説明

電線用着色インク

【課題】電線着色装置のノズルが詰まることを防止できる電線用着色インクを提供する。
【解決手段】本発明の電線用着色インクは、電線3の外表面3aに一定量ずつ滴射されて該電線3の外表面3aを着色するインクである。この電線用着色インクは、溶媒とアクリル樹脂と色材とを含んだインク本剤100重量部に対して、エチレングリコールを2重量部以上10重量部以下配合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、電線の外表面に向かって一定量ずつ滴射されて該電線の外表面を着色する電線用着色インクに関する。
【背景技術】
【0002】
移動体としての自動車などには、種々の電子機器が搭載される。このため、前記自動車などは、前記電子機器に電源などからの電力やコンピュータなどからの制御信号などを伝えるために、ワイヤハーネスを配索している。ワイヤハーネスは、物品としての複数の電線と、該電線の端部などに取り付けられたコネクタなどを備えている。
【0003】
電線は、導電性の芯線と該芯線を被覆する絶縁性の合成樹脂からなる被覆部とを備えている。電線は、所謂被覆電線である。コネクタは、端子金具と、この端子金具を収容するコネクタハウジングとを備えている。端子金具は、導電性の板金などからなり電線の端部に取り付けられてこの電線の芯線と電気的に接続する。コネクタハウジングは、絶縁性の合成樹脂からなり箱状に形成されている。ワイヤハーネスは、コネクタハウジングが前述した電子機器などと結合することにより、端子金具を介して各電線が前述した電子機器と電気的に接続して、前述した電子機器に所望の電力や信号を伝える。
【0004】
前記ワイヤハーネスを組み立てる際には、まず電線を所定の長さに切断した後、該電線の端部などの被覆部を除去(皮むき)して端子金具を取り付ける。必要に応じて電線同士を接続する。その後、端子金具をコネクタハウジング内に挿入する。こうして、前述したワイヤハーネスを組み立てる。
【0005】
前述したワイヤハーネスの電線は、芯線の大きさと、被覆部の材質(耐熱性の有無などによる材質の変更)と、使用目的などを識別する必要がある。なお、使用目的とは、例えば、エアバック、ABS(Antilock Brake System)や車速情報などの制御信号や、動力伝達系統などの電線が用いられる自動車の系統(システム)である。
【0006】
そこで、ワイヤハーネスに用いられる電線は、前述した被覆部を構成する合成樹脂を芯線の周りに押し出し被覆する際に、被覆部を構成する合成樹脂に所望の色の着色剤を混入して、該被覆部を所望の色に着色してきた(例えば、特許文献1ないし3参照)。この場合、電線の外表面の色を変更する際に、前述した押し出し被覆を行う押し出し被覆装置を停止する必要がある。この場合、電線の色替えの度に、押し出し被覆装置を停止する必要があり、電線の製造にかかる所要時間と手間が増加して、電線の生産効率が低下する傾向であった。
【0007】
または、押し出し被覆装置が押し出し被覆を行っている状態で合成樹脂に混入する着色剤の色を変更してきた。この場合、着色剤の色を変更した直後では、被覆部を構成する合成樹脂の色が、被覆部の変更前の着色剤の色と変更後の着色剤の色とが混ざり合った色になる。このため、電線の材料歩留まりが低下する傾向であった。
【0008】
前述した電線の生産性の低下と電線の材料歩留まりの低下を防止するために、本発明の出願人は、例えば、単色の電線を製造しておき、必要に応じて物品としての電線の外表面を所望の色に着色してワイヤハーネスを組み立てることを提案している(特許文献4参照)。また、本発明の出願人は、製造後の単色の電線を着色する際に、液状の電線用着色インクを物品としての電線の外表面に向かって一定量ずつ滴射して、該電線用着色インクの液滴を電線の外表面に付着させることで電線を所望の色に着色する電線の着色装置を提案している(特許文献5参照)。
【0009】
前述した特許文献5に記載された電線の着色装置では、溶媒としての有機溶剤と、バインダ(結合材)としてのPMMA(Polymethylmethacrylate)樹脂と、色材と、分散剤などで構成された電線用着色インクを用いてきた。この種の電線の着色装置は、長尺の電線を所望の長さに切断する切断工程や、該電線の端末に端子金具を取り付ける圧着工程で用いられて、これらの工程中に電線の外表面を着色することが求められている。
【特許文献1】特開平5−111947号公報
【特許文献2】特開平6−119833号公報
【特許文献3】特開平9−92056号公報
【特許文献4】国際公開第03/019580号パンフレット
【特許文献5】特開2004−134371号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述した電線用着色インクは、速乾性であることが求められている。このため、前述した従来の電線着色用インクを前記電線着色装置に用いると、該電線着色装置の稼動を一定時間停止している間に該電線着色装置のノズル内に残留した電線着色用インクが外気に触れて固化してしまい、そのために、前記ノズルに詰まりが生じてしまうという問題があった。前記ノズルに詰まりが生じると、該ノズルを洗浄する必要が生じて電線の生産性を低下させてしまうという問題があった。また、前記ノズルが完全には詰まっていない状態であっても、固化した前記電線着色用インクが前記ノズル先端部などに固着すると、あらかじめ定めた方向に電線着色用インクを滴射することができずに着色後の電線に意匠不良を生じさせてしまうことがあるという問題があった。
【0011】
