説明

静止誘導電器

【課題】地震などの振動による巻線の位置ずれを防止できると共に、製造コストを低く抑えることができる新規な静止誘導電器の巻線の提供。
【解決手段】絶縁筒10の外周に直線スペーサ20を挟んで絶縁被覆電線40からなるコイル30を多段に積み上げると共に、当該各コイル30間に前記各直線スペーサ20から延びるコイル間スペーサ50を挟んだ構造の巻線100を有する静止誘導電器であって、前記直線スペーサ20およびコイル間スペーサ50をクラフト材から構成すると共に、当該直線スペーサ20およびコイル間スペーサ50のコイル接触面に、アラミド材からなる低誘電率層52を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器やリアクトルなどの静止誘導電器に係り、特に電器本体を構成する巻線の構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に従来の静止誘導電器は、鉄心と巻線からなる電器本体をタンク内に収容し、そのタンク内を絶縁油などの絶縁冷却媒体で満たした構造となっている。この電器本体の巻線は複数のコイルを絶縁物からなるスペーサを介して多段に積層したものであるが、このスペーサとしてクラフト材からなるプレスボードなどを用いた場合、そのコイルとスペーサ間の微小油隙部分で絶縁破壊が生じることがある。
【0003】
これは、絶縁冷却媒体である絶縁油の誘電率がスペーサを構成するクラフト材の誘電率よりも低いため、その微小油隙部分の電界強度が高くなり、その微小油隙部分から絶縁破壊が生じるものと考えられている。このため、以下の特許文献1では、コイルとスペーサとの間に、クラフト材よりも低誘電率でかつ柔らかい誘電材料である多孔性高分子材料を使用することでその油隙部分を埋めると同時に巻線外部の電界を緩和する方法が提案されている。
【0004】
また、以下の特許文献2では、巻線の絶縁紙や直線スペーサ、コイル間スペーサの全てに低誘電率のアラミド材を使用し、絶縁油との誘電率の差を小さくすることによって絶縁耐力を向上させる方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−226166号公報
【特許文献2】特開平6−77061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の構成では、多孔性高分子材料のような柔らかい材料が使用されているため、機械的強度が低下する他に、巻線締付力および経年劣化によって多孔性高分子材料の弾性が低下するために、地震などの振動によって巻線の位置ずれが発生することが予想される。
【0007】
また、特許文献2の方法では、巻線の絶縁紙や直線スペーサおよびコイル間スペーサの全てにアラミド材を使用しているため、これらをクラフト材で構成する場合に比べてコストが高くなってしまうといった問題がある。
【0008】
そこで、本発明はこれらの課題を解決するために案出されたものであり、その目的は、地震などの振動による巻線の位置ずれを防止できると共に、製造コストを低く抑えることができる新規な静止誘導電器の巻線を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために本発明は、絶縁筒の外周に直線スペーサを挟んで絶縁被覆電線からなるコイルを多段に積み上げると共に、当該各コイル間に前記各直線スペーサから延びるコイル間スペーサを挟んだ構造の巻線を有する静止誘導電器であって、前記コイル間スペーサを、クラフト材からなる芯材と、当該芯材のコイル接触面に積層されたアラミド材からなる低誘電率層とから構成したことを特徴とする静止誘導電器である。
【0010】
このような構成によれば、コイル間スペーサの表面と絶縁油との誘電率の差が小さくなって絶縁耐力が向上するため、コイル間スペーサとコイルとの間に発生する微小油隙部分における絶縁破壊を防止できる。この結果、微小油隙部分を埋めるための多孔性高分子材料のような柔らかい材料を使用する必要がないため、地震などの振動による巻線の位置ずれなどを防止できる。また、一般にクラフト材よりも高価なアラミド材(全芳香族ポリアミド繊維)からなる低誘電率層をコイル間スペーサのコイル接触面に設けた構造となっているため、これらスペーサの全てをアラミド材で構成する場合に比べて製造コストを低く抑えることができる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、前記直線スペーサをクラフト材から構成すると共に、当該直線スペーサのコイル接触面にアラミド材からなる低誘電率層を設けたことを特徴とする静止誘導電器である。
【0012】
このような構成によれば、直線スペーサの表面と絶縁油との誘電率の差が小さくなって絶縁耐力が向上するため、直線スペーサとコイルとの間に発生する微小油隙部分の絶縁破壊を防止できる。この結果、第1の発明と同様な効果が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スペーサと絶縁油との誘電率の差が小さくなって絶縁耐力が向上するため、スペーサとコイルとの間に発生する微小油隙部分における絶縁破壊を防止できる。これによって、コイルとスペーサの間に多孔性高分子材料のような柔らかい材料を設ける必要がないため、地震などの振動による巻線の位置ずれなどを防止できる。また、クラフト材よりも高価なアラミド材を直線スペーサおよびコイル間スペーサのコイル接触面にのみ使用したため、製造コストを低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明に係る静止誘導電器の巻線100の実施の一形態を示す部分破断斜視図である。
【図2】図1中A部を示す部分拡大図である。
【図3】図2中A部を示す部分拡大図である。
【図4】図3中A部を示す部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態を添付図面を参照しながら説明する。図1は本発明に係る静止誘導電器の巻線100の実施の一形態を示したものである。図において符号10は鉄心(図示せず)が挿入される絶縁筒10であり、この絶縁筒10の外周面には、直線スペーサ20がその周方向に所定の間隔を隔てて複数設けられている。この直線スペーサ20は、クラフト材などの絶縁物から形成されており、絶縁筒10の軸方向に沿って延びるように帯状に形成されている。
【0016】
この絶縁筒10の周囲には、これらの直線スペーサ20を介してコイル30が複数上下多段に積み上げるようにして設けられている。このコイル30は、図2に示すように平角絶縁被覆電線(銅線)40を絶縁筒10の半径方向に積層するように複数回巻回して構成されている。この平角絶縁被覆電線40は、図3に示すように断面平角銅線41の外側に絶縁紙(クラフト紙)からなる絶縁層42を備えた構成をしている。
【0017】
また、図1及び図2に示すようにこれら各コイル30、30間には、短冊状のコイル間スペーサ50がその周方向に沿って所定の間隔を隔てて複数設けられている。これら各コイル間スペーサ50、50…は、それぞれその一端が直線スペーサ20に接続されており、1つの直線スペーサ20に対して複数のコイル間スペーサ50、50…が梯子状に設けられている。このコイル間スペーサ50は、図3に示すようにクラフト材からなる芯材51の表面(コイル接触面)にアラミド材からなる低誘電率層52,52を積層したサンドイッチ構造となっている。
【0018】
さらに、図3に示すように、各コイル30,30…の内周面と接触する直線スペーサ20の外面(コイル接触面)にも同様にアラミド材からなる低誘電率層21が設けられている。ここで、この静止誘導電器の巻線100の作成方法としては、例えば、先ずクラフト材からなる絶縁筒10の外周面に複数の直線スペーサ20、20…をその周方向に沿って等間隔に接着し、それら各直線スペーサ20、20…にコイル間スペーサ50を上下多段に取り付ける。その後、最下段のコイル間スペーサ50に接するように絶縁筒10の外周面に平角絶縁被覆電線40を複数回巻き回してコイル30を構成する。そして、そのコイル30上の他のコイル間スペーサ50上に同様にしてコイル30を順次作成し、巻線仕様に合わせて複数段積み上げることで作成することができる。
【0019】
そして、このような構成をした本発明に係る静止誘導電器の巻線100にあっては、絶縁筒10の外表面に設けられた直線スペーサ20、20…によって絶縁筒10とコイル30,30…との間には一定の間隙が形成される。また、この直線スペーサ20,20…から半径方向に延びるコイル間スペーサ50,50…によってコイル30間にも一定の間隙が形成される。これによって、その周囲の絶縁冷却媒体である絶縁油がそれらの隙間に容易に流れ込むことができるため、効果的な冷却が実現される。また、コイル間スペーサ50、50…によってコイル30間に一定の絶縁距離が確保されるため、コイル30間における絶縁破壊を防止することができる。
【0020】
また、本発明では、コイル30と接するコイル間スペーサ50が、クラフト材からなる芯材51の表面(コイル接触面)にアラミド材からなる低誘電率層52を設けた構造となっているため、コイル間スペーサ50の表面と絶縁油との誘電率の差が小さくなって絶縁耐力が向上する。この結果、図4に示すようにコイル30とコイル間スペーサ50との間に形成される微小油隙部分Sにおける絶縁破壊を防止することができる。また、同様にコイル30の内周面と接する直線スペーサ20の外面(コイル接触面)にもアラミド材からなる低誘電率層21が設けられているため、コイル30の内周面と直線スペーサ20との間(特にその角部)における絶縁破壊を防止することができる。
【0021】
以下の表1は、絶縁油中における絶縁物の比誘電率の例として、鉱油中の各種絶縁物の比誘電率を示したものである。変圧器用絶縁油として一般的に使用されている鉱油は、比誘電率が2.2であるのに対し、プレスボードは4.7であり、鉱油の2.14倍である。また、クラフト材は3.5であり、鉱油の1.59倍となっている。これに対し、アラミド材(全芳香族ポリアミド繊維)は、2.47であり、鉱油の1.12倍となっている。
【0022】
【表1】

