説明

非クロム型表面処理金属材

【課題】 6価クロムを含まずに、耐食性が良好で、しかも防錆皮膜の下地金属材への密着性が良好な防錆処理金属材を提供する。
【解決手段】 本発明の非クロム型表面処理金属材は、金属材の上層に、固形分として有機樹脂100重量部とりん酸化合物0.01〜20重量部(PO4 として)を含み、好ましくは微粒シリカ1〜500重量部を更に含有する厚さが0.1〜5μmの皮膜を有する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、家電用、建材用、自動車用等に用いられる、6価クロムを含有しないで耐食性に優れた非クロム型表面処理亜鉛系めっき鋼板を始めとする、非クロム型表面処理金属材に関する。
【0002】
【従来の技術】亜鉛めっき鋼板あるいは亜鉛合金めっき鋼板は、海水等の塩分を含む雰囲気又は高温多湿の雰囲気では、表面に白錆が発生して外観を著しく損ねたり、素地鉄面に対する防錆力が低下したりする。
【0003】白錆の防止には、従来よりクロメート系の防錆処理剤が利用されており、例えば特開平3−131370号公報には、オレフィン−α,β−エチレン性不飽和カルボン酸共重合体樹脂ディスパージョンに水分散性クロム化合物と水分散性シリカを含有させた樹脂系処理剤が記載されている。
【0004】このようなクロメート系処理剤による皮膜は、既知の処理剤の中で耐食性が最も良好なものとして認識されている。とは言え、クロメート処理による皮膜は有害元素であることが知られている6価クロムを含有しており、そのため6価クロムを含有しない無毒性又は低毒性の防錆亜鉛系めっき鋼板への要求が高まっている。
【0005】有害なクロムを含まないノンクロム防錆処理剤が、特開平8−239776号公報、特開平8−67834号公報に記載されており、これらでは防錆用成分として硫化物やイオウを用いている。しかし、イオウはもちろん硫化物の中には特有な臭気を放つものがあり、これらの処理剤の取扱いは必ずしも容易でなかった。
【0006】イオウ原子を含むが臭気性も毒性もないトリアジンチオール化合物を用いた処理剤も提案されており、例えば特開昭53−31737号公報には、ジチオール−S−トリアジン誘導体を添加した水溶性防食塗料が開示されている。ところが、この水溶性防食塗料は、軟鋼、銅、真ちゅうなどの防食を目的としており、特に基材が銅や真ちゅうの場合により密着しやすいように調製されている。従って、亜鉛等の金属表面に対する防錆剤としては不十分である。
【0007】特開昭61−223062号公報には、チオカルボニル基含有化合物と、水に難溶又は不溶性の有機化合物を混合して得られる金属との反応性エマルジョンが記載されている。しかし、このエマルジョンも、銅、ニッケル、スズ、コバルト、アルミニウム等及びそれらの合金と反応するものであり、亜鉛等の金属表面に対する防錆剤としてはやはり不十分である。
【0008】本願の出願人らは、特願平9−2557号でもって、亜鉛系めっき鋼板の防錆にも有効なトリアジンチオール含有防錆コーティング剤を開示した。しかし、トリアジンチオールは高価な化合物であり、そのためもっと安価な防錆処理剤が利用できることは有益なことである。
【0009】クロムを含有せず、トリアジンチオールも使用しない、亜鉛又は亜鉛合金の表面処理方法として、特開昭54−71734号公報及び特開平3−226584号公報に記載されているものがある。特開昭54−71734号公報に記載の処理法は、ミオイノシトールの2〜6個の結合りん酸エステル又はその塩類を0.5〜100g/lと、チタン弗化物及びジルコニウム弗化物のうちの少なくとも一方を金属換算で0.5〜30g/lと、チオ尿素又はその誘導体1〜50g/lとを含有する水溶液で、亜鉛又は亜鉛合金を表面処理するものである。この方法は、亜鉛表面に保護層としての不動態皮膜を形成するためにチタン弗化物又はジルコニウム弗化物を必要としている。特開平3−226584号公報では、Ni2+とCo2+の一方又は両方を0.02g/l以上と、アンモニア及び1級アミン基を有する化合物のうちの少なくとも1種とを含有しているpH5〜10の水溶液である表面処理剤が使用されている。