説明

電解用電極および電解ユニット

【課題】低電流密度により、常温の電解質溶液(例えば、水)の電気分解によって、高効率にてオゾンを生成することを可能となる電解用電極およびこれを用いた電解ユニットの提供。
【解決手段】基体22と、前記基体22の表面に構成された表面層25を備えて成るものであって、表面層25は、蛍光X線法で測定した厚さが金属換算で5〜330nmで、X線回折法で測定した結晶構造がアモルファスである金属酸化物であることを特徴とする本発明の電解用電極21により課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業用または民生用電解プロセスに使用される電解用電極およびそれを備えた電解ユニットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、オゾンは非常に酸化力が強い物質であり、該オゾンが溶解した水、いわゆるオゾン水は上下水道や、食品など、または、半導体デバイス製造プロセスなどでの洗浄処理への適用など幅広い洗浄殺菌処理での利用が期待されている。オゾン水を生成する方法としては、紫外線照射や放電により生成させたオゾンを水に溶解させる方法や、水の電気分解により水中でオゾンを生成させる方法などが知られている。
【0003】
特許文献1には、紫外線ランプによりオゾンガスを生成するオゾン生成手段と水を貯留するタンクとを備え、生成したオゾンガスをタンク内の水に供給することでオゾン水を生成するオゾン水生成装置が開示されている。
また、特許文献2には、水中にオゾンガスを効率よく溶解させるために、放電式のオゾンガス生成装置により生成したオゾンガスと水とをミキシングポンプにより所定の割合で混合するオゾン水生成装置が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記の如き紫外線ランプや放電式によりオゾンガスを発生させてこのオゾンガスを水中に溶解させて成るオゾン水生成方法では、オゾンガス生成装置やオゾンガスを水中に溶解させるための操作などが必要となり装置が複雑化しやすく、また生成したオゾンガスを水中に溶解させる方法であるため所望の濃度のオゾン水を高効率に生成することが困難であるという問題があった。
【0005】
特許文献3には、上記のような問題を解決するための方法として、水の電気分解により水中でオゾンを生成させる方法が開示されている。係る方法では、多孔質体または網状体で形成された電極基材と白金族元素の酸化物などを含む電極触媒とを有して構成されるオゾン生成用電極を用いる。
【0006】
また、特許文献4には、電解質溶液としての模擬水道水を酸化タンタルなどの誘電体により表面層が構成された電解用電極により電解処理することで、オゾンを生成させることが開示されている。
特許文献5には、基体と、この基体の表面に形成された少なくとも貴金属、貴金属を含む合金または貴金属酸化物のいずれかを含む中間層と、この中間層に形成され誘電体を含む表面層とが層状に形成され、前記表面層には、この表面層を貫通し且つ一端が前記中間層に到達する孔が形成されている電解用電極が開示されている。
特許文献6には、基体と、この基体の表面に形成されたアモルファスの誘電体である表面層を備えてなる成る電解用電極が開示されている。
【特許文献1】特開平11−77060号公報
【特許文献2】特開平11−333475号公報
【特許文献3】特開2002−80986号公報
【特許文献4】特開2007−016303号公報
【特許文献5】特開2006−97122号公報
【特許文献6】特願2008−022524
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した如き特許文献3に示される方法では、電極物質としてダイヤモンドを使用するため、装置自体のコストが高騰する問題がある。
【0008】
また、前記特許文献3に示される水の電気分解によるオゾン水の生成方法では、白金族元素は標準的なアノード材料であり、有機物を含まない水系溶液中ではほとんど溶解しないという特徴があるが、オゾン生成用電極としてはオゾン生成効率が低く、高効率な電解法によるオゾン水生成を行うことは困難である。また、このような従来のオゾン生成用電極を用いた電解法によるオゾン水生成では、オゾン生成のための電気分解において、1A/cm2以上の高電流密度を必要とすることや、電解質を低温とする必要があり、非常に多くのエネルギーを消費するという問題があった。更に、白金は高価であり、これ以外にも二酸化鉛を用いた場合には、有毒であるという問題がある。
【0009】
更に、上述した如き特許文献4〜6に示される電解用電極を用いた場合であっても、オゾンは生成されるものの、更なるオゾン生成電流効率の向上が望まれていた。
【0010】
そこで、本発明の第1の目的は、従来の技術的課題を解決し、白金などに比して安価であるタンタルなどの金属酸化物を利用して、低電流密度による水の電気分解によって、高効率にてオゾンを生成することが可能である電解用電極を提供することであり、
本発明の第2の目的は、その電解用電極を備えた電解ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の請求項1記載の電解用電極は、基体と、前記基体の表面に構成された表面層を備えて成る電解用電極であって、
前記表面層は、蛍光X線法で測定した厚さが金属換算で5〜330nmで、X線回折法で測定した結晶構造がアモルファスの金属酸化物であることを特徴とする。
【0012】
本発明の請求項2記載の電解用電極は、請求項1記載の電解用電極において、前記表面層は、蛍光X線法で測定した厚さが金属換算で5〜230nmで、X線回折法で測定した結晶構造がアモルファスの金属酸化物であることを特徴とする。
【0013】
本発明の請求項3記載の電解用電極は、請求項1あるいは請求項2記載の電解用電極において、
前記基体には、前記表面層の内側に位置して、前記基体の表面に、難酸化性の金属で中間層が形成されることを特徴とする。
【0014】
本発明の請求項4記載の電解用電極は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の電解用電極において、
前記金属酸化物が酸化タンタルであることを特徴とする。
【0015】
本発明の請求項5記載の電解ユニットは、
請求項1から請求項4のいずれかに記載の電解用電極により通水性を有したアノードが構成され、前記アノードと通水性を有したカソードが陽イオン交換膜の両面に配設されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1記載の電解用電極は、基体と、前記基体の表面に構成された表面層を備えて成る電解用電極であって、
前記表面層は、蛍光X線法で測定した厚さが金属換算で5〜330nmで、X線回折法で測定した結晶構造がアモルファスの金属酸化物であることを特徴とするものであり、
