説明

電解酸化反応用電極及びその製造方法

【課題】環境に配慮しつつ、オゾン生成能に優れた高寿命の電解酸化反応用電極、及びその電解酸化反応用電極の製造方法を提供する。
【解決手段】バルブ金属又はこれらの合金からなる基材と、この基材の表面を被覆する被覆相からなる電解酸化反応用電極において、被覆相は貴金属と、バルブ金属との金属間化合物を少なくとも1種含み、前記被覆相表面のX線回折における貴金属の主ピーク強度(A)と金属間化合物の主ピーク強度(B)との比(A/B)が、0〜0.3であることを特徴とする電解酸化反応用電極である。この電解酸化反応用電極を使用すれば、洗浄殺菌処理等に用いるオゾン水を安価に製造可能であり、また、有機物質の処理も容易となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解酸化反応用電極及びその製造方法に関する。詳しくは、食品加工や医療現場における殺菌、上下水道や排水の水処理・殺菌、半導体デバイス製造プロセスにおける洗浄、CrめっきにおけるCr濃度の管理、過硫酸アンモニウム等の過酸化物の製造に用いる電解酸化反応用電極及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、オゾンは酸化力の非常に高い物質であり、オゾンが溶解したオゾン水は、食品加工や医療現場における殺菌、上下水道や排水(一般排水、バラスト水等)の水処理・殺菌、半導体デバイス製造プロセスにおける洗浄など、洗浄殺菌処理での利用が期待されている。このようなオゾン水を生成する方法としては、水の電気分解により水中でオゾンを発生させる方法が知られている。
【0003】
水の電気分解に使用するオゾン発生用陽極としては、二酸化鉛や白金により構成される電極が一般的に知られている。このうち、二酸化鉛は有害物質であり、環境への配慮から使用が控えられるべきものである。一方、白金は、環境への影響という点では鉛の場合に相当する問題は無いものの、陽極として使用してもオゾンの生成効率が低いという問題がある。
【0004】
このような環境への影響を考慮し、かつ、オゾンの生成効率を改善したものとして、ダイヤモンド電極(例えば、特許文献1)や、白金上に金属酸化物を形成させた電極(例えば、特許文献2、特許文献3)が知られている。これらの電極を使えば、効率良くオゾンを生成することが可能となる。
【0005】
しかしながら、ダイヤモンド電極は製造コストが高価である上に、電極の機械的強度を確保するために導電性ダイヤモンド膜の膜厚をある程度厚くしなければならないため、オゾン生成の採算を取ることが難しい。また、電解途中でダイヤモンドを構成する炭素が酸化し、二酸化炭素となって揮発してしまうため、電極が痩せてしまうことで寿命が短くなり、実用性に劣るという問題もある。
【0006】
また、白金上に金属酸化物を形成させた電極は、中間層及び表面層を形成させるために焼成を複数回繰り返さなければならず、作業工程が多いという問題がある。その上、手間をかけて作成した電極であっても、作成直後はオゾンを効率良く発生させることができるものの、初期特性が長く持続せず、寿命が短いという問題もある。更に、白金を基材とするため、電極コストが高くなってしまう。
【0007】
オゾン発生用陽極の材料としては、上記の他にも、電極基材として一般的に用いられるチタン、ジルコニウム等のバルブ金属が候補として挙げられる。バルブ金属の多くは、酸素過電圧が高いため、陽極として使用した際にオゾン生成能を有する。しかしながら、バルブ金属からなる電極の表面が、電解により酸化チタンや酸化ジルコニウム等の不動態の金属酸化物となってしまうため、電極寿命が非常に短いという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−268395号公報
【特許文献2】特開2007−46129号公報