この処理剤は、塗装密着性及び塗装後の耐食性をコバルト又はニッケルの析出によって付与するため、Ni2+とCo2+の一方又は両方を必要としている。これらの金属イオンを含有する処理剤は、廃水処理時の負荷が大きくなる等の不都合があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】このように、クロムを含まないこれまでの防錆剤は、耐食性の点でクロム含有防錆剤に及ばず、そのほかにも上述のように不都合な点があった。そこで、クロム含有防錆剤に取って代わり、しかも上述の不都合のない新しい防錆剤の開発が強く望まれていた。
【0011】このような要望を満たすための新しい技術として、本願の出願人らは先に、水性樹脂、チオカルボニル基含有化合物及びリン酸イオンを含み、且つ任意に微粒シリカを含む防錆コーティング剤(特願平10−36264号)を開発した。また、水性樹脂、チオカルボニル基含有化合物及び微粒シリカを含有し、リン酸イオンを含まない防錆コーティング剤(特願平10−36265号)、及び、水性樹脂とバナジウム酸化合物とを含み、且つ任意に、チオカルボニル基含有化合物、リン酸イオン及び微粒シリカのうちの少なくとも1種を更に含む防錆コーティングを開発した(特願平10−36267号)。
【0012】これらの新しい防錆コーティング剤は、クロムを含まず、且つ耐食性に優れているので、従来のクロメート系処理剤に代わって亜鉛めっき又は亜鉛合金めっき鋼板の防錆剤としての利用が期待される。
【0013】一方、様々な産業分野において、亜鉛めっき又は亜鉛合金めっき鋼板やその他の各種金属材が幅広く利用されており、そのため用途によっては耐食性とともに、コーティング剤から形成した塗膜の下地金属材への密着性が要求されることがある。そこで、耐食性が良好であるとともに、防錆用皮膜の下地金属材への密着性に優れた非クロム型処理金属材を提供しようというのが、本発明の目的である。
【0014】
【課題を解決するための手段】本発明の非クロム型表面処理金属材は、金属材の上層に、固形分として有機樹脂100重量部とりん酸化合物0.01〜20重量部(PO4 として)を含み、厚さが0.1〜5μmの皮膜を有することを特徴とする。上記の防錆皮膜は更に、1〜500重量部の微粒シリカを任意に含むことができる。
【0015】
【発明の実施の形態】本発明で防錆皮膜により表面処理する金属材は亜鉛被覆鋼及び無被覆鋼である。亜鉛被覆鋼は具体的には亜鉛めっきあるいは、亜鉛と鉄、ニッケル、コバルト、クロム、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、マンガン等の1種又は2種以上とからなる合金めっきを施した鋼材を指し、めっき方法は特に限定されるものではなく、電気めっき法、溶融めっき法、真空めっき法等いずれでもよい。鋼材としては、特に限定されないが、冷延鋼板、熱延鋼板、厚板、棒鋼、鋼管等の鋼材を挙げることができる。
【0016】これらの金属材には、防錆皮膜を形成する前に、例えば脱脂等の任意の表面処理を行ってもよい。本発明の非クロム型表面処理金属材は、防錆皮膜として、固形分として有機樹脂100重量部とりん酸化合物0.01〜20重量部(PO4 として)を含む膜厚が0.1〜5μmの皮膜を有する。この防錆皮膜は、有機樹脂をベースとしている。この有機樹脂は、水中に水性樹脂と防錆皮膜のその他の成分とを含む組成物を塗布後に乾燥して得られるものである。
【0017】ここでの水性樹脂とは、水溶性樹脂のほか、本来不水溶性でありながらエマルジョンやサスペンジョンのように不水溶性樹脂が水中に微分散された状態になり得るもの(水分散性樹脂)を含めていう。
【0018】本発明において水性樹脂として使用できる樹脂としては、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、フェノール系樹脂、その他の加熱硬化型の樹脂などを例示でき、架橋可能な樹脂であることがより好ましい。特に好ましい樹脂は、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、及び両者の混合樹脂である。水性樹脂は2種類以上を混合して、あるいは共重合して、使用してもよい。
