説明

静電植毛パイル拡散ノズル

【課題】パイルの拡散性を向上させることができ、その結果、ワークの表面にパイルをより均一に植毛することができる静電植毛パイル拡散ノズルを提供すること。
【解決手段】パイル21を噴出する噴出しノズル11と、噴出しノズル11を覆うように設けられた円錐状のノズル本体12と、ノズル本体12の内側であって噴出しノズル11の前方に配置された邪魔板13と、を備える静電植毛パイル拡散ノズル4である。また、邪魔板13とノズル本体12との間にパイル21が通過する間隙Sを設けている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気搬送されてきたパイルを被植毛体の表面に塗布するための静電植毛パイル拡散ノズルに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の技術としては、例えば特許文献1に記載されたような技術がある。特許文献1に記載された静電植毛装置は、強風を吹き付ける強風吹出し機構(14)を内装したパイル吹き付けノズル(13)を有している。このパイル吹き付けノズル(13)により、パイル(短繊維)が強い風に乗ってワーク(アースされた被植毛体)に吹き付けられる。そのため、本技術により「パイルのワークに対する引着は電界作用だけでなく強い風による吹き付けもともなうので、ワークの表面形状に関係なく均一の植毛ができる」と称されている。
【0003】
【特許文献1】特開平9−155241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、強風吹出し機構(14)から噴出したパイルは、そのまま前方へ進もうとする流れの勢いが強くて拡散しにくい。そして、拡散しにくいとワークの表面にパイルが均一に植毛されない場合がある。
【0005】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、パイルの拡散性を向上させることができ、その結果、ワークの表面にパイルをより均一に植毛することができる静電植毛パイル拡散ノズルを提供することである。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0006】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、円錐状のノズル本体の中に、パイルの流れの勢いを抑制する邪魔板を設けることで、パイルの拡散性を向上させることができ、これにより前記課題を解決できることを見出し、この知見に基づき本発明が完成するに至ったのである。
【0007】
すなわち、上記課題を解決するために本発明は、空気搬送されてきたパイルを被植毛体の表面に塗布するための静電植毛パイル拡散ノズルであって、前記パイルを噴出する噴出しノズルと、前記噴出しノズルを覆うように設けられた円錐状のノズル本体と、前記ノズル本体の内側であって前記噴出しノズルの前方に配置された邪魔板と、を備え、前記邪魔板と前記ノズル本体との間に前記パイルが通過する間隙が設けられている静電植毛パイル拡散ノズルを提供する。
【0008】
この構成によると、噴出しノズルから噴出したパイルは、ノズル本体の内側に設けられた邪魔板に空気とともに衝突し、その流れの勢いが抑えられるとともに、流れの向きが変化する。その後、邪魔板とノズル本体との間に設けられた間隙を空気とともにパイルが通過していく。これらによりパイルの拡散性が向上し、パイルは被植毛体(ワーク)の表面に向かって均一密度で飛んでいき、その結果、被植毛体の表面にパイルをより均一に植毛することができる。
【0009】
また本発明において、前記ノズル本体の中心軸上に配置された棒状電極と、前記棒状電極に取り付けられ、前記ノズル本体の前方に配置されたフロント電極と、を備え、前記邪魔板が、当該邪魔板の中心部において前記棒状電極に取り付けられていることが好ましい。
【0010】
この構成によると、ノズル本体の中心軸上に棒状電極が配置され、かつ、この棒状電極を中心にして邪魔板が配置される。すなわち、棒状電極および邪魔板はノズル本体の中心に配置される。これにより、ノズル本体から出ていくパイルの流れの均一性を向上させることができ、被植毛体の表面にパイルをより均一に植毛することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、被植毛体(ワーク)としては様々なものがあるが、以下の説明においては、ベルトスリーブを植毛する例について記載する。ベルトスリーブとは、輪状の形態であるベルト(伝動ベルト)の製造工程における途中段階の製造品であって、筒状の形態を有するものである(輪状に複数に切断されてベルトとなる。)。ベルトスリーブに植毛し(植毛工程)、その後いくつかの工程を経て、植毛が施されたベルトが完成する。植毛されることによりベルトは、その摩擦係数が安定し、発生音も抑制される。なお、リブベルトおよび歯付きベルトなどの凹凸のあるベルトや、凹凸のない平ベルトなど、様々な種類のベルトが植毛対象となる。
