説明

電解処理槽の電極清掃機構

【課題】 電解処理槽の分解等の必要なく内部の電極の表面を清掃できる簡便な電極清掃機構を提供する。また、ドレン水処理装置の運転中であっても、装置を停止させることなく電極の清掃を行える電極清掃機構を提供する。
【解決手段】 容器の一部を兼ねる略円筒形の陰極と、その内側に一定間隔を隔てて設けられた略円筒形の陽極とからなる二重構造の電解処理槽において、両電極表面に接する環状のブラシを有する清掃具を設け、容器に設けられた開口を貫通して外部に突出する棒状の取っ手を設け、該取っ手の操作により清掃具を摺動させることができるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は正負の電極を備えた電解槽、特にコンプレッサ用ドレン水処理装置の電解処理槽において、電極を簡便に清掃するための機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ドレン水処理装置等においては、排水の浄化のため吸着材を充填した吸着処理槽にドレン水を通して油粒子の吸着処理を行う。しかしドレン水に含まれる帯電した油粒子は水中では負電荷により反発し合って微細な粒子のまま集合しにくく、安定なコロイド溶液(エマルジョン)を形成するため、処理効率を低下させる。そこでエマルジョンを破壊して油分が凝集しやすくするために電解凝集方式を採用している。電解凝集方式では、吸着処理槽の前段に電解処理槽を設け、金属イオンを供給して帯電を除去し油分を凝集させ、吸着処理槽における油分の吸着を促進することができる。この方式は吸着材の使用効率を高めることにより、装置全体をコンパクトにでき、また薬品を使用する凝集に比べてランニングコストが低い等の利点がある。
【0003】
特開平11−114304号記載の発明は、ドレン水の受入口と分離水の排出管とを備えた貯溜槽からなる浮上油分離手段と、前記排出管を介して前記貯溜槽と連結する電解槽中にアルミニウム電極を収納して成る電解分離手段と、該電解分離手段によって処理されたドレン水を内部に収納した吸着材で吸着する吸着分離手段とを備えた油水分離装置を提案している。
【特許文献1】特開平11−114304号公報
【0004】
特開2003−260466号公報記載の発明は、分離槽、電解槽とドレン水送り込み手段を備えた密閉加圧式油水分離器において、ドレンの送り込みから油粒子の帯電除去に要する一定時間後に自動的に電極電流を遮断することにより、吸着材の劣化を早めるフロックの生成を抑制している。この発明において、電解槽は陽極及び陰極を有し、陽極にはアルミニウムや銅などの負電荷中和能力の大きい溶出金属電極を使用し、陰極はステンレス鋼のような安定した材料で構成している。陰極はまたステンレス製の電解槽容器で代用することもできる。
【特許文献2】特開2003−260466号公報
【0005】
電解槽中の構造は、ドレン送り込み手段から送り込まれたドレン水がすぐに出口から流出することがないように、一定の回り込みを有するような迂回式の流路とすることが提案されている。例えば特許文献2の図2に示される電解槽は、ドレン入口及びドレン出口を上部に設けた略円筒形のステンレス鋼の容器が陰極を兼ねる構成とし、内部にアルミニウム製の円筒形の電極(陽極)を収容する二重構造としている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ドレン水処理装置等の電解処理槽においては、電極を使用しているうちに凝集した油分が電極表面にバター状に堆積し、厚み10mmまでに達することがあり、有効な表面積が減少して処理効率の低下をきたす問題がある。これを防ぐためには定期的な電極清掃が不可欠であるが、従来の電解槽の構造では電極を掃除するには装置を停止させなければならないことはもちろん、電解槽の配線コードを外し容器の蓋を開けて容器から電極を引抜く必要もあった。そこでこれらの作業工数や作業者の汚れなどが重大な問題となっていた。
【0007】
本発明は、電解処理槽の分解等の必要なく内部の電極の表面を清掃できる簡便な電極清掃機構を提供することを目的とする。また、ドレン水処理装置の運転中であっても、装置を停止させることなく電極の清掃を行える電極清掃機構を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本出願の請求項1記載の発明は、電解処理槽において、少なくとも一つの軸に関して両電極の間隔がほぼ一定となるようにし、両電極表面にならう形状の清掃具をこの軸に沿って摺動可能に設置することにより、電解槽から取出さずに電極表面を清掃できるようにした電解処理槽の清掃機構により、上記の課題を解決する。すなわち、両電極の間隔を一定として所定形状の清掃具が電極に接したまま一つの軸に沿って移動できるように構成する。好ましくは清掃具を非導電性材料で構成し、形状をドレン水の流通を妨げないブラシ構造とすることにより、通常運転時にも清掃を行うことが可能となる。また、清掃を行わない時には清掃具を電極の端部を越えて移動させ、例えば容器底部に収納するなどして通常運転を妨げない構造とすることもできる。
【0009】
