説明

電解質溶液の製造方法、触媒ペースト、および触媒ペーストの製造方法

【課題】燃料電池用触媒ペーストの材料となる電解質溶液における電解質の分散性を向上する。
【解決手段】燃料電池用触媒ペーストの材料となる電解質溶液の製造方法であって、電解質を含む溶液を用意し、前記溶液を、前記電解質のガラス転移点から300℃までの温度で熱処理を行う。前記熱処理は、常圧を上回る高圧条件下で行い、前記高圧条件は、上限が100気圧以下である。前記用意した溶液を、耐圧容器に入れ、前記熱処理を、前記耐圧容器内が前記温度の条件を満たすように加熱することで行い、前記高圧条件は、前記加熱したことにより発生する前記溶液の溶媒の蒸気圧によって満たされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用触媒ペーストの材料となる電解質溶液の製造方法、および触媒ペースト、並びに触媒ペーストの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池用の触媒ペースト(触媒インクとも呼ぶ)は、触媒(例えば、白金)を担持する触媒担持体と、プロトン伝導性を有する電解質を含む電解質溶液とを混合することで製造される。この製造の際には、触媒担持体と電解質とが良好に分散するように、せん断力による分散方法や、キャビテーション効果(超音波)による分散方法を採用することが提案されている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−86859号公報
【特許文献2】特開2011−14334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記従来の技術で製造した触媒ペーストは、まだまだ、高い分散性を得ることができなかった。せん断力分散によれば、触媒ペースト材料中の触媒担持体の粉砕を可能とし、超音波分散によれば、製造の際に含まれた気泡を除去することが可能となるが、電解質の凝集体は残るためであり、高い分散性の触媒ペーストを製造することができなかった。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、燃料電池用触媒ペーストの材料となる電解質溶液における電解質の分散性を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するために以下の形態または適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
燃料電池用触媒ペーストの材料となる電解質溶液の製造方法であって、電解質を含む溶液を用意し、前記溶液を、前記電解質のガラス転移点から300℃までの温度で熱処理を行う、電解質溶液の製造方法。
この電解質溶液の製造方法によれば、溶液に含まれる電解質のガラス転移点以上となる熱処理が行われることで、電解質は急速に粘度が低下し、流動性を増す。このために、電解質の凝集体を解かすことができ、高い分散性の電解質溶液を製造することができる。なお、熱処理の温度の上限を300℃としたのは、窒素(N2)雰囲気下でもスルホ基が熱分解を開始する可能性があるためである。したがって、この電解質溶液の製造方法によれば、電解質の分散性に優れた電解質溶液を製造することができる。
【0008】
[適用例2]
適用例1に記載の電解質溶液の製造方法であって、前記熱処理を、常圧を上回る高圧条件下で行う、電解質溶液の製造方法。
この電解質溶液の製造方法によれば、高圧とすることで、電解質の凝集体をより解かすことができることから、より高い分散性の電解質溶液を製造することができる。
【0009】
[適用例3]
適用例2に記載の電解質溶液の製造方法であって、前記高圧条件は、上限が100気圧以下である、電解質溶液の製造方法。
この電解質溶液の製造方法によれば、汎用的な耐圧容器を用いた場合に、その耐圧容器の圧力限界内で製造が可能となる。
【0010】
[適用例4]
適用例2または3に記載の電解質溶液の製造方法であって、前記用意した溶液を、耐圧容器に入れ、前記熱処理を、前記耐圧容器内が前記温度の条件を満たすように加熱することで行い、前記高圧条件が、前記加熱したことにより発生する前記溶液の溶媒の蒸気圧によって満たされる、電解質溶液の製造方法。
この電解質溶液の製造方法によれば、熱処理のための装置とは別に加圧のための装置を必要としないことから、装置構成を簡単とすることができる。
【0011】
[適用例5]
燃料電池用の触媒ペーストであって、適用例1ないし4のいずれかに記載の電解質溶液の製造方法により製造された電解質溶液と、触媒を担持する担持体とを含む触媒ペースト。