白金などに比して安価であるタンタルなどの金属酸化物を利用して、前記電極をアノードとして使用して低電流密度による電解質溶液の電気分解により安定して確実に長期間にわたり効率的にオゾンを生成することができるので信頼性が高いという顕著な効果を奏する。
【0017】
特に、従来の如く電解質溶液の温度を格別に低温とすることなく、且つ、高電流密度を必要としないため、オゾン生成に要する消費電力量の低減を図ることが可能となる。
【0018】
前記表面層が、アモルファス酸化タンタルの薄膜とすることで、電解用電極表面に(電解溶液との界面に)薄い空乏層ができ、電解用電極表面での反応で生成された電子がこの薄い空乏層をトンネルすることになり、その際に電子の授受が行われる電位がオゾンの酸化還元電位以上になることにより、前記表面層が導電体により構成される場合に比較して酸素生成反応が抑制され、代わりにオゾン生成反応がより効率的に生起すると考えられる。
より高いエネルギーレベルでの電子の移動が生じることで、オゾン生成反応を生起するためにオゾンの生成効率の上昇を図ることができる。
酸化タンタルなどの金属酸化物をアモルファス化することにより、結晶化した場合に存在する結晶粒界を電流が流れることがないため、より効果的にオゾンを生成すると考えられる。
【0019】
前記表面層が、蛍光X線法で測定した厚さが金属換算で5〜330nmであるので、前記表面層を薄膜により構成することができ、前記表面層が剥がれることなく、表面層内の不純物準位を介して、若しくは、Fowler−Nordheimトンネルにより電子が電極内部に移動できる。そのため、アノードにおける電極反応において、より高いエネルギーレベルで電子の移動を生起させることで、低電流密度にて電気分解を行うことが可能となり、効率的にオゾンを生成することができる。
【0020】
本発明の請求項2記載の電解用電極は、請求項1記載の電解用電極において、前記表面層は、蛍光X線法で測定した厚さが金属換算で5〜230nmで、X線回折法で測定した結晶構造がアモルファスの金属酸化物であることを特徴とするものであり、
前記表面層の形成におけるコストアップを回避しつつ、前記電極をアノードとして使用して低電流密度による電解質溶液の電気分解により安定して確実に長期間にわたり効率的にオゾンを生成することができるのでさらに信頼性が高いというさらなる顕著な効果を奏する。
【0021】
本発明の請求項3記載の電解用電極は、請求項1あるいは請求項2記載の電解用電極において、
前記基体には、前記表面層の内側に位置して、前記基体の表面に、難酸化性の金属で中間層が形成されることを特徴とするものであり、
基体の表面に、難酸化性の金属で中間層が形成されていることにより、上述の如く効果的に電子が表面層内を移動することが可能となる。そのため、表面層の表面において、高いエネルギーレベルで電極反応を生起することができる。これにより、より低い電流密度において効率的にオゾンを生成することができるようになるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0022】
特に、係る発明によれば、基体の表面に難酸化性の金属で中間層が形成されているため、前記電極をアノードとして用いた電解を行った場合において、前記基体表面が酸化し不導体化する不都合を回避することができる。これにより、電極の耐久性を向上させることができる。また、基体全体を前記中間層を構成する材料により構成する場合に比して、生産コストの低廉化を図ることができると共に、係る場合においても、同様に効率的にオゾンを生成することができるというさらなる顕著な効果を奏する。
【0023】
本発明の請求項4記載の電解用電極は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の電解用電極において、
前記金属酸化物が酸化タンタルであることを特徴とするものであり、白金などに比してタンタルは安価であり、毒性がない、というさらなる顕著な効果を奏する。
【0024】
本発明の請求項5記載の電解ユニット電解用電極は、
請求項1から請求項4のいずれかに記載の電解用電極により通水性を有したアノードが構成され、前記アノードと通水性を有したカソードが陽イオン交換膜の両面に配設されていることを特徴とするものであり、
陽イオン交換膜をプロトンが移動することで、電解質溶液が純水であっても、効率的にオゾンを生成することが可能となるという顕著な効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明の電解用電極の好適な実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の電解用電極1の平断面図である。図1に示すように電解用電極1は、基体2と、前記基体2の表面に形成される密着層3と、前記密着層3の表面に形成される中間層4と、前記中間層4の表面に形成される表面層5とから構成される。
【0026】
本発明において基体2は、導電性材料として、例えば、白金(Pt)若しくは、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)などのバルブ金属やこれらバルブ金属2種以上の合金、或いはシリコン(Si)などにより構成される。特に、本実施例において用いられる基体2は、表面が平坦に処理されたシリコンを用いる。
【0027】
密着層3は、基体2の表面に形成され、基体2と密着層3の表面に例えば白金により形成される中間層4との密着性の向上を図るために用いられるものであり、酸化チタンや窒化チタンなどにより構成される。なお、本実施例では酸化チタンを用いる。
【0028】
中間層4は、酸化し難い金属、例えば、白金、金(Au)、または、導電性をもつ金属酸化物、例えば、酸化イリジウム、酸化パラジウム、または、酸化ルテニウム、酸化物超伝導体など、若しくは、酸化しても導電性を有する金属として、白金族元素に含まれるルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、イリジウム(Ir)、或いは、銀(Ag)により構成される。なお、金属酸化物については、予め酸化物として中間層4が構成されたものに限定されるものではなく、電解することにより酸化されて金属酸化物とされたものについても含むものとする。
【0029】
但し、中間層4が導電性をもつ金属酸化物、例えば酸化イリジウムなどにより構成される場合には、前記金属酸化物を構成する酸素原子が後に示す表面層5に悪影響を及ぼすことから、前記中間層4は、難酸化性の金属により構成することが望ましい。本実施例では、中間層4は、白金により構成する。
【0030】
