説明

電解質の添加を伴う抽出発酵を用いたブタノールの生成方法

発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比して、ブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度の少なくとも1種の電解質の存在下での不水和性有機抽出剤への抽出により、発酵の最中にブタノール生成物が取り出される、微生物発酵を介してブタノールを生成する方法が提供されている。電解質は、発酵培地、または、二相発酵培地の水性相中で解離して遊離イオンを形成する塩を含んでいてもよい。また、発酵培地からブタノールを回収するための方法および組成物が提供されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全体が本明細書において参照により援用されている、2009年11月23日に出願した米国仮特許出願第61/263,519号明細書の優先権の利益を主張する。
【0002】
本発明は、バイオ燃料の分野に関する。より具体的には、本発明は、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比して、ブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度で少なくとも1種の電解質が発酵培地中に存在しており、ブタノール生成物が不水和性有機抽出剤への抽出により取り出される、微生物発酵を介してブタノールを生成する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ブタノールは、燃料添加剤として、ディーゼル燃料へのブレンド成分として、プラスチック産業における原材料化学物質として、ならびに、食品および香料産業における食品用銘柄の抽出剤としての使用など、多様な用途を有する重要な工業化学物質である。毎年、石油化学的手段により100〜120億ポンドのブタノールが生成されている。ブタノールの需要が増加するに伴って、コーン、サトウキビ、または、セルロース系供給物などの再生可能資源からの発酵によるこの化学物質の生成に対する関心が拡大している。
【0004】
ブタノールが生成される発酵プロセスにおいては、インサイチュ生成物除去がブタノールによる微生物の阻害を有利に低減させ、発酵液体培地中のブタノール濃度を制御することにより発酵速度が向上される。インサイチュ生成物除去のための技術としては、ストリッピング、吸着、浸透気化、メンブラン溶剤抽出、および、液体−液体抽出が挙げられる。液体−液体抽出においては、抽出剤が発酵液体培地と接触させられて、発酵液体培地相と抽出剤相との間でブタノールが分割される。ブタノールおよび抽出剤は例えば蒸留による分離プロセスによって回収される。
【0005】
非特許文献1には、シクロペンタノール、n−バレルアルデヒド、t−アミルアルコール、および、Adol 85NF(主にオレイルアルコールから構成される)を抽出剤として用いる希釈水溶液からの1−ブタノール、エタノール、および、アセトンの抽出に対する塩の添加の影響を評価する実験研究が開示されている。著者らは、塩添加は、発酵プロセスにおいて典型的に見出される希釈水溶液からのエタノール、1−ブタノール、および、アセトンの抽出をもたらすという利点にも関わらず、このようなプロセス構成の実際の実施は現在では限定的であると結論づけている。インサイチュ回収ストラテジー(抽出発酵)として必要とされ得る比較的高い塩濃度は、細胞に対して、浸透圧衝撃に起因して極度の悪影響を有している可能性がある。
【0006】
特許文献1には、発酵液体培地などの希釈水溶液からC3〜C6アルコールを回収する方法が開示されている。この方法は、一分量の水溶液中のC3〜C6アルコールの活量を、少なくともこの分量におけるC3〜C6アルコールが飽和する活量に高める工程を含む。この発明の実施形態によれば、C3〜C6アルコールの活量を高める工程は水溶液への親水性の溶質の添加を含み得る。親水性の溶質の単なる添加、または、他の処理ステップとの組み合わせにより十分な親水性の溶質が添加されることで第2の液体相の形成が可能となる。添加される親水性の溶質は、塩、アミノ酸、水溶性の溶剤、糖質、または、これらの組み合わせであり得る。
【0007】
2009年6月4日出願の特許文献2には、発酵液体培地からブタノールを生成し、回収する方法が開示されており、これらの方法は、C12〜C22脂肪族アルコール、C12〜C22脂肪酸、C12〜C22脂肪酸のエステル、C12〜C22脂肪族アルデヒド、および、これらの混合物からなる群から選択される不水和性有機抽出剤と発酵液体培地とを接触させて、水性相とブタノール含有有機相とを含む二相混合物を形成するステップを含む。
【0008】
2009年4月13日に同時に出願された、米国仮特許出願第61/168,640号明細書;同61/168,642号明細書;および、同61/168,645号明細書;ならびに、2009年8月6日に同時に出願された、同61/231,697号明細書;同61/231,698号明細書;および、同61/231,699号明細書には、発酵培地からブタノールを生成し、回収する方法が開示されており、これらの方法は、第1の溶剤および第2の溶剤であって、C12〜C22脂肪族アルコール、C12〜C22脂肪酸、C12〜C22脂肪酸のエステル、C12〜C22脂肪族アルデヒド、および、これらの混合物からなる群から選択される第1の溶剤、ならびに、C〜C11アルコール、C〜C11カルボン酸、C〜C11カルボン酸のエステル、C〜C11アルデヒド、および、これらの混合物からなる群から選択される第2の溶剤を含む不水和性有機抽出剤と発酵培地とを接触させて、水性相とブタノール含有有機相とを含む二相混合物を形成するステップを含む。
【0009】
発酵培地からブタノールを生成しおよび回収するための向上した方法が継続的に探求されている。電解質の発酵培地への添加が向上したブタノール抽出効率および微生物との許容可能な生体適合性をもたらす、ブタノールのインサイチュ生成物除去プロセスが所望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0171129 A1号明細書
【特許文献2】米国特許出願第12/478,389号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J.J.MalinowskiおよびA.J.Daugulis,AIChE Journal (1994),40(9),1459〜1465ページ
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ブタノール、水、少なくとも1種の電解質、および、少なくとも1種の発酵性炭素源からブタノールを生成する遺伝子組み換え微生物を含む発酵培地からブタノールを回収する方法を提供する。電解質は、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比して、ブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度で発酵培地中に存在する。本発明はまた、このような微生物および添加された電解質を用いるブタノールの生成方法を提供する。この方法は、発酵培地を、i)第1の不水和性有機抽出剤、および、任意選択により、ii)第2の不水和性有機抽出剤と接触させるステップ、有機相からブタノール含有有機相を分離するステップ、ならびに、ブタノール含有有機相からブタノールを回収するステップを含む。本発明の一実施形態において、発酵培地からブタノールを回収する方法が提供されており、この方法は:
a)ブタノール、水、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比して、ブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度の少なくとも1種の電解質、および、少なくとも1種の発酵性炭素源からブタノールを生成する遺伝子組み換え微生物を含む発酵培地を提供するステップ;
b)発酵培地を、i)C12〜C22脂肪族アルコール、C12〜C22脂肪酸、C12〜C22脂肪酸のエステル、C12〜C22脂肪族アルデヒド、C12〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択される第1の不水和性有機抽出剤、ならびに、任意選択により、ii)C〜C22脂肪族アルコール、C〜C22脂肪酸、C〜C22脂肪酸のエステル、C〜C22脂肪族アルデヒド、C〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択される第2の不水和性有機抽出剤と接触させて、水性相とブタノール含有有機相とを含む二相混合物を形成するステップ;
c)任意選択により、水性相からブタノール含有有機相を分離するステップ;ならびに
d)ブタノール含有有機相からブタノールを回収して回収ブタノールを生成するステップ
を含む。
【0013】
いくつかの実施形態において、ブタノールの一部は:a)発酵培地からブタノールを気体でストリッピングしてブタノール含有気相を形成するステップ;および、b)ブタノール含有気相からブタノールを回収するステップを含むプロセスにより、発酵培地から同時に取り出される。
【0014】
本発明の方法によれば、電解質は、発酵培地に、第1の抽出剤に、任意選択の第2の抽出剤に、または、これらの組み合わせに添加され得る。いくつかの実施形態において、電解質は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アンモニウム、ホスホニウム塩、および、これらの組み合わせからなる群から選択されるカチオンを有する塩を含む。いくつかの実施形態において、電解質は、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、および、これらの組み合わせからなる群から選択されるアニオンを有する塩を含む。いくつかの実施形態において、電解質は、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、および、これらの組み合わせからなる群から選択される。
【0015】
本発明の方法によれば、いくつかの実施形態において、遺伝子組み換え微生物は、バクテリア、シアノバクテリア、糸状菌、および、酵母菌からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、バクテリアは、ザイモモナス属(Zymomonas)、大腸菌属(Escherichia)、サルモネラ属(Salmonella)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バチルス属(Bacillus)、乳酸桿菌属(Lactobacillus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ペジオコックス属(Pediococcus)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、クレブシエラ属(Klebsiella)、パエニバチルス属(Paenibacillus)、アルトロバクター属(Arthrobacter)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、および、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)からなる群から選択される。いくつかの実施形態において、イースト菌は、ピチア属(Pichia)、カンジダ属(Candida)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、クリベロマイセス属(Kluyveromyces)、イサチェンキア属(Issatchenkia)、および、酵母菌属(Saccharomyces)からなる群から選択される。
【0016】
本発明の方法によれば、第1の抽出剤は、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、セチルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸メチル、オレイン酸メチル、ラウリンアルデヒド、1−ドデカノール、および、これらの組み合わせからなる群から選択され得る。いくつかの実施形態において、第1の抽出剤はオレイルアルコールを含む。いくつかの実施形態において、第2の抽出剤は、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、2−ウンデカノール、1−ノナナール、および、これらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0017】
いくつかの実施形態において、ブタノールは1−ブタノールである。いくつかの実施形態において、ブタノールは2−ブタノールである。いくつかの実施形態において、ブタノールはイソブタノールである。いくつかの実施形態において、発酵培地はエタノールをさらに含み、および、ブタノール含有有機相はエタノールを含有する。
【0018】
本発明の一実施形態において、ブタノールの生成方法が提供されており、この方法は:
a)少なくとも1種の発酵性炭素源からブタノールを生成する遺伝子組み換え微生物を提供するステップ;
b)水性相と、i)C12〜C22脂肪族アルコール、C12〜C22脂肪酸、C12〜C22脂肪酸のエステル、C12〜C22脂肪族アルデヒド、C12〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択される第1の不水和性有機抽出剤、ならびに、任意選択により、ii)C〜C22アルコール、C〜C22カルボン酸、C〜C22カルボン酸のエステル、C〜C22アルデヒド、C〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択される第2の不水和性有機抽出剤とを含む二相発酵培地であって、さらに、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比して、ブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度で少なくとも1種の電解質を含む二相発酵培地中で、有機抽出剤へブタノールを抽出してブタノール含有有機相を形成させるのに十分な時間、微生物を増殖させるステップ;
c)任意選択により、水性相からブタノール含有有機相を分離するステップ;ならびに
d)ブタノール含有有機相からブタノールを回収して回収ブタノールを生成するステップ
を含む。
【0019】
本発明の一実施形態において、ブタノールの生成方法が提供されており、この方法は:
a)少なくとも1種の発酵性炭素源からブタノールを生成する遺伝子組み換え微生物を提供するステップ;
b)微生物を発酵培地中で増殖させるステップであって、微生物が発酵培地中にブタノールを生成してブタノール含有発酵培地が生成されるステップ;
c)少なくとも1種の電解質を発酵培地で添加して、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比して、ブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度で電解質を提供するステップ;
d)ブタノール含有発酵培地の少なくとも一部分と、i)C12〜C22脂肪族アルコール、C12〜C22脂肪酸、C12〜C22脂肪酸のエステル、C12〜C22脂肪族アルデヒド、C12〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択される第1の不水和性有機抽出剤、ならびに、任意選択により、ii)C〜C22アルコール、C〜C22カルボン酸、C〜C22カルボン酸のエステル、C〜C22アルデヒド、C〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択される第2の不水和性有機抽出剤とを接触させて、水性相とブタノール含有有機相とを含む二相混合物を形成するステップ;
e)任意選択により、水性相からブタノール含有有機相を分離するステップ;
f)ブタノール含有有機相からブタノールを回収するステップ;ならびに
g)任意選択により、水性相の少なくとも一部分を発酵培地に戻すステップ
を含む。
【0020】
いくつかの実施形態において、遺伝子組み換え微生物は、炭素流に対する競合する経路を不活化する組み換えを含む。いくつかの実施形態において、遺伝子組み換え微生物はアセトンを生成しない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1の抽出剤および第2の抽出剤が、容器中で組み合わされた後に発酵容器中の発酵培地と接触させられる、本発明の方法の一実施形態を概略的に示す。
【図2】第1の抽出剤および第2の抽出剤が発酵培地と接触させられる発酵容器に、これらの抽出剤が別々に加えられる、本発明の方法の一実施形態を概略的に示す。
【図3】第1の抽出剤および第2の抽出剤が異なる発酵容器に別々に添加される、本発明の方法の一実施形態を概略的に示す。
【図4】生成物の抽出が発酵槽の下流で行われ、ならびに、第1の抽出剤および第2の抽出剤が容器中で組み合わされた後に、異なる容器の中でこれらの抽出剤が発酵培地と接触させられる、本発明の方法の一実施形態を概略的に示す
【図5】生成物の抽出が発酵槽の下流で行われ、ならびに、第1の抽出剤および第2の抽出剤が発酵培地と接触させられる容器に、これらの抽出剤が別々に加えられる、本発明の方法の一実施形態を概略的に示す。
【図6】生成物の抽出が発酵槽の下流で行われ、ならびに、第1の抽出剤および第2の抽出剤が、発酵培地と接触させられるために、異なる容器に別々に加えられる、本発明の方法の一実施形態を概略的に示す。
【図7】発酵槽を充填する発酵槽の底部または底部付近の不水和性有機抽出剤の並流を介して少なくとも1つの回分発酵槽において生成物の抽出が行われ、抽出剤が発酵槽の上部または上部付近で発酵槽から流出する本発明の方法の一実施形態を概略的に示す。
【0022】
以下の配列は、米国特許施行規則第1.821 1.825条(「ヌクレオチド配列および/またはアミノ酸配列の開示を含む特許出願に対する要件−配列規則」)に準拠していると共に、World Intellectual Property Organization(WIPO)標準ST.25(1998年)およびEPOおよびPCTの配列リスト要件(規則5.2および49.5(aの2)、ならびに、実施細則の208号および付属書C)に合致している。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】

【0025】
【表3】

【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明は、不水和性有機抽出剤に抽出して水性相とブタノール含有有機相とを含む二相混合物を形成することにより、少なくとも1種の電解質を含む微生物発酵培地からブタノールを回収する方法を提供する。電解質は、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比して、ブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度で発酵培地中に存在する。ブタノール含有有機相が水性相から分離され、および、ブタノールが回収され得る。ブタノールを生成する方法もまた提供されている。
【0027】
定義
以下の定義が本開示において用いられている。
【0028】
「電解質」という用語は、水溶液中でイオン化または解離し、イオン性伝導体として機能し得る溶質を指す。
【0029】
「ブタノール」という用語は、独立して、または、これらの混合物として、1−ブタノール、2−ブタノール、および/または、イソブタノールを指す。
【0030】
「不水和性の」という用語は、1つの液体相を形成するようには発酵液体培地などの水溶液と混合が可能ではない抽出剤または溶剤などの化学成分を指す。
【0031】
本明細書において用いられるところ、「抽出剤」という用語は、発酵液体培地からブタノールを抽出するために用いられる1種以上の有機溶剤を指す。
【0032】
「二相発酵培地」という用語は、発酵培地(すなわち水性相)および好適な量の不水和性有機抽出剤を含む二相増殖培地を指す。
【0033】
本明細書において用いられるところ、「有機相」という用語は、発酵液体培地と不水和性有機抽出剤とを接触させることにより得られる二相混合物の非水性相を指す。
【0034】
本明細書において用いられるところ、「水性相」という用語は、水性発酵培地と不水和性有機抽出剤とを接触させることにより得られる、水を含む二相混合物の相を指す。
【0035】
本明細書において用いられるところ、「インサイチュ生成物除去」という用語は、発酵などの生物学的プロセスから特定の発酵生成物を選択的に取り出して、生物学的プロセスにおける生成物濃度を制御することを意味する。
【0036】
本明細書において用いられるところ、「発酵液体培地」という用語は、存在している微生物によるブタノール、水および二酸化炭素(CO)への糖質の反応により生成物ブタノールが形成される発酵容器中に保持されている、水、糖質、溶解固形分、懸濁固形分、ブタノールを生成する微生物、生成物ブタノール、および、材料のすべての他の構成成分の混合物を意味する。発酵液体培地は、本明細書に記載のとおり糖質などの1種以上の発酵性炭素源を含んでいてもよい。発酵液体培地は、二相発酵抽出における水性相である。時々、本明細書において用いられるところ、「発酵培地」という用語は、「発酵液体培地」と同義的に用いられ得る。