したがって、本発明の目的は、電線着色装置のノズルが詰まることを防止できる電線用着色インクを提供するにことにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した目的を達成するために、請求項1に記載された発明は、電線の外表面に一定量ずつ滴射されて該電線の外表面を着色する電線用着色インクにおいて、溶媒とアクリル樹脂と色材とを含んだインク本剤100重量部に対して、エチレングリコールを2重量部以上10重量部以下配合したことを特徴とする電線用着色インクである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に記載された本発明によれば、インク本剤100重量部に対してエチレングリコールを2重量部以上10重量部以下配合しているので、電線着色用インクの乾燥速度を若干遅らせることができ、そのために、稼動が一時停止されて電線着色装置のノズル内に残留した電線着色用インクが外気に触れて固化することが抑えられる。よって、前記ノズルが詰まることを防止できる。また、固化した前記電線着色用インクが前記ノズル先端部などに固着することが防止できるので、あらかじめ定めた方向に確実に電線着色用インクを滴射することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態にかかる電線用着色インク(以下、単にインクと呼ぶ)を用いる電線の加工装置としての電線の着色装置(以下単に着色装置と呼ぶ)1を、図1ないし図4に基づいて説明する。着色装置1は、物品としての電線3を所定の長さに切断して、この物品としての電線3の外表面3aの一部に印6を形成する装置である。即ち、着色装置1は、物品としての電線3の外表面3aを着色する即ちマーキング(Marking)する。
【0015】
物品としての電線3は、移動体としての自動車などに配索されるワイヤハーネスを構成する。電線3は、図4(a)に示すように、導電性の芯線4と、絶縁性の被覆部5とを備えている。芯線4は、複数の素線が撚られて形成されている。芯線4を構成する素線は、導電性の金属で構成されている。また、芯線4は、一本の素線から構成されても良い。被覆部5は、例えば、ポリ塩化ビニル(Polyvinylchloride:PVC)、ポリオレフィン(PE、PP等)などの合成樹脂で構成されている。被覆部5は、芯線4を被覆している。このため、電線3の外表面3aとは、被覆部5の外表面をなしている。
【0016】
また、被覆部5は、単色Pである。なお、被覆部5を構成する合成樹脂に所望の着色剤を混入して、電線3の外表面3aを単色Pにしても良く、被覆部5を構成する合成樹脂に着色剤を混入することなく、単色Pを合成樹脂自体の色として良い。被覆部5を構成する合成樹脂に着色剤を混入せずに、単色Pが合成樹脂自体の色の場合、被覆部5即ち電線3の外表面3aは、無着色であるという。このように、無着色とは、被覆部5を構成する合成樹脂に着色剤を混入せずに、電線3の外表面3aが合成樹脂自体の色であることを示している。電線3の外表面3aは、前述した無着色であっても良く、例えば白色などの単色であっても良い。
【0017】
電線3の外表面3aには、複数の点7からなる印6が形成されている。点7は、色B(図4中に平行斜線で示す)である。色Bは、単色Pと異なる。点7は、複数設けられており、予め定められるパターンにしたがって、電線3の長手方向に沿って並べられている。図示例では、電線3の長手方向に沿って、点7が等間隔に並べられている。また、互いに隣り合う点7の中心間の距離は、予め定められている。
【0018】
前述した構成の電線3は、複数束ねられるとともに端部などにコネクタなどが取り付けられて前述したワイヤハーネスを構成する。コネクタが自動車などの各種の電子機器のコネクタにコネクタ結合して、ワイヤハーネス即ち電線3は、各電子機器に各種の信号や電力を伝える。
【0019】
また、前述した印6の各点7の色Bが種々の色に変更されることにより、電線3同士を識別可能としている。図示例では、全ての点7の色Bを同じにしているが、必要に応じて点7毎に色Bを変更して、点7同士の色Bを異ならせても良い。印6の各点7の色Bは、ワイヤハーネスの電線3の線種、系統(システム)の識別などを行うために用いられる。即ち、前述した印6の各点7の色Bは、ワイヤハーネスの各電線3の線種及び使用目的を識別するために用いられる。
【0020】
着色装置1は、図1に示すように、フレーム10と、ガイドロール11と、送り出しロール12と、矯正ユニット13と、弛み吸収ユニット14と、薬液吐出ユニット15と、ダクト16と、エンコーダ17と、切断機構18と、制御装置19とを備えている。
【0021】
フレーム10は、工場などのフロア上などに設置される。フレーム10は、水平方向に伸びている。ガイドロール11は、フレーム10の一端部に回転自在に取り付けられている。ガイドロール11は、長尺でかつ印6が形成されていない電線3を巻いている。ガイドロール11は、矯正ユニット13と弛み吸収ユニット14と薬液吐出ユニット15とダクト16とエンコーダ17と切断機構18とに順に、電線3を送り出す。
【0022】
送り出しロール12は、フレーム10の他端部に一対設けられている。これら一対の送り出しロール12は、フレーム10に回転自在に支持されかつ鉛直方向に沿って並べられている。送り出しロール12は、図示しないモータなどにより、互いに逆方向に同回転数で回転される。一対の送り出しロール12は、互いの間に電線3を挟み、かつこの電線3の長手方向に沿ってガイドロール11から引っ張る。
【0023】