なお、上記基体2を白金にて構成する場合には、基体2の表面も当然に白金にて構成されるため、前記中間層4を格別に構成する必要はない。ただし、係る基体2を白金にて構成した場合には、コストの高騰を招くことから、工業的には、前記基体2を低廉な材料にて構成し、前記基体2の表面に貴金属などで構成される中間層4を形成することが好ましい。
また、基体2を導電性を有さない物質、例えばガラス板により構成し、前記基体2は、少なくとも後述する表面層5との接触面が導電性を有する材料により被覆されているものであるならば、上記構成に限定されるものではない。これによっても、基体2の構成に用いられる材料に要するコストの高騰を抑制することが可能となる。
【0031】
また、表面層5は、前記中間層4を被覆するように前記中間層4と共に、アモルファス型(不定形。非晶質)の絶縁体あるいは半導体である。本発明において絶縁体あるいは半導体は、酸化タンタル(TaOx)などの金属酸化物により基体2の表面に層状に形成される。前記表面層5は、所定厚みの薄膜、本発明では蛍光X線法で測定した厚さが金属換算で5〜330nm、好ましくは、5〜230nmに形成される。
前記表面層5は、核が生成してそれが成長し、さらに合体して薄膜が形成されるので、基体表面全体を覆う形に薄膜の体をなすのは少なくとも5nm程度の膜厚が必要である。一方、前記表面層5の蛍光X線法で測定した厚さが金属換算で330nmを超えると薄膜が剥がれる恐れがあるので、上限値は330nmである。前記表面層5の蛍光X線法で測定した厚さが230nmを超えると、電力効率が一定で且つ膜厚をそれより厚く形成する分コストアップとなるため、上限値は230nmが好ましい。
【0032】
なお、本実施例では、絶縁体あるいは半導体の金属酸化物の例として酸化タンタル(TaOx)を挙げているが、これに限定されるものではなく、アモルファス型の単一金属の酸化物、具体的には、WOx、AlOx、TiOx、NbOx、HfOx、NaOx、MgOx、KOx、CaOx、ScOx、VOx、CrOx、MnOx、FeOx、CoOx、NiOx、CuOx、ZnOx、GaOx、RbOx、SrOx、YOx、ZrOx、MoOx、InOx、SnOx、SbOx、CsOx、BaOx、LaOx、CeOx、PrOx、NdOx、PmOx、SmOx、EuOx、GdOx、TbOx、DyOx、HoOx、ErOx、TmOx、YbOx、LuOx、PbOx、BiOxなど、または、アモルファス型の複合金属酸化物、もしくは、SiOx、GeOxなどであってもよい。
【0033】
なお、表面層5の厚さは、蛍光X線分析装置(日本電子社製 JSX−3220ZS Element Analyzer)による評価により、Taなどの金属の担持量を取得し、これに基づき厚さを金属の膜厚として換算したものである。
【実施例】
【0034】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0035】
(実施例1)
図2のフローチャートを参照して本発明の実施例1の電解用電極1の製造方法について説明する。先ず初めに、ステップS1として基体2を構成するシリコンの前処理を行う。ここで、シリコンは、不純物としてリン(P)、ホウ素(B)などを導入し、導電率を高めたものが望ましい。前記シリコンは、表面が非常に平坦なものを用いる。なお、本実施例では、基体2としてシリコンを用いるが、これ以外にも上述した如き導電性材料を用いてもよいものとする。
【0036】
前記前処理では、シリコンの基体2を5%のフッ酸により処理し、前記基体2の表面に形成された自然酸化膜の除去を行う。これにより、基体2の表面をより平坦な状態とする。なお、前記前処理は行わなくてもよい。その後、純水にて基体2の表面のリンスを行い、以降ステップS2において既存のスパッタ装置のチャンバー内に導入し、成膜を行う。
【0037】
ステップS2では、基体2の表面に上述した如き中間層4の密着性を向上させるための密着層3の形成を行う。この基体2への密着層3の形成は、反応性スパッタ法により実行する。密着層3は、酸化チタンにより構成するため、ターゲットとしてTiを用い、投入電力6.17W/cm2、酸素分圧52%(Ar:O2 24:26)、成膜圧力を0.6Paとして、室温で10分間成膜を実行する。
これにより、基体2の表面には、厚さ50nm程度の酸化チタンにて構成される密着層3が形成される。なお、本実施例では、密着層3の成膜方法として反応性スパッタ法を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、スパッタ法、CVD法、イオンプレーティング法、メッキ法、あるいはこれらの方法と熱酸化の組み合わせなどであっても良いものとする。
【0038】
次にステップS3において、表面に密着層3が形成された基体2の表面に中間層4の形成を行う。基体2への中間層4の形成は、スパッタ法により実行する。本実施例では、中間層4は、白金により構成するため、ターゲットとしてPtを用い、投入電力4.63W/cm2、Arガス圧を0.7Paとして、室温で約1分11秒間成膜を実行する。
これにより、密着層3が形成された基体2の表面には、厚さ200nm程度の中間層4が形成される。なお、本実施例では、中間層4の成膜方法としてスパッタ法を用いているが、これに限定されるものではなく、例えば、CVD法、蒸着法、イオンプレーティング法、メッキ法などであっても良いものとする。
【0039】
次に、中間層4が形成された基体2の表面に表面層5を形成する。本実施例では、表面層5は、酸化タンタルの前駆体をスピンコートし、焼成温度600℃、大気雰囲気中にて10分焼成されることにより、得られた酸化タンタルである。なお、前記表面層5の厚さは、25nm程度である。
なお、酸化タンタルの前駆体は、タンタルを含む化合物であって、焼成によりタンタル以外の物質を除去して、大気中または前駆体中に含まれる酸素と結合して酸化タンタルを生成可能な物質である。
【0040】
すなわち、ステップS4において、中間層4が形成された基体2の表面に酸化タンタルの前駆体を含む溶液を滴下し、スピンコート法により、薄膜を形成する。本実施例におけるスピンコート法における条件は、1000rpmで5秒間、3000rpmで15秒間とする。その後、室温および200℃環境下において各10分間乾燥を行う(ステップS5)。
【0041】
その後、前記中間層4および表面層5が形成された基体2は、ステップS6においてマッフル炉において400℃乃至600℃、本実施例では、600℃、大気雰囲気中にて10分、焼成(アニール)が実行され、アモルファス酸化タンタルからなる表面層5を備えた表面層電解用電極1が得られる。
本実施例では、本成膜操作を1回行うことで、焼成されて形成されるアモルファス酸化タンタルの表面層5は、厚さが25nm程度となる。なお、前記成膜操作を複数回繰り返すことにより、表面層5の厚さを例えば230nm程度としても良い。
【0042】
