説明

電解セルのための微細構造化された絶縁フレーム

本発明は、微細構造化された内部部分(9)を有し、この構造化された部分が、膜(1)に部分的または完全に重なる場合でも電解液の浸透を可能にする、電解セルの絶縁フレーム(4)に関し、またそれを備える電解セルに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜電解セルのための構成要素に関し、詳細には、膜と直接接触する領域内でもプロセス電解液の浸透を可能にする、構造化された内部部分を備える絶縁フレームを対象とする。別の態様では、本発明は、そのような微細構造化された絶縁フレームを備える電解セルを対象とする。
【背景技術】
【0002】
塩素および水素ガスならびに/または苛性ソーダ溶液の生成用のいくつかのタイプの電解セルが、当技術分野で知られている。特に、既存の産業用で最も一般的なセル設計は、フィルタプレス型、および要素が電気的に直列に接続される「単一セル要素」型である。
【0003】
単一セル要素設計は、たとえばDE10249508A1およびDE102004028761A1に開示されており、それぞれアノードおよびカソードを収容するアノードまたはカソード半殻体(semi−shell)からなる。電極間にはイオン交換膜が位置決めされ、適切なフランジによって定位置で保持される。DE102004028761A1に指定されるように、アノード半殻体のフランジと膜との間に絶縁フレームが配置され、それに応じて、膜は、カソード半殻体および絶縁フレームの表面間に固定され、適切な位置で保持される。
【0004】
この膜は、通常スルホン酸層およびカルボン酸層を含み、セル組立て工程中は張力を加えられず、単に半殻体のうちの一方の上に水平に配置されるので、絶縁フレームはまた、膜が動作中に発振し、アノード半殻体の金属表面と接触するのを防止する働きをする。この点に関しては、アノード半殻体とフランジとの間の遷移領域は、短絡を防止し、かつ膜を損傷から保護するために特に重要である。上の理由のため、絶縁フレームは必要以上に大きく、その結果、内部室内へ数ミリメートル突出し、半殻体の隣接する金属表面から膜を分離する。
【0005】
この安全対策の有害な影響は、接触領域内の膜が不活性化することである。カソード室内の圧力がアノード室内の圧力より高いので、膜は、アノード室の方へおよび/またはフレームの突出する領域に対して押し付けられ、したがって、接触領域内の反対側しか濡れない可能性がある。
【0006】
こうしてアノード側面を覆い隠す現象のため、カソード側面に存在する吸湿性の苛性溶液は、この領域内の膜を脱水する傾向があり、したがってカルボン酸層内に塩の沈殿を引き起こし、最終的に膨れて、2つの膜層の層間剥離、および/または亀裂という現象をもたらす。これらの損傷は、眼に見えることもあるが、塩化物イオンが損傷した領域を通って拡散によってカソード室へ移動するために、苛性生成物中の塩化物濃度が高くなることによって検出されることもある。この有害な影響を克服するために、絶縁フレームの寸法設定または位置決めを改善することによってこれまで実施された取り組みは、満足できるものではなく、したがって、より高い塩化物濃度が長期間にわたって許容され、またはより頻繁に膜が交換されなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的の1つは、カソード側面への塩化物イオンの流動を最小化することによって、またはそれを完全に防止することによって、膜の周囲領域の損傷を軽減することである。
【0008】
上記の目的、および当業者には明らかになるであろう他の目的は、添付の特許請求の範囲に開示される技術的解決策によって実現される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一実施形態では、本発明は、アノード側面およびカソード側面からなりかつ外部および内部当接面を有する平坦部分を備え、内部当接面に隣接する外縁部分を含み、かつ部分的または完全に覆われまたは重なる場合に、電解液によって浸透できるように構成された、電解セルのための絶縁フレームを対象とする。好ましい一実施形態では、縁部分は、微細構造化された表面である。この縁部分は、連続しており、かつ内部当接面の周囲全体に沿って延びることが好ましい。
【0010】
好ましい一実施形態では、外縁部分は、多数の様々な形状の突起を備える平坦な段状部分の形である。そのような突起は、筒状または球状の隆起部の形であると有利である。
