説明

電解質材料および電解質

【課題】イオン伝導度が高いと共に高耐電圧を実現できる電解質を提供し得る電解質材料、およびそのような電解質材料を用いた電解質を提供する。
【解決手段】本発明の電解質材料は、一般式(1);
【化1】


(一般式(1)中、Rは、炭素数1〜30の炭化水素基を表す。A、Aは、それぞれ、同一または異なって、カルボニル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、または単結合を表す。)で表されるアニオンを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解質材料および電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミ電解コンデンサとしては、超小型、小型、大型などのサイズや、高耐電圧、高耐熱、高寿命などの性能によって、多種多様の製品がラインアップされている。
【0003】
最近、アルミ電解コンデンサの中でも、高い耐電圧が要求される中高圧アルミ電解コンデンサの需要が増加している。
【0004】
現状で一般に使用されている中高圧アルミ電解コンデンサ用の電解質として、両端にカルボキシル基を有して分子内に長鎖アルキル構造を有する長鎖アルキル二塩基酸を用いた電解質が挙げられる(特許文献1参照)。
【0005】
両端にカルボキシル基を有して分子内に長鎖アルキル構造を有する長鎖アルキル二塩基酸を用いた電解質は、分子内の長鎖アルキル構造がコンデンサの化成皮膜の欠落部に入り込むことによって高耐電圧を実現している。しかし、イオン伝導度が非常に低いという問題がある。
【0006】
イオン伝導度が高いと共に高耐電圧を実現できる電解質を開発することにより、中高圧アルミ電解コンデンサの小型化が可能となる。中高圧アルミ電解コンデンサは、例えば、自動車のハイブリッド化や車載コンピュータ増加に伴い、需要が今後ますます増加していくと考えられる。したがって、上記のような、イオン伝導度が高いと共に高耐電圧を実現できる電解質の開発が強く求められている。
【特許文献1】特許第3671262号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、イオン伝導度が高いと共に高耐電圧を実現できる電解質を提供し得る電解質材料、およびそのような電解質材料を用いた電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電解質材料は、
一般式(1);
【化1】

(一般式(1)中、Rは、炭素数1〜30の炭化水素基を表す。A、Aは、それぞれ、同一または異なって、カルボニル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、または単結合を表す。)で表されるアニオンを有する。
【0009】
好ましい実施形態においては、本発明の電解質材料は、第3級カチオンを有する。
【0010】
好ましい実施形態においては、上記第3級カチオンのカチオン中心が窒素原子である。
【0011】
好ましい実施形態においては、本発明の電解質材料は、第4級カチオンを有する。
【0012】
好ましい実施形態においては、上記第4級カチオンのカチオン中心が窒素原子である。
【0013】
本発明の別の局面によれば、電解質が提供される。本発明の電解質は、本発明の電解質材料とマトリックス材料を含む。
【0014】
好ましい実施形態においては、上記マトリックス材料が有機溶媒を含む。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、イオン伝導度が高いと共に高耐電圧を実現できる電解質を提供し得る電解質材料、およびそのような電解質材料を用いた電解質を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
≪A.電解質材料≫
本発明の電解質材料は、
一般式(1);
【化2】

(一般式(1)中、Rは、炭素数1〜30の炭化水素基を表す。A、Aは、それぞれ、同一または異なって、カルボニル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、または単結合を表す。)で表されるアニオンを有する。
【0017】
本発明の電解質材料は、一般式(1)で表されるアニオンを有することにより、イオン伝導度が高いと共に高耐電圧を実現できる電解質を提供し得る電解質材料となる。
【0018】
一般式(1)中、Rは、炭素数1〜30の炭化水素基を表す。Rは、好ましくは炭素数1〜25の炭化水素基、より好ましくは炭素数2〜20の炭化水素基、さらに好ましくは炭素数3〜15の炭化水素基、特に好ましくは炭素数4〜12の炭化水素基である。Rの炭素数が上記範囲内にあれば、より効果的に、イオン伝導度が高いと共に高耐電圧を実現できる電解質を提供し得る電解質材料となり得る。
【0019】
一般式(1)中、A、Aは、それぞれ、同一または異なって、カルボニル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、または単結合を表す。A、Aとして上記のような基または結合を選択することで、より効果的に、イオン伝導度が高いと共に高耐電圧を実現できる電解質を提供し得る電解質材料となり得る。特に、耐電圧と化成性の向上のために、炭化水素基Rや、基A、Aといった酸素原子を有する官能基を導入し、さらに、それらの導入によって低下するおそれのあるイオン伝導度を維持するために、ジシアノメチド(−C(CN))を有し且つ二官能化することを見出し、一般式(1)のアニオンに行き着いた。
【0020】
本発明の電解質材料は、代表的には、上記一般式(1)で表されるアニオンに対する、対カチオンを有する。本発明の電解質材料は、一般式(1)で表されるアニオンを有すれば本発明の効果を発現し得るので、上記対カチオンとしては任意の適切なカチオンを採用し得る。例えば、アンモニウムカチオン(アンモニウムイオン:NH)でも良いし、第3級カチオンでも良いし、第4級カチオンでも良い。また、これらの少なくとも2種の併用でも良い。
【0021】
上記第3級カチオンとしては、任意の適切な第3級カチオンを採用し得る。好ましくは、一般式(2)で表される第3級カチオンである。
【化3】