【0012】
(静電植毛装置)
まず、静電植毛装置について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る静電植毛パイル拡散ノズル4(以下、「拡散ノズル4」と呼ぶ)を具備する静電植毛装置100を示す概略図である。
図1に示すように、静電植毛装置100は、パイル(短繊維)を貯留するホッパー1と、送風装置(不図示)からの空気とともにパイルが流れるエアホース2と、エアホース2が接続される塗布ガン10とを備えている。塗布ガン10は電源に接続されている。また塗布ガン10は、塗布ガン本体3と、その先端に取り付けられた拡散ノズル4とから構成されている。
【0013】
ホッパー1からのパイルは、エアホース2内を空気搬送されて塗布ガン10に供給される。そして、塗布ガン10先端の拡散ノズル4から被植毛体であるベルトスリーブ5に向けてパイルが吹き付けられる。
【0014】
(静電植毛パイル拡散ノズルの構成)
図2は、図1に示す拡散ノズル4の詳細図である。図2(a)は、拡散ノズル4の一部断面図であり、図2(b)は、図2(a)のA−A矢視図である。
図2に示すように、拡散ノズル4は、パイル21を噴出する噴出しノズル11と、噴出しノズル11を覆うように設けられた円錐状のノズル本体12と、ノズル本体12の中心軸上に配置された棒状電極14と、棒状電極14の先端に取り付けられたフロント電極15と、ノズル本体12の内側であって噴出しノズル11の前方に配置された邪魔板13とを備えている。そして、拡散ノズル4は塗布ガン本体3に対して4本のボルト22で取り付けられている。なお、図2に示したように被植毛体であるベルトスリーブ5は、その成形型6に固定されている。
【0015】
噴出しノズル11は先細りの直円錐状に形成されている。そして噴出しノズル11の中央部には貫通孔が形成され、その貫通孔に棒状電極14が内挿されている。噴出しノズル11の内面と棒状電極14との間を空気とともにパイル21が流れる。
【0016】
ノズル本体12は、噴出しノズル11から噴出するパイル21が四方八方に飛散することを防止してパイル21がベルトスリーブ5に向かうようにするためのものであり、後端部から先端部へ向けて、徐々に拡径しその後同径の部分を有する直円錐状の形態となっている。ノズル噴出しノズル11は、ノズル本体12の後端部中央に配置されている。本体12の材質としては、例えばPVC(ポリ塩化ビニール)、PE(ポリエチレン)などの合成樹脂が挙げられる。
【0017】
棒状電極14は、一端が塗布ガン本体3の内部において電源からのケーブル(不図示)に接続され(図1参照)、他端がフロント電極15に取り付けられている。フロント電極15は、ノズル本体12の先端から10mm前方に配置されている。また図2(b)に示したように、フロント電極15は、ノズル本体12のパイル出口の領域を電極で張り巡らした形態となっている。具体的には、フロント電極15は2mm程度の線材で形成されており、円形に加工した線材の内側に、直線状の線材を相互に直行するように溶接により固定したものである。本実施形態では3本の平行な線材と、この線材に直行する1本の線材とが、円形に加工した線材の内側に配設されている。そして、フロント電極15の中心と、棒状電極14の先端とが強固に固定されている。
【0018】
邪魔板13は、中心に孔が形成された円板部13aと、この孔に合わせて円板13aに対して垂直に取り付けられた円筒部13bとを有している。円板部13aの孔および円筒部13bが棒状電極14に対して外挿されて、邪魔板13は棒状電極14に強固に固定されている。そして邪魔板13の外周面と、ノズル本体12の内周面との間にパイル21が通過する間隙Sが設けられている。間隙Sは、環状の間隙であり、ノズル本体12の中心軸に直交する断面において邪魔板13まわりに均一の幅で形成されている。また、邪魔板13の外周面の角部は、パイル21の流れが滑らかとなるよう面取りが施されている。また、邪魔板13とノズル本体12の先端部との間は所定の間隔があけられている。邪魔板13の材質としては、例えばPVC(ポリ塩化ビニール)、PE(ポリエチレン)などの合成樹脂が挙げられる。
【0019】
(パイルの流れ)
パイル21の流れを図2(a)に点線および矢印で示している。図2(a)に示したように、エアホース2を通って空気搬送されてきたパイル21は、まず拡散ノズル4の噴出しノズル11に到達し、この噴出しノズル11の先端部からノズル本体12内に噴出する。そしてノズル本体12内に噴出したパイル21は、ノズル本体12の内側に設けられた邪魔板13に空気とともに衝突し、その流れの勢いが抑えられるとともに、流れの向きが変化する。その後、邪魔板13とノズル本体12との間に設けられた間隙Sを空気とともにパイル21が通過していく。そして、パイル21は、ノズル本体12から出て、電界を発生させるフロント電極15の間を通過しベルトスリーブ5の表面に到達する。
【0020】
(実施例)
本実施形態の拡散ノズル4を用いた場合と、邪魔板13を有さずかつフロント電極が内側に配置された従来の静電植毛パイル拡散ノズルを用いた場合との、パイル塗布比較実験を行った。ここでは、その実験結果について説明する。
【0021】
まず、ベルトスリーブ5の表面に吹き付けられるパイル21の均一性についてであるが、本実施形態の拡散ノズル4を用いた場合、目視評価によりパイル21の十分な均一性が確認された。一方、従来の上記静電植毛パイル拡散ノズルを用いた場合は、パイル21の均一性が確認されなかった。そのため、本実施形態の拡散ノズル4を用いた場合、拡散ノズル4前方のベルトスリーブ5の表面にパイル21を均一に塗布することができたが、従来の静電植毛パイル拡散ノズルの場合は、拡散ノズル前方の当該ノズルの一部範囲にしかパイル21を塗布することができなかった。
【0022】
また、本実施形態の拡散ノズル4では、植毛実験後の拡散ノズル4にパイル21の停留は認められなかったが、従来の静電植毛パイル拡散ノズルの場合は、植毛実験後の拡散ノズルに複数箇所、パイル21の停留が認められた。
【0023】
以上説明したように、本実施形態の拡散ノズル4によると、空気搬送されてきたパイル21の拡散性を向上させることができ、パイル21はベルトスリーブ5の表面に向かって均一密度で飛んでいく。その結果、ベルトスリーブ5の表面にパイル21を従来よりも均一に植毛することができる。
【0024】
また、本実施形態の拡散ノズル4においては、フロント電極15をノズル本体12の先端から10mm前方に配置しているので、フロント電極15とノズル本体12との間にパイル21が停留することを防止することができている。なお、必ずしもフロント電極15をノズル本体12の前方に配置する必要はなく、ノズル本体12の中(内側)に配置してもよい。
【0025】
また、本実施形態では、ノズル本体12の中心軸上に棒状電極14が配置され、かつ、この棒状電極14を中心にして邪魔板13が配置される。すなわち、棒状電極14および邪魔板13はノズル本体12の中心に配置される。これにより、ノズル本体12から出ていくパイル21の流れの均一性をより向上させることができ、被植毛体であるベルトスリーブ5の表面にパイル21をより均一に植毛することができている。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態に係る静電植毛パイル拡散ノズルを具備する静電植毛装置を示す概略図である。
【図2】図1に示す静電植毛パイル拡散ノズルの詳細図である。
【符号の説明】
【0028】
4:静電植毛パイル拡散ノズル
5:ベルトスリーブ(被植毛体)
11:噴出しノズル
12:ノズル本体
13:邪魔板
14:棒状電極
15:フロント電極
21:パイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気搬送されてきたパイルを被植毛体の表面に塗布するための静電植毛パイル拡散ノズルであって、
前記パイルを噴出する噴出しノズルと、
前記噴出しノズルを覆うように設けられた円錐状のノズル本体と、
前記ノズル本体の内側であって前記噴出しノズルの前方に配置された邪魔板と、
を備え、
前記邪魔板と前記ノズル本体との間に前記パイルが通過する間隙が設けられていることを特徴とする、静電植毛パイル拡散ノズル。
【請求項2】
前記ノズル本体の中心軸上に配置された棒状電極と、
前記棒状電極に取り付けられ、前記ノズル本体の前方に配置されたフロント電極と、
を備え、
前記邪魔板が、当該邪魔板の中心部において前記棒状電極に取り付けられていることを特徴とする、請求項1に記載の静電植毛パイル拡散ノズル。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−5507(P2010−5507A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165722(P2008−165722)
【出願日】平成20年6月25日(2008.6.25)
【出願人】(000006068)三ツ星ベルト株式会社 (730)
【Fターム(参考)】