説明

非共有結合高分子およびデバイス

【課題】化学構造がシンプルで且つ合成が複雑な工程を必要としない新規な非共有結合高分子およびそのデバイスを提供する。
【解決手段】長鎖アルキルアンモニウムカチオンと対アニオンとから自己組織化によって形成されてなる非共有結合高分子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、新規な非共有結合高分子およびデバイスに関し、さらに詳しくはアンモニウム誘導体と対アニオンとから分子間相互作用に基く自己組織化を利用して形成されてなる新規な非共有結合高分子およびそのデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、数ナノ〜数十ナノオーダの規則構造あるいは原子配列を制御することが検討されている。
この制御を現在の加工技術によって行うことは可能であるが、その制御は限定的である。また、加工に非常な長時間を要するか高コスト加工法が必要である。
このため、金属錯体あるいは有機化合物を自己組織化した高分子が提案されている。
そして、自己組織化した高分子が種々の機能性材料、例えば電子デバイス素子、エレクトロルミネッセンスあるいは触媒能、分光学的、磁気的又は電気化学的複合膜などの機能性材料として注目されている。
【0003】
例えば、金属錯体、トリフェニレン、トリフェニルアミン、トリフェニレンの誘導体およびトリフェニルアミンの誘導体から自己組織化によって得られる超分岐高分子は導電性を有し、この超高分子を用いて電子デバイス素子が提案されている(特許文献1)。
また、両端に親水性基を有する双頭性脂質の中に金属錯体が埋め込まれた錯体化合物構造の磁性機能、エレクトロルミネッセンス機能、導電性機能、触媒能などの金属的特性を備えたナノワイヤーが提案された(特許文献2)。
そして、配位子骨格に多重水素結合を導入して、その自己組織化能を利用して中心金属として様々な金属イオンを取り込んで形成される有機―無機複合膜組織が中心金属の種類によって色が変わる遷移金属錯体ナノ薄膜が提案された(特許文献3)。
【0004】
【特許文献1】特開2005− 75962号公報
【特許文献2】特開2005−255543号公報
【特許文献3】特開2006−124349号公報
【0005】
上記の特許文献1および特許文献3に具体的に記載されている超分岐高分子およびナノ薄膜はいずれも出発原料が複雑な構造の多環芳香族化合物である。
また、上記特許文献2に具体的に記載されているナノワイヤーは機能的に限定され、例えばイオン伝導性については期待できず、出発原料の構造が複雑であり合成工程に複数工程を要するものである。
従って、化学構造がシンプルで且つ合成が複雑な工程を必要とせずイオン構造を有する出発原料からの分子間相互作用に基く自己組織化を利用して形成されてなる新規な非共有結合高分子は知られていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の目的は、化学構造がシンプルで且つ合成が複雑な工程を必要としない新規な非共有結合高分子およびそのデバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、下記[化2]で示される長鎖アルキルアンモニウムカチオンと対アニオンとから自己組織化によって形成されてなる非共有結合高分子に関する。
【0008】
【化1】

