説明

静電誘導型変換素子

【課題】機械―電気変換効率の高い静電誘導型変換素子を提供する。
【解決手段】電気エネルギーと運動エネルギーとを変換する静電誘導型変換素子1は、一主面が導体からなる基材21と、該主面上に形成された誘電分極体10と、誘電分極体10の表面10sと対向配置され、表面10sとの対向面積が変化するように誘電分極体10と相対運動する電極22とを備え、誘電分極体10は結晶配向性を有する強誘電体からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気エネルギーと運動エネルギーとを変換する静電誘導型変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
誘電体を帯電させて半永久的に静電場を発生させることを可能としたエレクトレットを用いて、静電誘導により運動エネルギーと電気エネルギーとを変換する静電誘導型変換素子が提案されている。
【0003】
現在、エレクトレットに用いられる誘電体としては、ポリテトラフルオロエチレンやテフロン(登録商標)、サイトップ(登録商標)等のフッ素系樹脂が主に用いられている(特許文献1〜4)。
【0004】
しかしながら、樹脂材料は耐熱性に問題があり、樹脂材料の耐熱温度以上(例えば150℃以上)の温度での使用環境に適用することができない。また、エレクトレット材としては、帯電後の表面電荷密度が高いほど、また、誘電率が低いほど好ましいが、これらの樹脂材料は、誘電率は低いものの、表面電荷密度はあまり高くすることができない。現在までの報告では、フッ素系樹脂材料の表面電荷密度は、一般に0.005μC/cm程度、高いものでも0.15μC/cm程度である。
【0005】
これに対し、特許文献5には、高分子材料に比して耐熱性が良好で、且つ、表面電荷密度の高いエレクトレット材として、強誘電体からなる誘電分極板を用いた機械電気変換素子(静電誘導型変換素子)が開示されている。また、特許文献6には、発電用途の静電機器において、エレクトレットの空気による影響を回避する構造において、請求項4及び段落に、エレクトレット材としてポーリングした強誘電体を用いること、そしてその発電量が大きいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−180450号公報
【特許文献2】特開2007−312551号公報
【特許文献3】特開2008−266563号公報
【特許文献4】特開2010−136598号公報
【特許文献5】特開2007−298297号公報
【特許文献6】特開2010−98925号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
強誘電体の表面電荷密度は、その残留分極値がひとつの目安となる。一般に、強誘電体は残留分極値が大きく、10μC/cm以上であると考えられるため、高分子材料に比して格段に大きな機械電気変換効率を達成可能と考えられる。しかしながら、特許文献5及び特許文献6では、未だ充分な機械電気変換効率が得られていない。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、機械−電気変換効率の高い静電誘導型変換素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の静電誘導型変換素子は、電気エネルギーと運動エネルギーとを変換する静電誘導型変換素子であって、一主面が導体からなる基材と、該主面上に形成された誘電分極体と、該誘電分極体の前記主面と反対側の表面と対向配置され、前記表面との対向面積が変化するように前記誘電分極体と相対運動する電極とを備え、
前記誘電分極体が結晶配向性を有する強誘電体からなる(不可避不純物を含んでもよい)ことを特徴とするものである。
【0010】
ここで、結晶配向性を有するとは、Lotgerling法により測定される配向率Fが、80%以上であることと定義する。
配向率Fは、下記式で表される。
F(%)=(P−P0)/(1−P0)×100・・・(i)
式(i)中、Pは、配向面からの反射強度の合計と全反射強度の合計の比である。(001)配向の場合、Pは、(00l)面からの反射強度I(00l)の合計ΣI(00l)と、各結晶面(hkl)からの反射強度I(hkl)の合計ΣI(hkl)との比({ΣI(00l)/ΣI(hkl)})である。例えば、ペロブスカイト結晶において(001)配向の場合、P=I(001)/[I(001)+I(100)+I(101)+I(110)+I(111)]である。
P0は、完全にランダムな配向をしている試料のPである。
完全にランダムな配向をしている場合(P=P0)にはF=0%であり、完全に配向をしている場合(P=1)にはF=100%である。
【0011】
前記強誘電体の分極方向は略一様であることが好ましく、該分極方向は、前記強誘電体の厚み方向であることが好ましい。ここで、「分極方向が略一様である」とは、分極軸の向きが80%以上揃っていることを意味するものとする。
【0012】