本出願の請求項2記載の発明は、前記清掃具の摺動方向に面する側に、容器に設けられた開口を貫通して外部に突出する棒状の取っ手を設け、該取っ手の操作により清掃具を摺動させることができるようにした請求項1記載の電解処理槽の電極清掃機構により、上記の課題を解決する。すなわち請求項1記載の発明において、清掃具を手動で移動するための取っ手をさらに設けたものである。例えば清掃具の移動を上下方向として、容器の上部より取っ手を突出させれば、この取っ手を上下に動かして容易に電極の清掃を行うことができる。
【0010】
本出願の請求項3記載の発明は、前記電極が、容器の一部を兼ねる略円筒形の陰極と、その内側に一定間隔を隔てて設けられた略円筒形の陽極とからなり、前記清掃具は、両電極表面に接する円環状のブラシを有することを特徴とする請求項1又は2記載の電解処理槽の電極清掃機構により、上記の課題を解決する。特許文献1記載の電解槽と類似した電解処理槽において、円環状の清掃手段を設けることにより、電極の表面を合理的に清掃できるようにした。また清掃具をブラシ構造とすることにより、清掃中であってもドレン水の流通が可能となるようにした。油分の堆積量に合わせて、内側電極と外側電極に対してブラシ部分が異なる圧力で接するようにすることもできる。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る電解処理槽の電極清掃機構を用いれば、ドレン水処理装置等の電解処理槽において、電解槽の配線コードを外したり容器の蓋を開けて容器から電極を引抜く必要なく電極の清掃が可能となる。また清掃具を非導電性材料で構成し、形状をドレン水の流通を妨げないブラシ構造とすれば、通常運転時にも清掃を行うことが可能となる。清掃具によってかき取られた電極表面の堆積物は容器出口から徐々に排出されるので、後段の吸着処理槽等で容易に補集することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明の具体的な実施形態について説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は本発明の電極清掃機構を備えた電解処理槽1の縦断面図、図2は清掃機構の動作説明図である。図において参照符号2は上下に分割された略円筒形のステンレス製の電解槽容器であり、陰極の機能をも有している。電解槽容器2の上部にはドレン水入口2aとドレン水出口2bが設けられている。3はアルミニウム製の略円筒形の電極(陽極)であり、電解槽容器2の上部に結合されたテンションボルト5が容器の上面及びドレン管を貫通して電極3の底部に固定されている。ドレン水入口から内側に延びたドレン管4の先端部はゴム製の絶縁部を介して電極3の上部に結合されている。なお本実施例の処理槽1は開放型であり、電解槽容器2の蓋は容器に固定されていなくてもよい。
【0014】
電極3の底部にはドレン水が徐々に出入りできる小孔3aが設けられ、電極3の周囲と容器2との間隔はほぼ一定となるように調節され、電解槽内のドレンはいったん容器の底部を迂回する二重構造となっている。なお、電極3の下端と容器2の底部との間は、ドレン水の流路に加えて、後述する清掃具の本体を収容するための一定の空間を含むようになっている。テンションボルト5の上部及び容器2に設けられた端子はそれぞれ図示しない電源制御部を介して電源に接続されている。
【0015】
通常運転時の電解処理槽1の作用を説明すると、図示しない前処理槽又は送り込み手段からドレン管4をへて電極3内に流入したドレン水は、電極3の内側を下降したあと電極3底部の小孔3aを通って容器2と電極3の間の空間に流出し、再び電極3の外側を上昇してドレン水出口2bから流出する。小孔3aの効果によりドレン水は容器2と電極3の間をゆっくりと進み、その間に電極3からのイオンにより帯電を除去され、油粒子同士の反発力が除かれ凝集しやすい状態となるので、図示しない後段の吸着処理槽等で容易に補集される。
【0016】
本発明では電極3の清掃のためにさらに清掃具6が設けられている。清掃具6は非導電性のプラスチックからなり、輪状の丈夫な本体6aに多数の柔軟な放射状の枝部6bを設けたことにより円環状のブラシ構造の清掃手段を構成している。さらに本体6aの180°離れた2箇所からそれぞれ上方に丈夫な棒状の取っ手6cを固定している。取っ手6cは直線的に上方に延びて電解処理槽1の上部に設けられた対応する孔部2cを貫通して外側に突出し、容器を閉じたままでも取っ手6cを操作できるようになっている。電極3の外面は円筒形であるから、取っ手6cを上下に摺動させると、清掃具6は枝部6bを電極3の表面に接触させたまま取っ手6cと共に摺動する。枝部6bからなる円環状部分の幅が電極3及び容器2の間隔よりも短くなっているので、枝部6bと容器2とは接触しない。
【0017】
清掃を行わない通常運転時には、取っ手6cは下方に押し下げられ、本体6a及び枝部6bが電極3の下端よりもさらに下降し、図2のように電解処理槽1の底部の上の空間に本体6aが収容された状態となっている。この状態ではドレン水は本体6aの上側を通るから、清掃具6はドレン水の流れをほとんど妨げない。
【0018】
ドレン水処理装置を一定期間(例えば1週間程度)運転して電極の清掃が必要になったら、清掃具の取っ手6cを手で引き上げて清掃具本体を電極3に接触させ、さらに取っ手6cを上下させて電極3表面のバター状の堆積物をかき取るようにする。この堆積物は処理後の浮上油と同じような成分からなるので、大部分はドレン水と共に容器出口から徐々に排出される。そして清掃が終わったら再び取っ手6cを押し下げて、再び電解処理槽1の底部に本体6aが収容された状態とする。この間、枝部6bの外側及び枝部の隙間を通してドレン水の流通は保たれるので処理装置の運転を停止する必要はない。
