説明

静電霧化装置

【課題】 放電極に結露等させた水を基にして帯電微粒子水を生成する静電霧化装置において、テイラーコーンを安定した寸法形状で形成し、これにより帯電微粒子水を安定的に生成する。
【解決手段】 放電極21と、放電極21に空気中の水分を結露または氷結させて水分を供給する水供給手段25とを備え、放電極21に電圧を印加することで放電極21が保持する水分を霧化させる静電霧化装置1である。上記放電極21は、供給された水分を基にテイラーコーンTを形成させる先端電極部21aと、先端電極部21aに連なる柱状の基部21bと、先端電極部21aと基部21bとの境界位置にて該先端電極部21aよりも大径に設けた水切り部21cとから成る。また、先端電極部21aの周側面は、側方に膨出するように形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放電極に結露等させて供給した水を基にして帯電微粒子水を生成する静電霧化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ナノメータサイズの帯電微粒子水を生成することのできる静電霧化装置として、放電極と、放電極に空気中の水分を結露または氷結させて水分を供給する水供給手段とを備え、放電極に電圧を印加することで放電極上の水分を霧化させる構成のものが知られている(特許文献1参照)。上記構成の静電霧化装置は、使用者が水を供給せずとも継続的に帯電微粒子水を生成することができ、非常に利便性が高いものになっている。
【0003】
図7には、上記構成の従来の静電霧化装置1が備える放電極21を示している。放電極21は、供給された水分を基にテイラーコーンTを形成させる先端電極部21aと、先端電極部21aに連なる柱状の基部21bとを有するものである。この放電極21で帯電微粒子水を生成するための適量な水分は、通常の使用環境下であれば先端電極部21aだけで生成可能である。先端電極部21aにおいては、適量の水分が供給されることで、図7(b)に示すような適度な尖頭型のテイラーコーンTが形成される。
【0004】
ところで、実際には、先端電極部21a側よりもむしろ基部21b側において大量の水分が生成される。これは、放電極21が基部21b側から冷却されていくことや、先端電極部21aよりも基部21bのほうが大きな表面積を有することによる。基部21b側で大量に生じた水分は、放電極21への電圧印加で発生する電界によって先端側に引き寄せられ、図7(b)に矢印で示すように先端電極部21aにまで移動しようとする。そして、基部21b側で生じた大量の水分が先端電極部21a側の水分に合流すると、図7(c)に示すように、非常に大きくて不安定なテイラーコーンTが形成される。テイラーコーンTが大型化して不安定になると、帯電微粒子水を安定的に生成することが困難になるといった問題が生じる。
【特許文献1】特開2006−191426号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題点に鑑みて発明したものであって、放電極に結露等させた水を基にして帯電微粒子水を生成する静電霧化装置において、テイラーコーンを安定した寸法形状で形成し、これにより帯電微粒子水を安定的に生成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明を、放電極21と、放電極21に空気中の水分を結露または氷結させて水分を供給する水供給手段25とを備え、放電極21に電圧を印加することで放電極21が保持する水分を霧化させる静電霧化装置1において、上記放電極21は、供給された水分を基にテイラーコーンTを形成させる先端電極部21aと、先端電極部21aに連なる柱状の基部21bと、先端電極部21aと基部21bとの境界位置にて該先端電極部21aよりも大径に設けた水切り部21cとから成り、上記先端電極部21aの周側面21eは、上記先端電極部21aの頂点Pと底面Sを錐体の頂点と底面にして描いた錐体図形Cの周側面よりも、側方に膨出していることを特徴としたものとする。
【0007】
上記構成の静電霧化装置においては、先端電極部21aよりも大径の水切り部21cを具備することにより、基部21b側で生じた余剰な結露水W2が先端電極部21a側の結露水W1と合流することを防止することができる。仮に、基部21b側の余剰な結露水W2が水切り部21cを乗り越えて先端電極部21a側の結露水W1と合流した場合であっても、大径の水切り部21cとの間で接触角θを維持しようとするテイラーコーンTの表面張力は、合流した結露水W2に相当する分量の余剰水W3をすぐに分離させるように作用する。したがって、放電極21の先端電極部21aに形成されるテイラーコーンTを、安定して帯電微粒子水Mを供給する一定の大きさおよび形状に維持することが可能となる。
