説明

電解加工装置

【課題】従来よりも高精度な電解加工を低コストで行う。
【解決手段】電解液を用いて加工対象物に所望の機械加工を施す加工機本体1と、該加工機本体1で使用された使用済電解液X1からスラッジを除去するスラッジ除去部7と、該スラッジ除去部7でスラッジが除去された電解液X2を回収して加工機本体1に循環的に供給する電解液供給手段と、からなる電解加工装置であって、スラッジ除去部7は、使用済電解液X1からスラッジを分離する液体サイクロン2と、該液体サイクロン2から排出されたスラッジを濃縮して濃縮スラッジとするスラッジ濃縮部3と、濃縮スラッジを間欠的に外部に排出する排出機構4とを備えてなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電解加工は、周知のように、電解液中に被加工金属と工具電極とを対峙させて電解液中に浸漬させ、工具電極を移動させつつ電解液を介して両者間に通電することにより被加工金属の表面に所望の機械加工を施すものである。このような電解加工は、加工速度が速いことと共に加工精度が高いことから、タービン翼や自動車部品等の大量かつ高精度を要する金属部品の加工に利用されている。また、このような電解加工における加工精度は、周知の平衡加工隙間理論に従うものであり、一般には電解液の組成、pH値、比重、温度、圧力等を一定値に管理することにより維持されている。
【0003】
下記特許文献1には、このような電解加工の関連技術として、電解加工に使用された電解液(硝酸塩を主成分とするもの)を再生する技術が開示されている。すなわち、電解液の性状は加工精度に大きな影響を与えるので、特許文献1の技術では、電解加工に使用されたことによって不純物(スラッジ)の混入した電解液について、電解液中のスラッジを沈殿槽で比重分離した後、フィルタープレスや遠心分離機等で除去することにより使用前の状態に再生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−34299号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献1の技術は、スラッジのみを精度良く選択的に分離するものではなく、電解液から分離されたスラッジには多量の電解液が含まれている。したがって、特許文献1の技術には、スラッジの後処理に必要となるエネルギー量と薬剤量とが多くなり、この結果として電解加工コストが高くなるという問題がある。また、スラッジと共に電解液が多量に系外に排出されるので、電解加工に供される電解液の組成変動が大きく、この結果として加工精度が低下するという問題点がある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、スラッジの除去と同時に外部に排出される電解液の量を減少させることにより、電解加工の低コスト化及び高精度化を実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、第1の解決手段として、電解液を用いて加工対象物に所望の機械加工を施す加工機本体と、該加工機本体で使用された使用済電解液からスラッジを除去するスラッジ除去部と、該スラッジ除去部でスラッジが除去された電解液を回収して前記加工機本体に循環的に供給する電解液供給手段と、からなる電解加工装置であって、前記スラッジ除去部は、前記使用済電解液からスラッジを分離する液体サイクロンと、該液体サイクロンから排出されたスラッジを濃縮して濃縮スラッジとするスラッジ濃縮部と、前記濃縮スラッジを間欠的に外部に排出する排出機構とを備えてなる、という手段を採用する。
【0008】
第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、スラッジ除去部が並列に複数設けられてなる、という手段を採用する。
【0009】
第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、スラッジ除去部が加圧ポンプを介して直列に複数設けられてなる、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加工機本体で使用した使用済電解液中のスラッジを液体サイクロンで分離し、スラッジ濃縮部で濃縮するので、濃縮スラッジと共に系外に排出される電解液量が減少する。
したがって、本発明によれば、スラッジの除去と同時に外部に排出される電解液の量を減少させることが可能なので、濃縮スラッジの後処理に必要とされるエネルギー量と薬剤量とを従来よりも減少させることが可能であり、よって電解加工のコストを従来よりも削減することができる。
