説明

電線

【課題】誘電体損が低く、高い許容電流が得られるうえ、屈曲性およびノイズ吸収効果に優れた電線を構造簡単にして提供する。
【解決手段】導体11と、この導体11を外側から覆うチューブ状の絶縁体12とを備え、前記導体11は、前記絶縁体12の内周面に対して局部的に接触して全体が非直線状に形成されるとともに、局部的接触部位11aを除いて前記絶縁体12の内周面との間に空間Pを存在させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高圧の電力ケーブル、各種機器用の各種ケーブルや電源コード、および信号電送コードなどに適用される電線に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えば高圧の電力ケーブルなどに使用する絶縁電線は、軟銅線などからなる導体をポリエチレンなどのチューブ状の絶縁体で隙間なく覆って構成されている。
【0003】
ところで、前記ケーブルでは、許容電流が可及的大きいことが望ましいが、この許容電流は、通電時に発生する熱による温度上昇によって規定される。
【0004】
ケーブルの温度上昇を招く原因として、通電時に導体内部で発生する抵抗損の他に、とくに、絶縁体内で発生する誘電体損がある。これは、絶縁体の構成材として、ポリエチレン、プチルゴム、紙などの誘電体を使用している限り避けられない。
【0005】
前記誘電体損は、静電容量に比例し、物質固有の比誘電率に左右される。前記絶縁体の構成材であるポリエチレンは、比誘電率が2.3と比較的低く、各種の絶縁材料として広く使用されているが、それでも誘電体損が最も小さい物質である空気の比誘電率1.0に比べて大きな値である。つまり、ポリエチレンからなる絶縁体を使った電線では、絶縁体のない裸電線に比べて、2.3倍の誘電体損となる。
【0006】
絶縁体で被覆される電線の誘電体損を裸電線の誘電体損に近づけるために、従来より、高圧分野では、剛性銅管などからなる金属管体の中に、1本の導体を配置し、絶縁耐圧を高めるために、前記金属管体内に比誘電率が1の六フッ化硫黄を封入して、いわゆる気中ケーブルとしたものが知られている。
【0007】
なお、従来、自動車用の高圧電線として、チューブ状の絶縁体内に軸芯に磁性コアを配置し、この磁性コアに導通線を螺旋状に巻回して支持させ、この導通線と中空の絶縁体との間にガスを介在させた構成が開示されている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開平2−215015号公報(第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記従来の六フッ化硫黄を封入した高圧用のケーブルは、誘電体損が空気と同等に小さくなり、通電時の発熱を抑制できるものの、六フッ化硫黄が封入された金属管体が剛性体であるから、屈曲性が全くなく、用途が限定されている。
【0009】
また、従来のケーブル構造では、直線状のままであるから、例えば電源コードに適用しようとしても、コイル効果がなく、インダクタンスが見込まれないので、ノイズなどの高調波成分を吸収させにくいという問題もある。
【0010】
なお、前記特許公報の技術についても、導通線が磁性コアに巻装されており構造が複雑になるうえ、屈曲性が得られないなど、従来技術と同様の欠点がある。
【0011】
この発明は、誘電体損が低くなり、高い許容電流が得られるうえ、屈曲性およびノイズ吸収効果に優れた電線を構造簡単にして提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、以下の手段によって構成される。
【0013】
[1]導体と、導体被覆用のチューブ状絶縁体とを備え、前記導体は、前記絶縁体の内周面に対して局部的に接触して全体が非直線状に形成されるとともに、局部的接触部位を除いて前記絶縁体の内周面との間に空間を存在させてあることを特徴する電線。
【0014】
[2]前記導体を前記絶縁体で覆ってなる電線主体が複数本一括して螺旋状に撚り合わされている前項1に記載の電線。
【0015】
[3]前記複数本の電線主体の半径方向の中心部位に、直線状のアース線が配置されている前項1または2に記載の電線。
【0016】
[4]前記導体がウェーブ形に形成されている前項1〜3のいずれかに記載の電線。
【0017】
[5]導体と、導体被覆用のチューブ状絶縁体と、前記導体を前記絶縁体で被覆してなる複数本の電線主体の半径方向の中心部位に配置された直線状のアース線とを備え、前記複数本の電線主体が前記アース線を中心にして螺旋状に撚り合わされていることを特徴とする電線。
【発明の効果】
【0018】
前項[1]の発明によれば、前記絶縁体で覆われている導体が非直線状に形成されて、その一部のみが絶縁体の内周面に接触し、残りの部位と前記絶縁体の内周面との間に空間が存在していることから、導体のほとんどの部位において、空気封入状態となって比誘電率が1に近い状態となり、誘電体損が少ない気中電線として構成される。
【0019】
このため、通電時における導体での熱の発生が少なく、その結果、温度上昇が抑制されて、許容電流を大きくすることができる。
【0020】