本発明の静電誘導型変換素子において、前記強誘電体が、単結晶であることが好ましい。また、強誘電体の残留分極値が10μC/cm以上であり、比誘電率が400以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明の静電誘導型変換素子の好ましい態様としては、前記電極が、前記表面と平行な方向に相対運動する態様が挙げられる。
【0014】
前記強誘電体の結晶構造は、ペロブスカイト構造、ビスマス層状構造、タングステンブロンズ構造のいずれかであることが好ましく、前記強誘電体としては、鉛を含まないペロブスカイト型酸化物を主成分とすることが好ましい。かかるペロブスカイト型酸化物としては、ビスマス含有ペロブスカイト型酸化物が好ましい。
【0015】
前記強誘電体の好ましい態様としては、前記基材上に成膜された強誘電体膜が挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の静電誘導型変換素子は、誘電分極体として、結晶配向性を有する強誘電体からなる(不可避不純物を含んでもよい)エレクトレット材を用いている。かかる構成によれば、残留分極値の大きい強誘電体を、更に、配向させて誘電分極体とすることにより、非常に大きな表面電荷密度を有するのみならず、誘電率を減少させて、より大きな機械―電気変換特性を達成することができる。また、強誘電体として、ペロブスカイト型酸化物等の無機材料を用いた構成では、樹脂材料に比して高い耐熱性を有し、且つ、機械−電気変換効率の高い静電誘導型変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る一実施形態の静電誘導型発電素子の構成を示す厚み方向概略断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1を参照して、本発明の静電誘導型変換素子について説明する。図1は、本発明の一実施形態の静電誘導型変換素子の概略断面図である。視認しやすくするために各部の構成要素の縮尺は適宜変更して示してある。
【0019】
図1に示されるように、静電誘導型変換素子1は、下部電極(基材)21と、下部電極21上に形成された、結晶配向性を有する強誘電体からなる(不可避不純物を含んでもよい。)エレクトレット(誘電分極体)10と、エレクトレット10の表面10sと離間距離gを有するギャップ空間を介して対向配置され、且つ、エレクトレット10の表面10sとの対向面積Aが変化するように相対運動する対向電極(電極)22とを備えている。エレクトレット10は、表面10s付近に電荷が多数存在しており、下部電極21と対向電極22は、負荷30に電気的に接続されている。
【0020】
静電誘導型変換素子1は、電気エネルギーと運動エネルギーとを変換する静電誘導型変換素子であり、表面10sに電荷が多数存在するエレクトレット10により形成される静電場によって対向電極22に誘導電荷が静電誘導され、対向電極22との対向面積Aを変化させるように、エレクトレット10と対向電極22とが相対運動することによって、外部回路(負荷30)に交流電流を発生させることができる。
【0021】
相対運動は、対向面積Aが変化する運動であれば特に制限されず、直線運動や回転運動等、効率良く面積変化を生じる運動を選択することができる。相対運動の方向は、より効率の良い面積変化を生じることからエレクトレット10の表面10sに対して対向電極22の表面(エレクトレット10との対向面)が平行となる方向であることが好ましい。
【0022】
下部電極21としては、一主面(表面)が、該主面に形成されるエレクトレット10の結晶配向性を損なわない導体からなる基材であれば特に制限されない。下部電極21としては、Au,Pt,Ir,Al,Ta,Cr,Fe,Ni,Ti,Cu,IrO,RuO,LaNiO,及びSrRuO等の金属又は金属酸化物、及びこれらの組合せが挙げられる。エレクトレット10が下部電極21上に成膜された強誘電体膜である場合は、成膜する強誘電体膜と格子整合性が良好なものであることが好ましい
対向電極22としては、導体であれば特に制限されず、通常電極として使用される金属等を適宜用いることができる。対向電極22としては、Au,Pt,Ir,Al,Ta,Cr,Fe,Ni,Ti,Cu,IrO,RuO,LaNiO,及びSrRuO等の金属又は金属酸化物、及びこれらの組合せが挙げられる。
【0023】
下部電極21と対向電極22の厚みは特に制限なく、静電誘導により発生した電荷を取り出すに充分な導電性を有するための最低の厚みがあればよい。その厚みは電極材料の導電率や静電誘導型変換素子1全体の大きさによって決めることができ、例えば、50〜10000nmであることが好ましい。また、各電極は多層構造であってもよい。
【0024】
静電誘導型変換素子1において、エレクトレット10を構成する強誘電体は、結晶配向性を有する強誘電体であれば特に制限されず、有機強誘電体であっても無機強誘電体であっても構わない。より高い機械―電気変換効率が得られることから、強誘電体としては、残留分極値の高い強誘電体を用いることが好ましい。また、耐熱性の観点からは、無機強誘電体であることが好ましく、更にキュリー温度の高い強誘電体であることが好ましい。
