説明

電解液流通型電池

【課題】正極側と負極側の電解液量(活物質量)に所定以上の差が生じたときに、電解液量の調整を短時間で行うことができる電解液流通型電池を提供する。
【解決手段】レドックスフロー電池1Aは、正極セル102と負極セル103を有する電池セル10と、正極電解液及び負極電解液を貯留する正極タンク20及び負極タンク30と、各タンク20,30と各セル102,103との間で各電解液を循環させる正極側及び負極側の各循環経路25,35と、正極タンク20と負極タンク30とを連通する連通管50と、連通管50を開閉するバルブ51とを備える。そして、正極タンク20と負極タンク30の数が異なると共に、正極タンク20と負極タンク30の液面が同じ高さになるときの液面を基準面とし、基準面より少なくとも上方において正極タンク20と負極タンク30の内部空間の水平方向における総断面積が異なっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極側と負極側の電解液量(活物質量)に所定以上の差が生じたときに、電解液量の調整を短時間で行うことができる電解液流通型電池に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、地球温暖化への対策として、風力や太陽光などの再生可能エネルギーを利用した風力発電や太陽光発電の導入が世界的に推進されている。これらの発電出力は天候に影響されるため、再生可能エネルギーを利用した発電の大量導入は、電力系統の周波数変動や電圧変動を引き起こす問題がある。この問題への対策の一つとして、大容量の蓄電池を設置して、出力変動の平滑化、余剰電力の貯蔵、負荷平準化などを図ることが提案されている。
【0003】
大容量の蓄電池の一つにレドックスフロー電池などの電解液流通型電池がある。レドックスフロー電池は、正極電極と負極電極との間に隔膜を介在させた電池セルに正極電解液及び負極電解液をそれぞれ供給して充放電を行う。電解液には、酸化還元により価数が変化する金属イオンを含有する水溶液が一般的に使用されている。レドックスフロー電池としては、正負極の電解液にバナジウムイオン水溶液を用いたバナジウム系レドックスフロー電池がよく知られている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0004】
図9は、電解液流通型電池(レドックスフロー電池)の基本構成を説明するための概要図である。レドックスフロー電池100は、電池セル10を備える。電池セル10は、イオン透過膜からなる隔膜101で分離された正極セル102及び負極セル103を有し、正極セル102及び負極セル103にはそれぞれ正極電極104及び負極電極105が内蔵されている。電池セル10は、一般に、正極電極102と隔膜101と負極電極103とで構成される単位セルを複数積層したセルスタックと呼ばれる形態で利用される。また、レドックスフロー電池100は、正極電解液及び負極電解液を貯留する正極タンク20及び負極タンク30と、正極タンク20及び負極タンク30と正極セル102及び負極セル103との間で正極電解液及び負極電解液を循環させる正極側及び負極側の各循環経路25,35と、を備える。各循環経路25,35にはそれぞれ各電解液を循環させるポンプ40が設けられている。正極側循環経路25は、正極電解液を正極タンク20から正極セル102に送る往路配管26と、正極電解液を正極セル102から正極タンク20に戻す復路配管27と、を有する。負極側循環経路35は、負極電解液を負極タンク30から負極セル103に送る往路配管36と、負極電解液を負極セル103から負極タンク30に戻す復路配管37とを有する。
【0005】
このレドックスフロー電池100では、各タンク20,30の下部と各セル102,103の下部とを連通するように各循環経路25,35の各往路配管26,36が接続され、各タンク20,30の上部と各セル102,103の上部とを連通するように各循環経路25,35の各復路配管27,37が接続されている。そして、各循環経路25,35の各往路配管26,36に設けられた各ポンプ40により、各タンク20,30から各往路配管26,36を介して各電解液が各セル102,103に送られる。各セル102,103に供給された各電解液は、各セル102,103の下方から内部を通って上方に排出され、各復路配管27,37を介して各タンク20,30に戻されて循環する。電池セル10内では、電池反応(充放電反応)が行われる。なお、図9に示すレドックスフロー電池100では、正負極の電解液にバナジウムイオン水溶液を用いた場合を例に挙げている。また、図9中の電池セル内の実線矢印は充電反応を、破線矢印は放電反応をそれぞれ示す。
