説明

静電スプレー装置

【課題】静電スプレーによって、ダイカスト金型の全面に離型剤を均一に塗布すること。
【解決手段】負に帯電された離型剤をスプレーするスプレーノズル2と、回転する円板1を底面とする仮想正円錐体の母線に沿って配置され、同円板1の径方向の円板1の中心に対して対称な二箇所に固着されたエアーノズル3A、3Bを設ける。スプレーノズル2と、エアーノズル3A、3Bにより、正に帯電した金型6を離型剤ミスト13で覆うように静電塗布を行う。金型6に対する塗布完了後、塗布完了時間を予め記憶している制御部8が切替手段7に命令を出し、切替手段7が金型6に帯電している電荷をアースに流す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト金型へ離型剤を塗布する静電スプレー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ダイカスト金型(以下、適宜単に「金型」という)に離型剤を静電スプレーによって塗布する静電スプレー装置が提案されている。例えば、以下の特許文献1乃至3によるものがある。
【0003】
特許文献1は、静電スプレーを用いて凹凸面を有する金型へ離型剤を付着する際、常時、金型をアース(接地)に接続し、金型温度分布に応じてスプレー時間を調節して、金型全面に離型剤ミストを付着する発明を開示している(同文献の図1、図3参照)
【0004】
特許文献2は、静電スプレーを用いて複雑な形状の金型へ離型剤を付着する際、常時、金型をプラス電源に接続し、金型全面に離型剤ミストを付着する発明を開示している(同文献の請求項1、図1、段落0013参照)
【0005】
特許文献3は、静電スプレーを用いて凹凸面を有する金型へ離型剤を付着する際、エアー噴出ノズルがあるヘッド部分が回転し、エアーに渦流を与えて、離型剤の噴霧状態を向上させる発明を開示している(同文献の請求項1、図6、頁3、14、15及び16)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−42462号公報
【特許文献2】特開平6−182519号公報
【特許文献3】実開昭58−175855号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところが、いずれの特許文献も、アース接続のタイミングと、エアー噴出ノズルを備えたヘッド部分の回転に関し、離型剤を、金型に均一に塗布するための好適な制御システム又は制御装置を示していない。
【0008】
本発明は、斯かる実情に鑑み、ダイカスト金型の全面に離型剤を静電スプレーによって均一に塗布することができる静電スプレー装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(発明の態様)
以下、発明の態様を示し、それらについて説明する。なお、(1)項から(4)項が、請求項1から請求項4に対応する。
【0010】
(1) 正に帯電されたダイカスト金型に対して、負に帯電された離型剤をスプレーする静電スプレー装置であって、前記負に帯電された離型剤を吐出する1本の静電塗布スプレーノズルと、圧力エアーを吐出する2本のエアーノズルと、モーターにより回転可能な円板と、制御部とを含み、前記静電塗布スプレーノズルは、前記円板のモーター回転軸の延長線上に沿って、前記円板に固着されており、前記エアーノズルは、前記円板を底面とする仮想正円錐体の母線に沿って傾けられながら前記の回転軸に対称な前記円板上の二箇所に、固着されており、前記制御部は、前記ダイカスト金型に対する前記離型剤の塗布時間終了後、前記帯電をキャンセルするように制御することを特徴とする静電スプレー装置。
【0011】
本項によれば、ダイカスト金型に対して離型剤を、静電スプレー(静電塗布)によって、均一に塗布することができる。
特に、静電塗布法は、被塗布面であるダイカスト金型面に凹凸がある場合、無用に長く塗布を続けていると、電気鍍金と同様に、特に突起部に正の電荷が集まり、離型剤の塗膜が他の平坦部に比べ厚くなってしまうが、本項によれば、制御部が、前記ダイカスト金型に対する離型剤の塗布時間をあらかじめ記憶しており、その時間が来たら、前記帯電をキャンセルする命令を出して、静電塗布を停止するため、形状によって離型剤の塗布厚が不均一になることがない。
【0012】
前記2本のエアーノズルが、前記円板を底面とする仮想正円錐体の母線に沿って傾けられながら前記の回転軸に対称な前記円板上の二箇所に、固着される限り、当該2本のエアーノズルの傾きを任意に変えることができる。例えば、ダイカスト金型の被塗装面が広い場合は、2本のエアーノズルの傾きを小さくし、逆にその面が狭い場合は、2本のエアーノズルの傾きを大きくするようにしてもよい。なお、仮想正円錐体の母線とは、仮想正円垂体の頂点から斜面に沿って引かれた直線を指す。
【0013】
(2) 前記静電塗布スプレーノズルからの離型剤のスプレーと前記エアーノズルから発生する前記圧力エアーと、とが略一点に交差することにより、ミストの前記モーター回転軸上の垂直断面が略ハート型となり、該ミストが前記ダイカスト金型全体を覆うことを特徴とする(1)に記載の静電スプレー装置。
【0014】
