説明

青色発光素子

【目的】 窒化ガリウム系化合物半導体を利用した青色発光素子を高発光出力とし、さらにその発光波長を450nm〜490nmの高輝度の青色領域とできる実用的でしかも新規な構造を提供する。
【構成】 第一のクラッド層としてn型Ga1-aAlaN(0≦a<1)層と、その上に発光層としてZn濃度が1×1017〜1×1021/cm3の範囲にあるInXGa1-XN(但し、Xは0<X<0.5)層と、その上に第二のクラッド層としてMg濃度が1×1018〜1×1021/cm3の範囲にあるp型Ga1-bAlbN(0≦b<1)層とが順に積層された窒化ガリウム系化合物半導体を具備する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は青色発光ダイオード、青色レーザーダイオード等に使用される青色発光素子に係り、特に窒化ガリウム系化合物半導体を使用した青色発光素子の構造に関する。
【0002】
【従来の技術】青色ダイオード、青色レーザーダイオード等の発光デバイスの青色発光素子に使用される実用的な半導体材料として窒化ガリウム(GaN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化ガリウムアルミニウム(GaAlN)等の窒化ガリウム系化合物半導体が注目されている。
【0003】従来提案されている窒化ガリウム系化合物半導体を用いた青色発光素子として、図2に示す構造のものがよく知られている。これは、まず基板1上に、AlNよりなるバッファ層2’、その上にn型GaN層3、その上にp型GaN層5’とが順に積層された構造を有している。基板1には通常サファイアが用いられている。AlNよりなるバッファ層2’を形成することにより、特開昭63−188983号公報に記載されているように、その上に積層する窒化ガリウム系化合物半導体の結晶性を良くする作用がある。n型GaN層には通常、SiまたはGeがドープされている。p型GaN層5’には通常、MgまたはZnがドープされているが、結晶性が悪いためp型とはならず、ほぼ絶縁体に近い高抵抗なi型となっている。また、i型を低抵抗なp型に変換する手段として、特開平2−42770号公報において、表面に電子線照射を行う技術が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】一般に、このようなホモ接合の発光素子は発光出力が低いため、実用的ではない。発光出力を増大させ、実用的な発光素子とするためには、窒化ガリウム系化合物半導体を利用した発光素子を、好ましくはシングルヘテロ、さらに好ましくはダブルヘテロ構造とする必要がある。例えばダブルへテロ構造の窒化ガリウム系化合物半導体素子は、特開平4−209577号公報に示されているが、この公報に開示される発光素子では実用性に乏しく、発光効率が悪いという欠点がある。
【0005】また、窒化ガリウム系化合物半導体を用いた従来の青色発光素子の発光波長はおよそ430nm以下の紫色領域にあり、450nm〜490nmの視感度の良い青色発光を示す素子は未だ開発されていない。将来、青色発光ダイオードによる平面型ディスプレイ、青色レーザーダイオード等を実現するためには視感度の良い青色発光デバイスが求められている。
【0006】従って本発明はこのような事情を鑑みてなされたものであり、窒化ガリウム系化合物半導体を利用した青色発光素子を高発光出力とし、さらにその発光波長を450nm〜490nmの高輝度の青色領域とできる実用的でしかも新規な構造を提供するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】我々はダブルへテロ構造の青色発光素子について数々の実験を重ねた結果、発光層に特定量のZnをドープしたInGaN層と、クラッド層に特定量のMgをドープしたGaN層とを組み合わせることによって、前記問題が解決できることを新たに見いだし本発明を成すに至った。即ち、本発明の青色発光素子は、第一のクラッド層としてn型Ga1-aAlaN(0≦a<1)層と、その上に発光層としてZn濃度が1×1017〜1×1021/cm3の範囲にあるInXGa1-XN(但し、Xは0<X<0.5)層と、その上に第二のクラッド層としてMg濃度が1×1018〜1×1021/cm3の範囲にあるp型Ga1-bAlbN(0≦b<1)層とが順に積層された窒化ガリウム系化合物半導体を具備することを特徴とする。