【0006】
通常、レドックスフロー電池において、特許文献1や2に開示されるように、正極タンクと負極タンクの数は等しくなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−303611号公報
【特許文献2】特開2002−329522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電解液流通型電池(レドックスフロー電池)では、運転中、充放電の繰り返しに伴い、電池セル内において正極セル又は負極セルの一方のセルから他方のセルに隔膜を通って電解液中の活物質や溶媒が移動する現象(「液移り」と呼ばれることもある)が生じることがある。これにより、正極側の電解液量(活物質量)と負極側の電解液量(活物質量)に差が生じ、その分、電池容量(放電容量)が低下する。
【0009】
したがって、正極側と負極側の電解液量(活物質量)に所定以上の差が生じたときに、正負極間で電解液量の調整を行うための機構を設けることが望まれる。代表的には、正極タンクと負極タンクとを連通管で連通させ、この連通管にバルブを設ける構成とすることが挙げられる。そして、正極タンクと負極タンクの液量に所定以上の差が生じたときは、バルブを開いて連通管を開通させ、正極タンクと負極タンクの液面が同じ高さになるように電解液量の調整を行う。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、正極側と負極側の電解液量(活物質量)に所定以上の差が生じたときに、電解液量の調整を短時間で行うことができる電解液流通型電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の電解液流通型電池は、電池セルと、正極タンク及び負極タンクと、正極側循環経路及び負極側循環経路と、連通管と、開閉手段と、を備える。電池セルは、正極セルと負極セルを有する。正極タンク及び負極タンクは、正極電解液及び負極電解液を貯留する。正極側循環経路及び負極側循環経路は、正極タンク及び負極タンクと正極セル及び負極セルとの間で正極電解液及び負極電解液を循環させる。連通管は、正極タンクと負極タンクとを連通する。開閉手段は、連通管を開閉する。そして、正極タンクと負極タンクの数が異なると共に、正極タンクと負極タンクの液面が同じ高さになるときの液面を基準面とし、基準面より少なくとも上方において正極タンクと負極タンクの内部空間の水平方向における総断面積が異なっている。
【0012】
この構成によれば、正極側と負極側の電解液量に所定以上の差が生じたときに、開閉手段により連通管を開通状態とすることで、液量が増加した一方のタンクから連通管を介して液量が減少した他方のタンクに電解液を移動させ、電解液量の調整を行うことができる。このときの電解液の移動は、一方のタンクと他方のタンクの液面の高低差(重力)を利用しており、この液面差が大きくなるほど、電解液の移動速度が速くなる。
【0013】
正極タンクと負極タンクのうち液量が増加する側を上記総断面積が小さい方のタンクとした場合、液量が増加したときに、タンクの上記基準面より上方の内部空間に電解液が溜まることから、正極タンクと負極タンクの上記総断面積が等しい場合に比較して、タンクの液面が高くなる。そのため、運転中、上記総断面積が小さい方のタンクの液量が増加し、正極側と負極側の電解液量(活物質量)に所定以上の差が生じたときに、正極タンクと負極タンクの液面差が大きくなる。よって、開閉手段により連通管を開通状態とし、連通管を介して電解液を移動させる際、電解液の移動速度が速くなることから、電解液量の調整を短時間で行うことができる。また、電解液量の調整時間が短くなることから、連通管の開通状態(正極タンクと負極タンクの連通状態)の時間を短くして、正負極の電解液が混合されることにより生じる自己放電によるロスをできるだけ小さくすることができる。
