説明

静電グラビア印刷用インキの評価装置および評価方法

【課題】実機を使用しての評価と対応関係を有し、実機に比較して極めて簡易に評価することが可能な静電グラビア印刷用インキの評価装置および評価方法の提供。
【解決手段】対接地絶縁体によって導電性容器を接地から絶縁する対接地絶縁過程と、前記導電性容器に静電的な特性を評価する対象のインキを貯留するインキ貯留過程と、接地極と出力極を有する電圧印加手段が前記導電性容器に前記出力極を接続し電圧を印加する電圧印加過程と、変位センサが前記インキの表面までの距離を測定する距離測定過程と、演算手段が前記電圧を印加する前後における前記距離の差異である変位を演算する変位演算過程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は印刷の技術分野に属する。特に、静電グラビア印刷に用いるインキの静電的な特性を評価するための静電グラビア印刷用インキの評価装置および評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア印刷においては、用紙における平滑性(動的平滑性)、クッション性、表層状態(コート層の有無、インキ吸収性)、等の特性が印刷品質に大きな影響を与える。この用紙の特性が印刷機の条件に対して不適合であると、特に、網点30%以下においてインキの網点抜け(スペックル)が発生することがある。その発生を抑制するために、印圧を高くし、用紙とインキの接触を図ることが行なわれる。図4(A)は印圧が通常設定のときにおけるグラビア印刷版のセル内のインキ表面と用紙(ウェブ)表面の接近状態を模式的に示し、図4(B)は印圧を通常設定よりも高くしたときにおけるグラビア印刷版のセル内のインキ表面と用紙(ウェブ)表面の接近状態を模式的に示している。図4(A)と比較し、図4(B)においてはインキ表面と用紙(ウェブ)表面とがより接近している。そのため、インキ表面と用紙(ウェブ)表面との接触の程度が改善され、着肉(印刷版から用紙へのインキの転移)が向上することで、網点抜けの発生が抑制される。
しかしながら、少し印圧を高めただけではその発生の完全な回避は見込めない。また、十分な改善効果を期待して過度に印圧を高くすることは、印刷中の用紙(ウェブ)におけるシワの発生や紙切れ等の別の問題を発生させることとなる。
【0003】
これらの理由から、着肉を向上する方法として、静電グラビア印刷方式が提案されている。静電グラビア印刷方式においてはグラビア印刷機の圧胴を帯電装置により帯電させることで、図4(C)に示すように、セル内のインキを盛り上がらせ着肉を向上させる。また、静電グラビア印刷方式では印圧を上げる必要が無いため、シワの発生や紙切れを起こすことなく着肉を向上させることが可能となる。しかし、着肉の悪い用紙(たとえば未塗工紙)に関しては、静電グラビア印刷方式を利用しても網点抜けを完全には回避することはできない。
静電グラビア印刷方式の効果を最大限得るために、静電グラビア印刷インキの開発も考案されている(引用文献1)。しかし、市販されている現状のインキにおいては網点抜けが発生しており、十分な要求品質に達しているとは言えない。そこで、静電グラビア印刷インキの改良試作が行なわれる。
【0004】
その改良試作されたインキの評価方法としては、実機(製品印刷用の印刷機)を使用する方法と、展色機(簡易テスト用の印刷機)を使用する方法とが知られている。実機を使用しての試作インキの評価においては大量の印刷用紙、インキを必要とするだけでなく作業負荷も大きい。したがって、評価すべき試作インキの数量が多いときには実用的ではないという問題がある。また、展色機を使用しての評価は、通常グラビア印刷方式の展色機を静電グラビア印刷方式の展色機へと改造するための費用が掛かる、実機とは印刷条件が異なり対応関係が明らかでない、等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−124987
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の問題を解決するために成されたものである。その目的は、静電グラビア印刷に用いるインキの静電的な特性の評価に関して、実機を使用しての評価と対応関係を有し、実機に比較して極めて簡易に評価することが可能な静電グラビア印刷用インキの評価装置および評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に係る静電グラビア印刷用インキ評価装置は、 静電グラビア印刷に用いるインキの静電的な特性を評価する装置であって、対接地絶縁体と、導電性容器と、電圧印加手段と、変位センサと、演算手段とを有し、 対接地絶縁体は前記導電性容器を接地から絶縁し、 前記導電性容器は静電的な特性を評価する対象のインキを貯留し、 前記電圧印加手段は接地極と出力極を有し、前記接地極を接地し、前記出力極を前記導電性容器に接続して前記接地極と前記出力極との間に電圧を印加し、 前記変位センサは前記インキの液面までの距離を測定し、 前記演算手段は前記電圧を印加する前後における前記距離の差異である変位を演算するようにしたものである。