(式中、nは1〜3の整数であり、RおよびRは炭素数1〜3又は10〜30の直鎖アルキル基であり、RおよびRの少なくとも1つは炭素数10〜30の直鎖アルキル基である。)
【0009】
また、この発明は、前記の非共有結合高分子のプロトン伝導性を利用する分子デバイスに関する。
また、この発明は、前記の非共有結合高分子の液晶性を利用する分子デバイスに関する。
また、この発明は、前記の非共有結合高分子の原子発光現象を利用する分子デバイスに関する。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、化学構造がシンプルでかつ合成が複雑な工程を必要としない新規な非共有結合高分子およびそのデバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明における好適な態様を次に示す。
1)対アニオンがπスタッキング性を示す前記の非共有結合高分子。
2)対アニオンがナフタレンあるいはビナフチル誘導体である前記の非共有結合高分子。
3)対アニオンが希土類元素と塩化物よりなる構造体である前記の非共有結合高分子。
4)希土類元素が、Tb、Tm又はEuである前記の非共有結合高分子。
5)2種以上の中心金属を組み合わせて、その違いによる原子発光現象を利用する前記の分子デバイス。
【0012】
この発明の非共有結合高分子は、前記の長鎖アルキルアンモニウムカチオンと対アニオンとを自己組織化によって形成することによって得ることができる。
前記の長鎖アルキルアンモニウムカチオンとしては、トリメチルデシルアンモニウム、トリメチルウンデシルアンモニウム、トリメチルラウリルアンモニウム、トリメチルトリデシルアンモニウム、トリメチルミリスチルアンモニウム、トリメチルペンタデシルアンモニウム、トリメチルセチルアンモニウム、トリメチルヘプタデシルアンモニウム、トリメチルステアリルアンモニウム、トリメチルノナデシルアンモニウム、トリメチルエイコシルアンモニウム、トリメチルセリルアンモニウム、トリメチルメリシルアンモニウムなどが挙げられる。
【0013】
また、前記の長鎖アルキルアンモニウムカチオンとして、トリエチルデシルアンモニウム、トリエチルウンデシルアンモニウム、トリエチルラウリルアンモニウム、トリエチルトリデシルアンモニウム、トリエチルミリスチルアンモニウム、トリエチルペンタデシルアンモニウム、トリエチルセチルアンモニウム、トリエチルヘプタデシルアンモニウム、トリエチルステアリルアンモニウム、トリエチルノナデシルアンモニウム、トリエチルエイコシルアンモニウム、トリエチルセリルアンモニウム、トリエチルメリシルアンモニウムなどが挙げられる。
【0014】
また、前記の長鎖アルキルアンモニウムカチオンとして、トリn−プロピルデシルアンモニウム、トリn−プロピルウンデシルアンモニウム、トリn−プロピルラウリルアンモニウム、トリn−プロピルトリデシルアンモニウム、トリn−プロピルミリスチルアンモニウム、トリn−プロピルペンタデシルアンモニウム、トリn−プロピルセチルアンモニウム、トリn−プロピルヘプタデシルアンモニウム、トリn−プロピルステアリルアンモニウム、トリn−プロピルノナデシルアンモニウム、トリn−プロピルエイコシルアンモニウム、トリn−プロピルセリルアンモニウム、トリn−プロピルメリシルアンモニウムなどが挙げられる。
【0015】
また、前記の長鎖アルキルアンモニウムカチオンとして、ジメチルジデシルアンモニウム、ジメチルジウンデシルアンモニウム、ジメチルジラウリルアンモニウム、ジメチルジトリデシルアンモニウム、ジメチルジミリスチルアンモニウム、ジメチルジペンタデシルアンモニウム、ジメチルジセチルアンモニウム、ジメチルジヘプタデシルアンモニウム、ジメチルジステアリルアンモニウム、ジメチルジノナデシルアンモニウム、ジメチルジエイコシルアンモニウム、ジメチルジセリルアンモニウム、ジメチルジメリシルアンモニウムなどを挙げることができる。
【0016】
また、前記の長鎖アルキルアンモニウムカチオンとして、ジエチルジデシルアンモニウム、ジエチルジウンデシルアンモニウム、ジエチルジラウリルアンモニウム、ジエチルジトリデシルアンモニウム、ジエチルジミリスチルアンモニウム、ジエチルジペンタデシルアンモニウム、ジエチルジセチルアンモニウム、ジエチルジヘプタデシルアンモニウム、ジエチルジステアリルアンモニウム、ジエチルジノナデシルアンモニウム、ジエチルジエイコシルアンモニウム、ジエチルジセリルアンモニウム、ジエチルジメリシルアンモニウム、ジn−プロピルジデシルアンモニウム、ジn−プロピルジウンデシルアンモニウム、ジn−プロピルジラウリルアンモニウム、ジn−プロピルジトリデシルアンモニウム、ジn−プロピルジミリスチルアンモニウム、ジn−プロピルジペンタデシルアンモニウム、ジn−プロピルジセチルアンモニウム、ジn−プロピルジヘプタデシルアンモニウム、ジn−プロピルジステアリルアンモニウム、ジn−プロピルジノナデシルアンモニウム、ジn−プロピルジエイコシルアンモニウム、ジn−プロピルジセリルアンモニウム、ジn−プロピルジメリシルアンモニウムなどを挙げることができる。
【0017】
前記の対アニオンとしては、特に制限はないが好適にはπスタッキング性を示すアニオン、特にナフタレン、ビナフチル、アントラセン又はピレンなどの縮合芳香族炭化水素誘導体、あるいは希土類元素のハロゲン化物アニオンが挙げられる。
前記の縮合芳香族炭化水素誘導体アニオンとして好適な具体例として、以下の[化3]、[化4]、[化5]、[化6]、[化7]が挙げられる。
【0018】
【化2】

