説明

電車線セクション部

【課題】電車線セクション部の電車線の耐アーク性を向上させる。
【解決手段】電車線のエアセクション部10における前記電車線12、13、14を、内部酸化法で製造した導電率:70%IACS以上、耐熱温度:700℃以上のアルミナ分散強化銅とする。このアルミナ分散強化銅製電車線は、耐軟化特性に優れ、耐アーク性が高いため(高い耐熱温度のため)、セクション部において、電気車が通過する度にアークが発生しても、従来の錫と銅の合金又はステンレス等からなる電車線に比べて、アークによる消耗が大幅に低減する。このため、セクション部の電車線の耐久性が向上し、その電車線の交換時期を延ばすことができる。仮に、そのセクション部で電気車が停止し、電車線と集電シューとの間にアークが発生し続けても、その電車線の溶断に至る電流・時間が大幅に長くなって、その処置の時間を長く確保できることから、重大事故の発生を抑えることもできる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電気車(電気機関車、電車)が通る軌道の上部空間に電車線を張った架空電車線(カテナリー架線)や軌道の側方壁等に電車線を設けた側方集電型等の剛体電車線におけるセクション部に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気鉄道は、電車線に集電シュー(パンタグラフ等)を摺動させ給電して電気車が走行し、その電車線は軌道全長に沿って設けられる。この電車線において、電気的に異なる区間(例えば、電圧が異なる区間や交流区間と直流区間等)を突合わせる場合や、分岐(ポイント)部、運転上、保守上の都合等で電車線を区分する場合は、その区分(分岐)間を絶縁する必要がある。その絶縁部は、機械的には電車線を連続しつつ電気的には絶縁する必要があって、セクション部(電流区分装置)と言われる。
【0003】
そのセクション部は、集電シューが通過する際に電流が中断される瞬間が存在するものと、存在しないものの2種類に分類され、前者は「デッドセクション」であり、後者の一般的なものとして「エアセクション」、「インシュレータセクション」等がある。
そのデッドセクションは、直流又は交流で電圧の異なる区間同士を区分したり、交流電化区間においてその電圧位相が異なる区間同士を区分したりする等のために、FRP(ガラス繊維強化プラスチック)製の棒等からなるセクションインシュレータによって異なる区間の電車線を機械的に連続して電気絶縁される。
また、エアセクションは、電気的に異なる区間の両電車線をある長さ並行重複させ、その重複部の両電車線間の空間を絶縁部とするものである。インシュレータセクションは、FRPや碍子等のインシュレータでもって電気的に異なる区間の両電車線を機械的に連続して電気絶縁したものであり、インシュレータ部分と並行にスライダを設けて、エアセクションと同様に電流が中断しないようにしたものが多く、スライダを設けずに電流が中断するものは、デッドセクションとなる。
【0004】
その各セクションは、電気車の通過に伴って一方の電車線から他方の電車線に給電が移る際、電車線と集電シューとの間にアークが発生し、その通過のたびに電車線はアークに晒される。アークに晒されると、電車線は徐々に高温となって軟化したり、損耗したりして電車線の機能を発揮しなくなる恐れがある。また、架空電車線の場合、軟化・損耗により架空張力によって破断(溶断)する恐れもある。
さらに、エアセクションに何らかの事情によって電気車が停止すると、両方の電車線が集電シューを通して導通(パンオーバー)し、過電流によって溶断して通電が遮断される場合がある。電車線の通電が遮断されれば、大事故に繋がる。
【0005】
このように、セクション部ではアークの発生等によって電車線の劣化が他の部分に比べて激しいため、その対策が望まれている。
一方、高い振動減衰性能を有する電車線として、アルミナ分散強化銅合金を採用した技術がある(特許文献1、請求項2等参照)。
また、銅にCr、Zrを添加した析出強化銅合金(PHC:Precipitation Hardening Copper)からなる電車線も開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−250419号公報
【特許文献2】特開2008−285906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、電車線(トロリー線)にアルミナ分散銅合金を使用する技術が開示され(特許文献1要約、請求項1等)、その特許文献1段落0018に、銅を強化するには、固溶強化と析出強化の2つがあり、固溶強化は、高強度と高導電性とを両立させることは困難であるのに対し、析出強化は、高強度と高導電性とを両立できるとしている。その両立できることから、アルミナ分散強化銅合金は、析出強化したものが好ましいとしている。