(一般式(2)中、Xは、C、Si、N、P、S、またはOを表す。Rは、同一または異なって、1価の原子(水素原子を除く)または有機基を表す。複数のRが互いに結合していても良い。sは、2、3、または4を表す。)
【0022】
一般式(2)中、Xは、C、Si、N、P、S、またはOを表す。Xは、好ましくはN、P、またはSを表し、より好ましくはNを表す。XがNの場合は、一般式(2)で表される第3級カチオンが化学的、電気的により安定となり得る。
【0023】
一般式(2)中、Rは、同一または異なって、1価の原子(水素原子を除く)または有機基を表す。1価の原子(水素原子を除く)としては、任意の適切な原子を採用し得る。有機基としては、任意の適切な有機基を採用し得る。複数のRは互いに結合を形成していても良い。
【0024】
上記1価の原子としては、例えば、フッ素原子(F)が挙げられる。
【0025】
上記有機基としては、例えば、炭素数1〜18の炭化水素基(N、O、Sを含んでいてもよい)、炭素数1〜18の炭化フッ素(N、O、Sを含んでいてもよい)が挙げられる。上記有機基として、好ましくは炭素数1〜18の炭化水素基(N、O、Sを含んでいてもよい)、より好ましくは炭素数1〜8の炭化水素基(N、O、Sを含んでいてもよい)である。
【0026】
一般式(2)中、sは、2、3、または4を表す。sは、Xの元素の価数によって決まる値である。XがCまたはSiの場合、sは4である。XがNまたはPの場合、sは3である。XがSまたはOの場合、sは2である。例えば、下記のようなオニウムカチオンが挙げられる。なお、オニウムカチオンとは、非金属原子または半金属原子のカチオンを有する有機基を意味する。
【化4】

(上記一般式中のRは、一般式(2)中のRと同様である。)
【0027】
上記オニウムカチオンとしては、より具体的には、下記(I)〜(III)に挙げるオニウムカチオンが好ましい。
【0028】
(I)下記一般式で表される8種類の複素環オニウムカチオン。
【化5】

(上記一般式中、R4a〜R9aは、一般式(2)中のRと同様である。ただし、R4a〜R9aは水素原子でも良い。)
【0029】
(II)下記一般式で表される5種類の不飽和オニウムカチオン。
【化6】

(上記一般式中、R4a〜R10aは、一般式(2)中のRと同様である。ただし、カチオン中心に結合していないR4a〜R10aは水素原子でも良い。)
【0030】
(III)下記一般式で表される9種類の飽和環オニウムカチオン。
【化7】

(上記一般式中、R4a〜R14aは、一般式(2)中のRと同様である。ただし、カチオン中心に結合していないR4a〜R14aは水素原子でも良い。)
【0031】
このようなオニウムカチオンの中でも、一般式(2)におけるXが窒素原子であるオニウムカチオンが好ましい。
【0032】
このような一般式(2)におけるXが窒素原子であるオニウムカチオンとしては、下記(i)〜(iv)に挙げるオニウムカチオンが好ましい。
【0033】
(i)下記一般式で表される6種類のオニウムカチオン。
【化8】

(式中、R4b〜R14bは、一般式(2)中のRと同様である。ただし、カチオン中心に結合していないR4b〜R14bは水素原子でも良い。)
【0034】
(ii)トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ジメチルエチルアンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム等の第三級アルキルアンモニウム類。
【0035】
(iii)テトラメチルエチレンジアミン、ジアザビシクロオクタン、ジエチレントリアミン、ヘキサエチレンテトラミン等の分子内に2個以上の第三アミンを有する化合物のアンモニウム類。
【0036】
(iv)グアニジウムおよびそのアルキル置換体。
【0037】
一般式(2)におけるXが窒素原子であるオニウムカチオンの中でも、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリプロピルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ジメチルエチルアンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム等の第三級アルキルアンモニウムが特に好ましい。
【0038】
上記第4級カチオンとしては、任意の適切な第4級カチオンを採用し得る。好ましくは、一般式(3)で表される第4級カチオンである。
【化9】

(一般式(3)中、Zは、C、Si、N、P、S、またはOを表す。R’は、同一または異なって、1価の原子(水素原子を除く)または有機基を表す。複数のR’が互いに結合していても良い。tは、3、4、または5を表す。)
【0039】
一般式(3)中、Zは、C、Si、N、P、S、またはOを表す。Zは、好ましくはN、P、またはSを表し、より好ましくはNを表す。ZがNの場合は、一般式(3)で表される第4級カチオンが化学的、電気的により安定となり得る。
【0040】
一般式(3)中、R’は、同一または異なって、1価の原子(水素原子を除く)または有機基を表す。1価の原子(水素原子を除く)としては、任意の適切な原子を採用し得る。有機基としては、任意の適切な有機基を採用し得る。複数のR’は互いに結合を形成していても良い。
【0041】
上記1価の原子としては、例えば、フッ素原子(F)が挙げられる。
【0042】
上記有機基としては、例えば、炭素数1〜18の炭化水素基(N、O、Sを含んでいてもよい)、炭素数1〜18の炭化フッ素(N、O、Sを含んでいてもよい)が挙げられる。上記有機基として、好ましくは炭素数1〜18の炭化水素基(N、O、Sを含んでいてもよい)、より好ましくは炭素数1〜8の炭化水素基(N、O、Sを含んでいてもよい)である。
【0043】
一般式(3)中、tは、3、4、または5を表す。tは、Zの元素の価数によって決まる値である。ZがCまたはSiの場合、tは5である。XがNまたはPの場合、tは4である。ZがSまたはOの場合、tは3である。例えば、下記のようなオニウムカチオンが挙げられる。なお、オニウムカチオンとは、非金属原子または半金属原子のカチオンを有する有機基を意味する。
【化10】

(上記一般式中のR’は、一般式(2)中のRと同様である。)
【0044】
上記オニウムカチオンとしては、より具体的には、下記(I)〜(IV)に挙げるオニウムカチオンが好ましい。
【0045】
(I)下記一般式で表される複素環オニウムカチオン。
【化11】

(式中、R’〜R’は、一般式(2)中のRと同様である。ただし、カチオン中心に結合していないR’〜R’は水素原子でも良い。)
【0046】
(II)下記一般式で表される不飽和オニウムカチオン。
【化12】