【0023】
このようにアラミド材は、プレスボードやクラフト材と比べて誘電率が低いため、コイル30と接するスペーサのコイル接触面にこのアラミド材からなる低誘電率層52および21を積層すれば、図4に示すようなくさび状の微小油隙部分Sの電界強度も低下して絶縁性能が大幅に向上する。
【0024】
この結果、この微小油隙部分Sを埋めるためにコイル30とコイル間スペーサ50との間に多孔性高分子材料のような柔らかい材料を使用する必要がなくなり、地震などの振動による巻線の位置ずれが起こり難くなる。
【0025】
また、一般にクラフト材よりも高価なアラミド材からなる低誘電率層21,52を直線スペーサ20およびコイル間スペーサ50のコイル接触面にのみ設けた構造とすることにより、これらスペーサ20,50の全てをアラミド材で構成する場合に比べて製造コストを低く抑えることができる。
【符号の説明】
【0026】
100…静止誘導電器の巻線
10…絶縁筒
20…直線スペーサ
21…低誘電率層(直線スペーサ側)
30…コイル
40…絶縁被覆電線
50…コイル間スペーサ
51…芯材
52…低誘電率層(コイル間スペーサ側)
S…微小油隙部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁筒の外周に直線スペーサを挟んで絶縁被覆電線からなるコイルを多段に積み上げると共に、当該各コイル間に前記各直線スペーサから延びるコイル間スペーサを挟んだ構造の巻線を有する静止誘導電器であって、
前記コイル間スペーサを、クラフト材からなる芯材と、当該芯材のコイル接触面に積層されたアラミド材からなる低誘電率層とから構成したことを特徴とする静止誘導電器の巻線。
【請求項2】
前記直線スペーサをクラフト材から構成すると共に、当該直線スペーサのコイル接触面にアラミド材からなる低誘電率層を設けたことを特徴とする請求項1に記載の静止誘導電器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−55279(P2013−55279A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−193699(P2011−193699)
【出願日】平成23年9月6日(2011.9.6)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】