送り出しロール12は、電線3の長手方向に沿って該電線3を引っ張って移動させる引っ張り手段をなしている。このように、送り出しロール12は、電線3の長手方向に沿って該電線3を移動させることで、電線3の長手方向に沿って薬液吐出ユニット15の後述する着色ノズル31と、電線3とを相対的に移動させる。このため、電線3は、ガイドロール11から送り出しロール12に向かって図1中の矢印Kに沿って移動する。矢印Kは、電線3の移動方向をなしている。
【0024】
矯正ユニット13は、ガイドロール11の送り出しロール12側に設けられており、ガイドロール11と送り出しロール12との間に設けられている。即ち、矯正ユニット13は、ガイドロール11より電線3の移動方向Kの下流側に設けられ、送り出しロール12より電線3の移動方向Kの上流側に設けられている。矯正ユニット13は、板状のユニット本体20と、複数の第1ローラ21と、複数の第2ローラ22とを備えている。ユニット本体20は、フレーム10に固定されている。
【0025】
第1及び第2ローラ21,22は、それぞれ、ユニット本体20に回転自在に支持されている。複数の第1ローラ21は、水平方向(前述した移動方向K)に沿って並べられ、電線3の上方に配されている。複数の第2ローラ22は、水平方向(前述した移動方向K)に沿って並べられ、電線3の下方に配されている。第1ローラ21と第2ローラ22とは、図1に示すように、千鳥状に配されている。
【0026】
矯正ユニット13は、送り出しロール12によりガイドロール11から送り出される電線3を、第1ローラ21と第2ローラ22との間に挟む。そして、矯正ユニット13は、電線3を直線状にする。また、矯正ユニット13は、第1ローラ21と第2ローラ22との間に挟むことにより、電線3に摩擦力を付与する。
【0027】
即ち、矯正ユニット13は、送り出しロール12が電線3を引っ張る方向(前述した移動方向K)の逆向きの第1の付勢力H1を電線3に付与する。この第1の付勢力H1は、送り出しロール12が電線3を引っ張る力よりも弱い。このため、矯正ユニット13は、長手方向に沿った張力を電線3に付与する。
【0028】
弛み吸収ユニット14は、矯正ユニット13の送り出しロール12側に設けられており、矯正ユニット13と送り出しロール12との間に設けられている。即ち、弛み吸収ユニット14は、矯正ユニット13より電線3の移動方向Kの下流側に設けられ、送り出しロール12より電線3の移動方向Kの上流側に設けられている。弛み吸収ユニット14は、矯正ユニット13と薬液吐出ユニット15の後述する着色ノズル31との間に設けられている。
【0029】
弛み吸収ユニット14は、図1に示すように、一対の案内ローラ支持フレーム23と、一対の案内ローラ24と、移動ローラ支持フレーム25と、移動ローラ26と、エアシリンダ27とを備えている。案内ローラ支持フレーム23は、フレーム10に固定されている。案内ローラ支持フレーム23は、フレーム10から上方に立設している。一対の案内ローラ支持フレーム23は、電線3の移動方向Kに沿って、互いに間隔をあけて並べられている。
【0030】
一対の案内ローラ24は、案内ローラ支持フレーム23に回転自在に支持されている。案内ローラ24は、電線3の下方に配され、外周面に電線3と接触することにより、移動方向Kから電線3が脱落しないように、電線3を案内する。このため、案内ローラ24は、電線3の移動方向Kを案内する。
【0031】
移動ローラ支持フレーム25は、フレーム10に固定されている。移動ローラ支持フレーム25は、フレーム10から上方に立設している。移動ローラ支持フレーム25は、一対の案内ローラ支持フレーム23間に設けられている。
【0032】
移動ローラ26は、移動ローラ支持フレーム25に回転自在に支持されているとともに、鉛直方向に沿って移動自在に支持されている。移動ローラ26は、電線3の上方に配されている。移動ローラ26は、鉛直方向に沿って移動自在に支持されることで、電線3の移動方向Kに直交(交差)する方向に沿って、移動自在に支持されている。また、移動ローラ26は、案内ローラ24間の中央に設けられている。
【0033】
エアシリンダ27は、シリンダ本体28と、このシリンダ本体28から伸縮自在な伸縮ロッド29とを備えている。シリンダ本体28は、移動ローラ支持フレーム25に固定されており、電線3の上方に配されている。伸縮ロッド29は、シリンダ本体28から下方に向かって伸長する。即ち、伸縮ロッド29は、シリンダ本体28から電線3に近づく方向に伸長する。
【0034】
伸縮ロッド29には、移動ローラ26が取り付けられている。エアシリンダ27は、シリンダ本体28内に加圧された気体が供給されることで、伸縮ロッド29即ち移動ローラ26を第2の付勢力H2(図1に示す)で移動方向Kに直交(交差)する方向に沿って、下方に付勢する。このため、エアシリンダ27は、移動ローラ26を、第2の付勢力H2で電線3に近づく方向に付勢する。第2の付勢力H2は、第1の付勢力H1より弱い。
【0035】
切断機構18の後述の一対の切断刃48,49が互いに近づいて、電線3を切断するために一旦電線3が停止した際に、慣性により矢印Kに沿って電線3が進むと、該電線3が一対の案内ローラ24間で弛む。このとき、前述した構成の弛み吸収ユニット14は、エアシリンダ27が移動ローラ26を第2の付勢力H2で付勢しているため、エアシリンダ27の伸縮ロッド29が伸長して、移動ローラ26が例えば図1中に一点鎖線で示す位置まで変位する。そして、弛み吸収ユニット14は、前述した案内ローラ24間で弛んだ電線3を移動方向Kに直交(交差)する方向に沿って付勢して、弛みを吸収して、電線3を張った状態に保つ。
【0036】