(式中、R’〜R’は、一般式(2)中のRと同様である。ただし、カチオン中心に結合していないR’〜R’は水素原子でも良い。)
【0047】
(III)下記一般式で表される飽和環オニウムカチオン。
【化13】

(式中、R’〜R’12は、一般式(2)中のRと同様である。ただし、カチオン中心に結合していないR’〜R’12は水素原子でも良い。)
【0048】
(IV)下記一般式で表される鎖状オニウムカチオン。
【化14】

(式中、R’は、炭素数1〜8のアルキル基である。)
【0049】
このようなオニウムカチオンの中でも、一般式(3)におけるZが窒素原子であるオニウムカチオンが好ましい。
【0050】
このような一般式(3)におけるZが窒素原子であるオニウムカチオンとしては、下記(i)〜(ii)に挙げるオニウムカチオンが好ましい。
【0051】
(i)下記一般式で表される6種類のオニウムカチオン。
【化15】

(式中、R’〜R’12は、一般式(2)中のRと同様である。ただし、カチオン中心に結合していないR’〜R’12は水素原子でも良い。)
【0052】
(ii)トリエチルメチルアンモニウム、ジメチルエチルプロピルアンモニウム、ジエチルメチルメトキシエチルアンモニウム、トリメチルプロピルアンモニウム、トリメチルブチルアンモニウム、トリメチルヘキシルアンモニウム等の鎖状オニウムカチオン。
【0053】
なお、上記のようなカチオンとして、第3級カチオンと第4級カチオンとを併用しても良い。このような構成とすることにより、本発明の電解質材料は、優れたイオン伝導度を達成しつつ、かつ、pH安定性に優れるようになり得る。
【0054】
本発明の電解質材料において、上記のようなカチオンとアニオンから構成されるイオン性化合物は、好ましくは、常温で溶融した状態を安定に保つ常温溶融塩となり得る。常温溶融塩とは、80℃以下の温度において液体状態を安定に保つことができる塩をいう。
【0055】
本発明の電解質材料においては、上述したアニオン以外の、その他のアニオンを含有していてもよい。上記その他のアニオンとしては、例えば、ハロゲンアニオン(フルオロアニオン、クロロアニオン、ブロモアニオン、ヨードアニオン)、4フッ化ホウ酸アニオン、6フッ化リン酸アニオン、4フッ化アルミン酸アニオン、6フッ化ヒ酸アニオン、下記一般式(13)で表されるスルホニルイミドアニオン、下記一般式(14)で表されるスルホニルメチドアニオン、有機カルボン酸(酢酸、トリフルオロ酢酸、フタル酸、マレイン酸、安息香酸等のアニオン)の他、ヘキサフルオロリン酸イオン、ヘキサフルオロヒ酸イオン、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン、ヘキサフルオロニオブ酸イオン、ヘキサフルオロタンタル酸イオン等の含フッ素無機イオン;フタル酸水素イオン、マレイン酸水素イオン、サリチル酸イオン、安息香酸イオン、アジピン酸イオン等のカルボン酸イオン;ベンゼンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、ドデシルベンゼンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、パーフルオロブタンスルホン酸等のスルホン酸イオン;ホウ酸イオン、リン酸イオン等の無機オキソ酸イオン;ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドイオン、ビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドイオン、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン、パーフルオロアルキルフルオロボレートイオン、パーフルオロアルキルフルオロホスフェートイオン、ボロジカテコレート、ボロジグリコレート、ボロジサリチレート、ボロテトラキス(トリフルオロアセテート)、ビス(オキサラト)ボレート等の四配位ホウ酸イオン等のアニオンが挙げられる。
【0056】
【化16】