【特許文献3】特開2008−95173号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した従来の問題点を踏まえ、本発明では環境に配慮しつつ、オゾン生成能に優れた高寿命の電解酸化反応用電極、及びその電解酸化反応用電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、酸素過電圧が高いバルブ金属の酸化を抑制することが出来れば、オゾン生成能を維持しつつ電極の寿命を延ばすことが出来ることを着想した。そして、この着想に基づき、バルブ金属の酸化抑制方法について模索した結果、バルブ金属からなる基材に、酸化し難く、また酸化しても導電性を有する金属、即ち貴金属を被覆した後、不活性雰囲気下で加熱処理すれば、電極表面にバルブ金属と貴金属との金属間化合物が生成することにより、オゾン生成能に優れた高寿命の電解酸化反応用電極が得られることを見出した。更に、電極表面の貴金属は、金属間化合物の作用効果を阻害してしまうことで、酸素過電圧等の電極性能を低下させてしまうことがわかった。そこで、単に金属間化合物を生成させるだけでなく、電極表面の貴金属の割合を所定範囲内に限定することで、電極表面の金属間化合物の純度を高めれば、電極の性能が更に向上することを見出し、本発明を想到するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、Ti、Zr、Nb、Taのうちいずれかのバルブ金属又はこれらの合金からなる基材と、この基材の表面を被覆する被覆相からなる電解酸化反応用電極において、被覆相は、Pt、Ir、Ru、Rh、Pdのうちいずれかの貴金属と、前記基材を構成するバルブ金属との金属間化合物を少なくとも1種含むことを特徴とする電解酸化反応用電極、及びその製造方法である。
【0012】
以下、本発明について、電解酸化反応用電極について説明した上で、その製造方法について説明する。まず、電解酸化反応用電極は、その基材がTi、Zr、Nb、Taのうちいずれかのバルブ金属又はこれらの合金からなる。これらのバルブ金属や、その合金は、酸素過電圧が高く、陽極として使用した際にオゾン生成能を有するからである。但し、バルブ金属は、電解により不動態の金属酸化物となってしまう。そこで、これを防ぐため基材の表面は被覆相により被覆されている。
【0013】
被覆相は、Pt、Ir、Ru、Rh、Pdのうちいずれかの貴金属と、前記基材を構成するバルブ金属との金属間化合物を少なくとも1種含む。被覆相に貴金属と金属間化合物が存在することで、基材の酸化を防ぐと共に、電解酸化反応にも寄与することが出来るからである。また、従来の貴金属被覆電極が示す酸素過電圧より高い酸素過電圧が得られるからである。更に、前記金属間化合物は、その一部又は全部が酸化されてもその機能を損なわず、電解酸化反応に寄与出来るからである。
【0014】
尚、金属間化合物としては、バルブ金属と貴金属との組み合わせにより、表1に示すものが挙げられる。
【0015】
【表1】

【0016】
そして、前記被覆相表面のX線回折における貴金属の主ピーク強度(A)と金属間化合物の主ピーク強度(B)との比(A/B)が、0〜0.3であることが好ましい。この比率の範囲内で、被覆相の表面に、酸化し難く導電性の優れた金属間化合物が露出することで、オゾン生成能に優れた電解酸化反応用電極となるからである。電解酸化反応性能を考慮すれば、(A/B)が、0〜0.1であることがより好ましい。尚、X線回折では、1つの組成物について複数のピークが観測されるところ、ここでいう主ピークとは、複数のピークのうち最も強度の強いピークをいう。また、A/Bが0の状態とは、金属間化合物に由来するピークが存在し、かつ貴金属に由来するピークが存在しない状態をいう。
【0017】