また、本発明によれば、系外に排出される電解液の量を従来よりも減少させることができるので、電解液の組成変動が小さくなり、よって従来よりも高精度な電解加工を実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1実施形態に係る電解加工装置Aの機能構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の第2実施形態に係る電解加工装置Bの機能構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る電解加工装置Cの機能構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の第1〜第3実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
最初に、第1実施形態に係る電解加工装置Aについて説明する。本電解加工装置Aは、図1に示されているように、加工機本体1、液体サイクロン2、スラッジ濃縮部3、バルブ4、電解液貯留槽5、循環ポンプ6を備えている。
【0013】
加工機本体1は、電解液貯留槽5から供給された電解液Xを用いて被加工金属に所望の機械加工を施すものである。この加工機本体1は、一般的な電解加工機と同等な構成を有するものであり詳細構成の説明は省略するが、被加工金属と共に電解液X0中に浸漬させた工具電極を被加工金属に対して相対的に順次移動させつつ電解液X0を介して両者間に加工電流を流し、当該加工電流によって被加工金属の表面から当該被加工金属を構成する成分金属を電解液X0中に溶出させることにより、被加工金属の表面に所定の機械加工を施すものである。上記電解液X0は、例えば塩素成分が除去された水(脱塩素水)を溶媒とし、また硝酸ナトリウム(NaNO)を溶質とする導電性水溶液である。
【0014】
液体サイクロン2は、このような加工機本体1から排出された電解液、つまり被加工金属の加工に使用された使用済電解液X1から比重が比較的重いスラッジを分離するものである。上記スラッジは、加工機本体1に供された電解液X0に溶出した上記成分金属の水酸化物を主成分とする粒状物である。液体サイクロン2は、上記粒状物であるスラッジを使用済電解液X1から分離して底部排出部からスラッジ濃縮部3に排出すると共に、使用済電解液X1からスラッジが除去された電解液X2を頂部排出部から電解液貯留槽5に排出する。
【0015】
スラッジ濃縮部3は、液体サイクロン2の底部排出部に接続された管体やタンク等の貯留容器であって、液体サイクロン2で分離されたスラッジを沈降させて濃縮するものである。バルブ4は、スラッジ濃縮部3の底部に接続されており、スラッジ濃縮部3内に沈降した濃縮スラッジを間欠的に排出して、当該濃縮スラッジを電解加工装置Aの系外に排出する。なお、バルブ4は、濃縮スラッジによって閉塞しないものであれば特に限定されるものではないが、例えばロータリーバルブなどの排出機構が好適である。
【0016】
電解液貯留槽5は、液体サイクロン2の頂部排出部に接続されており、液体サイクロン2から供給された電解液X2を一時的に貯留する容器である。この電解液貯留槽5には、系外から補充される電解液X3(補充電解液)を受け入れる受入口が設けられている。この電解液貯留槽5は、当該受入口で受け入れた補充電解液X3と上記液体サイクロン2から供給された電解液X2との混合液を上記加工機本体1で使用する電解液X0として貯留する。循環ポンプ6は、電解液貯留槽5から電解液X0を払い出して加工機本体1に供給するポンプである。
【0017】
上述した本電解加工装置Aの各構成要素のうち、液体サイクロン2、スラッジ濃縮部3及びバルブ4は、使用済電解液X1に含まれるスラッジを分離して系外に排出するスラッジ除去部7を構成する。また、液体サイクロン2、電解液貯留槽5及び循環ポンプ6は、スラッジ除去部7が使用済電解液X1からスラッジを除去して得られる電解液X2に補充電解液X3を混合させて電解液X0とし、当該電解液X0を加工機本体1に循環的に供給する電解液供給手段を構成する。
【0018】
ここで、電解液の流れに着目すると、当該電解液は、上述したように途中で性状が多少変化しつつ加工機本体1、液体サイクロン2、電解液貯留槽5及び循環ポンプ6から形成される電解液循環ループ内を循環する。すなわち、加工機本体1において被加工金属の加工に供された使用済電解液X1は、廃棄されるのではなく液体サイクロン2に回収され、当該液体サイクロン2→電解液貯留槽5→循環ポンプ6を経由することによって電解液X0として再生されて加工機本体1に循環的に再供給される。
【0019】
次に、このような本電解加工装置Aを用いた電解加工方法について説明する。
