説明

電解メッキ装置

【課題】溶解性アノードを使用する場合でも、膜厚や組成が均一なメッキ膜を形成できる噴流型の電解メッキ装置を提供する。
【解決手段】電解メッキ装置1は、メッキ液が流入される流入孔20fと当該流入されたメッキ液の噴流を排出する開口部20aとを有するメッキ槽20と、前記メッキ槽内における前記流入孔と前記開口部との間に配置され、溶解性アノード電極30を弾性力で支持する弾性支持部材33とを備える。カソード電極をなす被メッキ材Wは、メッキ槽20の開口部20a付近に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解メッキ技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程では、ウエハなどの被処理材の表面に金や銅などの金属膜を形成するために、いわゆる噴流型の電解メッキ装置を使用することがある。噴流型の電解メッキ装置は、金属イオンや錯イオンを含む電解質溶液すなわちメッキ液の噴流を生成し、カソードをなす被メッキ材の表面にその噴流を衝突させて金属膜(メッキ膜)を還元析出させるものである。この種の噴流型の電解メッキ装置は、たとえば、特開2006−265709号公報(特許文献1)に開示されている。
【0003】
特許文献1に開示されている電解メッキ装置は、メッキ槽と、このメッキ槽の内部にメッキ液を噴出させるメッキ液供給管と、メッキ槽の内部に配置された板状のアノード電極体と、メッキ槽の上方に配置された被メッキ材とを有する。アノード電極体は、メッキ液供給管から噴出されたメッキ液を通過させる貫通孔(ノズル穴)を有し、この貫通孔を通過したメッキ液の噴流が被メッキ材の表面に衝突させられる。アノード電極体は、リン銅などを含有する溶解性アノードであり、メッキに使用される金属イオンや錯イオンは、このアノード電極体から溶出してメッキ液中に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−265709号公報(段落0029〜0030、段落0036〜0043、図1,図2など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の通り、特許文献1に開示されているアノード電極体は、溶解性アノードである。このため、メッキ処理が進行すると、溶解して寸法が変化したアノード電極体と、このアノード電極体をメッキ槽に固定する部材(たとえば、ボルト)との間に隙間が生じ、これによりメッキ液の噴流圧を受けたアノード電極体が振動することがある。このようなアノード電極体の振動が生ずると、メッキ膜の膜厚や組成を均一にすることができないという問題があった。
【0006】
上記に鑑みて本発明の目的は、溶解性アノードを使用する場合でも、膜厚や組成が均一なメッキ膜を形成することができる電解メッキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による電解メッキ装置は、メッキ液が流入される流入孔と当該流入されたメッキ液の噴流を排出する開口部とを有し、前記開口部付近にカソード電極をなす被メッキ材が配置されるメッキ槽と、前記メッキ槽内における前記流入孔と前記開口部との間に配置され、溶解性アノード電極を弾性力で支持する単数または複数の弾性支持部材とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明による電解メッキ装置は、金属イオンまたは錯イオンの供給源である溶解性アノードを使用する場合でも、膜厚や組成が均一なメッキ膜を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明に係る実施の形態1の噴流型の電解メッキ装置の概略構成を示す図である。
【図2】実施の形態1のメッキ槽内に配置されたアノード電極を示す装置断面図である。
【図3】図2のアノード電極を上方から見たときのアノード電極の平面図である。
【図4】実施の形態1のアノード電極30の裏面に形成された環状凹部(座ぐり)を概略的に示す図である。
【図5】実施の形態1のメッキ槽の開口部付近にウエハWを配置させた状態を示す図である。
【図6】(A),(B)は、比較例の構成を示す断面図である。
【図7】本発明に係る実施の形態2のメッキ槽内に配置されたアノード電極を示す装置断面図である。
【図8】図7のアノード電極を上方から見たときのアノード電極の平面図である。
【図9】実施の形態2の変形例のアノード電極の平面図である。
【図10】本発明に係る実施の形態3のメッキ槽内に配置されたアノード電極を示す装置断面図である。
【図11】本発明に係る実施の形態4のメッキ槽内に配置されたアノード電極を示す装置断面図である。
【図12】図11のアノード電極を上方から見たときのアノード電極の平面図である。
【図13】本発明に係る実施の形態5のメッキ槽内に配置されたアノード電極を示す装置断面図である。
【図14】図12のアノード電極を上方から見たときのアノード電極の平面図である。
【図15】実施の形態3の変形例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照しつつ説明する。
【0011】
実施の形態1.