本発明にかかる電解酸化反応用電極の具体例としては、例えば基材がTiからなり、被覆相がPtとTi、及びPtとTiとの金属間化合物を含み、前記金属間化合物は、その構成がTiPtである電解酸化反応用電極が挙げられる。
【0018】
次に、上記に説明した本発明にかかる電解酸化反応用電極の製造方法について説明する。まず、その方法とは、バルブ金属又はこれらの合金からなる基材の表面を、貴金属で被覆した後、不活性雰囲気下で加熱処理する方法である。バルブ金属の酸化を抑制するため、酸化し難い貴金属で被覆し、更に加熱処理過程で酸化しないよう不活性雰囲気下で加熱する。基材には、Ti、Zr、Nb、Taのうちいずれか又はこれらの合金を使用する。そして、貴金属には、Pt、Ir、Ru、Rh、Pdのうちのいずれか1以上を用いる。
【0019】
基材に貴金属を被覆する方法は、めっき処理方法の他、PVDもしくはCVDにより貴金属膜を形成する方法、溶射法やクラッドにより貴金属膜を形成する方法、貴金属化合物溶液を基材に塗布し熱分解により貴金属膜を形成する方法、貴金属ペーストを基材に塗布して貴金属膜を形成する方法、等が挙げられる。被覆方法の一例を挙げるなら、例えばめっき処理の場合は、バルブ金属からなる基材表面をサンドブラスト処理し、基材表面を貴金属めっきすればよい。
【0020】
尚、貴金属の被覆厚は、0.1μm〜10μmであることが好ましい。0.1μmよりも薄いと、熱処理により基材表面の金属間化合物が埋没してしまい、電極の性能が低下してしまうからである。そして、10μmよりも厚いと、熱処理をしても金属間化合物が電極表面に生成し難くなるからである。貴金属の被覆厚が上記範囲内であれば、(A/B)が、0〜0.3となり、電解酸化反応に優れた電極となる。被覆厚を0.1μm〜5μmとすれば、(A/B)が、0〜0.1となるので、より好ましい。
【0021】
上記の不活性雰囲気下は、He、Ne、Ar雰囲気下又は真空下であることが好ましい。これら雰囲気下と下記の加熱条件下であることにより、金属間化合物が形成され、電極の酸素過電圧が上昇するからである。また、製造段階において、電極の酸化を防止するのに効果的であるからである。
【0022】
また、加熱処理は、ホットプレス処理(HP処理)又は熱間等方圧加圧加工処理(HIP処理)であることが好ましい。基材のバルブ金属とこれを被覆する貴金属との密着性が向上し、容易に電極を作成することが可能となるからである。
【0023】
ここで、ホットプレス処理とは、雰囲気調整された炉内中で一軸方向に加圧しながら熱処理を行う方法である。この処理によれば、基材のバルブ金属を被覆する貴金属が密着性の悪い箔および粉体等であっても、加圧しながら熱処理をすることで容易に密着性の高い被覆を行えるメリットがある。
【0024】
また、熱間等方圧加圧加工処理とは、高温、高圧のガスを媒体として被処理物を等方的に圧縮し、緻密化する処理である。この処理は、曲げ強度等の機械的性質が大幅に改善され、表面硬度が増す点や、焼結品の中に残留した気孔が排除されることで、表面の面粗度が大幅に改善される等のメリットがある。
【0025】
尚、このようなHP処理やHIP処理する場合、圧力は100atm〜1500atmであることが好ましい。100atmよりも低いと、基材と被覆する貴金属との密着が十分に得られないからである。また、1500atmよりも高い場合、それ以上の密着効果が得られないからである。より好ましくは、100atm〜1000atmである。
【0026】
そして、基材がTi又はZrである場合、加熱処理は、その加熱温度が700℃〜1400℃であり、かつ、加熱時間が1時間〜12時間であることが好ましい。TiやZrにとって、このような処理条件が金属間化合物の生成に好適だからである。より好ましい条件は、加熱温度700℃〜1300℃であり、かつ、加熱時間が1時間〜6時間である。
【0027】
