説明

電装品収容ケースの設置構造

【課題】 構造の複雑化や製造コストの増大を招くことなく、ケース内への水の浸入を効果的に抑制した電装品収容ケースの設置構造を提供する。
【解決手段】 エンジンECU21は、ケース本体22のベース面23の上端側に円筒状の防護壁24を備えている。防護壁24の内側には通気孔25が軸心に穿設されたフィルタ取付ボス26がベース面23から突設されており、このフィルタ取付ボス26にブリーズフィルタ27が取り付けられている。ダッシュボードアッパ14には、車体前方を向くとともにエンジンECU21が締結される設置面41と、設置面41の左右方向中央で上下方向に延設された凹溝42とが形成されている。カウルトップ16の前端からは、下方に向けて庇51が延設されている。庇51は、エンジンECU21の前方に位置するとともに、その下端がエンジンECU21のケース本体22の上端よりも低くなっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンルーム等における電装品収容ケースの設置構造に係り、詳しくは構造の複雑化や製造コストの増大を招くことなく、ケース本体内への水の浸入を効果的に抑制する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車用エンジンでは、燃料消費および有害排出ガス成分の低減、発生出力の向上等を図るため、エンジンECU(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)によって燃料噴射量や点火時期、バルブタイミング等を緻密に制御するものが一般的となっている。エンジンECUは、マイクロコンピュータやROM、RAM、周辺回路、入出力インタフェース等を実装した基板と、アルミダイカスト成型品や樹脂射出成形品のケース本体(筐体)とを有している。
【0003】
エンジンECUは、ワイヤハーネスの削減および短縮による軽量化や低コスト化を図るため、各種センサや制御対象機器が集中したエンジンルームに設置されることが多くなっている。この場合、エンジンECUのケース本体には、エンジンの運転/停止による温度変化に伴う内圧の変化を防ぐ他、水(高圧洗浄機による洗浄水等)の浸入を防ぐことが求められる。そこで、ケース本体の一部に凹部を形成し、この凹部に設置したブリーズフィルタを介してケース本体の内外を連通させたエンジンECUが提案されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3598995号公報
【特許文献2】特許第4560477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1,2では、凹部を囲む縦壁(防護壁)によってブリーズフィルタへの水の浸入を防止するが、十分な防水性を得るためには防護壁として丈の高いものを採用する必要があり、ケース本体の厚みが増すことでエンジンルームへのレイアウトが難しくなる問題があった。また、凹部の開口面側から水が掛かった場合、ブリーズフィルタが被水することが避けられず、水飛沫がブリーズフィルタを介してケース本体の内部に浸入する虞や、水に含まれる泥等が表面に付着することでブリーズフィルタが閉塞する虞があった。そして、凹部の開口を遮蔽すべくカバーを設けた場合、部品点数が増加して製造コストが高くなる問題があった。
【0006】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、構造の複雑化や製造コストの増大を招くことなく、ケース内への水の浸入を効果的に抑制した電装品収容ケースの設置構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面では、自動車のボディパネル(14)に電装品収容ケース(21)を設置する構造であって、前記ボディパネルは、前記電装品収容ケースが設置される設置面(41)が縦壁であるとともに、当該設置面に凹部(42)を有し、前記電装品収容ケースは、前記設置面に対峙するベース面(23)から突設されて前記凹部に進入する防護壁(24)と、当該防護壁に囲まれたブリーズフィルタ(27)付きの通気孔(25)とを有し、前記防護壁と前記凹部の底との間に第1の空隙(t1)が形成され、前記ベース面と前記設置面との間に第2の空隙(t2)が形成され、当該第1の空隙と当該第2の空隙とが連通している。
【0008】
また、第2の側面では、前記凹部が上下方向に延設された凹溝(42)であり、前記電装品収容ケースの上部を覆う庇(51)が前記ボディパネルから延設され、前記庇の下端が前記電装品収容ケースの上端よりも下方に位置している。
【0009】
また、第3の側面では、前記防護壁が前記ベース面における上端側に位置している。
【0010】