【0008】図1に本発明の青色発光素子の一構造を示す。1は基板、2はGaNよりなるバッファ層、3はn型GaN層、4はZnがドープされたInXGa1-XN層、5はMgがドープされたp型GaN層であり、3、4、5が順に積層されたダブルヘテロ構造となっており、n型GaN層3が第一のクラッド層、ZnドープInXGa1-XN層4が発光層、Mgドープp型GaN層5が第二のクラッド層である。
【0009】基板1はサファイア、SiC、ZnO等の材料が使用できるが、通常はサファイアが用いられる。バッファ層2はAlN、GaAlN、GaN等で形成することができ、通常0.002μm〜0.5μmの厚さで形成する。好ましくは、GaNで形成する方が、AlNよりも結晶性のよい窒化ガリウム系化合物半導体をバッファ層の上に積層することができる。このGaNバッファ層の効果については我々が先に出願した特開平4−297023号公報に開示しており、サファイア基板の場合、従来のAlNバッファ層よりもGaNよりなるバッファ層の方が結晶性に優れた窒化ガリウム系化合物半導体が得られ、さらに好ましくは成長させようとする窒化ガリウム系化合物半導体と同一組成を有するバッファ層を、まずサファイア基板上に低温で成長させることにより、バッファ層の上の窒化ガリウム系化合物半導体の結晶性を向上させることができる。
【0010】n型GaN層3は、ノンドープでもn型となる性質があるが、例えばSi、Ge等のn型不純物をドープして好ましいn型としてもよく、Si、Geの濃度は特に限定するものではない。また、このn型GaNのGaの一部をAlで置換することもできる(即ち、Ga1-aAlaN、0≦a<1)。
【0011】次に、ZnドープInXGa1-XN層4は、有機金属気相成長法により、原料ガスのキャリアガスを窒素として、600℃以上、900℃以下の成長温度で成長させることができる。成長させたInXGa1-XNのIn混晶比、即ちX値は0<X<0.5の範囲、好ましくは0.05<X<0.5の範囲に調整する必要がある。0より多くすることにより、InXGa1-XN層4が発光層として作用し、0.5以上になるとその発光色が黄色となるため、青色発光素子として使用し得るものではない。さらにこのInXGa1-XN層4のドーパントはZnとする必要があり、しかもZn濃度を1×1017〜1×1021/cm3の範囲、好ましくは1×1018〜1×1020/cm3に調整する必要がある。Znをドープすることにより青色発光素子の視感度を向上させ、さらに前記ドープ量とすることにより発光効率を増大させることができる。
【0012】また、発光層であるZnドープInXGa1-XN層4は10オングストローム〜0.5μm、さらに好ましくは0.01μm〜0.1μmの厚さで形成することが望ましい。10オングストロームよりも薄いか、または0.5μmよりも厚いと十分な発光出力が得られない傾向にある。
【0013】次に、p型GaN層5のp型ドーパントはMgとし、しかもMg濃度は1×1018〜1×1021/cm3の範囲に調整する必要がある。このMgの濃度範囲のp型GaN層5を第二のクラッド層として、ZnドープInXGa1-XNと組み合わせることにより、ZnドープInXGa1-XN層4の発光効率をさらに向上させることができる。また、このp型GaN層5もn型GaN3と同様にそのGaの一部をAlで置換したGaAlNを使用することができる(即ちGa1-bAlbN、0≦b<1)。
【0014】また、Mgをドープしたp型GaN層5は未だ高抵抗であるので、成長後我々が先に出願した特願平3−357046号に記載したように、400℃以上の温度、好ましくは600℃より高い温度でアニーリングを行うことにより、さらに低抵抗なp型とすることができる。p型GaN層5の膜厚は、0.05μm〜1.5μmの厚さで形成することが好ましい。0.05μmよりも薄いとクラッド層として作用しにくく、また1.5μmよりも厚いと前記方法でp型化しにくい傾向にある。
【0015】
【作用】図3は、図1の構造の青色発光素子において、第二のクラッド層であるMgドープp型GaN層のMg濃度を1×1020/cm3と一定にし、発光層であるZnドープIn0.1Ga0.9N層のZn濃度を変えた場合に、そのZn濃度と青色発光素子の相対発光強度との関係を表す図である。この図に示すようにZn濃度が増加するに従い、発光強度は大きくなり、1×1018〜1×1020/cm3付近で最も発光強度が大きくなり、後は徐々に減少する傾向にある。本発明では実用域として90%以上の相対強度を有する1×1017〜1×1021/cm3のZn濃度を限定値とした。
