそれが低減される。さらに、一回の圧接接続に係る所要時間が短くなって作業効率の向上も期待できる。
特に、圧接刃8のストロークを小さくできるので、装置全体がコンパクト化して、作業台22上の作業スペースを広く確保できる。また、装置全体が容易に移動可能であるので、加工ラインでのレイアウトの変更にも簡単に対応可能となり、汎用性に優れる。
そして、治具5を、下方にプレス部4が配置されるフレーム体2の上方にその一端部を蝶着することで、第1の位置と第2の位置との間で回転移動可能に設けて、フレーム体2に、第1の位置での治具5を保持可能な保持手段(受け具11及びラッチ12)を設けたことで、治具5を第2の位置から第1の位置へ簡単に移動させて確実にセットすることができる。
【0013】
なお、上記形態では、治具の後端部を蝶着して後方へ回転させているが、左右の側端部を蝶着して左右方向へ回転させて開放位置(第2の位置)と閉塞位置(第1の位置)とを得るようにしても差し支えない。また、蝶着する形態に限らず、例えば治具の中央部を左右方向の軸で軸着し、フレーム体の上方で回転させることで、第1の位置と第2の位置とを得るものとしてもよい。
さらに、保持手段も、上記形態の受け具とラッチとに限らず、フレーム体に設けた段部を利用したり、フレーム体へ出没可能に設けたピンを差し込んで係止したり等、治具の形態等に合わせて設計変更可能である。
【0014】
一方、圧接刃の進退動も、上記油圧によるプレス部に限らず、エアシリンダ等の他のアクチュエータによって行うことは勿論可能である。また、電線圧接装置の作業台に対する移動規制も、上記連結板とピンとによるもの限らず、例えばキャスタにストッパを設けたり、フレーム体に下方へのネジ送り操作やエアシリンダ等のアクチュエータの動作によって床面に当接する複数のアウトリガーを設けたりする等、適宜変更可能である。
また、本発明では装置を小型化できることから、本実施形態では装置を半自動且つ可動式のものとして記載したが、勿論全自動のものや床に固定されたものであっても本発明に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】電線圧接装置の一例を示す説明図で、(A)が正面、(B)が右側面を夫々示す。
【図2】電線圧接装置による電線圧接方法の説明図で、(A)が正面、(B)が右側面を夫々示す。
【図3】従来の電線圧接装置の説明図で、(A)が正面、(B)が右側面を夫々示す。
【符号の説明】
【0016】
1・・電線圧接装置、2・・フレーム体、4・・プレス部、5・・治具、8・・圧接刃、11・・受け具、12・・ラッチ、14・・作業台、20・・コネクタハウジング、21・・圧接端子、22・・電線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧接端子を治具によって所定位置に保持して前記圧接端子に電線を位置決めした後、圧接刃によって前記圧接端子に前記電線を押し込んで圧接接続する電線圧接方法であって、
前記治具によって前記圧接端子を上側から保持させて前記電線を前記圧接端子に位置決めし、前記圧接刃を前記圧接端子の下側から上昇させて前記電線を前記圧接端子に押し込んで圧接接続することを特徴とする電線圧接方法。
【請求項2】
圧接端子を保持する治具と、前記圧接端子に対して進退動可能な圧接刃を有したプレス部とを備え、前記プレス部が前記圧接刃を前進させて前記圧接端子に位置決めされた電線を前記圧接端子に押し込むことで、前記圧接端子に前記電線を圧接接続可能とした電線圧接装置であって、
前記プレス部の前記圧接刃を上向きの状態で昇降可能に設ける一方、前記治具を、前記プレス部の上方から前記圧接端子を保持する第1の位置と、前記プレス部の上方から退避する第2の位置とに夫々セット可能として、前記治具に前記第1の位置で保持される前記圧接端子に対して前記プレス部から前記圧接刃を上昇させ、前記圧接端子に位置決めされた前記電線を下方から前記圧接端子に押し込み可能としたことを特徴とする電線圧接装置。
【請求項3】
治具を、下方にプレス部が配置される本体の上方にその一端部を蝶着することで、第1の位置と第2の位置との間で回転移動可能に設けて、前記本体に、前記第1の位置での前記治具の他端部を保持可能な保持手段を設けた請求項2に記載の電線圧接装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−311080(P2007−311080A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136949(P2006−136949)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【出願人】(391045897)古河オートモーティブパーツ株式会社 (571)
【Fターム(参考)】