また、第4の側面では、前記設置面が車体前方を向いており、前記防護壁が前記ベース面から車体後方に向けて突設されている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の側面によれば、凹部や防護壁から形成されるラビリンスおよびブリーズフィルタによって電装品収容ケースへの水の浸入が防止される一方、第1の空隙および第2の空隙を介して電装品収容ケースに対して空気が流入あるいは流出することで内外圧力差が生じなくなる。また、第2の側面によれば、下方や側方から凹溝内に浸入した水が下方に排出されやすくなるとともに、上方や前方からの水の浸入が庇によって効果的に防止される。また、第3の側面によれば、下方からの水が防護壁に到達し難くなる。また、第4の側面によれば、電装品収容ケースに遮られることにより、前方からの水が防護壁に到達し難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係る自動車のエンジンルームを示す要部斜視図である。
【図2】実施形態に係るエンジンECUの裏面を示す斜視図である。
【図3】実施形態に係る防護壁およびブリーズフィルタの縦断面図である。
【図4】実施形態に係るエンジンECU取付部位の要部縦断面図である。
【図5】実施形態に係るエンジンECU取付部位の要部横断面図である。
【図6】実施形態の作用を示す説明図である。
【図7】実施形態の作用を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明を自動車用エンジンECUの設置構造に適用した実施形態を詳細に説明する。なお、各部材の説明にあたっては、図1中に上下・左右・前後を矢印で示し、位置や方向をこれらに沿って表記する。
【0014】
≪実施形態の構成≫
図1に示すように、本実施形態の自動車(乗用車)1では車体前部にエンジンルーム3が設けられており、このエンジンルーム3に、エンジン(図示せず)を始め、バッテリ4、エアクリーナボックス5等が配置されている。エンジンルーム3は、フロントバルクヘッド11やフロントダンパハウジング12、ダッシュボード13、ダッシュボードアッパ14等のボディパネルによって画成されており、ダッシュボードアッパ14の上部には前端側にレインチャンネル15を有する樹脂製のカウルトップ16が装着されている。本実施形態の場合、ダッシュボードアッパ14の前面(縦壁)には、エンジンECU21が締結されている。
【0015】
エンジンECU21は、アルミダイキャスト製のケース本体22に種々の電子部品を収容してなるもので、図2に示すように、ケース本体22のベース面(裏面)23の上端側に突設された円筒状の防護壁24を備えている。図3に示すように、防護壁24の内側には通気孔25が軸心に穿設されたフィルタ取付ボス26がベース面23から突設されており、このフィルタ取付ボス26にブリーズフィルタ27が嵌着されている。
【0016】
ブリーズフィルタ27は、フィルタ取付ボス26に外嵌するインナパイプ28と、インナパイプ28の先端に固着されたフィルタエレメント29と、インナパイプ28およびフィルタエレメント29を覆うカップ状のアウタカバー30とから構成されている。なお、インナパイプ28とアウタカバー30とは、90°の角度間隔で配置された4つのブリッジ31によって連結されている。なお、アウタカバー30の端面は、防護壁24の端部よりも所定寸法S(例えば、1mm程度)だけベース面23側に位置している。
【0017】
図4,図5に示すように、ダッシュボードアッパ14には、車体前方を向くとともにエンジンECU21が締結される設置面41と、設置面41の左右方向中央で上下方向に延設された凹溝42とが形成されており、エンジンECU21が設置面41に取り付けられた状態では凹溝42に防護壁24が進入する。本実施形態では、凹溝42と防護壁24の先端との間隙t1は、設置面41とベース面23との間隙t2よりも有意に小さく設定されている。
【0018】
図4に示すように、カウルトップ16の前端からは、下方に向けて庇51が延設されている。庇51は、エンジンECU21の前方に位置するとともに、その下端がエンジンECU21のケース本体22の上端よりも所定寸法Lだけ低くなっている。
【0019】
≪実施形態の作用≫
自動車1の整備時において、整備作業者は、埃やオイルで汚れたエンジンルーム3を高圧洗浄機によって洗浄することがある。この場合、高圧洗浄機のノズルから噴射された洗浄水がエンジンECU21に掛かることが避けられないが、本実施形態では、上述した構成を採ったことで、エンジンECU21の厚みを徒に大きくすることなく、エンジンECU21内への洗浄水の浸入が効果的に防止される。また、雨中走行時等にエンジンルームに入り込んだ水がブリーズフィルタに掛かることも防止でき、水に含まれる泥等によるブリーズフィルタの閉塞を防止できる。
【0020】