別の実施形態では、外縁部分は、一連の波状または切り込み状の隆起部および窪み部を備え、その構造は、波状部または切り込み状部がフレームの幅に沿って広がるように構成され、したがってアノード液は、アノード室からこの領域まで前後に流れまたは拡散することができる。特に好ましい構造では、波状部または切り込み部は、多数の小さな開口を備え、2方向のアノード液の通過を改善する。そのような開口は、穴、溝状窪み部、または任意の他の適切な幾何形状として形成することができる。
【0011】
本発明による絶縁フレームの一実施形態では、外縁部分に配置されかつ絶縁フレームの厚さ全体を貫通する多数の小さな開口、孔、または穴によって、追加の有利な特徴が与えられる。前記開口は、絶縁フレームの表面に設けられた通路を通じて相互に流動的に連通し、好ましくは、アノード側面に、すなわち膜と反対の側面に配置される。開口を互いにまたは内部当接面と流動的に連通させる通路は、絶縁フレームの平坦部分の両方に設けられると有利である。両側にこの通路構造が存在することで、アノード液の供給および排出を向上させる。
【0012】
この構成のさらなる利益は、製造および組立て公差を大きくするということである。
別の態様では、本発明は、セルの2つの半殻体を封止しかつ/または膜を定位置で保持するための前述の絶縁フレームを含む電解セルを対象とする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、当技術分野で知られる電解セルのフランジ領域の一部分を示す。膜1は、アノード半殻体2およびカソード半殻体3の2つのフランジ間で固定され、アノード半殻体2と膜1との間に絶縁フレーム4が配置される。標準的な組立ての場合、絶縁フレーム4の領域5は、電解セルの内部に突出する。
【0014】
カソード室6内の圧力が、アノード室7内の圧力より20から40ミリバール高いので、膜1は、フレームの突出する領域5に押し付けられ、アノード室7から来るアノード液によって、局所的に濡らされる可能性がなくなる。
【0015】
図2は、本発明による絶縁フレームが取り付けられた、電解セルのフランジ領域の同等の一部分を示す。絶縁フレーム4は段状部分(ステップ)として形成されており、外縁部分8と対応関係にある段状部分の縁部10の厚さは、周囲の領域より縮小される。膜1を水和された状態で維持するために、多数の球状隆起部9が外縁部分8に配置され、前記隆起部9は、膜のうちのアノード室7に面する側面を完全に隠すことなく、この側面が部分的に露出されたままにして、膜1を支持する。
【0016】
この場合、絶縁フレーム4および段状部分の縁部10は、前記縁部10が2つの半殻体のフランジ領域内に配置されるように、位置決めされる。したがって、取り付けに際して、膜1は、縁部10で絞られ、かつ両側面が不活性化され、その結果、片側だけの湿潤が妨げられて、膜の劣化が防止される。図1に示す従来技術の設計と異なり、この場合、フレームの突出する領域5は、より大きい公差で製造しかつ組み立てることができる。
【0017】
図3aは、複数の通路14および小さな複数の開口15を備える、本発明による絶縁フレーム4の隅部の上部図を示す。外側当接面13と内側当接面12との間の外縁部分8は、線で示すように、横および縦方向に延びる微小通路14を通じて相互に流動的に連通する多数の開口15を備える。外縁部分8の外側のより大きい複数の開口11は、フランジ(図示せず)を締めるために使用される固定ボルト用のものである。
【0018】
図3bは、図3aの断面線A−Aに沿った、絶縁フレーム4の拡大された細部を示す。アノード側面17がカソード側面16と同等の形で形成されており、また複数の微小通路14が、絶縁フレームの両側に設けられかつ網状に配置されて、複数の開口15を相互に流動的に連通させることを示す。内部当接面12に垂直に配置された微小通路14は、アノード室7の方向に開き、その結果アノード液は、通路網に浸透し、開口15の端まで流れて、最後には膜のうちのアノード室7に面する側面に到達することができる。
【実施例】
【0019】
比較のために、膜表面積が2.7mの産業用電解セルを、電流密度が6kA/mの標準状態で作動させ、苛性生成物中の塩化物濃度を監視した。生成物苛性ソーダ中の塩化物濃度の初期値は、14から20ppmの範囲であり、約200日間の作動後にゆっくりと上昇し始め、約1年後に50ppmの値を上回った。
【0020】
150日の期間後には、既に膜の外縁上で膨れの発生を観察することが可能であった。