【0016】また、図4は、同じく図1の構造の青色発光素子において、発光層であるZnドープIn0.1Ga0.9N層のZn濃度を1×1020/cm3と一定にし、第二のクラッド層であるp型GaN層のMg濃度を変えた場合に、そのMg濃度と青色発光素子の相対発光強度との関係を表す図である。この図に示すようにMgドープp型GaN層を第二のクラッド層とした場合、Mg濃度が1×1017/cm3を超えると急激に発光強度が増大し、1×1021/cm3付近を超えるとまた急激に減少する傾向にある。従って、図4よりMgドープp型GaN層のMg濃度は1×1018〜1×1021/cm3を限定値とした。なお、Zn濃度およびMg濃度はSIMS(二次イオン質量分析装置)により測定したものである。
【0017】さらに、図5は、同じく図1の構造の発光素子において、発光層であるZnドープIn0.1Ga0.9N層の膜厚と、その発光素子の相対発光強度との関係を示す図である。このように、本発明の青色発光素子において発光層の膜厚を変化させることにより、発光強度が変化する。特にその膜厚が0.5μmを超えると急激に減少する傾向にある。従って、発光層の膜厚は90%以上の相対発光強度を有する10オングストローム〜0.5μmの範囲が好ましい。
【0018】
【実施例】以下有機金属気相成長法により、本発明の青色発光素子を製造する方法を述べる。
【0019】[実施例1]まず、よく洗浄したサファイア基板を反応容器内にセットし、反応容器内を水素で十分置換した後、水素を流しながら、基板の温度を1050℃まで上昇させ、サファイア基板のクリーニングを行う。
【0020】続いて、温度を510℃まで下げ、キャリアガスとして水素、原料ガスとしてアンモニア(NH3)とTMG(トリメチルガリウム)とを用い、サファイア基板上にGaNバッファー層を約200オングストロームの膜厚で成長させる。
【0021】バッファ層成長後、TMGのみ止めて、温度を1030℃まで上昇させる。1030℃になったら、同じく水素をキャリアガスとして、TMGとシランガス(SiH4)とアンモニアガスとで、第一のクラッド層としてSiドープn型GaN層を4μm成長させる。
【0022】n型GaN層成長後、原料ガスを止め、温度を800℃にして、キャリアガスを窒素に切り替え、原料ガスとしてTMGとTMI(トリメチルインジウム)とDEZ(ジエチルジンク)とアンモニアガスとで、発光層としてZnを1×1019/cm3ドープしたIn0.15Ga0.85N層を200オングストローム成長させる。
【0023】ZnドープIn0.15Ga0.85N層成長後、原料ガスを止め、再び温度を1020℃まで上昇させ、TMGとCp2Mg(シクロペンタジエニルマグネシウム)とアンモニアガスとで、第二のクラッド層としてMgを2×1020/cm3ドープしたp型GaN層を0.8μm成長させる。
【0024】p型GaN層成長後、基板を反応容器から取り出し、アニーリング装置にて窒素雰囲気中、700℃で20分間アニーリングを行い、最上層のp型GaN層をさらに低抵抗化する。
【0025】以上のようにして得られた青色発光素子のp型GaN層、およびn型In0.15Ga0.85Nの一部をエッチングにより取り除き、n型GaN層を露出させ、p型GaN層、およびn型GaN層にオーミック電極を設け、500μm角のチップにカットした後、常法に従い、発光ダイオードとしたところ、発光出力は20mAにおいて200μWであり、ピーク波長は480nmであり、輝度は500mcd(ミリカンデラ)であった。
【0026】[実施例2]実施例1において、第一のクラッド層を成長させる工程において、原料ガスとしてTMGと、シランガスと、アンモニアと、TMA(トリメチルアルミニウム)とを用い、Siドープn型Ga0.9Al0.1N層を2μm成長させる。
【0027】Siドープn型Ga0.9Al0.1N層の上に実施例1と同様にしてZnを1×1019/cm3ドープしたIn0.15Ga0.85N層を200オングストローム成長させる。
【0028】さらに、ZnドープIn0.15Ga0.85N層の上に、原料ガスとしてTMGと、Cp2Mgと、アンモニアガスと、TMAガスとを用い、第二のクラッド層としてMgを2×1020/cm3ドープしたp型Ga0.9Al0.1N層を0.8μm成長させる。