通常、整備作業者は、エンジンルーム3の前方あるいは側方に立って洗浄を行うが、図6に示すように、前方からの洗浄水は庇51によって防護壁24のブリーズフィルタ27には到達できず、図7に示すように、側方からの洗浄水も凹溝42や防護壁24等からなるラビリンスよってブリーズフィルタ27に到達できない。そして、例え防護壁24の周囲に洗浄水が流入しても、その洗浄水は、凹溝42を伝って速やかに下方に排出され、滴等が防護壁24内に浸入することがない。このように、本実施形態では、カウルトップ16がエンジンECU21の後面を覆うとともに、カウルトップ16に形成された凹溝42に防護壁24が進入する構成としたことにより、防護壁24内のブリーズフィルタ27が被水する虞が殆ど無くなる。また、何らかの原因で洗浄水が防護壁24内に浸入しても、図3に示したように防護壁24とブリーズフィルタ27のアウタカバー30およびインナパイプ28とがラビリンスを形成しているため、その洗浄水がフィルタエレメント29や通気孔25に流入する虞が殆ど無い。
【0021】
一方、自動車1の走行や停止に伴ってエンジンルーム3(すなわち、エンジンECU21)の温度が変化すると、エンジンECU21では通気孔25を介して空気の排出あるいは吸入が行われる。例えば、走行後の駐車によって温度が低下するとエンジンECU21内の空気が次第に収縮し、内圧が低下することでエンジンECU21内に外気が導入される。この際、図7に示すように、外気は、設置面41とベース面23との隙間から凹溝42と防護壁24の先端との隙間に流入した後、防護壁24を乗り越えてブリーズフィルタ27および通気孔25を介してエンジンECU21内に円滑に流入する。
【0022】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明の態様はこれら実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態は本発明をエンジンECUの設置構造に適用したものであるが、本発明は、操舵ECUや変速ECU等、他の電装品収容ケースの設置構造にも当然に適用可能である、また、上記実施形態では、ブリーズフィルタとしてケース本体に突設されたフィルタ取付ボスに嵌着されるものを採用したが、ケース本体に穿設されたフィルタ取付孔に固着されるユニット型のものを採用してもよい。また、上記実施形態では電装品収容ケースをダッシュボードアッパに設置するものとしたが、ダッシュボードやフロントダンパハウジングに電装品収容ケースを設置してもよい。また、上記実施形態では設置面に上下方向に延設された凹溝を形成するようにしたが、凹溝に代えて皿状の窪みを形成するようにしてもよい。また、上記実施形態では防護壁を継ぎ目の無い円筒形状としたが、例えば、下部にスリットを有する円筒形状あるいは角筒形状の防護壁を採用してもよいし、複数の円弧状または板状の防護壁をブリーズフィルタの周囲に間隔を開けて設けるようにしてもよい。その他、電装品収容ケースや凹部、庇の具体的構成や形状等についても、本発明の主旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0023】
3 エンジンルーム
14 ダッシュボードアッパ(ボディパネル)
16 カウルトップ
21 エンジンECU(電装品収容ケース)
22 ケース本体
23 ベース面
24 防護壁
25 通気孔
27 ブリーズフィルタ
41 設置面
42 凹溝
51 庇

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車のボディパネルに電装品収容ケースを設置する構造であって、
前記ボディパネルは、前記電装品収容ケースが設置される設置面が縦壁であるとともに、当該設置面に凹部を有し、
前記電装品収容ケースは、前記設置面側のベース面から突設されて前記凹部に進入する防護壁と、当該防護壁に囲まれたブリーズフィルタ付きの通気孔とを有し、
前記防護壁と前記凹部の底との間に第1の空隙が形成され、前記ベース面と前記設置面との間に第2の空隙が形成され、当該第1の空隙と当該第2の空隙とが連通したことを特徴とする電装品収容ケースの設置構造。
【請求項2】
前記凹部が上下方向に延設された凹溝であり、
前記電装品収容ケースの上部を覆う庇が前記ボディパネルから延設され、
前記庇の下端が前記電装品収容ケースの上端よりも下方に位置したことを特徴とする、請求項1に記載された電装品収容ケースの設置構造。
【請求項3】
前記防護壁が前記ベース面における上端側に位置したことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載された電装品収容ケースの設置構造。
【請求項4】
前記設置面が車体前方を向いており、前記防護壁が前記ベース面から車体後方に向けて突設されたことを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載された電装品収容ケースの設置構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−245945(P2012−245945A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121294(P2011−121294)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】