上述した如く得られる電解用電極1の表面層5は、すべてアモルファス酸化タンタルとされている。即ち、酸化タンタルの前駆体は、タンタルを含む化合物、例えば上述したように、タンタル以外に複数の官能基が配位された有機タンタル化合物や無機タンタル化合物などを含むものであるが、焼成されることによって、タンタル以外の物質、即ち、有機物により構成される官能基や、塩素、臭素などは、除去される。他方、タンタルは、雰囲気中の酸素や前駆体に含まれる酸素と反応し、酸化タンタルとなる。
【0043】
なお、本実施例では、表面層5をタンタル化合物を含む酸化タンタルの前駆体をスピンコート法により基体表面(本実施例では中間層4表面)に塗布し、所定温度にて焼成することにより、アモルファス酸化タンタルにより形成しているが、前記アモルファス酸化タンタルにより表面層5を構成する方法はこれに限定されるものではない。
【0044】
他の方法として、熱CVD法による表面層5の形成方法がある。この熱CVD法では、基体2の表面に、上記実施例と同様に密着層3、中間層4を順次形成した後、酸化タンタルの前駆体である有機タンタル化合物を気化し、適当なキャリアガスを用いて反応管へ導き、高温、例えば500℃乃至600℃、好ましくは、600℃に熱せられた基体2の表面で化学反応を行う。
【0045】
これにより、酸化タンタルの前駆体である有機タンタル化合物のタンタルを除く物質、例えば有機物は、高温に熱せられた基体2の表面において除去され、タンタルのみが雰囲気中の酸素または前駆体に含まれる酸素と反応し、酸化タンタルとして基体2の表面に形成される。基体2の表面(実際には中間層4の表面)に形成された酸化タンタルは、アモルファス薄膜(酸化タンタル膜)である。
【0046】
なお、アモルファスの酸化タンタルにより表面層5を構成する方法としては、これ以外にも、例えば、ディップ法などがある。
【0047】
なお本実施例では、シリコンにて構成される基体2の表面には、酸化チタンにて構成される密着層3が形成されているため、直接、中間層4を構成する白金が、直接基体2内部にまで拡散することにより白金シリサイドが形成され、電解中に酸化して不導体化することを阻止することが可能となる。また、酸化チタンにより構成される密着層3により、中間層4を構成する白金の基体2への密着性を向上させることができる。これにより電極1の耐久性を向上させることができる。
(各電解用電極による電解方法およびその評価)
次に、上述した如く製造された電解用電極1を用いた電解によるオゾンの生成について図3を参照して説明する。図3は電解用電極1を適用した電解装置10の概略説明図である。
【0048】
電解装置10は、処理槽11と、上述した如きアノードとしての電解用電極1と、カソードとしての電極12と、電極1、12に直流電流を印加する電源15とから構成される。そして、これら電極1、12間に位置して、処理槽11内の電極1の存する一方の領域と電極12の存する他方の領域とに区画する陽イオン交換膜(隔膜:デュポン社製Nafion(商品名))14が設けられる。また、アノードとしての電解用電極1が浸漬される領域には、攪拌装置16が設けられている。
【0049】
また、この処理槽11内には、電解質溶液としての模擬水道水13が貯溜される。なお、前記実験に用いられる電解質溶液は、水道水を模擬した水溶液であり、この模擬水道水23の成分組成は、Na+が5.75ppm、Ca2+が10.02ppm、Mg2+が6.08ppm、K+が0.98ppm、Cl-が17.75ppm、SO42-が24.5ppm、CO32-が16.5ppmで、上記以外はすべて水である。
【0050】
電解用電極1は、上述した如き製造方法により作製したものであって、電解用電極1の表面層5の厚さは、25nm程度であり、前記表面層5を形成する際の焼成温度は、600℃である。
【0051】
他方、カソードとしての電極12には白金を用いる。これ以外にもチタン基体表面に白金を焼成した不溶性電極や白金−イリジウム系の電解用電極やカーボン電極などにより構成してもよいものとする。
【0052】
以上の構成により処理槽11内の各領域に150mlずつの模擬水道水13を貯溜し、該電解用電極1および電極12をそれぞれ模擬水道水中に浸漬させる。なお、各電極間距離は、10mmとする。そして、電源15により、電流密度約25mA/cm2の定電流が電解用電極1および電極12に印加される。また、模擬水道水13の温度は+15℃であるものとする。
【0053】
本実施例では、各電解用電極によるオゾンの生成量は、上記条件にて5分間電解後の模擬水道水13のオゾン生成量をインディゴ法(HACH社製 DR4000)により測定し、通電された総電荷量に対する前記オゾン生成に寄与した電荷の割合、即ち、オゾン生成電流効率を算出して評価を行う。
水の電気分解により下記式の反応によりオゾンを生成させる。
3H2 O→O3 +6H+ +6e- (式1)
【0054】
上記式1からO3 を生成する反応ではオゾン1分子当たり6個の電子が関与している。電気分解に要した電気量It(アンペア×秒)=[Amp×s]=C(クーロン)であり、e- =1.6×10-19 クーロンであるから、上記式1の反応が起ると、It/e- の数の電子が流れたことになる。O3 生成量を測定すれば、下記式2でオゾン生成電流効率を計算できる。
6×(生成O3 の分子数)/(水の電気分解時に流れた電子の和) (式2)
なお、オゾン生成の電力効率は、投入電力に対する生成した総オゾン量と定義され、単位は例えばkg/Whである。
【0055】
前記実験では、本実施例の如く作成された電解用電極1(表面層5がスピンコート法によりアモルファス酸化タンタルで構成されたもの)を使用した場合には、オゾン生成電流効率は、5.64%程度であった。
【0056】
以上の実験結果より、本実施例のスピンコート法により形成されたアモルファス酸化タンタルの表面層5を有する電解用電極1を用いて、高いオゾン生成効率でオゾンを生成できることが分かる。
【0057】
特に、前記アモルファス酸化タンタルによる薄膜は、厚さが5〜330nmに形成されているため、表面層5中の不純物準位を介して、或いは、Fowler−Nordheimトンネルにより電子が導電性材料にて構成される中間層4にまで移動すると考えられる。
【0058】
通常、金属電極を電解用電極として使用した場合、アノードにおける電極反応は、フェルミ準位直上の空の準位が電解質から電子を受け取ることにより、優先的に酸素生成反応を生起する。また、表面層5を結晶化した金属酸化物により構成した場合、結晶と結晶との間の粒界に金属が偏析し、電流が流れてしまうので、この場合も、アノードにおける電極反応は、フェルミ準位直上の空の準位が電解質から電子を受け取ることにより、優先的に酸素生成反応を生起する。
【0059】