【0019】一般に金属材料の防錆皮膜として有効であるためには、(1)腐食液の浸透を防止すること、(2)下地金属への密着性があること、(3)防錆イオン等による金属表面の不動態化を図ること、(4)耐水性、耐酸性、耐アルカリ性を有すること、等の条件を満たす必要がある。これらのいずれかが不十分な場合には、皮膜は防錆性を発揮することができない。従来の防錆剤のクロム化合物は、主に(3)の不動態化に優れていた。ここで、不動態化とは、金属又は合金が、化学的あるいは電気化学的に活性状態となる環境中にあるにもかかわらず、不活性を保持する状態になることをいう。
【0020】本発明の防錆皮膜を形成するために使用する防錆コーティング剤に含まれるりん酸イオンは、下地金属表面にりん酸塩層を形成させ、金属表面を不動態化させるとともに、水性樹脂由来の皮膜樹脂の架橋反応を促進し、皮膜樹脂のミクロポアを少なくし、緻密な防錆皮膜を形成して、外部からの水や塩素イオンなどの有害イオンを効率よく遮断することによって、防錆作用を有するものと考えられる。
【0021】りん酸化合物としては、りん酸イオンを含む化合物であればよいが、例えば、りん酸アンモニウム、りん酸ナトリウム、りん酸カリウムなどを使用することができる。
【0022】りん酸化合物の含有量は、有機樹脂100重量部に対して、りん酸イオンとして0.01〜20重量部の範囲内にある。りん酸化合物が0.01重量部未満では防錆効果が十分に発揮されず、一方20重量部を超えるとかえって防錆効果が低下したり、コーティング溶液の状態で樹脂がゲル化したりして不具合が生じることがある。
【0023】本発明の防錆皮膜は、上述のインヒビター成分とともに、微粒シリカを含むことができる。防錆皮膜が微粒シリカを含む場合、その防錆作用(耐食性)が著しく促進される。しかも耐食性に加えて、皮膜形成時の乾燥性、形成した皮膜の耐擦傷性、密着性も改良できる。
【0024】本発明において微粒シリカとは、微細な粒径をもつために水中に分散させた場合に安定に水分散状態を維持でき、半永久的に沈降が認められないような特性を有するシリカを総称していうものである。上記微粒シリカとしては、ナトリウムなどの不純物が少なく、弱アルカリ系のものであれば、特に限定されない。例えば、「スノーテックスN」(日産化学工業社製)、「アデライトAT−20N」(旭電化工業社製)などの市販のシリカゾル、又は市販のアエロジル粉末シリカなどを用いることができる。また、シリカの粒径は小さいほど耐食性はよくなる。
【0025】防錆皮膜中の微粒シリカの含有量は、固形分として、有機樹脂100重量部に対して、1〜500重量部の範囲内にある。1重量部未満では添加の効果が少なく、500重量部を超えると耐食性向上の効果が飽和して不経済であるほか、皮膜が硬くなりすぎ皮膜割れ、剥離などが発生して耐食性が低下することもある。
【0026】本発明における防錆皮膜は、上記の成分以外の成分を含むこともできる。例えば、顔料、界面活性剤、潤滑剤などを挙げることができる。また、有機樹脂とシリカ粒子、顔料との親和性を向上させ、更に有機樹脂と下地の亜鉛系めっき鋼板等の金属材との密着性などを向上させるためにシランカップリング剤もしくはその加水分解縮合物またはそれらの両方を配合してもよい。ここでの「シランカップリング剤の加水分解縮合物」とは、シランカップリング剤を原料とし、加水分解重合させたシランカップリング剤のオリゴマーのことをいう。
【0027】顔料としては、例えば、酸化チタン(TiO2 )、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO2 )、炭化カルシウム(CaCO3 )、硫酸バリウム(BaSO4 )、アルミナ(Al2 3 )、カオリンクレー、カーボンブラック、酸化鉄(Fe2 3 、Fe3 4 )などの無機顔料や、有機顔料などの各種着色顔料などを用いることができる。