【0037】
本明細書において用いられるところ、「発酵容器」という用語は、生成物ブタノールが糖質から形成される発酵反応が実施される容器を意味する。「発酵槽」という用語は、本明細書において、「発酵容器」と同義的に用いられ得る。
【0038】
「発酵性炭素源」という用語は、本明細書に開示の微生物によって代謝が可能である炭素源を指す。好適な発酵性炭素源としては、これらに限定されないが、グルコースまたはフルクトースなどの単糖;ラクトースまたはスクロースなどの二糖;オリゴ糖;デンプンまたはセルロースなどの多糖類;一炭素基質;および、これらの組み合わせが挙げられ、これらは発酵培地中に見出され得る。発酵性炭素の供給源としては、農業原料、藻類、セルロース、ヘミセルロース、リグノセールロース、または、いずれかのこれらの組み合わせに由来する炭素を含む、非石油系炭素である再生可能炭素を含む。
【0039】
本明細書において用いられるところ、「脂肪酸」という用語は、飽和または不飽和である、C〜C22炭素原子の長い脂肪族鎖を有するカルボン酸を指す。
【0040】
本明細書において用いられるところ、「脂肪族アルコール」という用語は、飽和または不飽和である、C〜C22炭素原子の長い脂肪族鎖を有するアルコールを指す。
【0041】
本明細書において用いられるところ、「脂肪族アルデヒド」という用語は、飽和または不飽和である、C〜C22炭素原子の長い脂肪族鎖を有するアルデヒドを指す。
【0042】
本明細書において用いられるところ、「脂肪族アミド」という用語は、飽和または不飽和である、C12〜C22炭素原子の長い脂肪族鎖を有するアミドを指す。
【0043】
本明細書においてKと略記される「分配係数」という用語は、平衡下の2種の不混和性の溶剤の混合物の2つの相における化合物の濃度の比を意味する。分配係数は、2種の不混和性溶剤間の化合物の異なる溶解度の尺度である。本明細書において用いられるところ、「ブタノールに関する分配係数」という用語は、抽出剤を含む有機相と発酵培地を含む水性相との間のブタノールの濃度の比を指す。本明細書において用いられるところ、分配係数は用語分布係数と同義である。
【0044】
本明細書において用いられるところ、「分離」という用語は、「回収」と同義であり、初期混合物から化学化合物を除去して、初期混合物中の化合物の純度または濃度より高い純度または濃度で化合物を得ることを指す。
【0045】
本明細書において用いられるところ、「ブタノール生合成経路」という用語は、1−ブタノール、2−ブタノール、または、イソブタノールを生成する酵素経路を指す。
【0046】
本明細書において用いられるところ、「1−ブタノール生合成経路」という用語は、1−ブタノールをアセチル−コエンザイムA(アセチル−CoA)から生成する酵素経路を指す。
【0047】
本明細書において用いられるところ、「2−ブタノール生合成経路」という用語は、ピルビン酸塩から2−ブタノールを形成する酵素経路を指す。
【0048】
本明細書において用いられるところ、「イソブタノール生合成経路」という用語は、ピルビン酸塩からイソブタノールを形成する酵素経路を指す。
【0049】
本明細書において用いられるところ、「実効滴定濃度」という用語は、発酵/発酵培地1リットルにより生成されたブタノールの総量を指す。ブタノールの総量は:(i)発酵培地中のブタノールの量;(ii)有機抽出剤から回収されたブタノールの量;および、(iii)ガスストリッピングが用いられる場合、気相から回収されたブタノールの量を含む。
【0050】
本明細書において用いられるところ、「実効速度」という用語は、発酵/発酵培地1リットル/発酵1時間により生成されるブタノールの総量を指す。
【0051】
本明細書において用いられるところ、「実効収率」という用語は、生成されたブタノールの量/生体触媒により消費される発酵性炭素基質の単位を指す。
【0052】
本明細書において用いられるところ、「好気性条件」という用語は、酸素の存在下の増殖条件を意味する。
【0053】
本明細書において用いられるところ、「微好気性条件」という用語は、低レベル(すなわち、通常の大気中の酸素レベル未満)の酸素が伴う増殖条件を意味する。
【0054】
本明細書において用いられるところ、「嫌気性条件」という用語は、酸素が存在しない増殖条件を意味する。
【0055】
本明細書において用いられるところ、「最低培地」という用語は、一般にアミノ酸が存在していない、増殖ために最低限の栄養分を含有する増殖培地を指す。最低培地は、典型的には、発酵性炭素源および種々の塩を含有するが、これらは、微生物および増殖条件により様々であり得;これらの塩は、一般に、マグネシウム、窒素、リンおよび硫黄などの必須元素を提供して、微生物にタンパク質および核酸を合成させる。
【0056】
本明細書において用いられるところ、「規定培地」という用語は、例えば規定炭素源および窒素源といった存在する配合成分のすべて、ならびに、微生物によって要求される微量元素およびビタミンを既知の量で有している増殖培地を指す。
【0057】
本明細書において用いられるところ、「生体適合性」という用語は、抽出剤の存在下でグルコースを利用する微生物の能力の尺度を指す。生体適合性抽出剤は、微生物によるグルコースの利用を許容する。非生体適合性(すなわち、生体毒性)抽出剤は、微生物によるグルコースの利用を許容しない(例えば、抽出剤が存在していない場合の割合の約25%を超える割合)。
【0058】
「℃」という用語は摂氏度を意味する。
【0059】
「OD」という用語は光学密度を意味する。
【0060】
「OD600」という用語は、波長600nmでの光学密度を指す。
【0061】
ATCCという用語は、American Type Culture Collection,Culture Collection,Manassas,VAを指す。
【0062】
「sec」という用語は秒を意味する。
【0063】
「min」という用語は分を意味する。
【0064】
「h」という用語は時間を意味する。
【0065】
「mL」という用語はミリリットルを意味する。
【0066】
「L」という用語はリットルを意味する。
【0067】
「g」という用語はグラムを意味する。
【0068】
「mmol」という用語はミリモルを意味する。
【0069】
「M」という用語はモル量を意味する。
【0070】
「μL」という用語はマイクロリットルを意味する。
【0071】
「μg」という用語はマイクログラムを意味する。
【0072】
「μg/mL」という用語はマイクログラム/リットルを意味する。
【0073】
「mL/min」という用語はミリリットル/分を意味する。
【0074】
「g/L」という用語はグラム/リットルを意味する。
【0075】
「g/L/h」という用語はグラム/リットル/時間を意味する。
【0076】
「mmol/min/mg」という用語はミリモル/分/ミリグラムを意味する。
【0077】
「temp」という用語は温度を意味する。
【0078】
「rpm」という用語は回転数/分を意味する。
【0079】
「HPLC」という用語は高圧ガスクロマトグラフィを意味する。
【0080】
「GC」という用語はガスクロマトグラフィを意味する。
【0081】
本明細書に記載されているすべての公報、特許、特許出願、および、他の文献は、すべての目的についてそれらの全体が参照により特に援用されている。さらに、量、濃度、または、他の値もしくはパラメータが、範囲、好ましい範囲、または、好ましい上方値および好ましい下方値の列挙として記載されている場合、これらは、範囲が別個に開示されているかどうかに関わらず、いずれかの範囲上限または好ましい上方値と、いずれかの範囲下限または好ましい下方値とのいずれかの対から形成されるすべての範囲を特定的に開示していると理解されるべきである。本明細書において数値の範囲が言及されている場合、他に明記されていない限りにおいて、この範囲は、その端点、ならびに、この範囲内のすべての整数および少数を含んでいることが意図されている。本発明の範囲は、範囲が定義される際に言及されている特定の値に限定されることは意図されていない。
【0082】
遺伝子組み換え微生物
ブタノール生成のための微生物ホストは、バクテリア、シアノバクテリア、糸状菌および酵母菌から選択され得る。用いられる微生物ホストは、生成されるブタノール生成物に耐性であり、ホストに対する生成物の毒性によって収率が限定されないべきである。ブタノール生成のための一連の微生物ホストが以下に詳細に記載されている。
【0083】
高い滴定濃度レベルのブタノールで代謝的に活性な微生物は、技術分野において周知ではない。ソルベント生成能を有するクロストリジウム属(Clostridia)からブタノール耐性変異体が単離されているが、他の潜在的に有用な菌株のブタノール耐性に関する情報はほとんど入手不可能である。バクテリアにおけるアルコール耐性の比較に関する研究のほとんどが、ブタノールはエタノールよりも毒性が高いことを示唆している(de Cavalhoら,Microsc.Res.Tech.,64:215〜22ページ(2004年)、および、Kabelitzら,FEMS Microbiol.Lett.,220:223〜227ページ(2003年))。Tomasら(J.Bacteriol.,186:2006〜2018ページ(2004年))には、クロストリジウムアセトブチリクム(Clostridium acetobutylicum)における発酵の最中の1−ブタノールの収率はブタノールの毒性によって限定され得ることが報告されている。クロストリジウムアセトブチリクム(Clostridium acetobutylicum)に対する1−ブタノールの主な影響はメンブラン機能の撹乱である(Hermannら,Appl.Environ.Microbiol.,50:1238〜1243ページ(1985年))。
【0084】
ブタノールの生成のために選択される微生物ホストはブタノールに対して耐性であるべきであると共に、以下に記載した経路などの、導入された生合成経路を用いて炭水化物をブタノールに変換することが可能であるべきである。好適な微生物ホストの選択に対する判断基準は以下を含む:ブタノールに対する内因的な耐性、高い炭水化物利用割合、遺伝子操作のための遺伝学的ツールの入手可能性、および、安定した染色体変化の形成能。
【0085】
ブタノールに対する耐性を有する好適なホスト菌株は、菌株の内因的な耐性に基づいたスクリーニングにより同定され得る。ブタノールに対する微生物の内因的な耐性は、最低培地における増殖中に増殖速度の50%阻害を生じさせるブタノールの濃度(IC50)を測定することにより測ることができる。IC50値は、技術分野において公知である方法を用いて測定され得る。例えば、関心のある微生物を種々の量のブタノールの存在下で増殖させ、600ナノメートルで光学密度を計測することにより増殖速度がモニターされ得る。倍加時間が増殖曲線の対数部分から算出され得、および、増殖速度の尺度として用いられ得る。増殖の50%阻害をもたらすブタノールの濃度は、ブタノール濃度に対する増殖の阻害割合のグラフから判定され得る。好ましくは、ホスト菌株は、約0.5%を超えるブタノールに対するIC50を有しているべきである。ホスト菌株が約1.5%を超えるブタノールに対するIC50を有していることがより好適である。ホスト菌株が約2.5%を超えるブタノールに対するIC50を有していることが特に好適である。
【0086】
ブタノール生成のための微生物ホストはまた、グルコースおよび/または他の炭水化物を高い割合で利用すべきである。ほとんどの微生物は、炭水化物を利用することが可能である。しかしながら、一定の環境下での微生物は炭水化物を効率的に用いることができず、従って、好適なホストとはならない。
【0087】
ホストを遺伝子組み換え可能であることが組換え型微生物のいずれかをもたらすために必須である。用いられ得る遺伝子導入技術の形態はエレクトロポレーション、接合、形質導入または自然形質転換によるものを含む。幅広い範囲のホスト接合性プラスミドおよび薬剤耐性マーカが利用可能である。生体と共に用いられるクローニングベクタは、ホスト生体において機能することが可能である抗生物質耐性マーカの性質に基づいて、このホストに対して調整される。
【0088】
微生物ホストはまた、種々の遺伝子を不活化することにより炭素流について競合する経路を不活化するために操作され得る。これは、直接的な不活化へのトランスポゾンまたは染色体組み込み型ベクタのいずれかの利用可能性を必要とする。また、化学的突然変異誘発に適用できる生成ホストは、化学的突然変異誘発および変異体スクリーニングを介して内因的なブタノール耐性が向上され得る。
【0089】
炭素流のための競合する経路の不活化の例として、ピルビン酸デカルボキシラーゼが低減または排除され得る(例えば、米国特許出願公開第2009/0305363号明細書を参照のこと)。実施形態において、ブタノールは微生物の主生成物である。実施形態において、微生物はアセトンを生成しない。
【0090】
上記の判断基準に基づいて、ブタノールの生成に好適な微生物ホストとしては、これらに限定されないが、ザイモモナス属(Zymomonas)、大腸菌属(Escherichia)、サルモネラ属(Salmonella)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バチルス属(Bacillus)、乳酸桿菌属(Lactobacillus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ペジオコックス属(Pediococcus)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、クレブシエラ属(Klebsiella)、パエニバチルス属(Paenibacillus)、アルトロバクター属(Arthrobacter)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)、ピチア属(Pichia)、カンジダ属(Candida)、ハンゼヌラ属(Hansenula)、クリベロマイセス属(Kluyveromyces)、イサチェンキア属(Issatchenkia)、および、酵母菌属(Saccharomyces)の構成メンバーが挙げられる。好ましいホストとしては:大腸菌(Escherichia coli)、アルカリゲネスユートロフス(Alcaligenes eutrophus)、バチルスリケニフォルミス(Bacillus licheniformis)、パエニバチルスマセランス(Paenibacillus macerans)、ロドコッカスエリスロポリス(Rhodococcus erythropolis)、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)、ラクトバチルスプランタルム(Lactobacillus plantarum)、エンテロコッカスフェシウム(Enterococcus faecium)、エンテロコッカスガリナルム(Enterococcus gallinarium)、エンテロコッカスフェカリス(Enterococcus faecalis)、ペディオコッカスペントサセウス(Pediococcus pentosaceus)、ペディオコッカスアシディラクティシ(Pediococcus acidilactici)、枯草菌(Bacillus subtilis)、および、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)が挙げられる。
【0091】
上述の微生物は、技術分野において公知である方法を用いて、遺伝子組み換えされて、発酵性炭素源を、特に1−ブタノール、2−ブタノール、または、イソブタノールといったブタノールに変換し得る。好適な微生物としては、大腸菌属(Escherichia)、乳酸桿菌属(Lactobacillus)、および、酵母菌属(Saccharomyces)が挙げられる。好適な微生物としては、大腸菌(E.coli)、L.プランタルム(L.plantarum)、および、出芽酵母(S.cerevisiae)が挙げられる。また、微生物は、Bramucciら(米国特許出願第11/761497号明細書;および国際公開第2007/146377号パンフレット)によって説明されている方法を用いて単離される、上記に列挙した微生物の一種のブタノール耐性菌株であり得る。このような菌株の一例は、ラクトバチルスプランタルム(Lactobacillus plantarum)菌株PN0512(ATCC:PTA−7727、米国特許出願第11/761497号明細書について2006年7月12日に受託された生体)である。
【0092】
ブタノールの生成のための好適な生合成経路は技術分野において公知であり、および、一定の好適な経路が本明細書に記載されている。いくつかの実施形態において、ブタノール生合成経路は、ホスト細胞に対して非相同的である少なくとも1種の遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、ブタノール生合成経路は、ホスト細胞に対して非相同的である2種以上の遺伝子を含む。いくつかの実施形態において、ブタノール生合成経路は、生合成経路の各ステップに対応するポリペプチドをコードする非相同的遺伝子を含む。
【0093】
同様に、示された基質−生成物転換の触媒能を有する一定の好適なタンパク質が本明細書に記載されており、他の好適なタンパク質は技術分野において提供されている。例えば、米国特許出願公開第2008/0261230号明細書、同20090163376号明細書、および、同20100197519号明細書には、2010年9月29日に出願の米国特許出願第12/893,077号明細書と同様に、アセトヒドロキシ酸イソメロレダクターゼが記載されており;米国特許出願公開第2010/0081154号明細書にはジヒドロキシ酸デヒドラターゼが記載されており;アルコールデヒドロゲナーゼが、米国特許出願公開第2009/0269823号明細書および米国仮特許出願第61/290636号明細書に記載されている。
【0094】
微生物は、遺伝子組み換えされて、1−ブタノールを生成する1−ブタノール生合成経路を含んでいることが可能である。好適な組み換えとしては、国際公開第2007/041269号パンフレットにおいて、Donaldsonらによって記載されているものが挙げられる。例えば、微生物は、遺伝子組み換えされて、以下の酵素触媒基質−生成物転換を含む1−ブタノール生合成経路を発現し得る:
a)アセチル−CoAからアセトアセチル−CoA;
b)アセトアセチル−CoAから3−ヒドロキシブチリル−CoA;
c)3−ヒドロキシブチリル−CoAからクロトニル−CoA;
d)クロトニル−CoAからブチリル−CoA;
e)ブチリル−CoAからブチルアルデヒド;ならびに
f)ブチルアルデヒドa−ブタノール。
【0095】
微生物はまた、遺伝子組み換えされて、2−ブタノールを生成する2−ブタノール生合成経路を発現し得る。好適な組み換えとしては、米国特許出願公開第2007/0259410号明細書および同2007/0292927号明細書、ならびに、国際公開第2007/130518号パンフレットおよび国際公開第2007/130521号パンフレットにおいて、Donaldsonらによって記載されているものが挙げられる。例えば、一実施形態においては、微生物は、遺伝子組み換えされて、以下の酵素触媒基質−生成物転換を含む2−ブタノール生合成経路を発現し得る:
a)ピルビン酸塩からα−アセト乳酸;
b)α−アセト乳酸からアセトイン;
c)アセトインから2,3−ブタンジオール;
d)2,3−ブタンジオールから2−ブタノン;ならびに
e)2−ブタノンから2−ブタノール。
【0096】
微生物はまた、遺伝子組み換えされて、イソブタノールを生成するイソブタノール生合成経路を発現し得る。好適な組み換えとしては、米国特許出願公開第2007/0092957号明細書および国際公開第2007/050671号パンフレットにおいて、Donaldsonらによって記載のものが挙げられる。例えば、微生物は、遺伝子組み換えされて、以下の酵素触媒基質−生成物転換を含むイソブタノール生合成経路を含んでいてもよい:
a)ピルビン酸塩からアセト乳酸;
b)アセト乳酸から2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸;
c)2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸からα−ケトイソ吉草酸;
d)α−ケトイソ吉草酸からイソブチルアルデヒド;ならびに
e)イソブチルアルデヒドからイソブタノール。
【0097】