これに対し、本発明における表面層5形成した電解用電極1を使用した場合、表面層5がアモルファス酸化タンタルにより構成されているため、電解用電極表面に(電解溶液との界面に)薄い空乏層ができ、電解用電極表面での反応で生成された電子がこの薄い空乏層をトンネルすることになり、その際に電子の授受が行われる電位がオゾンの酸化還元電位以上になることにより、オゾン生成反応がより効率的に生起すると考えられる。
【0060】
図4は電極のバンド構造(電極電位=8V)を説明する説明図である。
光電子分光測定、バンドギャップ測定、フラットバンド電位(文献値)、電流−電位測定を行った結果、オゾンが生成される際(電極電位=8V)の電極のバンド構造は図4のようになり、電極表面(電解溶液との界面)30に薄い空乏層31ができる。したがって、電極表面30での反応で生成された電子はこの空乏層31をトンネルすることになる。その際に電子の授受が行われる電位がオゾンの酸化還元電位以上になる場合があるため、オゾンが効率よく生成される。
【0061】
そのため、本発明における電解用電極1を使用した場合、白金などの電解用電極や結晶化したタンタル酸化物またはチタン酸化物により表面層が形成されている電解用電極を使用した場合に比して、より高い(貴)エネルギーレベルでの電子の移動が起こってオゾン生成反応を生起するためにオゾンの生成効率が上昇するものと考えられる。
【0062】
これにより、電解用電極1に所定の低電流密度、0.1mA/cm2乃至2000mA/cm2、望ましくは、1mA/cm2乃至1000mA/cm2の電流が印加されることで、高効率にてオゾンを生成させることが可能となる。また、電解質溶液の温度が格別に低温とすることなく、本実施例の如く+15℃などのように常温である場合であっても、高効率にてオゾンを生成させることが可能となる。そのため、オゾン生成に要する消費電力量の低減を図ることが可能となる。
【0063】
また、このように、高効率にてオゾン生成を実現することができる電極1の表面層5は、上述したようにスピンコート法により形成することが可能であるため、生産性を向上させることができると共に、安価な製造コストにて電解用電極を製造することが可能となり、設備の低廉化を図ることが可能となる。
【0064】
また、表面層5は、上述したように熱CVD法により形成することで、安定性が良く、高い生産効率を実現することが可能となる。更に、二酸化鉛などの有毒物質を使用しないことから、環境負荷の低減を図ることができる。
【0065】
(実施例2)
次に、図5のフローチャートを参照して本発明の実施例2の電解用電極21の製造方法について説明する。なお、図6は、前記実施例により得られる電解用電極21の概略構成図を示している。先ず初めに、ステップS11として上記実施例と同様に基体22を構成するシリコンの前処理を行う。基体22の材料は、上記実施例と同様であるため、説明を省略する。以降ステップS12において既存のスパッタ装置のチャンバー内に導入し、成膜を行う。
【0066】
ステップS12では、基体22の表面に上述した如き中間層24の密着性を向上させるための密着層23の形成を行う。上記実施例と同様に、基体22への密着層23の形成は、反応性スパッタ法により実行する。密着層23は、酸化チタンにより構成するため、ターゲットとしてTiを用い、投入電力6.17W/cm2、酸素分圧52%(Ar:O2 24:26)、成膜圧力を0.6Paとして、室温で10分間成膜を実行する。これにより、基体22の表面には、厚さ50nm程度の酸化チタンにて構成される密着層23が形成される。
【0067】
次に、ステップS13において、表面に密着層23が形成された基体22の表面に上記実施例と同様に中間層24の形成を行う。基体22への中間層24の形成は、スパッタ法により実行する。本実施例では、中間層24は、白金により構成するため、ターゲットとしてPtを用い、投入電力4.63W/cm2 、Arガス圧を0.7Paとして、室温で約1分11秒間成膜を実行する。これにより、密着層23が形成された基体22の表面には、厚さ200nm程度の中間層24が形成される。
【0068】
次に中間層24が形成された基体22の表面に表面層25を形成する。本実施例では、表面層25の形成は、スパッタ法により実行する。表面層を酸化タンタルにて形成する場合には、ターゲットをTaに変更し、投入電力を100W、Arガス圧を0.9Pa、室温で1〜35分間成膜を実行する(ステップS14)。これにより、基体22の中間層24の表面には、厚さ5〜330nm程度の表面層25が形成される。なお、これら中間層24および表面層25の膜厚は、前記のように蛍光X線による評価により、PtおよびTaの担持量を取得し、これに基づき厚さを換算することにより得たものである。
【0069】
その後、前記表面層25が形成された基体22は、ステップS15においてマッフル炉にて300℃、400℃、500℃、600℃のそれぞれの温度、大気雰囲気中にて30分、熱酸化が実行され、電解用電極21が得られる。これにより、中間層24の表面に形成された表面層25を構成するタンタル金属は、均一に酸化される。なお、前記熱酸化によりタンタル金属が酸化され酸化タンタルとなるため、表面層25の厚さは、タンタル換算で5nm〜330nm程度となる。
【0070】
図7は上述により得られた電解用電極21のX線回折パターン(表面層25が酸化タンタルのもの)を示している。上記実施例と同様に、X線回折を用いることで、表面層25を構成する酸化タンタルの結晶構造を解析することが可能となる。係る実施例においても、X線回折装置(Bruker AXS社製 D8Discover)を用いて観測を行った。
【0071】
図7では、上から順に600℃、500℃、400℃、300℃にて酸化された電極21のX線回折パターンを示している。なお、一番下には、比較のため、表面層25を構成していない電極(表面がPtのみ)のX線回折パターンを示している。なお、一般にX線回折では、被評価検体の全体積の5%以下で存在する結晶からの回折ピークは観測されないといわれている。これによると、酸化温度600℃の電極21は、酸化タンタル(Ta25)特有の回折ピーク(図7にて黒丸にて示すピーク)と、中間層24を構成する白金特有の回折ピーク(図7にて※にて示すピーク)がみられる。そのため、前記条件では、表面層25は、結晶性の酸化タンタル(Ta25)が形成されていることがわかる。
【0072】
これに対し、酸化温度400℃の電極21は、酸化タンタル(TaO)特有の回折ピーク(図7にて白丸にて示すピーク)と、白金特有の回折ピークがみられる。そのため、前記条件では、表面層25は、結晶性の酸化タンタル(TaO)が形成されていることがわかる。
【0073】
また、酸化温度300℃の電極21は、タンタル(Ta)特有の回折ピーク(図7にて黒三角にて示すピーク)と、白金特有の回折ピークがみられる。そのため、前記条件では、表面層25は、一部がタンタルのまま残存していることがわかる。
【0074】