【実施例2】
【0019】
図2は本発明の電極清掃機構を備えた別のタイプの電解処理槽の縦断面図であり、類似の部品には上と同じ参照符号を用いている。上下に分割された略円筒形のステンレス製の電解槽容器2は陰極の機能をも有しており、上部にはドレン水入口2aとドレン水出口2bが設けられている。3はアルミニウム製の略円筒形の電極(陽極)であり、電解槽容器2の上部に結合されたテンションボルト5が電極3の上部に固定されている。また電極3の上部はゴム製の絶縁部を介してヘッダ8に接続され、該ヘッダ8にドレン水入口から内側に延びたドレン管4の先端部が結合されている。電極3の下端は開放されており、実施例1と同様に、電解槽内のドレンがいったん容器の底部を迂回する二重構造となっている。
【0020】
本実施例でも電極3の清掃のために本体6a、枝部6b、取っ手6cからなる清掃具6が設けられている。本実施例では枝部6bからなる円環状部分の幅は電極3及び容器2の間隔よりも少し長くなっているので、枝部6bは容器2の内側と電極3の外側に同時に接触し、両側の油分の堆積を一度にかき落とすことができる。
【0021】
本実施例ではさらに、容器2の底部の周囲に清掃具6の本体6aと枝部6bが入り込める大きさの溝部2dが設けられており、清掃を行わないときに清掃具6を押し下げて本体6aと枝部6bの大部分を収容させておくことができる。従って容器2の底部と電極3の底部の間隔が小さくても、清掃具6がドレン水の流れを妨げないようにすることができる。
【0022】
上記の各実施例では電極が円筒形、清掃具本体が環状、取っ手が直線状のもので構成しているが、本体や取っ手の形状を変えることにより様々な形状の電極に対応させることができる。電極清掃手段はブラシ構造に限らず他のものでもよいが、その場合もドレン水が通り抜けられる構造のものが好ましい。清掃具の非使用時には上記の実施例のように清掃具本体を容器の底部に下げておく方法のほか、容器内のドレン水面よりも上方に引き上げておく方法も考えられる。
【0023】
本実施例では清掃具に取っ手を設けて容器の外側から手動で操作方法するものとしているが、取っ手を設けず清掃具本体を適当な駆動装置に結合して自動運転することも可能である。また清掃具本体を適当な自重及び比重の材料で構成すれば、ドレン水の流通時には水勢によってドレン水出口よりも上方に押し上げられ、停止時には自重で内側電極の下端付近まで下降するような構成とすることもできる。この場合、ドレン水が間欠的に噴出することによって、動力を加えなくとも自然に清掃具本体が上下し電極を清掃するような効果が期待できる。またこれに本体が回転するような運動を加えて、かき取り効果を高めることもできる。
【0024】
本実施例では開放型の容器を使用しているが、取っ手と容器の接合部を気密な構造としたり、または上記の自動運転方式を採用することにより、加圧形の処理槽にも対応することができることはもちろんである。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明によれば電解処理槽を分解せずに内部の電極を清掃することができるので、作業工数や作業者の汚れなどを大きく低減できる。従って無理なく定期的な電極清掃を行うことができ産業上の利用可能性は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の電極清掃機構を有する電解処理槽の縦断面図である。
【図2】本発明の電極清掃機構の動作を示す説明図である。
【図3】実施例2に係る電極清掃機構を有する電解処理槽の縦断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 電解処理槽
2 容器
2a ドレン水入口
2b ドレン水出口
2c 孔部
2d 溝部
3 電極
3a 小孔
4 テンションボルト
6 清掃具
6a 本体
6b 枝部
6c 取っ手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解処理槽において、いずれかの電極の断面が少なくとも一つの軸に関してほぼ一定となるようにし、電極表面にならう形状の清掃具をこの軸に沿って摺動可能に設置することにより、電解処理槽から取出さずに電極表面を清掃できるようにした電解処理槽の電極清掃機構。
【請求項2】
前記清掃具の摺動方向に面する側に、容器に設けられた開口を貫通して外部に突出する棒状の取っ手を設け、該取っ手の操作により清掃具を摺動させることができるようにした請求項1記載の電解処理槽の電極清掃機構。
【請求項3】
前記電極は、容器の一部を兼ねる略円筒形の陰極と、その内側に一定間隔を隔てて設けられた略円筒形の陽極とからなり、前記清掃具は、両電極表面に接する円環状のブラシを有することを特徴とする請求項1又は2記載の電解処理槽の電極清掃機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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