一方、基材がNb又はTaである場合、加熱処理は、その加熱温度が1000℃〜1600℃であり、かつ、加熱時間が1時間〜12時間であることが好ましい。NbやTaにとって、このような処理条件が金属間化合物の生成に好適だからである。より好ましい条件は、加熱温度1300℃〜1600℃であり、かつ、加熱時間が1時間〜6時間である。
【発明の効果】
【0028】
以上説明したように、本発明に係る電解酸化反応用電極は、高寿命でオゾン生成能に優れたものである。これにより、洗浄殺菌処理等に用いるオゾン水を安価に製造可能となる。また、本発明に係る電極を用いれば、マロン酸やジェオスミン等、難分解性の有機物質の分解処理も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】被覆相表面のX線回折における貴金属の主ピークと金属間化合物の主ピークを示す図。
【図2】真空炉処理した電極の酸素過電圧を示す図。
【図3】HIP処理した電極の酸素過電圧を示す図。
【図4】Ar雰囲気炉処理した電極の酸素過電圧を示す図。
【図5】真空炉処理した電極の酸素過電圧を示す図。
【図6】異なるバルブ金属を基材に用いた電極の酸素過電圧を示す図。
【図7】真空炉処理したIr被覆電極の酸素過電圧を示す図。
【図8】真空炉処理したRu被覆電極の酸素過電圧を示す図。
【図9】真空炉処理したPd被覆電極の酸素過電圧を示す図。
【図10】HIP処理した電極のオゾン生成能を示す図(電流密度:5A/dm)。
【図11】HIP処理した電極のオゾン生成能を示す図(電流密度:10A/dm)。
【図12】マロン酸を定電流処理した結果を示す図。
【図13】ジェオスミンを定電流処理した結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。まず、第1実施形態では、Ti基材にPtを被覆した後、真空雰囲気下加熱処理をした電解酸化反応用電極について、その酸素過電圧の測定を行った。
【0031】
第1実施形態:Ti基材(縦70mm、横20mm、厚さ1mm)をPtめっきした後、加熱処理を行った。Ptめっきは、Ti基材を♯50のアルミナを用いてサンドブラスト処理を行った後、アルカリ性脱脂液に浸漬して脱脂後、Pt濃度20g/Lのめっき液(商品名:プラチナート100 日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)のめっき浴を用いて、pH14、液温85℃、電流密度2.5A/dmの条件下で、撹拌しながらめっきした。Ptめっきの厚みは10μmとした。加熱処理は、真空雰囲気下で温度1100℃にて1時間、又は真空雰囲気下で1300℃にて6時間行った。
【0032】
上記作製した電極について、X線回折法及びEPMAにより被覆相の組成を分析したところ、被覆相からは金属間化合物のTiPt及びTiPtが検出された。
【0033】
図1(1)は、上記により作製した電極の被覆相表面のX線回折における金属間化合物の主ピークを示す図である。図中には、比較として、単にTi基材にPtを1μm被覆したのみの電極(Pt/Ti)について測定を行った結果も示している。このPt/Ti電極の場合、電極表面はPtで被覆されているため、得られるピークはPtに由来するものである。
【0034】
また、図1(2)に示すのはTiPtおよびTiPtの標準ピークである。図1(2)から、TiPtの主ピークは約42°に現れるピークであることがわかり、TiPtの主ピークは、約44°に現れるピークであることがわかる。
【0035】
一方、Ptの主ピーク(A)は、電極の被覆相表面がPtのみの場合、約40°に現れるピークであるが(図1(1):Pt/Ti電極)、このピークは、電極を加熱処理してしまうと、電極の被覆相表面にPtが存在している場合でも消滅してしまう。これに対して、白金ピーク中、2番目に強度のある約46°のピークは、電極を加熱処理してもPtが存在すればピークとして残り、Ptの消滅と共に消滅する。そこで、本実施形態では、約46°のピークをPtの主ピーク(A)として、ピーク強度比(A/B)を算出した。