【0029】後は実施例1と同様にしてアニーリングを行い、最上層をさらに低抵抗化した後、同様にして発光ダイオードとしたところ、発光出力、ピーク波長、輝度とも実施例1と同一であった。
【0030】[比較例1]実施例1において、DEZガスの流量を多くして、発光層であるZnドープIn0.15Ga0.85N層のZn濃度を1×1022/cm3とする他は実施例1と同様にして青色発光ダイオードを得たが、この発光ダイオードの発光出力は実施例1の約5%でしかなかった。
【0031】[比較例2]実施例1において、Cp2Mgガスの流量を少なくして、第二のクラッド層であるp型GaN層のMg濃度を1×1017/cm3とする他は実施例1と同様にして青色発光ダイオードを得たが、この発光ダイオードの出力は実施例1の約10%でしかなかった。
【0032】
【発明の効果】本発明の青色発光素子は、n型GaN層またはGaAlN層を第一のクラッド層、特定量のZnをドープしたInXGa1-XN層(0<X<0.5)を発光層、特定量のMgをドープしたp型GaN層またはGaAlN層を第二のクラッド層としたダブルヘテロ構造としているため、非常に発光効率が高く、かつ発光輝度の高い青色発光デバイスを得ることができる。しかも、Znを特定量InGaN層にドープすることにより発光波長を450nm〜490nmという視感度の良い領域にして、かつ高輝度とすることができ、その上に第二のクラッド層であるp型GaN層に特定量のMgをドープしてさらに発光効率を向上させることが可能となる。その結果、実施例に示したように、発光波長480nm、輝度500mcdという高輝度青色発光ダイオードが実現できた。この発光ダイオードの発光出力は従来のホモ接合のものに比して4倍以上あり、しかも輝度は50倍以上もある。
【0033】また本発明の青色発光素子は、発光層であるInXGa1-XNのInのモル比Xを0<X<0.5とすることによって、発光色をおよそ430nmから590nmまで変えることができるという利点を有する。
【0034】以上述べたように本発明の青色発光素子は非常に優れた効果を有するため、信頼性に優れており、青色レーザーダイオードにも適用でき、産業上の利用価値は非常に大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の青色発光素子の一構造を示す模式断面図。
【図2】 従来の青色発光素子の一構造を示す模式断面図。
【図3】 本発明の青色発光素子に係るZnドープInXGa1-XN層のZn濃度と、その青色発光素子の相対発光強度との関係を示す図。
【図4】 本発明の青色発光素子に係るMgドープp型GaN層のMg濃度と、その青色発光素子の相対発光強度との関係を示す図。
【図5】 本発明の青色発光素子に係るZnドープIn0.1Ga0.9N層の膜厚と、その発光素子の相対発光強度との関係を示す図。
【符号の説明】
1・・・・・基板
2・・・・・GaNバッファ層
3・・・・・n型GaN層
4・・・・・ZnドープInXGa1-XN層
5・・・・・Mgドープp型GaN層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 第一のクラッド層としてn型Ga1-aAlaN(0≦a<1)層と、その上に発光層としてZn濃度が1×1017〜1×1021/cm3の範囲にあるInXGa1-XN(但し、Xは0<X<0.5)層と、その上に第二のクラッド層としてMg濃度が1×1018〜1×1021/cm3の範囲にあるp型Ga1-bAlbN(0≦b<1)層とが順に積層された窒化ガリウム系化合物半導体を具備することを特徴とする青色発光素子。
【請求項2】 前記InXGa1-XN層の膜厚は10オングストローム〜0.5μmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の青色発光素子。
【請求項3】 前記p型Ga1-bAlbN(0≦b<1)層の膜厚は、0.05μm〜1.5μmの範囲であることを特徴とする請求項1に記載の青色発光素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開平6−260683
【公開日】平成6年(1994)9月16日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平5−114544
【出願日】平成5年(1993)5月17日
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)