薬液吐出ユニット15は、弛み吸収ユニット14の送り出しロール12側に設けられており、弛み吸収ユニット14と送り出しロール12との間に設けられている。即ち、薬液吐出ユニット15は、弛み吸収ユニット14より電線3の移動方向Kの下流側に設けられ、送り出しロール12より電線3の移動方向Kの上流側に設けられている。このため、薬液吐出ユニット15即ち後述の着色ノズル31は、送り出しロール12と、矯正ユニット13との間に配されている。
【0037】
薬液吐出ユニット15は、図2に示すように、ユニット本体30と、複数の着色ノズル31と、薬液用容器32と、加圧流体供給源としての加圧気体供給源33とを備えている。ユニット本体30は、フレーム10に固定される。ユニット本体30は、複数の着色ノズル31を支持する。
【0038】
着色ノズル31は、後述の薬液用容器32からの液状のインクを、電線3の外表面3aに向かって一定量ずつ滴射する。着色ノズル31は、滴射したインクの液滴を電線3の外表面3aに付着させて、該電線3の外表面3aの少なくとも一部を着色する(マーキング)する。
【0039】
着色ノズル31は、図3に示すように、円筒状(筒状)のノズル本体34と、このノズル本体34内に収容されたインサート部材35と、流入管36と、ノズル先端部54と、弁機構38とを備えている。
【0040】
インサート部材35は、円筒状(筒状)に形成されているとともに、内側に電線用着色インクを通す流路39が形成されている。流路39内には、後述の薬液用容器32などから供給されるインクで満たされる。流入管36は、流路39と連通しており、薬液用容器32からのインクを流路39内に導く。
【0041】
ノズル先端部54は、第1のノズル部材37と、第2のノズル部材50と、接続パイプ51とを備えている。第1のノズル部材37は、円筒状に形成されているとともに、流路39内と連通しており、流路39内のインクを着色ノズル31外に導く。第1のノズル部材37の内径は、ノズル本体34の内径即ち流路39の外径より小さい。第1のノズル部材37は、ノズル本体34と同軸に配されている。第1のノズル部材37は、ステンレス鋼からなる。
【0042】
第2のノズル部材50は、円筒状に形成されている。第2のノズル部材50は、ポリエーテルエーテルケトン(Polyetheretherketone:以下PEEKと呼ぶ)からなる。第2のノズル部材50の外径は、第1のノズル部材37の外径と等しい。このように、ノズル先端部54は、筒状に形成されており、内側にインクが流れるとともに、インサート部材35内に連通している。
【0043】
また、第2のノズル部材50の内径は、第1のノズル部材37の内径より小さい。第2のノズル部材50は、第1のノズル部材37と同軸に配されているとともに、該第1のノズル部材37に連結している。
【0044】
第2のノズル部材50は、第1のノズル部材37より電線3寄りに配されている。また、第1のノズル部材37と第2のノズル部材50との間は、水密になっている。第2のノズル部材50と第1のノズル部材37は、内側に第1のノズル部材37などの軸芯に沿ってインクが流れる。
【0045】
このため、第2のノズル部材50の第1のノズル部材37寄りの端面50aは、第1のノズル部材37の内面から該第1のノズル部材37の内側に向かって突出している。また、端面50aは、軸芯に対し直交(交差)する方向に沿って平坦に形成されている。端面50aは、段差をなしており、第1のノズル部材37と第2のノズル部材50との間に形成されている。
【0046】
接続パイプ51は、フッ素樹脂からなり円筒状に形成されている。接続パイプ51の内径は、第1のノズル部材37と第2のノズル部材50の外径と略等しい。接続パイプ51は、第1のノズル部材37と第2のノズル部材50との双方の外側に嵌合しており、これらの第1のノズル部材37と第2のノズル部材50とを連結する。また、接続パイプ51は、第2のノズル部材50を第1のノズル部材37から着脱自在としている。
【0047】
弁機構38は、コイル40と、弁本体41と、コイルばね42を備えている。コイル40は、流路39の外側に設けられインサート部材35内に埋設されている。コイル40は、外部から電流が印加される。弁本体41は、導電性の本体部43と、弁体44とを備えている。本体部43は、円柱状の円柱部45と、この円柱部45の一端に連なる円盤状の円板部46とを一体に備えている。
【0048】
本体部43は、円板部46が第1のノズル部材37の基端部37aと相対し、円柱部45の長手方向がノズル本体34の長手方向と平行な状態で、流路39内に収容されている。また、本体部43即ち弁本体41は、円柱部45の長手方向即ちノズル本体34の長手方向に沿って移動自在に設けられている。
【0049】
弁体44は、本体部43の円板部46に取り付けられている。即ち、弁体44は、インサート部材35内に収容されている。弁体44は、第1のノズル部材37の基端部37aと相対する。弁体44は、本体部43の円板部46に取り付けられているため、第1のノズル部材37の基端部37aに接離自在になっている。なお、接離とは、近づいたり離れたりすることである。また、前述した第1のノズル部材37の基端部37aは、ノズル先端部54の収容部としてのインサート部材35内に位置する基端部をなしている。
【0050】
弁体44は、第1のノズル部材37の基端部37aに接触すると、この基端部37aとの間を水密に保ち、流路39内のインクが第1のノズル部材37内に侵入することを防止する。また、弁体44は、第1のノズル部材37の基端部37aから離れると、第1のノズル部材37及び第2のノズル部材50内を通ってインクが電線3の外表面3aに向かって滴射されることを許容する。