【0019】
【化3】

【0020】
【化4】

【0021】
【化5】

【0022】
【化6】

【0023】
前記の希土類元素のハロゲン化物アニオンにおける希土類としてはTb、Tm又はEuが挙げられる。
また、前記の希土類元素のハロゲン化物アニオンにおけるハロゲンとしてはF、Cl、Br、I、好適にはClが挙げられる。
前記の希土類元素のハロゲン化物アニオンの好適な具体例として、例えば下記の[化8]が挙げられる。
【0024】
【化7】

【0025】
この発明の非共有結合高分子は、溶媒中で前記の長鎖アルキルアンモニウムカチオンのハロゲン化物、例えば塩化物と前記のアニオンのアルカリ塩、例えばナトリウム塩あるいはカリウム塩とを接触させて反応させた後、生成物を分離することによって得ることができる。
前記の溶媒としては特に制限はなく、例えば水、アセトン、メタノール、エタノール、アセトニトリル、あるいはこれらの混合物を挙げることができる。
前記の長鎖アルキルアンモニウムカチオンのハロゲン化物と前記のアニオンのアルカリ塩とは、溶媒に均一に分散させて反応させることが好ましく、特にいずれかの成分を溶解させて反応させることが好ましい。
また、前記の反応は20〜100℃、1分〜24時間の範囲内で適宜選択することができる。
また、前記の分離は、抽出、濾過、洗浄、再結晶などを適宜組み合わせて行うことができる。
【0026】
この発明の非共有結合高分子は、前記の長鎖アルキルアンモニウムカチオンと対アニオンとから得られる化合物が自己組織化によって高分子化された高分子化合物である。
この場合、前躯体化合物の対アニオンを中心にして、その上に長鎖アルキルアンモニウムカチオンが螺旋状に重なって、高分子を形成すると考えられる。
従って、この発明の非共有結合高分子は、概念的には前躯体化合物の対アニオンが螺旋状の中心軸を形成して重層の柱となり、その周りを前躯体化合物の長鎖アルキルアンモニウムカチオンが螺旋状に重層をなして形成される高分子化合物であると考えられる。
【0027】
この発明の非共有結合高分子は、無水状態でプロトン伝導性を有し、その性質を利用した分子デバイスとしての可能性がある。
また、この発明の非共有結合高分子は、融点から分解温度までの範囲内の温度において液晶状態を発現するので、その液晶性を利用した分子デバイスとしての可能性がある。
また、この発明の請求項7に記載の非共有結合高分子は、原子発光現象を示すので、その原子発光現象を利用した分子デバイスとしての可能性がある。
そして、前記の場合、中心金属の違いにより発光波長を変化させることが可能であり、2種以上の中心金属を組み合わせて、その違いによる原子発光現象を利用した分子デバイスとしての可能性がある。
【実施例】
【0028】
実施例1
R-(-)-1,1’-binaphthyl-2,2’-diyl hydrogenphosphate(東京化成工業株式会社)0.21g(0.6mmol)に蒸留水25mlを加えて懸濁させた。その水溶液に水酸化カリウム水溶液を弱塩基になるまで滴下した。このアルカリ水溶液に、ジメチルジステアリルアンモニウムクロライド(東京化成工業株式会社)0.35g(0.6mmol)をメタノール10mlに加熱溶解したメタノール溶液を滴下した。白色に懸濁した溶液をジエチルエーテルで抽出すると、2層に分離したので上層の有機層を取り出した。さらに蒸留水と飽和食塩水で数回洗浄した後、硫酸マグネシウムで有機層を乾燥させた。最後に、エバポレーターでジエチルエーテルを留去し、目的物(収量0.42g、収率79%)を得た。生成物は液体状で粘性のある物質であった。
合成した長鎖アルキル基を2本有するビナフチル誘導体を元素分析を用いて同定した。
元素分析結果から、得られた生成物は、理論値と測定値の値が近似し、目的とする下記[化9]で示される化合物の高分子と考えられる。
【0029】
【化8】