また、本発明の請求項2に係る静電グラビア印刷に用いるインキの静電的な特性を評価する方法であって、 対接地絶縁体によって導電性容器を接地から絶縁する対接地絶縁過程と、 前記導電性容器に静電的な特性を評価する対象のインキを貯留するインキ貯留過程と、 接地極と出力極を有する電圧印加手段が前記導電性容器に前記出力極を接続し電圧を印加する電圧印加過程と、 変位センサが前記インキの液面までの距離を測定する距離測定過程と、 演算手段が前記電圧を印加する前後における前記距離の差異である変位を演算する変位演算過程とを有するようにしたものである。
【発明の効果】
【0008】
静電グラビア印刷に用いるインキの静電的な特性の評価に関して、実機を使用しての評価と対応関係を有し、実機に比較して極めて簡易に評価することが可能な静電グラビア印刷用インキの評価装置および評価方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の静電グラビア印刷用インキの評価装置および評価方法における原理の説明図である。
【図2】本発明の静電グラビア印刷用インキの評価装置および評価方法における構成の一例を示す構成図である。
【図3】本発明の静電グラビア印刷用インキの評価装置および評価方法における動作の一例を示すフロー図である。
【図4】グラビア印刷版のセル内のインキ表面と用紙(ウェブ)表面の接近状態を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の実施の形態について図を参照しながら説明する。本発明の静電グラビア印刷用インキの評価装置および評価方法における原理の説明図を図1に示す。図1において、1は導電性容器、2は対接地絶縁体、3は電圧印加装置、100はインキである。
導電性容器1は、図1に示すように、静電的な特性を評価する対象のインキを貯留する。また、導電性容器1は対接地絶縁体2の上に載置している。対接地絶縁体2は導電性容器1が電気的に接地されるのを回避するための絶縁体である。電圧印加装置3は接地された接地極と導電性容器1に接続された出力極とを有する。したがって、導電性容器1が接地(アース)電位(電圧=0)を基準として所定の電圧となるように、電圧印加装置3は導電性容器1に電圧を印加することができる。
【0011】
図1(A)は導電性容器1に電圧を印加する前の状態、すなわち電圧の印加を行なっていない状態を示す。また、図1(B)は電圧を印加した後の状態、すなわち電圧の印加を行なっている状態を示している。図1(B)に示す一例においては、導電性容器1の電圧は5000V(ボルト)となっている。
導電性容器1に電圧を印加する前は、図1(A)に示すように、インキ100の液面は平坦(静止した状態)となっている。導電性容器1に電圧を印加した後は、図1(B)に示すように、インキ100の液面は盛り上がっている。これは導電性容器1が高電圧(5000V)であるために、インキ100の液面に電荷が誘起され、その電荷と周囲の接地電位(電圧=0V)の物体との間でクーロン力が作用するからである。
この導電性容器1に電圧を印加したときのインキの盛り上がりは、グラビア印刷機の圧胴を帯電装置により帯電させたときの、セル内のインキの盛り上がりと同様の効果とみなすことができる。したがって、インキ100の液面の変位の数値によって、インキの静電的な特性を評価することが可能である。
【0012】
以上、原理について説明した。次に、本発明の静電グラビア印刷用インキの評価装置における構成について説明する。本発明の静電グラビア印刷用インキの評価装置における構成を図2に示す。図2において、1は導電性容器、2は対接地絶縁体、3は電圧印加装置、4は変位センサ、41は変位センサ4に設けられた静電シールド、100は評価対象のインキである。
導電性容器1は導電性を有する容器である。たとえば、銅、ステンレス、等の金属材料からなる容器である。導電性容器1は、図1と同様に図2にも示すように電圧印加装置3の出力極に接続されている。
導電性容器1は静電的な特性を評価する対象のインキ100を貯留するための容器である。グラビア印刷で使用するインキ100は揮発性のインキ(主として有機溶剤成分が揮発する)である。したがって、揮発による組成の変化が測定に影響しないようにする必要性がある。たとえば、測定している期間内における揮発量に対して十分に大きな量のインキを貯留するようにする。また、空気の流れがインキ100の液面に直接的に入り込まないように、液面を容器の開口部(淵)から下げた所定位置となるようにする。導電性容器1として、たとえば、200ml(ミリリットル)の丸型ステンレス容器を使用し、その容器の淵から2cm下の位置にインキ100の液面が来るようにする。