【0057】
上記一般式(13)、(14)中、R15、R16、R17は、それぞれ、同一若しくは異なって、エーテル基を1個または2個有してもよい、炭素数1〜4のパーフルオロアルキル基を表す。
【0058】
本発明の電解質材料において、上記カチオンの存在量は、上記アニオン1モルに対して、下限値が1.0モルであることが好ましく、1.6モルであることがより好ましい。また、上限値は4.0モルであることが好ましく、2.4モルであることがより好ましい。
【0059】
本発明の電解質材料は、好ましくは、揮発分が低減されたものであり、かつ、例えば−55℃の低温においても凍ることがなく、イオン伝導度に優れるものである。このような電解質材料を電解質として用いた場合、優れた電気特性を発揮することができる。
【0060】
本発明の電解質材料において、不純物含有量は、電解質材料100質量%中、0.1質量%(1000ppm)以下であることが好ましい。0.1質量%を超えると、充分な電気化学安定性を得ることができないおそれがある。より好ましくは、0.05質量%以下であり、さらに好ましくは、0.01質量%以下である。
【0061】
上記不純物とは、水を含まないものであり、例えば、電解質材料を製造する際や輸送する際に混入するものが挙げられる。具体的には、一般式(1)で表されるアニオンを必須とする電解質材料を製造する場合、例えば、ハロゲン化合物を用いたときには、ハロゲン化合物が不純物として混入する可能性があり、また、銀塩を用いたときには、銀塩が不純物として混入する可能性がある。また、製造原料や副生成物等が不純物として混入する可能性もある。
【0062】
本発明においては、電解質材料における不純物含量を上記のように設定することにより、例えば、ハロゲン化合物が電気化学デバイスの電極を被毒して性能を低下させることを充分に抑制したり、銀イオンや鉄イオン等がイオン伝導性に影響して性能を低下させることを充分に抑制したりすることが可能となる。なお、不純物含有量の測定は、下記の測定方法により行うことが好ましい。
【0063】
(不純物の測定方法)
(1)ICP(銀イオン、鉄イオン等陽イオン類測定)
機器:ICP発光分光分析装置ICPE−9000(島津製作所製)
方法:サンプル2gを超純水で10倍に希釈し、その溶液を測定
(2)イオンクロマト(硝酸イオン、臭素イオン、塩素イオン、硫酸イオン等陰イオン類測定)
機器:ICS−3000
分離モード:イオン交換
検出器:電気伝導度検出器CD−20
カラム:アニオン分析用カラムAS17−C(日本ダイオネクス社製)
方法:サンプル0.3gをイオン交換水で100倍に希釈し、その溶液を測定
【0064】
本発明の電解質材料において、水分含有量は、電解質材料100質量%中、0.05〜10質量%であることが好ましい。0.05質量%未満であると、水分管理が困難となり、コストアップに繋がるおそれがある。また、10質量%を超えると、電気安定性を充分に発揮できないおそれがある。好ましい下限は、0.1質量%、上限は5質量%であり、より好ましい下限は0.5質量%、上限は3質量%である。
【0065】
なお、水分含有量の測定は、下記の測定方法により行うことが好ましい。
(水分測定方法)
サンプル調製においては、露点−80℃以下のグローボックス中で測定サンプル0.25g、脱水アセトニトリル0.75gを混合し、グローボックス中で充分乾燥したテルモシリンジ(商品名、2.5ml)で混合溶液0.5gを採取することにより行う。その後、カールフィッシャー水分計AQ−7(商品名、平沼産業社製)にて水分測定を行う。
【0066】
本発明の電解質材料の製造方法としては、任意の適切な方法を採用し得る。例えば、一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物からイオン性物質を合成する工程を含む製造方法が好ましい。より具体的には、例えば、一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物から、ハロゲン化物や炭酸化物を用いて、イオン性物質を合成する工程を含む製造方法が好ましい。該ハロゲン化物または炭酸化合物は、オニウムカチオン、または、アルカリ金属原子、アルカリ土類金属原子、遷移金属原子及び希土類金属原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子を必須とするカチオンを有するものであることが好ましい。これらの製造原料は、それぞれ1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。なお、上記製造方法において、アニオン交換樹脂を用いても良い。
【0067】
本発明の電解質材料の製造方法において、一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物のモル数をxとし、ハロゲン化物または炭酸化物のモル数をyとすると、反応におけるモル比(x/y)は、0.1〜100であることが好ましい。反応におけるモル比(x/y)が0.1未満であると、ハロゲン化物または炭酸化物が過剰となりすぎて効率的に生成物を得られないおそれがあり、また、例えば、電解質材料中にハロゲンが混入し、電極等を被毒させるおそれがある。反応におけるモル比(x/y)が100を超えると、アニオンを有する化合物が過剰となりすぎて、さらに収率の向上は期待できないおそれがあり、また、金属イオンがイオン性化合物中に混入して電気化学デバイスの性能を低下させるおそれがある。反応におけるモル比(x/y)は、より好ましくは、0.5〜10である。
【0068】
本発明の電解質材料の製造方法における反応条件としては、製造原料や他の反応条件により適宜設定することができる。反応温度としては、−20〜200℃が好ましく、0〜100℃がより好ましく、10〜60℃がさらに好ましい。反応圧力としては、1×10〜1×10Paが好ましく、1×10〜1×10Paがより好ましく、1×10〜1×10Paがさらに好ましい。反応時間としては、48時間以下が好ましく、24時間以下がより好ましく、12時間以下がさらに好ましい。
【0069】
本発明の電解質材料の製造方法においては、通常、反応溶媒を用い得る。反応溶媒としては、例えば、(1)ヘキサン、オクタンなど脂肪族炭化水素系;(2)シクロヘキサンなど脂環式飽和炭化水素系;(3)シクロヘキセンなど脂環式不飽和炭化水素系;(4)ベンゼン、トルエン、キシレンなど芳香族炭化水素系;(5)アセトン、メチルエチルケトンなどケトン類;(6)酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、γ−ブチロラクトンなどエステル類;(7)ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素などハロゲン化炭化水素類;(8)ジエチルエーテル、ジオキサン、ジオキソランなどエーテル類、(9)プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテートなどアルキレングリコールのエーテル類;(10)メチルアルコール、エチルアルコール、ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどアルコール類;(11)ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどアミド類;(12)ジメチルスルホキシドなどスルホン酸エステル類;(13)ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなど炭酸エステル類;(14)エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなど脂環式炭酸エステル類;(15)アセトニトリル等のニトリル類;(16)水;等が挙げられる。これらの反応溶媒は1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。これらの中でも、(5)、(6)、(10)、(11)、(12)、(13)、(14)、(15)、(16)が好ましい。より好ましくは、(5)、(6)、(10)、(14)、(15)、(16)である。