とくに、気中ケーブルとして、従来の金属管体内に六フッ化硫黄を封入したものと違って、絶縁体としてポリエチレンなどの合成樹脂を採用すれば、電線全体として屈曲性を持たせることができ、用途が広がる。
【0021】
また、磁性コアなどを使用するものに比して、構造が簡単になる利点もある。
【0022】
前項[2]の発明によれば、複数本の電線主体を螺旋状に撚り合わせてあるので、コイル効果によりインダクタンスが大きくなり、ノイズなどの高調波成分の低減が可能となる。
【0023】
前項[3]の発明によれば、複数本の電線主体の半径方向の中心部位に、直線状のアース線が配置されているので、適正な接地機能が発揮されるうえ、アース線が前記複数本の電線主体に締め付けられて堅固に保持され、引っ張り方向の外力に抗することができ、施工などが容易になる。
【0024】
前項[4]の発明によれば、導体をウェーブ状に形成するだけで、絶縁体との間に容易に空間を存在させることができる。
【0025】
前項[5]の発明によれば、導体を絶縁体で覆った複数の電線主体を螺旋状に撚り合わせてあるので、コイル効果でノイズなどの高調波成分を低減可能となり、また、アース線が前記複数本の電線本体で締め付けられて堅固に保持される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、この発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0027】
図1および図2は、それぞれこの発明の実施形態にかかる電線が適用された電源ケーブルを示す外観斜視図および横断面図である。
【0028】
この電源ケーブルは、複数本(例えば2本)の電線主体1,1と、複数本(例えば2本)の絶縁体2,2と、1本のアース線3とを備えている。
【0029】
各電線主体1は、図3に示すように、導体11と、この導体11を被覆するチューブ状の絶縁体12とから構成されている。
【0030】
前記導体11は、直径が1.0mm程度の単線であり、例えばJIS C3102の軟導線からなる。勿論、この導線11は、より線であってもよい。
【0031】
前記絶縁体12は、例えばポリエチレン樹脂からなり、厚さが1.40mm、外径が6.50mmのチューブ状に成形されて、前記導体11を被覆している。
【0032】
前記導体11は、図3に示すように、前記被覆体12の内周面に対して局部的に接触する非直線状、例えばウェーブ状に形成されており、前記局部的接触部位11aを除いて該絶縁体12の内周面との間に空間Pを存在させてある。勿論、上記導体11の非直線形状は、ウェーブ状に限定されるものではない。
【0033】
前記絶縁体2は、前記絶縁体12と同じ材料で、同じ形状に形成されており、ここでは、中空のままになっているが、必要に応じて導体入りにして電線主体として構成することも可能である。つまり、一方の絶縁体2に導体11を入れることにより、前記電線主体1,1とで3芯ケーブルが構成され、また、両方の絶縁体2,2にそれぞれ導体11を入れることにより、4芯ケーブルが構成される。勿論、芯数は適宜増減可能である。
【0034】
前記アース線3は、直線状に形成されており、前記2本の電線主体1,1と2本の絶縁体2,2に囲まれた中心部に配置されている。
【0035】
このアース線3は、単線が7本集合されて、外径が2.4mm撚り線からなる導体31と、この導体31の外側を覆う絶縁体32とで構成されている。
【0036】
導体31における一つの単線は、例えば0.8mmのJIS C3102の軟導線からなる。導体31はより線に限らず、1本の単線であってもよい。
【0037】
前記絶縁体32は、例えばポリエチレン樹脂からなり、厚さが0.30mm、外径が3.00mmのチューブ状に成形されて、前記導体31を被覆している。
【0038】
前記2本の電線主体1,1ならびに2本の絶縁体2,2を一括して前記アース線3を中心にして螺旋状に撚り合わせてある。
【0039】
その場合の撚り合わせピッチは、例えば160〜170mmであり、外径は15.70mmである。
【0040】
このように構成された電線では、絶縁体12がポリエチレン製であり、比誘電率が2.3であり、空気の比誘電率1.0には到底及ばない。
【0041】
しかし、前記絶縁体12で覆われている導体11がウェーブ状に形成されて、その一部12aのみが絶縁体12の内周面に接触し、残りの部位と該絶縁体12の内周面との間に空間Pが存在していることから、ほとんどの部位において、空気封入状態となって比誘電率が1に近い状態となり、誘電体損が少ない気中電線として構成されることなる。
【0042】
このため、通電時における導体11での熱の発生が抑制され、その結果、温度上昇が抑制されて、許容電流を大きくすることができる。この結果、導体11として比較的小径のもでも大電流用として使用することができる。
【0043】
とくに、気中ケーブルとして、従来の金属管体内に六フッ化硫黄を封入したものと違って、絶縁体12がポリエチレンなどの合成樹脂製で構成されているから、電線として屈曲性を持たせることができ、用途が広がる。
【0044】
また、磁性コアに導線を巻き付けるものに比して、構造簡素にして製作できる利点もある。
【0045】