【0025】
エレクトレット10の機械―電気変換特性(最大発電出力Pmax)は、下記式(1)により定義される。
【数1】

【0026】
(σ はエレクトレットの表面電荷密度、n は極数すなわちエレクトレットの数、A(t) はエレクトレットと対向する導体の面積(時間の関数)、f は導体の往復運動の周波数、d はエレクトレットの厚み、g はエレクトレットと導体との距離、ε はエレクトレット材料の比誘電率である。)
【0027】
上記式(1)より、より高い機械―電気変換特性が得られるエレクトレット10としては、表面電荷密度σが高く、厚みが厚く、比誘電率の小さい強誘電体であることが好ましい。
【0028】
強誘電体において、表面電荷密度σは、残留分極値の大きさにより見積もることができる。従って、エレクトレット10は、大きな残留分極値を与えうる無機強誘電体を主成分とすることが好ましい。
【0029】
大きな残留分極値を与えうる(強誘電性の優れた)無機強誘電体の結晶構造としては、結晶構造が、ペロブスカイト構造、ビスマス層状構造、タングステンブロンズ構造が挙げられ、中でもペロブスカイト構造が好ましい。
【0030】
また、より大きな残留分極値を与えるためには、エレクトレット10は、強誘電体の分極軸の向きが略一様であり、且つ、その向きが厚み方向に対して平行に近いものであることが好ましい。本実施形態のエレクトレット10は結晶配向性を有している。従って、強誘電体の分極軸の向きが厚み方向に対して略平行に揃うように結晶配向性を制御した構成とすることにより、大きな残留分極値を与えるエレクトレット10とすることができる。かかる構成の場合、単結晶又はエピタキシャル膜であることがより好ましい。
【0031】
強誘電性の優れたペロブスカイト型酸化物としては、鉛系ペロブスカイト型酸化物が知られているが、環境負荷の観点から、鉛を含まないペロブスカイト型酸化物を主成分とするものが好ましく、ビスマス含有ペロブスカイト型酸化物がより好ましい。
【0032】
ペロブスカイト型酸化物の具体例としては、鉛系では、チタン酸鉛、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)、ジルコニウム酸鉛、チタン酸鉛ランタン、ジルコン酸チタン酸鉛ランタン、マグネシウムニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、ニッケルニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛、亜鉛ニオブ酸ジルコニウムチタン酸鉛等の鉛含有化合物、及びこれらの混晶系;
非鉛系では、チタン酸バリウム(BTO)、チタン酸ストロンチウムバリウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸ビスマスカリウム、ニオブ酸ナトリウム、ニオブ酸カリウム、ニオブ酸リチウム等、及びこれらの混晶系、BiFeO(BFO)等下記一般式(PX)で表される組成を有するペロブスカイト型酸化物(不可避不純物を含んでもよい)等が挙げられる。
(Bi,A1−x)(B,C1−y)O・・・(PX)
(式(PX)中、AはPb以外の平均イオン価数が2価のAサイト元素、Bは平均イオン価数が3価のBサイト元素,Cは平均イオン価数が3価より大きいBサイト元素であり、A,BおよびCは各々1種又は複数種の金属元素である。Oは酸素。B及びCは互いに異なる組成である。0.6≦x≦1.0、x−0.2≦y≦x。Aサイト元素の総モル数及びBサイト元素の総モル数の、酸素原子のモル数に対する比は、それぞれ1:3が標準であるが、ペロブスカイト構造を取り得る範囲内で1:3からずれてもよい。)
【0033】
一方、残留分極値が高くても、比誘電率が大きくなるとその機械―電気変換効率は小さくなる。従って、エレクトレット10としては、強誘電性の優れる構成のうち、より比誘電率が小さくなるように組成設計された強誘電体とすることが好ましい。例えば、PZT等のペロブスカイト型酸化物においては、MPB近傍組成(Zr:Ti=52:48)をはずすことにより、残留分極値が10μC/cm以上であり、且つ、比誘電率が400以下である強誘電体とすることができ、好ましい。
【0034】
エレクトレット10の厚みdの好適な値は、静電誘導型変換素子の用途によって異なる。静電誘導型変換素子1の主な用途としては、発電素子や、マイクロフォン,圧力センサ,加速度センサ,地震計等のセンサ及びその応用素子が挙げられる。発電量を大きくする観点からは、上記したように、エレクトレット10の厚みは、厚い方が好ましい。用途に応じ、求められる発電量及び大きさを考慮し、エレクトレット10の厚みは設計されることが好ましい。本実施形態の静電誘導型変換素子は、機械―電気変換効率が高いため、従来のエレクトレット材料に比して、比較的薄い膜厚にて同等の発電量を達成することができる。
【0035】