大腸菌(Escherichia coli)株は、以下を含み得る:(a)以下の遺伝子によってコードされているイソブタノール生合成経路:アセト乳酸シンターゼ(配列番号:2が付されている)をコードする肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)に由来するbudB(配列番号:1)、アセトヒドロキシ酸レダクトイソメラーゼ(配列番号:4が付されている)をコードする大腸菌(E.coli)に由来するilvC(配列番号:3が付されている)、アセトヒドロキシ酸デヒドラターゼ(配列番号:6が付されている)をコードする大腸菌(E.coli)に由来するilvD(配列番号:5が付されている)、分岐鎖ケト酸デカルボキシラーゼ(配列番号:8が付されている)をコードする乳酸連鎖球菌(Lactococcus lactis)に由来するkivD(配列番号:7が付されている)、および、ブタノールデヒドロゲナーゼ(配列番号:10が付されている)をコードするアクロモバクターキシロソキシダンス(Achromobacter xylosoxidans)に由来するsadB(配列番号:9が付されている)。イソブタノール生合成経路の遺伝子によりコードされた酵素は、上記のとおり、ピルビン酸塩をイソブタノールに変換する基質−生成物転換を触媒する。特に、アセト乳酸シンターゼはピルビン酸塩のアセト乳酸への転換を触媒し、アセトヒドロキシ酸レダクトイソメラーゼはアセト乳酸の2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸への転換を触媒し、アセトヒドロキシ酸デヒドラターゼは2,3−ジヒドロキシイソ吉草酸のα−ケトイソ吉草酸への転換を触媒し、分岐鎖ケト酸デカルボキシラーゼはα−ケトイソ吉草酸のイソブチルアルデヒドへの転換を触媒し、および、ブタノールデヒドロゲナーゼはイソブチルアルデヒドのイソブタノールへの転換を触媒する。この組換え型大腸菌(Escherichia coli)株は、技術分野において公知である方法(同時継続中の米国特許出願第12/478,389号明細書および同12/477,946号明細書を参照のこと)、および/または、本明細書において以下に記載の方法を用いて構築可能である。好適な菌株は、本明細書に記載のタンパク質配列に対して、少なくとも約70〜75%の同一性、少なくとも約75〜80%、少なくとも約80〜85%の同一性、または、少なくとも約85〜90%の同一性を有する配列を含んで構築され得ることが予期される。
【0098】
大腸菌(Escherichia coli)株は、イソブタノール生成を限定する競合する経路を排除するために、以下の遺伝子、配列番号:71が付されたpflB(ピルビン酸ギ酸リアーゼをコードする)、配列番号:73が付されたIdhA(乳酸デヒドロゲナーゼをコードする)、配列番号:77が付されたadhE(アルコールデヒドロゲナーゼをコードする)、ならびに、frdABCDオペロン(フマル酸レダクターゼをコードする)、特に、配列番号:90が付されたfrdA、配列番号:75が付されたfrdB、配列番号:92が付されたfrdC、および、配列番号:94が付されたfrdDを含む少なくとも1種の遺伝子が欠失されていてもよい。
【0099】
出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)菌株は:以下の遺伝子によってコードされるイソブタノール生合成経路:アセト乳酸シンターゼ(配列番号:12)をコードする枯草菌(Bacillus subtilis)(配列番号:11)に由来するalsSコード領域、アセトヒドロキシ酸レダクトイソメラーゼ(KARI;配列番号:14)および/またはPf5.IlvC−Z4B8によってコードされたものなどの変異KARI(配列番号:15;タンパク質配列番号:16)をコードする出芽酵母(S.cerevisiae)(配列番号:13)に由来するILV5、アセトヒドロキシ酸デヒドラターゼ(配列番号:18)をコードするミュータンス菌(Streptococcus mutans)(配列番号:17)に由来するilvD、分岐鎖ケト酸デカルボキシラーゼ(配列番号:20)をコードする枯草菌(Bacillus subtilis)(配列番号:19が付されているコドン最適化配列)に由来するkivD、ならびに、ブタノールデヒドロゲナーゼ(配列番号:10)をコードするアクロモバクターキシロソキシダンス(Achromobacter xylosoxidans)(配列番号:9)に由来のsadBを含み得る。イソブタノール生合成経路の遺伝子によりコードされた酵素は、本明細書に記載のとおり、ピルビン酸塩をイソブタノールに変換する基質−生成物転換を触媒する。好適な菌株は、本明細書に記載のタンパク質配列に対して、少なくとも約70〜75%の同一性、少なくとも約75〜80%、少なくとも約80〜85%の同一性、または、少なくとも約85〜90%の同一性を有する配列を含んで構築され得ることが予期される。
【0100】
細胞質ゾルにおいてアセト乳酸シンターゼ(ALS)活性でイソブタノール経路を発現し、および、内因性ピルビン酸デカルボキシラーゼ(PDC)遺伝子の欠失を有するイースト菌株が、米国特許出願第12/477,942号明細書に記載されている。この細胞質ALSと低PDC発現との組み合わせが、次いでイソブタノールの生成のための経路に流れる、ピルビン酸塩からアセト乳酸への流動を大きく増大させることが見いだされている。このような組換え型出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)菌株は、技術分野において公知である方法および/または本明細書に記載の方法を用いて構築されることが可能である。他の好適なイースト菌株は技術分野において公知である。追加の例が、米国仮特許出願第61/379546号明細書、同61/380563号明細書、および、米国特許出願第12/893089号明細書に提供されている。
【0101】
本明細書において提供されているプロセスと併せて用いられる微生物に好適な追加の組み換えとしては、米国特許出願公開第2009/0305363号明細書に記載されているグリセロール−3−リン酸デヒドロゲナーゼ活性を低減させる組み換え、米国特許出願公開第2010/0120105号明細書に記載されているEntner−Doudoroff経路または還元当量のバランスを介して高い炭素流動をもたらすホスト細胞への組み換えが挙げられる。活性のためにFe−Sクラスターの結合を必要とする非相同的タンパク質の活性が高められたイースト菌株が米国特許出願公開第2010/0081179号明細書に記載されている。他の組み換えとしては、米国仮特許出願第61/290,639号明細書に記載されている二元性ヘキソキナーゼ活性を有するポリペプチドをコードする内因性ポリヌクレオチドにおける組み換え、米国仮特許出願第61/380563号明細書に記載されているピルビン酸塩利用生合成経路におけるステップを触媒するポリペプチドをコードする少なくとも1つのポリヌクレオチドの組み込みが挙げられる。
【0102】
また、Fe−Sクラスター生合成に作用するポリペプチドをコードする内因性遺伝子に少なくとも1つの欠失、突然変異、および/または、置換を含むホスト細胞が米国仮特許出願第61/305333号明細書に記載されており、ならびに、ホスホケトラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする非相同的ポリヌクレオチドを含むホスト細胞、および、ホスホトランスアセチラーゼ活性を有するポリペプチドをコードする非相同的ポリヌクレオチドを含むホスト細胞が米国仮特許出願第61/356379号明細書に記載されている。
【0103】
好適なイースト菌株の構築
NGI−049が、好適な出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)菌株の一例である。NGI−049は、内因性PDC1、PDC5およびPDC6遺伝子が挿入不活化されており、ならびに、発現ベクタpLH475−Z4B8およびpLH468を含む菌株である。PDC1、PDC5およびPDC6遺伝子は、ピルビン酸デカルボキシラーゼの3種の主たる同位酵素をコードする。この菌株は、統合されているかまたはプラスミド上のイソブタノール生合成経路のための酵素をコードする遺伝子を発現する。NGI−049菌株の構築が本明細書において提供されている。
【0104】
イースト菌における内因性ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性はピルビン酸塩をアセトアルデヒドに変換し、これが、次いで、エタノール、または、アセテートを介してアセチル−CoAに変換される。従って、内因性ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性は、副産物形成の低減または排除のための標的である。
【0105】
ピルビン酸デカルボキシラーゼをコードする遺伝子の撹乱によりピルビン酸デカルボキシラーゼ活性が低い他のイースト菌株の例は、Flikweertら(Yeast(1996年)12:247〜257ページ)において酵母菌属(Saccharomyces)、Bianchiら(Mol.Microbiol.(1996年)19(1):27〜36ページ)においてクリベロマイセス属(Kluyveromyces)などが報告されており、および、Hohmann(Mol Gen Genet.(1993年)241:657〜666ページ)において調節性遺伝子の撹乱が報告されている。ピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有さない酵母菌属(Saccharomyces)菌株はATCC(受託番号200027および番号200028)から入手可能である。
【0106】
pdc6::GPMp1−sadB組み込みカセットの構築およびPDC6欠失:
pdc6::GPM1p−sadB−ADH1t−URA3r組み込みカセットを、pRS425::GPM−sadB(配列番号:63)由来のGPM−sadB−ADHtセグメント(配列番号:21)をpUC19−URA3r由来のURA3r遺伝子に接合することにより形成した。pUC19−URA3r(配列番号:22)は、インビボでの
相同的組み換えおよびURA3マーカの除去を可能とする、75bpの相同的な反復配列が隣接するpRS426(ATCC番号77107)由来のURA3マーカを含む。2つのDNAセグメントを、Phusion DNAポリメラーゼ(New England
Biolabs Inc.,Beverly,MA;カタログ番号F−540S)およびプライマー114117−11A〜114117−11D(配列番号:23、24、25および26)、ならびに、114117−13Aおよび114117−13B(配列番号:27および28)と共に、pRS425::GPM−sadBおよびpUC19−URA3rプラスミドDNAを鋳型として用いるSOE PCR(Hortonら(1989年)Gene,77:61〜68ページにより記載されているとおり)により接合した。
【0107】
SOE PCR(114117−13Aおよび114117−13B)に対するアウタープライマーは、それぞれPDC6プロモータおよびターミネータの上流領域および下流領域と相同的である5’および3’約50bp領域を含んでいた。完全なカセットPCR断片をBY4700(ATCC番号200866)に形質転換し、および、形質転換体を、標準的な遺伝学的技術を用い、30℃で、ウラシルを欠くと共に2%グルコースを補った合成完全培地で維持した(Methods in Yeast Genetics,2005年,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,201〜202ページ)。プライマー112590−34Gおよび112590−34H(配列番号:30および31)、ならびに、112590−34Fおよび112590−49E(配列番号:29および32)を用いるPCRにより形質転換体をスクリーニングして、PDC6コード領域の欠失が伴うPDC6遺伝子座での組み込みを検証した。URA3rマーカを、標準的なプロトコルに従い、30℃で、2%グルコースおよび5−FOAを補った合成完全培地でプレーティングにより再生した。マーカの除去は、5−FOAプレートからコロニーのパッチをSD−URA培地に植えて増殖が見られないことを検証することによって確認した。得られる同定した菌株は、遺伝子型:BY4700 pdc6::PGPM1−sadB−ADH1tを有している。
【0108】
pdc1::PDC1−ilvD組み込みカセットの構築およびPDC1欠失:
pdc1::PDC1p−ilvD−FBA1t−URA3r組み込みカセットを、Phusion DNAポリメラーゼ(New England Biolabs Inc.,Beverly,MA;カタログ番号F−540S)およびプライマー114117−27A〜114117−27D(配列番号:34、35、36および37)と共に、pLH468およびpUC19−URA3rプラスミドDNAを鋳型として用いるSOE PCR(Hortonら(1989年)Gene,77:61〜68ページに記載されているとおり)により、pLH468由来のilvD−FBA1tセグメント(配列番号:33)をpUC19−URA3r由来のURA3r遺伝子に接合することにより形成した。
【0109】
SOE PCR(114117−27Aおよび114117−27D)に対するアウタープライマーは、PDC1プロモータの下流領域およびPDC1コード配列の下流領域と相同的である5’および3’約50bp領域を含んでいた。完全なカセットPCR断片をBY4700 pdc6::PGPM1−sadB−ADH1tに形質転換し、および、形質転換体を、標準的な遺伝学的技術を用い、30℃で、ウラシルを欠くと共に2%グルコースを補った合成完全培地で維持した(Methods in Yeast Genetics,2005年,Cold Spring Harbor Laboratory
Press,Cold Spring Harbor,NY,201〜202ページ)。プライマー114117−36Dおよび135(配列番号38および39)、ならびに、プライマー112590−49Eおよび112590−30F(配列番号32および40)を用いるPCRにより形質転換体をスクリーニングして、PDC1コード配列の欠失が伴うPDC1遺伝子座での組み込みを検証した。URA3rマーカを、標準的なプロトコルに従い、30℃で、2%グルコースおよび5−FOAを補った合成完全培地でプレーティングにより再生した。マーカの除去は、5−FOAプレートからコロニーのパッチをSD−URA培地に植えて増殖が見られないことを検証することによって確認した。得られる同定した菌株「NYLA67」は、遺伝子型:BY4700pdc6::GPM1p−sadB−ADH1t pdc1::PDC1p−ilvD−FBA1tを有している。
【0110】
HIS3欠失
内因性HIS3コード領域を欠失させるために、his3::URA3r2カセットをURA3r2鋳型DNA(配列番号;41)からPCR増幅した。URA3r2は、インビボでの相同的組み換えおよびURA3マーカの除去を可能とする、500bpの相同的な反復配列が隣接するpRS426(ATCC番号77107)由来のURA3マーカを含む。Phusion DNAポリメラーゼおよびプライマー114117−45Aおよび114117−45B(配列番号:42および43)を用いてPCRを行って、約2.3kbのPCR生成物を生成した。各プライマーのHIS3部分は、URA3r2マーカの組み込みがHIS3コード領域の置換をもたらすように、HIS3プロモータの上流の5’領域およびコード領域の下流の3’領域から得た。PCR生成物を標準的な遺伝学的技術を用いてNYLA67に形質転換し(Methods in Yeast Genetics,2005年,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,201〜202ページ)、および、形質転換体を、30℃で、ウラシルを欠くと共に2%グルコースを補った合成完全培地上で選択した。形質転換体をスクリーニングし、30℃で、ヒスチジンを欠くと共に2%グルコースを補った合成完全培地への形質転換体のレプリカプレーティングにより正しい組み込みを検証した。URA3rマーカを、標準的なプロトコルに従い、30℃で、2%グルコースおよび5−FOAを補った合成完全培地でプレーティングにより再生した。マーカの除去は、5−FOAプレートからコロニーのパッチをSD−URA培地に植えて増殖が見られないことを検証することによって確認した。得られる同定した菌株「NYLA73」は、遺伝子型:BY4700 pdc6::GPM1p−sadB−ADH1t pdc1::PDC1p−ilvD−FBA1t Δhis3を有している。
【0111】
pdc5::kanMX組み込みカセットの構築およびPDC5欠失:
pdc5::kanMX4カセットを、Phusion DNAポリメラーゼおよびプライマーPDC5::KanMXFおよびPDC5::KanMXR(配列番号:44および45)を用いて、菌株YLR134W染色体DNA(ATCC No.4034091)からPCR増幅して、約2.2kbのPCR生成物を生成した。各プライマーのPDC5部分は、kanMX4マーカの組み込みがPDC5コード領域の置換をもたらすように、PDC5プロモータの上流の5’領域およびコード領域の下流の3’領域から得た。PCR生成物を標準的な遺伝学的技術を用いてNYLA73に形質転換し(Methods in Yeast Genetics,2005年,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY,201〜202ページ)、および、形質転換体を、30℃で、1%エタノールおよびジェネティシン(200μg/ml)を補ったYP培地で選択した。形質転換体をPCRによりスクリーニングし、プライマーPDC5koforおよびN175(配列番号:46および47)を用いたPDC5コード領域の置換でPDC遺伝子座での正しい組み込みを検証した。同定された正しい形質転換体は、遺伝子型:BY4700 pdc6::GPM1p−sadB−ADH1t pdc1::PDC1p−ilvD−FBA1t
Δhis3 pdc5::kanMX4を有している。
【0112】
pLH475−Z4B8構築
pLH475−Z4B8プラスミド(配列番号:48)を、イースト菌におけるALSおよびKARIの発現のために構築した。pLH475−Z4B8は、以下のキメラ遺伝子を有しているpHR81ベクタ(ATCC番号87541)である:
1)CUP1プロモータ(配列番号:49)、枯草菌(Bacillus subtilis)由来のアセト乳酸シンターゼコード領域(AlsS;配列番号:11;タンパク質配列番号:12)およびCYC1ターミネータ(CYC1−2;配列番号:50);
2)ILV5プロモータ(配列番号:51)、Pf5.IlvC−Z4B8コード領域(配列番号:15;タンパク質配列番号:16)およびILV5ターミネータ(配列番号:52);ならびに、3)FBA1プロモータ(配列番号:53)、出芽酵母(S.cerevisiae)KARIコード領域(ILV5;配列番号:13;タンパク質配列番号:14)およびCYC1ターミネータ(配列番号:54)。
【0113】
Pf5.IlvC−Z4B8コード領域は蛍光菌(Pseudomonas fluorescens)由来のKARIをコードする配列であるが、米国特許出願公開第2009/0163376号明細書に記載された突然変異を含んでいる。Pf5.IlvC−Z4B8コード化KARI(配列番号:16)は、天然の蛍光菌(Pseudomonas fluorescens)KARIと比して以下のアミノ酸変化を有している:
C33L:位置33でシステインがロイシンに変化しており、
R47Y:位置47でアルギニンがチロシンに変化しており、
S50A:位置50でセリンがアラニンに変化しており、
T52D:位置52でスレオニンがアスパラギンに変化しており、
V53A:位置53でバリンがアラニンに変化しており、
L61F:位置61でロイシンがフェニルアラニンに変化しており、
T80I:位置80でスレオニンがイソロイシンに変化しており、
A156V:位置156でアラニンがスレオニンに変化しており、および
G170A:位置170でグリシンがアラニンに変化している。
【0114】
Pf5.IlvC−Z4B8コード領域を、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)における発現のために最適化したコドンに基づいて、DNA2.0(Palo Alto,CA;配列番号:15)により合成した。
【0115】
発現ベクタpLH468
イースト菌におけるDHAD、KivDおよびHADHの発現のためにpLH468プラスミド(配列番号:55)を構築した。
【0116】
枯草菌(B.subtilis)ケトイソ吉草酸デカルボキシラーゼ(KivD)およびウマ肝臓アルコールデヒドロゲナーゼ(HADH)についてのコード領域を、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)(それぞれ、配列番号:19および56)における発現のために最適化したコドンに基づいてDNA2.0により合成し、プラスミドpKivDy−DNA2.0およびpHadhy−DNA2.0中にもたらした。コードされるタンパク質は、それぞれ、配列番号20および57である。KivDおよびHADHに対する個別の発現ベクタを構築した。pLH467(pRS426::PGPD1−kivDy−GPD1t)をアセンブルするために、ベクタpNY8(配列番号:58;(pRS426.GPD−ald−GPDtとも命名されている)米国特許出願公開第2008/0182308号明細書の実施例17に記載されている)をAscIおよびSfiI酵素で消化し、これにより、GPD1プロモータ(配列番号:59)およびaldコード領域を切断した。pNY8由来のGPD1プロモータ断片(GPD1−2;配列番号:60)をPCR増幅し、5’プライマーOT1068および3’プライマーOT1067(配列番号:61および62)を用いて5’末端にAscI部位を、および、3’末端にSpeI部位を付加した。AscI/SfiIで消化したpNY8ベクタ断片をAscIおよびSpeIで消化したGPD1プロモータPCR生成物と、ベクタpKivD−DNA2.0から単離したコドン最適化kivDコード領域を含むSpeI−SfiI断片とライゲートした。三種のライゲーションで、ベクタpLH467(pRS426::PGPD1−kivDy−GPD1t)を生成した。pLH467を制限マッピングおよび配列決定により検証した。