【0014】
さらに、上記総断面積が小さい方のタンクにおいて、上記基準面より下方の内部空間の水平方向における総断面積も小さい、即ちタンクの上下(高さ)方向の全体に亘って内部空間の水平方向における総断面積を小さくしてもよい。この場合、正極タンクと負極タンクの液面が同じ高さのとき、上記総断面積が小さい方のタンクの液量は大きい方のタンクに比較して少なくなる。ここで、正極タンクと負極タンクのうち液量が増加する側を上記総断面積が小さい方のタンクとした場合、運転中、小さい方のタンクの液量が増加することで、小さい方のタンクと大きい方のタンクの液量が等しくなり、この状態のとき定格の電池容量となる。そして、正極側と負極側の電解液量に所定以上の差が生じるまで運転を継続するとすれば、正極タンクと負極タンクの上記総断面積が等しい場合に比較して、正極タンクと負極タンクの液量差が所定以上になるまでの時間が長くなると共に、そのときの液面差も大きくなる。そのため、液量差が所定以上になるまでに要する時間を延長でき、電解液量の調整を行う回数を減らすことができるので、その分、正負極の電解液が混合されることにより生じる自己放電によるロスをできるだけ小さくすることができる。
【0015】
本発明において、基本的には、正極タンクと負極タンクのうちタンク数の少ない側が上記総断面積の小さい方のタンクであり、また、運転中、液量が増加する側を上記総断面積が小さい方のタンクとする。
【0016】
本発明の電解液流通型電池の形態としては、正極タンク及び負極タンクのうち総断面積が小さい方のタンク内に、総断面積を小さくするための断面積縮小部が設けられていることが挙げられる。
【0017】
総断面積を小さくする手段としては、上記総断面積が小さくなるようにタンクの内部空間の水平方向断面における形状を小さくする他、タンク内に断面積縮小部を設けることによっても実現することができる。断面積縮小部としては、例えば、タンクの基準面より上方の内部空間に位置するように所定形状の部材を配置したり、タンクの内部空間の上下(高さ)方向の全体に亘って位置するように配置してもよい。後者の場合、上記総断面積が小さい方のタンクの液量が大きい方のタンクに比較して少なくなることから、上述したように、電解液量の調整を行う回数を減らすことができるので、その分、自己放電によるロスを低減できる。一例としては、タンク内に柱状物を設置し、タンクの内部空間の水平方向断面における形状を環形状にすることなどが挙げられる。
【0018】
本発明の電解液流通型電池の形態としては、正極タンク及び負極タンクのうち総断面積が小さい方のタンクの液面を嵩上げするための液面嵩上げ部が設けられていることが挙げられる。
【0019】
液面嵩上げ部が設けられていることで、上記総断面積が小さい方のタンクの液量が大きい方のタンクに比較して少なくなることから、上述したように、電解液量の調整を行う回数を減らすことができるので、その分、自己放電によるロスを低減できる。液面嵩上げ部としては、タンク内の電解液中に物を沈めたり浮かべたりすることが挙げられる。沈めたり浮かべたりする物としては、樹脂を素材とした部材や樹脂をコーティングした金属などの部材を用いることができる。この部材は、中実又は中空の部材とすることができ、中空部材とする場合、その中空空間に電解液を充填してもよい。例えば、電解液を充填した樹脂製の容器をタンク内の電解液中に沈めた、或いは浮かべた場合、腐食などにより容器が破れても中の電解液がタンク内に流出するだけであるので、電池の運転に支障をきたすこともない。
【0020】
その他、液面嵩上げ部としては、タンクの設置面を高くしたり、タンクの底を底上げすることによっても実現することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の電解液流通型電池は、正極タンクと負極タンクの数が異なると共に、正極タンクと負極タンクの基準面より上方の内部空間において水平方向における総断面積が異なるので、正極側と負極側の電解液量(活物質量)に所定以上の差が生じたときに、電解液量の調整を短時間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1に係るレドックスフロー電池を説明するための概要図であり、(A)は正極タンクと負極タンクの液面の高さが同じ状態を示し、(B)は正極タンクの液量が増加し、負極タンクの液量が減少した状態を示す。