【0070】
本発明の電解質材料の製造方法においては、一般式(1)で表されるアニオンを有する化合物からイオン性物質を合成する工程の後に、任意の適切な処理を行い得る。例えば、沈殿物等のろ過、溶媒の除去、脱水、減圧乾燥が挙げられる。具体的には、例えば、生成した沈殿物をろ過し、イオン性物質を含んだ溶媒から真空等の条件下で溶媒を除去した後、ジクロロメタン等の溶剤に溶解することで洗浄し、MgSO等の脱水効果を有する物質を添加して脱水し、溶媒除去後に減圧乾燥し得る。溶剤による洗浄処理の回数としては、任意の適切な回数を設定し得る。溶剤としては、ジクロロメタン以外に、例えば、クロロホルム、テトラヒドロフラン、アセトン等のケトン類;エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトニトリル;水;等が挙げられる。また、脱水効果を有する物質としては、MgSO以外に、例えば、モレキュラーシーブ、CaCl、CaO、CaSO、KCO、活性アルミナ、シリカゲル等が挙げられる。これらの添加量は、生成物や溶剤の種類等により、適宜設定すればよい。
【0071】
≪B.電解質≫
本発明の電解質は、本発明の電解質材料とマトリックス材料を含む。
【0072】
本発明の電解質中、本発明の電解質材料の濃度としては、0.01mol/dm以上が好ましく、また、飽和濃度以下が好ましい。0.01mol/dm未満であると、イオン伝導度が低いため好ましくない。より好ましくは、0.1mol/dm以上、また、1.5mol/dm以下である。
【0073】
本発明の電解質は、アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を含んでいてもよい。アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩を含む電解質は、電気化学デバイスのイオン伝導体の材料として好ましいものとなる。アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が好ましい。アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩が好ましい。より好ましくは、リチウム塩である。
【0074】
なお、上記アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩は、本発明の電解質材料におけるアニオンの塩であっても良いし、その他のアルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩であっても良い。
【0075】
上記その他のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩としては、例えば、リチウム塩が好ましい。このようなリチウム塩としては、LiC(CN)、LiSi(CN)、LiB(CN)、LiAl(CN)、LiP(CN)、LiP(CN)、LiAs(CN)、LiOCN、LiSCNが挙げられる。
【0076】
上記アルカリ金属塩および/またはアルカリ土類金属塩が、上記その他のアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩である場合には、本発明の電解質中での解離定数が大きい電解質塩であることが好ましい。例えば、LiCFSO、NaCFSO、KCFSO等のトリフロロメタンスルホン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiN(CFSO、LiN(CFCFSO等のパーフロロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiPF、NaPF、KPF等のヘキサフロロリン酸のアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiClO、NaClO等の過塩素酸アルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩;LiBF、NaBF等のテトラフロロ硼酸塩;LiAsF、LiI、NaI、NaAsF、KI等のアルカリ金属塩;などが挙げられる。これらの中でも、溶解性やイオン伝導度の点から、LiPF、LiBF、LiAsF、パーフロロアルカンスルホン酸イミドのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩が好ましい。
【0077】
本発明の電解質において、上記マトリックス材料は、重合体を含むことにより、固体化して高分子固体電解質として好適に用いることができる。
【0078】
上記重合体としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン等のポリビニル系重合体;ポリオキシメチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド等のポリエーテル系重合体;ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系重合体;ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系重合体;ポリスチレン;ポリフォスファゼン類;ポリシロキサン;ポリシラン;ポリフッ化ビニリデン;ポリテトラフルオロエチレン;ポリカーボネート系重合体;アイオネン系重合体;などの1種又は2種以上が好適である。
【0079】
本発明の電解質を高分子固体電解質とする場合、重合体の存在量としては、本発明の電解質材料100質量%に対して、下限値が0.1質量%、上限値が5000質量%であることが好ましい。0.1質量%未満であると、固体化の効果を充分に得られないおそれがあり、5000質量%を超えると、イオン伝導度が低下するおそれがある。より好ましい下限値は1質量%、より好ましい上限値は1000質量%である。
【0080】
本発明の電解質において、上記マトリックス材料は、有機溶媒を含むことにより、イオン伝導度がより向上する。
【0081】