しかし、この析出強化したアルミナ分散強化銅合金は、溶体化温度(軟化温度)が400〜500℃であり、アークが頻繁に発生する上記セクション部に使用すると、耐アーク性において満足できるものではない。
また、銅にCr、Zrを添加した析出強化銅合金からなるPHC電車線も、同様に、溶体化温度が400〜500℃程度であり、アークが頻繁に発生する上記セクション部に使用すると、耐アーク性において満足できるものではない。
【0008】
この発明は、上記の実状の下、アークが発生して損耗したり、溶断したりする恐れのあるセクション部の電車線の耐久性を向上させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を達成するために、この発明は、内部酸化法によって製造したアルミナ分散強化銅がスポット溶接の接点材料等に使用されており、そのアルミナ分散強化銅は、ベースの銅に安定した酸化物(アルミナ)が分散しているため溶体化が起りにくく、非常に高温まで強度を失わず、耐アーク性に優れていることに着目し、そのアルミナ分散強化銅をアークが発生して損耗したり、溶断したりする恐れのあるセクション部の電車線に採用することとしたのである。
【0010】
内部酸化法によるアルミナ分散強化銅の製造は、まず、最初に、銅(Cu)とアルミニウム(Al)を溶かし均一な合金を製造し、つぎに、この合金をアトマイズ法等によって銅とAlの微細な合金粉末を作り、その合金粉末を銅マトリックス中のAlだけが酸化してアルミナとなる酸化工程を経た後、押出成形法等の粉末冶金法によって真密度の形ある製品(インゴット)とする。この製品を、冷間線引き、圧延加工等によって電車線とする。
この内部酸化法は、微細な粒子サイズ、狭い粒子間隔、一様なアルミナ粒子の分布状態を得ることができるため、耐軟化特性に優れたアルミナ分散強化銅を得ることができる。
【0011】
このアルミナ分散強化銅製電車線は、耐軟化特性に優れ、耐アーク性が高いため(高い耐熱温度のため)、セクション部において、電気車が通過する度にアークが発生しても、従来の錫と銅の合金やステンレス等からなる電車線に比べて、アークによる軟化・損耗が大幅に低減する。
また、架空電車線のエアセクション等に、何らかの事情によって電気車が停止し、電車線と集電シューとの間にアーク等が発生し続けても、その電車線の溶断に至る電流・時間が大幅に長くなる(アップする)。
因みに、アルミナ分散強化銅は、銅に対するアルミナの含有量が0.数重量%と低いため、リサイクルが容易であって、環境に対する負荷が少ない利点もある。
【0012】
そのセクション部の電車線をなすアルミナ分散強化銅の導電率及び耐熱温度は、その導電率等の要求に応じて適宜に設定すれば良いが、例えば、導電率:70%IACS以上、耐熱温度:700℃以上とすれば、上記従来の錫と銅の合金等からなる電車線のみならず、上記特許文献1記載の析出強化したアルミナ分散強化銅合金製電車線やPHC製電車線に比べて、耐アーク性が優れたものとなる。
【発明の効果】
【0013】
この発明は、以上のように、アークが頻繁に発生して損耗したり、溶断したりする恐れのあるセクション部の電車線に、内部酸化法によって製造したアルミナ分散強化銅を使用して耐アーク性を向上させたので、そのセクション部の電車線の耐久性が向上し、その電車線の交換時期を延ばすことができる。
また、エアセクション等に、何らかの事情によって電気車が停止し、電車線と集電シューとの間にアーク等が発生し続けても、その電車線の溶断に至る電流・時間が大幅に長くなるため、その処置の時間を長く確保できることから、重大事故の発生を抑えることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の一実施形態のセクション部を示し、(a)は平面図、(b)は正面図
【図2】図1(b)の切断側面図を示し、(a)はa−a線、(b)はb−b線、(c)はc−c線、(d)はd−d線、(e)はe−e線における切断図である。
【図3】この発明の一実施形態のセクション部を採用した電気車軌道の一例の要部断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
この実施形態は、例えば、図3に示すモノレールに採用することができ、その電気車が走行する軌道桁Kのウェブ外側面の両側断面台形状溝に設置される電車線構造(特許文献2段落0027、図3参照)の絶縁セクション部である。この図3の電車線は側方集電型であって、集電シューは下方から電車線11に摺動して給電する。
この電車線セクション部10は、電車線11が軌道桁Kの長さ方向に沿って配設され、その電車線11は、その途中で70mm程欠如されている(図1(a)参照)。電車線11は、そのセクション部10に至るまではアルミニウム製電車線11aとステンレス製調整用電車線11bとから成り、両電車線11a、11bはボルト11cによって締結固定されて一体となっている。その調整用電車線11bが主に集電シューとの摺動を担い、その調整用電車線11bを交換することによって電車線11の更新をすることができる。
