説明

電解アルミニウムめっき液

【課題】電解アルミニウムめっき用の非水溶媒めっき液は湿度の制御が難しく、水分を吸収して塩化水素を発生し、未析等の欠陥を生じるという問題がある。これらの欠陥は、被めっき物の表面積が大きくなり、形状が複雑になるほど顕著となる傾向にある。また、生成するアルミニウム被膜は純アルミニウムの約10倍の硬度を有しており、延性に欠け、下地との密着性が悪いという問題がある。
【解決手段】ジメチルスルホンとアルミニウムハロゲン化物からなる溶融塩に禁水性物質であるジメチルアミンボラン又はその誘導体、若しくはジメチルアミンボランの分解生成物を添加することによって効果的に水分を除去し、それと同時にめっき膜の均一性及び延性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
電解アルミニウムめっき液およびそれを使用しためっき方法と生成した被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウムの電析電位は水素発生の電位よりも卑であるため、水溶液からアルミニウムを電析することは非常に困難である。従って、電解アルミニウムめっきに関しては、非水溶媒めっき液が多く研究されてきた。非水溶媒としてはテトラヒドロフラン、トルエンなどが知られているが、引火性が強いという問題点があるため、殆ど実用化されていない。このような中で安全且つ低コストなめっき液として、特許文献1などにはジメチルスルホンを溶媒とした低温溶融塩電解めっき液が報告されている。
【特許文献1】特開2004-76031号公報(特許請求の範囲、図1、図2)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、このめっき液は湿度の制御が難しく、水分を吸収して塩化水素を発生し、未析等の欠陥を生じるという問題がある。これらの欠陥は、被めっき物の表面積が大きくなり、形状が複雑になるほど顕著となる傾向にある。また、生成するアルミニウム被膜は純アルミニウムの約10倍の硬度を有しており、延性に欠け、下地との密着性が悪いという問題がある。
【0004】
本発明は、添加物を加えることによって、ジメチルスルホン溶媒を用いたアルミニウムめっき液から水分を効果的に除去し、めっき膜の不良発生を抑制すると共に、下地との密着性の良い被膜を生成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、ジメチルスルホンとアルミニウムハロゲン化物からなる溶融塩に禁水性物質であるジメチルアミンボラン又はその誘導体、若しくはジメチルアミンボランの分解生成物を添加することによって効果的に水分を除去し、それと同時にめっき膜の均一性及び延性を向上させることができる。
【0006】
本願第一の発明は、ジメチルスルホン10.0molに対してアルミニウムハロゲン化物を1.5〜3.0mol及びジメチルアミンボラン又はその誘導体、若しくはジメチルアミンボランの分解生成物を0.1mol以下含有することを特徴とする電解アルミニウムめっき液である。本発明では、ジメチルスルホン10.0molに対してジメチルアミンボラン又はその誘導体、若しくはジメチルアミンボランの分解生成物を0.001〜0.1mol含有することが好ましく、0.002〜0.01mol含有することが更に好ましい。
【0007】
本願第二の発明は、ジメチルスルホン10.0molに対してアルミニウムハロゲン化物を1.5〜3.0mol及びジメチルアミンボラン又はその誘導体、若しくはジメチルアミンボランの分解生成物を0.1mol以下添加してアルミニウムめっき液を建浴し、このアルミニウムめっき液を用いて被めっき物に電気めっきを施すことを特徴とするアルミニウムめっき皮膜の形成方法である。
【0008】
アルミニウム源として使用するアルミニウムハロゲン化物としては、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム等の無水塩が使用できる。めっき液中のアルミニウム濃度は、ジメチルスルホン10molに対して、1.5〜3.0molが好ましい。特に好ましくは2.0〜3.0molである。アルミニウム濃度が1.5molを下回ると黒い被膜が形成され、めっき効率が低下する。一方、アルミニウム濃度が3.0molを上回るとめっき膜の未析等の欠陥はなくなるが、液抵抗が高くなり発熱するようになる。処理温度は105℃〜115℃が好ましい。温度が105℃未満になると、粘度が高くなると共に液抵抗が上昇し、めっき膜全体が黒くなる。一方、115℃を超えると錯体構造が変化し、生成する被膜は全体的に黄色く変色する。電流密度は1〜15A/dm2が好ましい。特に好ましくは4〜7.5A/dm2である。電流密度が1A/dm2未満になると被膜が生成しなくなる。一方、15A/dm2を超えるとヤケが顕著となる。
【0009】
ジメチルアミンボランの誘導体としては、トリメチルアミンボラン、トリエチルアミンボラン等が挙げられるが、添加量に対する効果が最も大きいのはジメチルアミンボランである。なお、ジメチルアミンボランは71℃以上で分解することが知られているが、めっき温度はこれより高温であるため、展性向上に関しては分解生成物を添加しても効果が期待できる。
【0010】
メッキ液中の添加物であるジメチルアミンボランの濃度は、ジメチルスルホン10molに対して、0.1mol以下であり、好ましくは0.001〜0.1molの範囲である。更に好ましくは0.002〜0.01molの範囲である。添加物の濃度が0.001mol未満になると、水分除去の効果が小さくなる。一方、0.1molを超えると効果が飽和すると共に、発火の可能性があり危険である。被めっき物に形成されるアルミニウムめっき皮膜の付き回りに関して言えば0.002〜0.01molの範囲で付き回りの良い皮膜が得られる。
【発明の効果】
【0011】
本発明を用いれば、不良発生が少なく、下地との密着性の良いアルミニウムめっき膜を電解めっき法により得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の電解アルミニウムめっき液について、その実施例を以下に述べる。被めっき物にはどのような素材を用いてもめっき可能であるが、本発明では縦80mm×横80mm×厚さ1mmの銅板を使用した。まず、試料表面の酸化膜等を取り除くため、表面を研磨した後、水洗し、温風にて十分に乾燥した。
【0013】
(比較例1)
無水塩化アルミニウムとジメチルスルホンが1:5のモル比となるようにアルミニウムめっき液を建浴した。陽極には純度99.99%のAl板を使用し、陰極に試料を設置して110℃にて4mA/dm2の電流密度で50min間通電した。被膜には図3に示すような未析個所がスジ状に発生した。図4はその断面写真であるが、スジ状の部分で膜厚が薄くなっている。図2上段の写真に示したとおり銅板の端部と中央部におけるそれぞれの膜厚T0e,T0cを比較すると端部の膜厚が厚くなっており、アルミニウムめっき膜の付き回りは良くないことが分かる。付き回りの評価については、被めっき試料の中央部及び端部におけるそれぞれの膜厚を断面観察により測定し、場所による膜厚の差が小さいほど電界分布が均一であり付き回りが良好であると判断した。
【0014】
(実施例1)
比較例1と同じ組成のめっき液にジメチルスルホン10molに対してジメチルアミンボラン(DMAB)0.0028molを添加し、発泡がなくなったのを確認後、比較例1と同じ条件でめっきを行った。めっき膜の外観観察から未析個所は消滅していることを確認した。また、めっき膜は、JIS G 3312記載の折り曲げ試験でも剥離せず、密着性は良好である。図2下段の写真に示したとおり銅板の端部と中央部におけるそれぞれの膜厚T1e,T1cはほぼ同じ厚さでありアルミニウムめっき膜の付き回りは良好であった。