【0008】
加えて、先端電極部21aの周側面21eを錐体図形Cの周側面よりも側方に膨出させてあることで、放電極21に結露等を生じさせ始めてから、帯電微粒子水Mを安定的に生成できる所定寸法形状のテイラーコーンTを形成するまでの立ち上げ時間を、短縮することが可能になっている。
【0009】
また、上記放電極21の先端電極部21aの頂部に、コロナ放電用の針状放電部40を設けることも好適である。このようにすることで、電極21の先端電極部21aにテイラーコーンTを形成せずに電圧を印加した場合には、放電極21の針状放電部40からコロナ放電を発生させ、マイナスイオンを放出することができる。したがって、先端電極部21aで帯電微粒子水Mを生成するモードと、先端電極部21aで上記マイナスイオンを放出するモードとを、切換えて用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明は、放電極に結露等させた水を基にして帯電微粒子水を生成する静電霧化装置において、先端電極部と基部との境界位置にて該先端電極部よりも大径に設けた水切り部を備えたことで、テイラーコーンを安定した寸法形状で形成し、これにより帯電微粒子水を安定的に生成することができるという効果を奏する。加えて、請求項1に係る発明は、先端電極部の周側面を、上記先端電極部の頂点と底面を錐体の頂点と底面にして描いた錐体図形の周側面よりも、側方に膨出させたことで、放電極に結露等を生じさせ始めてから、帯電微粒子水を安定的に生成できる所定寸法形状のテイラーコーンを形成するまでの立ち上げ時間を、短縮することができるという効果を奏する。
【0011】
また請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の効果に加えて、帯電微粒子水を生成するモードとマイナスイオンを放出するモードとを、切換えて用いることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を添付図面に示す実施形態に基づいて説明する。図1には、本発明の実施形態における一例の静電霧化装置1を示している。本例の静電霧化装置1は、細長い棒状の放電極21と、支持枠20によって放電極21の突出方向に所定の間隔を隔てて対向配置されるリング状の対向電極22と、上記放電極21を冷却するペルチェユニット31とを備えて構成される。放電極21と対向電極22とは高電圧印加部32を介して電気接続させており、高電圧印加部32の電圧印加によって、放電極21には対向電極22との間でマイナスの高電圧が印加されるようになっている。
【0013】
上記放電極21は、ペルチェユニット31によって冷却されることでその外周面に空気中の水分が結露または氷結して供給される。つまり、上記ペルチェユニット31により本発明の水供給手段25を構成している。ここで供給された水分に対して電極21,22間で高電圧を印加することで、水の補給なしで、ナノメータサイズの帯電微粒子水Mが生成可能となっている。なお、氷結によって得られた水分も、放電による高温等で溶けたうえで静電霧化に供される。
【0014】
上記ペルチェユニット31は、一対のペルチェ回路板31a,31b間に熱電素子31cを多数挟持させるとともに、隣接する熱電素子31c同士を両側のペルチェ回路板31a,31bの回路で電気的に接続させて形成している。図示例では、上側のペルチェ回路板31aが冷却側であり、下側のペルチェ回路板31bが放熱側である。冷却側のペルチェ回路板31aには絶縁板31dを貼り合せており、この冷却側の絶縁板31dの略中央部に上記放電極21を立設している。また、放熱側のペルチェ回路板31bには放熱フィン31eを貼り合わせている。
【0015】
上記放電極21は、供給された水分を基にテイラーコーンTを形成させる先端電極部21aと、先端電極部21aに連なる柱状の基部21bと、先端電極部21aと基部21bとの境界位置にて該先端電極部21aおよび該基部21bよりも大径に設けた鍔状の水切り部21cとから成る。図2(b)に拡大して示すように、上記水切り部21cの先端電極部21a側を向く端面21dは、放電極21の軸線L1と略直交するように形成している。
【0016】