【0013】
対接地絶縁体2は、図2に示すように、導電性容器1を載置し導電性容器1を接地から絶縁するための絶縁体である。対接地絶縁体2はプラスチック、ガラス、セラミック、等の電気絶縁性を有する材料(強誘電体材料)のものを使用することができ、形状としては、たとえば板状のものを好適に使用することができる。導電性容器1を一般的な実験台等の上に置いたときには、接地に対する絶縁抵抗が不足し漏洩電流が流れるが、対接地絶縁体2を介して実験台等の上に置いたときには、漏洩電流を測定に支障の無い程度までに低下させることができる。対接地絶縁体2に載置したときの導電性容器1の接地に対する絶縁抵抗は1.0×1012Ω(オーム)以上(JIS‐K‐6911による測定値)とすることが望ましい。
【0014】
電圧印加装置3は接地した接地極と導電性容器1に接続した出力極とを有する。電圧印加装置3は接地極と出力極との間に電圧を印加する。電圧印加装置3としては、たとえば0〜±20KVの高電圧を発生する高圧電源を使用することができる。電圧印加装置が電圧を印加する前においては、導電性容器1の電圧は接地電位(電圧=0V)と一致している。電圧印加装置が電圧を印加した後においては、導電性容器1の電圧は電圧印加装置3において設定した所定電圧、たとえば図1(B)に示すように5000V(ボルト)となっている。なお、電圧印加装置3の接地極と静電シールド41とを良導体(配線コード等)により電気的に接続することができる。
【0015】
変位センサ4は導電性容器1が貯留するインキ100の液面までの距離を測定するセンサである。導電性容器1に電圧を印加する前後におけるその測定によって得られた距離の差分から、導電性容器1に電圧を印加する前後におけるインキ100の液面の盛り上り量すなわち液面の変位を演算することができる。変位センサ4としては、発光素子(半導体レーザ)と光位置検出素子(PSD:Position Sensitive Detector)とを使用し三角測量を応用した方式のレーザ式変位センサを好適に使用することができる。また、光位置検出にCCDを使用するCCDレーザ方式変位センサを使用することができる。また、たとえば対象物上で焦点を結んだことを検出する方式のレーザーフォーカス方式変位センサを使用することができる。本発明は変位センサの方式によって限定されない。
【0016】
その演算は演算装置(図示せず)によって行なわれる。演算装置は導電性容器1に電圧を印加する前後における変位センサ4の測定で得た距離の差分である変位を演算する。インキ100の液面の変位は、インキによって異なるが、通常は、100μm以上の値を示す。演算装置は変位センサ4の出力信号を入力してデータ処理を行う装置である。変位センサ4が変位測定装置の検出部であって、その変位測定装置が変位を演算する演算部(データ処理部)、測定値を表示する表示部、操作部、等を有するときには、演算装置としてその演算部を使用することが可能である。
【0017】
静電シールド41は静電気による悪影響を受けることを防ぐためのシールドである。静電シールド41は、変位センサ4の全体またはすくなくとも導電性容器1の側を包み込むように設けられる。静電シールド41を構成する材料としては、金属板メッシュ等の導電性を有し静電界または低い周波数の電磁界を遮蔽することが可能な材料を使用し、静電シールド41を接地する。勿論、静電シールド41には変位センサ4の機能を損なわないように必要な範囲の開口部が設けられている。たとえば、レーザ式変位センサを使用するときには、レーザ光線の照射部、インキ100の液面からの反射光の検出部を遮らないようにする。
なお、図2においては示していないが、導電性容器1は台座(ステージ、実験台、等)の上に載置しており、その台座と変位センサ4と静電シールド41は、台座に結合する支柱によって一体に支持されている。
【0018】
以上、構成について説明した。次に、本発明の静電グラビア印刷用インキの評価装置および評価方法における動作について説明する。本発明の静電グラビア印刷用インキの評価装置および評価方法における動作の一例をフロー図として図3に示す。
まず、図3のステップS1(対接地絶縁)において、対接地絶縁2を台座、実験台、等の導電性容器1を載置する位置に設置する。そして、その対接地絶縁2の上に導電性容器1を載置する。これにより、導電性容器1は対接地絶縁されたことになる。
次に、ステップS2(インキ貯留)において、静電的な特性を評価する対象のインキ100を導電性容器1に注ぎ容れる。このとき、変位センサ4によってオペレータはインキ100の液面を監視し、インキ100の液面の位置が所定位置(液面を容器の開口部(淵)から下げた所定位置)となるように調節する。なお、電圧印加装置3は導電性容器1に電圧を印加しない状態(導電性容器1は接地電位(電圧=0)となっている。
【0019】