上記有機溶媒としては、本発明の電解質材料との相溶性が良好であって、誘電率が大きく、電解質塩の溶解性が高く、沸点が60℃以上であり、電気化学的安定範囲が広い化合物が好ましい。より好ましくは、含有水分量が低い有機溶媒(非水系溶媒)である。このような有機溶媒としては、例えば、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、クラウンエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエ−テル、ジオキサン等のエーテル類;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート類;炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジフェニル、炭酸メチルフェニル等の鎖状炭酸エステル類;炭酸エチレン、炭酸プロプレン、2,3−ジメチル炭酸エチレン、炭酸ブチレン、炭酸ビニレン、2−ビニル炭酸エチレン等の環状炭酸エステル類;蟻酸メチル、酢酸メチル、プロピオン酸、プロピオン酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル等の脂肪族カルボン酸エステル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル等の芳香族カルボン酸エステル類;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、δ−バレロラクトン等のカルボン酸エステル類;リン酸トリメチル、リン酸エチルジメチル、リン酸ジエチルメチル、リン酸トリエチル等のリン酸エステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、2−メチルグルタロニトリル等のニトリル類;N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルピロリドン、N−ビニルピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン等の硫黄化合物類:エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル等のアルコール類;エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、2,6−ジメチルテトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド、メチルエチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド類;ベンゾニトリル、トルニトリル等の芳香族ニトリル類;ニトロメタン;1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン;1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2(1H)−ピリミジノン;3−メチル−2−オキサゾリジノン;等が挙げられる。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。これらの中でも、炭酸エステル類、脂肪族エステル類、エーテル類がより好ましく、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート類がさらに好ましく、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状エステル類が最も好ましい。2種以上の有機溶媒を併用する場合は、上記炭酸エステル類、脂肪族エステル類、エーテル類に、アルコール類を併用することが好ましい。
【0082】
上記有機溶媒の含有量としては、本発明の電解質材料に対して、50〜99.9質量%であることが好ましい。上記有機溶媒の含有量が50質量%未満であると、溶媒の揮発等で安定性が充分には向上しないこととなり、99.9質量%を超えると、イオン伝導度が充分には向上しないこととなる。下限値としては、好ましくは、60質量%であり、より好ましくは、70質量%であり、さらに好ましくは、80質量%である。上限値としては、好ましくは、99.5質量%であり、より好ましくは、99.3質量%であり、さらに好ましくは、99質量%である。
【0083】
本発明の電解質には、種々の添加剤が含有されていても良い。
【0084】
添加剤を加える目的は多岐にわたり、電気伝導率の向上、熱安定性の向上、水和や溶解による電極劣化の抑制、ガス発生の抑制、耐電圧の向上、濡れ性の改善等を挙げることができる。このような添加剤としては、例えば、p−ニトロフェノール、m−ニトロアセトフェノン、p−ニトロ安息香酸等のニトロ化合物;リン酸ジブチル、リン酸モノブチル、リン酸ジオクチル、オクチルホスホン酸モノオクチル、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸等のリン化合物;ホウ酸又はホウ酸と多価アルコール(エチレングリコール、グリセリン、マンニトール、ポリビニルアルコール等)や多糖類との錯化合物等のホウ素化合物;ニトロソ化合物;尿素化合物;ヒ素化合物;チタン化合物;ケイ酸化合物;アルミン酸化合物;硝酸及び亜硝酸化合物;2−ヒドロキシ−N−メチル安息香酸、ジ(トリ)ヒドロキシ安息香酸等の安息香酸類;グルコン酸、重クロム酸、ソルビン酸、ジカルボン酸、EDTA、フルオロカルボン酸、ピクリン酸、スベリン酸、アジピン酸、セバシン酸、ヘテロポリ酸(タングステン酸、モリブデン酸)、ゲンチシン酸、ボロジゲンチシン酸、サリチル酸、N−アミノサリチル酸、ボロジプロトカテク酸、ボロジピロカテコール、バモン酸、ボン酸、ボロジレゾルシル酸、レゾルシル酸、ボロジプロトカクエル酸、グルタル酸、ジチオカルバミン酸等の酸類、そのエステル、そのアミド及びその塩;シランカップリング剤;シリカ、アミノシリケート等のケイ素化合物;トリエチルアミン、ヘキサメチレンテトラミン等のアミン化合物;L−アミノ酸類;ベンゾール;多価フェノール;8−オキシキノリン;ハイドロキノン、N−メチルピロカテコール、キノリンおよびチオアニソール、チオクレゾール、チオ安息香酸等の硫黄化合物;ソルビトール;L−ヒスチジン;等が挙げられる。これらは1種のみ用いても良いし、2種以上を併用しても良い。
【0085】
上記添加剤の含有量は任意の適切な量を採用し得る。例えば、本発明の電解質材料100質量%に対して、0.1〜20質量%の範囲が好ましく、0.5〜10質量%の範囲がより好ましい。
【0086】
本発明の電解質は、無機酸化物微粒子を含んでいても良い。
【0087】
上記無機酸化物微粒子としては、非電子伝導性、電気化学的に安定なものが好ましく、イオン伝導性を有するものがより好ましい。このような無機酸化物微粒子としては、例えば、α,β,γ―アルミナ、シリカ、チタニア、ジルコニア、マグネシア、チタン酸バリウム、ハイドロタルサイト等のセラミックス微粒子が挙げられる。
【0088】
本発明の電解質のイオン伝導度は、代表的には10mS/cm以上、好ましくは15mS/cm以上、さらに好ましくは20mS/cm以上である。なお、本明細書において「イオン伝導度」とは、25℃にて測定した値をいう。
【0089】
本発明の電解質は、優れたイオン伝導度と優れたpH安定性を同時に達成し得る。
【0090】