【0051】
このように、弁体44は、図3中に二点鎖線で示す開位置と、図3中に実線で示す閉位置とに亘って基端部37aに接離する。開位置では、弁体44は、基端部37aから離れてインクを第1のノズル部材37と第2のノズル部材50内を通して電線3に向かって滴射させる。閉位置では、弁体44は、基端部37aに接触してインクを第1のノズル部材37と第2のノズル部材50内を通して電線3に向かって滴射することを規制する。弁体44は、基端部37aに接離することで、ノズル先端部54からインクを滴射させる。
【0052】
コイルばね42は、円板部46を弁体44が第1のノズル部材37の基端部37aに近づく方向に付勢している。
【0053】
前述した構成の着色ノズル31は、ユニット本体30に取り付けられている。また、着色ノズル31は、ユニット本体30に取り付けられると、電線3の移動方向Kに沿って複数並べられている。図示例では、ユニット本体30は、着色ノズル31を電線3の移動方向Kに沿って五つ並べている。
【0054】
また、各着色ノズル31は、図2に示すように、第1のノズル部材37の軸芯の延長上に電線3の最上部が位置する状態で、ユニット本体30に支持される。なお、着色ノズル31は、軸芯に沿ってインクを滴射する。このため、着色ノズル31は、電線3の最上部に向かってインクを一定量ずつ滴射する。
【0055】
薬液用容器32は、着色ノズル31各々に対応して、設けられている。図示例では、薬液用容器32と、着色ノズル31とは、1対1で対応している。薬液用容器32は、前述したインクを封入する。
【0056】
薬液用容器32には、加圧流体供給管58と薬液排出管59が取り付けられている。加圧流体供給管58には、加圧気体供給源33から加圧された流体としての加圧された気体が供給される。また、加圧流体供給管58と、加圧気体供給源33との間には、バルブ62が設けられている。バルブ62は、開くと加圧された気体を薬液用容器32内に供給し、閉じると加圧された気体を薬液用容器32内に供給することを停止する。
【0057】
薬液排出管59は、着色ノズル31の流入管36に接続している。薬液排出管59は、薬液用容器32内に加圧された流体としての加圧された気体が供給されると、薬液用容器32内のインクを流入管36即ち着色ノズル31に向かって排出する。即ち、薬液排出管59は、薬液用容器32内のインクを排出するためのものである。
【0058】
加圧気体供給源33は、バルブ62を介して薬液用容器32の加圧流体供給管58と接続している。加圧気体供給源33は、バルブ62及び加圧流体供給管58を介して、薬液用容器32内に加圧された流体としての加圧された気体を供給する。この加圧気体供給源33は、複数の薬液用容器32に対応して設けられて、該対応する薬液用容器32に加圧された気体を供給しても良い。
【0059】
前述した構成の薬液吐出ユニット15は、制御装置19からの命令に基づいて、バルブ62が開放されて、加圧気体供給源33からの加圧された気体が各薬液用容器32内に供給される。そして、薬液吐出ユニット15は、制御装置19からの命令によって、薬液用容器32内が所定の圧力に保たれる。すると、各薬液用容器32内のインクが、着色ノズル31に供給される。
【0060】
そして、前述した構成の薬液吐出ユニット15は、制御装置19からの命令に基づいて、任意の着色ノズル31のコイル40に印加されて後述の弁体44が第1のノズル部材37の基端部37aから離れる。そして、薬液吐出ユニット15は、任意の着色ノズル31の流路39内のインクを一定量ずつ電線3に向かって滴射する。
【0061】
前述したインクとは、色材(工業用有機物質)が水またはその他の溶媒に溶解、分散した液状物質である。有機物質としては、色材として染料、顔料(大部分は有機物であり、合成品)があり、時には染料が顔料として、顔料が染料として用いられることがある。より具体的な例として、インクとは、着色液または塗料である。なお、このインクの詳細な説明は、後ほど記載する。
【0062】
着色液とは、溶媒中に染料が溶けているもの又は分散しているものを示しており、塗料とは、溶媒中に顔料が分散しているものを示している。このため、着色液が電線3の外表面3aに付着すると、染料が被覆部5内にしみ込み、塗料が電線3の外表面3aに付着すると、顔料が被覆部5内にしみ込むことなく外表面3aに接着する。
【0063】
即ち、薬液吐出ユニット15は、電線3の外表面3aの一部を染料で染める又は電線3の外表面3aに顔料を塗る。このため、電線3の外表面3aを着色するとは、電線3の外表面3aの一部を染料で染める(染色する)ことと、電線3の外表面3aの一部に顔料を塗ることとを示している。
【0064】
また、前記溶媒は、被覆部5を構成する合成樹脂と親和性のあるものが望ましい。この場合、染料が被覆部5内に確実にしみ込んだり、顔料が外表面3aに確実に接着することとなる。
【0065】
さらに、前述した滴射とは、着色ノズル31から液状のインクが、液滴の状態即ち滴の状態で、電線3の外表面3aに向かって付勢されて打ち出されることを示している。
【0066】
ダクト16は、薬液吐出ユニット15の送り出しロール12側に設けられており、薬液吐出ユニット15と送り出しロール12との間に設けられている。即ち、ダクト16は、薬液吐出ユニット15より電線3の移動方向Kの下流側に設けられ、送り出しロール12より電線3の移動方向Kの上流側に設けられている。ダクト16は、筒状に形成されており、内側に電線3を通す。ダクト16には、真空ポンプなどの図示しない吸引手段が連結している。吸引手段は、ダクト16内の気体を吸引して、電線用着色インク中の溶媒などが着色装置1外に充満することを防止する。