【0117】
pLH435(pRS425::PGPM1−Hadhy−ADH1t)は、米国特許出願第12/477942号明細書の実施例3に記載のベクタpRS425::GPM−sadB(配列番号:63)から得た。pRS425::GPM−sadBは、GPM1プロモータ(配列番号:64)、アクロモバクターキシロソキシダンス(Achromobacter xylosoxidans)のブタノールデヒドロゲナーゼ由来のコード領域(sadB;配列番号:9;タンパク質配列番号:10:米国特許出願公開第2009/0269823号明細書に開示されている)、および、ADH1ターミネータ(配列番号:65)を含むキメラ遺伝子を有するpRS425ベクタ(ATCC番号77106)である。pRS425::GPMp−sadBは、それぞれ、sadBコード領域の5’および3’末端にBbvIおよびPacI部位を含む。プライマーOT1074およびOT1075(配列番号:66および67)を用いる特定部位の突然変異誘発によりsadBコード領域の5’末端にNheI部位を付加してベクタpRS425−GPMp−sadB−NheIを生成し、これを、配列決定により検証した。pRS425::PGPM1−sadB−NheIをNheIおよびPacIで消化してsadBコード領域を外し、ベクタpHadhy−DNA2.0由来のコドン最適化HADHコード領域を含むNheI−PacI断片とライゲートしてpLH435を生成した。
【0118】
単一ベクタ中にKivDおよびHADH発現カセットを結合させるために、イースト菌ベクタpRS411(ATCC番号87474)をSacIおよびNotIで消化し、PGPM1−Hadhy−ADH1tカセットを含むpLH435由来のSalI−NotI断片と共に、PGPD1−kivDy−GPD1tカセットを含むpLH467由来のSacI−SalI断片と三種ライゲーション反応においてライゲートした。これによりベクタpRS411::PGPD1−kivDy−PGPM1−Hadhy(pLH441)を得、これを制限マッピングにより検証した。
【0119】
低級イソブタノール経路における三種の遺伝子:ilvD、kivDy、および、Hadhyのすべてのための同時発現ベクタを生成するために、本発明者らは、米国特許出願第12/569636号明細書においてIlvD遺伝子の供給源として記載されているpRS423 FBA ilvD(Strep)(配列番号:68)を用いた。このシャトルベクタは、大腸菌(E.coli)における維持のためにF1複製起点(nt1423〜1879)を有していると共に、イースト菌中に2ミクロン複製起点(nt8082〜9426)を有している。ベクタは、FBAプロモータ(nt2111〜3108;配列番号:53;)およびFBAターミネータ(nt4861〜5860;配列番号:69)を有している。加えて、ベクタは、イースト菌における選択のためにHisマーカ(nt504〜1163)を、および、大腸菌(E.coli)における選択のためにアンピシリン耐性マーカ(nt7092〜7949)を有している。ミュータンス菌(Streptococcus mutans)UA159(ATCC番号700610)由来のilvDコード領域(nt3116〜4828;配列番号:17;タンパク質配列番号:18)はFBAプロモータとFBAターミネータとの間に位置して発現のためのキメラ遺伝子を形成する。加えて、lumio tagがilvDコード領域(nt4829〜4849)に融合している。
【0120】
第1のステップでは、SacIおよびSacII(T4DNAポリメラーゼを用いて平滑末端化したSacII部位を有する)を有するpRS423 FBA ilvD(Strep)(pRS423−FBA(SpeI)−IlvD(ミュータンス菌(Streptococcus mutans))−Lumioとも称される)を直線化して、全長が9,482bpのベクタを得た。第2のステップでは、SacIおよびKpnI(T4DNAポリメラーゼを用いて平滑末端化したKpnI部位を有する)を有するpLH441からkivDy−hADHyカセットを単離したところ、6,063bp断片を得た。この断片を、pRS423−FBA(SpeI)−IlvD(ミュータンス菌(Streptococcus mutans))−Lumio由来の9,482bpのベクタ断片とライゲートした。これによりベクタpLH468(pRS423::PFBA1−ilvD(Strep)Lumio−FBA1t−P−GPD1−kivDy−GPD1t−PGPM1−hadhy−ADH1t)が生成され、これを、制限マッピングおよび配列決定により確認した。
【0121】
プラスミドベクタpLH468およびpLH475−Z4B8を標準的な遺伝学的技術を用いて、菌株BY4700 pdc6::GPM1p−sadB−ADH1t pdc1::PDC1p−ilvD−FBA1t Δhis3 pdc5::kanMX4に同時に形質転換し(Methods in Yeast Genetics,2005年,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY)、および、得られた菌株を、30℃で、ヒスチジンおよびウラシルを欠くと共に1%エタノールを補った合成完全培地で維持した。得られた菌株をNGI−049と命名した。
【0122】
有機抽出物
抽出剤は、発酵液体培地からのブタノールの抽出に有用とされる特徴を有する不水和性の有機溶剤、または、溶媒混合物である。好適な有機抽出剤は、ブタノールの生成または回収のための商業用二相抽出発酵のための理想的な溶剤に対する判断基準を満たしているべきである。具体的には、抽出剤は、(i)例えば大腸菌(Escherichia coli)、ラクトバチルスプランタルム(Lactobacillus plantarum)、および、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)といった微生物に対して生体適合性であるべきであり、(ii)発酵培地と実質的に不混和性であるべきであり、(iii)ブタノールの抽出に対する高い分配係数(K)を有しているべきであり、(iv)栄養分の抽出に対する低い分配係数を有しているべきであり、(v)発酵培地とエマルジョンを形成する傾向が低くあるべきであり、ならびに、(vi)低コスト、かつ、安全であるべきである。加えて、向上したプロセス操作性および経済性のために、抽出剤は、(vii)低い粘度(μ)を有しているべきであり、(viii)水性発酵培地と比して低い密度(ρ)を有しているべきであり、ならびに、(ix)抽出剤およびブタノールの下流分離のために好適な沸点を有しているべきである。
【0123】
一実施形態において、抽出剤は、微生物に対して生体適合性であり得、すなわち、微生物に対して無毒であるか、または、微生物が連続してブタノール生成物を発酵培地中に生成するよう、許容可能なレベルで微生物が障害を受ける程度でのみ毒性であり得る。抽出剤の生体適合性の程度は、定義された発酵条件下で計測される、抽出剤およびブタノール生成物の存在下での微生物のグルコース利用率により判定されることが可能である。例えば、米国仮特許出願第61/168,640号明細書;同61/168,642号明細書;および、同61/168,645号明細書における実施例を参照のこと。生体適合性抽出剤は、微生物によるグルコースの利用を許容するが、非生体適合性抽出剤は、例えば、抽出剤が存在しない場合の利用率の約25%を超える割合での微生物によるグルコースの利用を許容しない。発酵生成物ブタノールの存在が微生物の抽出剤に対する感受性に影響を及ぼす可能性があるため、抽出剤の生体適合性テストの最中に発酵生成物が存在しているべきである。例えばエタノールといった追加の発酵生成物の存在が、抽出剤の生体適合性に同様に影響を及ぼし得る。微生物を含む発酵液体培地と有機抽出剤との接触の後もブタノールの連続的な生成が所望されるプロセスのためには、生体適合性抽出剤の使用が所望される。
【0124】
一実施形態においては、抽出剤は、C〜C22脂肪族アルコール、C〜C22脂肪酸、C〜C22脂肪酸のエステル、C〜C22脂肪族アルデヒド、C〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択され得る。好適な抽出剤の例としては、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、セチルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸メチル、オレイン酸メチル、ラウリンアルデヒド、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、2−ウンデカノール、1−ノナナール、2−ブチルオクタノール、2−ブチル−オクタン酸、および、これらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の溶剤を含む抽出剤が挙げられる。実施形態において、抽出剤はオレイルアルコールを含む。実施形態において、抽出剤は、ISOFAL(登録商標)12(Sasol,Houston,TX)、または、Jarcol I−12(Jarchem Industries,Inc.,Newark,NJ)として市販されている、例えば2−ブチルオクタノールといった分岐鎖飽和アルコールを含む。実施形態において、抽出剤は、それぞれ、ISOCARB(登録商標)12、ISOCARB(登録商標)16、および、ISOCARB(登録商標)24(Sasol,Houston,TX)として市販されている、例えば2−ブチル−オクタン酸、2−ヘキシル−デカン酸または2−デシル−テトラデカン酸といった分岐鎖カルボン酸を含む。
【0125】
一実施形態においては、第1の不水和性有機抽出剤は、C12〜C22脂肪族アルコール、C12〜C22脂肪酸、C12〜C22脂肪酸のエステル、C12〜C22脂肪族アルデヒド、C12〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択され得る。好適な第1の抽出剤は、さらに、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、セチルアルコール、1−ドデカノールとも称されるラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸メチル、オレイン酸メチル、ラウリンアルデヒド、および、これらの混合物からなる群から選択され得る。一実施形態においては、抽出剤は、オレイルアルコールを含んでいてもよい。
【0126】
一実施形態においては、任意選択の第2の不水和性有機抽出剤は、C〜C22脂肪族アルコール、C〜C22脂肪族カルボン酸、C〜C22脂肪族カルボン酸のエステル、C〜C22脂肪族アルデヒド、C〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択され得る。好適な第2の抽出剤は、さらに、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、2−ウンデカノール、1−ノナナール、および、これらの混合物からなる群から選択され得る。一実施形態においては、第2の抽出剤は1−デカノールを含む。
【0127】
一実施形態においては、第1の抽出剤はオレイルアルコールを含み、第2の抽出剤は1−デカノールを含む。
【0128】
第1の抽出剤および第2の抽出剤が用いられる場合、各々の相対量は好適な範囲内で様々であることが可能である。例えば、第1の抽出剤は、第1の抽出剤および第2の抽出剤の組み合わせた体積の約30パーセント〜約90パーセント、または、約40パーセント〜約80パーセント、または、約45パーセント〜約75パーセント、または、約50パーセント〜約70パーセントである量で用いられ得る。最適な範囲には、例えば、ブタノールに対する比較的高い分配係数と許容可能なレベルの生体適合性とのバランスといった抽出剤の特徴が最大限反映されている。ブタノールの生成もしくは回収のための二相抽出発酵に関しては、温度、接触時間、発酵培地中のブタノール濃度、抽出剤と発酵培地との相対量、用いられる特定の第1の抽出剤および第2の抽出剤、第1の抽出剤と第2の抽出剤との相対量、他の有機溶質の存在、電解質の存在および濃度、ならびに、微生物の量およびタイプが関連しており;それ故、これらの可変要素は、適切な制限の中で、本明細書に記載の抽出プロセスが最適化されるよう必要に応じて調節され得る。
【0129】
好適な有機抽出剤は、Sigma−Aldrich(St.Louis,MO)などの種々の供給源から、種々の銘柄で商業的に入手可能であり得、これらの多くは、ブタノールを生成もしくは回収するために抽出発酵における使用に好適であり得る。工業銘柄の溶剤は、所望の成分と、より高分子量および低分子量の成分とを含む化合物の混合物を含有していることが可能である。例えば、市販されている工業銘柄オレイルアルコールの1種は、約65%オレイルアルコールと、より高級および低級脂肪族アルコールの混合物とを含有する。
【0130】
電解質
本方法によれば、発酵培地は、少なくとも1種の電解質を、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比して、ブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度で含有する。電解質は、発酵基礎培地に含有されている1種以上の塩を含んでいてもよく、この場合、電解質は、発酵基礎培地中に含有されている塩の合計濃度を超える濃度で存在している。電解質は、発酵基礎培地中に存在していない1種以上の塩を含んでいてもよい。発酵基礎培地は、例えばリン酸、マグネシウム、および/または、アンモニウム塩を含有していてもよく、一般に、特定の微生物に対して調節される。発酵基礎培地の提案される組成が、Difco(商標)&BBL(商標)マニュアル(Becton Dickinson and Company,Sparks,MD 21152,USA)に見いだされ得る。一般に、微量元素によってもたらされる塩は、濃度がきわめて低いために、発酵基礎培地の合計塩濃度の算出において無視され得る。
【0131】
電解質は、発酵培地中で、または、二相発酵培地の水性相中で解離して遊離イオンを形成する塩を含み得る。例えば、電解質は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アンモニウム、ホスホニウム塩、および、これらの組み合わせからなる群から選択されるカチオンを有する塩を含み得る。例えば、電解質は、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、乳酸塩、リン酸塩、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、および、これらの組み合わせからなる群から選択されるアニオンを有する塩を含み得る。電解質は、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、および、これらの組み合わせからなる群から選択され得る。
【0132】
電解質は、商業的に、Sigma−Aldrich(St.Louis,MO)などの種々の供給源から種々の銘柄で入手可能であり得、これらの多くは、本明細書に開示の方法によるブタノールの生成もしくは回収のため、抽出発酵における使用に好適であり得る。電解質は、発酵培地から、もしくは、発酵培地と抽出剤とを接触させることにより、または、沈殿、結晶化および/あるいは蒸発などの他の物理的もしくは化学的方法により形成された水性相から、技術分野において公知の方法により回収され得る。回収された電解質はその後の発酵に用いられ得る。
【0133】
発酵培地において、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比してブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度を達成するために必要とされる電解質の量は、例えば、以下の本明細書における実施例の手法によって開示されるとおり判定することが可能である。分配係数に好適な影響を有する電解質濃度の範囲は、例えば実験によって測定される。関心のある微生物に対して許容可能な生体適合性を示す電解質濃度の範囲もまた判定される。そして、好適な電解質濃度範囲は、ブタノール分配係数に好適な影響を有するために必要とされる電解質の量と、微生物に対して許容可能なレベルの生体適合性をもたらす濃度範囲とのバランスがとられるよう、これらの2つの範囲の重複部から選択される。経済的な考慮もまたオスモライトの使用量の選択における要因であり得る。
【0134】
一実施形態において、電解質は、発酵培地中に、微生物に対して生体適合性である濃度で存在し得、すなわち、微生物に対して無毒であるか、または、微生物が、電解質の存在下に、連続してブタノール生成物を発酵培地中に生成するよう、許容可能なレベルで微生物が障害を受ける程度でのみ毒性である濃度で存在し得る。電解質の生体適合性の程度は、以下の本明細書における実施例2に記載されているとおり、様々な濃度の電解質の存在下での微生物の増殖速度により判定されることが可能である。生体適合性の電解質濃度は、微生物によるグルコース(もしくは他の炭素源)の利用、または、微生物の増殖を許容するが、非生体適合性の電解質濃度は、微生物によるグルコース(もしくは他の炭素源)の利用、または、例えば、過剰量の電解質が存在しない場合の増殖速度の約25%を超える速度での微生物の増殖を許容しない。例えばブタノールといった発酵生成物の存在もまた、微生物に対して生体適合性を有する電解質の濃度範囲に影響を及ぼし得る。微生物を含む発酵培地と電解質との接触の後にブタノールの連続的な生成が必要とされるプロセスのためには、生体適合性を有する濃度範囲内での電解質の使用が所望される。微生物を含む発酵培地と電解質との接触の後のブタノールの連続的な生成が必要とされないプロセスにおいては、電解質は、微生物に対する生体適合性があったとしてもほとんどない濃度範囲で用いられてもよい。
【0135】
発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比してブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な電解質の濃度を発酵培地において達成するために、電解質は、ブタノール濃度が阻害性である場合、微生物の増殖相の最中、ブタノール生成相の最中に、発酵培地もしくは二相発酵培地の水性相に添加され得るか、または、これらの組み合わせに添加され得る。電解質は、第1の抽出剤に、第2の抽出剤に、または、これらの組み合わせに添加され得る。電解質は、固体として、スラリーとして、または、水溶液として添加され得る。任意選択により、電解質は、発酵培地および抽出剤の両方に添加され得る。電解質は、連続的に、半連続的に、または、回分式で添加され得る。電解質は、例えば発酵槽中の発酵培地全体といった導入される流れ全体に、または、例えば発酵槽からの流れの一部といった、1つ以上の容器からの一部の流れに添加され得る。
【0136】
実施形態において、発酵培地中の電解質の合計濃度は、約0.05M、0.1M、0.2M、0.3M、0.4M、0.5M、0.6M、0.7M、0.8Mまたは1M超である。いくつかの実施形態において、発酵中の電解質の濃度は約1M未満であり、および、いくつかの実施形態において、発酵中の電解質の濃度は2M未満である。
【0137】
発酵
微生物は、好適な発酵槽中の好適な発酵培地において培養されてブタノールを生成し得る。任意選択の好適な発酵槽が用いられ得、攪拌タンク発酵槽、エアリフト発酵槽、バブル発酵槽、または、いずれかのこれらの組み合わせが挙げられ得る。微生物培養物の維持管理および増殖のための材料および方法は、細菌学または発酵科学の当業者に周知である(例えば、Bailey,Biochemical Engineering Fundamentals,第2版,McGraw Hill,New York,1986年を参照のこと)。微生物、発酵、および、プロセスの特定の要求に応じて、適切な発酵培地、pH、温度、および、好気性、微好気性または嫌気性条件に対する要求に対する考慮が成されなければならない。用いられる発酵培地は重要ではないが、用いられた微生物の増殖を支持し、および、所望のブタノール生成物の生成に必要な生合成経路を促進させなければならない。従来の発酵培地が用いられ得、特にこれらに限定されないが、イースト抽出物またはペプトンおよび少なくとも1種の発酵性炭素源などの有機窒素源を含有する複合培地;最低培地;ならびに、規定培地が挙げられ得る。好適な発酵性炭素源としては、これらに限定されないが、グルコースまたはフルクトースなどの単糖;ラクトースまたはスクロースなどの二糖;オリゴ糖;デンプンまたはセルロースなどの多糖類;1炭素基質;ならびに、これらの混合物が挙げられる。適切な炭素源に追加して、発酵培地は、アンモニウム塩などの好適な窒素源、イースト抽出物またはペプトン、ミネラル、塩、補助因子、緩衝剤、および、当業者に公知である他の成分を含有していてもよい(Baileyら,前述のとおり)。抽出発酵のための好適な条件は用いられる特定の微生物に応じ、当業者は日常的な実験を用いて容易に判定し得る。