本発明の電解質は、液漏れを充分に抑制し、電極等への腐食性が充分に抑制され、経時的に安定な材料とすることが可能となる。また、性能や耐久性や品質が十分に高められた材料とすることができ、電気化学デバイスの材料等、種々の用途に好適に用いることができる。
【0091】
≪C.電気化学デバイス≫
本発明の電解質材料および本発明の電解質は、電気化学デバイスの構成要素として用いることができる。電気化学デバイスの好ましい形態としては、基本構成要素として、イオン伝導体、負極、正極、集電体、セパレータ及び容器を有するものである。
【0092】
以下に、電気化学デバイスの一例として、電解コンデンサについて、より詳しく説明する。
【0093】
電解コンデンサは、本発明の電解質を用いる。より詳細には、電解コンデンサは、電極引出リードが接続された陽極箔と陰極箔とがセパレータを介して巻回されたコンデンサ素子が、本発明の電解コンデンサ駆動用電解液に含浸された状態で有底筒状の外装ケース内に収容され、該外装ケースの開口部側が弾性封口体によって封止されてなる。
【0094】
電解コンデンサは、陽極箔、陰極箔、陽極箔と陰極箔との間に挟まれたセパレータである電解紙及びリード線より構成されるコンデンサ素子と、上記電解質を用いてなるイオン伝導体と、有底筒状の外装ケースと、外装ケースを密封する封口体とを基本構成要素として構成されているものである。コンデンサ素子の一形態の斜視図を図1−aに示す。電解コンデンサは、コンデンサ素子に本発明の電解質を含浸し、該コンデンサ素子を有底筒状の外装ケースに収納し、外装ケースの開口部に封口体を装着するとともに、外装ケースの端部に絞り加工を施して外装ケースを密封することにより得ることができるものである。このような電解コンデンサとしては、アルミニウム電解コンデンサ、タンタル電解コンデンサ、ニオブ電解コンデンサが好適である。アルミニウム電解コンデンサの一形態の断面模式図を図1−bに示す。このようなアルミニウム電解コンデンサとしては、電解エッチング又は蒸着により細かな凹凸を作って粗面化したアルミニウム箔の表面に陽極酸化によって形成した薄い酸化皮膜(酸化アルミニウム)を誘電体とするものが好適である。
【0095】
またアルミニウム電解コンデンサの要部切断断面を図1−cに示す。図1−cは、粗面化処理及び酸化皮膜形成処理をした陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子6を形成し、このコンデンサ素子6を電解質に含浸させた後、有底筒状の外装ケース8に収納する。陽極及び陰極引き出しリード4、5を弾性封口体7に形成した貫通孔に挿入して引き出し、外装ケースの開口部には、弾性封口体7を装着し、絞り加工により密閉した構造としている。
【0096】
アルミニウム電解コンデンサは、一般には図2、図3に示すような構造からなる。エッチング処理及び酸化皮膜形成処理をした陽極箔1と陰極箔2とをセパレータ3を介して巻回したコンデンサ素子6を形成し、このコンデンサ素子6を電解質に含浸させた後、有底筒状の外装ケース8に収納する。外装ケース8の開口部には、封口体9を装着し、絞り加工により密閉した構造としている。外装ケース8にコンデンサ素子6を固定する素子固定剤17を有していてもよい。封口体9の外端面には陽極端子13及び陰極端子14が構成され、これらの端子13、14の下端部は、陽極内部端子15及び陰極内部端子16として、コンデンサ素子6から引き出された陽極タブ端子11及び陰極タブ端子12が電気的に接続されている。ここで、陽極タブ端子11については、化成処理が施されたものが使用されるが、陰極タブ端子12については、化成処理が施されていないものが使用される。いずれのタブ端子11、12についても、表面加工の施されていないアルミニウム箔が用いられている。
【0097】
電子部品の小型化、薄型化、高密度面実装技術の進歩に伴い、アルミニウム電解コンデンサにおいてもチップ形であることが求められており、チップ形アルミニウム電解コンデンサは、図4に示すような構造からなる。粗面化処理及び酸化皮膜形成処理をした陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して巻回したコンデンサ素子6を形成し、このコンデンサ素子6を電解質に含浸させた後、有底筒状の外装ケース8に収納するとともに、開口部を、弾性封口体7を用いて封口し、アルミニウム電解コンデンサを構成する。このアルミニウム電解コンデンサのリード端子18を引き出した端面に当接するように配設し、かつ該リード端子18が貫通する貫通孔を備えた絶縁板19を装着して、基板装着上の安定性を持たせるよう構成されている。
【0098】
本発明の電解質を用いたアルミニウム電解コンデンサの構造としては、例えば、エッチング処理及び酸化皮膜形成処理をした陽極箔と陰極箔とをセパレータを介して積層した構造よりなるアルミニウム電解コンデンサが挙げられる。
【0099】
上記陽極箔としては、純度99%以上のアルミニウム箔を酸性溶液中で化学的又は電気化学的にエッチングして拡面処理した後、ホウ酸アンモニウム、リン酸アンモニウム又はアジピン酸アンモニウム等の水溶液中で化成処理を行い、その表面に陽極酸化皮膜層を形成したものを用いることができる。
【0100】
上記陰極箔としては、化学的又は電気化学的にエッチングして拡面処理したアルミニウム箔の一部又は全部に、窒化チタン、窒化ジルコニウム、窒化タンタル及び窒化ニオブから選ばれる1種以上の金属窒化物、及び/又は、チタン、ジルコニウム、タンタル及びニオブから選ばれる1種以上の金属より構成される皮膜を形成したアルミニウム箔を用いることができる。
【0101】
上記皮膜の形成方法としては、蒸着法、メッキ法、塗布法等を挙げることができ、皮膜を形成する部分としては、陰極箔の全面に被覆してもよいし、必要に応じて陰極箔の一部、例えば陰極箔の一面のみに金属窒化物又は金属を被覆してもよい。
【0102】
上記リード線は、陽極箔及び陰極箔に接する接続部、丸棒部及び外部接続部より構成されるものであることが好適である。このリード線は、接続部においてそれぞれステッチや超音波溶接等の手段により陽極箔及び陰極箔に電気的に接続されている。また、リード線における接続部及び丸棒部は、高純度のアルミニウムよりなるものが好適であり、外部接続部は、はんだメッキを施した銅メッキ鉄鋼線よりなるものが好適である。また、陰極箔との接続部及び丸棒部の表面の一部又は全部に、ホウ酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液又はアジピン酸アンモニウム水溶液等による陽極酸化処理によって形成した酸化アルミニウム層を形成したり、Al、SiO、ZrO等より構成されるセラミックスコーティング層等の絶縁層を形成したりすることができる。
【0103】
上記外装ケースは、アルミニウム又はアルミニウム合金より構成されるものであることが好適である。
【0104】
上記封口体は、リード線をそれぞれ導出する貫通孔を備え、例えば、ブチルゴム等の弾性ゴムより構成されるものであることが好適であり、ブチルゴムとしては、例えば、イソブチレンとイソプレンとの共重合体からなる生ゴムに補強剤(カーボンブラック等)、増量剤(クレイ、タルク、炭酸カルシウム等)、加工助剤(ステアリン酸、酸化亜鉛等)、加硫剤等を添加して混練した後、圧延、成型したゴム弾性体を用いることができる。加硫剤としては、アルキルフェノールホルマリン樹脂;過酸化物(ジクミルペルオキシド、1,1−ジ−(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン等);キノイド(p−キノンジオキシム、p,p′−ジベンゾイルキノンジオキシム等);イオウ等を用いることができる。なお、封口体の表面をテフロン(登録商標)等の樹脂でコーティングしたり、ベークライト等の板を貼り付けたりすると、溶媒蒸気の透過性が低減するので更に好ましい。