適用例5に係る触媒ペーストによれば、電解質の分散性に優れた電解質溶液を材料として触媒ペーストを製造することができる。このため、触媒ペーストは、電解質の分散性に優れたものとなる。
【0012】
[適用例6]
燃料電池用の触媒ペーストの製造方法であって、電解質を含む溶液を用意し、前記溶液を、前記電解質のガラス転移点から300℃までの温度で熱処理を行い、前記熱処理後の溶液と、触媒を担持する担持体とを混合する、触媒ペーストの製造方法。
この触媒ペーストの製造方法によれば、熱処理により、溶液に含まれる電解質の凝集体を解かすことで、電解質の分散性に優れた電解質溶液を製造することができ、ひいては、電解質の分散性に優れた触媒ペーストを製造することができる。
【0013】
本発明は、上記適用例のほか、種々の形態にて実現され得る。例えば、本発明は、適用例1ないし4のいずれかに記載の電解質溶液の製造方法を採用して燃料電池を製造する方法、適用例6に記載の触媒ペーストの製造方法を採用して燃料電池を製造する方法、適用例5に記載の触媒ペーストを用いて製造された燃料電池、この燃料電池を含む燃料電池システムとして実現される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施例としての電解質溶液の製造方法を採用して製造した燃料電池の概略構成を表す説明図である。
【図2】MEA12の製造方法を示す工程図である。
【図3】工程S2で製造した電解質溶液の粘度ηを示すグラフである。
【図4】実施例で製造された単セル10の発電性能を従来例と比べて示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施態様に係る燃料電池について、図面を参照しつつ、実施例に基づいて説明する。
【0016】
A.燃料電池の構成:
図1は、本発明の一実施例としての電解質溶液の製造方法を採用して製造した燃料電池の概略構成を表す説明図である。図示は、燃料電池を構成する単セル10の断面を表す。本実施例の燃料電池は、固体高分子型燃料電池であり、単セル10を複数積層したスタック構造を有している。図示するように、単セル10は、電解質を含むMEA(膜−電極接合体、Membrane Electrode Assembly)12と、MEA12を両側から挟持してサンドイッチ構造を形成する一対のガス拡散層16,17と、このサンドイッチ構造をさらに両側から挟持する一対のセパレータ20,21とをから構成されている。
【0017】
MEA12は、電解質膜13と、電解質膜13を間に挟んでその表面に形成された電極であるアノード(燃料極)14およびカソード(酸素極)15を備えている。電解質膜13は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。アノード14およびカソード15は、電気化学反応を促進する触媒と、プロトン伝導性を有する電解質を含む電解質溶液とを混合した電極ペースト(「電極インク」ともいう)を、電解質膜13上に塗布することによって形成される。この電極ペーストの製造方法が本発明の要部に対応しており、電極ペーストを含めたMEA12の製造方法について、後ほど詳しく説明する。
【0018】
ガス拡散層16,17は、ガス透過性および導電性を有する部材によって構成されている。本実施例では、ガス拡散層16,17は、カーボンクロスやカーボンペーパなどのカーボン多孔質部材によって形成されている。ガス拡散層16,17を設けることによって、電極に対するガス供給効率を向上させると共に、セパレータ20,21と電極との間の集電性を高めることができ、さらに電解質膜13を保護することができる。なお、ガス拡散層16,17は、カーボン多孔質部材に換えて、チタンやステンレスなどの金属多孔質材等の他の導電性多孔質部材により形成する構成としてもよい。
【0019】
セパレータ20,21は、ガス不透過の導電性部材、例えば、カーボンを圧縮してガス不透過とした緻密質カーボンや、金属製部材などにより形成される。セパレータ20,21は、その表面に所定の形状のリブ部を形成しており、隣接するガス拡散層16,17との間で、水素ガス及び酸化ガスの単セル内流路20P、21Pを形成する。図2では、各セパレータ20,21の片面においてだけガス流路を成すリブが形成されているように表わされているが、実際は、両方の面に形成されている。したがって、セパレータ20,21は、ガス拡散層16,17との間でガスの流路を形成すると共に、隣接する単セル間で水素ガスと酸化ガスとの流れを分離する役割を果たしている。
【0020】
なお、各セパレータの表面に形成されたリブの形状は、ガス流路を形成してガス拡散層に対して燃料ガスまたは酸化ガスを供給可能であれば、いずれの形状とすることもできる。本実施例では、各セパレータの表面に形成されたリブは平行に形成された複数の溝状の構造とした。
【0021】