【0028】本発明で使用できる上記のシランカップリング剤としては特に制限はないが、好ましいものとしては、例えば以下のものを挙げることができる:ビニルメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N,N′−ビス〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン。
【0029】特に好ましいシランカップリング剤は、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N,N′−ビス〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミンである。これらシランカップリング剤は1種類を単独で使用してもよいし、または2種類以上を併用してもよい。
【0030】本発明では、上記シラン化合物は、固形分として、有機樹脂100重量部に対して、0.01〜20重量部であることが好ましい。シラン化合物の添加量が0.01重量部未満になると添加効果の低下が認められ、耐食性、上塗り塗装密着性向上効果が不足し、20重量部を超えるとコーティング溶液の状態で樹脂がゲル化したりして不具合が生じることがある。
【0031】本発明の防錆皮膜を形成するには、水中に所定の成分(有機樹脂のもとになる水性樹脂、インヒビター成分、その他の任意成分)を含むコーティング剤組成物を調整し、下地の金属材料に塗布し、塗膜を加熱、乾燥する。コーティング剤組成物は、任意の濃度で調整して差し支えない。一般には、固形分(水以外の成分)を1〜80重量部、水を20〜99重量部含有するコーティング剤組成物が、塗布とその後の加熱・乾燥の観点から好ましい。コーティング剤組成物の塗布方法は、特に限定されず、一般に公知の塗布方法、例えばロールコート、エアースプレー、エアーレススプレー、浸漬などが採用できる。
【0032】塗膜の加熱により、硬化性樹脂の場合は樹脂を硬化させ、架橋性樹脂の場合は樹脂を架橋させる。塗膜の加熱・乾燥(焼付け)は、熱風炉、誘導加熱炉、近赤外線炉、直火炉などを用いる公知の方法、又はこれらを組み合わせた方法で行えばよい。あるいは、これらの強制乾燥を用いずに、自然乾燥してもよく、金属材料を予熱しておいてこれにコーティング剤組成物を塗布後自然乾燥してもよい。また、使用する水性樹脂の種類によっては、紫外線や電子線などのエネルギー線により硬化させることもできる。加熱温度としては、50〜250℃がよい。50℃未満では水分の蒸発速度が遅く十分な成膜性が得られないので、防錆力が不足する。一方250℃を超えると、有機樹脂の熱分解などが生じるので、防錆性、耐水性が低下し、また外観も黄変する問題がある。70〜200℃がより好ましい。また、加熱・乾燥後の冷却は水冷、空冷、自然冷却等の公知の方法、又はこれらを組み合わせた方法で行えばよい。
【0033】形成する防錆皮膜の膜厚は、0.1〜5μmの範囲内にある。0.1μm未満であると、防錆力が不足する。5μmを超えると、効果が飽和して不経済である。
【0034】
【実施例】次に、実施例により本発明を更に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0035】めっき付着量が片面当たり20g/m2 の板厚0.8mmの電気亜鉛めっき鋼板を素材とし、表1に示す防錆皮膜組成の表面処理剤を全固形分として20重量%含む防錆コーティング剤をロールコーターで塗布し、熱風乾燥炉で乾燥し冷却して防錆皮膜を形成した。形成した皮膜の厚み(μm)と乾燥条件(焼付板温)、冷却条件は表1中に示した。これらのコーティング剤の安定性は良好で、常温で3ケ月放置した後も、初期とほぼ同等の品質を保持していた。また、めっき付着量が片面当たり60g/m2 の板厚0.8mmの溶融亜鉛めっき鋼板、めっき付着量が片面当たり40g/m2 の板厚0.8mmの合金化溶融亜鉛めっき鋼板、めっき付着量が片面当たり20g/m2 の板厚0.8mmの亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板(ニッケル含有率11重量%)を原板とした表面処理鋼板も同じ方法で評価した。表1にめっき種類を表示した。EGは電気亜鉛めっき鋼板、GIは溶融亜鉛めっき鋼板、GAは合金化溶融亜鉛めっき鋼板、ZNは亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板である。