【0030】
元素分析結果を次に示す。
元素分析結果
計算値(測定値)(%)
C 74.55(74.30)
H 10.36(10.35)
N 1.50(1.44)
【0031】
続いて、得られた生成物の熱物性を明らかにするため、熱重量測定、示差走査熱量測定を行った。その結果、生成物は、273℃で熱分解し、示差走査熱量測定から相転移を示す吸熱・発熱のピークが2本観察された。偏光顕微鏡観察の結果を考慮すると、10〜62℃の温度範囲でサーモトロピック液晶を示すことがわかった。さらに、一般的な構造のスメクチックA相ではなく、カラムナー相を形成していることが明らかとなった。固体から液晶相への転移温度(TKC)である10℃における△HKC、△SKC値は、△HKC=3.5kJmol−1、△SKC=12JK−1mol−1であった。液晶相から等方相への相転移温度(TCI)である62℃における△HCI、△SCI値は、△HCI=0.76kJmol−1、△SCI=2.3JK−1mol−1であった。
【0032】
以上の結果から、得られた生成物は、ビナフチル基をリン酸イオンとオクタデシル基を2本有するアンモニウム塩によるサーモトロピック液晶錯体であることが明らかとなった。また、分解温度は273℃であり、10〜62℃の温度範囲でカラムナー液晶性を示すことが明らかとなった。
なお、分解温度はN中、昇温度速度10℃/分で記録された10質量%減少温度を示す。
【0033】
また、この生成物について、25℃(LC)、50℃(LC)、70℃(Isotropic)および90℃(Isotropic)において無水状態でのプロトン伝導度を求めた。これらのプロトン伝導度測定のための図をまとめて図1に示す。
結果は以下の通りであった。
プロトン伝導度
25℃ 1.0x10−11S/cm
50℃ 4.9x10−10S/cm
70℃ 9.4x10−8S/cm
90℃ 8.6x10−7S/cm
【0034】
実施例2
ジメチルジステアリルアンモニウムクロライドに代えてトリメチルステアリルアンモニウムクロライド(東京化成工業株式会社)0.21g(0.6mmol)を使用した他は実施例1と同様にして、目的物(収量0.28g、収率70%)を得た。生成物は液体状で粘性のある物質であった。
合成した長鎖アルキル基を1本有するビナフチル誘導体を元素分析を用いて同定した。
元素分析結果から、得られた化合物は、理論値と測定値の値が近似し、目的とする下記[化10]で示される化合物の高分子が得られたと考えられる。
【0035】
【化9】

【0036】
元素分析結果を次に示す。
元素分析結果
計算値(測定値)(%)
C 68.97(60.20)
H 9.04(8.57)
N 1.96(1.67)
【0037】
得られた生成物の熱物性を明らかにするため、熱重量測定、示差走査熱量測定を行った。その結果、生成物は、263℃で熱分解し、示差走査熱量測定から相転移を示す吸熱・発熱のピークが1本観察され、結晶性化合物であることがわかった。固体から等方相への相転移ピークは86℃であり、△HKI=33kJmol−1、△SKI=92JKmol−1であった。
以上の結果から、得られた生成物は、融点(86℃)のみを示す結晶性化合物であることがわかった。
【0038】
実施例3〜5
9−アントラセンカルボン酸(東京化成工業株式会社)0.10g(0.5mmol)に蒸留水100mlを懸濁させ、水酸化カリウムを加えて相当するナトリウム塩とし、溶解させた。この水溶液に、加温したメタノール20mlに溶解したジメチルジステアリルアンモニウムクロライド(東京化成工業株式会社)0.26g(0.5mmol)を滴下した。滴下後、室温で12時間攪拌し反応を行った。反応終了後、乳化状態となった反応液に少量(10ml)のジエチルエーテルを加えることで生成物を沈殿させた。ろ過した後、真空乾燥することによって、目的とする生成物(生成物A、収量0.18g、収率51%)を得た。
【0039】
9−アントラセンカルボン酸に代えて、1−アントラセンカルボン酸(実施例4)、2−アントラセンカルボン酸(実施例5)を用いた他は実施例3と同様にして目的とする生成物(生成物B、収率62%)および生成物(生成物C、収率50%)を得た。
これらの生成物の単位化合物の化学式を化学式[11]、化学式[12]、化学式[13]に示す。
【0040】
【化10】