小型化の観点からは、エレクトレット10は、下部電極21上に形成された強誘電体膜であることが好ましい。強誘電体膜の成膜方法は特に制限されないが、分極処理をしなくても分極方向を略一様にすることが可能な気相成膜方法を用いることが好ましい。かかる成膜方法としては、プラズマを用いたスパッタ法が挙げられる。分極処理については以下に述べる。
【0036】
上記したように、エレクトレット10は、表面10s付近に電荷が多数存在している。本実施形態において、エレクトレット10は結晶配向性を有する強誘電体である。従って、表面10付近に電荷を多数存在させるには、強誘電体を分極させればよい。分極処理を施すことにより、表面10s付近に電荷を多数存在させることができ、エレクトレット10とすることができる。
【0037】
エレクトレット10の分極方法としては、特に制限されず、一般的な方法であるコロナ放電処理等を挙げることができる。脱分極による特性劣化を防止する観点からは、エレクトレット10を構成する強誘電体の抗電界値は高い方が好ましい。耐熱性について述べた箇所において、エレクトレット10を構成する強誘電体のキュリー温度は高い方が好ましいことを述べたが、脱分極による特性劣化の観点からも、キュリー温度は高い方が好ましい。
【0038】
エレクトレット10として強誘電体膜を用いる構成においては、スパッタ法により成膜した強誘電体膜は、その膜の組成にもよるが、特段分極処理を施さずとも、分極軸の方向が自ずと略一様になった結晶配向性を有する強誘電体膜となる傾向がある。例えば、高い強誘電性を有するチタン酸ジルコン酸鉛(Pb(Zr,Ti)O:PZT)は、スパッタ成膜後のas−depo状態において、自発分極軸が上向きに略一様に揃った膜(c軸配向膜<001>配向))となる。かかる成膜方法を用いることにより、分極処理を必要とせず、簡易なプロセスにて、高い表面電荷密度を有し、更に、誘電率の比較的小さいエレクトレット10を得ることができる。
【0039】
強誘電体からなるエレクトレット10において、強誘電性の高い構成とすればするほど、自発分極の値が大きくなり、エレクトレット10の表面10sと対向電極22との間のギャップ空間に高い電界を生じる。ギャップ空間に電界の大きさがkV/mm以上となるような高電界が生じる場合は、対向電極22から放電を生じてエレクトレット10の表面10sが帯電することがある。その場合、エレクトレット10の表面10sに、表面帯電電荷を生じることになり、強誘電体の高い分極特性を有効に利用することができなくなる。従って、このような場合は、表面帯電電荷の除去処理を行うことが好ましい。
【0040】
表面帯電電荷の除去処理としては、分極したエレクトレット10の表面10sを絶縁コート膜で覆う処理や、対向電極22とエレクトレット10sとの間のギャップ空間を真空化する処理や、絶縁ガスや絶縁流体を満たす処理等が挙げられる。
【0041】
かかる絶縁コート膜としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のポリマー膜や、SiO等の無機絶縁膜が挙げられる。また、絶縁ガスとしては、窒素ガス、六フッ化硫黄ガス等が挙げられ、絶縁流体としては、シリコンオイル等が挙げられる。
静電誘導型変換素子1は、以上のように構成されている。
【0042】
静電誘導型変換素子1は、上記構成を有していればその製造方法は特に限定されない。下部電極20上への強誘電体(分極処理前のエレクトレット)10の形成方法としては、強誘電体10の態様によって適宜好適な方法を用いればよい。
【0043】
例えば、強誘電体10がバルク体(単結晶又はセラミックス)の場合には、下部電極21の一主面に、強誘電体10を貼付すればよい。この際、強誘電体10の貼付面は研磨されて平坦化されているようにすることが好ましい。
【0044】
また、強誘電体10が膜である場合には、上記したスパッタ法等の通常の薄膜形成技術により成膜することができる。薄膜形成技術によれば、比較的容易に配向制御が可能であり、スパッタ法による成膜における分極処理に関する利点は既に述べたとおりである。
【0045】
一方、上述のように、静電誘導型変換素子1としては、強誘電体10の膜厚は厚い方がその発電量は大きくなるが、通常の薄膜形成技術によって可能な膜厚には限界がある。従って、強誘電体10を、例えば10μmを超えるような厚膜とする場合には、スクリーン印刷法やエアロゾルデポジション法(AD法)、水熱合成法等により成膜することが好ましい。
【0046】
表1は、種々の強誘電体を用いてエレクトレット10を形成した場合の、静電誘導型発電素子の発電量を、表面電荷密度及び誘電率の値を上記式(1)に代入して見積もった値を示したものである。表1において、発電量は、式(1)において、d,n,A,f,g値を共通とし、フッ素系ポリマー(サイトップ(登録商標),旭硝子社製)からなるエレクトレット10として得られた発電量を基準値(1)とした場合の相対発電量として示してある。
【0047】