【0067】
エンコーダ17は、送り出しロール12より電線3の移動方向Kの下流側に設けられている。エンコーダ17は、図1に示すように、回転子47を一対備えている。回転子47は、軸芯周りに回転可能に支持されている。回転子47の外周面は、一対の送り出しロール12間に挟まれた電線3の外表面3aと接触している。回転子47は、矢印Kに沿って、芯線4即ち電線3が走行(移動)すると、回転する。即ち、回転子47は、矢印Kに沿った芯線4即ち電線3の走行(移動)とともに、軸芯周りに回転する。勿論、矢印Kに沿った芯線4即ち電線3の走行(移動)量と、回転子47の回転数とは比例する。
【0068】
エンコーダ17は、制御装置19に接続している。エンコーダ17は、回転子47が所定角度ずつ回転すると、制御装置19に向かってパルス状の信号を出力する。即ち、エンコーダ17は、矢印Kに沿った電線3の移動量に応じた情報を、制御装置19に向かって出力する。
【0069】
このように、エンコーダ17は、電線3の移動量に応じた情報を測定して、電線3の移動量に応じた情報を制御装置19に向かって出力する。通常エンコーダ17では電線3と回転子47の摩擦で電線3の移動量に応じたパルス信号が出力される。しかし、電線3の外表面3aの状態により移動量とパルス数が必ずしも一致しない場合は、別の場所で速度情報を入手し、その情報をフィードバックし、比較演算しても良い。
【0070】
切断機構18は、エンコーダ17の一対の回転子47より電線3の移動方向Kの下流側に配されている。切断機構18は、一対の切断刃48,49を備えている。一対の切断刃48,49は、鉛直方向に沿って並べられている。一対の切断刃48,49は、鉛直方向に沿って互いに近づいたり離れたりする。一対の切断刃48,49は、互いに近づくと、一対の送り出しロール12によって送り出された電線3を互いの間に挟んで、切断する。一対の切断刃48,49は、互いに離れると、勿論、前記電線3から離れる。
【0071】
制御装置19は、周知のRAM、ROM、CPUなどを備えたコンピュータである。制御装置19は、送り出しロール12と、エンコーダ17と、切断機構18と、着色ノズル31則ち薬液吐出ユニット15などと接続しており、これらの動作を制御することにより、着色装置1全体の制御をつかさどる。
【0072】
制御装置19は、予め印6のパターンを記憶している。制御装置19は、バルブ62を開閉(制御)して、薬液用容器32内の圧力を、薬液用容器32を破損させることなく該薬液用容器32内のインクを押圧できる予め定められた所定の圧力に保つ。制御装置19は、エンコーダ17から所定のパルス状の信号即ち電線3の移動量に応じた情報が入力すると、予め定められた着色ノズル31のコイル40に一定時間印加して、該着色ノズル31から電線3に向かってインクを一定量ずつ滴射させる。制御装置19は、予め記憶した印6のパターンにしたがって、電線3の移動速度が速くなると着色ノズル31からインクを滴射する時間間隔を短くし、電線3の移動速度が遅くなると着色ノズル31からインクを滴射する時間間隔を長くする。こうして、制御装置19は、予め記憶したパターンにしたがって、電線3を着色する。制御装置19は、エンコーダ17が測定した電線3の移動量に基づいて、着色ノズル31にインクを一定量ずつ滴射させる。
【0073】
また、制御装置19は、エンコーダ17からの情報により、電線3が所定量移動したと判定すると、送り出しロール12を停止した後、一対の切断刃48,49を互いに近づけて電線3を切断する。
【0074】
前述した構成の着色装置1で、電線3の外表面3aに印6を形成する即ち電線3の外表面3aを着色する際には、まず、ガイドロール11をフレーム10に取り付ける。一対の切断刃48,49を互いに離しておき、ガイドロール11に巻かれた電線3を矯正ユニット13と弛み吸収ユニット14と薬液吐出ユニット15とダクト16とに順に通して、一対の送り出しロール12間に挟む。
【0075】
また、所定の色のインクを封入した薬液用容器32に加圧流体供給管58と薬液排出管59とを取り付けて、これらを加圧気体供給源33と着色ノズル31と接続する。そして、薬液吐出ユニット15のユニット本体30の所定箇所に着色ノズル31を取り付ける。その後、バルブ62を開いて、加圧気体供給源33からの加圧された気体を、各薬液用容器32内に供給する。すると、各薬液用容器32内のインクが着色ノズル31に供給される。
【0076】
そして、送り出しロール12を回転駆動して、電線3をガイドロール11から引っ張って、該電線3の長手方向に沿って移動させるとともに、矯正ユニット13により電線3に第1の付勢力H1の摩擦力を付与して、該電線3を張っておく。そして、エアシリンダ27で移動ローラ26即ち電線3を第2の付勢力H2で付勢しておく。
【0077】
そして、エンコーダ17から所定の順番のパルス状の信号が制御装置19に入力すると、制御装置19は、予め定められた着色ノズル31のコイル40に一定時間、所定間隔毎に印加する。すると、着色ノズル31は、インクを一定量ずつ電線3の外表面3aに向かって滴射する。
【0078】
そして、電線3の外表面3aに付着したインクから前述した溶媒が蒸発して、電線3の外表面3aを染料で染める又は外表面3aに顔料を塗る。電線3の外表面3aに付着したインクから蒸発した溶媒は、ダクト16内から吸引手段に吸引される。こうして、電線3の外表面3aが着色される。
【0079】