【図2】変形例1に係るレドックスフロー電池を説明するための概要図であり、(A)は正極タンクと負極タンクの液面の高さが同じ状態を示し、(B)は正極タンクの液量が増加し、負極タンクの液量が減少した状態を示す。
【図3】実施例2に係るレドックスフロー電池を説明するための概要図であり、(A)は正極タンクと負極タンクの液面の高さが同じ状態を示し、(B)は正極タンクの液量が増加し、負極タンクの液量が減少した状態を示す。
【図4】実施例3に係るレドックスフロー電池を説明するための概要図であり、(A)は正極タンクと負極タンクの液面の高さが同じ状態を示し、(B)は正極タンクの液量が増加し、負極タンクの液量が減少した状態を示す。
【図5】変形例2に係るレドックスフロー電池を説明するための概要図であり、(A)は正極タンクと負極タンクの液面の高さが同じ状態を示し、(B)は正極タンクの液量が増加し、負極タンクの液量が減少した状態を示す。
【図6】変形例3に係るレドックスフロー電池を説明するための概要図である。
【図7】変形例4に係るレドックスフロー電池を説明するための概要図である。
【図8】比較例1に係るレドックスフロー電池を説明するための概要図であり、(A)は正極タンクと負極タンクの液面の高さが同じ状態を示し、(B)は正極タンクの液量が増加し、負極タンクの液量が減少した状態を示す。
【図9】レドックスフロー電池の基本構成を説明するための概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
比較例と共に、本発明の実施の形態を、図を用いて説明する。なお、図中、同一符号は同一又は相当部分を示す。
【0024】
(比較例1)
図8に示す比較例1に係るレドックスフロー電池1Nの基本構成は、図9を用いて説明したレドックスフロー電池100と同様であり、レドックスフロー電池1Nの特徴の一つは、正極タンク20と負極タンク30とを連通する連通管50と、連通管を開閉する開閉手段(バルブ)51を備える点にある。以下、レドックスフロー電池1Nの基本構成については概要のみを説明し、特徴点を中心に説明する。
【0025】
レドックスフロー電池1Nは、電池セル10と、正極電解液及び負極電解液を貯留する正極タンク20及び負極タンク30と、正極タンク20及び負極タンク30と正極セル102及び負極セル103との間で正極電解液及び負極電解液を循環させる正極側循環経路25及び負極側循環経路35と、を備え、各循環経路25,35には、それぞれ各電解液を循環させるポンプ40が設けられている。電池セル10は、イオン透過膜からなる隔膜101で正極セル102と負極セル103とに区画されており、正極セル102及び負極セル103には正極電極及び負極電極がそれぞれ内蔵されている。正極側循環経路25は、正極電解液を正極タンク20から正極セル102に送る往路配管26と、正極電解液を正極セル102から正極タンク20に戻す復路配管27と、を有する。負極側循環経路35は、負極電解液を負極タンク30から負極セル103に送る往路配管36と、負極電解液を負極セル103から負極タンク30に戻す復路配管37と、を有する。この例では、電池セル10が図示しない架台に支持され、正極タンク20及び負極タンク30より高い位置に設置されている。
【0026】
ここで、正負極の電解液について述べると、正負極の電解液は、活物質として同じ金属イオン種を含有することが挙げられる。例えば、正負極の電解液はそれぞれ、活物質としてバナジウムイオンを含有する電解液とする他、マンガンイオン又はチタンイオン、或いはマンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有する電解液とすることが挙げられる。正負極の電解液にマンガンイオン及びチタンイオンの双方を含有する電解液を用いた場合、高い起電力が得られ、析出物の発生も抑制される。