図1は、本発明に係る実施の形態1の噴流型の電解メッキ装置1の概略構成を示す図である。図1に示されるように、この電解メッキ装置1は、被メッキ材であるウエハWを上方から押圧するための押圧部材10と、メッキ液40を貯溜する容器であるメッキ槽(内槽)20と、メッキ槽20の開口部20aの縁から溢れ出たメッキ液40を貯溜する容器である外槽21と、メッキ液40をメッキ槽20の内部に流入させるメッキ液供給部23と、アノード用の上部電極17と、カソード用の上部電極13,15とを備える。
【0012】
メッキ液供給部23は、ポンプ24と流量制御弁25とを有する。ポンプ24は、外槽21から排出されたメッキ液40を流量制御弁25を介してメッキ槽20の流入孔20fに向けて圧送(ポンプアップ)する機能を有する。流量制御弁25は、オペレータにより指定された流量のメッキ液40がメッキ槽20内を循環するようにメッキ液40の流量を制御する。
【0013】
押圧部材10は、メッキ槽20に対して昇降自在に移動することができる。ウエハWの表面には、メッキ膜が形成されるべき領域にシード層(図示せず)が別工程で形成されている。カソード用の上部電極13,15は爪部14,16とそれぞれ接続され、これら爪部14,16は、環状の支持台12の上に水平方向(ウエハWの径方向)へ移動自在に載置されている。後述するように、上部電極13,15は、これら爪部14,16の内部配線(図示せず)を介してウエハWのシード層(カソード)と電気的に接続される。なお、図1に示した上部電極13,15と爪部14,16以外にも、カソード用の複数の上部電極と爪部との組(図示せず)が支持台12上に配列されている。
【0014】
メッキ槽20は、下方のメッキ液供給管22からメッキ液40が流入される流入孔20fを有している。また、メッキ槽20の内部には、流入孔20fの直上にアノード電極30が着脱自在に取り付けられる。アノード電極30の形状は、メッキ液40の流入方向40jに厚みを有する円板形状である。このアノード電極30は、メッキ槽20に貯溜されたメッキ液40に完全に浸漬するように配置される。また、アノード電極30は、メッキ液40中に金属イオンあるいは錯イオンを供給する溶解性アノードである。ウエハWの被メッキ面にCu(銅)膜を析出させる場合には、たとえば、メッキ液40として硫酸銅溶液を使用し、アノード電極30の構成材料として銅主成分のリン銅を使用すればよい。このアノード電極30の中心部には、メッキ液40を流通させる貫通孔30cが形成されている。
【0015】
図2は、メッキ槽20内に配置されたアノード電極30を示す装置断面図である。また、図3は、図2のアノード電極30を上方から見たときのアノード電極30の平面図である。図2では、メッキ槽20及びアノード電極30が断面で示されているが、ボルト31Aの頭部31Ah、ボルト31Aの軸部31As、ボルト31Bの頭部31Bh及び圧縮弾性部材33は、断面で示されていない。図2に示されるように、アノード電極30の周縁部はメッキ槽20の内壁の一部をなす環状支持部20wによって支持されている。
【0016】
また、図2及び図3に示されるように、アノード電極30の周縁部は、当該周縁部に沿って環状に配列された金属製のボルト31A,31B,31Cによってメッキ槽20に取り付けられている。具体的には、図2に示されるように、ボルト31A,31Bの軸部31As,31Bsがアノード電極30のボルト挿通孔を介してメッキ槽20のボルト取付孔とそれぞれ螺合し、ボルト31A,31Bの頭部31Ah,31Bhがアノード電極30の表面と当接して当該周縁部を下方に押圧している。ボルト31Cについても同様である。これらボルト31A,31B,31Cは、メッキ液40の流入方向40jとは逆方向へアノード電極30の周縁部を押圧するものである。なお、アノード電極30をメッキ槽20の内壁に取り付ける部材として、本実施の形態ではボルト31A,31B,31Cが使用されるが、これらに限定されるものではなく、ボルト以外の結合部材を使用してもよい。
【0017】
一方、アノード電極30の中心部付近では、アノード電極30の裏面とメッキ槽20の内壁との間に圧縮変形した圧縮弾性部材(弾性支持部材)33が介在している。この圧縮弾性部材33の下端はメッキ槽20の内壁によって支持され、圧縮弾性部材33の上端は、アノード電極30の裏面により押圧されている。このため、圧縮弾性部材33は、アノード電極30の裏面の中心部付近をメッキ液40の流入方向40jへ弾性付勢する。圧縮弾性部材33の構成材料としては、メッキ液40に対して耐腐食性を有する導電性材料であればよく、たとえば、タンタル(Ta)、チタン(Ti)あるいは白金(Pt)などの金属材料やこれらのうち少なくとも1種以上の元素を含む合金材料を使用すればよい。本実施の形態では、圧縮弾性部材33として圧縮コイルバネが使用されるが、これに限定されるものではない。