本電解加工装置Aでは、加工機本体1は、循環ポンプ6から供給された電解液X0を用いて被加工金属の加工を行う。加工機本体1において被加工金属の電解加工に使用された使用済電解液X1は、液体サイクロン2によって回収されてスラッジが分離された電解液X2となり電解液貯留槽5に供給される。
【0020】
そして、電解液貯留槽5では、液体サイクロン2によるスラッジの分離・除去に伴って減少した分の補充電解液X3が上記電解液X2に補充・混合されることにより電解液X0となる。そして、電解液貯留槽5の電解液X0は、循環ポンプ6によって加工機本体1に供給される。すなわち、本電解加工装置Aにおける電解液は、加工機本体1、液体サイクロン2、電解液貯留槽5及び循環ポンプ6から構成される電解液循環ループを循環しつつ使用(スラッジ混入)と再生(スラッジ除去)とが繰り返されつつ、加工機本体1における被加工金属の電解加工に供される。
【0021】
スラッジ除去部7による使用済電解液X1からのスラッジの分離、濃縮、排出は、本電解加工装置Aの最も特徴とする点であり、以下に詳説する。
液体サイクロン2は、所定の流速で加工機本体1から流入する使用済電解液X1を旋回流とすることにより電解液よりも比重の大きなスラッジを遠心分離し、テーパー状の周壁に沿って底部に集約・沈降させる。また、液体サイクロン2は、上述したように使用済電解液X1からスラッジが分離された電解液X2を頂部排出部から排出する。そして、液体サイクロン2によって分離されたスラッジは、液体サイクロン2の底部排出部に接続されたスラッジ濃縮部3に排出される。
【0022】
スラッジ濃縮部3は、液体サイクロン2から供給されたスラッジを貯留し、沈降作用によりスラッジを高濃度化して濃縮スラッジとする。すなわち、液体サイクロン2からスラッジ濃縮部3へのスラッジの連続的な排出によって、スラッジ濃縮部3の底部にはスラッジが順次堆積して濃縮スラッジとなる。そして、スラッジ濃縮部3が閉塞しない周期でバルブ4を間欠的に開口することで、スラッジ濃縮部3から濃縮スラッジを外部に排出する。これにより、スラッジは、濃縮スラッジとして電解加工装置Aの系外に排出される。
【0023】
以上説明したように、本電解加工装置Aでは、スラッジ除去部7として液体サイクロン2、スラッジ濃縮部3及びバルブ4からなる構成を採用することにより、使用済電解液X1中からスラッジを濃縮して除去することが可能であり、スラッジと共に系外に排出される電解液量を従来よりも大幅に削減することができる。電解液の系外排出量の削減は、加工機本体1に供給される電解液X0の安定化に寄与する。すなわち、電解液の系外排出量が少ない場合、加工機本体1に供給される電解液X0の組成、導電率、pH値、比重、温度、圧力等の変動幅を小さくすることができ、この結果として電解加工の加工精度を高精度に維持することができる。
【0024】
また、本電解加工装置Aによれば、電解液の混入量が従来よりも少ない濃縮スラッジを後処理すれば良いので、当該後処理に要する種々のコストを削減することができる。すなわち、本電解加工装置Aによれば、濃縮スラッジの移送や乾燥等に要するエネルギー消費を従来よりも削減することができると共に、スラッジの洗浄や化学処理に要する薬剤量の使用量を削減することができる。さらには、スラッジと共に系外に排出される電解液の液量が従来よりも減少するので、電解液の補充量を削減することが可能であり、よって電解液の再生に要するコストを低減することができる。
すなわち、本電解加工装置Aによれば、電解加工装置Aにおけるライニングコストを従来よりも大幅に削減することができる。
【0025】
〔第2実施形態〕
次に、第2実施形態に係る電解加工装置Bについて説明する。
本電解加工装置Bは、図2に示すように、上述した第1実施形態に係る電解加工装置Aにスラッジ除去部71をさらに並列に付加した構成を有する。すなわち、本電解加工装置Bは、加工機本体1の使用済電解液X1の排出側に2つのスラッジ除去部7、71を並列配設したものである。
【0026】
本電解加工装置Bでは、加工機本体1から排出された使用済電解液X1は、2系統に分流されてスラッジ除去部7、71に並行して供給され、当該各スラッジ除去部7、71によってスラッジが並行して分離・除去される。そして、各スラッジ除去部7、71からは、濃縮スラッジがそれぞれ排出される一方、使用済電解液X1からスラッジが除去された電解液X2が電解液貯留槽5に向けて排出される。
【0027】
このような本電解加工装置Bでは、2つのスラッジ除去部7、71を並列に備えることによって、使用済電解液X1の液量変化に対応可能となる。すなわち、本電解加工装置Bによれば、一方のスラッジ除去部7の処理可能量を上回る多量の使用済電解液X1が加工機本体1から排出された場合に、使用済電解液X1を2つのスラッジ除去部7、71で並行して処理するので、未処理の使用済電解液X1がスラッジ除去部7からオーバーフローして電解液貯留槽5に流入することがない。