【0027】
正極タンク20と負極タンク30は、それぞれ1つであり、その形状、サイズも同じである。正極タンク20と負極タンク30はいずれも、タンクの上下(高さ)方向の全体に亘って内部空間の水平方向における断面積が一定である。そして、正極タンク20と負極タンク30は、タンクの上下(高さ)方向の全体に亘って内部空間の水平方向における総断面積が等しい。タンクの形状は、特に限定されるものではなく、例えばタンクの内部空間の水平方向における断面形状を円形状、多角形状、楕円形状などの任意の形状を採用することができる。
【0028】
連通管50は、正極タンク20と負極タンク30の液面が同じ高さのとき(図8(A)参照)、正極タンク20の液相部分と負極タンク30の液相部分とを連通するように接続されている。また、連通管50には、バルブ51が設けられており、バルブ51の開閉により連通管50の開通状態と閉止状態とを切り替えることができる。通常時は、バルブ51を閉じて連通管50を閉止状態とし、正負極の電解液が混合されないようになっている。
【0029】
そして、運転中、正極側と負極側の電解液量に所定以上の差が生じたときは、バルブ51を開いて連通管50を開通状態とすることで、正極タンク20と負極タンク30の液面差を利用して電解液を移動させ、正極タンク20と負極タンク30の液面が同じ高さになるように電解液量の調整を行う。電解液量の調整後、バルブ51を閉じて連通管50を閉止状態とする。例えば図8(B)に示すように、運転中、電解液が負極側から正極側に移動する液移りが生じ、正極タンク20の液量が増加し、負極タンク30の液量が減少して、正極タンク20と負極タンク30の液量差が所定以上になった場合、正極タンク20から連通管50を介して負極タンク30に電解液を移動させ、電解液量の調整を行う。液移りにより電解液が移動した量は、タンク内に液面センサなどを取り付けておくことで、検出することができる。
【0030】
(実施例1)
図1に示す実施例1に係るレドックスフロー電池1Aは、タンクの構成が異なる点を除いて、図8に示す比較例1のレドックスフロー電池1Nと同様であり、以下では相違点を中心に説明する。
【0031】
レドックスフロー電池1Aでは、正極タンク20と負極タンク30のタンク数が異なり、この例では、負極タンク30が第1負極タンク31と第2負極タンク32とからなり、正極タンク20が1つ、負極タンク30が2つのタンクで構成されている。正極タンク20と第1負極タンク31及び第2負極タンク32はいずれも、タンクの上下(高さ)方向の全体に亘って内部空間の水平方向における断面積が一定である。第1負極タンク31と第2負極タンク32は、連通管60により連通しており、液面が同じ高さになる。また、正極タンク20と負極タンク30は、タンクの上下(高さ)方向の全体に亘って内部空間の水平方向における総断面積が異なり、正極タンク20の方が負極タンク30より総断面積が小さい。具体的には、正極タンク20と第1負極タンク31は、形状、サイズが同じであり、負極タンク30は、正極タンク20に比較して第2負極タンク32の分だけ容量が大きい。つまり、正極タンク20と負極タンク30の液面が同じ高さのとき(図1(A)参照)、正極タンク20の液量が負極タンク30に比較して少なくなる。その他、負極側循環経路35の往路配管36及び復路配管37は、第1負極タンク31にのみ接続されている。
【0032】
このレドックスフロー電池1Aでの電解液量の調整について、図8に示す比較例1のレドックスフロー電池1Nと比較しながら説明する。運転中、正極側と負極側の電解液量に所定以上の差が生じたときに、バルブ51を開いて連通管50を開通状態とすることで、正極タンク20と負極タンク30の液面が同じ高さになるように電解液量の調整を行う点は同じである。例えば図1(B)に示すように、上述した液移りが生じ、正極タンク20の液量が増加し、負極タンク30の液量が減少して、正極タンク20と負極タンク30の液量差が所定以上になった場合、正極タンク20から連通管50を介して負極タンク30に電解液を移動させ、電解液量の調整を行う。
【0033】