【0018】
なお、アノード電極30の裏面には、圧縮弾性部材33の上端を係止する凹状または凸状の座ぐり(係止部)が形成されていてもよい。これにより、圧縮弾性部材33は、メッキ液40の流圧に対してアノード電極30の裏面を安定した状態で支持することができる。図4は、アノード電極30の裏面に形成された環状凹部の座ぐり30aを有するアノード電極30の一部断面と圧縮弾性部材33の断面とを概略的に示す図である。図4に示されるように圧縮弾性部材33の一端(上端)が座ぐり30aに係止されている。
【0019】
ボルト31Aの軸部は、図1に示されるようにメッキ槽20内に設けられた配線18を介してアノード用の上部電極17と電気的に接続されている。また、ボルト31Aの軸部31Asは、メッキ槽20内の別の配線19を介して圧縮弾性部材33と電気的に接続されている。このため、上部電極17は、メッキ槽20内の配線18,19とボルト31Aと圧縮弾性部材33とを介してアノード電極30に電圧を供給することができる。
【0020】
図5は、メッキ処理の際にウエハWをメッキ槽20の開口部20a付近に配置させた状態を示す図である。ウエハWの周縁部は、環状の支持台12上に載置される。押圧部材10は、メッキ槽20の開口部20aを完全に塞ぐことなく、このウエハWの裏面を押圧してウエハWの被メッキ面をメッキ液40に浸漬させつつ、ウエハWの側面をメッキ液40に浸漬させないように配置される。爪部14,16はそれぞれウエハWの側面と当接するように配置される。このようにしてカソード用の上部電極13,15は、爪部14,16を介してウエハWのカソードと電気的に接続することができる。この状態でアノード用の上部電極17とカソード用の上部電極13,15との間に定電流を流すことにより、アノード電極30からメッキ液40中に溶出した金属イオンあるいは錯イオンがウエハWの表面に到達しカソードから電子を得てメッキ膜を形成する。なお、本実施の形態では、押圧部材10は、ウエハWを保持する構成を有していないが、たとえばウエハWの裏面を真空吸着してウエハWを保持し得るように押圧部材10の構成を変更してもよい。
【0021】
以上に説明したように実施の形態1の電解メッキ装置1では、圧縮弾性部材33が溶解性のアノード電極30を弾性力で支持しているので、メッキ処理の進行とともに、アノード電極30が溶解してその外形寸法が変化した場合でも、メッキ液40の流圧を受けたアノード電極30が振動することを抑制することができる。したがって、膜厚や組成が均一なメッキ膜を形成することができるという効果が得られる。
【0022】
図6(A),(B)は、この効果を説明するための比較例の構成を示す断面図である。この比較例の構成は、圧縮弾性部材33と配線19とが設けられていない点を除いて、実施の形態1の図2及び図3の構成と同じである。図6(A)に示されるように、メッキ処理の開始当初は、アノード電極30は、ボルト31A,31B,31Cによってメッキ槽20の内壁に固定されているので、メッキ液40の流圧を受けても振動しない。しかしながら、メッキ処理が進行した後は、図6(B)に示されるように、アノード電極30の厚みは小さくなり、ボルト31A,31B,31Cを通すボルト挿通孔の径も大きくなるので、アノード電極30とボルト31A,31B,31Cとの間に隙間が生じる。この状態でメッキ液40の流圧を受けるとアノード電極30は大きく振動し、これによりメッキ膜の膜厚や組成を制御することができないという問題がある。これに対し、実施の形態1の構成では、図2に示したように、アノード電極30の中心部付近は、圧縮弾性部材33によってメッキ液40の流入方向40jへ弾性付勢されているので、アノード電極30の溶解が進行しても、結合部材であるボルト31A,31B,31Cの頭部にアノード電極30を押し当てることができる。これにより、アノード電極30の振動(バタツキ)を抑制することが可能である。
【0023】
また、溶解性のアノード電極30は消耗品であるため、アノード電極30を定期的に交換する必要がある。この交換作業に伴い、メッキ液40の入れ替えや電解メッキ装置の動作の再調整が必要となるので、アノード電極30の交換頻度が高いほど、製造コストが上昇したり歩留まりが低下したりするという問題がある。本実施の形態では、アノード電極30の交換頻度を少なくすることができるので、比較例の構成と比べて、生産性の向上、製造コストの低減並びに歩留まり向上を実現することができるという利点がある。