【0015】
(実施例2)
比較例1と同じ組成のめっき液にジメチルスルホン10molに対してジメチルアミンボラン0.005molを添加し、発泡がなくなったのを確認後、比較例1と同じ条件でめっきを行った。図1に示すように未析個所は消滅した。また、めっき膜は、JIS G 3312記載の折り曲げ試験でも剥離せず、密着性は良好である。アルミニウムめっき膜の付き回りは良好であった。
【0016】
(実施例3)
比較例1と同じ組成のめっき液にジメチルスルホン10molに対してジメチルアミンボラン0.055molを徐々に添加し、発泡がなくなったのを確認後、比較例1と同じ条件でめっきを行った。実施例1と同様に未析個所は消滅した。このめっき膜も、折り曲げにより剥離しなかった。アルミニウムめっき膜の付き回りは実施例1,2に比べやや劣るものの実用上問題のない程度であった。
【0017】
(比較例2)
比較例1と同じ組成のめっき液にジメチルスルホン10molに対してジメチルアミンボラン0.790molを添加したところ、ジメチルアミンボランが急激に反応し、緑色の炎を発生した。
【0018】
【表1】

【0019】
(実施例4)
比較例1と同じ組成のめっき液にジメチルスルホン10molに対してトリメチルアミンボラン0.051molを添加し、発泡がなくなったのを確認後、比較例1と同じ条件でめっきを行った。このとき生成した被膜でも未析個所は認められなかった。また、めっき膜の密着性も良好であった。アルミニウムめっき膜の付き回りは実施例1,2に比べやや劣るものの実用上問題のない程度であった。
【0020】
(比較例3)
比較例1と同じ組成のめっき液にジメチルスルホン10molに対して水素化ホウ素ナトリウム0.100molを添加し、発泡がなくなったのを確認後、比較例1と同じ条件でめっきを行った。未析個所は無添加の場合と変わらず、更にエッジのヤケが発生するようになった。
【0021】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明を用いれば、本発明を用いれば、被めっき物上に不良発生が少なく、下地との密着性の良いアルミニウムめっき膜を電解めっき法により形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】ジメチルアミンボラン0.005mol添加後のめっき膜外観写真である。
【図2】ジメチルアミンボラン添加によるめっき膜の付き回り改善効果を示す断面写真である。
【図3】ジメチルアミンボラン無添加でのめっき膜外観写真である。
【図4】図3の試料断面写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルスルホン10.0molに対してアルミニウムハロゲン化物を1.5〜3.0mol及びジメチルアミンボラン又はその誘導体、若しくはジメチルアミンボランの分解生成物を0.1mol以下含有することを特徴とする電解アルミニウムめっき液。
【請求項2】
ジメチルスルホン10.0molに対してジメチルアミンボラン又はその誘導体、若しくはジメチルアミンボランの分解生成物を0.001〜0.1mol含有することを特徴とする請求項1に記載の電解アルミニウムめっき液。
【請求項3】
ジメチルスルホン10.0molに対してジメチルアミンボラン又はその誘導体、若しくはジメチルアミンボランの分解生成物を0.002〜0.01mol含有することを特徴とする請求項1に記載の電解アルミニウムめっき液。
【請求項4】
ジメチルスルホン10.0molに対してアルミニウムハロゲン化物を1.5〜3.0mol及びジメチルアミンボラン又はその誘導体、若しくはジメチルアミンボランの分解生成物を0.1mol以下添加してアルミニウムめっき液を建浴し、このアルミニウムめっき液を用いて被めっき物に電気めっきを施すことを特徴とするアルミニウムめっき皮膜の形成方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−161154(P2006−161154A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324575(P2005−324575)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【Fターム(参考)】