【0036】表1中に示したコーティング剤中の内容は以下の通りである。
1.樹脂成分オレフィン系:「ハイテックS−7024」(東邦化学社製)
ウレタン系:「ボンタイターHUX−320」(旭電化社製)
アクリル系:「AP−1058(12)」(東亜合成社製)
エポキシ系:「ポリゾール8500」(昭和高分子社製)
ポリエステル系:「ペスレジンA−124G」(高松油脂社製)
ウレタンオレフィン系:上記オレフィン系とウレタン系を固形分換算で1:1になるように混合したもの
【0037】2.りん酸化合物表中に示した化合物を表中の濃度になるように防錆コーティング剤に溶かした。使用したりん酸アンモニウムはりん酸水素二アンモニウム一級(関東化学社製)、りん酸カリウムはりん酸水素二ナトリウム一級(同社製)、りん酸ナトリウムはりん酸水素二ナトリウム一級(同社製)であった。
【0038】3.微粒シリカST−N:「スノーテックスN」(日産化学工業社製)
ST−S:「スノーテックスS」(日産化学工業社製)
ST−C:「スノーテックスC」(日産化学工業社製)
AT−20N:「アデライトAT−20N」(旭電化工業社製)
【0039】4.シラン化合物A:γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン「KBE−403」(信越化学社製)
B:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン「KBM−403」(信越化学社製)
C:ビニルトリメトキシシラン「KBM−1003」(信越化学社製)
D:N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン「KBE−603」(信越化学社製)
E:γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン「KBM−803」(信越化学社製)
【0040】比較したクロメート含有タイプ樹脂系防錆剤は、固形分換算でオレフィン系樹脂67重量%に、防錆剤としてクロム酸ストロンチウムを5%、スノーテックスNを28%加えた処理剤を、乾燥後の膜厚が1.0μmとなるようにロールコーターで塗布し、到達板温150℃で乾燥したものを用いた(比較例6)。また、クローメート処理は、還元率40%のクロム酸に、シリカ(スノーテックスO、日産化学工業社製)をクロム酸/シリカ=1/3(固形分重量比)となるように加えた処理剤を用い、エアナイフでCrとして付着量を50mg/m2 に調整し、乾燥板温60℃で乾燥したものを用いた(比較例7)。
【0041】作製した処理鋼板について、以下の評価を行い、表2に示した結果を得た。
1.仕上がり外観目視による処理膜の外観を判定し、評点を付けた。評点は、5は均一、4は極く僅かにムラあり、3は部分的にムラあり、2は全体的にムラあり、1は全面にムラがひどい、とした。
【0042】2.防錆皮膜の密着性平板密着性はJIS K 5400の8.5.2に記載の碁盤目テープ法(すきま間隔1mm)によって判定した。以下に示した基準によって評点付けした。加工部密着性は、JIS K 5400の8.2に規定されるエリクセン試験機で押し出して、押し出した部分をテープ剥離して皮膜の剥離を目視によって判定した。以下の基準によって評点付けした。
【0043】・平板及び加工部密着性の評点基準10点:剥離なし9点:3%以下の剥離面積8点:3%超5%以下の剥離面積7点:5%超8%以下の剥離面積6点:8%超10%以下の剥離面積5点:10%超15%以下の剥離面積4点:15%超30%以下の剥離面積3点:30%超50%以下の剥離面積2点:50%超75%以下の剥離面積1点:75%超の剥離面積
【0044】なお、目視によって判定しにくい場合には、メチルバイオレットの0.1%アセトン溶液で皮膜を染色し、染色された部分には皮膜が存在し、染色されない部分には皮膜が存在しない、として皮膜の密着性を判定した。防錆皮膜の外観評価についても同様である。