【0024】
また、圧縮弾性部材33は、メッキ液40の流圧が高いアノード電極30の貫通孔30cの周囲を弾性的に支持するように配置されるので、アノード電極30の振動を効果的に抑制することができる。
【0025】
また、本実施の形態では、アノード用上部電極17は、圧縮弾性部材33を介してアノード電極30と電気的に接続されているので、上部電極17からアノード電極30に安定した電圧を供給することができる。このため、良質なメッキ膜を形成することができる。
【0026】
実施の形態2.
次に、本発明に係る実施の形態2の噴流型の電解メッキ装置について説明する。本実施の形態の電解メッキ装置の構成は、アノード電極30を弾性力で支持する弾性支持部材の構成と内部配線とメッキ槽の一部の構成とを除いて、上記実施の形態1の電解メッキ装置1の構成とほぼ同じである。
【0027】
図7は、実施の形態2のメッキ槽20M内に配置されたアノード電極30を示す装置断面図である。また、図8は、図7のアノード電極30を上方から見たときのアノード電極30の平面図である。図7では、メッキ槽20M及びアノード電極30が断面で示されているが、ボルト31Aの頭部31Ah、ボルト31Aの軸部31As、ボルト31Bの頭部31Bh及び圧縮弾性部材33A,33Bは、断面で示されていない。図7及び図8の構成要素のうち図2及び図3の構成要素と同じ符号が付されたものは、図2及び図3の当該構成要素と同じ構成を有するので、その詳細な説明を省略する。また、メッキ槽20Mの構造は、当該メッキ槽20Mの内壁が図7に示されるように平坦な底面を有している点を除いて、実施の形態1のメッキ槽20の構造と同じである。
【0028】
図7及び図8に示されるように、アノード電極30の裏面とメッキ槽20Mの内壁の平坦面との間には、圧縮変形した複数の圧縮弾性部材(弾性支持部材)33A,33B,33Cが介在している。これら圧縮弾性部材33A,33B,33Cは、アノード電極30の中心部(貫通孔30c)を取り囲むように且つアノード電極30の周縁部に沿って配列されている。また、これら圧縮弾性部材33A,33B,33Cの下端は、メッキ槽20Mの内壁によって支持され、圧縮弾性部材33A,33B,33Cの上端は、アノード電極30の裏面により押圧されている。このため、圧縮弾性部材33A,33B,33Cは、貫通孔30cの周囲でアノード電極30の裏面をメッキ液40の流入方向40jへ弾性付勢する。圧縮弾性部材33A,33B,33Cの構成材料は、実施の形態1の圧縮弾性部材33の構成材料と同じとすることができる。
【0029】
また、ボルト31Aの軸部31Asは、メッキ槽20内の配線19Mを介して圧縮弾性部材33Aと電気的に接続されている。このため、上部電極17は、メッキ槽20内の配線18,19Mとボルト31Aと圧縮弾性部材33Aとを介してアノード電極30に電圧を供給することができる。
【0030】
なお、アノード電極30の裏面には、圧縮弾性部材33A,33B,33Cの上端をそれぞれ係止する凹状または凸状の座ぐり(係止部)が形成されていてもよい。これにより、圧縮弾性部材38A,38B,38Cは、メッキ液40の流圧に対してアノード電極30の裏面を安定した状態で支持することができる。たとえば、図4に示した座ぐり30aのようにアノード電極30の裏面の3箇所にそれぞれ環状凹部を形成し、これらを圧縮弾性部材33A,33B,33Cの上端を係止する座ぐりとすることができる。
【0031】
また、図9の上面図に示されるように、圧縮弾性部材33A,33B,33Cの位置をアノード電極30の外周側に移動させてもよい。
【0032】
以上に説明したように実施の形態2の電解メッキ装置では、圧縮弾性部材33A,33B,33Cが溶解性のアノード電極30を弾性力で支持しているので、メッキ処理の進行とともに、アノード電極30が溶解してその外形寸法が変化した場合でも、メッキ液40の流圧を受けたアノード電極30が振動することを抑制することができる。特に、圧縮弾性部材33A,33B,33Cは、アノード電極30の裏面を複数点で支持するので、アノード電極30の振動を効果的に抑制することができる。したがって、上記実施の形態1の場合と同様に、膜厚や組成が均一なメッキ膜を形成することができる。また、アノード電極30の交換頻度を低くすることができるので、生産性の向上、製造コストの低減並びに歩留まり向上を実現することができる。
【0033】
実施の形態3.