本項は、モーター回転可能な円板に配置された、負に帯電された離型剤を吐出する1本の静電塗布スプレーノズルと、圧力エアーを吐出する2本のエアーノズルとの特徴的な位置関係によって生じる離型剤ミストの好適状態を例示するものである。この好適状態が創出されることで、該該ミストが前記ダイカスト金型全体を覆うため、ダイカスト金型に対して離型剤を、静電スプレーによって、均一に塗布することができる。
【0015】
(3) 前記制御手段は、前記離型剤を帯電するための電源部と、予め前記ダイカスト金型に対する前記離型剤の塗布時間を記憶しておく記憶部とを含み、該記憶部に記憶された前記時間終了後に、前記電源部に前記帯電をキャンセルする命令を出すことを特徴とする(1)又は(2)に記載の静電スプレー装置。
【0016】
本項は、上述した前記制御手段の構成要素として記憶部と、その動作を例示するものである。一般的に、鋳物量産工場においては、同一の金型に対して連続して、離型剤を静電塗布するが、初めに均一塗布が完了するまでの時間をパイロット的に把握しておき、それを上記記憶部に予め記憶させておく。本項の制御手段は、静電スプレー装置が始動したら、タイマーのようにその時間の経過を監視して、当該時間完了後に、金型上の帯電をキャンセルして、静電塗布を完了させるようにすることができる。すなわち、このようにして無用な静電塗布を続行することを防ぎ、均一な静電塗布を可能としている。
【0017】
(4) 前記離型剤の前記ダイカスト金型への塗布がされにくい前記ダイカスト金型の箇所に、前記金型の他の箇所に帯電される電位よりも高い電位を与えるための手段をさらに含むことを特徴とする(1)から(3)のいずれか1項に記載の静電スプレー装置。
【0018】
本項によれば、ダイカスト金型の形状に凹凸があり、特に金型上の帯電状態や、離型剤ミストの状態によっては、離型剤が塗布されにくい箇所がある場合に、その箇所の電位を意図的に高めて正電荷を多くすることができる。それによって、塗布されにくい箇所をなくすことができ、もって均一塗布をさらに万全とする付加的な手段を例示するものである。この手段は、電源と可変抵抗器とを備えるようにし、好適な電位となるように微調整を可能とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ダイカスト金型の全面に離型剤を均一に塗布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】第1実施形態に係る静電スプレー装置の概略図である。
【図2】従来の静電スプレー装置の一部を拡大した概略図である。
【図3】図1に示した静電スプレー装置の一部を拡大して示した概略図である。
【図4】第2実施形態に係る静電スプレー装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態(本実施形態)を、第1実施形態と第2実施形態に分けて、添付図面を参照して説明する。
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係る静電スプレー装置100の概略図である。以下、図1を参照しながら、静電スプレー装置100を説明する。
【0022】
静電スプレー装置100は、正に帯電される金型6と、回転中心軸に沿って配置された、負に帯電された離型剤をスプレーするための1本の静電塗布スプレーノズル2と、前記円板1の底面1Bの径方向の対称部二箇所に、前記円板1を底面とする仮想正円錐体の母線に沿って傾けられながら固着された2本のエアーノズル3A、3Bとを具備する中心軸がモーターMによって回転される円板1と、前記金型6に対する前記離型剤の塗布終了後、前記帯電をキャンセルする命令を出す制御部8と、スプレーロボットと静電ユニットからなる離型剤出力部9とを具備する。
【0023】
金型6は、鋳物部品に対応する型取りがされた例えば導電性のあるSUS製のものである。静電塗布中は、以下に説明する制御部8によって正電荷で帯電されている。ただし、後述するが静電塗布終了後には、制御部8からの命令を切替手段7が受け、金型6は導線を通じてアース14に接続され、正電荷がキャンセルされる。なお、金型6は、図1では便宜的に長方形で図示したが、基本的には、例えば、図2又は図3に図示するように鋳物部品形状に即して凹凸部の外形を有している。
【0024】
静電塗布スプレーノズル2は、制御部8の命令を離型剤出力部9が受け、離型剤出力部9から負に帯電した離型剤の供給を受ける。そして、静電塗布スプレーノズル2は、そのノズルから負に帯電した離型剤ミストを一定圧で正に帯電した金型6に向かって噴霧する(参照番号2Pの噴霧ビーム参照)。
【0025】
2本のエアーノズル3A、3Bは、モーターMの動力によって回転しながら一定圧のエアーを発生する(参照番号4A、4Bのエアービーム参照)。2本のエアーノズル3A、3Bは、上記のような位置に配置されているため、静電塗布スプレーノズル2からの離型剤の噴霧ビーム2Pと、2本のエアーノズル3A、3Bからのエアービーム4A、4Bとが点5で実質的に交差する。そしてこの交差点5からモーター回転軸上の断面が略ハート状の離型剤の噴霧雰囲気によって、金型6が覆われ、金型6に対して静電塗布が行われていく。
【0026】
金型6は、上述のように、図2又は図3のように凹凸面を含んでいるため、従来の静電塗布では、金型6に対して完了近くになり金型6の全面をほぼ覆うにつれて、平坦部よりは、突起部6A、6Bに、より多く離型剤が集中し、静電塗布による離型剤の塗面にムラが生じ易くなっていた。凹凸面の突起部(エッジ部)に電気鍍金のように電荷が集まり易いためである。そのため、平坦部(特にノズルがある面と反対の面の平坦部)よりは、ノズルがある方の面の突起部に対して離型剤の塗布面が厚くなっていってしまうという不具合があった。