これに対し、酸化温度500℃の電極21は、上述したような酸化タンタルやタンタル特有の回折ピークはみられず、白金特有の回折ピークと、アモルファス状態(非晶質)であることを示すハローがみられる。そのため、前記条件では、表面層25は、アモルファス酸化タンタルが形成されていることがわかる。
なお、比較に示されている白金電極のX線回折パターンと比較しても、前記条件の電極には、アモルファスが存在することが容易にわかる。
【0075】
(各電解用電極による電解方法およびその評価)
次に、上述した如く製造された電解用電極1を用いた電解によるオゾンの生成について図8を参照して説明する。図8は各条件により作成された電解用電極を用いた場合のオゾン生成電流効率を示す図である。なお、前記実験結果は、上記実施例における電解装置10を用いて得られてものであり、前記装置の構成、実験条件については上記と同様であるため説明を省略する。
【0076】
これによると、表面層25を酸化タンタルにて構成した場合、酸化温度300℃では、オゾン生成電流効率が3.6%程度、酸化温度400℃では、6.6%程度、酸化温度500℃では、7.2%程度、酸化温度300℃では、2.4%程度であった。ここで、酸化温度300℃と、酸化温度400℃、酸化温度600℃は、いずれも酸化タンタルまたはタンタルの結晶構造を有するものである。これに対し、酸化温度500℃は、結晶構造を有さないアモルファス酸化タンタルが表面層25として形成されている。
【0077】
係る結果から、酸化タンタルを表面層25に形成した場合、結晶構造をとらないアモルファス酸化タンタルの場合がもっともオゾン生成電流効率が高いことがわかる。
(実施例3)
【0078】
次に、本発明の実施例3の電解用電極について説明する。なお、係る実施例により得られる電解用電極31の製造方法は、上記実施例1における図2のフローチャートと同様であり、概略構成図も図1と略同様であるため、詳細な製造方法の説明は省略する。
【0079】
即ち、前記実施例における電解用電極は、上記各実施例と同様に基体を構成するシリコンの表面にスパッタ法により密着層3を酸化チタンにより構成し、密着層3の表面にスパッタ法により中間層4を白金により構成する。
【0080】
次に、中間層4が形成された基体2の表面に表面層5を形成する。係る実施例では、表面層5は、スピンコート法を用いて形成するため、酸化タンタル前駆体としての有機タンタル化合物溶液を中間層4が形成された基体2の表面に塗布する。本実施例では、表面層5は、酸化タンタルにより構成するため、本実施例では、タンタルペンタエトキシド[Ta(OEt)5]溶液を用いる。なお、本実施例でTa(OEt)5溶液の溶媒としては酢酸エチルを用いる。
なお、本実施例では、酸化タンタル前駆体としてTa(OEt)5溶液を用いているがこれに限定されるものではなく、タンタルを含む化合物であって、焼成によりタンタル以外の物質を除去し、酸化タンタルによる成膜が可能な物質であれば良いものとする。また、本実施例では、溶媒として酢酸エチルを用いているが、これに限定されるものではなく、アルコール系などの他の溶媒を用いてもよい。
【0081】
そして、中間層4が形成された基体2の表面に上記酸化タンタル前駆体を含む溶液を滴下し、スピンコート法により、薄膜を形成する。係る実施例におけるスピンコート法における条件は、上記実施例1と同様に1000rpmで5秒間、3000rpmで15秒間とする。その後、室温および200℃環境下において各10分間乾燥を行う。
【0082】
その後、前記中間層4および表面層5が形成された基体2は、マッフル炉において400℃乃至700℃、大気雰囲気中にて10分、焼成(アニール)が実行され、電解用電極が得られる。これにより、中間層4の表面に塗布された酸化タンタル前駆体は、均一に酸化タンタルとなる。
【0083】
上述した如く得られる電解用電極1の表面層5は、すべて酸化タンタルとされている。即ち、酸化タンタルの前駆体は、タンタルを含む化合物、例えば上述したように、焼成されることによって、タンタル以外の物質、即ち、有機物により構成される官能基などは、除去される。他方、タンタルは、雰囲気中の酸素および前駆体中の酸素と反応し、酸化タンタルとなる。
【0084】
図9は上述により得られた電解用電極1のX線回折パターン(表面層5が酸化タンタルのもの)を示している。上記各実施例と同様に、X線回折を用いることで、表面層5を構成する酸化タンタルの結晶構造を解析することが可能となる。係る実施例においても、X線回折装置(Bruker AXS社製 D8 Discover)を用いて観測を行った。
【0085】
図9では、上から順に700℃、600℃、500℃、400℃にて焼成された電極1のX線回折パターンを示している。これによると、焼成温度700℃および600℃の電極1は、酸化タンタル(Ta25)特有の回折ピーク(図9にて黒丸にて示すピーク)がみられる。そのため、前記条件では、表面層5は、結晶性の酸化タンタル(Ta25)が形成されていることがわかる。
【0086】
これに対し、焼成温度500℃および400℃の電極1は、上述したような酸化タンタル(Ta25 )特有の回折ピークはみられず、アモルファス状態(非晶質)であることを示すハローがみられる。そのため、前記条件では、表面層5は、アモルファス酸化タンタルが形成されていることがわかる。
(各電解用電極による電解方法およびその評価)
次に、上述した如く製造された電解用電極1を用いた電解によるオゾンの生成について図10を参照して説明する。図10は各条件により作成された電解用電極を用いた場合のオゾン生成電流効率を示す図である。なお、前記実験結果は、上記実施例における電解装置10を用いて得られてものであり、前記装置の構成、実験条件については上記と同様であるため説明を省略する。
【0087】
これによると、焼成温度400℃では、オゾン生成電流効率が7.0%程度、焼成温度500℃では、12.0%程度、焼成温度600℃では、6.1%程度、焼成温度700℃では、4.6%程度であった。ここで、焼成温度600℃と、焼成温度700℃は、いずれも結晶性の酸化タンタルである。これに対し、焼成温度500℃および焼成温度400℃は、いずれもアモルファス酸化タンタルが表面層5として形成されている。
【0088】
係る結果から、酸化タンタルを表面層5に形成した場合、表面層5がアモルファス酸化タンタルの場合が結晶性の酸化タンタルが表面層5を形成した場合に比べて、オゾン生成電流効率が高いことがわかる。
【0089】
上記実施例2および実施例3における実験結果より、いずれも電解用電極をアノードとして電解質溶液を電解することによっても、電解質溶液中にオゾンを生成することが可能となるが、表面層5(25)がアモルファス酸化タンタルにて形成されている場合には、結晶性の酸化タンタルにて表面層が形成されている場合と比してオゾン生成効率が高いことが分かる。
【0090】
