説明

電解コンデンサ用陰極箔およびその製造方法

【課題】電解コンデンサ用陰極箔の電解液中での溶解を抑制し、静電容量の低下を抑えながら、耐水性に優れた陰極箔およびその製造方法を提供する。
【解決手段】粗面化されたエッチング箔にモリブデン酸ナトリウム等のモリブデン酸塩とリン酸を含む水溶液に浸漬する浸漬処理を行い、エッチング箔表面にモリブデンとリンを含む皮膜が形成されてなることを特徴とする電解コンデンサ用陰極箔、およびその製造方法を提供する。上記電解コンデンサ用陰極箔の製造方法において、浸漬処理温度が25〜70℃、浸漬処理液中のモリブデン酸ナトリウム濃度が0.05〜0.25wt%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解コンデンサ用陰極箔およびその方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電解コンデンサの低インピーダンス化が求められる中、低インピーダンス製品に用いられる電解液は、水を多量に含む構成となっている。
水を多量に含む電解液中では、アルミニウム陰極箔は、水和反応を起こして劣化するだけではなく、溶質として添加されている各種有機酸の錯化反応の活性化により、アルミニウムの溶解反応による劣化が促進される。よって、低インピーダンス製品に使用する電解コンデンサ用陰極箔は、耐水性、錯化反応に対する安定性に優れたものが求められている。
【0003】
電極箔の劣化が促進されると、電解コンデンサは、静電容量の減少や漏れ電流特性の劣化、また溶解反応に伴って発生する水素ガスにより、安全弁の開弁に到るという問題が発生する。特に陰極箔は陽極箔のように、厚い酸化皮膜に覆われていないので、電解液中での溶解反応が起こりやすい。
【0004】
従来から、陰極箔にリン酸水溶液で、浸漬処理または化成処理を行うと、このような電極箔の劣化防止効果があることはよく知られている。(たとえば非特許文献1、特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−162791
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】永田伊佐也、「電解液陰極アルミニウム電解コンデンサ」、日本蓄電器工業株式会社、平成9年2月24日、P339−341
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、現在の低インピーダンス製品に用いられる電解液は、従来の電解液よりさらに水を多く含む電解液で、従来から知られているリン酸による浸漬処理では、十分な効果を得ることはできず、溶解反応を更に抑制することのできる処理が求められている。
【0008】
また、リン酸水溶液による化成処理により耐水性を上げる方法やリン酸水溶液のリン酸濃度を上げて浸漬する方法では、耐水性は改善されるが、静電容量の減少が非常に大きい。よって、静電容量を低下させずに溶解反応を抑制することのできる処理、およびその処理による陰極箔が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は、電解コンデンサ用陰極箔において、粗面化されたエッチング箔の表面にモリブデンとリンを含む皮膜(モリブデン酸またはモリブデン酸塩、リン酸またはリン酸塩の形で含む皮膜)が形成されてなることを特徴とする電解コンデンサ用陰極箔である。
【0010】
また、電解コンデンサ用陰極箔の製造方法において、粗面化されたエッチング箔をモリブデン酸塩とリン酸を含む水溶液に浸漬する処理を行い、エッチング箔の表面にモリブデンとリンを含む皮膜を形成することを特徴とする電解コンデンサ用陰極箔の製造方法である。
【0011】
さらに、前記モリブデン酸塩として、モリブデン酸ナトリウムを用いたことを特徴とする電解コンデンサ用陰極箔の製造方法である。
【0012】
そして、電解コンデンサ用陰極箔の製造方法において、浸漬処理温度が25〜70℃であることを特徴とする電解コンデンサ用陰極箔の製造方法である。
【0013】
また、前記浸漬処理液中のモリブデン酸ナトリウム濃度が0.05〜0.25wt%であることを特徴とする電解コンデンサ用陰極箔の製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、粗面化処理されたエッチング箔を、モリブデン酸塩とリン酸を含む水溶液で浸漬処理し、モリブデンとリンを含む酸化皮膜を形成することにより、陰極箔の電解液中での溶解を抑制し、静電容量の低下を抑えながら、耐水性に優れた、信頼性の高い電解コンデンサ用陰極箔を得ることができる。この理由は必ずしも明確ではないが、耐食性を持つモリブデンと耐水性に効果のあるリンを含む酸化皮膜が、両者の相乗効果により、電解液中での陰極箔の皮膜溶解を抑制していると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