以上、燃料電池の基本構造である単セル10の構成について説明した。実際に燃料電池(燃料電池スタック)として組み立てるときには、単セル10を複数組積層し(例えば100組)、その両端にさらに集電板、絶縁板、エンドプレート(図示せず)を配置して、燃料電池スタックを完成する。
【0022】
なお、図示は省略しているが、スタック構造の内部温度を調節するために、各単セル間に、あるいは所定数の単セルを積層する毎に、冷媒の通過する冷媒流路を設けても良い。冷媒流路は、隣り合う単セル間において、一方の単セルが備えるセパレータ21と、これに隣接して設けられる他方の単セルのセパレータ20との間に設ければよい。
【0023】
B.MEAの製造方法:
図2は、MEA12の製造方法を示す工程図である。図示するように、工程S1では、電解質膜、アルコール系電解質溶液、および水系電解質溶液を用意する。本実施例では、電解質膜として、デュポン社製、Nafion膜NR211を用意した。Nafionは登録商標である。アルコール系電解質溶液は、プロトン伝導性を有する電解質を、アルコールを溶媒として溶かした溶液で、本実施例では、デュポン社製、Nafion溶液D2020を用意した。水系電解質溶液は、プロトン伝導性を有する電解質を、水を溶媒として溶かした溶液で、本実施例では、デュポン社製、Nafion溶液D1020を用意した。
【0024】
工程S2では、工程S1で用意した水系電解質溶液を高分散化する処理を行う。具体的には、次の(1)〜(4)の工程を順に行う。
(1)工程S1で用意した水系電解質溶液を耐圧容器に入れる。
(2)耐圧容器をオーブンに入れ、オーブンの設定温度を270[℃]として20時間加熱する(熱処理)。
(3)耐圧容器を冷却する。
(4)冷却後、耐圧容器から電解質溶液を回収し、電解質が高分散化された溶液(以下、「電解質高分散溶液」と呼ぶ)を得る。
【0025】
(2)の工程においてオーブンの設定温度を270[℃]としたのは、耐圧容器内の温度(すなわち、耐圧容器内の電解質溶液の温度)が、電解質のガラス転移点から300[℃]までの間(=電解質のガラス転移点以上、かつ300[℃]以下)の温度となるようにしたためである。ここで、Nafion溶液D1020のガラス転移点は110[℃]である。上限を300[℃]としたのは、N2雰囲気下でもSO3Hが熱分解を開始する可能性があるためである。なお、本実施例では、耐圧容器の外側から加熱する構成としたが、これに換えて、耐圧容器内に加熱ヒータを設けることで内側から加熱して、上記所定の温度とすることもできる。
【0026】
(2)の工程によれば、熱処理による高温化と共に高圧化も併せて行われる。耐圧容器内では、水系電解質溶液に含まれる溶媒(水)が水蒸気となり、耐圧容器内を昇圧するためである。本実施例では、耐圧容器内は55気圧ほどに達する。すなわち、(2)の工程によれば、工程S1で用意した水系電解質溶液を、高温・高圧条件下に置くことになる。
【0027】
工程2に続く工程S3では、工程S1で用意した電解質膜の一方側の面にアノードを形成する処理を行う。具体的には、工程S1で用意したアルコール系電解質溶液と、触媒である白金が担持されたカーボンブラックとを混合して、電極ペーストを生成し、この電極ペーストを前記電解質膜の一方側の面にスプレー塗布する。
【0028】
工程S4では、工程S1で用意した電解質膜の他方側の面にカソードを形成する処理を行う。具体的には、工程S2で得られた電解質高分散溶液と、触媒である白金が担持されたカーボンブラックとを混合して、電極ペーストを生成し、この電極ペーストを前記電解質膜の他方側の面にスプレー塗布する。
【0029】
以上の工程S1〜S4を順に行うことによって、電解質膜13の両面に触媒層であるアノード14およびカソード15が形成された三層構造、すなわち、MEA12が得られる。
【0030】
なお、工程S3および工程S4において、触媒は白金に限定されず、その他、ロジウム、パラジウム、イリジウム、オスミニウム、ルテニウム、レニウム、金、銀、ニッケル、コバルト、リチウム、ランタン、ストロンチウム、イットリウム等の種々の金属のうち、1種または2種以上を用いてもよい。また、これらの2種類以上を組み合わせた合金を、用いてもよい。また、触媒を担持する担持体はカーボンブラックに限定されず、その他、天然黒鉛粉末、人造黒鉛粉末、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、多層カーボンナノチューブ(MWCNT)等、種々の炭素材料を用いることができる。
【0031】
また、工程S3および工程S4では、電極ペーストを電解質膜の表面にスプレー塗布する構成としたが、スプレー法に換えて、転写法、インクジェット法、スクリーン印刷法、ダイコード法等によって、電解質膜の表面に触媒層を形成してもよい。