【0016】
セクション部10の電車線端末部10a、10aで対向する電車線11、11の端末には、下記表1に示す等の内部酸化法によって製造したアルミナ分散強化銅からなる主案内プレート12がそれぞれ連続接続(連結)され、その主案内プレート12の両側面に同様に同アルミナ分散強化銅からなる副案内プレート13、14が当てがわれてボルト・ナット15によって締結されている。その副案内プレート13、14の前記電車線11端末側は幅狭片13a、14aとなって電車線11の端末ウェブ側面に至ってその端末に同様にボルト・ナット15によって締結固定されている。また、副案内プレートの一方14は他の副案内プレート13より対向する相手側に延びて両者13、14間の空間が絶縁セクションSとなっている(図1(a)参照)。
【0017】
また、両電車線11、11の端末は、スペーサ18を介して強化木製連結材19の両端をボルト・ナット20でもって締結固定することによって連結固定されている。その連結材19の頂面は、図2(b)に示すように、中央から両側に向かう傾斜面となっており、雨、雪等が止まることなく落下する。
さらに、両電車線端末部10a、10aは、その電車線11a、11aの端末部ウェブ両側面にアルミニウム(A6063)製側面当板21がボルト・ナット22止めされている。
【0018】
この実施形態のセクション部10は以上の構成であり、その電車線11の一部をなす案内プレート12、13、14に下記表1の引張強さ、伸び、導電率及び軟化温度のアルミナ分散強化銅(実施例1、2)を採用したところ、この案内プレート12、13、14(特に、案内プレート14、14間)にアークが頻繁に発生しても、各案内プレート12、13、14は容易に損耗することがなかった。一方、同表1の比較例の案内プレート12、13、14を採用したところ、実施例1、2に比べて、短い耐用時間であった。
なお、実施例1:0.6重量%の内部酸化法によって製造したアルミナ分散強化銅(ノース アメリカン ホガサス ハイ アロイス エルエルシー製、商品名GLIDCOP(登録商標))、実施例2:0.25重量%の内部酸化法によって製造したアルミナ分散強化銅(同)、比較例:0.3重量%Sn−Cu(GT−SN)とした。なお、比較例の各数値は、断面積170mmの電車線11において求められる最低規格値であり、実施例1、2も断面積:170mmのものの場合である。
【0019】
【表1】

【0020】
この実施形態は、各案内プレート12、13、14に内部酸化法によって製造したアルミナ分散強化銅を採用したが、案内プレート12、又は案内プレート12、13は同アルミナ分散強化銅とせずに安価なステンレス等とすることができる。
また、実施形態は剛体電車線構造の場合であったが、この発明は、剛体電車線にかぎらず、架空電車線においても採用できることは勿論であり、その場合、エアセクション部、インシュレータセクション部、又はデッドセクション部等のセクション部をなす損耗や溶断の恐れが高い電車線部分、例えば、セクションインシュレータの電車線部分や架線柱1スパン分の電車線に内部酸化法によって製造したアルミナ分散強化銅を採用することによって、この発明の作用効果を得ることができる。
【0021】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0022】
10 電車線セクション部
11、11a、11b 電車線
12、13、14 セクションを構成する電車線となるアルミナ分散強化銅製案内プレート
S セクション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電車線(11)のセクション部(10)における前記電車線(11、12、13、14)を、内部酸化法で製造したアルミナ分散強化銅としたことを特徴とする電車線セクション部。
【請求項2】
上記電車線(11、12、13、14)のアルミナ分散強化銅を、導電率:70%IACS以上、耐熱温度:700℃以上としたことを特徴とする請求項1に記載の電車線セクション部。
【請求項3】
上記セクション部(10)が、剛体電車線の絶縁セクション部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の電車線セクション部。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−23134(P2013−23134A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161854(P2011−161854)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(591194399)関西パイプ工業株式会社 (9)