次に、本発明に係る実施の形態3の噴流型の電解メッキ装置について説明する。本実施の形態の電解メッキ装置の構成は、アノード電極30を弾性力で支持する弾性支持部材の構成を除いて、上記実施の形態1の電解メッキ装置1の構成とほぼ同じである。
【0034】
本実施の形態の弾性支持部材は、アノード電極30をメッキ槽20の内壁に固定するためのボルト31A,31B,31Cの軸部にそれぞれ巻回されてアノード電極30の裏面を弾性付勢するものである。図10は、このような弾性支持部材を用いた電解メッキ装置の構成の一部を概略的に示す断面図である。図10に示されるように、ボルト31Aの軸部31Asに弾性支持部材である圧縮弾性部材39Aが巻回され、他のボルト31Bの軸部31Bsにも弾性支持部材である圧縮弾性部材39Bが巻回されている。なお、図10に示されないボルト31Cの軸部31Csにも圧縮弾性部材が巻回されている。これら圧縮弾性部材39A,39Bは、アノード電極30の裏面とメッキ槽20の内壁の平坦面との間に圧縮変形した状態で介在する。圧縮弾性部材39A,39Bの構成材料は、実施の形態1の圧縮弾性部材33の構成材料と同じとすることができる。
【0035】
実施の形態3の電解メッキ装置では、圧縮弾性部材33A,33Bが溶解性のアノード電極30を弾性力で支持しているので、メッキ処理の進行とともに、アノード電極30が溶解してその外形寸法が変化した場合でも、メッキ液40の流圧を受けたアノード電極30が振動することを抑制することができる。特に、圧縮弾性部材33A,33Bは、ボルト31A,31Bの軸部31As,31Bsにそれぞれ巻回されているので、メッキ液40の流圧に対して安定した姿勢で且つ複数点でアノード電極30を弾性力で支持することが可能である。よって、アノード電極30の振動を効果的に抑制することができる。したがって、膜厚や組成が均一なメッキ膜を形成することができる。また、アノード電極30の交換頻度を低くすることが可能なので、生産性の向上、製造コストの低減並びに歩留まり向上を実現することができる。
【0036】
実施の形態4.