ここでは、説明を分かり易くするため、レドックスフロー電池1Aの負極タンク30とレドックスフロー電池1Nの負極タンク30の内部空間の水平方向における総断面積(以下、単に「総断面積」と呼ぶ場合がある)が等しく、レドックスフロー電池1Aの正極タンク20は、レドックスフロー電池1Nの正極タンク20に比較して総断面積が小さいとする。
【0034】
例えば、レドックスフロー電池1Nにおいて、正極タンク20と負極タンク30の液面が同じ高さのとき(図8(A)参照)、正極タンクの液量を100、負極タンクの液量を100、総液量を200とする。そして、正極タンク20の液量が負極タンク30の液量より20多くなったとき、バルブ51により連通管50を開通状態にして、電解液量の調整を開始するように設定したとする。この場合、負極側から正極側に電解液が10移動し、正極タンクの液量が10増加したとき、正極タンクの液量が110、負極タンクの液量が90になり、電解液量の調整を開始する。
【0035】
一方、レドックスフロー電池1Aにおいて、上述したレドックスフロー電池1Nと総液量が同じになるように、例えば、正極タンク20と負極タンク30の液面が同じ高さのとき(図1(A)参照)、正極タンクの液量を90、負極タンクの液量を110、総液量を200とし、電解液量の調整を開始する条件を同じとする。この場合、負極側から正極側に電解液が10移動し、正極タンクの液量が10増加したとき、正極タンクと負極タンクの液量が等しく(どちらも100)なり、このとき定格の電池容量となる。さらに、負極側から正極側に電解液が10移動し、正極タンクの液量の増加量が20になったとき、正極タンクの液量が110、負極タンクの液量が90になり、電解液量の調整を開始する。
【0036】
つまり、レドックスフロー電池1Aの場合、上述したレドックスフロー電池1Nに比較して、電解液量の調整を開始するまでの時間、即ち正極タンク20と負極タンク30の液量差が所定以上になるまでの時間が長くなる。そのため、電解液量の調整を行う回数を減らすことができるので、その分、正負極の電解液が混合されることにより生じる自己放電によるロスを低減できる。また、電解液量の調整を開始するまでの正極タンクにおける液量の増加量が増えることから、上述したレドックスフロー電池1Nに比較して、正極タンク20の液面が高くなり、正極タンク20と負極タンク30の液面差も大きくなる。
【0037】
さらに、レドックスフロー電池1Aの場合、正極タンク20の総断面積が負極タンク30より小さいため、正極タンク20において液量が増加したときの液面の高さが、上述したレドックスフロー電池1Nに比較して高くなる。つまり、電解液量の調整を行う際に、正極タンク20と負極タンク30の液面差が大きくなる。よって、正極タンク20から連通管50を介して負極タンク30に電解液を移動させる際、連通管50を通る電解液の移動速度が速くなることから、電解液量の調整を短時間で行うことができる。また、電解液量の調整時間が短くなることから、連通管50の開通状態(正極タンク20と負極タンク30の連通状態)の時間を短くして、正負極の電解液が混合されることにより生じる自己放電によるロスも低減できる。
【0038】
(変形例1)
上述した図1に示す実施例1に係るレドックスフロー電池1Aでは、正極タンク20が、タンクの上下(高さ)方向の全体に亘って内部空間の水平方向における断面積が一定である場合について説明した。図2に示す変形例1に係るレドックスフロー電池1Bでは、正極タンク20において、正極タンク20と負極タンク30の液面が同じ高さになるときの液面を基準面としたとき、基準面より上方の内部空間(上方空間)20uの水平方向における総断面積と基準面より下方の内部空間(下方空間)20dの水平方向における総断面積が異なる場合について説明する。
【0039】
レドックスフロー電池1Bでは、正極タンク20における上方空間20uの総断面積が下方空間20dの総断面積に比較して小さい。具体的には、正極タンク20と負極タンク30を比較したとき、正極タンク20の上方空間20uの総断面積が負極タンク30の総断面積に比較して小さく、正極タンク20の下方空間20dの総断面積が負極タンク30の総断面積と等しい。つまり、正極タンク20と負極タンク30の液面が同じ高さのとき(図2(A)参照)、正極タンク20と負極タンク30の液量が等しくなる。