これは前記アモルファス酸化タンタルにより薄膜が形成されているため、表面層中の不純物準位を介して、或いは、Fowler−Nordheimトンネルにより電子が導電性材料にて構成される中間層にまで移動すると考えられる。
【0091】
また、通常、金属電極を電解用電極として使用した場合、アノードにおける電極反応は、フェルミ準位直上の空の準位が電解質から電子を受け取ることにより、優先的に酸素生成反応を生起する。また、表面層を結晶化した金属酸化物により構成した場合、結晶と結晶との間の粒界に金属が偏析し、電流が流れてしまうので、この場合も、アノードにおける電極反応は、優先的に酸素生成反応を生起する。
【0092】
これに対し、上記各実施例のように表面層を形成した電解用電極を使用した場合、表面層がアモルファス酸化タンタルにより構成されているため、前記の理由でオゾン生成反応がより効率的に生起する。
【0093】
そのため、上記各実施例に示すような電解用電極をアノードとして使用した場合、白金などの電解用電極や結晶化したタンタル酸化物(結晶化した金属酸化物)により表面層が形成されている電解用電極を使用した場合に比して、より高いエネルギーレベルでの電子の移動が起こってオゾン生成反応を生起するためにオゾンの生成効率が上昇するものと考えられる。
【0094】
これにより、電解用電極1に所定の低電流密度、0.1mA/cm2乃至2000mA/cm2、望ましくは、1mA/cm2乃至1000mA/cm2の電流が印加されることで、高効率にてオゾンを生成させることが可能となる。また、電解質溶液の温度が格別に低温とすることなく、本実施例の如く+15℃などのように常温である場合であっても、高効率にてオゾンを生成させることが可能となる。そのため、オゾン生成に要する消費電力量の低減を図ることが可能となる。
【0095】
また、このように、高効率にてオゾン生成を実現することができる電極1の表面層5は、スパッタ法により形成可能とされるのみ成らず、上述したようにスピンコート法によっても形成することができるため、より一層、生産性を向上させることができると共に、安価な製造コストにて電解用電極を製造することが可能となり、設備の低廉化を図ることが可能となる。
【0096】
更に、上述した如く各実施例では、シリコンにて構成される基体2に、少なくとも難酸化性の金属、または、導電性を有する金属酸化物、若しくは、酸化しても導電性を有する金属のいずれかを含む中間層4を形成し、更に前記中間層4の表面に上述した如き表面層5を構成することで電解用電極1を形成しているため、効果的に電子が表面層5内を移動することが可能となる。そのため、表面層5の表面において、高いエネルギーレベルで電極反応を生起することができ、より低い電流密度において効率的にオゾンを生成することが可能となる。
【0097】
なお、基体2を中間層4と同様の材料、即ち、少なくとも難酸化性の金属、または、導電性を有する金属酸化物、若しくは、酸化しても導電性を有する金属のいずれかを含む材料にて構成する場合には、格別に中間層4を形成しなくても同様にオゾンを効率的に生成することができる電極を構成することができる。ただし、本発明の如く基体2に上記材料にて構成される中間層4を被覆形成することにより、同様に効率的にオゾンを生成することができる電極1を低廉な生産コストにて実現することが可能となる。
【0098】
また、上記各実施例において示される本願発明の電解用電極は、上記電解装置10に示されるものに限定されるものではなく、例えば、図11に示すような電解ユニット26のアノードとして用いてもよい。
【0099】
即ち、図11に示す如き電解ユニット26は、アノードを構成する上記各実施例において示される電解用電極1または21と、上記カソードを構成する電極28と、陽イオン交換膜29とから構成される。
【0100】
電極1(または21。アノード)および電極28(カソード)は、それぞれ通水性を確保するための複数の通水孔27Aおよび28Aがそれぞれ形成されている。そして、これら電極1および28は、陽イオン交換膜(本実施例では、デュポン社製Nafion(商品名)を使用)29の両面に配設されて、電解ユニット26が構成される。
【0101】
係る構成により、電解質溶液を貯留した処理槽内に前記電解ユニット26を浸漬し、両電極1、28間に所定電流密度の定電流を印加する。これにより、電極1と、陽イオン交換膜29と電極28との間に適切なゼロギャップを維持し、陽イオン交換膜29をプロトンが移動することで、電解質溶液が純水であっても、効率的にオゾンを生成することが可能となる。また、通水孔27A、28Aより生成される気体の通過を許容することで、安定したオゾン生成を実現することが可能となる。
【0102】
(実施例4)
次に、本発明の実施例4の電解用電極について説明する。図6は実施例4の電解用電極21の概略構成図を示している。先ず初めに、ステップS11として基体22を構成するシリコンの前処理を行う。基体22の材料は上記実施例と同様であるため、説明を省略する。ステップS12では、基体22の表面に中間層24の密着性を向上させるための密着層23の形成を行う。
基体22への密着層23の形成は、反応性スパッタ法により実行する。密着層23は、酸化チタンにより構成するため、ターゲットとしてTiを用い、投入電力100W、Arガス圧力を5mTorrとして、室温で10分間成膜を実行する。500℃、30分、空気中で酸化処理する。これにより、基体22の表面には、厚さ50nm程度の酸化チタンにて構成される密着層23が形成される。
【0103】
次に、ステップS13において、表面に密着層23が形成された基体22の表面に中間層24の形成を行う。基体22への中間層24の形成は、スパッタ法により実行する。本実施例では、中間層24は、白金により構成するため、ターゲットとしてPtを用い、投入電力200W、Arガス圧を1.2mTorrとして、室温で3分間成膜を実行する。これにより、密着層23が形成された基体22の表面には、厚さ200nm程度の中間層24が形成される。
【0104】
次に、中間層24が形成された基体22の表面に表面層25を形成する。本実施例では、表面層25の形成は、スパッタ法により実行する。表面層を酸化タンタルにて形成する場合には、ターゲットをTaにし、投入電力100W、Arガス圧を5mTorrとして、室温でそれぞれ5、15、25、35、45、55、65分間成膜を実行した(ステップS14)。
【0105】
その後、前記表面層25が形成された基体22は、それぞれステップS15においてマッフル炉にて600℃の温度、大気雰囲気中にて30分、熱酸化を実行して、電解用電極21を得た。
これにより、中間層24の表面に形成された表面層25を構成するタンタル金属は、均一に酸化され、結晶構造を有さないアモルファス酸化タンタルの表面層25が形成された。