したがって、図2(b)に示すように、放電極21を冷却することによって該放電極21の先端電極部21a側で生成した結露水W1は、水切り部21cの端面21dに対して、接触角θ(<90°)方向の稜線L2を結んだ尖頭型のテイラーコーンTを形成することになる。また、図2(c)に示すように、基部21b側で生成した余剰な結露水W2は、放電極21と対向電極22との間で生じる電界によって基部21b側から先端電極部21a側に引き寄せられる。しかし、先端電極部21aと基部21bとの境界には大径の水切り部21cを設けてあるので、余剰な結露水W2が水切り部21cを乗り越えることは防止される。
【0017】
また、仮に余剰な結露水W2が水切り部21cを乗り越えて先端電極部21a側のテイラーコーンTに合流したとしても、テイラーコーンTの表面張力のバランスが崩れることで、すぐに余剰水W3として分離して飛散する(図2(c)参照)。これは、テイラーコーンTが水切り部21cの端面21dとの間で上記接触角θを維持しようとするからである。こうして、上記テイラーコーンTを、安定して帯電微粒子水Mを供給する一定の大きさおよび形状に維持することができる。
【0018】
したがって、高温高湿状態で上記ペルチェユニット31を長時間作動させた場合のように、基部21b側に大量の結露または氷結が発生しても、先端電極部21a側に余剰な結露水W2が合流してテイラーコーンTが不安定化することはなく、帯電微粒子水Mを安定的に供給することが可能である。
【0019】
これに対し、水切り部21cを設けない従来の放電極21では、図7(c)に示すように、基部21b側の余剰な水分がテイラーコーンTに合流すると、合流後のテイラーコーンTは、先端電極部21aに対して接触角θを保ちながら成長し、結果として先端電極部21aを遙かに超えた不安定な寸法形状のものになる。大型化したテイラーコーンTは対向電極22側に向けても成長して更に不安定化するので、帯電微粒子水Mを安定的に生成することができなくなる。
【0020】
また、本例の上記先端電極部21aにおいては、軸線L1を囲むように形成される周側面21eを側方に膨出させることで、放電極21を冷却し始めてから、帯電微粒子水Mを安定的に生成できる所定寸法形状のテイラーコーンTを形成するまでの立ち上げ時間を短縮している。図3には比較例を示しているが、例えばこの比較例のように、先端電極部21aの周側面21eを円錐図形の周側面に沿うように形成した場合には、電極21を冷却し始めてから、帯電微粒子水Mを安定的に生成することが可能な寸法形状のテイラーコーンTを形成するまでの立ち上げ時間が長くなってしまう。
【0021】
これに対して、本例の先端電極部21aの周側面21eは、該先端電極部21aの頂点Pと底面Sを錐体の頂点と底面にして描いた円錐状の錐体図形C(図2(a)参照)の周側面よりも、側方に膨出するように形成している。具体的には、先端電極部21aの周側面21eを、先端電極部21aの底面S上に中心点P1を有する半球状の凸曲面S1に形成している。上記形状によれば、水切り部21cの端面21dとの間で接触角θを維持する所定寸法形状のテイラーコーンTが、半球状の先端電極部21aに沿って速やかに形成される。しかも、このテイラーコーンTは一度形成されると崩れ難く、水切り部21cの端面21dとの間で接触角θを維持しながら安定的に帯電微粒子水Mを生成することができる。
【0022】
図4(a)、(b)には、先端電極部21aの各種変形例を示している。図4(a)の変形例では、先端電極部21aの周側面21eを、先端電極部21aの底面Sよりも頂点P側に寄った軸線L1上の点を中心点P2とする略半球状の凸曲面S2と、上記凸曲面S2の最大径部分から裾を広げるように滑らかに連続する円錐台側面状の曲面S3とで形成している。また、図4(b)の変形例では、先端電極部21aの周側面21eを、先端電極部21aの底面Sよりも頂点P側に寄った軸線L1上の点を中心点P2とする略半球状の凸曲面S2と、上記凸曲面S2の最大径部分から裾を広げるように連続する円錐台側面状の曲面S3と、先端電極部21aの底面S上の中心点P1から等間隔を隔てながら曲面S3の最大径部分から滑らかに連続して形成される凸曲面S4とで形成している。
【0023】
いずれの変形例においても、所定寸法形状のテイラーコーンTを先端電極部21aに沿って速やかに形成することができ、しかも、一度形成したテイラーコーンTは崩れ難く、水切り部21cの端面21dとの間で接触角θを維持しながら安定的に帯電微粒子水Mを生成することができる。
【0024】