エンコーダ17などからの情報により、制御装置19が所定の長さの電線3を送り出したと判定すると、この制御装置19は、送り出しロール12を停止する。すると、特に、弛み吸収ユニット14の一対の案内ローラ24間で電線3が弛んで、第2の付勢力H2で付勢された移動ローラ26が図1中に二点鎖線で示す位置に変位する。すると、弛み吸収ユニット14のエアシリンダ27の伸縮ロッド29が伸長する。そして、弛み吸収ユニット14は、電線3の弛みを吸収する。
【0080】
そして、一対の切断刃48,49が互いに近づいて、これら切断刃48,49間に電線3を挟んで切断する。こうして、図4などに示された外表面3aに印6が形成された電線3が得られる。
【0081】
前述したインクは、溶媒と、アクリル樹脂と、色材とを含んだインク本剤100重量部に対して、エチレングリコール(ethylene glycol:1, 2−エタンジオール)を5重量部以上15重量部以下配合したものである。
【0082】
本発明でいうインク本剤とは、例えば、溶媒96重量部と、アクリル樹脂3重量部と、色材1重量部とを配合したものである。溶媒としては、アクリル樹脂成分の溶解性、揮発性、取り扱い性等を勘案して用いるが、これらを満足するものとしてケトン類(有機溶剤)を用いる。具体的にはアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類等を用いる。また、溶媒として、メタノール、エタノールなどの揮発性の高いアルコール類等の易揮発性溶媒が上記ケトン類に配合されたものを用いても良い。
【0083】
色材としては、インクジェット用インクに配合されうる着色成分であれば良く、顔料、染料、あるいはこれらの中間的な着色材料などを用いる。含有量としては電線3の外表面に滴射されたときに、電線3の外表面3aに明確なマーキングが可能な濃度で、かつ、滴射が可能な濃度であれば良い。
【0084】
ここで具体的には顔料としてはアクリル樹脂の溶剤に対して均一分散し、第2のノズル部材50を詰まらせないものを適宜選択して使用することができる。また、染料としては黄色系ではオイルイエロー129(C.I.ソルベントイエロー29)、オイルイエロー3G(C.I.ソルベントイエロー16)などが挙げられ、赤色系ではオイルレッド513(C.I.ソルベントレッド27)、オイルレッドRR(C.I.ソルベントレッド24)などが挙げられる。青色系ではオイルブルー2N(C.I.ソルベントブルー35)、ファストブルー1605(C.I.ソルベントブルー38)、黒色系ではオイルブラックHBB(C.I.ソルベントブラック8)、オイルブラックBS(C.I.ソルベントブラック7)などが挙げられ、これらはオリエント化学工業社等から入手できる。
【0085】
ここで、電線3の外表面3aの色が濃色の場合には、顔料や、顔料と染料との中間的な性格を持つ着色材料を色材として用いることが望ましく、電線3の外表面3aの色が白色や淡色の場合には、色材として染料であっても好適に使い得る。
【0086】
アクリル樹脂としては、ポリメタクリル酸メチル、及び、ポリアクリル酸メチル及びその変性体を用いることができ、これらから選択して用いるが、2種以上を混合使用しても良い。
【0087】
また、本発明のインク中のアクリル樹脂としては、マーキングの堅牢性を高める柔軟成分であるゴム成分が予め配合されているアクリル樹脂を用いることもでき、このようなアクリル樹脂は旭化成社から入手可能である。
【0088】
本発明のインク本剤は、前述した溶媒とアクリル樹脂と色材との他に、顔料等の分散成分の分散性を向上させる分散剤、粘度を調整するための粘度調整剤などを適量配合してもよい。
【0089】
本発明のインクは、前述した原料を均一になるよう攪拌・混合して溶解・分散させて得るが、そのとき、第2のノズル部材50(内径0.03〜0.1mm)から適当な液量の液滴(10〜100nL)が吐出される粘度範囲に調整される。このような粘度範囲(使用温度での)は0.3mPa・s以上2.0mPa・s以下であり、表面張力の範囲は20mN/m以上30mN/m以下である。また、色材の配合量は、充分な視認性が得られる濃度以上とすることが必要である。
【0090】
本実施形態によれば、インク本剤100重量部に対して、エチレングリコールを2重量部以上10重量部以下配合しているので、インクの乾燥速度を若干遅らせることができ、そのために、稼動が一時停止されて着色装置1の第2のノズル部材50内に残留したインクが、外気に触れて固化することが抑えられる。よって、第2のノズル部材50が詰まることを防止できる。このように、第2のノズル部材50が詰まることを防止できるので、一定量ずつ確実に電線3の外表面3aに向かってインクを滴射できる。
【0091】
また、インクが第2のノズル部材50の外気に曝された端面50b(図3中に示す)などにに固着することを防止できるので、端面50bなどに固着したインクが、インクの滴射される方向に影響を与えることを防止できる。したがって、電線3の外表面3aの所望の位置に向かって確実にインクを滴射することができる。よって、電線3の外表面3aに意匠不良を生じさせることを防止できる。
【0092】
次に、本発明の発明者らは、エチレングリコールを配合していないインク本剤、及びエチレングリコールを前述したインク本剤100重量部に対して1重量部、2重量部、5重量部、10重量部、20重量部、30重量部配合して得たインクを上述した着色装置1に用い、電線3の外表面3aに向かって滴射した際のノズル31の詰まり性及び滴射性の良否を確認した。結果を表1に示す。
【0093】
【表1】

【0094】