【0036】
図1(1)に示す電極の場合、真空雰囲気下加熱処理が1100℃で1時間のものについてTiPtの主ピーク(B)およびPtの主ピーク(A)がみとめられ、この場合のピーク強度比(A/B)が0.3となった。また、真空雰囲気下加熱処理が1300℃で6時間のものについては、TiPtの主ピーク(B)がみとめられ、かつPtの主ピーク(A)がみとめられなかった。したがって、この場合のピーク強度比(A/B)は0となった。
【0037】
酸素過電圧は作用極に本実施形態の電解酸化反応用電極、対極にPt/Ti電極(Ti基材にPtを膜厚1μmめっきした電極)、参照極にAg/AgCl電極を用いて、リニアスィープボルタンメトリにより測定した。その際、溶液は1M硫酸とし、測定機器は電気化学測定システム(商品名:HZ−5000シリーズ, HOKUTO DENKO製)を用いた。リニアスィープボルタンメトリはスキャン速度を10mV/sとして測定を行った。結果を図2に示す。
【0038】
図2は、真空雰囲気下加熱処理をすることで酸素過電圧がどれだけ異なるか、測定した結果を示す図である。この結果をみると、真空雰囲気下加熱処理が1100℃で1時間の電極、1300℃6時間の電極ともに、単にPtめっきをしたのみで加熱処理をしなかった電極と比較して、酸素過電圧が上昇したことがわかる。この結果によれば(A/B)が0.3以下の場合に酸素過電圧が上昇することがわかった。そして、この傾向は、溶液が1M硫酸の場合のみならず、0.1M硫酸ナトリウムの場合においてもみとめられた。
【0039】
第2実施形態では、Ti基材にPtを被覆した後、HIP処理、Ar雰囲気下加熱処理、又は真空雰囲気下加熱処理のいずれかの処理をした電解酸化反応用電極について、その酸素過電圧の測定を行った。
【0040】
第2実施形態:Ti基材(縦70mm、横20mm、厚さ1mm)をPtめっきした後、加熱処理を行った。Ptめっきは、Ti基材を♯50のアルミナを用いてサンドブラスト処理を行った後、アルカリ性脱脂液に浸漬して脱脂後、Pt濃度20g/Lのめっき液(商品名:プラチナート100 日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)のめっき浴を用いて、pH14、液温85℃、電流密度2.5A/dmの条件下で、撹拌しながらめっきした。Ptめっきの厚みは、0.1μm〜10μmとした。加熱処理は、HIP処理の場合は、Ar雰囲気下、温度1350℃、圧力1000atmの条件にて1時間行った。また、Ar雰囲気下加熱処理の場合は、Ar雰囲気炉で温度1000℃にて1時間行った。そして、真空雰囲気下加熱処理の場合は、真空炉で温度1000℃にて1時間行った。酸素過電圧の測定は、溶液を1M硫酸、又は0.1M硫酸ナトリウムとし、第1実施形態と同様の条件により行った。
【0041】
図3はTi基材にPtを0.1μm〜10μm被覆したものについて、HIP処理をすることで酸素過電圧がどれだけ異なるのか、測定した結果を示す図である。酸素過電圧性能を客観的に評価するため、貴金属等で表面被覆していないTi基材についても測定を行った。この結果をみると、HIP処理をした電極は、単にPtめっきをしたのみで加熱処理をしなかった電極と比較して、酸素過電圧が上昇したことがわかる。特に、Ptを0.1μm、あるいは1μm被覆してHIP処理した電極は、Ti基材と同等の性能を発揮した。そして、これらの傾向は、溶液が1M硫酸、0.1M硫酸ナトリウムのいずれの場合においてもみとめられた。
【0042】
図4は、Ti基材にPtを0.5μm〜5μm被覆したものについて、Ar雰囲気下で加熱処理をすることで酸素過電圧がどれだけ異なるのか、測定した結果を示す図である。加熱処理の効果を確認するため、単にTi基材にPtを1μm被覆したのみの電極についても測定を行った。この結果から、Ar雰囲気下で加熱処理をすることで、酸素過電圧が上昇したことがわかる。そして、これらの傾向は、溶液が1M硫酸、0.1M硫酸ナトリウムのいずれの場合においてもみとめられた。