本発明によって形成された絶縁フレームを備えた、膜表面積が2.7平方メートルの同等の電解セルが、同様の耐久試験にかけられた。
【0021】
200日間の試験後、塩化物濃度の上昇は観察されず、より重要なことに、全試験期間中、膨れの現象は発生しなかった。後者の態様は、カソード室内の塩化物濃度が、全時間にわたって低レベルのままであり、膜の寿命を延長させたことを確実に示す。
【0022】
上の説明は、本発明を限定するものとして理解されてはならず、本発明の範囲から逸脱することなく、異なる実施形態によって実施することができ、その範囲は、添付の特許請求の範囲によってのみ規定される。
【0023】
本出願の記載および特許請求の範囲では、「含む(comprise)」という単語ならびに「含む(comprising)」および「含む(comprises)」などのその変化形は、他の要素または追加の構成要素の存在を排除するものでない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】従来技術の電解セルのフランジ領域の一部分の図である。
【図2】本発明による絶縁フレームを含む電解セルのフランジ領域の一部分の図である。
【図3a】本発明による絶縁フレームの一実施形態の構造上の細部を示す図である。
【図3b】本発明による絶縁フレームの一実施形態の構造上の細部を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平坦部分を備える電解セルのための絶縁フレームであって、前記平坦部分は、アノード側面およびカソード側面からなり、かつ外部および内部当接面を有する、絶縁フレームにおいて、前記内部当接面に隣接する外縁部分が、部分的または完全に覆われまたは重なる場合に、電解液によって浸透できるように構成されることを特徴とする、絶縁フレーム。
【請求項2】
前記外縁部分が、微細構造化された表面を有することを特徴とする、請求項1に記載のフレーム。
【請求項3】
前記外縁部分が、連続しており、かつ前記内部当接面の周囲全体に沿って延びることを特徴とする、請求項1または2に記載のフレーム。
【請求項4】
前記外縁部分が、多数の突起を含む平坦な段状部分として形成されることを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載のフレーム。
【請求項5】
前記突起が、筒状または球状の隆起部の形であることを特徴とする、請求項4に記載のフレーム。
【請求項6】
前記外縁部分が、一連の、波状または切り込み状の隆起部および窪み部を備えることを特徴とする、請求項1乃至4の何れか一項に記載のフレーム。
【請求項7】
前記波状または切り込み状の隆起部および窪み部が、前記フレームの幅に沿って広がることを特徴とする、請求項6に記載のフレーム。
【請求項8】
前記外縁部分が、多数の開口を備えることを特徴とする、前記請求項の何れか一項に記載のフレーム。
【請求項9】
前記開口が、穴または溝状窪み部として形成されることを特徴とする、請求項8に記載のフレーム。
【請求項10】
前記開口が、複数の通路を通じて互いに流動的に連通しており、前記複数の通路は、前記外縁部分の少なくとも一方の側面に設けられることを特徴とする、請求項8または9に記載のフレーム。
【請求項11】
複数の通路を備える前記フレームの前記少なくとも一方の側面が、前記アノード側面であることを特徴とする、請求項10に記載のフレーム。
【請求項12】
膜によって細分されたアノード室およびカソード室を含む電解セルにおいて、前記請求項に記載の絶縁フレームをさらに含むことを特徴とする、電解セル。
【請求項13】
実質的に、図面を参照して示しかつ説明するような、電解セルのための絶縁フレーム。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【公表番号】特表2009−535501(P2009−535501A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−507095(P2009−507095)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【国際出願番号】PCT/EP2007/054177
【国際公開番号】WO2007/125107
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(502043101)ウデノラ・ソチエタ・ペル・アツィオーニ (14)