上記構成から成る本例の静電霧化装置1は、例えばドライヤ11に好適に搭載される。図5は本発明の静電霧化装置1を搭載したドライヤ11の縦断面図である。このドライヤ11は、送風路12および該送風路12から分岐した分岐路13を内部に形成した本体ケース14と、上記送風路12内に配置されたモータファンから成る送風手段17と、上記送風路12内の送風手段17よりも下流側に配置された温風生成用の加熱部18と、上記分岐路13内に配置された上記静電霧化装置1とから成る。上記構成により、使用者に向けて、送風路12の下流端開口から冷風または温風の少なくとも一方を吹出するとともに、分岐路13の下流端開口から帯電微粒子水Mを吐出するようになっている。
【0025】
次に、本発明の実施形態における他例の静電霧化装置1について、図6に基づいて説明する。なお、上記した一例の静電霧化装置1と同様の構成については詳しい説明を省略し、一例とは相違する特徴的な構成についてのみ以下に詳述する。
【0026】
本例の静電霧化装置1においては、放電極21の先端電極部21aの頂部に、コロナ放電用の針状放電部40を設けている。針状放電部40は、放電極21の軸線L1をその軸線として形成した円錐台状の突起体であり、先端電極部21aと一体に形成している。図示例では、針状放電部40の軸線L1を挟む両側の接線が交差する角度αを略45°としているが、この角度αを35°等の他の角度に形成してもよい。
【0027】
上記構成の静電霧化装置1によれば、放電極21の先端電極部21aにテイラーコーンTを形成することなく(即ち、先端電極部21aを冷却して水を供給することなく)、放電極21と対向電極22との間に高電圧を印加した場合には、放電極21の針状放電部40からコロナ放電を発生させることができる。コロナ放電によって空気中の酸素がマイナス帯電し、このマイナス帯電した酸素が空気中の微小な水と結合することで、マイナスイオンとなって放出される。したがって、本例の静電霧化装置1を例えばドライヤ11に搭載したときには、分岐路13の下流端開口から帯電微粒子水Mを放出するモードと、分岐路13の下流端開口から上記マイナスイオンを放出するモードとを、切換えて用いることができる。また、上記針状放電部40は、帯電微粒子水Mを放出するモードにおいてはテイラーコーンTを所定の尖頭型で安定化することにも寄与する。
【0028】
なお、同様の針状放電部40を、一例にて図4に記載した変形例に設けた場合であっても、同様の作用効果が得られることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態における一例の静電霧化装置の概略断面図である。
【図2】(a)〜(c)は、同上の静電霧化装置に備えた放電極の要部拡大図である。
【図3】(a)〜(c)は、同上の放電極の比較例を示す要部拡大図である。
【図4】(a)、(b)は、同上の放電極の変形例を示す要部拡大図である。
【図5】同上の静電霧化装置を搭載したドライヤの断面図である。
【図6】本発明の実施形態における他例の静電霧化装置に備えた放電極の要部拡大図である。
【図7】(a)〜(c)は、従来の静電霧化装置に備えた放電極を示す要部拡大図である。
【符号の説明】
【0030】
1 電霧化装置
21 放電極
21a 先端電極部
21b 基部
21c 水切り部
21e 周側面
25 水供給手段
40 針状放電部
C 錐体図形
P 頂点
S 底面
M 帯電微粒子水
T テイラーコーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放電極と、放電極に空気中の水分を結露または氷結させて水分を供給する水供給手段とを備え、放電極に電圧を印加することで放電極が保持する水分を霧化させる静電霧化装置において、上記放電極は、供給された水分を基にテイラーコーンを形成させる先端電極部と、先端電極部に連なる柱状の基部と、先端電極部と基部との境界位置にて該先端電極部よりも大径に設けた水切り部とから成り、上記先端電極部の周側面は、上記先端電極部の頂点と底面を錐体の頂点と底面にして描いた錐体図形の周側面よりも、側方に膨出していることを特徴とする静電霧化装置。
【請求項2】
上記放電極の先端電極部の頂部に、コロナ放電用の針状放電部を設けたことを特徴とする請求項1に記載の静電霧化装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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