【0043】
図5は、Ti基材にPtを0.1μm〜5μm被覆したものについて、真空雰囲気下で加熱処理をすることで酸素過電圧がどれだけ異なるのか、測定した結果を示す図である。加熱処理の効果を確認するため、単にTi基材にPtを0.5μm被覆したのみの電極についても測定を行った。この結果をみると、真空雰囲気下加熱処理をすることで、酸素過電圧が上昇したことがわかる。そして、この傾向は、溶液が1M硫酸、0.1M硫酸ナトリウムのいずれの場合においてもみとめられた。
【0044】
第3実施形態では、Zr、Nb、Taのいずれかからなる基材にPtを被覆した後、真空雰囲気下で加熱処理をした電解酸化反応用電極について、その酸素過電圧の測定を行った。
【0045】
第3実施形態:Ti、Zr、Nb、Taのうちいずれかのバルブ金属からなる基材に、Ptを1μmめっきし、加熱温度を1300℃とした以外は、第1実施形態と同様に、真空炉で真空雰囲気下加熱処理を1時間行うことにより、電解酸化反応用電極を作製した。
【0046】
上記作製した電極について、X線回折法及びEPMAにより被覆相の組成を分析したところ、被覆相及び被覆相の表面からは、表2に示す成分が検出された。被覆相表面をX線回折したところ、金属間化合物の主ピーク(B)がみとめられ、かつ貴金属の主ピーク(A)がみとめられなかった。従って、本実施形態の電極は、そのピーク強度比(A/B)が0となっている。
【0047】
【表2】

【0048】
酸素過電圧は、第1実施形態に示したものと同じ方法により、溶液に1M硫酸を使用して測定した。結果を図6に示す。
【0049】
図6の1μm未処理とは、単にTi基材にPtを1μm被覆したのみの電極であり、加熱処理の効果を対比するためのものである。結果より、いずれのバルブ金属を基材に用いた場合であっても、真空雰囲気下加熱処理を行わなかった1μm未処理電極と比較して、酸素過電圧が上昇する結果となった。
【0050】
第4実施形態では、TiおよびZrのいずれかからなる基材に、Ir、Ru、Pdのいずれかを被覆した後、真空雰囲気下で加熱処理をした電解酸化反応用電極について、その酸素過電圧の測定を行った。
【0051】
第4実施形態:Ti、Zrのいずれかのバルブ金属を基材(縦70mm、横20mm、厚さ1mm)とし、Ir、Ru、Pdのうちいずれかの貴金属を厚さ1μmめっきした後、加熱処理を行った。Irめっきは、Ti基材を♯50のアルミナを用いてサンドブラスト処理を行った後、アルカリ性脱脂液に浸漬して脱脂後、めっき液(商品名:イリデックス200 日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)のめっき浴を用いて、液温85℃、電流密度0.15A/dmの条件下で、撹拌しながらめっきした。Ruめっきは、Ti基材を♯50のアルミナを用いてサンドブラスト処理を行った後、アルカリ性脱脂液に浸漬して脱脂後、めっき液(商品名:ルテネックス 日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)のめっき浴を用いて、液温60℃、電流密度1A/dmの条件下で、撹拌しながらめっきした。Pdめっきは、Ti基材を♯50のアルミナを用いてサンドブラスト処理を行った後、アルカリ性脱脂液に浸漬して脱脂後、めっき液(商品名:パラデックスLF−2 日本エレクトロプレイティング・エンジニヤース株式会社製)のめっき浴を用いて、液温60℃、電流密度2A/dmの条件下で、撹拌しながらめっきした。加熱処理は真空雰囲気下で温度1000℃にて1時間行った。いずれの電極も、被覆相表面のX線回折において貴金属の主ピーク(A)は検出されず、金属間化合物の主ピーク(B)のみが検出された(ピーク強度比(A/B)=0)。