【0041】
【化11】

【0042】
【化12】

【0043】
これらの生成物について、元素分析、FAB−MS測定、赤外吸収スペクトル測定により同定した。元素分析の結果は以下の通りであった。
元素分析結果
計算値(測定値)(%)
生成物A C:82.42(81.04)、H:11.61(11.65)、
N:1.81(1.82)
生成物B C:82.42(80.89)、H:11.61(11.53)、
N:1.81(1.83)
生成物C C:82.42(78.21)、H:11.61(12.30)、
N:1.81(1.76)
【0044】
得られた生成物の熱物性を、熱重量測定、示差走査熱量測定および偏光顕微鏡により測定した。その結果、いずれの生成物も、2段階の相転移を示した。まとめて表1に示す。低温側の相転移は固相から液晶相への、高温側は液晶相から等方相への転移に対応する。また、熱分解温度に関しては、いずれの生成物も210℃前後であった。
【0045】
【表1】

【0046】
(表中、TKSおよびTSIは相転移温度を、△HKSおよび△HSIは結晶(K)からスメクチック(A)へ、スメクチックA(SA)からアイソトロピック(I)への相転移のエンタルピー変化を、△SKS、△SSIは相転移のエントロピー変化を示し、TdecomはN中、昇温度速度10℃/分で記録された10質量%減少温度を示す。)
【0047】
液晶性を示す前記の生成物について、温度可変粉末X線回折測定を行った。実施例3について得られた結果を図2に示す。
固体状態および液晶状態において、低角域に層構造の存在を示すシャープな強い反射ピークがみおられた。面間隔は16.8Åであり、これは1分子の長さに相当する。また、広角域においてはアルキル基由来の平均分子間距離に起因するブロードなハローに加えて、およそ4Åの周期構造が観察された。これは強いπ電子相互作用を示すアントラセン部位の規則配列を示唆する。偏光顕微鏡により観察されたテクスチャーも考慮すると、実施例3の生成物はアルキル鎖が相互介入したアルキル層とアントラセン層が交互に積層したラメラ構造を形成していることがわかった。この生成物は、アントラセン部位の自己組織的な2次元配列を可能とする特徴的な分子組織体を与える。アントラセン層は、絶縁層であるアルキル層によって挟まれているため2次元性を完全に確保でき、この2次元性に基き特異的な電子機能性が期待できる。
実施例4および5の生成物についても同様な結果が得られた。
【0048】
実施例6
1−ピレンカルボン酸(東京化成工業株式会社)0.10g(0.4mmol)に蒸留水100mlを懸濁させ、1当量の水酸化カリウムを加えて相当するナトリウム塩とし溶解させた。この水溶液に、加温したメタノール20mlに溶解したジメチルジステアリルアンモニウムクロライド(東京化成工業株式会社)0.24g(0.4mmol)を滴下した他は実施例3と同様にして、目的とする化合物(収量0.2g、収率54%)を得た。
これらの生成物の単位化合物の化学式を化学式[14]に示す。
【0049】
【化13】