また、表1の強誘電体の組成は、PZTセラミクス及びc−PZTはPb(Ti0.5,Zr0.5)O,c−BFO−BTOは(Bi0.8,Ba0.2)(Fe0.8,Ti0.2)O,BFO−BTOセラミクスは(Bi0.7,Ba0.3)(Fe0.7,Ti0.3)Oとした。c−との表記はc軸配向を意味する。
【0048】
表1に示されるように、無配向のPZTセラミクスやBFO−BTOセラミクス,及びPVDF(ポリフッ化ビニリデン)についてはサイトップの発電量を大きく下回る発電量しか得られなかったが、各種c軸配向強誘電体膜及び強誘電体単結晶(3軸配向)については、サイトップに比して1桁から2桁程度大きい発電量が見積もられた。
【表1】

【0049】
静電誘導型変換素子1は、誘電分極体(エレクトレット)10として、結晶配向性を有する強誘電体からなる(不可避不純物を含んでもよい)エレクトレット材を用いている。かかる構成によれば、残留分極値の大きい強誘電体を、更に、配向させて誘電分極体とすることにより、非常に大きな表面電荷密度を有するのみならず、誘電率を減少させて、より大きな機械―電気変換特性(発電特性)を達成することができる。また、強誘電体として、ペロブスカイト型酸化物等の無機材料を用いた構成では、樹脂材料に比して高い耐熱性を有し、且つ、機械−電気変換効率の高い静電誘導型変換素子1とすることができる。
【0050】
「設計変更」
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、発明の要旨を変更しない限りにおいて、種々変更することが可能である。
【0051】
例えば、静電誘導型変換素子の態様として、エレクトレット10が複数の細片状であり、下部電極21及び対向電極22もそれに対応した数備えられた構成としてもよい。かかる構成では、基板上に複数の下部電極21及びその表面にエレクトレット10が形成された態様とすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の静電誘導型変換素子は、発電素子や、マイクロフォン,圧力センサ,加速度センサ,地震計等のセンサ及びその応用素子として好ましく利用できる。
【符号の説明】
【0053】
1 静電誘導型変換素子
10 エレクトレット(強誘電体)
21 下部電極(基材)
22 対向電極(電極)
30 負荷
A 対向面積

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気エネルギーと運動エネルギーとを変換する静電誘導型変換素子であって、
一主面が導体からなる基材と、
該主面上に形成された誘電分極体と、
該誘電分極体の前記主面と反対側の表面と対向配置され、前記表面との対向面積が変化するように前記誘電分極体と相対運動する電極とを備え、
前記誘電分極体が結晶配向性を有する強誘電体からなる(不可避不純物を含んでもよい)ことを特徴とする静電誘導型変換素子。
【請求項2】
前記強誘電体の分極方向が略一様であることを特徴とする請求項1に記載の静電誘導型変換素子。
【請求項3】
前記分極方向が、前記強誘電体の厚み方向であることを特徴とする請求項2に記載の静電誘導型変換素子。
【請求項4】
前記強誘電体が、単結晶であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の静電誘導型変換素子。
【請求項5】
前記強誘電体の厚み方向の残留分極値が10μC/cm以上であり、比誘電率が400以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の静電誘導型変換素子。
【請求項6】
前記電極が前記表面と平行な方向に相対運動することを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の静電誘導型変換素子。
【請求項7】
前記強誘電体の結晶構造がペロブスカイト構造、ビスマス層状構造、タングステンブロンズ構造のいずれかであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の静電誘導型変換素子。
【請求項8】
前記強誘電体が、鉛を含まないペロブスカイト型酸化物を主成分とすることを特徴とする請求項1〜7に記載の静電誘導型変換素子。
【請求項9】
前記強誘電体が、ビスマス含有ペロブスカイト型酸化物を主成分とすることを特徴とする請求項8に記載の静電誘導型変換素子。
【請求項10】
前記強誘電体が、前記基材上に成膜された強誘電体膜であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の静電誘導型変換素子。

【図1】
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【公開番号】特開2012−120388(P2012−120388A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−269990(P2010−269990)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)