【0052】
酸素過電圧は、第1実施形態に示したものと同じ方法により、溶液に1M硫酸を使用して測定した。結果を図7〜図9に示す。
【0053】
図7は、TiおよびZr基材にIrを被覆したものについて、真空雰囲気下で加熱処理をすることで酸素過電圧がどれだけ異なるのか、測定した結果を示す図である。加熱処理の効果を確認するため、単にTiおよびZr基材にIrを1μm被覆したのみの電極についても測定を行った。この結果をみると、真空雰囲気下加熱処理をすることで、酸素過電圧が上昇したことがわかる。そして、この傾向は、溶液が1M硫酸の場合のみならず、0.1M硫酸ナトリウムの場合においてもみとめられた。
【0054】
図8は、TiおよびZr基材にRuを被覆したものについて、真空雰囲気下で加熱処理をすることで酸素過電圧がどれだけ異なるのか、測定した結果を示す図である。加熱処理の効果を確認するため、単にTiおよびZr基材にRuを1μm被覆したのみの電極についても測定を行った。この結果をみると、真空雰囲気下加熱処理をすることで、酸素過電圧が上昇したことがわかる。そして、この傾向は、溶液が1M硫酸の場合のみならず、0.1M硫酸ナトリウムの場合においてもみとめられた。
【0055】
図9は、TiおよびZr基材にPdを被覆したものについて、真空雰囲気下で加熱処理をすることで酸素過電圧がどれだけ異なるのか、測定した結果を示す図である。加熱処理の効果を確認するため、単にTiおよびZr基材にPdを1μm被覆したのみの電極についても測定を行った。この結果をみると、真空雰囲気下加熱処理をすることで、酸素過電圧が上昇したことがわかる。そして、この傾向は、溶液が1M硫酸の場合のみならず、0.1M硫酸ナトリウムの場合においてもみとめられた。
【0056】
第5実施形態では、Ti基材にPtを被覆した後、HIP処理をした電解酸化反応用電極について、オゾン生成能評価、マロン酸及びジェオスミンの定電流処理を行った。
【0057】
第5実施形態:第2実施形態と同様の方法により、Ti基材にPtをめっきした後、HIP処理をすることで電解酸化反応用電極を作製した。
【0058】
オゾン生成能は、経時で溶存オゾンを測定することにより評価した。溶存オゾンは、溶存オゾン計(商品名:溶存オゾン計 O-3F 笠原理化工業株式会社製)を用い、電解質:0.1M 硫酸ナトリウム、陽極:本実施形態の電解酸化反応用電極、電流密度:5A/dmまたは10A/dmの条件下で、撹拌しながら定電流処理を行うことで測定した。
【0059】
図10に、電流密度が5A/dmの条件で、オゾン生成能を測定した結果を示す。性能比較のために、従来よりオゾン生成に用いられてきたPb電極の結果も、併せて示している。この結果によれば、基材にPtを適量(1μm)めっきし、HIP処理をすれば、オゾン生成能が著しく向上することがわかった。この傾向は、電流密度が10A/dmの条件でも同様にみとめられた(図11)。尚、電流密度が10A/dmの条件では、Ti基材電極及びTi基材にPtを0.1μmめっきしてHIP処理した電極のオゾン生成能も測定している。これら電極の結果をみると、Ti基材にPtを1μmめっきしてHIP処理した電極と同等のオゾン生成能を発揮したものの、電極表面にあるTiが酸化してしまうことにより、電極寿命が短くなる結果となった(図11)。
【0060】
マロン酸処理の処理条件は、処理試料:マロン酸3mM、電解質:0.1M硫酸ナトリウム、陰極:Ti/Pt電極、電流密度:5A/dm、温度:25℃とし、撹拌しながら処理を行った。そして、ジェオスミン処理の処理条件は、処理試料:ジェオスミン500ng/L、電解質:0.1M硫酸ナトリウム、陰極:ステンレス電極、電流密度:5A/dm、温度:25℃とし、撹拌しながら処理を行った。
【0061】