【0032】
以上のようにして製造されたMEA12は、その後、カーボンペーパからなるガス拡散層を重ね合わせてホットプレスすることで、MEA12にガス拡散層16,17を加えたMEGA(Membrane Electrode & Gas Diffusion Layer Assembly)が製造される。このMEGAにセパレータ20,21を配置して、単セル10を完成する。
【0033】
C.電解質高分散溶液の特徴:
工程S2では、前述したように、水系電解質溶液を入れた耐圧容器内が、電解質のガラス転移点以上の所定の温度となるような熱処理が行なわれる。このために、水系電解質溶液に含まれる電解質は急速に粘度が低下し、流動性を増す。したがって、工程S2によれば、電解質の流動性が増し、電解質の凝集体を解かすことができることから、高い分散性の電解質溶液を製造することができる。
【0034】
さらに、本実施例では、耐圧容器内を加熱することで、前述したように高圧化もなされることから、電解質の凝集体をより解かすことができ、より高い分散性の電解質溶液を製造することができる。したがって、工程S2による電解質溶液の製造方法によれば、電解質の分散性に優れた電解質溶液を製造することができる。
【0035】
図3は、工程S2で製造した電解質溶液の粘度ηを示すグラフである。図中の横軸にずり速度Dを示し、右側縦軸に粘度ηを示した。左側縦軸は、ずり応力τとなる。ずり速度Dの単位は[1/s](sはセカンド)であり、ずり応力τの単位は[Pa](Paはパスカル)であり、粘度ηの単位は[Pa・s]である。グラフの太線が、工程S2で製造した電解質溶液についての粘度ηとずり応力τである。グラフ中の細線には、比較例についての粘度ηとずり応力τを示した。
【0036】
比較例は、工程S2による高分散化を行なっていない電解質溶液である。図3のグラフから判るように、工程S2で製造した電解質溶液は、比較例の電解質溶液と比べて、粘度ηが3分の1ほどに減少した。このことからも、電解質溶液において電解質の凝集体が解かされて分散性が向上したことが判る。
【0037】
D.実施例効果:
以上のように構成された実施例によれば、工程S2で製造した電解質の高分散溶液、すなわち電解質高分散溶液を用いて触媒ペーストを製造していることから、触媒ペーストの分散性を向上することができる。このために、電極形成時の電解質樹脂の偏析や不均一性が軽減されることから、本実施例で製造された燃料電池の単セル10は、高い発電性能を有することになる。
【0038】
図4は、実施例で製造された単セル10の発電性能を、従来例と比べて示すグラフである。図中の横軸にセル温Tを示し、左側縦軸にセル電圧Eを示し、右側縦軸にセル抵抗Rを示した。セル温Tの上昇に応じて低下する曲線がセル電圧Eを示し、両曲線のうちの上側の曲線が単セル10についてのものであり、両曲線のうちの下側の曲線が従来例についてのものである。ここで、従来例とは、工程S2による高分散化を行なっていない電解質溶液を材料とする触媒ペーストを用いて製造した単セルである。なお、セル温Tの上昇に応じて上昇する曲線がセル抵抗Rを示し、両曲線のうちの上側の曲線が従来例についてのものであり、両曲線のうちの下側の曲線が単セル10についてのものである。
【0039】
グラフに示したセル電圧Eは、セル温Tを50[℃]とし、0.2[A/cm2]の発電電流密度を保ちながらセル温Tを90[℃]まで上昇させたときの電圧Eの測定値である。グラフから判るように、実施例で製造された単セル10のセル電圧Eは、従来例と比べて、セル温Tが60[℃]以上の高温域において、30ー50[mV]だけ高い。したがって、グラフを得た発電試験からも、本実施例で製造された燃料電池の単セル10は、高温作動時における発電性能が向上することがわかる。
【0040】
E.変形例:
なお、この発明は上記の実施例や各変形例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0041】
・変形例1:
前記実施例では、カソード用の触媒ペーストの材料として水系電解質溶液を用いていたが、これに換えて、アルコール系電解質溶液、例えばNafion溶液D2020を用いる構成としてもよい。この場合には、工程S2における高分散化の処理では、一旦乾燥固化させて電解質を取り出した後、イオン交換水に入れて水系に置換し、その後、同様に、耐圧容器に入れて、270℃で20時間だけ静置する構成とすればよい。この構成によれば、アルコール系電解質溶液を基に、電解質の分散性に優れた電解質溶液を製造することができる。
【0042】
・変形例2:
前記実施例では、高分散化した電解質溶液を、カソード用の触媒ペーストの材料としたが、これに換えて、アノード用の触媒ペーストの材料としてもよい。さらに、カソード、アノードの双方用の触媒ペーストの材料としてもよい。