【0016】
[実施例1〜5]浸漬処理温度の比較
公知の方法により、アルミニウム原箔に、エッチング(粗面化)処理を行い、エッチング箔試料を作製した。エッチング処理後、45℃、0.5wt%のリン酸溶液に浸漬し、残留塩素イオンを除去した。次いで表1に示すように、モリブデン酸ナトリウム0.15wt%とリン酸0.10wt%を含む水溶液を温度20、25、50、70、80℃に設定して、当該水溶液に浸漬処理処理後、400℃で熱処理を行い、モリブデンとリンを含む皮膜が形成された陰極箔試料を作製した。
【0017】
[実施例6〜11、3]モリブデン酸ナトリウム水溶液濃度の比較
上記実施例と同様にして、エッチング箔試料を作製し、エッチング処理後、残留塩素イオンを除去した。次いで表1に示すように、モリブデン酸ナトリウム濃度を0.03、0.05、0.10、0.15、0.20、0.25、0.30wt%と、リン酸0.10wt%を含む水溶液を50℃に設定して、当該水溶液に浸漬処理後、400℃で熱処理を行い、モリブデンとリンを含む酸化皮膜が形成された陰極箔試料を作製した。
【0018】
(比較例1、2)モリブデン酸ナトリウム単独(リン酸なし)水溶液との比較
上記実施例と同様にして、エッチング箔試料を作製し、エッチング処理後、残留塩素イオンを除去した。次いで表1に示すように、モリブデン酸ナトリウム濃度を0.15wt%とし、リン酸を含まない水溶液を50、70℃に設定して、当該水溶液に浸漬処理後、400℃で熱処理を行い、モリブデンのみ含む皮膜が形成された陰極箔試料を作製した。
【0019】
(従来例)リン酸単独(モリブデン酸ナトリウムなし)水溶液との比較
上記実施例と同様にして、エッチング箔試料を作製し、エッチング処理後、残留塩素イオンを除去した。次いで表1に示すように、リン酸濃度を0.10wt%とし、モリブデン酸ナトリウムを含まない水溶液を50℃に設定して、当該水溶液に浸漬処理後、400℃で熱処理を行い、リン酸のみ含む酸化皮膜が形成された陰極箔試料を作製した。
【0020】
上記実施例1〜11、比較例1、2、従来例による陰極箔試料を、皮膜耐圧と静電容量を測定した後、エチレングリコール40wt%、水50wt%、アジピン酸アンモニウム10wt%の電解液中に105℃の状態で、8時間浸漬を行い、浸漬後の皮膜耐圧の変化率を調べた。その結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
表1より明らかなように、モリブデン酸ナトリウムとリン酸を含む水溶液に浸漬した実施例1〜11は、リン酸のみ含む水溶液に浸漬した従来例と比較して、静電容量、皮膜耐圧の変化率が向上しており、その中でも、浸漬処理温度25〜70℃、モリブデン酸ナトリウム濃度0.05〜0.25wt%とした実施例2〜4、7〜10が特に優れている。
また、リン酸を含まずにモリブデン酸ナトリウムのみ含む水溶液に浸漬した比較例1、2は、実施例1〜11と比較して、静電容量、皮膜耐圧の変化率が低下しているため、リン酸およびモリブデン酸ナトリウムを併用することが不可欠であることが分かる。
【0023】
なお、上記実施例では、モリブデンを含む化合物として、モリブデン酸ナトリウムを用いたが、この他にも、カリウム、リチウム等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩としても用いることができる。
また、浸漬処理後の熱処理温度は、350〜550℃であればよい。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解コンデンサ用陰極箔において、
粗面化されたエッチング箔の表面にモリブデンとリンを含む皮膜が形成されてなることを特徴とする電解コンデンサ用陰極箔。
【請求項2】
電解コンデンサ用陰極箔の製造方法において、
粗面化されたエッチング箔を、モリブデン酸塩とリン酸を含む水溶液に浸漬する処理を行い、エッチング箔の表面にモリブデンとリンを含む皮膜を形成することを特徴とする電解コンデンサ用陰極箔の製造方法。
【請求項3】
前記モリブデン酸塩として、モリブデン酸ナトリウムを用いたことを特徴とする請求項2に記載の電解コンデンサ用陰極箔の製造方法。
【請求項4】
前記電解コンデンサ用陰極箔の製造方法において、
浸漬処理温度が、25〜70℃であることを特徴とする請求項3に記載の電解コンデンサ用陰極箔の製造方法。
【請求項5】
前記浸漬処理液中のモリブデン酸ナトリウム濃度が0.05〜0.25wt%であることを特徴とする請求項3または4に記載の電解コンデンサ用陰極箔の製造方法。



【公開番号】特開2010−219083(P2010−219083A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60437(P2009−60437)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)