【0105】
上記セパレータとしては、通常マニラ紙やクラフト紙等の紙が用いられるが、ガラス繊維、ポリプロピレン、ポリエチレン等の不織布を用いることもできる。
【0106】
上記電解コンデンサとしてはまた、ハーメチックシール構造や樹脂ケースに密閉した構造(例えば、特開平8−148384号公報に記載)のものであってもよい。ゴム封止構造のアルミニウム電解コンデンサの場合、ある程度ゴムを通して気体が透過するため、高温環境下においてはコンデンサ内部から大気中へ溶媒が揮発し、また、高温高湿環境下においては大気中からコンデンサ内部へ水分が混入するおそれがあり、これらの過酷な環境の下では、コンデンサは静電容量の減少等の好ましくない特性変化を起こすおそれがある。一方、ハーメチックシール構造や樹脂ケースに密閉した構造のコンデンサにおいては、気体の透過量が極めて小さいため、このような過酷な環境下においても安定した特性を示すこととなる。
【実施例】
【0107】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0108】
<イオン伝導度の測定>
測定装置:インピーダンスアナライザーSI1260(ソーラトロン社製)
方法:SUS電極、複素インピーダンス法
【0109】
<熱分解温度の測定>
示差熱熱重量同時測定装置(「EXSTAR6000 TG/DTA」、セイコーインスツル社製)を用い、試料をアルミパンに入れ、昇温速度10℃/min、測定温度範囲30〜500℃で昇温していき、初期質量から2%の質量減少が認められた温度を熱分解開始温度とした。
【0110】
〔実施例1〕
<N,N’−ジ(ジシアノアセチル)−1,6−ヘキサメチレンジアミンの合成>
ヘキサメチレンジイソシアネート12.73gとマロノニトリル10gをテトラヒドロフラン15mLに溶解させ、2.53N水酸化カリウム水溶液60mLを滴下した。得られた沈殿を濾取し、水に分散させ、1N塩酸を加えて、pH1.5とした。得られた沈殿を乾燥させ、N,N’−ジ(ジシアノアセチル)−1,6−ヘキサメチレンジアミンを得た。収量は1.3g、収率は3.5%であった。
<電解質材料(1):トリエチルアンモニウムN,N’−ジ(ジシアノアセチル)−1,6−ヘキサメチレンジアミン塩の合成>
得られたN,N’−ジ(ジシアノアセチル)−1,6−ヘキサメチレンジアミン0.50gをメタノール5mLに溶解した。そこへ、トリエチルアミンのメタノール溶液を滴下し、得られた反応物を濾過後、エバポレーターで濃縮し、電解質材料(1)(トリエチルアンモニウムN,N’−ジ(ジシアノアセチル)−1,6−ヘキサメチレンジアミン塩)を得た。収量は0.64g、収率は96%であった。
電解質材料(1)の熱分解温度は173.7℃であった。
<電解質(1)の調製と評価>
マトリックス材料としてγ−ブチロラクトンを用い、電解質材料(1)を5質量%含む電解質(1)を調製した。
電解質(1)のイオン伝導度は2.9×10−3S/cmであった。
【0111】
〔比較例1〕
<アセチルマロノニトリルの合成>
マロノニトリル6.61gをテトラヒドロフラン20mLに溶解し、−78℃に冷却したNaHのテトラヒドロフラン溶液へ滴下した。滴下終了後、塩化アセチル8.3gのテトラヒドロフラン溶液を加えた。反応終了後、テトラヒドロフランを減圧除去し、硫酸水溶液を加えて中和した。ジエチルエーテルにて抽出し、エバポレーターにてジエチルエーテルを減圧除去し、アセチルマロノニトリルを得た。収量は6.0g、収率は55%であった。
<電解質材料(C1):トリエチルアンモニウムアセチルマロノニトリル塩の合成>
得られたアセチルマロノニトリル5gをメタノール30mLに溶解した。そこへ、トリエチルアミンのメタノール溶液を滴下し、得られた反応物を濾過後、エバポレーターで濃縮し、電解質材料(C1)(トリエチルアンモニウムアセチルマロノニトリル塩)を得た。収量は9g、収率は95%であった。
電解質材料(C1)の熱分解温度は153.4℃であった。
<電解質(C1)の調製と評価>
マトリックス材料としてγ−ブチロラクトンを用い、電解質材料(C1)を5質量%含む電解質(C1)を調製した。
電解質(C1)のイオン伝導度は4.3×10−3S/cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明の電解質材料、本発明の電解質は、一次電池、二次電池や燃料電池等の充電/放電機構を有する電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池、エレクトロクロミック表示素子等の電気化学デバイスに好適に用いられ得る。これらの中でも、電解コンデンサに特に好適に用いられ得る。
【図面の簡単な説明】
【0113】
【図1−a】電解コンデンサの一形態を示す斜視図である。
【図1−b】アルミニウム電解コンデンサの一形態を示す断面模式図である。
【図1−c】アルミニウム電解コンデンサの要部切断正面図である。
【図2】その他の形態のアルミニウム電解コンデンサ素子の分解斜視図である。
【図3】その他の形態のアルミニウム電解コンデンサの要部切断正面図である。
【図4】チップ形アルミニウム電解コンデンサの要部切断正面図である。
【符号の説明】
【0114】
1 陽極箔
2 陰極箔
3 セパレータ
4 陽極引き出しリード
5 陰極引き出しリード
6 コンデンサ素子
7 弾性封口体
8 外装ケース
9 封口体
10 加締め(又は溶接)
11 陽極タブ端子
12 陰極タブ端子
13 陽極端子
14 陰極端子
15 陽極内部端子
16 陰極内部端子
17 素子固定剤
18 リード端子
19 絶縁板


【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1);
【化1】

(一般式(1)中、Rは、炭素数1〜30の炭化水素基を表す。A、Aは、それぞれ、同一または異なって、カルボニル基、エステル基、アミド基、スルホニル基、または単結合を表す。)で表されるアニオンを有する、電解質材料。
【請求項2】
第3級カチオンを有する、請求項1に記載の電解質材料。
【請求項3】
前記第3級カチオンのカチオン中心が窒素原子である、請求項2に記載の電解質材料。
【請求項4】
第4級カチオンを有する、請求項1に記載の電解質材料。
【請求項5】
前記第4級カチオンのカチオン中心が窒素原子である、請求項4に記載の電解質材料。
【請求項6】
請求項1から5までのいずれかに記載の電解質材料とマトリックス材料を含む、電解質。
【請求項7】
前記マトリックス材料が有機溶媒を含む、請求項6に記載の電解質。


【図1−a】
image rotate

【図1−b】
image rotate

【図1−c】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate