説明

静電気帯電防止靴

【課題】医療や介護に従事する作業者が使用しやすく、かつ、静電気による医療機器の破壊等を防止することができる静電気帯電防止靴を提供すること。
【解決手段】静電気帯電防止靴であって、アウトソールとミッドソールと中底を備えたアッパー部を有し、前記アウトソールは電気抵抗が約1.0×10〜1.0×10Ωに形成されるとともに、踏みつけ部である前足底部の上面に導電性物質の塗布による導電部が設けられ、前記ミッドソールは、前足底部に前後方向に対して80°〜60°の角度範囲内で表裏貫通した2本の平行なスリットを設けるとともに、当該両スリットに導電テープを挿通させることで当該両スリットによって囲まれる部位を内包するように環状の導電体を形成し、前記中底の少なくとも前足底部は、表裏において導電性を有するように形成されており、当該中底の前足底部とアウトソールが前記導電体を介して電気的に導通していること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体が帯電した静電気を、床面を介して放電する静電気帯電防止靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、身体に帯電した静電気を、床面に接地した靴を介して放電する静電気帯電防止靴が知られている。用途によって異なるが、靴の一般的な構造は、床面に接する靴底、当該靴底上に設けられるアッパー体および当該アッパー体内に設けられる中底、これら靴底とアッパー体内の中間に配置されるミッドソールを有したものとなっている。上記静電気帯電防止靴は、導電靴(特許文献1)、静電気帯電防止靴(特許文献2)、静電防止靴(特許文献3)等と称されている。
【特許文献1】特開2002−65309号公報
【特許文献2】特開2003−250601号公報
【特許文献3】特開2002−339404号公報
【0003】
靴は、用途に応じて色々な構造のものが存在するが、医療現場で作業する看護士や福祉介護の現場で作業する介護福祉士等の着用を考慮すると、クッション性があることによって長時間履いていても疲れず、軽量かつ耐滑性を有することが必要である。
また、近年では医療機器の精密化によって、電磁ノイズ(EMI)による故障や誤動作防止の対策が重要となっており、その中でも、人体に帯電した静電気による医療機器の誤動作が重要な問題となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明は、上記の課題に鑑み発明されたものであって、医療や介護に従事する作業者が使用しやすく、かつ、静電気による医療機器の破壊等を防止することができる静電気帯電防止靴を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本願請求項1記載の発明は以下の構成を有する。
裏面に床面との接触面を有するアウトソールと、当該アウトソールの上面に設けられた弾力性のあるミッドソールと、当該ミッドソール上に設けられた中底を備えたアッパー部を有し、
前記アウトソールは、前記接触面と上面の間における電気抵抗が約1.0×10〜1.0×10Ωに形成されるとともに、踏みつけ部である前足底部の上面に導電性物質の塗布による導電部が設けられ、
前記ミッドソールは、前後方向に対して60°〜80°の角度範囲内で傾斜する表裏貫通した2本の平行なスリットを前足底部に設けるとともに、当該両スリットに導電テープを挿通させることで当該両スリットによって囲まれる部位を内包するように環状の導電体を形成し、
前記中底の少なくとも前足底部は、表裏において導電性を有するように形成されており、当該中底の前足底部とアウトソールが前記導電体を介して電気的に導通していることを特徴とする静電気帯電防止靴。
【0006】
また、本願請求項2記載の発明は以下の構成を有する。
前記環状の導電体は、環状に形成するために必要な最小長さよりも、1〜5mm程度長く形成されていることを特徴とする請求項1記載の静電気帯電防止靴。
【発明の効果】
【0007】
本願発明に係る静電気帯電防止靴は、アウトソール6の電気抵抗値を僅かに導電可能な程度となるように高い値に設定し、足裏まで繋がる他の手段(ミッドソールの導電体、中底および中敷、その他導電部)の電気抵抗値を当該アウトソール6の電気抵抗値よりも小さい値に設定したものである。当該構成によって、静電気帯電防止靴としての最適な抵抗値をアウトソール6の抵抗値で設定、管理することができるので、静電気帯電防止靴として抵抗値の変動の少ない、品質の安定した靴を提供することができるという効果を有している。
また、本願発明に係る静電気帯電防止靴は、履き心地を考慮して、ミッドソールに軽量で弾力性のあるEVAを使用しているが、当該部分は伸縮や屈曲を繰り返す部位でもある。したがって、中敷きとアウトソール間の電気的な接続は、当該伸縮や屈曲が発生しても破断しない構造によって行われる必要がある。本願発明に係る静電気帯電防止靴は、ミッドソールに歩行方向と角度を変えて環状(筒状)に形成した導電テープを設けることにより、電気的な導通を確実なものとし、かつ導電テープ自体が切れないようになっている。これにより、静電気帯電防止靴としての寿命を延ばすことができるので、人体に帯電する静電気を常に確実に除去できるとともに、静電気による医療機器の誤作動を防止することができる。
また、ミッドソールに筒状の導電テープを設ける場合には、ミッドソールに表裏貫通した一対のスリットを設ける必要があるが、これを靴の屈曲線(歩行方向と直角を成す方向に生じる折れ曲がり線)と一致させたのでは切断部であるスリットの端部に応力を集中させることになり、ミッドソールの破断を助長することになる。これに対して本願発明に係る静電気帯電防止靴は、靴の屈曲線とスリットの長手方向が一致していないので、屈曲を原因としたミッドソールの破断を防止する効果がある。
また、本願発明に用いる中底は、前足底部にのみ電気的に導通可能なカーボン繊維を入れた不織布を用いている。カーボン繊維を入れた不織布は比較的高価であるため、導電効率の高い踏みつけ部(前足底部)にのみ当該不織布を設けることにより、安価な靴を提供できるという効果を有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本願発明の一実施の形態を図を用いて説明する。
図1は、本願発明を用いた靴1の断面図である。当該靴1は、主な構成としてアッパー部2と靴底部3より形成されている。なお、当該靴1は医療や介護の分野で使用されることを前提とした靴として形成されている。アッパー部2は、主として足首から足の甲までを覆うアッパー体4と当該アッパー体4の底面を塞ぐ中底5より構成されている。
当該アッパー部2は、アッパー体4と中底5を構成する所定形状に裁断された合成皮革、メッシュ状の布等を、各足のサイズ毎に用意された靴型(図示せず)を利用して形状を定め、縫製または接着によって結合することで袋状に立体的に形成したものである。また、アッパー部2内には、カップインソールと称する中敷き18が装着される。
【0009】
靴底部3は、歩行時に床面と直接接するアウトソール6と、当該アウトソール6と前記アッパー部2の底面を構成する中底5との中間に設けられたミッドソール7を有している。アウトソール6は、方形の接地面形状を有する複数の接地ブロック8を主として裏面に設けたゴムの成形による薄板体である(図3a参照)。当該アウトソール6は、先端からほぼ中間部にわたる前足底部9、土踏まず部10、踵部11の各領域に分けられ、土踏まず部10を除く前足底部9および踵部11に前記接地ブロック8が所定の配列で設けられたものとなっている。
アウトソール6の土踏まず部10は、前足底部9および踵部11の幅に比べて幅が細く形成されており、当該部分に前後方向に長い楕円形状の穴12が設けられている。当該穴12は、詳細には後述するミッドソール7に形成した楕円形状の穴13と連通している。
【0010】
ミッドソール7は、軽量で弾力性があるEVAと称される発泡性の合成樹脂によって形成されたものである。ミッドソール7は、踵部分が厚く前足底部分が薄く形成されており、土踏まず部分に上下に貫通する前述した穴13が設けられた構造を有している。
当該穴13の形状は前後方向に長い楕円形状(図3b参照)であり、底面側の開口面積よりも上面側の開口面積が小さく形成されている。
また、穴13の上面側開口の外周には、詳細には後述するシャンク14を装着するための凹部19が形成されている。
また、ミッドソール7の上部外周にはアッパー部2の下端外周を包み込む周壁16が設けられており、当該周壁16内面とミッドソール7の上面が接着剤によってアッパー体4と結合している。
また、本実施の形態では、中底5の土踏まずの部分に通気性を確保するための表裏貫通する複数の小孔17が設けられている。当該小孔17は、ミッドソール7に形成された穴13の開口とほぼ一致する位置に設けられている。
【0011】
前記ミッドソール7上面とアッパー部3との間には、図2a(底面図)、図2b(平面図)、図2c(側面断面図)、図2d(正面図)に示す構造のシャンク14が設けられている。
シャンク14は、楕円形状の外形を有するフランジ状の円板20(板状部)と、当該円板20の下面中央から下方に向かって突出した筒状部21を有し、円板20の上面に樹脂製の網22が一体的に設けられたものであり、円板20が接着剤を介して凹部19内に接着されるとともに、筒状部21が穴13の上縁に嵌合してミッドソールに固定されるものである。
円板20の全長は約50mm、全幅は約30mmであり、厚みは約2mmである。また、中央に設けた筒状部21の開口形状は、長手方向約28mm、幅が約6mmの楕円形であり、筒状を成す外周壁部の厚みは約1.5mmであり、円板20底面からの突出高さは約2mmである。円板20上面の網22は、線径の細い合成樹脂糸によって形成されたものであり、シャンク14を成形型を用いて射出成形する際に当該網とともに一体化させたものである。網目の大きさは、一辺が1mm四方以下であり、かつ通気性を有する程度の大きさを有したものである。当該網22は、砂粒程度以上の大きさの異物の通過を防止する作用を有している。また、前述したように網22は樹脂製であるため、靴内の蒸れた空気が通過する条件下においても、水分が付着して腐食するようなことがない。さらに、シャンク14も樹脂で形成されていることから、シャンク14を廃棄する際に網22と分別する手間が不要である。
【0012】
土踏まず部分に接地面を有していない靴の場合、当然ながら靴底の土踏まずを支える部分が存在しない。したがって、一般的には当該土踏まずの部分にシャンクと称される補強部材が配置され、必要以上に撓みが発生しないようになっている。本実施の形態に係るシャンクは、軽量化を目的として合成樹脂によって形成された成型品でありながらシャンクとしての適度な強度を有し、かつ靴内の換気を行わせるための孔を有したものである。
前述の通り、シャンクは、全長は約50mm、全幅は約30mm、厚みは約2mmの前後方向に長い板状部として円板20を有している。しかし、当該合成樹脂製の薄い円板のみで歩行時の加重を受け止め、土踏まず部分の変形を適度に防ぐことはできない。そこで、本実施の形態に係るシャンクは、円板の下面に前後方向(長手方向)に長い楕円形状を成した筒状部分を設け、当該筒状部分を変形防止用のリブとして作用させている。そして、さらに、該筒状部分を靴内に通じる換気口としている。
このように、本実施の形態に係るシャンクは、軽量な合成樹脂製でありながらシャンクとしての適度な弾力と強度を有し、さらに通気性を備えたものである。また、当該シャンクを備えた靴は、軽量化を実現できるとともに、土踏まず部分の変形を防止しかつ通気性を備えたものである。
また、本実施の形態に係るシャンクを楕円形状にしたことにより、歩行時における靴底の前後方向の曲がりだけでなく、左右方向や斜め方向の曲がりにも対応できる。またシャンクの外周は楕円形状になっているため外周に角となる部分がなく、靴底を曲げてもシャンクがミッドソールを傷付けないようになっている。
【0013】
次に、図4、図5を用いて靴1を構成する各部材についてさらに詳しく説明する。
アウトソール6は、ニトリルゴム(NBR)に帯電防止剤(導電剤)を混入した素材で形成
されている。本実施の形態に係るアウトソール6をニトリルゴムのみで作成した場合には、接地ブロック8の接地面とアウトソールの上面(ミッドソールとの境界面)間の電気抵抗は約1.0×1010〜1013Ωであるが、本実施の形態に係るアウトソール6の
場合、ニトリルゴムに帯電防止剤を混入することにより電気抵抗が約1.0×10Ωとなるように調整されている。当該抵抗値は、人体に帯電した電気が、一挙に放電されるのではなく、微量な電流として序々に放出することを考慮した際に理想的な抵抗値であり、概ね約1.0×10Ω〜約1.0×10Ωが理想とされている。また、当該抵抗値
は、人体が他の機器からの漏電を受けた場合や、帯電していた機器の静電気を人体が接地部(床、地表)に対して放電する状況になった場合に、人体を流れる電流量を制限し機器や人体への影響を緩和する効果があるものである。
【0014】
アウトソール6の前足底部9の上面には、3×4cmの範囲で導電塗料が塗布され、当該導電塗料によって導電被膜30が形成されている。当該導電被膜30の表裏間における電気抵抗は約1.0×10〜10Ωであり、前記アウトソール6の電気抵抗に対し
て無視できる程度に低い抵抗値に設定されている。
また、前述の通り導電被膜30は3×4cmの長方形状であり、当該導電被膜30の長手方向がアウトソール6底面に設けた接地ブロック8の縦(前後)の配列方向とほぼ一致するように設けられている。接地ブロック8は、直進時の歩行方向とほぼ一致するように配列されているので、接地ブロック8の配列方向に合わせて導電被膜30を設けることは、ほぼ歩行方向と一致するように導電被膜30を設けていることになる。
【0015】
ミッドソール7はEVA(エチレン・酢酸ビニル共重合体)の発泡素材による射出成型品であり、クッション性のある軽量な部材として形成されている。当該ミッドソール7は、アウトソール6とアッパー部(中底5)の間に配置され、歩行時に変形することによって足に作用する衝撃を吸収するものであるが、本願発明に係る靴は当該クッション作用に加えて、アウトソール6と前記中底5を電気的に接続する作用を有するものでもある。当該電気的な接続作用は、ミッドソール7の前足底部に設けた環状(筒状)に形成した導電テープ31(導電体)によって行われる。当該導電テープ31は、ナイロン繊維の織り物又は編み物として形成された生地に、導電性のカーボンを含有するカーボン樹脂を含浸させることにより導電性を付与したものである。また、導電テープ31は、帯状に裁断した長細片の端部を結合することで筒状の環状体として形成されている。
【0016】
前記導電テープ31は、ミッドソール7の前足底部に設けた2本一対の平行な直線状のスリット32、32(表裏貫通した切り込み)に挿通され、当該スリット32、32に挟まれた部分を内包するように端部を結合し、上面および底面側から見て全長約35mm、幅約20mmの長方形状、側面側から見て筒状に形成したものである。また、当該スリット32、32は、前記上面および底面側から見て長方形状となる導電テープ31の長手方向が、靴の前後方向に対して約15°〜20°程度の角度に傾斜して配置されるように設けられている。すなわち、導電テープ31が前記配置となるように、スリット32、32は図3に示す靴の前後方向に亘る中心線CLに対して角度θ(75°〜70°)を成す向きで設けられている。なお、当該75°〜70°の角度θは、導電性および耐久性の観点から最適値であることが実験的に明らかになったものであるが、当該角度θが大凡80°〜60°の場合でも耐久性、導電性において実用上問題のない角度範囲となっている。
前記靴の前後方向とは、前足底部においては大凡アウトソール6底面に設けた接地ブロック8の前後に亘る配列方向である。すなわち、導電テープ31の長手方向は、大凡接地ブロック8の前後方向に亘る配列方向に対して約15°〜20°程度の角度で先端が他足側(親指側)に傾斜した配置となっている。
さらに、導電テープ31は、スリット32、32の中間に位置するミッドソール部分を芯として内包するように筒状に配置されているが、導電テープ31はミッドソール7に対して接着されておらず、内周長は最小限必要な長さよりも数mm(1〜5mm程度)長く、遊度をもって形成されている。(図6(a)参照)
【0017】
前述したように導電テープ31の長手方向が、靴の前後方向に対して約15°〜20°程度の角度で傾き、かつ、内周長が最小限必要な長さよりも、数mm長く形成されているのは、ミッドソール7の破損および導電テープ31の破断を防止するためである。
導電テープ31を靴の前後方向に対して約15°〜20°程度の角度に傾けて配置するということは、屈曲時に生じる靴底の折れ曲がり線とスリット32、32の方向を一致させないという作用を有する。スリット32、32はミッドソール7を分断している部位であるため、当該部分に屈曲させようとする力が作用すると、この力がスリット32、32両端の分断されていない領域によって受け止められる。そして、歩行時に生じる屈曲の繰り返しによって当該領域がストレスを受け続けると、疲労によって、スリットの端部が切り込みを拡張するように亀裂を広げ、ミッドソール7が破断してしまう。このような現象を防止するために、スリット32、32は歩行方向と直角ではない(歩行時の屈曲方向と同一ではない)他の角度に設定されている。
【0018】
また、靴の前後方向とスリット32、32の方向を一致させると、装着した導電テープ31が早期に
破断するという現象が生じる。
この場合、ミッドソール7が歩行によって屈曲すると、スリット内に位置する導電テープ31には、当該導電テープ31を図6(b)に示すような変形によって長手方向に伸展等させるのではなく、スリットの内壁で挟持された部分を同一面内で屈曲させるような力が作用する。すなわち、導電テープ31の側縁には、図6(c)のようにテープを引き裂くような張力が繰り返し生じることとなり、この結果早期に導電テープ31は破断する。
これに対して、本実施の形態に係るミッドソール7は、スリット32、32の長手方向と歩行方向が一致していないので、歩行時(ミッドソール屈曲時)に導電テープ31の側縁に引き裂くような張力を発生させず、破断を起こしにくいものとなっている。これにより、静電気帯電防止靴としての寿命を延ばすことができるので、人体に帯電する静電気を常に確実に除去できるとともに、静電気による医療機器の誤作動を防止することができる。
【0019】
中底5は、アッパー部2の底面部を構成する部材であり、通気性のある素材を組み合わせて形成したものである。当該アッパー部2は、土踏まず部を境界として前足底部33と踵部34によって構成され、両者は縫い糸による縫製によって接合されている。前足底部33と踵部34は、ともに天然繊維又は化学繊維による不織布によって形成されており、前足底部33にはカーボン繊維が含まれている。前足底部33はカーボン繊維を含有することによって、その表裏で約1.0×10Ωの電気抵抗を有するようになっている。踵部34が導電性を有していても一向に構わないが、コスト低減の要請から前足底部33にのみカーボン繊維を織り込んでいる。
上記のように、前足底部33は導通性を有し、ミッドソール7の導電テープ31と接触して電流が流れるようになっている。
【0020】
前記中底5の上面には、前足底部33から踵部34に亘って、導電塗料の塗布により形成された導電部35が帯状に形成されている。当該導電部35の形成に使用する導電塗料
は、ウレタン系接着剤にカーボンを含有させたものであり、導電部35の表裏で約1.0×10〜1.0×10Ωの電気抵抗を有するようになっている。
【0021】
アッパー部2内に配置される中敷き(カップインソール)18は、EVA(エチレン・酢酸ビニル共重合体)の発泡素材による射出成型品の上面に、ポリエステル繊維による布を重ね合わせ、縫着によって両者を係合させたものである。これら、EVAによる成型品およびポリエステル繊維による布は、前述した導電体等と比較してはるかに電気抵抗が高く絶縁体に近い性質のものである。
そして、当該中敷き18底面の前足底部36から踵部37には、それぞれ導電体として導電性のテープ38、39が導電性を有する導電糸40による縫製によって固定されている。
導電性のテープ38、39に使用する素材は、ナイロン繊維の織り物又は編み物として形成された生地に、導電性のカーボンを含有するカーボン樹脂を含浸させることにより形成されたものである。導電性のテープ38、39の表裏間の電気抵抗は、カーボンの作用によって約1.0×10〜1.0×10Ωとなっている。
【0022】
前記導電糸40は、絶縁性の酸化被膜を表面に作りにくい金属線(例えば、ニッケル又はステンレス等によって形成された金属線)を複数本撚り合わせて形成したものであり、ニッケルを使用した場合の電気抵抗は約1.0×10Ω程度である。当該導電糸40は、中敷き18の表面に表出して、人体の足裏と直接接するようになっている。
また、導電糸40は、中敷き18裏面に設けた導電性のテープ38、39と接触しており、さらに導電性のテープ38、39は、前述した中底5上面の帯状の導電部35表面と接触するようになっている。
【0023】
上記構成により、本願発明に係る靴は、靴を履いた人体と床面との間で、適度な電気抵抗を有した状態で導通させることができるようになっている。
なお、本願発明に係る静電気帯電防止靴としての電気抵抗は、ほぼアウトソール6が有する電気抵抗によって決定される。すなわち、中底5からアウトソール6の接地ブロック8に至る経路の中で抵抗値が一番高いのがアウトソール6であり約1.0×10Ω(範囲としては1.0×10〜1.0×10 Ω程度)である。
靴全体としての電気抵抗値は、アウトソール6を含めた他の部位が有する電気抵抗値の総合計になる。しかし、アウトソール6の電気抵抗値は他の部位の電気抵抗値と比較して10倍以上であるから、他の部位の電気抵抗値はアウトソール6の抵抗値と比較して小さい値となっている。従って、上記のように、本願発明に係る靴の電気抵抗は、主としてアウトソール6が有する電気抵抗によって調整されている。
また、導電テープ31は図6(a)のように、ミッドソール7の上面において上方へやや湾曲した状態で前足底部33に接触するとともに、下面において下方へやや湾曲した状態で導電被膜30に接触するため、靴底全体が屈曲した場合にアウトソール6または中底5とミッドソール7との間に少しくらいの隙間ができたとしても、導電テープ31と導電被膜30または導電塗料との接触が解かれることがない
【産業上の利用可能性】
【0024】
本願発明は、静電気を放電する静電気帯電防止靴に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本願発明に係る靴の断面図である。
【図2】本願発明に係るシャンクの説明図である。
【図3】本願発明に係る靴に用いるアウトソールおよびミッドソールの説明図である。
【図4】本願発明に係る靴の分解図である。
【図5】本願発明に係る靴の分解斜視図である。
【図6】本願発明に係る導電テープの変形についての説明図である。
【符号の説明】
【0026】
1 靴
2 アッパー部
3 靴底部
4 アッパー体
5 中底
6 アウトソール
7 ミッドソール
8 接地ブロック
9 前足底部
10 土踏まず部
11 踵部
12 穴
13 穴
14 シャンク
16 周壁
17 小孔
18 中敷き
19 凹部
20 円板
21 筒状部
22 網
30 導電被膜
31 導電テープ(導電体)
32 スリット
33 前足底部
34 踵部
35 導電部
36 前足底部
37 踵部
38、39 導電性のテープ
40 導電糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏面に床面との接触面を有するアウトソールと、当該アウトソールの上面に設けられた弾力性のあるミッドソールと、当該ミッドソール上に設けられた中底を備えたアッパー部を有し、
前記アウトソールは、前記接触面と上面の間における電気抵抗が約1.0×10〜1.0×10Ωに形成されるとともに、踏みつけ部である前足底部の上面に導電性物質の塗布による導電部が設けられ、
前記ミッドソールは、前後方向に対して60°〜80°の角度範囲内で傾斜する表裏貫通した2本の平行なスリットを前足底部に設けるとともに、当該両スリットに導電テープを挿通させることで当該両スリットによって囲まれる部位を内包するように環状の導電体を形成し、
前記中底の少なくとも前足底部は、表裏において導電性を有するように形成されており、当該中底の前足底部とアウトソールが前記導電体を介して電気的に導通していることを特徴とする静電気帯電防止靴。
【請求項2】
前記環状の導電体は、環状に形成するために必要な最小長さよりも、1〜5mm程度長く形成されていることを特徴とする請求項1記載の静電気帯電防止靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−228850(P2008−228850A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−69857(P2007−69857)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(391009372)ミドリ安全株式会社 (201)
【Fターム(参考)】