【0138】
電解質の添加を伴う抽出発酵を用いるブタノールの回収方法
ブタノールは、ブタノール、水、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比して、ブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度の少なくとも1種の電解質、任意選択により少なくとも1種の発酵性炭素源、および、遺伝子組み換え(すなわち、遺伝子的に操作)されて少なくとも1種の炭素源から生合成経路を介してブタノールを生成する微生物を含有する発酵培地から回収され得る。このような遺伝子組み換え微生物は、バクテリア、シアノバクテリア、糸状菌および酵母菌から選択されることが可能であり、例えば大腸菌(Escherichia coli)、ラクトバチルスプランタルム(Lactobacillus plantarum)、および、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)が挙げられる。プロセスにおける1ステップは、発酵培地と、第1の不水和性有機抽出剤と、任意選択により第2の不水和性有機抽出剤とを接触させて、水性相とブタノール含有有機相とを含む二相混合物を形成することである。「接触させるステップ」とは、発酵プロセスの最中のいずれかの時点で、発酵培地と、有機抽出剤またはその溶剤成分とが物理的に接触させられることを意味する。電解質は、発酵培地に、第1の抽出剤に、任意選択の第2の抽出剤に、または、これらの組み合わせに添加され得る。一実施形態においては、発酵培地はエタノールをさらに含み、ブタノール含有有機相はエタノールを含有していることが可能である。
【0139】
第1の抽出剤および第2の抽出剤が用いられる場合、接触させるステップは、既に組み合わされた第1の抽出剤および第2の抽出剤で実施され得る。例えば、第1の抽出剤および第2の抽出剤は混合タンクなどの容器中で組み合わされ得、次いで、複合抽出剤が、発酵培地を含有する容器に添加され得る。あるいは、接触させるステップは、接触させるステップの最中に組み合わされることとなる第1の抽出剤および第2の抽出剤で実施され得る。例えば、第1の抽出剤および第2の抽出剤は、発酵培地を含有する容器に別々に添加され得る。一実施形態において、発酵培地と有機抽出剤とを接触させるステップは、発酵培地を第1の抽出剤と第2の抽出剤と接触させる前に、発酵培地と第1の抽出剤とを接触させるステップをさらに含む。一実施形態においては、第2の抽出剤と接触させるステップは、第1の抽出剤と接触させるステップと同一の容器中で行われ得る。一実施形態においては、第2の抽出剤と接触させるステップは、第1の抽出剤と接触させるステップとは異なる容器中で行われ得る。例えば、第1の抽出剤が一の容器中の発酵培地と接触させられ、その内容物が他の容器に移され、この中で、第2の抽出剤と接触させるステップが行われ得る。これらの実施形態において、電解質は、発酵培地に、第1の抽出剤に、任意選択の第2の抽出剤に、または、これらの組み合わせに添加され得る。
【0140】
有機抽出剤は、二相発酵培地が形成される発酵の開始時に発酵培地と接触させられ得る。あるいは、有機抽出剤は、微生物が所望の増殖量を達成した後(これは培養物の光学密度を計測することにより測定可能である)に発酵培地と接触させられ得る。一実施形態においては、第1の抽出剤が一の容器中で発酵培地と接触させられ得、第2の抽出剤が発酵培地および第1の抽出剤と同一の容器中で接触させられてもよい。他の実施形態において、第2の抽出剤は、第1の抽出剤が発酵培地と接触させられるものとは異なる容器中で発酵培地および第1の抽出剤と接触させられてもよい。これらの実施形態において、電解質は、発酵培地に、第1の抽出剤に、任意選択の第2の抽出剤に、または、これらの組み合わせに添加され得る。
【0141】
さらに、有機抽出剤は、例えば、ブタノール濃度が有害レベルまたは阻害性レベルに達する前といった、発酵培地中のブタノールレベルが予め選択されたレベルに達する時に発酵培地と接触させられ得る。ブタノール濃度は、ガスクロマトグラフィまたは高性能液体クロマトグラフィーによるものなどの技術分野において公知である方法を用いて、発酵の最中に監視され得る。電解質は、ブタノール濃度が有毒レベルもしくは阻害性レベルに達する前、もしくは、その後に発酵培地に添加されてもよい。実施形態において、有機抽出剤は脂肪酸を含む。実施形態において、本明細書に記載のプロセスは、ブタノールが、リパーゼなどの触媒を用いて脂肪酸などの有機酸でエステル化されてブタノールエステルが形成される米国仮特許出願第61/368429号明細書および同61/379546号明細書に記載のプロセスと併せて用いられることが可能である。
【0142】
発酵は、好気性条件下で、光学密度計測により判定される、培養物が予め選択された増殖レベルを達成するのに十分な時間をかけて行われ得る。電解質は、予め選択されたレベルの増殖が達成される前、もしくは、その後に発酵液体培地に添加され得る。次いで、米国特許出願第12/478,389号明細書の実施例6に詳細に記載されているとおり、インデューサが添加されて組み換え微生物におけるブタノール生合成経路の発現が誘起され得、および、発酵条件が微好気性または嫌気性条件に切り替えられてブタノール生成が促される。抽出剤は、微好気性または嫌気性条件への切り替え後に添加され得る。電解質は、微好気性または嫌気性条件への切り替えの前もしくはその後に添加され得る。一実施形態においては、第1の抽出剤は、発酵培地および第1の抽出剤と第2の抽出剤との接触の前に、発酵培地に接触させられてもよい。例えば、回分発酵プロセスにおいて、発酵培地と第1の抽出剤および第2の抽出剤との接触間には好適な期間が経過させられ得る。連続発酵プロセスにおいて、発酵培地と第1の抽出剤との接触は一の容器の中で行われ得、および、その容器の内容物と第2の抽出剤との接触は第2の容器の中で行われてもよい。これらの実施形態において、電解質は、発酵培地に、第1の抽出剤に、任意選択の第2の抽出剤に、または、これらの組み合わせに添加され得る。
【0143】
電解質の存在下に発酵培地を有機抽出剤と接触させた後、ブタノール生成物は有機抽出剤中に分配されて、微生物を含有する水性相中の濃度は低減し、これにより、阻害性のブタノール生成物に対する生成微生物の露出が制限される。用いられるべき有機抽出剤の体積は、以下に記載のとおり、発酵培地の体積、発酵槽のサイズ、ブタノール生成物に対する抽出剤の分配係数、電解質濃度、および、選択された発酵モードを含む多数の要因に応じる。有機抽出剤の体積は発酵槽実容積の約3%〜約60%であり得る。抽出剤対発酵培地の比は、体積:体積基準で、約1:20〜約20:1、例えば約1:15〜約15:1、または、約1:12〜約12:1、または、約1:10〜約10:1、または、約1:9〜約9:1、または、約1:8〜約8:1である。
【0144】
添加されるべき電解質の量は、ブタノール生成微生物の増殖特性に対する添加される電解質の影響、および、二相発酵におけるブタノールのKpに対する添加される電解質の影響を含む多数の要因に応じる。添加されるべき電解質の最適な量はまた、初期発酵基礎培地の組成にも応じ得る。電解質の濃度が過度に高い場合、おそらくはブタノールのKpを高め、微生物に対するブタノールの毒性の影響を軽減するが、それ自身が微生物に対して阻害性である可能性がある。一方で、電解質の濃度が過度に低い場合、ブタノールのKpは、微生物に対するブタノールの阻害作用を軽減させるほどに十分に高くならない可能性がある。従って、発酵培地への過剰量の電解質の添加の正味の効果が、ブタノール生成の速度および滴定濃度の全体的な増加を確実にもたらすよう、実験を通してバランスを見いだす必要性がある。加えて、微生物に対する塩の生体適合性は、外因的な浸透圧保護剤もしくはオスモライトの培地への添加により、または、オスモライトを内因的に生成するよう微生物を遺伝子組み換えすることにより、調節されることが可能である。実施形態において、Kpは、電解質が無添加の場合のKpと比して、約10%、約20%、約30%、約40%、約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約100%、約150%、または、約200%増加される。実施形態において、Kpは、少なくとも約2倍、少なくとも約3倍、少なくとも約4倍、少なくとも約5倍、または、少なくとも約6倍増加される。実施形態において、電解質の合計濃度は、微生物の増殖速度を、電解質が無添加の場合の増殖速度の少なくとも約25%、少なくとも約50%、少なくとも約80%、または、少なくとも約90%のレベルで維持しながら、Kpがある程度増加されるよう選択される。実施形態において、発酵培地中の電解質の合計濃度は、ブタノール生成の実効速度を、電解質が無添加の場合の速度と比して、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または、少なくとも約100%高めるのに十分な濃度である。実施形態において、発酵培地中の電解質の合計濃度は、ブタノールの実効収率を、電解質が無添加の場合の実効収率と比して、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または、少なくとも約100%高めるのに十分な濃度である。実施形態において、発酵培地中の電解質の合計濃度は、ブタノールの実効滴定濃度を、電解質が無添加の場合の実効滴定濃度と比して、少なくとも約10%、少なくとも約20%、少なくとも約30%、少なくとも約40%、少なくとも約50%、少なくとも約60%、少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約90%、または、少なくとも約100%高めるのに十分な濃度である。
【0145】
実施形態において、添加される電解質の量は、少なくとも約7g/L、少なくとも約10g/L、少なくとも約15g/L、少なくとも約20g/L、少なくとも約25g/L、少なくとも約30g/L、または、少なくとも約40g/Lの実効滴定濃度をもたらすのに十分な量である。実施形態において、添加される電解質の量は、少なくとも約0.12、少なくとも約0.15、少なくとも約0.2、少なくとも約0.25、または、少なくとも約0.3の実効収率をもたらすのに十分な量である。実施形態において、添加される電解質の量は、少なくとも約0.1g/L/h、少なくとも約0.15g/L/h、少なくとも約0.2g/L/h、少なくとも約0.3g/L/h、少なくとも約0.4g/L/h、少なくとも約0.6g/L/h、少なくとも約0.8g/L/h、少なくとも約1g/L/h、または、少なくとも約1.2g/L/hの実効速度をもたらすのに十分な量である。いくつかの実施形態において、実効速度は約1.3g/L/hである。
【0146】
次のステップは、任意選択により、特にこれらに限定されないが、サイフォニング、傾瀉、遠心分離、重力沈降槽の使用、および、膜支援(membrane−assisted)相分離を含む技術分野において公知である方法を用いて、ブタノール含有有機相を水性相から分離するステップである。
【0147】
ブタノール含有有機相からのブタノールの回収は、特にこれらに限定されないが、蒸留、樹脂による吸着、分子ふるいによる分離、および、浸透気化を含む技術分野において公知である方法を用いて行われ得る。具体的には、蒸留を用いてブタノール含有有機相からブタノールを回収し得る。抽出剤は、ブタノール生成および/または回収プロセスに再利用されてもよい。
【0148】
電解質は、発酵培地から、または、二相混合物の水性相から技術分野において公知である方法により回収され得る。例えば、水性相または発酵培地は、蒸留、ストリッピング、浸透気化、または、他の方法によって濃縮されて、電解質を含む濃縮水性混合物が得られてもよい。任意選択により、電解質は、発酵培地に戻され、これにより、発酵プロセスに再利用されてもよい。任意選択により、発酵培地から得られた電解質が発酵培地に添加されて、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比してブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度がもたらされてもよい。
【0149】
ガスストリッピングを、有機抽出剤、および、発酵培地からブタノール生成物を取り出すための電解質の添加と同時に用いてもよい。ガスストリッピングは、空気、窒素または二酸化炭素などの気体を発酵培地に通し、これによりブタノール含有気相を形成することにより行われ得る。ブタノール生成物は、冷水トラップを用いるブタノールの凝縮、または、溶剤での気相の洗浄などの技術分野において公知である方法を用いてブタノール含有気相から回収され得る。
【0150】
発酵が完了後に発酵培地中に残っているブタノールはすべて、新たなまたは再利用された有機抽出剤を用いる連続抽出によって回収され得る。あるいは、ブタノールは、蒸留、共沸蒸留、液体−液体抽出、吸着、ガスストリッピング、メンブラン蒸発、浸透気化等などの技術分野において公知である方法を用いて発酵培地から回収されることが可能である。発酵培地がプロセスに再利用されない場合、ブタノール分配係数をさらに高め、および、ブタノール回収効率をさらに向上させるために、追加の電解質が添加され得る。
【0151】
二相抽出発酵法は攪拌タンク発酵槽中で連続形態で実施され得る。この形態においては、発酵培地およびブタノール含有有機抽出剤の混合物が発酵槽から取り出される。2つの相は、上記のとおり、特にこれらに限定されないが、サイフォニング、傾瀉、遠心分離、重力沈降槽の使用、膜支援(membrane−assisted)相分離等を含む技術分野において公知である手段によって分離される。分離の後、発酵培地およびその中の電解質が発酵槽に再利用されるか、または、新たな培地で置き換えられ、これに追加の電解質が添加されてもよい。次いで、抽出剤が処理されて上記のとおりブタノール生成物が回収される。次いで、抽出剤は、生成物のさらなる抽出のために発酵槽に戻されて再利用されてもよい。あるいは、新たな抽出剤が発酵槽に連続的に添加されて、取り出された抽出剤が置き換えられてもよい。この連続形態での操作では数々の利点がもたらされる。生成物は反応器から連続的に取り出されるため、必要とされる有機抽出剤の体積は小さく、より大体積の発酵培地を用いることが可能となる。これはより高い生成収率をもたらす。有機抽出剤の体積は、発酵槽実容積の約3%〜約50%;発酵槽実容積の3%〜約20%;または、発酵槽実容積の3%〜約10%であり得る。発酵槽中で用いる抽出剤の量を可能な限り少なくして、水性相の体積、従って、発酵槽中の細胞の量を最大限とすることが有益である。プロセスは、発酵槽と分離装置との間で抽出剤が連続的に再利用されていると共に、発酵槽から発酵培地が連続的に取り出され、新たな培地が補充されている完全な連続形態で操作され得る。この完全な連続形態においては、ブタノール生成物が臨界有毒濃度に達することはなく、また、発酵が長期間にわたって実施され得るよう、新たな栄養分が連続的に提供される。これらの形態の二相抽出発酵の実施に用いられ得る装置は技術分野において周知である。例えば、Kollerupらによって、米国特許第4,865,973号明細書に例が記載されている。
【0152】
回分式発酵形態もまた用いられ得る。技術分野において周知である回分発酵は、発酵培地の組成物が発酵の開始時に設定され、プロセスの最中に人為的に変更されることがない閉鎖系である。この形態においては、所望量の追加の電解質と一定体積の有機抽出剤とが発酵槽に添加され、プロセスの最中に抽出剤は取り出されない。有機抽出剤が、第1の抽出剤と任意選択の第2の抽出剤との別々の添加により発酵槽中で形成されてもよく、または、発酵槽にいずれかの抽出剤を添加する前に、第1の抽出剤と第2の抽出剤とが組み合わされて抽出剤が形成されてもよい。電解質は、発酵培地に、第1の抽出剤に、任意選択の第2の抽出剤に、または、これらの組み合わせに添加され得る。この発酵形態は上記の連続形態または完全な連続形態よりも単純であるが、発酵培地中の阻害性のブタノール生成物の濃度を最低とするために、より大体積の有機抽出剤が必要とされる。従って、発酵培地の体積は小さく、生成される生成物の量は連続形態を用いて得られる量よりも少ない。回分式形態における有機抽出剤の体積は、発酵槽実容積の20%〜約60%;または、発酵槽実容積の30%〜約60%であり得る。上記の理由により、発酵槽中で用いられる抽出剤の体積が可能な限り最小限であることが有益である。
【0153】
半回分発酵形態もまた用いられ得る。半回分発酵は、例えばグルコースといった栄養分が発酵の最中に複数回に分けて添加される標準的な回分系の変形である。栄養分の添加量および速度は日常的な実験により判定され得る。例えば、発酵培地中の重要な栄養分の濃度が発酵の最中に監視されてもよい。あるいは、pH、溶存酸素、および、二酸化炭素などの排出気体の分圧などのより容易に計測可能な要因が監視されてもよい。これらの計測されたパラメータから、栄養分の添加速度が判定されればよい。この形態における用いられる有機抽出剤の量およびその添加方法は、上記の回分式形態において用いられるものと同じである。添加される電解質の量は他の発酵形態と同じであってもよい。
【0154】
生成物の抽出は、発酵槽の中ではなくその下流で行われてもよい。この外的形態においては、ブタノール生成物の有機抽出剤への抽出は発酵槽から取り出された発酵培地で行われる。電解質が発酵槽から取り出された発酵培地に添加され得る。用いられる抽出剤の量は、発酵槽実容積の約20%〜約60%;または、発酵槽実容積の30%〜約60%である。発酵培地は発酵槽から連続的に、または、定期的に取り出され得、有機抽出剤によるブタノール生成物の抽出は、発酵培地からの細胞の除去を伴って、または、除去を伴わずに行われ得る。細胞は、特にこれらに限定されないが、ろ過または遠心分離を含む技術分野において公知である手段によって発酵培地から除去され得る。電解質は、細胞を除去する前、または、除去した後に発酵培地に添加され得る。上記の手段により発酵培地を抽出剤から分離した後、発酵培地は発酵槽に再利用され、廃棄され、または、いずれかの残留しているブタノール生成物の取り出しのために処理され得る。同様に、単離された細胞もまた発酵槽に再利用されてもよい。ブタノール生成物を回収する処理の後、抽出剤は、抽出プロセスにおいて使用するために再利用されてもよい。あるいは、新たな抽出剤が用いられてもよい。この形態において、抽出剤は発酵槽中に存在しておらず、従って、抽出剤の毒性はそれほど問題にならない。抽出剤との接触に先だって細胞が発酵培地から分離されれば、抽出剤の毒性の問題はさらに低減され得る。しかも、この外的形態を用いることでエマルジョンの形成および抽出剤の蒸発が生じる可能性が最低限とされ、環境問題が軽減される。
【0155】
電解質の添加を伴う抽出発酵を用いるブタノールの生成方法
ブタノールの生成のための向上した方法が提供されており、ここで、遺伝子組み換えされて少なくとも1種の発酵性炭素源から生合成経路を介してブタノールを生成する微生物は、水性相、ならびに、i)第1の不水和性有機抽出剤および任意選択によりii)第2の不水和性有機抽出剤を含む二相発酵培地において増殖されており、この二相発酵培地は、さらに、少なくとも1種の電解質を、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比して、ブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度で含む。このような遺伝子組み換え微生物は、バクテリア、シアノバクテリア、糸状菌および酵母菌から選択されることが可能であり、例えば大腸菌(Escherichia coli)、ラクトバチルスプランタルム(Lactobacillus plantarum)、および、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)が挙げられる。第1の不水和性有機抽出剤は、C12〜C22脂肪族アルコール、C12〜C22脂肪酸、C12〜C22脂肪酸のエステル、C12〜C22脂肪族アルデヒド、C12〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択され得、ならびに、任意
選択の第2の不水和性有機抽出剤は、C〜C22アルコール、C〜C22カルボン酸、C〜C22カルボン酸のエステル、C〜C22アルデヒド、C〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択され得、ここで、二相発酵培地は、有機抽出剤の体積基準で約10%〜約90%を構成している。あるいは、二相発酵培地は、有機抽出剤の体積基準で、約3%〜約60%、もしくは、約15%〜約50%を構成していてもよい。微生物は、ブタノールを抽出剤に抽出してブタノール含有有機相を形成するのに十分な時間の間、二相発酵培地において増殖される。発酵培地における電解質の少なくとも十分な濃度は、微生物の増殖相の最中に水性相に、ブタノール生成相の最中に水性相に、水性相中のブタノール濃度が阻害性である場合に水性相に、第1の抽出剤に、第2の抽出剤に、または、これらの組み合わせに電解質を添加することにより達成され得る。
【0156】
一実施形態においては、発酵培地はエタノールをさらに含み、ブタノール含有有機相はエタノールを含有していることが可能である。次いで、上記のとおり、ブタノール含有有機相が水性相から分離される。その後、上記のとおり、ブタノールがブタノール含有有機相から回収される。