次に、本発明に係る実施の形態4の噴流型の電解メッキ装置について説明する。本実施の形態の電解メッキ装置の構成は、アノード電極30を弾性力で支持する弾性支持部材の構成を除いて、上記実施の形態1の電解メッキ装置1の構成と略同じである。
【0037】
図11は、実施の形態4のメッキ槽20内に配置されたアノード電極30を示す装置断面図である。また、図12は、図11のアノード電極30を上方から見たときのアノード電極30の平面図である。図11では、メッキ槽20及びアノード電極30が断面で示されているが、ボルト31Aの頭部31Ah、ボルト31Aの軸部31As、ナット32A、ボルト31Bの頭部31Bh、ナット32B、板バネ37A,37B及び圧縮弾性部材38A,38Bは、断面で示されていない。図11及び図12の構成要素のうち図2及び図3の構成要素と同じ符号が付されたものは、図2及び図3の構成要素と同じ構成を有するので、その詳細な説明を省略する。
【0038】
図11及び図12に示されるように、アノード電極30の裏面は、当該アノード電極30の周縁部に沿って環状に配列された複数個のくの字状の板バネ37A,37B,37Cによってメッキ液40の流入方向40jへ弾性力で支持されている。これら板バネ37A,37B,37Cの先端部37At,37Bt,37Ctとアノード電極30の裏面との間に圧縮変形した圧縮弾性部材38A,38B,38Cが介在している。ここで、アノード電極30の裏面には、圧縮弾性部材38A,38B,38Cの上端をそれぞれ係止する凹状または凸状の座ぐり(係止部)が形成されていてもよい。これにより、圧縮弾性部材38A,38B,38Cは、メッキ液40の流圧に対してアノード電極30の裏面を安定した状態で支持することができる。たとえば、図4に示した座ぐり30aのようにアノード電極30の裏面の3箇所にそれぞれ環状凹部を形成し、これらを圧縮弾性部材38A,38B,38Cの上端を係止する座ぐりとすることができる。
【0039】
一方、図11に示されるように、板バネ37Aの基端部37Abは、アノード電極30の周縁部とともに、ボルト31Aとナット32Aとを用いてメッキ槽20の内壁に固定されており、板バネ37Bの基端部37Bbも、アノード電極30の周縁部とともに、ボルト31Bとナット32Bとを用いてメッキ槽20の内壁に固定されている。板バネ37Cの基端部37Cbについても同様である。これら板バネ37A,37B,37Cの基端部37Ab,37Bb,37Cbにはそれぞれボルト31A,31B,31Cの軸部を通すボルト挿通孔が形成されている。なお、アノード電極30を固定する手段は、ボルトとナットとに限定されるものではない。
【0040】
板バネ37A,37B,37Cと圧縮弾性部材38A,38B,38Cとの構成材料としては、メッキ液40に対して耐腐食性を有し且つ弾性変形する材料(たとえば、タンタル(Ta)、チタン(Ti)あるいは白金(Pt)などの金属材料やこれらのうち少なくとも1種以上の元素を含む合金材料)を使用すればよく、特に制限されるものではない。なお、本実施の形態では、圧縮弾性部材38A,38B,38Cとして圧縮コイルバネが使用されるが、これに限定されるものではない。
【0041】
以上に説明したように実施の形態4の電解メッキ装置では、溶解性のアノード電極30の裏面が板バネ37A,37B,37Cと圧縮弾性部材38A,38B,38Cとを用いて弾性力で支持されているので、メッキ処理の進行とともに、アノード電極30が溶解してその外形寸法が変化した場合でも、メッキ液40の流圧を受けたアノード電極30が振動することを抑制することができる。したがって、上記実施の形態1の場合と同様に、膜厚や組成が均一なメッキ膜を形成することができる。また、アノード電極30の交換頻度を低くすることができるので、生産性の向上、製造コストの低減並びに歩留まり向上を実現することができる。
【0042】
また、板バネ37A,37B,37Cと圧縮弾性部材38A,38B,38Cとは、円板状のアノード電極30の周縁に沿って配列され、アノード電極30の裏面を複数点で支持するので、アノード電極30の振動を効果的に抑制することができる。
【0043】
実施の形態5.