【0028】
したがって、本電解加工装置Bによれば、加工機本体1に供給される電解液X0の性状を第1実施形態に係る電解加工装置Aよりも安定化させることが可能であり、よって被加工金属をより高安定に電解加工することができる。
【0029】
〔第3実施形態〕
次に、第3実施形態に係る電解加工装置Cについて説明する。
本電解加工装置Cは、図3に示すように、上述した第1実施形態におけるスラッジ除去部7のスラッジの通過経路に対してスラッジ除去部72を直列に設けた構成を有する。すなわち、本電解加工装置Cは、スラッジ除去部7を構成するバルブ4の出口側に貯留タンク8と加圧ポンプ9とを介してスラッジ除去部72を接続したものである。
【0030】
本電解加工装置Cでは、加工機本体1から排出された使用済電解液X1は、一段目のスラッジ除去部7に導入されてスラッジが分離・除去される。そして、一段目のスラッジ除去部7のバルブ4から排出された若干電解液を含む濃縮スラッジは、貯留タンク8に導入されて一時的に貯留された後に加圧ポンプ9により二段目のスラッジ除去部72に圧送されてスラッジが分離・濃縮される。当該二段目のスラッジ除去部72でスラッジが除去された電解液は、一段目のスラッジ除去部7から排出された電解液X2とともに電解液貯留槽5に供給される。
【0031】
このような本電解加工装置Cでは、2つの直列配設されたスラッジ除去部7、72を備えるので、第1実施形態に係る電解加工装置Aや第2実施形態に係る電解加工装置Bよりもスラッジとともに系外に排出される電解液の量を削減することができる。したがって、本電解加工装置Cによれば、加工機本体1に供給される電解液X0の性状を第1実施形態に係る電解加工装置Aや第2実施形態に係る電解加工装置Bよりもさらに安定化させることができると共に、ライニングコストをさらに削減することができる。
【0032】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記第2、第3実施形態に係る電解加工装置B、Cは、上記第1実施形態に係る電解加工装置Aのスラッジ除去部7に対して、さらにスラッジ除去部71、72を付加した構成であるが、さらに多数のスラッジ除去部を付加してもよい。すなわち、3つ以上のスラッジ除去部を備えた構成としてもよい。
【0033】
(2)3つ以上のスラッジ除去部7を備えた構成とした場合には、全てのスラッジ除去部を並列あるいは直列で配設するほか、並列に配設された複数のスラッジ除去部の各々に対して、直列でさらにスラッジ除去部を付加した構成としてもよい。
【0034】
(3)上記第3実施形態に係る電解加工装置Cでは、一段目のスラッジ除去部7の排出側に濃縮スラッジを貯留する貯留タンク8を備えるが、当該貯留タンク8を削除した構成であってもよい。すなわち、一段目のスラッジ除去部7と二段目のスラッジ除去部72とを加圧ポンプ9を介して接続してもよい。
【符号の説明】
【0035】
A、B、C…電解加工装置、X0〜X3…電解液、1…加圧機本体、2…液体サイクロン、3…スラッジ濃縮部、4…バルブ、5…電解液貯留槽、6…循環ポンプ、7、71、72…スラッジ除去部、9…加圧ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液を用いて加工対象物に所望の機械加工を施す加工機本体と、
該加工機本体で使用された使用済電解液からスラッジを除去するスラッジ除去部と、
該スラッジ除去部でスラッジが除去された電解液を回収して前記加工機本体に循環的に供給する電解液供給手段と、からなる電解加工装置であって、
前記スラッジ除去部は、
前記使用済電解液からスラッジを分離する液体サイクロンと、
該液体サイクロンから排出されたスラッジを濃縮して濃縮スラッジとするスラッジ濃縮部と、
前記濃縮スラッジを間欠的に外部に排出する排出機構とを備えてなることを特徴とする電解加工装置。
【請求項2】
前記スラッジ除去部が並列に複数設けられてなることを特徴とする請求項1記載の電解加工装置。
【請求項3】
前記スラッジ除去部が加圧ポンプを介して直列に複数設けられてなることを特徴とする請求項1または2記載の電解加工装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−230271(P2011−230271A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105206(P2010−105206)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】