【0157】
遺伝子組み換えされて少なくとも1種の炭素源から生合成経路を介してブタノールを生成する微生物が発酵培地中で増殖される向上したブタノールの生成方法もまた提供されており、ここで、微生物はブタノールを発酵培地中に生成してブタノール含有発酵培地をもたらす。このような遺伝子組み換え微生物は、バクテリア、シアノバクテリア、糸状菌および酵母菌から選択されることが可能であり、例えば大腸菌(Escherichia coli)、ラクトバチルスプランタルム(Lactobacillus plantarum)、および、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)が挙げられる。少なくとも1種の電解質が発酵培地に提供されて、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比して、ブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度の電解質がもたらされる。一実施形態においては、電解質は、微生物増殖相が遅くなった際に発酵培地に添加され得る。一実施形態においては、電解質は、ブタノール生成相が完了した際に発酵培地に添加され得る。ブタノール含有発酵培地の少なくとも一部分、C12〜C22脂肪族アルコール、C12〜C22脂肪酸、C12〜C22脂肪酸のエステル、C12〜C22脂肪族アルデヒド、C12〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択される第1の不水和性有機抽出剤、ならびに、任意選択により、ii)C〜C22アルコール、C〜C22カルボン酸、C〜C22カルボン酸のエステル、C〜C22アルデヒド、C〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択される第2の不水和性有機抽出剤とが接触させられて、水性相とブタノール含有有機相とを含む二相混合物が形成される。次いで、上記のとおり、ブタノール含有有機相が水性相から分離される。その後、上記のとおり、ブタノールがブタノール含有有機相から回収される。水性相の少なくとも一部分は発酵培地に戻される。一実施形態においては、発酵培地はエタノールをさらに含み、ブタノール含有有機相はエタノールを含有していることが可能である。
【0158】
イソブタノールは、米国特許出願第12/478,389号明細書に開示されているとおり、組み換え大腸菌(Escherichia coli)株を有機抽出剤としてのオレイルアルコールと組み合わせて用いる抽出発酵により生成され得る。この方法では、従来の発酵技術(米国特許出願第12/478,389号明細書の実施例6を参照のこと)を用いた場合と比して、イソブタノールに対する高い実効滴定濃度(すなわち37g/L)が達成される。例えば、Atsumiら(Nature,451(3):86〜90ページ,2008年)は、遺伝子組み換えによってイソブタノール生合成経路を有している大腸菌(Escherichia coli)での発酵を用いて、22g/L以下のイソブタノール滴定濃度を報告している。米国特許出願第12/478,389号明細書に開示の抽出発酵法で得られた高いブタノール滴定濃度は、少なくとも部分的に、有害なブタノール生成物を発酵培地から取り出し、これにより、微生物に対して有害であるレベルより低く維持していたことによる。本明細書において定義されているとおり、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比してブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度で少なくとも1種の電解質を発酵培地において用いる本抽出発酵法を同様に用いることで、同様の結果がもたらされるであろうと仮定することは妥当である。
【0159】
本明細書に開示の方法によって生成されるブタノールは、22g/発酵培地1リットルを超える実効滴定濃度を有し得る。あるいは、開示の方法により生成されるブタノールは少なくとも25g/発酵培地1リットルの実効滴定濃度を有し得る。あるいは、本明細書に記載の方法により生成されるブタノールは、少なくとも30g/発酵培地1リットルの実効滴定濃度を有し得る。あるいは、本明細書に記載の方法により生成されるブタノールは、少なくとも37g/発酵培地1リットルの実効滴定濃度を有し得る。
【0160】
本方法が、図1〜図7を参照して以下に全体的に説明されている。
【0161】
ここで図1を参照すると、インサイチュ抽出発酵を用いてブタノールを生成し、回収するプロセスの一実施形態の概略図が示されている。任意選択により電解質を含有する少なくとも1種の発酵性炭素源の水性流10が、少なくとも1種の発酵性炭素源を含む発酵培地からブタノールを生成する少なくとも1種の遺伝子組み換え微生物(図示せず)を含有する発酵槽20に導入される。任意選択により、電解質は、別個の流れ(図示せず)として発酵槽に加えられてもよい。第1の抽出剤12の流れおよび任意選択の第2の抽出剤14の流れが容器16に導入され、この中で、第1の抽出剤および第2の抽出剤は組み合わされて複合抽出剤18が形成される。任意選択により、電解質は(図示せず)、流れ18、容器16、第1の抽出剤12の流れ、第2の抽出剤14の流れ、または、これらの組み合わせに添加され得る。抽出剤18の流れが発酵槽20に導入され、この中で、発酵培地と抽出剤との接触が行われて水性相とブタノール含有有機相とを含む二相混合物が形成される。水性相および有機相の両方を含む流れ26が38容器に導入され、この中で水性相と有機相との分離が実施されてブタノール含有有機相40および水性相42が生成される。任意選択により、電解質を含有する水性相42の少なくとも一部分が発酵槽20または他の発酵槽(図示せず)に戻される(図示せず)。電解質をプロセスに添加する箇所は、水性相42中の電解質の濃度が、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比してブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分であるよう選択される。
【0162】
ここで図2を参照すると、インサイチュ抽出発酵を用いてブタノールを生成し、回収するプロセスの一実施形態の概略図が示されている。任意選択により電解質を含有する少なくとも1種の発酵性炭素源の水性流10が、少なくとも1種の発酵性炭素源を含む発酵培地からブタノールを生成する少なくとも1種の遺伝子組み換え微生物(図示せず)を含有する発酵槽20に導入される。任意選択により、電解質は、別個の流れ(図示せず)として発酵槽に加えられてもよい。第1の抽出剤12の流れと任意選択の第2の抽出剤14の流れとが発酵槽20に別々に導入され、この中で、発酵培地と抽出剤との接触が行われて水性相とブタノール含有有機相とを含む二相混合物が形成される。任意選択により、電解質は(図示せず)、流れ12、流れ14、または、これらの組み合わせに添加されてもよい。水性相および有機相の両方を含む流れ26が38容器に導入され、この中で水性相と有機相との分離が実施されてブタノール含有有機相40および水性相42が生成される。任意選択により、電解質を含有する水性相42の少なくとも一部分が発酵槽20または他の発酵槽(図示せず)に戻される(図示せず)。電解質をプロセスに添加する箇所は、水性相42中の電解質の濃度が、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比してブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分であるよう選択される。
【0163】
ここで図3を参照すると、インサイチュ抽出発酵を用いてブタノールを生成し、回収するプロセスの一実施形態の概略図が示されている。任意選択により電解質を含有する少なくとも1種の発酵性炭素源の水性流10が、少なくとも1種の発酵性炭素源を含む発酵培地からブタノールを生成する少なくとも1種の遺伝子組み換え微生物(図示せず)を含有する第1の発酵槽20に導入される。任意選択により、電解質は、別個の流れ(図示せず)として発酵槽に加えられてもよい。第1の抽出剤12の流れが発酵槽20に導入され、第1の抽出剤と発酵槽20の内容物との混合物を含む流れ22が第2の発酵槽24に導入される。任意選択の第2の抽出剤14の流れが第2の発酵槽24に導入され、この中で発酵培地と抽出剤との接触が行われて水性相とブタノール含有有機相とを含む二相混合物が形成される。任意選択により、電解質は(図示せず)、流れ12、流れ22、流れ14、容器24、または、これらの組み合わせに添加されてもよい。水性相および有機相の両方を含む流れ26が38容器に導入され、この中で水性相と有機相との分離が実施されてブタノール含有有機相40および水性相42が生成される。任意選択により、電解質を含有する水性相42の少なくとも一部分が発酵槽20または他の発酵槽(図示せず)に戻される(図示せず)。電解質をプロセスに添加する箇所は、水性相42中の電解質の濃度が、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比してブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分であるよう選択される。
【0164】
ここで図4を参照すると、生成物の抽出がインサイチュではなく発酵槽の下流で実施される、ブタノールを生成し、回収するプロセスの一実施形態の概略図が示されている。任意選択により電解質を含有する少なくとも1種の発酵性炭素源の水性の流れ110が、少なくとも1種の発酵性炭素源を含む発酵培地からブタノールを生成する少なくとも1種の遺伝子組み換え微生物(図示せず)を含有する発酵槽120に導入される。任意選択により、電解質は、別個の流れ(図示せず)として発酵槽に加えられてもよい。第1の抽出剤112の流れと任意選択の第2の抽出剤114の流れとが容器116に導入され、この中で第1の抽出剤および第2の抽出剤が組み合わされて複合抽出剤118が形成される。流れ122として示される発酵槽120中の発酵培地の少なくとも一部が、容器124に導入される。任意選択により、電解質は(図示せず)、流れ112、流れ114、容器116、流れ118、容器124、または、これらの組み合わせに添加されてもよい。抽出剤118の流れもまた容器124に導入され、この中で発酵培地と抽出剤との接触が行われて水性相とブタノール含有有機相とを含む二相混合物が形成される。水性相および有機相の両方を含む流れ126が容器138に導入され、この中で、水性相と有機相との分離が実施されて、ブタノール含有有機相140および水性相142が生成される。電解質を含有する水性相142の少なくとも一部が発酵槽120に、または、任意選択により他の発酵槽(図示せず)に戻される。電解質をプロセスに添加する箇所は、水性相142中の電解質の濃度が、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比してブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分であるように選択される。
【0165】
ここで図5を参照すると、生成物の抽出がインサイチュではなく発酵槽の下流で実施される、ブタノールを生成し、回収するプロセスの一実施形態の概略図が示されている。任意選択により電解質を含有する少なくとも1種の発酵性炭素源の水性の流れ110が、少なくとも1種の発酵性炭素源を含む発酵培地からブタノールを生成する少なくとも1種の遺伝子組み換え微生物(図示せず)を含有する発酵槽120に導入される。任意選択により、電解質は、別個の流れ(図示せず)として発酵槽に加えられてもよい。第1の抽出剤112の流れと第2の抽出剤114の流れとが別々に容器124に導入され、この中で、第1の抽出剤と第2の抽出剤とが組み合わされて複合抽出剤が形成されている。任意選択により、電解質は(図示せず)、流れ112、流れ114、流れ122、容器124、または、これらの組み合わせに添加されてもよい。流れ122として示されている発酵槽120中の発酵培地の少なくとも一部もまた容器124に導入され、この中で発酵培地と抽出剤との接触が行われて水性相とブタノール含有有機相とを含む二相混合物が形成される。水性相および有機相の両方を含む流れ126が容器138に導入され、この中で、水性相と有機相との分離が実施されて、ブタノール含有有機相140および水性相142が生成される。電解質を含有する水性相142の少なくとも一部が発酵槽120に、または、任意選択により他の発酵槽(図示せず)に戻される。電解質をプロセスに添加する箇所は、水性相142中の電解質の濃度が、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比してブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分であるように選択される。
【0166】
ここで図6を参照すると、生成物の抽出がインサイチュではなく発酵槽の下流で実施される、ブタノールを生成し、回収するプロセスの一実施形態の概略図が示されている。任意選択により電解質を含有する少なくとも1種の発酵性炭素源の水性の流れ110が、少なくとも1種の発酵性炭素源を含む発酵培地からブタノールを生成する少なくとも1種の遺伝子組み換え微生物(図示せず)を含有する発酵槽120に導入される。任意選択により、電解質は、別個の流れ(図示せず)として発酵槽に加えられてもよい。第1の抽出剤112の流れが容器128に導入され、および、流れ122として示される発酵槽120中の発酵培地の少なくとも一部もまた容器128に導入される。任意選択により、電解質は(図示せず)、流れ122、流れ112、容器128、または、これらの組み合わせに添加されてもよい。第1の抽出剤と発酵槽120の内容物との混合物を含む流れ130が第2の容器132に導入される。任意選択により、電解質は(図示せず)、流れ130、流れ114、容器132、または、これらの組み合わせに添加されてもよい。任意選択の第2の抽出剤114の流れが第2の容器132に導入され、この中で発酵培地と抽出剤との接触が行われて水性相とブタノール含有有機相とを含む二相混合物が形成される。水性相および有機相の両方を含む流れ134が容器138に導入され、この中で、水性相と有機相との分離が実施されて、ブタノール含有有機相140および水性相142が生成される。電解質を含有する水性相142の少なくとも一部が発酵槽120に、または、任意選択により他の発酵槽(図示せず)に戻される。電解質をプロセスに添加する箇所は、水性相142中の電解質の濃度が、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比してブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分であるように選択される。
【0167】
本明細書に記載の抽出プロセスは、回分式プロセスとして行われることが可能であり、または、発酵プロセス全体を通して発酵槽中の抽出剤の量が一定に維持されるよう新たな抽出剤が添加され、用いられた抽出剤が送出される連続形態で行われることが可能である。このような発酵からの生成物および副産物の連続抽出は、実効速度、滴定濃度および収率を高めることが可能である。
【0168】
さらに他の実施形態において、液体−液体抽出を、一連の回分発酵槽が用いられる場合の回分式操作プロファイルにおける偏差を解消する、自由度の高い並流、または、代わりに、向流法で操作することも可能である。このシナリオにおいては、プラントが操業されている限り、少なくとも1種の発酵性炭素源を供給する発酵性マッシュと微生物とが、複数の発酵槽に順次に連続的に充填される。図7を参照すると、発酵槽F100に一旦マッシュおよび微生物が充填されると、マッシュおよび微生物供給物は、連続ループ式に、発酵槽F101に、次いで発酵槽F102に進み、次いで発酵槽F100に戻される。電解質は(図示せず)、1つ以上の発酵槽、発酵槽に入る流れ、発酵槽を出る流れ、または、これらの組み合わせに添加されてもよい。いずれか一つの発酵槽における発酵はマッシュおよび微生物が一旦一緒になって存在してから開始され、発酵が完了するまで継続する。マッシュおよび微生物の充填時間は、発酵槽の数を総サイクル時間(充填、発酵、排出、および、洗浄)で除したものに等しい。総サイクル時間が60時間であると共に3つの発酵槽がある場合、充填時間は、20時間である。総サイクル時間が60時間であると共に4つの発酵槽がある場合、充填時間は15時間である。
【0169】
適応性の並流抽出は、高い液体培地相滴定濃度で操作される発酵槽はブタノール濃度が最も高い抽出溶剤流を利用することが可能であると共に、最も低い液体培地相滴定濃度で操作される発酵槽ではブタノール濃度が最も低い抽出溶剤流が有効であろうことが仮定される発酵プロファイルに従う。例えば、図7を再度参照すると、発酵槽F100が発酵の開始点であって、比較的低いブタノール液体培地相(B)滴定濃度で操作され、発酵槽F101は発酵の中間にあって、比較的中程度のブタノール液体培地相滴定濃度で操作され、および、発酵槽F102は発酵の終了に近く、比較的高いブタノール液体培地相滴定濃度で操作される事例が考慮されている。この場合、ブタノールがほとんどもしくはまったく抽出されていない希薄抽出溶剤(S)が発酵槽F100に供給されることが可能であり、次いで、一定のブタノール成分が抽出された発酵槽F100からの「流出溶剤」流(S’)が「流入溶剤」流として発酵槽F101に供給されることが可能であり、および、F101からの流出溶剤流が、次いで、流入溶剤流として発酵槽F102に供給されることが可能である。次いで、F102からの流出溶剤流が、流れ中に存在するブタノールの回収処理のために送られることが可能である。ブタノールの大部分が除去された処理済みの溶剤流は、希薄抽出溶剤として系に戻されることが可能であり、上記発酵槽F100への流入溶剤供給物となる。
【0170】
発酵は系統だって進行されるため、抽出溶剤マニホルドにおけるバルブは、最も希薄な抽出溶剤が最も低いブタノール液体培地相滴定濃度で操作される発酵槽に供給されるよう転位されることが可能である。例えば、(a)発酵槽F102で発酵が完了し、再度仕込まれて発酵が新たに開始され、(b)発酵槽F100は発酵の中間にあって、中程度のブタノール液体培地相滴定濃度で操作されており、および、(c)発酵槽F101は発酵の終了に近く、比較的高いブタノール液体培地相滴定濃度で操作されていると仮定する。このシナリオにおいては、最も希薄な抽出溶剤がF102に供給され、F102を出る抽出溶剤が発酵槽F100に供給され、および、発酵槽F100を出る抽出溶剤が発酵槽F101に供給されることとなる。
【0171】
この方法での操作の利点は、可能な限りの間、液体培地相ブタノール滴定濃度が可能な限り低く維持されて生成性が向上されることである可能性がある。また、より高いブタノール液体培地相滴定濃度で操作されており、発酵がさらに進行している他の発酵槽における温度を低下させることが可能である可能性がある。温度の低下は、より高いブタノール液体培地相滴定濃度に対する耐性を向上させる可能性がある。
【0172】
本方法の利点
本抽出発酵法は、ガソリンと同様のエネルギー含有量を有し、かつ、任意選択の化石燃料とブレンドすることが可能であるブタノールを提供する。ブタノールは、標準的な内燃機関において燃焼された場合に、COのみをもたらし、SOまたはNOをほとんど、もしくは、全くもたらさないために、燃料または燃料添加剤として好まれている。また、ブタノールはエタノールよりも腐食性が低く、現時点において、最も好ましい燃料添加剤である。
【0173】
バイオ燃料または燃料添加剤としての実用性に追加して、本方法により生成されるブタノールは、台頭しつつある燃料電池産業における水素流通問題に影響を与える潜在性を有している。今日における燃料電池は、水素の輸送および流通に関連する安全性に対する懸念により悩まされている。ブタノールは、その水素含有量について容易に改質されることが可能であり、および、燃料電池または車両に要求される純度で、既存の給油所を介して流通されることが可能である。しかも、本方法は、植物由来の炭素源からブタノールを生成するものであって、ブタノール生成に関する標準的な石油化学的プロセスに関連する環境に対する悪影響が回避されている。
【0174】
本方法の利点は、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比して、ブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度での少なくとも1種の電解質の添加が伴わない二相抽出発酵プロセスにより得られるブタノールの閾値レベルよりも顕著に高い正味実効速度、滴定濃度、および、収率、ならびに、高い経済性でのブタノールの生成の実現可能性を含んでいる。本方法はまた、回分発酵からのブタノール生成を所望のレベルで達成するために必要とされる新たなまたは再利用抽出剤の正味量を低減させることが可能である。
【0175】
実施例
本発明が以下の実施例においてさらに定義されている。これらの実施例は、本発明の好ましい実施形態を示してはいるが、単なる例示のためにもたらされていることが理解されるべきである。上記の考察およびこれらの実施例から、当業者は、本発明の本質的な特徴を把握することが可能であり、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、種々の用途および条件に適応させるために本発明に種々の変形および組み換えを成すことが可能である。