【0043】
・変形例3:
前記実施例では、工程S2において、オーブンの設定温度を270[℃]としたが、オーブンの設定温度は、270[℃]に限る必要はなく、耐圧容器内の電解質溶液の温度を電解質のガラス転移点から300[℃]までの間の温度とすることができれば、いずれの温度とすることもできる。さらに、前記温度条件の下限である電解質のガラス転移点は、150[℃]という値に換えることもできる。150[℃]という温度は、電解質のガラス転移点に近い温度であるためである。すなわち、熱処理の温度条件を、150[℃]から300[℃]までの温度とすることもできる。
【0044】
・変形例4:
前記実施例では、工程S2において、耐圧容器内が、溶液の溶媒の蒸気で昇圧して高圧となるように構成していたが、これに換えて、外部から耐圧容器内に高圧不活性ガス(N2、Arなど)を導入することで高圧化してもよい。要は、耐圧容器内を高圧化することができれば、いずれの方法を採用してもよい。なお、工程S2では、溶媒である水の蒸気圧を利用することで、およそ55気圧に高めているが、この圧力値は、常圧を上回る値であればいずれの値に換えることもできる。なお、汎用的な耐圧容器の圧力限界である100気圧以下とすることが好ましい。なお、この高圧化は必ずしも必要な処理ではなく、温度条件を電解質のガラス転移点から300[℃]までの温度とする熱処理だけを行う構成とすることも可能である。
【0045】
・変形例5:
前記実施例および各変形例では、セパレータ20,21は、ガス流路を形成するための凹凸(溝)形状が形成されたものとしたが、これに換えて、セパレータを平板状にして、電解質膜とセパレータとの間に、導電性多孔体であるガス流路形成部材(例えば、エキスパンドメタル)を設けた構成等、種々のタイプの、ガス流路が形成されたセパレータとしてもよい。
【0046】
・変形例6:
前記実施例および各変形例では、燃料電池に固体高分子型燃料電池を用いたが、リン酸型燃料電池、溶融炭酸塩型燃料電池、固体酸化物形燃料電池等、種々の燃料電池に本発明を適用してもよい。
【0047】
以上、本発明の実施例および変形例について説明したが、本発明はこれらの実施例および変形例になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々の態様での実施が可能である。
【符号の説明】
【0048】
10…単セル
13…電解質膜
14…アノード
15…カソード
16,17…ガス拡散層
20,21…セパレータ
20P,21P…単セル内流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池用触媒ペーストの材料となる電解質溶液の製造方法であって、
電解質を含む溶液を用意し、
前記溶液を、前記電解質のガラス転移点から300℃までの温度で熱処理を行う、電解質溶液の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電解質溶液の製造方法であって、
前記熱処理を、常圧を上回る高圧条件下で行う、電解質溶液の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の電解質溶液の製造方法であって、
前記高圧条件は、上限が100気圧以下である、電解質溶液の製造方法。
【請求項4】
請求項2または3に記載の電解質溶液の製造方法であって、
前記用意した溶液を、耐圧容器に入れ、
前記熱処理を、前記耐圧容器内が前記温度の条件を満たすように加熱することで行い、
前記高圧条件が、前記加熱したことにより発生する前記溶液の溶媒の蒸気圧によって満たされる、電解質溶液の製造方法。
【請求項5】
燃料電池用の触媒ペーストであって、
請求項1ないし4のいずれかに記載の電解質溶液の製造方法により製造された電解質溶液と、
触媒を担持する担持体と
を含む触媒ペースト。
【請求項6】
燃料電池用の触媒ペーストの製造方法であって、
電解質を含む溶液を用意し、
前記溶液を、前記電解質のガラス転移点から300℃までの温度で熱処理を行い、
前記熱処理後の溶液と、触媒を担持する担持体とを混合する、触媒ペーストの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−51051(P2013−51051A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−187018(P2011−187018)
【出願日】平成23年8月30日(2011.8.30)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】