次に、本発明に係る実施の形態5の噴流型の電解メッキ装置について説明する。本実施の形態の電解メッキ装置の構成は、アノード電極30を弾性力で支持する弾性支持部材の構成を除いて、上記実施の形態1の電解メッキ装置1の構成とほぼ同じである。
【0044】
図13は、実施の形態5のメッキ槽20内に配置されたアノード電極30を示す装置断面図である。また、図14は、図13のアノード電極30を上方から見たときのアノード電極30の平面図である。図13では、メッキ槽20及びアノード電極30が断面で示されているが、ボルト31Aの頭部31Ah、ボルト31Aの軸部31As、ナット32A、ボルト31Bの頭部31Bh、ナット32B及び弾性把持部材35A,35Bは、断面で示されていない。図13及び図14の構成要素のうち図2及び図3の構成要素と同じ符号が付されたものは、図2及び図3の当該構成要素と同じ構成を有するので、その詳細な説明を省略する。
【0045】
図13及び図14に示されるように、アノード電極30の周縁部のおもて面と裏面とは、弾性把持部材(クリップ部材)35A,35B,35Cによって弾性力で把持されている。弾性把持部材35A,35B,35Cの基端部35Ab,35Bb,35Cbは、ボルト31A,31B,31Cの軸部をそれぞれ通すボルト挿通孔を有している。図6に示されるように、弾性把持部材35Aの基端部35Abは、ナット32Aとボルト31Aとを用いてメッキ槽20の内壁に固定されている。同様に、弾性把持部材35Bの基端部35Bbは、ナット32Bとボルト31Bとを用いてメッキ槽20の内壁と固定され、弾性把持部材35Cの基端部35Cbも、ナット(図示せず)とボルト31Cとを用いてメッキ槽20の内壁と固定されている。なお、アノード電極30を固定する手段は、ボルトとナットとに限定されるものではない。
【0046】
弾性把持部材35A,35B,35Cの構成材料としては、メッキ液40に対して耐腐食性を有し且つ弾性変形する材料(たとえば、タンタル(Ta)、チタン(Ti)あるいは白金(Pt)などの金属材料やこれらのうち少なくとも1種以上の元素を含む合金材料)を使用すればよく、特に制限されるものではない。
【0047】
以上に説明したように実施の形態5の電解メッキ装置では、弾性把持部材35A,35B,35Cが溶解性のアノード電極30を弾性力で支持しているので、メッキ処理の進行とともに、アノード電極30が溶解してその外形寸法が変化した場合でも、メッキ液40の流圧を受けたアノード電極30が振動することを抑制することができる。特に、弾性把持部材35A,35B,35Cは、アノード電極30の周縁部のおもて面と裏面とを弾性力で把持しているので、メッキ処理の進行とともに、アノード電極30の厚みが小さくなっても、弾性把持部材35A,35B,35Cとアノード電極30との間に隙間が生じることがない。これにより、アノード電極30の振動(バタツキ)を効果的に抑制することが可能である。したがって、上記実施の形態1の場合と同様に、膜厚や組成が均一なメッキ膜を形成することができる。また、アノード電極30の交換頻度を低くすることができるので、生産性の向上、製造コストの低減並びに歩留まり向上を実現することができる。
【0048】
また、弾性把持部材35A,35B,35Cは、円板状のアノード電極30の周縁に沿って均等に配列され、アノード電極30の周縁部を複数点で支持するので、アノード電極30の振動を効果的に抑制することができる。
【0049】
実施の形態1〜5の変形例.
以上、図面を参照して本発明に係る実施の形態について述べたが、これらは本発明の特に好適な例示であり、上記以外の様々な形態を採用することもできる。たとえば、アノード電極30を上方から下方へ弾性付勢する構成を採用することもできる。図15は、このような構成を実現する上記実施の形態3の変形例を示す断面図である。図15に示されるように圧縮弾性部材39A,39Bは、ボルト31A,31Bの軸部31As,31Bsにそれぞれ巻回され、アノード電極30のおもて面(上面)とボルト31A,31Bの頭部31Ah,31Bhとの間に圧縮変形した状態で介在する。
【0050】
また、上記実施の形態1〜5では、アノード電極30は、メッキ液40を通過させる1つの貫通孔30cを中央部に有しているが、貫通孔の位置及び数はアノード電極30のそれらに限定されるものではない。
【0051】
また、被メッキ材としてウエハWを例に挙げて説明したが、被メッキ材はウエハWに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0052】
W ウエハ(被メッキ材)、 1 電解メッキ装置、 10 押圧部材、 12 支持台、 13,15 カソード用上部電極、 14,16 爪部、 17 アノード用上部電極、 18,19,19M 配線、 20,20M メッキ槽(内槽)、 20a 開口部、 20f 流入孔、 21 外槽、 22 メッキ液供給管、 23 メッキ液供給部、 24 ポンプ、 25 流量制御弁、 30 アノード電極、 30c 貫通孔、 31A〜31C ボルト、 32A〜32C ナット、 33,33A〜33C 圧縮弾性部材、 35A〜35C 弾性把持部材(クリップ)、 37A〜37C 板バネ、 38A〜38C,39A〜39C 圧縮弾性部材、 40 メッキ液。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メッキ液が流入される流入孔と当該流入されたメッキ液の噴流を排出する開口部とを有し、前記開口部付近にカソード電極をなす被メッキ材が配置されるメッキ槽と、