【0176】
材料
以下の材料を実施例において用いた。すべての市販されている試薬は入手したままで用いた。
【0177】
すべての溶剤はSigma−Aldrich (St.Louis,MO)から入手し、さらに精製することなく用いた。用いたオレイルアルコールは工業銘柄であり、オレイルアルコール(65%)と、より高級およびより低級脂肪族アルコールとの混合物を含有していた。イソブタノール(純度99.5%)はSigma−Aldrichから入手し、さらに精製することなく用いた。硫酸ナトリウム(NaSO,CAS7757−82−6,純度99%超)は、Sigma−Aldrich(St.Louis,MO)から入手した。塩化ナトリウム(NaCl,CAS7647−14−5,工業銘柄)は、EMD Chemicals,Inc.(Gibbstown,NJ)から購入した。
【0178】
一般的な方法
微生物細胞濃度を計測するための光学密度の読み取りを、Thermo Electron Corporation Helios Alpha分光測光計を用いて行った。計測は、典型的には、600ナノメートルの波長を用いて行った。
【0179】
培養液体培地中のグルコース濃度を、2700 Select Biochemistry Analyzer(YSI Life Sciences,Yellow Springs,OH)を用いて迅速に計測した。培養液体培地サンプルを、室温で、2分間、1.8mL Eppendorfチューブ中に13,200rpmで遠心分離し、および、水性の上澄みをグルコース濃度について分析した。分析機は、各組の発酵槽サンプルのアッセイをする前に既知のグルコース標準で自己較正を行った;外部標準もまた定期的にアッセイして培養液体培地アッセイの一貫性を保証した。分析のための分析機の仕様は以下のとおりであった:
サンプルサイズ:15μL
黒色プローブの化学物質:ブドウ糖
白色プローブの化学物質:ブドウ糖
水性相中のイソブタノールおよびグルコース濃度は、適切なガードカラムを備えたBioRad Aminex HPX−87Hカラム、7.8mm×300mm、(Bio−Rad laboratories,Hercules,CA)を用いるHPLC(Waters Alliance Model,Milford,MAまたはAgilent 1200 Series,Santa Clara,CA)で、溶出液として均一濃度の0.01N水性硫酸を使用して計測した。サンプルを、0.2μm遠心フィルタ(Nanosep MF変性ナイロン)を通してHPLCバイアルに入れた。HPLCの実施条件は以下のとおりであった:
注入体積:10μL
流速:0.60mL/分
実施時間:40分間
カラム温度:40℃
検出器:屈折率
検出器温度:35℃
UV検出:210nm、8nm帯域幅
【0180】
HPLCを行った後、サンプル中の濃度を化合物の各々の検量線から判定した。保持時間は、イソブタノールおよびグルコースについて、それぞれ、32.6および9.1分間であった。
【0181】
有機抽出剤相中のイソブタノールおよびエタノールを以下に記載のとおり、ガスクロマトグラフィ(GC)を用いて計測した。
【0182】
以下のGC法を用いて有機相中のイソブタノールおよびエタノールの量を測定した。GC法では、Agilent Technologies(Santa Clara,CA)製のJ&W Scientific DB−WAXETRカラム(50m×0.32mm ID,1μmフィルム)を利用した。キャリアガスは、一定のヘッド圧力で、4mL/minの流速のヘリウム;インジェクタスプリットは250℃で1:5;オーブン温度は、40℃で5min、10℃/minで40℃〜230℃、および、230℃で5minであった。炎イオン化検出を250℃で、40mL/minのヘリウム補給ガスで用いた。培養液体培地サンプルを注入の前に遠心分離した。注入体積は1.0μLであった。較正検量線をエタノールおよびイソブタノールに関して生成した。これらの条件下で、イソブタノールの保持時間は9.9分間であり、および、エタノールの保持時間は8.7分間であった。
【0183】
pflB、frdB、ldhA、および、adhE遺伝子の欠失を有する大腸菌(E.coli)株の構築
pflB、frdB、ldhA、および、adhE遺伝子を大腸菌(E.coli)から欠如させるための好適な方法が本明細書に提供されている。大腸菌(E.coli)株のKeio collection(Babaら,Mol.Syst.Biol.,2:1−11,2006年)を用いて、8種のノックアウトを生成した。Keio collection(日本の国立遺伝学研究所のNBRPから入手可能)は、DatsenkoおよびWanner法(Datsenko,K.A.&Wanner,B.L.,Proc Natl Acad Sci.,USA,97:6640〜6645ページ,2000年)により大腸菌(E.coli)株BW25113において作成された単一遺伝子ノックアウトのライブラリである。このコレクションにおいて、欠失遺伝子の各々を、Flpリコンビナーゼによって除去可能なFRT−隣接カナマイシンマーカで置換した。複数のノックアウトを有する大腸菌(E.coli)株は、Keioドナー菌株由来のノックアウト−カナマイシンマーカをバクテリオファージP1形質導入によってレシピエント菌株に移すことにより構築した。ノックアウトを生成する各P1形質導入の後、カナマイシンマーカをFlpリコンビナーゼにより除去した。このマーカレス菌株は、次のP1形質導入のための新たなレシピエント菌株として機能した。既述のノックアウトの1つを、P1形質導入ではなく、DatsenkoおよびWanner法(前述)を用いて菌株において直接的に構築した。
【0184】
4KO大腸菌(E.coli)株を、Keio菌株JW0886において、3種のKeio菌株から調製したP1ファージライセートでP1vir形質導入により構築した。用いたKeio菌株が以下に列挙されている:
−JW0886:kanマーカがpflBに挿入されている
−JW4114:kanマーカがfrdBに挿入されている
−JW1375:kanマーカがldhAに挿入されている
−JW1228:kanマーカがadhEに挿入されている
[不活化遺伝子に対応している配列は:pflB(配列番号:71)、frdB(配列番号:73)、ldhA(配列番号:77)、adhE(配列番号:75)である。]
【0185】
染色体からのFRT−隣接カナマイシンマーカの除去を、カナマイシン耐性菌株をpCP20アンピシリン耐性プラスミド(CherepanovおよびWackernagel,前述のとおり))で形質転換することにより実施した。形質転換体を、100μg/mLアンピシリンを含有するLBプレート上に塗布した。プラスミドpCP20は、λPRプロモータの調節下でイースト菌FLPリコンビナーゼを有しており、このプロモータ由来の発現はプラスミドに存在するcI857温度感受性レプレッサによって調節される。pCP20の複製起点もまた温度感受性である。
【0186】
染色体からのloxP−隣接カナマイシンマーカの除去を、カナマイシン耐性菌株をバクテリオファージP1 Creリコンビナーゼに保持されるpJW168アンピシリン耐性プラスミド(Wildら,Gene.223:55〜66ページ,1998年)で形質転換することにより実施した。Creリコンビナーゼ(Hoess,R.H.&Abremski,K.,前述のとおり)は、loxP部位での組み換えを介するカナマイシン耐性遺伝子の切断を仲介する。pJW168の複製起点は温度感受性pSC101である。形質転換体を、100μg/mLアンピシリンを含有するLBプレート上に塗布した。
【0187】
菌株JW0886(ΔpflB::kan)をプラスミドpCP20で形質転換し、100μg/mlアンピシリンを含有するLBプレート上に30℃で塗布した。次いで、アンピシリン耐性形質転換体を選択し、LBプレート上にストリークし、および、42℃で増殖させた。単離したコロニーをアンピシリンおよびカナマイシン選択培地プレートおよびLBプレート上でパッチ培養した。カナマイシン感受性コロニーおよびアンピシリン感受性コロニーを、プライマーpflB CkUp(配列番号:78)およびpflB CkDn(配列番号:79)を伴うコロニーPCRによりスクリーニングした。10μLアリコートのPCR反応混合物をゲル電気泳動により分析した。予期していた概ね0.4kbのPCR生成物は、マーカの除去、および、「JW0886マーカレス」菌株の作成が確認された。この菌株はpflB遺伝子の欠失を有している。
【0188】
「JW0886マーカレス」菌株にJW4114(frdB::kan)由来のP1virライセートを形質導入し、25μg/mLカナマイシンを含有するLBプレート上にストリークした。カナマイシン耐性形質導入体を、プライマーfrdB CkUp(配列番号:80)およびfrdB CkDn(配列番号:81)を伴うコロニーPCRによりスクリーニングした。予期していた概ね1.6kbのPCR生成物を生成したコロニーをエレクトロコンピテントとし、上記のとおりマーカ除去のためにpCP20で形質転換した。先ず、形質転換体を、30℃で、100μg/mLアンピシリンを含有するLBプレート上に塗布し、次いで、アンピシリン耐性形質転換体を選択し、LBプレート上にストリークし、および、42℃で増殖させた。単離したコロニーを、アンピシリンおよびカナマイシン選択培地プレートおよびLBプレート上でパッチ培養した。カナマイシン感受性、アンピシリン感受性コロニーを、プライマーfrdB CkUp(配列番号:80)およびfrdB CkDn(配列番号:81)を伴うPCRによりスクリーニングした。予期していた概ね0.4kbのPCR生成物は、マーカ除去、および、ダブルノックアウト菌株、「ΔpflB frdB」の作成が確認された。
【0189】
ダブルノックアウト菌株にJW1375(ΔldhA::kan)由来のP1virライセートを形質導入し、25μg/mLカナマイシンを含有するLBプレート上に塗布した。カナマイシン耐性形質導入体を、プライマーldhA CkUp(配列番号:82)およびldhA CkDn(配列番号:83)を伴うコロニーPCRによりスクリーニングした。予期していた1.5kbのPCR生成物を生成するクローンをエレクトロコンピテントとし、上記のとおりマーカ除去のためにpCP20で形質転換した。形質転換体を、30℃で、100μg/mLアンピシリンを含有するLBプレート上に塗布し、アンピシリン耐性形質転換体をLBプレート上にストリークし、および、42℃で増殖させた。単離したコロニーをアンピシリンおよびカナマイシン選択培地プレートおよびLBプレート上でパッチ培養した。カナマイシン感受性、アンピシリン感受性コロニーを、0.3kb生成物について、プライマーldhA CkUp(配列番号:82)およびldhA CkDn(配列番号:83)を伴うPCRによりスクリーニングした。予期していた概ね0.3kbのPCR生成物を生成したクローンは、マーカの除去が確認され、「3KO」(ΔpflB frdB ldhA)と称されるトリプルノックアウト菌株を作成した。
【0190】
菌株「3KO」に、JW1228(ΔadhE::kan)由来のP1virライセートを形質導入し、25μg/mLカナマイシンを含有するLBプレート上に塗布した。カナマイシン耐性形質導入体を、プライマーadhE CkUp(配列番号:84)およびadhE CkDn(配列番号:85)を伴うコロニーPCRによりスクリーニングした。予期していた1.6kbのPCR生成物を生成したクローンを3KO adhE::kanと命名した。菌株3KOadhE::kanをエレクトロコンピテントとし、マーカ除去のためにpCP20で形質転換した。形質転換体を、30℃で、100μg/mLアンピシリンを含有するLBプレート上に塗布した。アンピシリン耐性形質転換体を、LBプレート上にストリークし、および、42℃で増殖させた。単離したコロニーをアンピシリンおよびカナマイシン選択プレートおよびLBプレート上にパッチ培養した。カナマイシン感受性、アンピシリン感受性コロニーを、プライマーadhE CkUp(配列番号:84)およびadhE CkDn(配列番号:85)を伴うPCRによりスクリーニングした。予期していた概ね0.4kbのPCR生成物を生成したクローンを「4KO」(ΔpflB frdB ldhA adhE)と命名した。
【0191】
イソブタノール生合成経路、ならびに、pflB、frdB、ldhAおよびadhE遺伝子の欠失を有する大腸菌(E.coli)生成ホスト(菌株NGCI−031)の構築
アクロモバクターキシロソキシダンス(Achromobacter xylosoxidans)由来のsadB(ブタノールデヒドロゲナーゼ)(DNA配列番号:9;タンパク質配列番号:10)をコードするDNA断片を、標準条件を用いて、A.キシロソキシダンス(A.xylosoxidans)ゲノムDNAから増幅した。DNAを、Gentra Puregeneキット(Gentra Systems,Inc.,Minneapolis,MN;カタログ番号D−5500A)を用い、グラム陰性生体に対して推奨されるプロトコルに従って調製した。順方向および逆方向プライマーN473およびN469(配列番号:86および87)を用いて、Phusion High Fidelity DNA Polymerase(New England Biolabs,Beverly,MA)に対してPCR増幅を行った。PCR生成物をpCR4BLUNT(Invitrogen)にTOPO−Bluntクローン化して、pCR4Blunt::sadBを生成し、これを大腸菌(E.coli)Mach−1細胞に形質転換した。その後、プラスミドを4つのクローンから単離し、配列を検証した。
【0192】
次いで、sadBコード領域をベクタpTrc99aにクローン化した(Amannら,Gene,69:301〜315ページ,1988年)。pCR4Blunt::sadBをEcoRIで消化し、sadB断片を放出し、これを、EcoRIで消化したpTrc99aと共にライゲートしてpTrc99a::sadBを生成した。このプラスミドを大腸菌(E.coli)Mach1細胞に形質転換し、得られた形質転換体をMach1/pTrc99a::sadBと命名した。これらの細胞においてsadB遺伝子から発現される酵素の活性は、イソブチルアルデヒドを標準として用いて分析した場合、無細胞抽出物中に3.5mmol/min/mgタンパク質であると測定された。
【0193】
次いで、以下に記載のとおり、sadB遺伝子をpTrc99A::budB−ilvC−ilvD−kivDにサブクローン化した。pTrc99A::budB−ilvC−ilvD−kivDは、イソブタノール発現のためのオペロンを有するpTrc−99a発現ベクタである(米国特許出願公開第2007/0092957号明細書の実施例9〜14に記載されている)。pTrc99A::budB−ilvC−ilvD−kivDイソブタノールオペロン中の第1の遺伝子は、肺炎桿菌(Klebsiella pneumoniae)ATCC25955由来のアセト乳酸シンターゼをコードするbudB、続いて、大腸菌(E.coli)由来のアセトヒドロキシ酸レダクトイソメラーゼをコードするilvC遺伝子である。これに、大腸菌(E.coli)由来のアセトヒドロキシ酸デヒドラターゼをコードするilvDが続き、および、最後に乳酸連鎖球菌(L.lactis)由来の分岐鎖ケト酸デカルボキシラーゼをコードするkivD遺伝子が続く。
【0194】
sadBコード領域を、Phusion High Fidelity DNA Polymerase(New England Biolabs,Beverly,MA)と共にプライマーN695A(配列番号:88)およびN696A(配列番号:89)を用いて、pTrc99a::sadBから増幅した。増幅は、98℃で1minの初期変性、続いて、98℃での10secの変性を30サイクル、62℃で30secのアニーリング、72℃で20secの延長、および、72℃で5minの最終延長サイクル、続いて4℃での保持で実施した。プライマーN695Aは、クローニングのためのAvrII制限部位およびsadBコード領域のATG開始コドンの上流にRBSを有していた。N696Aプライマーは、クローニングのためのXbaI部位を含んでいた。1.1kbのPCR生成物をAvrIIおよびXbaI(New England Biolabs,Beverly,MA)で消化し、ゲルをQiaquick Gel Extraction Kit(Qiagen Inc.,Valencia,CA))を用いて精製した。精製した断片を、同一の制限酵素で切断されたpTrc99A::budB−ilvC−ilvD−kivDと共に、T4 DNAリガーゼ(New England Biolabs,Beverly,MA)を用いてライゲートした。ライゲーション混合物を16℃で一晩インキュベートし、次いで、製造業者のプロトコルに従って、大腸菌(E.coli)Mach1(商標)コンピテント細胞(Invitrogen)に形質転換した。形質転換体を、100μg/mlアンピシリンを含むLB寒天上で増殖させた後に得た。形質転換体由来のプラスミドDNAを、製造業者によるプロトコルに従って、QIAprep Spin Miniprep Kit(Qiagen Inc.,Valencia,CA)で調製した。得られたプラスミドをpTrc99A::budB−ilvC−ilvD−kivD−sadBと呼んだ。
【0195】
4KO菌株のエレクトロコンピテント細胞を既述のとおり調製し、pTrc99A::budB−ilvC−ilvD−kivD−sadB(「pBCDDB」)で形質転換した。形質転換体を、100μg/mLアンピシリンを含有するLB寒天プレート上にストリークした。プラスミドpTrc99A::budB−ilvC−ilvD−kivD−sadBを4KOと共に有する得られた菌株(菌株NGCI−031とした)を、示した実施例における発酵研究に用いた。
【0196】
実施例1
分配係数(K)に対する電解質濃度の影響
この実施例の目的は、オレイルアルコールを抽出剤として用いた場合の、イソブタノールの分配係数(K)に対する発酵培地中の電解質濃度の影響を評価することであった。この実施例においては、大腸菌(E.coli)発酵において典型的に用いられる発酵基礎培地(BFM)を発酵培地として用いた。BFM組成物は表2に示されている。
【0197】
【表4】

【0198】
上記培地において用いた微量元素溶液は以下の通り調製した。以下に列挙した配合成分を列挙されている順番に加え、すべての成分が完全に溶解するまで溶液は50〜60℃に加熱される。他の配合成分が溶解した後にクエン酸第二鉄を徐々に添加した。溶液を0.2ミクロンフィルタを用いてろ過滅菌した。
【0199】
【表5】

【0200】
表2に示されているBFM中の塩全体(一塩基性リン酸カリウム、二塩基性リン酸アンモニウム、クエン酸一水和物、および、硫酸マグネシウム七水和物の和)の初期レベルは約144.2mMと算出される。以下に示した実施例において大腸菌(E.coli)生体触媒を用いたため、文献(Cosquer Aら;1999年;Appl Environ Microbiol,65:3304〜3311ページ)において、大腸菌(E.coli)の塩耐性を向上させることが報告されていることを理由として、塩酸ベタイン(Sigma−Aldrich)を0.31g/L(2モル/L)で発酵基礎培地に添加した。
【0201】
以下の実験手法を用いて表3および表4中のデータを生成した。これらのK計測実験においては、硫酸ナトリウム(NaSO)または塩化ナトリウム(NaCl)として特定量の電解質を発酵基礎培地に添加した。30mLの電解質−補足BFMに、168g/Lのイソブタノールを含有する富イソブタノールオレイルアルコール(OA)抽出剤10mLを添加し、卓上振盪機(Innova 4230,New Brunswick scientific,Edison,NJ)中で250rpmで撹拌して、30℃で約4〜8時間激しく混合して2つの相の間で平衡を得た。各フラスコ中の水性相および有機相を傾瀉により分離した。水性相を遠心分離(Eppendorf遠心分離機モデル5415Rで、13,000rpmで2分間)して、残存する抽出剤相を除去し、上澄みを、グルコースおよびイソブタノールについてHPLCにより分析した。撹拌から4時間後の水性相中のイソブタノールレベルの分析は混合から8時間後に得られたものと同様であり、2つの相の間の平衡は4時間以内で得られたことが示唆された。4時間を超えるさらなる混合はKを変化させなかったことを示すことが意図されていた。
【0202】
有機相と水性相との間のイソブタノールの分布に関する分配係数(K)を、フラスコに加えた既知の量のイソブタノールと水性相で計測されたイソブタノール濃度データとから算出した。抽出剤相中のイソブタノールの濃度は質量バランスにより判定した。分配係数は、有機相と水性相との中のイソブタノール濃度の比、すなわち、K=[イソブタノール]有機相/[イソブタノール]水性相として判定した。表3および表4に示されている特定のレベルの電解質に対応する各データ点は2回反復されており、および、Kに対する値は2つのフラスコの平均として報告されている。
【0203】
【表6】

【0204】
【表7】

【0205】
表3および4からの結果は、電解質NaSOおよびNaClによる水性発酵培地の補足は、抽出剤相としてオレイルアルコールを含む二相系におけるイソブタノールのKを高めることを実証する。
【0206】
実施例2
大腸菌(E.coli)の増殖速度に対する電解質補足の影響