表面層25のそれぞれの厚さは、各成膜時間に対応して、それぞれ、5分では40.6、15分では131.4、25分では229.7、35分では330.0、45分では427.0、55分では524.3、65分では628.0nmであった。
成膜時間が、45分の場合、55分の場合、および65分の場合は薄膜が剥離した。
なお、これら中間層24および表面層25の膜厚は、前記のように蛍光X線による評価により、PtおよびTaの担持量を取得し、これに基づき厚さを換算することにより得たものである。なお、酸化タンタルの場合は、金属タンタル換算の膜厚である。
【0106】
(各電解用電極による電解方法およびその評価)
次に、上述した如く製造された電解用電極21を用いた電解によるオゾンの生成について図12を参照して説明する。図12は、それぞれ異なる膜厚を有する電解用電極21を用いた場合のオゾン生成電力効率(Kg/Wh)を示す図である。なお、前記実験結果は、上記実施例における電解装置10を用いて得られてものであり、実験条件については下記の通りである。
【0107】
(実験条件)
電極サイズ:1.5cm×1.5cm
電流:30mA
電流密度:13mA/cm2
電解時間:2分
電解質:模擬水道水
回数:2回
【0108】
図12は、表面層の厚さが330nmを超えて厚過ぎて剥離してしまった場合以外の、表面層の厚さが40.6nm、131.4nm、229.7nm、330.0nmの電解用電極21についてオゾン生成実験を行った結果をまとめて、オゾン生成電力効率(Kg/Wh)を算出した結果を示すグラフである。
前記表面層25の蛍光X線法で測定した厚さが230nmを超えると、電力効率がほぼ一定で且つ膜厚を230nmより厚く形成してもオゾン生成電力効率はわずかしか上がらず、厚さを厚くする分コストアップとなるため、厚さの上限値は230nmが好ましいことが判る。
逆に厚さが230nm未満となるにしたがって、電力効率は大きく上昇することが判る。前記表面層25は、核が生成してそれが成長し、さらに合体して薄膜が形成されるので、膜厚の下限値は5nmである。
前記表面層が、蛍光X線法で測定した厚さが5〜330nmであれば、前記表面層が剥がれることなく、表面層内の不純物準位を介して、若しくは、Fowler−Nordheimトンネルにより電子が電極内部に移動できるので、アノードにおける電極反応において、より高いエネルギーレベルで電子の移動を生起させることで、低電流密度にて電気分解を行うことが可能となり、効率的にオゾンを生成することができることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の電解用電極は、基体と、前記基体の表面に構成された表面層を備えて成る電解用電極であって、前記表面層は、蛍光X線法で測定した厚さが5〜330nmのアモルファス酸化タンタルであることを特徴とするものであり、白金などに比して安価であるタンタルを利用して、前記電極をアノードとして使用して低電流密度による電解質溶液の電気分解により安定して確実に長期間にわたり効率的にオゾンを生成することができるので信頼性が高く、特に、従来の如く電解質溶液の温度を格別に低温とすることなく、且つ、高電流密度を必要としないため、オゾン生成に要する消費電力量の低減を図ることが可能となるという顕著な効果を奏する。
そして本発明の電解ユニット電解用電極は、本発明の電解用電極により通水性を有したアノードが構成され、前記アノードと通水性を有したカソードが陽イオン交換膜の両面に配設されていることを特徴とするものであり、陽イオン交換膜をプロトンが移動することで、電解質溶液が純水であっても、効率的にオゾンを生成することが可能となるという顕著な効果を奏するという顕著な効果を奏するので、産業上の利用価値が甚だ大きい。
【図面の簡単な説明】
【0110】
【図1】本発明の電解用電極の平断面図である(実施例1、実施例3)。
【図2】本発明の電解用電極の製造方法のフローチャートである(実施例1、実施例3)。
【図3】本発明の電解装置の概略説明図である。
【図4】電極のバンド構造(電極電位=8V)を説明する説明図である。
【図5】他の実施例の電解用電極の製造方法のフローチャートである(実施例2)。
【図6】他の実施例の電解用電極の平断面図である(実施例2)。
【図7】本発明の電解用電極のX線回折パターンである(実施例2)。
【図8】各条件により作成された電解用電極を用いた場合のオゾン生成電流効率を示した図である(実施例2)。
【図9】本発明の電解用電極のX線回折パターンである(実施例3)。
【図10】各条件により作成された電解用電極を用いた場合のオゾン生成電流効率を示した図である(実施例3)。
【図11】本発明の電解用電極を適用した電解ユニットの概略説明図である。
【図12】各条件により作成された電解用電極を用いた場合のオゾン生成電力効率を示した図である(実施例4)。
【符号の説明】
【0111】
1、21 電解用電極(アノード)
2、22 基体
3、23 密着層
4、24 中間層
5、25 表面層
6 チタン板(電気伝導部)
7 銀ペースト
8 シール材
10 電解装置
11 処理槽
12、28 電極(カソード)
13 模擬水道水
14、29 陽イオン交換膜
15 電源
26 電解ユニット
27A、28A 通水孔
30 電極表面(電解溶液との界面)
31 空乏層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体と、前記基体の表面に構成された表面層を備えて成る電解用電極であって、
前記表面層は、蛍光X線法で測定した厚さが金属換算で5〜330nmで、X線回折法で測定した結晶構造がアモルファスの金属酸化物であることを特徴とする電解用電極。
【請求項2】
前記表面層は、蛍光X線法で測定した厚さが金属換算で5〜230nmで、X線回折法で測定した結晶構造がアモルファスの金属酸化物であることを特徴とする請求項1記載の電解用電極。
【請求項3】
前記基体には、前記表面層の内側に位置して、前記基体の表面に、難酸化性の金属で中間層が形成されることを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の電解用電極。
【請求項4】
前記金属酸化物が酸化タンタルであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の電解用電極。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の電解用電極により通水性を有したアノードが構成され、前記アノードと通水性を有したカソードが陽イオン交換膜の両面に配設されていることを特徴とする電解ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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