結果を表1に示した実験では、インク本剤として、溶媒としての純度99%以上含有のアセトンを96重量部と、アクリル樹脂(PMMA)を3重量部と、色材としての油溶性染料を1重量部と、を配合し、かつ、インクの粘度が0.3mPa・S以上2.0mPa・S以下で表面張力が30mNm程度のものを用いた。また、結果を表1に示した実験では、内径が0.065mmの第2のノズル部材50を使用した着色装置1を用いて、被覆部5がポリプロピレンで構成された電線3(外径:1.4mm、外観色:白)を長さ方向に移動させながら、乾燥後の膜厚が約10μmになるようにマーキングを行い、その際の第2のノズル部材50の滴射性を確認した。さらに、この着色装置1の稼動を4時間停止した後に再稼動して電線3にマーキングを行い、その際の第2のノズル部材50の詰まり性を確認した。
【0095】
表1中の滴射性が○とは、インクの滴射量が十分である場合を示している。表1中の滴射性が△とは、インクの滴射量が少ないがマーキング箇所(前述した点7)は識別可能である場合を示している。表1中の滴射性が×とは、インクの滴射量が少なくマーキング箇所(前述した点7)が識別不可能である場合を示している。
【0096】
表1中の詰まり性が○とは、着色装置1の稼動を4時間停止しても第2のノズル部材50の洗浄なしでインクの滴射が良好に行える場合を示している。表1中の詰まり性が△とは、インクの滴射は可能であるが電線3に対して垂直に滴射することが不可能な場合を示している。表1中の詰まり性が×とは、第2のノズル部材50に詰まりが生じてインクの滴射が不可能な場合を示している。
【0097】
表1によれば、エチレングリコールを配合していないインク本剤及びエチレングリコールの配合量が2重量部未満のインクでは、第2のノズル部材50の詰まり性に問題が生じることが明らかとなった。
【0098】
表1によれば、エチレングリコールの配合量が10重量部より多いインクでは、第2のノズル部材50の滴射性に問題が生じることが明らかとなった。
【0099】
さらに、本発明の発明者らは、本発明品の輸送状態を想定した環境試験を行い、本発明品のインクの安定性を確認した。結果を表2に示す。
【0100】
【表2】

【0101】
表2中の本発明品1〜8は、溶媒としての純度99%以上含有のアセトンを96重量部と、アクリル樹脂(PMMA)を3重量部と、色材としての油溶性染料を1重量部と、を配合したインク本剤100重量部に対して、エチレングリコールを2重量部配合し、かつ、インクの粘度が0.3mPa・S以上2.0mPa・S以下で表面張力が30mNm程度のものを用いた。
【0102】
結果を表2に示した実験では、本発明品1〜8を容器に入れて、130時間の間に実験室の温度を1〜27℃の間で適宜変化させ、さらにこの間に本発明品1〜8を入れた容器に±30G(重力加速度)の振動を付与して、実験前と実験後の粘度と密度を測定した。
【0103】
表2によれば、本発明品1〜8のいずれの場合も粘度と密度の変化がほとんどなく(小数点以下3桁目は測定装置の誤差である。)、本発明のインクは、電線着色工場内での使用及び工場までの搬送に耐え得る安定性を有していることが明らかとなった。
【0104】
前述した実施形態では、自動車に配索されるワイヤハーネスを構成する電線3に関して記載している。しかしながら、本発明では、電線3を自動車に限らず、ポータブルコンピュータなどの各種の電子機器や各種の電気機械に用いても良いことは勿論である。
【0105】
また、前述した実施形態では、加圧された流体としての加圧された気体を薬液用容器32内に供給している。しかしながら、本発明では、気体に限らず液体などの種々の流体を、加圧して薬液用容器32内に供給しても良いことは勿論である。
【0106】
また、前述した実施形態では、弁機構38を備えた着色ノズル31を示している。しかいながら、本発明の特許請求の範囲に記載されたノズルは、弁機構38を備えていない単なる筒状やオリフィス状に形成しても良い。
【0107】
また、前述した実施形態では、第1のノズル部材37と第2のノズル部材50とを互いに別体としている。しかしながら、本発明では、第1のノズル部材37と第2のノズル部材50とを一体にしても良い。
【0108】
なお、前述した実施形態は本発明の代表的な形態を示したに過ぎず、本発明は、実施形態に限定されるものではない。即ち、本発明の骨子を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の一実施形態にかかる薬液吐出ユニットを備えた電線の着色装置の構成を示す側面図である。
【図2】図1中のII−II線に沿う電線の着色装置の薬液吐出ユニットの断面図である。
【図3】図2に示された薬液吐出ユニットの各着色ノズルトの構成を示す断面図である。
【図4】(a)は図1に示された電線の着色装置で着色された電線の斜視図である。(b)は図4(a)に示された電線の平面図である。
【符号の説明】
【0110】
3 電線
3a 外表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線の外表面に一定量ずつ滴射されて該電線の外表面を着色する電線用着色インクにおいて、
溶媒とアクリル樹脂と色材とを含んだインク本剤100重量部に対して、エチレングリコールを2重量部以上10重量部以下配合したことを特徴とする電線用着色インク。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−266453(P2008−266453A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111343(P2007−111343)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】