生体触媒の増殖特性に対するNaSOなどの電解質の影響を評価するために、4KO大腸菌(E.coli)株を、0.31g/lの塩酸ベタインおよび異なるレベルのNaSO(0〜284g/L)で補足した振盪フラスコ中のBFM培地で、30℃、250rpmで、Innova卓上振盪機で増殖させた。冷凍バイアルから、25mLの種培養を、BD Laboratories(Becton&Dickinson and Company,Sparks,MD,21152,USA)から購入したDifco LB液体培地、Miller培地中で、30℃、200RPMで増殖させた。この種培養の1mLを、0.31g/Lの塩酸ベタインおよび様々なレベルのNaSOで補足した30mLのBFM培地を含有する振盪フラスコに添加した。規定の時点でサンプルを採り、OD600により計測してバイオマスの増殖を監視した。指数関数的な増殖速度式を適用することによりバイオマス時間プロファイルから増殖速度を算出した。
【0207】
【表8】

【0208】
表5に示されている増殖速度データは、生体触媒は、電解質を含まない対照と比して30%の増殖速度の損失を伴いながらも、約0.67M NaSO(0.81Mの合計塩レベル)もの高さの塩レベルに耐えることが可能であることを示唆する。しかしながら、1M塩濃度で増殖速度の顕著な低下(約80%超)が見られる。表3中のデータは、抽出剤相としてオレイル−アルコールが存在している場合には、NaSO、Kの0.67M濃度では、塩の添加を伴わない対照と比して、ブタノールが2倍に増加していることを示す。それ故、組換え型ブタノール生成微生物を用いる二相抽出発酵への電解質添加の正味の全体的な影響は、電解質は一方では細胞の増殖を阻害することが可能であり(表3)、他方では、有害なブタノール生成物の分配係数を高めることが可能であり、これは、微生物に対する悪影響を軽減することが可能であるため、予測が不可能である可能性がある。
【0209】
実施例3
二相抽出発酵プロセスにおけるブタノール生成の速度、滴定濃度および収率に対する電解質添加の影響
この実施例の目的は、組換え型微生物(イソブタノール生合成経路を有する大腸菌(Escherichia coli)(NGCI−031)株)によってブタノールが生成される二相抽出発酵の水性相への少なくとも十分な量の電解質の添加による利点を実証することであった。抽出発酵は、不水和性有機抽出剤としてオレイルアルコールを用いる。
【0210】
大腸菌(Escherichia coli)株NGCI−031を、本明細書における上記一般的な方法の項に記載のとおり構築した。種菌調製のためのすべての種培養は、選択抗生物質としてアンピシリン(100mg/L)を含むLuria−Bertani(LB)培地で増殖させた。用いた発酵培地は2ミリモル/Lの塩酸ベタインで補足した半合成培地であり、その組成は表6に示されている。
【0211】
【表9】

【0212】
【表10】

【0213】
表6からの配合成分1〜11を所定の濃度で水に加えて、発酵槽中に0.4Lの最終体積とした。発酵槽の内容物を加圧滅菌により滅菌した。成分12〜14を混合し、ろ過滅菌し、および、加圧滅菌した培地が冷却されてから発酵槽に添加した。発酵培地(水性相)の合計最終体積は、50mLの種菌の添加後で約0.5Lであった。
【0214】
電解質の形態でNaSOを、0g/L、40g/Lまたは60g/L濃度で滅菌前の培地に添加した。アンピシリン、塩酸チアミン、および、グルコースのろ過滅菌した溶液を、滅菌した後に発酵槽培地に、それぞれ、100mg/L、5mg/Lおよび20g/Lの最終濃度で添加した。1Lの加圧滅菌可能なバイオリアクタである、Bio Console ADI1025(Applikon,Inc,Holland)(900mLの実容積を有する)を用いて発酵を行った。発酵全体を通して温度を30℃に維持し、および、pHは水酸化アンモニウムを用いて6.8に維持した。種培養(2〜10vol%)による滅菌発酵培地への播種に続いて、発酵槽を、撹拌速度(rpm)の自動制御により、0.3vvmの空気流を伴う30%溶解酸素(DO)設定点で、好気的に操作した。一旦所望の光学密度(OD600)に達したら(すなわち、OD600=10)、0.4〜0.5mmイソプロピルβ−D−1チオガラクトピラノシドの添加で培養物を誘起してイソブタノール生合成経路を過剰発現させた。誘起から4時間、発酵条件を、空気流を0.13slpmに低減し、および、DO設定点を3〜5%に設定することにより微好気性条件に切り替えた。微好気性条件への移行によりイソブタノール生成を開始させ、一方で、バイオマス生成に向かう炭素量を最低限とし、これにより、イソブタノール生成からバイオマス形成を脱共役させた。オレイルアルコール(約250mL)をイソブタノール生成相の最中に添加して、水性相中へのイソブタノールの蓄積による阻害の問題を軽減した。グルコースレベルを20g/L〜2g/Lに維持するための必要性に応じて、グルコースをボーラスとして(50重量%ストック溶液)発酵槽に添加した。
【0215】
イソブタノールの効率的な生成は、生合成経路におけるレドックスバランスをとるために微好気性条件を必要とするため、0.3vvmで空気を連続的に発酵槽に供給した。継続的な曝気は、発酵槽の水性相からのイソブタノールの顕著なストリッピングをもたらした。ストリッピングによるイソブタノールの損失を定量化するために、発酵槽からの排ガスを質量分析計(Prima dB質量分析計,Thermo Electron Corp.,Madison,WI)に直接的に送って、ガス流中のイソブタノールの量を定量化した。74または42の質量対充填の比でのイソブタノールピークを連続的に監視して、ガス流中のイソブタノールの量を定量化した。
【0216】
イソブタノール生成、実効滴定濃度、実効速度、および、実効収率に関して、ストリッピングによるイソブタノールの損失に対して補正したすべてが作表されて以下に示されている(表8)。水性相中のイソブタノールは本明細書に上述されているHPLC法を用いて計測した。オレイル−アルコール抽出剤相中のイソブタノールは本明細書に上述されているGC法を用いて計測した。グルコースレベルは本明細書において上記のとおりHPLCおよびYSIを用いて監視した。
【0217】
表8中の結果に見ることが可能であるとおり、イソブタノール生成のための抽出発酵における電解質の使用は、塩の添加が行われない場合と比して、顕著に高い実効滴定濃度、実効速度、および、実効収率をもたらす。細菌性ホストに有害であるイソブタノール生成物は、オレイルアルコール相に連続的に抽出されて、水性相におけるその濃度が低減され、これにより、微生物に対する毒性が低減される。また、培地に塩が添加された場合に、意図されていなかった実効速度、実効滴定濃度、および、実効収率の向上が観察されている。塩の添加は、原理上、ブタノール生成生体触媒の代謝に有害な効果を有する可能性があるだけではなく、塩が無添加の対照と比してブタノールのKpを高めることによりブタノールの阻害性効果をも軽減させる可能性がある。本発明者らの二相抽出系における塩の添加正味の効果は、ブタノールの生成および回収の増加を支持する。
【0218】
【表11】

【0219】
実施例4
発酵中のブタノールのガスストリッピングが組み合わされたブタノール生成の速度、滴定濃度および収率に対する電解質添加の影響
オレイルアルコール抽出剤の添加が伴わない水性相発酵の最中のブタノール生成に対する電解質添加の影響を評価するために、発酵槽のいずれにもオレイル−アルコールを添加しなかったことを除き、実施例3を繰り返した。この実施例においては、発酵槽の空気スパージングにより、水性相からのブタノールのガスストリッピングが優勢であった。排ガスにストリップされたブタノールの量を質量分析装置を用いて実施例3のように定量化した。ストリッピングによるブタノール損失に対して補正した実効速度、滴定濃度、および、収率のすべてが以下の表9に示されている。
【0220】
【表12】

【0221】
表9からの結果は、オレイルアルコールの不在下で、イソブタノールのストリッピング量を高めることにより、水性相への電解質の添加がブタノール生成の速度、滴定濃度、および、収率を高めることを示す。ストリップされたブタノールのグラム数は、電解質が無添加の場合と比して塩の存在下では略2倍高い。
【0222】
本発明の特定の実施形態が前述の説明において記載されているが、本発明は、本発明の趣旨または基本的な特性から逸脱することなく、数多くの変更、置き換え、および、変形が可能であることが当業者により理解されているであろう。本発明の範囲を示すものとして、前述の明細書ではなく添付の特許請求の範囲が参照されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)ブタノール、水、発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比して、ブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度の少なくとも1種の電解質、および、少なくとも1種の発酵性炭素源からブタノールを生成する遺伝子組み換え微生物を含む発酵培地を提供するステップ;
b)前記発酵培地と、i)C12〜C22脂肪族アルコール、C12〜C22脂肪酸、C12〜C22脂肪酸のエステル、C12〜C22脂肪族アルデヒド、C12〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択される第1の水不混和性有機抽出剤、ならびに、場合により、ii)C〜C22脂肪族アルコール、C〜C22脂肪酸、C〜C22脂肪酸のエステル、C〜C22脂肪族アルデヒド、C〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択される第2の水不混和性有機抽出剤とを接触させて、水性相とブタノール含有有機相とを含む二相混合物を形成するステップ;ならびに
c)前記ブタノール含有有機相から前記ブタノールを回収して回収ブタノールを生成するステップ
を含む発酵培地からブタノールを回収する方法。
【請求項2】
前記ブタノールの一部が、前記発酵培地から:
a)前記発酵培地からブタノールを気体でストリッピングしてブタノール含有気相を形成するステップ;ならびに
b)前記ブタノール含有気相からブタノールを回収するステップ
を含むプロセスにより同時に取り出される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記電解質が、前記発酵培地、前記第1の抽出剤、前記の場合による第2の抽出剤、または、これらの組み合わせに添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記電解質が、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アンモニウム、ホスホニウム、および、これらの組み合わせからなる群から選択されるカチオンを有する塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記電解質が、硫酸、炭酸、酢酸、クエン酸、乳酸、リン酸、フッ化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、および、これらの組み合わせからなる群から選択されるアニオンを有する塩を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記電解質が、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、および、これらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記遺伝子組み換え微生物が、バクテリア、シアノバクテリア、糸状菌、および、酵母菌からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記バクテリアが、ザイモモナス属(Zymomonas)、大腸菌属(Escherichia)、サルモネラ属(Salmonella)、ロドコッカス属(Rhodococcus)、シュードモナス属(Pseudomonas)、バチルス属(Bacillus)、乳酸桿菌属(Lactobacillus)、エンテロコッカス属(Enterococcus)、ペディオコックス属(Pediococcus)、アルカリゲネス属(Alcaligenes)、クレブシエラ属(Klebsiella)、パエニバチルス属(Paenibacillus)、アルスロバクター属(Arthrobacter)、コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、および、ブレビバクテリウム属(Brevibacterium)からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記イースト菌が、ピチア属(Pichia)、カンジダ属(Candida)、ハンセヌラ属(Hansenula)、クルイウェロマイセス属(Kluyveromyces)、イサチェンキア属(Issatchenkia)、および、サッカロミセス属(Saccharomyces)からなる群から選択される、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記第1の抽出剤が、オレイルアルコール、ベヘニルアルコール、セチルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、ステアリルアルコール、オレイン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸メチル、オレイン酸メチル、ラウリンアルデヒド、1−ドデカノール、および、これらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記第1の抽出剤がオレイルアルコールを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記第2の抽出剤が、1−ノナノール、1−デカノール、1−ウンデカノール、2−ウンデカノール、1−ノナナール、および、これらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記ブタノールが1−ブタノールである、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記ブタノールが2−ブタノールである、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
前記ブタノールがイソブタノールである、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記発酵培地がエタノールをさらに含み、および、前記ブタノール含有有機相がエタノールを含有する、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記遺伝子組み換え微生物が炭素流に対して競合する経路を不活化させる組み換えを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記遺伝子組み換え微生物がアセトンを生成しない、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
a)少なくとも1種の発酵性炭素源からブタノールを生成する遺伝子組み換え微生物を提供するステップ;
b)水性相と、i)C12〜C22脂肪族アルコール、C12〜C22脂肪酸、C12〜C22脂肪酸のエステル、C12〜C22脂肪族アルデヒド、C12〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択される第1の水不混和性有機抽出剤、ならびに、場合により、ii)C〜C22アルコール、C〜C22カルボン酸、C〜C22カルボン酸のエステル、C〜C22アルデヒド、C〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択される第2の水不混和性有機抽出剤とを含む二相発酵培地であって、前記二相発酵培地はさらに、前記発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比して、ブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度で少なくとも1種の電解質を含む前記二相発酵培地中で、前記有機抽出剤へ前記ブタノールを抽出してブタノール含有有機相を形成させるのに十分な時間、前記微生物を増殖させるステップ;
c)前記水性相から前記ブタノール含有有機相を分離するステップ;ならびに
d)場合により、前記ブタノール含有有機相から前記ブタノールを回収して回収ブタノールを生成するステップ
を含むブタノールの生成方法。
【請求項20】
前記電解質が、前記微生物の前記増殖相中に前記水性相に、前記ブタノール生成相中に前記水性相に、前記水性相中の前記ブタノール濃度が阻害性である場合に前記水性相に、前記第1の抽出剤に、前記の場合による第2の抽出剤に、または、これらの組み合わせに添加される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記電解質が発酵培地から得られる、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
a)少なくとも1種の発酵性炭素源からブタノールを生成する遺伝子組み換え微生物を提供するステップ;
b)前記微生物を発酵培地中で増殖させるステップであって、前記微生物が前記発酵培地中に前記ブタノールを生成してブタノール含有発酵培地が生成されるステップ;
c)少なくとも1種の電解質を前記発酵培地で添加して、前記発酵基礎培地における塩濃度の存在下でのブタノール分配係数と比して、ブタノール分配係数を高めるのに少なくとも十分な濃度で前記電解質を提供するステップ;
d)前記ブタノール含有発酵培地の少なくとも一部分と、i)C12〜C22脂肪族アルコール、C12〜C22脂肪酸、C12〜C22脂肪酸のエステル、C12〜C22脂肪族アルデヒド、C12〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択される第1の水不混和性有機抽出剤、ならびに、場合により、ii)C〜C22アルコール、C〜C22カルボン酸、C〜C22カルボン酸のエステル、C〜C22アルデヒド、C〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択される第2の水不混和性有機抽出剤とを接触させて、水性相とブタノール含有有機相とを含む二相混合物を形成するステップ;
e)場合により、前記ブタノール含有有機相から前記ブタノールを回収するステップ;ならびに
f)場合により、前記水性相の少なくとも一部分を前記発酵培地に戻すステップ
を含むブタノールの生成方法。
【請求項23】
前記電解質が、ステップ(c)において、前記微生物増殖相が遅くなった際に前記発酵培地に添加される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記電解質が、ステップ(c)において、前記ブタノール生成相が完了した際に前記発酵培地に添加される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
前記少なくとも1種の発酵性炭素源が前記発酵培地中に存在しており、および、農業原料、藻類、セルロース、ヘミセルロース、リグノセールロース、または、いずれかのこれらの組み合わせに由来する再生可能炭素を含む、請求項1、19、または、22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項26】
(a)ブタノール、水、ブタノール分配係数イオン培地を高めるのに少なくとも十分な濃度の少なくとも1種の電解質、および、少なくとも1種の発酵性炭素源からブタノールを生成する遺伝子組み換え微生物を含む発酵培地;
b)C12〜C22脂肪族アルコール、C12〜C22脂肪酸、C12〜C22脂肪酸のエステル、C12〜C22脂肪族アルデヒド、C12〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択される第1の水不混和性有機抽出剤;ならびに
c)場合により、C〜C22脂肪族アルコール、C〜C22脂肪酸、C〜C22脂肪酸のエステル、C〜C22脂肪族アルデヒド、C〜C22脂肪族アミド、および、これらの混合物からなる群から選択される第2の水不混和性有機抽出剤;
を含む組成物であって、水性相とブタノール含有有機相とを含む二相混合物が形成され、
これにより、ブタノールが(a)の前記発酵培地から分離され得る組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2013−511283(P2013−511283A)
【公表日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−540149(P2012−540149)
【出願日】平成22年11月23日(2010.11.23)
【国際出願番号】PCT/US2010/057791
【国際公開番号】WO2011/063391
【国際公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【出願人】(310011310)ビュータマックス・アドバンスド・バイオフューエルズ・エルエルシー (24)
【Fターム(参考)】