【0040】
このレドックスフロー電池1Bでの電解液量の調整について説明すると、正極タンク20と負極タンク30の液面が同じ高さのとき(図2(A)参照)、正極タンク20と負極タンク30の液量が等しいため、上述したレドックスフロー電池1Aのように、正極タンク20と負極タンク30の液量差が所定以上になるまでに要する時間を延長できない。つまり、電解液量の調整を行う回数を減らすことはできない。しかし、正極タンク20の液量が増加したとき(図2(B)参照)、その増加分の液量が総断面積の小さい上方空間20uに溜まることから、上述したレドックスフロー電池1Aと同じように、正極タンク20の液面が高くなる。よって、電解液量の調整を行う際に、正極タンク20と負極タンク30の液面差が大きくなることから、電解液量の調整を短時間で行うことは可能である。
【0041】
(実施例2)
図3に示す実施例2に係るレドックスフロー電池1Cは、タンクの構成が異なる点を除いて、図1に示す実施例1のレドックスフロー電池1Aと同様であり、以下では相違点を中心に説明する。
【0042】
レドックスフロー電池1Cでは、正極タンク20が、図8に示す比較例1に係るレドックスフロー電池1Nの正極タンク20と形状、サイズが同じであるが、正極タンク20内に断面積を小さくするための断面積縮小部70が設けられている。この断面積縮小部70は、中実又は中空の柱状部材であり、この例では、正極タンク20の中心部に底面から上面まで延び、タンクの内部空間の上下(高さ)方向の全体に亘って配置されている。つまり、レドックスフロー電池1Cの正極タンク20は、レドックスフロー電池1Aの正極タンク20と同様に、タンクの上下(高さ)方向の全体に亘って内部空間の水平方向における総断面積が断面積縮小部70のない場合に比べて小さい。
【0043】
このレドックスフロー電池1Cでの電解液量の調整について説明すると、上述したレドックスフロー電池1Aと同じように、正極タンク20と負極タンク30の液面が同じ高さのとき(図3(A)参照)、正極タンク20の液量が負極タンク30に比較して少ないため、正極タンク20と負極タンク30の液量差が所定以上になるまでの時間が長くなり、電解液量の調整を行う回数を減らすことができる。また、電解液量の調整を開始するまでの正極タンクにおける液量の増加量が増えることから、正極タンク20の液面が高くなり、正極タンク20と負極タンク30の液面差も大きくなる。さらに、正極タンク20の液量が増加したとき(図3(B)参照)、正極タンク20の総断面積が負極タンク30より小さいため、正極タンク20の液面が高くなり、正極タンク20と負極タンク30の液面差が大きくなる。よって、電解液量の調整を短時間で行うことができる。
【0044】
(実施例3)
図4に示す実施例3に係るレドックスフロー電池1Dは、タンクの構成が異なる点を除いて、図1に示す実施例1のレドックスフロー電池1Aと同様であり、以下では相違点を中心に説明する。
【0045】
レドックスフロー電池1Dでは、正極タンク20の液面を嵩上げするための液面嵩上げ部75が設けられている。この例では、正極タンク20内に、樹脂を素材とした部材や樹脂をコーティングした金属などの板状部材を沈めることで、液面嵩上げ部75とした。この部材は、中実又は中空の部材であり、中空部材の場合、その中空空間に電解液を充填してもよい。
【0046】
このレドックスフロー電池1Dでの電解液量の調整について説明すると、上述したレドックスフロー電池1Aと同様の効果が得られる。さらに、液面嵩上げ部75を設けたことにより、正極タンク20の液量が負極タンク30に比較してより少なくなるため、電解液量の調整を行う回数をより減らすことができる。また、電解液量の調整を開始するまでの正極タンク20における液量の増加量がより増えることから、正極タンク20の液面がより高くなり、正極タンク20と負極タンク30の液面差もより大きくなる(図4(A),(B)参照)。よって、電解液量の調整をより短時間で行うことができる。
【0047】
(変形例2)