次に、ステップS3(距離測定)において、変位センサ4はインキ100の液面の位置を測定する。この測定は電圧印加装置3が導電性容器1に電圧を印加する直前の測定として行なわれる。このとき、インキ100の液面の位置が所定位置から許容範囲(あらかじめ定めておく)を超えて外れているときにはステップS1に戻って上述した以降のステップを繰り返す。一方、許容範囲に含まれているときにはステップS4に進む。
【0020】
次に、ステップS4(電圧印加)において、電圧印加装置3は導電性容器1に所定電圧(たとえば5000V(ボルト))の電圧を印加する。
次に、ステップS5(距離測定)において、変位センサ4はインキ100の液面の位置を測定する。この測定は電圧印加装置3が導電性容器1に電圧を印加した後、すなわち電圧を印加している状態における測定として行なわれる。測定が終了すると、電圧印加装置3は導電性容器1に対する電圧の印加を停止する。すなわち、導電性容器1の電位を接地電位(電圧=0)とする。
次に、ステップS6(変位演算)において、演算装置は、ステップS3において測定した液面の位置と、ステップS5において測定した液面の位置との差分としてインキ100の液面の変位を演算する。すなわち、導電性容器1に電圧を印加する前後におけるインキ100の液面の盛り上り量が得られたことになる。
【0021】
以上、動作について説明した。次に、本発明の評価装置を使用して実際に測定を行なった内容について以下に記載する。
(評価目的)
本発明の評価装置におけるインキの盛り上がり量と、静電グラビア印刷機において印刷した印刷物の品質との間における整合性(相関性)の有無を確認する。
(使用インキ)
インキA(市販インキ)
インキB(インキAに添加剤5%を添加)
インキC(インキAに添加剤10%を添加)
(静電印刷条件)
紙:コート紙 版:彫刻版(90線/cm)
印刷速度:50m/min
印加電圧:2,500V
【0022】
(評価結果)
(1)評価装置における測定結果
評価装置における、インキの盛り上がり量の測定値としては、
インキA:165μm
インキB:150μm
インキC:144μm
が得られた。
(2)印刷物の品質
このインキA,B,Cを用い静電グラビア印刷を行ない、網点20%部の網点面積率を測定した。
測定器としてはGretagMacbeth社製品の「SpectroEye」(登録商標)を使用した。網点20%部における実測値としては、
インキA:33%
インキB:32%
インキC:30%
が得られ、インキの盛り上がり量と静電グラビア印刷品質(着肉)に整合性(相関性)があることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0023】
インキの静電的な特性を評価するときに利用できる。特に、少量のインキで簡易に評価を行なうことができるため、インキの開発を行なうときには極めて利用価値が高い。
【符号の説明】
【0024】
1 導電性容器
2 対接地絶縁体
3 電圧印加装置
4 変位センサ
21 スリット
100 インキ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
静電グラビア印刷に用いるインキの静電的な特性を評価する装置であって、対接地絶縁体と、導電性容器と、電圧印加手段と、変位センサと、演算手段とを有し、
前記対接地絶縁体は前記導電性容器を接地から絶縁し、
前記導電性容器は静電的な特性を評価する対象のインキを貯留し、
前記電圧印加手段は接地された接地極と前記導電性容器に接続された出力極を有し、前記接地極と前記出力極との間に電圧を印加し、
前記変位センサは前記インキの液面までの距離を測定し、
前記演算手段は前記電圧を印加する前後における前記測定で得た距離の差分である変位を演算する、
ことを特徴とする静電グラビア印刷用インキ評価装置。
【請求項2】
静電グラビア印刷に用いるインキの静電的な特性を評価する方法であって、
対接地絶縁体によって導電性容器を接地から絶縁する対接地絶縁過程と、
前記導電性容器に静電的な特性を評価する対象のインキを貯留するインキ貯留過程と、
接地された接地極と前記導電性容器に接続された出力極を有する電圧印加手段が前記接地極と前記出力極との間に電圧を印加する電圧印加過程と、
変位センサが前記インキの液面までの距離を測定する距離測定過程と、
演算手段が前記電圧を印加する前後における前記測定で得た距離の差分である変位を演算する変位演算過程と、
を有することを特徴とする静電グラビア印刷用インキ評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−203068(P2011−203068A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−69887(P2010−69887)
【出願日】平成22年3月25日(2010.3.25)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】