【0027】
そこで、本発明に係る静電スプレー装置100は、金型6に通電する導線及びアースと接続され、両者をOR回路で切り替えることができる切替手段7を備えるようにした。この切替手段7によれば、静電塗布中は、図2に示すように金型6は制御手段8に接続され正に帯電されているが、図3に示すように、静電塗布が進み金型6の全面を離型剤が覆う塗布完了時間が来たら、塗布完了時間をあらかじめ記憶している制御部8から切替手段7に命令が発せられ、金型6に帯電した電荷をアース14に流すように切り替える。その結果、制御部8が、静電塗布を停止する。切替手段7は、スイッチ機能を有するものであればよく、例えばマグネットスイッチを用いることができる。
このようにして、本実施形態による静電スプレー装置100では、金型6の形状に、凹凸部があってもその突起部の塗布厚さが、平坦部に比べ厚くならず、離型剤が金型6の全面に均一に塗布される。
【0028】
<第2実施形態>
図4は、第2実施形態に係る静電スプレー装置101の該略図である。以下、図4を参照しながら、第2実施形態を説明する。静電スプレー装置101は、第1実施形態に係る静電スプレー装置100と全体構成は略同一である。よって、同一参照番号の部材、手段等の説明は省略する。
【0029】
静電スプレー装置101は、静電スプレー装置100の構成以外に、金型6の静電塗布がされにくい箇所を、あらかじめ金型6の他の場所よりも電位を高くするための手段15を含んでいる。この手段15は、離型剤の金型への塗布がされにくい箇所に、意図的に、既に金型に帯電されている電位よりも高い電位を与えることができ、部分的に正の電荷を多くすることができる。
【0030】
この手段15は、導体片14と可変抵抗器16と電源17とを含む。上記の静電塗布がされにくい箇所に導体片14を静電塗布前にあらかじめ固着し、静電塗布始動時に、電源17から電圧を導体片4に印加する。この際、可変抵抗器16により電圧を適宜上下して印加電圧を調整することもできる。逆に塗膜がかえって厚くなることを防止するためである。導体片14は、離型剤の金型への塗布がされにくい箇所の面積の大きさや形状に応じて、適宜その面積・形状を変えるようすることができ、例えば、ピンポイント状に当該箇所に電圧を印加できる導電性棒部材であってもよい。この手段15を備えた静電スプレー装置101によれば、静電スプレー装置100の均一塗布能力をさらに補完して、離型剤を金型6に、より均一に塗布することができるようになる。
【0031】
尚、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0032】
1:円板、2:静電塗布スプレーノズル、3A、3B:エアーノズル、6:ダイカスト金型、8:制御手段、13:負に帯電された離型剤、

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正に帯電されたダイカスト金型に対して、負に帯電された離型剤をスプレーする静電スプレー装置であって、
前記負に帯電された離型剤を吐出する1本の静電塗布スプレーノズルと、圧力エアーを吐出する2本のエアーノズルと、
モーターにより回転可能な円板と、
制御部と、を含み、
前記静電塗布スプレーノズルは、前記円板のモーター回転軸の延長線上に沿って、前記円板に固着されており、
前記エアーノズルは、前記円板を底面とする仮想正円錐体の母線に沿って傾けられながら前記の回転軸に対称な前記円板上の二箇所に、固着されており、
前記制御部は、前記ダイカスト金型に対する前記離型剤の塗布時間終了後、前記帯電をキャンセルするように制御することを特徴とする静電スプレー装置。
【請求項2】
前記静電塗布スプレーノズルからの離型剤のスプレーと前記エアーノズルから発生する前記圧力エアーと、とが略一点に交差することにより、ミストの前記モーター回転軸上の垂直断面が略ハート型となり、該ミストが前記ダイカスト金型全体を覆うことを特徴とする請求項1に記載の静電スプレー装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記離型剤を帯電するための電源部と、予め前記ダイカスト金型に対する前記離型剤の塗布時間を記憶しておく記憶部とを含み、該記憶部に記憶された前記時間終了後に、前記電源部に前記帯電をキャンセルする命令を出すことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の静電スプレー装置。
【請求項4】
前記離型剤の前記ダイカスト金型への塗布がされにくい前記ダイカスト金型の箇所に、前記金型の他の箇所に帯電される電位よりも高い電位を与えるための手段をさらに含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の静電スプレー装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−221289(P2010−221289A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−74203(P2009−74203)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)