上述した図4に示す実施例3に係るレドックスフロー電池1Dでは、正極タンク20内に板状部材を沈めることによって液面嵩上げ部75を実現したが、正極タンク20の液面を嵩上げするための液面嵩上げ部75は、他の手段によっても実現することが可能である。例えば図5に示す変形例2に係るレドックスフロー電池1Eのように、正極タンク20の設置面を負極タンク30に対して高くすることが挙げられる。或いは、正極タンク20の底を底上げしてもよい。
【0048】
(変形例3)
上述した図1に示す実施例1に係るレドックスフロー電池1Aでは、第1負極タンク31と第2負極タンク32を連通管60により連通する場合について説明したが、例えば図6に示す変形例3に係るレドックスフロー電池1Fのように、この連通管60を複数設けてもよい。
【0049】
(変形例4)
また、例えば図7に示す変形例4に係るレドックスフロー電池1Gのように、負極側循環経路35の往路配管36及び復路配管37を分岐させ、往路配管36及び復路配管37を第2負極タンク32にも接続すると共に、連通管50を分岐させ、連通管50を第2負極タンク32にも接続するようにしてもよい。この場合、第1負極タンク31と第2負極タンク32で液面が同じになるように、第1負極タンク31及び第2負極タンク32からの電解液の排出量、並びに、第1負極タンク31及び第2負極タンク32への電解液の供給量を調節する。これにより、連通管を用いなくてもよい。
【0050】
上述した実施例や変形例では、運転中、電解液が負極側から正極側に移動し、正極タンクの液量が増加する場合について説明したが、液量が増加する側が負極タンクの場合は、正極タンクと負極タンクの構成を置換すればよい。また、正極タンクの数を2とし、負極タンクの数を3とするなど、双方のタンクを複数としてもよい。
【0051】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の電解液流通型電池は、例えば、レドックスフロー電池の分野に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1A,1B,1C,1D,1E,1F,1G,1N,100 電解液流通型電池(レドックスフロー電池)
10 電池セル
101 隔膜 102 正極セル 103 負極セル
104 正極電極 105 負極電極
20 正極タンク 20u 上方空間 20d 下方空間
25 正極側循環経路 26 往路配管 27 復路配管
30 負極タンク
31 第1負極タンク 32 第2負極タンク
35 負極側循環経路 36 往路配管 37 復路配管
40 循環ポンプ
50 連通管 51 開閉手段(バルブ)
60 連通管
70 断面積縮小部
75 液面嵩上げ部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極セル及び負極セルを有する電池セルと、
正極電解液及び負極電解液を貯留する正極タンク及び負極タンクと、
前記正極タンク及び負極タンクと前記正極セル及び負極セルとの間で前記正極電解液及び負極電解液を循環させる正極側循環経路及び負極側循環経路と、を備える電解液流通型電池であって、
前記正極タンクと前記負極タンクとを連通する連通管と、
前記連通管を開閉する開閉手段と、を備え
前記正極タンクと前記負極タンクの数が異なると共に、前記正極タンクと前記負極タンクの液面が同じ高さになるときの液面を基準面とし、前記基準面より少なくとも上方において前記正極タンクと前記負極タンクの内部空間の水平方向における総断面積が異なっていることを特徴とする電解液流通型電池。
【請求項2】
前記正極タンク及び負極タンクのうち前記総断面積が小さい方のタンク内に、前記総断面積を小さくするための断面積縮小部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電解液流通型電池。
【請求項3】
前記正極タンク及び負極タンクのうち前記総断面積が小さい方のタンクの液面を嵩上げするための液面嵩上げ部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電解液流通型電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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