【0045】3.上塗り塗膜密着性メラミンアルキッド塗料であるオルガセレクト100(日本ペイント社製)を乾燥皮膜25μmとなるようにスプレーで塗布して150℃で20分熱風炉で乾燥焼付後、密着性(一次密着性)を評価した。平板密着性の評価は、JIS K5400の8.5.2に記載の碁盤目テープ法(すきま間隔1mm)によって判定した。加工部密着性は、JIS K 5400の8.2に規定されるエリクセン試験機で7mm押し出して、押し出した部分をテープ剥離して皮膜の剥離を目視によって判定した。以下の基準によって評点付けした。
10点:剥離なし9点:3%以下の剥離面積8点:3%超5%以下の剥離面積7点:5%超8%以下の剥離面積6点:8%超10%以下の剥離面積5点:10%超15%以下の剥離面積4点:15%超30%以下の剥離面積3点:30%超50%以下の剥離面積2点:50%超75%以下の剥離面積1点:75%超の剥離面積
【0046】また、二次密着性として表面処理鋼板を沸騰水に30分浸漬し24時間放置した後に、上述の方法でオルガセレクト100を塗装した後の塗膜の密着性を調べた。
【0047】4.耐指紋性処理鋼板の皮膜に指紋を付着させ、指紋の見え易さを目視で判定し、評点を付けた。評点は、5は指紋跡が見えない、4は極く僅かに指紋跡が見える、3は指紋跡が見える、2は指紋跡が目立つ、1は指紋跡が非常に目立つ、とした。
【0048】5.耐エタノール性プレス油をガーゼにしみこませて防錆処理鋼板の皮膜上に塗布し、この油をエタノールをしみこませたガーゼで拭き取り、皮膜の跡残りを目視で判定して評点を付けた。油汚れ等をきれいにするために、エタノールでふき取る作業が行われることがあり、このときに皮膜が損傷を受けないかどうかを評価するための試験である。評点は、5は跡残りなし、4は極く僅かに跡残りあり、3は跡残りあり、2は跡残りが目立つ、1は跡残りが非常に目立つ、とした。
【0049】6.耐食性(SST)
平板(切断したままの鋼板の端面部と裏面をシール)と、エリクセン7mm加工部(エリクセンで7mm押し出した鋼板の端面部と裏面をシール)について、塩水噴霧試験(JIS Z 2371に規定されるもの)を168時間行った。評価基準は下記のものとした。
10点:異常なし9点:10点と8点の間8点:僅かに白錆発生7〜6点:8点と5点の間5点:面積の半分に白錆発生4〜2点:5点と1点の間1点:全面に白錆発生
【0050】実施例においては、防錆皮膜の厚みの薄い実施例1、2はやや耐指紋性、耐食性が劣り、防錆皮膜中にシリカの添加がない実施例9はやや耐食性が劣り、防錆皮膜の焼付板温が低い実施例20はやや耐エタノール性が劣るが、実用に耐えうるものである。原板のめっきを変更した例においても、本発明によれば、耐食性、上塗り塗膜密着性、耐指紋性、耐エタノール性に優れた表面処理鋼板が得られる。
【0051】これに対し、本発明の範囲にない例として、防錆皮膜の厚みの薄い比較例1では耐指紋性と耐食性が劣り、りん酸化合物の添加量が少ない比較例2では密着性と耐食性が劣り、りん酸化合物の添加がない比較例3と5では密着性と耐食性が大きく劣り、りん酸化合物の添加量が多すぎる比較例4では塗料がゲル化してしまい塗装ができなかった。また、比較例6、7はいずれもクロム含有処理鋼板であり、クロム毒性を有している。
【0052】
【表1】


【0053】
【表2】


【0054】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、有害な6価クロムを含まず、耐食性と防錆皮膜の下地めっき鋼板への密着性が良好な非クロム型処理亜鉛系めっき鋼板の利用が可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 金属材の上層に、固形分として有機樹脂100重量部とりん酸化合物0.01〜20重量部(PO4 として)を含み、厚さが0.1〜5μmの皮膜を有することを特徴とする非クロム型表面処理金属材。
【請求項2】 前記上層皮膜が、固形分として微粒シリカ1〜500重量部を更に含有することを特徴とする請求項1記載の非クロム型表面処理金属材。