【0050】
実施例7〜9
トリメチルステアリルアンモニウムクロライド(東京化成工業株式会社)2.8g(8.0mmol)とテリビウム(III)トリクロライド(関東化学株式会社)1.0g(2.7mmol)をアセトニトリエル:エタノール=3:1の混合溶媒1000mlに60℃で溶解し、同温度で2時間攪拌した。次いで、反応液を室温で一昼夜放置し、析出した沈殿物を濾別した。アセトニトリルおよびエタノールで数回洗浄した後、減圧乾燥して、目的生成物(収量3.0g、収率79%)を得た。
この生成物の単位化合物の化学式を化学式[15]に示す。
【0051】
【化14】

【0052】
DSCおよびTGを用いて生成物の熱物性を調べた。結果を次に示す。
固体から当方相への転移温度(TKI)である57℃における△HKI、△SKI値は、△HKI=21kJmol−1、△SKI=64JK−1mol−1であった。また、分解温度は219℃であった。
その結果、この生成物は57℃に融点を示し、この温度から熱分解温度である219℃までの広い温度範囲において液晶状態を発現することがわかった。
【0053】
液晶性生成物の固体状態における組織体構造を粉末X線回折測定により評価した。結果を次に示す。
X線回折結果
2θ=2.4790 d(Å)=35.6117 O.S.=1.0
2θ=2.6990 d(Å)=32.7037 O.S.=1.0
2θ=4.9590 d(Å)=17.8053 O.S.=2.0
2θ=5.4220 d(Å)=16.2866 O.S.=2.0
2θ=7.4390 d(Å)=11.8737 O.S.=3.0
2θ=8.1630 d(Å)=10.8225 O.S.=3.0
2θ=11.0110 d(Å)=8.0290 O.S.=4.1
2θ=12.3660 d(Å)=7.1521 O.S.=5.0
2θ=13.6790 d(Å)=6.4681 O.S.=5.1
2θ=14.9780 d(Å)=5.9099 O.S.=6.0
2θ=16.4090 d(Å)=5.3988 O.S.=6.1
2θ=17.4390 d(Å)=5.0810 O.S.=7.0
2θ=19.1980 d(Å)=4.6193 O.S.=7.1
但し、O.S.=d spacingのOrder
【0054】
この回折パターンから、この生成物は層間距離の異なる2種類の長周期構造を有し、固体状態においてカラムナー相に帰属される一次元カラム構造からなる自己組織体を形成することが明らかとなった。
【0055】
テリビウム(III)トリクロライドに代えて、ユーロビウム(Eu)トリクロライド、ツリウム(Tm)トリクロライドを用いた他は実施例7と同様にして生成物を得た。
これらも液晶性生成物であり、中心金属の違いにより発光波長を変化させることが可能であった。各中心金属の違いによる色を以下に示す。
Tb 緑色
Eu 白色
Tm 青色
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】図1は、実施例1の生成物のプロトン伝導度測定のための図である。
【図2】図2は、実施例3の生成物の粉末X線回折結果である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記[化1]で示される長鎖アルキルアンモニウムカチオンと対アニオンとから自己組織化によって形成されてなる非共有結合高分子。
【化1】

(式中、nは1〜3の整数であり、RおよびRは炭素数1〜3又は10〜30の直鎖アルキル基であり、RおよびRの少なくとも1つは炭素数10〜30の直鎖アルキル基である。)
【請求項2】
対アニオンがπスタッキング性を示す請求項1に記載の非共有結合高分子。
【請求項3】
対アニオンがナフタレン、ビナフチル、アントラセン又はピレンの誘導体である請求項2に記載の非共有結合高分子。
【請求項4】
対アニオンが希土類元素のハロゲン化物よりなる請求項1に記載の非共有結合高分子。
【請求項5】
希土類元素が、Tb、Tm又はEuである請求項4に記載の非共有結合高分子。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の非共有結合高分子のプロトン伝導性を利用する分子デバイス。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の非共有結合高分子の液晶性を利用する分子デバイス。
【請求項8】
請求項1、4および5のいずれか1項に記載の非共有結合高分子の原子発光現象を利用する分子デバイス。
【請求項9】
2種以上の中心金属を組み合わせて、その違いによる原子発光現象を利用する請求項8に記載の分子デバイス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−280301(P2008−280301A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−126760(P2007−126760)
【出願日】平成19年5月11日(2007.5.11)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】