前記メッキ槽内における前記流入孔と前記開口部との間に配置され、溶解性アノード電極を弾性力で支持する単数または複数の弾性支持部材と
を備えることを特徴とする電解メッキ装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電解メッキ装置であって、
前記溶解性アノード電極を前記メッキ槽に取り付ける結合部材をさらに備え、
前記弾性支持部材は、前記溶解性アノード電極を前記メッキ液の流入方向へ弾性付勢する
ことを特徴とする電解メッキ装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電解メッキ装置であって、前記結合部材は、前記溶解性アノード電極を前記メッキ液の流入方向とは逆方向へ押圧することを特徴とする電解メッキ装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の電解メッキ装置であって、前記弾性支持部材は、前記メッキ槽の内壁と前記溶解性アノード電極との間に介在する圧縮弾性部材であることを特徴とする電解メッキ装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電解メッキ装置であって、前記圧縮弾性部材は、圧縮コイルバネであることを特徴とする電解メッキ装置。
【請求項6】
請求項2から5のうちのいずれか1項に記載の電解メッキ装置であって、
前記溶解性アノード電極の周縁部が前記結合部材によって前記メッキ槽に取り付けられており、
前記溶解性アノード電極の中心部付近が前記弾性支持部材によって弾性付勢されている
ことを特徴とする電解メッキ装置。
【請求項7】
請求項2から5のうちのいずれか1項に記載の電解メッキ装置であって、
前記弾性支持部材は、複数存在し、
前記複数の弾性支持部材は、前記溶解性アノード電極の中心部を取り囲むように配列されている
ことを特徴とする電解メッキ装置。
【請求項8】
請求項2から5のうちのいずれか1項に記載の電解メッキ装置であって、
前記結合部材は、前記溶解性アノード電極に形成された挿通孔に挿通され前記メッキ槽の内壁に固定された軸部を有し、
前記弾性支持部材は、前記軸部に巻回されている
ことを特徴とする電解メッキ装置。
【請求項9】
請求項2または3に記載の電解メッキ装置であって、前記弾性支持部材は、前記溶解性アノード電極を弾性力で支持する板バネであることを特徴とする電解メッキ装置。
【請求項10】
請求項9に記載の電解メッキ装置であって、前記板バネの先端部と前記溶解性アノード電極との間に介在する圧縮変形した圧縮弾性部材をさらに備えることを特徴とする電解メッキ装置。
【請求項11】
請求項10に記載の電解メッキ装置であって、前記圧縮弾性部材は、圧縮コイルバネであることを特徴とする電解メッキ装置。
【請求項12】
請求項1に記載の電解メッキ装置であって、
前記弾性支持部材を前記メッキ槽に取り付ける結合部材をさらに備え、
前記弾性支持部材は、前記溶解性アノード電極の周縁部を弾性力で把持する弾性把持部材である
ことを特徴とする電解メッキ装置。
【請求項13】
請求項2から12のうちのいずれか1項に記載の電解メッキ装置であって、前記結合部材は、ボルトを含むことを特徴とする電解メッキ装置。
【請求項14】
請求項2から13のうちのいずれか1項に記載の電解メッキ装置であって、前記溶解性アノード電極の形状は、前記メッキ液の流入方向に厚みを有する板形状であることを特徴とする電解メッキ装置。
【請求項15】
請求項14に記載の電解メッキ装置であって、前記溶解性アノード電極は、前記メッキ液を通過させる少なくとも1つの貫通孔を有することを特徴とする電解メッキ装置。
【請求項16】
請求項1から15のうちのいずれか1項に記載の電解メッキ装置であって、
前記溶解性アノード電極に電圧を供給する上部電極をさらに備え、
前記弾性支持部材は、導電性材料からなり、
前記溶解性アノード電極は、前記弾性支持部材を介して前記上部電極と電気的に接続されている
ことを特徴とする電解メッキ装置。
【請求項17】
請求項1から16のうちのいずれか1項に記載の電解メッキ装置であって、前記溶解性アノード電極は、前記弾性支持部材を係止する係止部を有することを特徴とする電解メッキ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−246544(P2012−246544A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−120458(P2011−120458)
【出願日】平成23年5月30日(2011.5.30)
【出願人】(308033711)ラピスセミコンダクタ株式会社 (898)