このような電源ケーブルでは、前記2つの電線主体1,1を利用して、例えば音響機器などの電源コードなどに適用できる。その場合、前記2本の電線主体1,1を2本の絶縁体2,2と一緒にアース線3を中心にして螺旋状に撚り合わせてあるから、コイル効果によりインダクタンスが大きくなり、ノイズなどの高調波成分が低減され、その結果、前記音響機器などにおける周波数特性の向上が期待できる。
【0046】
なお、上記構成の電源ケーブルは、2本の電線主体1,1だけの構成でも使用可能であるが、前記2つの電線主体1,1と2本の絶縁体2,2との中心に位置してアース線3を設けてあり、接地機能が有効に発揮される他に、アース線が電線主体1,1に締め付けられ、引っ張り方向の外力に左右されることなく、安定的に保持される。
【0047】
ところで、前記電線として、2本の電線主体1,1、2本の絶縁体2,2およびアース線3の三者をそのままで使用したが、図4に示すように、前記電線主体1,1、絶縁体2,2およびアース線3の三者を、シールド体4を介してシース5で被覆するようにしてもよい。
【0048】
前記シールド体4は、外径が、例えば16.51mmで、厚さが24mmであり、0.14mmの単線を7本集合してピッチが20mmで撚って筒状にしたものである。
【0049】
前記シース5は、例えばPVCからなり、厚さが1.00mm、外径が18.50mmに筒形に形成されており、前記シールド体4および前記シース5を含めて仕上げ外径は、例えば18.5±0.50mmである。
【0050】
この場合は、前記シース5やシールド体4により、強度が高まり、外部磁界などを遮断できる効果が発揮される。
【0051】
図5は、この発明の別の実施形態を示す。
【0052】
この実施形態では、導体11をウェーブ状に形成して気中ケーブルとしたものではなく、図5に示すように、直線状の普通の導体111を有する複数の電線主体10,10を使用し、その中心部にアース線3を設け、このアース線3を中心にして前記電線主体10,10を螺旋状に撚り合わせたものである。
【0053】
上記構成の電線においては、前記アース線3により、前記実施形態と同様に、電線主体10,10を螺旋状に撚り合わせてあるから、コイル効果が発揮され、周波数が高くなると、インダクタンスが大きくなってノイズなどの高調波成分の低減に寄与できる。
【0054】
さらに、この場合もアース線3が撚られた電線主体10,10により締め付けられるから、引っ張り方向の外力の影響を受けにくい安定状態が保持される。
【0055】
勿論、この実施形態のものでも、図6に示すように、前記電線主体10,10、絶縁体2,2およびアース線3の三者を、シールド体4を介してシース5で被覆するようにしてもよい。
【0056】
また、胴体をウェーブ状等にして気中ケーブルとした電線主体を構成する場合には、用途等によっては、複数の電線主体を螺旋状に撚り合わせることなく、複数本の電線主体を略平行に、あるいは1本ずつの単線として利用するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】この発明の実施形態にかかる電線が適用された電源ケーブルを示す外観斜視図である。
【図2】同じく電源ケーブルを示す横断面図である。
【図3】同じく電源ケーブルにおける一つの電線主体を示す縦断面図である。
【図4】シースを備えた電源ケーブルを示す縦断面図である。
【図5】この発明の他の実施形態にかかる電線が適用された電源ケーブルを示す外観斜視図である。
【図6】他の実施形態において、シースを備えた電源ケーブルを示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1(10)・・・・・・電線主体
12・・・・・・・・・絶縁体
3・・・・・・・・・・アース線
11(111)・・・・導体
11a・・・・・・・・局部的接触部位
P・・・・・・・・・・空気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、導体被覆用のチューブ状絶縁体と、を備え、
前記導体は、前記絶縁体の内周面に対して局部的に接触して全体が非直線状に形成されるとともに、局部的接触部位を除いて前記絶縁体の内周面との間に空間を存在させてあることを特徴する電線。
【請求項2】
前記導体を前記絶縁体で覆ってなる電線主体が複数本一括して螺旋状に撚り合わされている請求項1に記載の電線。
【請求項3】
前記複数本の電線主体の半径方向の中心部位に、直線状のアース線が配置されている請求項1または2に記載の電線。
【請求項4】
前記導体がウェーブ形に形成されている請求項1〜3のいずれかに記載の電線。
【請求項5】
導体と、
導体被覆用のチューブ状絶縁体と、
前記導体を前記絶縁体で被覆してなる複数本の電線主体の半径方向の中心部位に配置された直線状のアース線と、を備え、
前記複数本の電線主体が前記アース線を中心にして螺旋状に撚り合わされていることを特徴とする電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−196393(P2006−196393A)
【公開日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−8836(P2005−8836)
【出願日】平成17年1月17日(2005.1.17)
【出願人】(503433925)
【Fターム(参考)】