図12は、Ti基材にPtを1μmめっきしてHIP処理した電極(Pt/Ti−HIP)を用いてマロン酸の定電流処理した結果を、Ti基材にPt-Ir合金を1μmめっきしたのみの電極(Pt-Ir/Ti)の結果と比較したものである。この結果をみると、電極をHIP処理することで、マロン酸の濃度が処理時間に応じて減少していることから、マロン酸の分解能が向上したことは明らかである。
【0062】
また、図13は、Ti基材にPtを1μmめっきしてHIP処理した電極(Pt/Ti−HIP)を用いて、ジェオスミンの定電流処理した結果を、Ti基材にPtを1μmめっきしたのみの電極(Pt/Ti)の結果と比較したものである。ここで、ジェオスミンは揮発性物質であることから、電解処理をしなくてもその濃度は低下してしまう。そこで、電解による分解効果を明確に把握するため、電解を行わず、単にジェオスミン処理試料を装置内で撹拌したのみの結果を、図中にコントロールとして示している。この結果をみると、電極をHIP処理することで、ジェオスミンの濃度が処理時間に応じて減少していることから、ジェオスミンの分解能が向上したことは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、高寿命でオゾン生成能に優れた電解酸化反応用電極及びその製造方法に関するものである。製造した電解酸化反応用電極を使用することにより、洗浄殺菌処理等に用いるオゾン水を安価に製造可能であり、また、有機物質の処理も容易となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ti、Zr、Nb、Taのうちいずれかのバルブ金属又はこれらの合金からなる基材と、この基材の表面を被覆する被覆相からなる電解酸化反応用電極において、
被覆相は、Pt、Ir、Ru、Rh、Pdのうちいずれかの貴金属と、前記基材を構成するバルブ金属との金属間化合物を少なくとも1種含むことを特徴とする電解酸化反応用電極。
【請求項2】
被覆相表面のX線回折における貴金属の主ピーク強度(A)と金属間化合物の主ピーク強度(B)との比(A/B)が、0〜0.3である請求項1に記載の電解酸化反応用電極。
【請求項3】
基材がTiからなり、被覆相がPtとTi、及びPtとTiとの金属間化合物を含み、前記金属間化合物は、その構成がTiPtである請求項1又は請求項2に記載の電解酸化反応用電極。
【請求項4】
Ti、Zr、Nb、Taのうちいずれかのバルブ金属又はこれらの合金からなる基材の表面を、Pt、Ir、Ru、Rh、Pdのうちいずれか1以上の貴金属で被覆した後、不活性雰囲気下で加熱処理する請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の電解酸化反応用電極の製造方法。
【請求項5】
貴金属の被覆厚が0.1μm〜10μmである請求項4に記載の電解酸化反応用電極の製造方法。
【請求項6】
不活性雰囲気下が、He、Ne、Ar雰囲気下又は真空下である請求項4又は請求項5に記載の電解酸化反応用電極の製造方法。
【請求項7】
加熱処理が、ホットプレス処理(HP処理)又は熱間等方圧加圧加工処理(HIP処理)である請求項4〜請求項6のいずれかに記載の電解酸化反応用電極の製造方法。
【請求項8】
基材がTi又はZrである場合、加熱処理は、その加熱温度が700℃〜1400℃であり、かつ、加熱時間が1時間〜12時間である請求項4〜請求項7のいずれかに記載の電解酸化反応用電極の製造方法。
【請求項9】
基材がNb又はTaである場合、加熱処理は、その加熱温度が1000℃〜1600℃であり、かつ、加熱時間が1時間〜12時間である請求項4〜請求項7のいずれかに記載の電解酸化反応用電極の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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